会社法の規定に基づくと、3月期決算企業の株主総会が6月後半に集中するのは必然である。その余波を受けて、起債市場の動きは引続き鈍くなる。先日はヘッドラインリスクの発生懸念を理由の一つとして上げたが、実際に、マレリホールディングスが民事再生手続きに移行したのを見ると、この時期には何があってもおかしくない。アンテナを尖らせておく必要性を痛感する。幸いにして株価や為替も一頃より落ち着きを見せているが、金融政策の動きだけでなく、参議院議員選挙の結果を踏まえた政策の変更などにも注意しておくべきであろう。
この週に社債等の募集は見られなかったが、東京都が5年のソーシャルボンドを募集しているので、紹介しておきたい。東京都によるソーシャルボンドの募集は3回目となる。今回の発行条件は、5年債300億円に対して、0.11%クーポンが付されている。国債対比のスプレッドは+5bps程度であった。取得した格付けは、S&PのA+格である。調達した資金の充当先としては、無電柱化の推進、特別養護老人ホームの整備費補助、特別支援学校の整備等を予定として挙げている。
資金充当事業で見てもわかるように、これらの取り組みは、いわば地方公共団体の本来業務である。東京都のような不交付団体を除くと、地方債で資金調達すれば、基本的に地方交付税の措置対象であり、起債についてはお金を集めて来る大義名分に過ぎない。充当する事業が地方公共団体の本来的な業務であるなら、結局のところ、ソーシャルボンドであることも、認定機関に手数料を払ってラベルを付けてもらったのに過ぎない、それで、当該地方債の売れ行きにプラスとなれば意味もあろうが、もともと購入を希望する投資家が多い中では、単にソーシャルボンドとしての認定手続きに余分な手間をかけ、認定機関に余計な手数料を払っただけに過ぎないのではないか。
実際、地方公共団体で同様のソーシャルボンドを発行した例は見られない。結局、現在の都知事がお得意なフリップ芸(2020年「3密」では、同年流行語年間大賞受賞)ならぬ、パフォーマンス志向の政策に他ならないのではないか。新型コロナ対策をはじめとして、実態や中身のない取り組みに、カタカナや漢字語での耳障りの斬新な言葉を散りばめ、仕事をやっている風に取り繕って見せるものの、実際には、ほぼ何も出来ていないのが現在の都政である。通勤時の満員電車をなくすといった都知事選での公約はどうなったのか。新型コロナ対策で少し実現に近づいたが、それは感染懸念による自粛のお陰であり、能動的な政策は見られない。今回のソーシャルボンドによる調達資金の使途として、辛うじて”無電柱化の推進”が明記されているから、公約を忘れていることはないようである。
とは言え、先日は「都民ファーストの会」の代表で、参院選に出馬する荒木千陽氏の街頭応援で、『大阪よりも500人死亡者が少ない』と、大阪府と東京都と比較する発言で“自画自賛”の応援には、早速批判が飛び交っていた。
今回のソーシャルボンドに対して、購入意欲を表明したと東京都のHPに明記されているのは、銀行関連で静岡銀行・第四北越銀行・東京きらぼしフィナンシャルグループ・みずほ銀行(メインバンク)・三菱UFJ銀行・武蔵野銀行・信金中央金庫・農林中央金庫で、公的団体では江戸川区・文京区・新エネルギー産業技術総合開発機構・造幣局があり、他に公益財団法人や日本コープ共済生活協同組合連合会・日本労働組合総連合会などが名を連ねている。都に付き合わされる銀行はご苦労だと思うが、本業に邁進するだけの実態を伴わない「ソーシャルボンド」購入者として名前をさらすことには、投資家にとってもデメリットの方が大きいかもしれない。グリーンウォッシュならぬソーシャルウォッシュとでも表現すべきか。