国内起債市場を斬る 起債評価:7/11~7/15

7月中旬になっても、起債ラッシュと言い切れるほどの盛り上りはない。前週にも触れたように、一部の起債案件では、予定していた金額よりも募集額を落として案件を成立させたり、日銀のイールドカーブコントロールの対象外にあって金利上昇傾向の強い超長期年限での起債を諦め、中短期債にシフトしたりといった動きが散見される。また、募集された社債等の顔触れを見ても、公的とSDGs債ばかりが目立ったというところである。

公的セクターでは、地方公共団体金融機構が定例の10年債と20年債とを募集している。10年債は毎月募集であるが、20年債は募集されない月もある。個別の地方公共団体よりも信用力の高いイメージの発行体であるが、基本的な構造を考えると、政府保証がない以上、最高位の地方債と同程度と考えるべきだろう。東京都債や共同発行債といったあたりの目線で考えるのが良いだろう。その他にも、東京地下鉄が20年債・30年債・40年債と超長期セクターばかりで募集している。超長期年限の国債金利上昇を受けて、地方公共団体金融機構の20年債だとクーポンは1%割れだが、東京地下鉄だと20年債で1%を越え、30年債で1.5%、40年債で1.67%クーポンとなっている。一方、日本高速道路保有・債務返済機構は4年債と19年債という、少し変わった年限の起債で、いずれもソーシャルボンドである。また、国際協力機構も10年債と20年債を募集しており、ピースビルディングボンドと称しているが、募集文書にあるように、これもソーシャルボンドに含まれるものである。20年債のクーポンは0.91%と1%を下回る。同様にソーシャルボンドを募集したのが、東日本高速道路で5年債・7年債・10年債で、当初より少し減額したものの計990億円を積み上げている。

圧倒的に公的セクターの起債が目立ち、その中でもSDGs債が多く募集されているが、民間セクターでも、SDGs債は負けていない。募集されたのは、三菱地所のサステナビリティリンクボンドのみであるが、5年債・10年債・30年債各200億円の計600億円であり、中でも、30年債というのはサステナビリティリンクボンドとしては最長の年限である。それもそのはずで、30年後についても、募集時に設定した環境等に関するSPTs(サステナビリティ・パフォーマンスターゲット)が将来においても妥当であるかどうか確証を持つことが容易でないのである。今回の起債に付されたSPTsの中で、30年債に適用されるのは、”2050年にネットゼロ達成”と”2050年度に女性管理職比率40%を達成”の二つである。後者については、容易に達成の判断が可能であり、おそらく30年後にも違和感はない水準と期待できるが、果たして前者のネットゼロ達成が30年後に十分な目標設定であるかは不明である。温室ガスの抑制をより強く求められることになるならば、甘い目標設定であったと認識される可能性がある。SPTs未達成の場合は、寄付やボランタリー・クレジット等を購入することになっており、超長期にビル経営を実行している発行体に相応しいと見る投資家も少なくないだろうが、サステナビリティリンクボンドを短期的なブームに終わらせないためには、目標や年限、未達成時の対応等の設定については、シビアに見ておくべきだろう。

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