国内起債市場を斬る 起債評価:4/11~4/15

例年であれば、期初の起債市場で電力債の次に来るのはノンバンクや銀行の社債というのが定番であったと思うが、最近の市場を象徴するように、今年度は、『お次はSDGs債』という順番となった。地方公共団体金融機構の10年債・20年債・30年債といった公共セクターの債券も募集されているが、条件決定された社債等計3,400億円のうちSDGs債が2,700億円とほとんどを占めているのが実態である。

機関投資家向けにソーシャルボンドを募集したのは、富士フィルムホールディングスである。3年債400億円・5年債400億円・7年債200億円・10年債200億円と、報道されていた予定通りの計1,200億円を募集している。取得した格付けはR&IのAA格とムーディーズのA2格であり、いずれも、日本国債の1ノッチ下の紛れもない高格付けである。付された回号が第16回から第19回であることからもわかるように、決して頻繁な社債の発行体ではない。5年債以上は国債対比のスプレッドプライシングで行われ、+14~+17bpsの水準で募集されている。ソーシャルボンドによる調達資金は、『当社連結子会社を通じて行った、バイオ医薬品製造会社であるBIOGEN (DENMARK) MANUFACTURING ApS(現 連結子会社 FUJIFILM Diosynth Biotechnologies Denmark ApS)の株式取得及び同社の製造設備の増強に係る設備投資に要したリファイナンス資金に充当する』とされている。つまり、買収対象がソーシャルボンド適格な事業を行っているものの、単純に言ってしまえば、M&Aとそれに伴う設備投資 のための資金調達・借換えである。

同様に、機関投資家向けのソーシャルボンドを募集したのが東日本高速道路である。2年債400億円・5年債500億円・10年債200億円の計1,100億円を募集している。すべての年限で国債対比のスプレッドプライシングが行われ、+10bps前後で決定している。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されており、取得した格付けは日本国債と同符号のAA+(R&I)格・AAA(JCR)格・A1(ムーディーズ)格である。資金使途は『高速道路の新設、改築、修繕又は災害復旧に要する資金』となっており、いわば本来業務である。結局のところ、この週のソーシャルボンドは2社とも、ほぼ本業のコアに関する資金調達であり、殊更にソーシャルボンドとしなくても良いような案件であった。このように、最後にSDGs債として残って行くのは、奇をてらった特殊な債券ではなく、こういった本業にしっかりと結びついた起債だけになるのかもしれない。

最後に、イオンモールは個人投資家向けの5年債400億円の条件を決定している。100万円単位で購入が可能であり、『ハピネスモール債』と称するサステナビリティリンクボンドである。SPTとしては、『2025年度末に国内の全イオンモールで使用する電力をCO2フリー化すること』としており、未達成の場合には、『発行額の0.2%相当額』をイオン環境財団等の適切な団体に寄付する予定とする。5年債で0.49%クーポンの水準はA-(R&I)格の信用力から大きな違和感はなく、比較的身近な発行体であって、個人投資家の資金を集め易いものと想像できる。もっとも、少子高齢化が進んで行く中で、地方物件の収益性低下と、温室ガス抑制のための設備更新努力が見合うかどうかには、懸念が残る。

なお、これらの公募普通社債等以外に、フィリピン共和国の円建てサステナビリティボンド4本立て計701億円や、オリックスのユーロ建てグリーンボンドなどの起債も行われており、今後の起債観測を見ても、新年度もますますSDGs債の募集が相次ぎそうである。

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