国内起債市場を斬る 起債評価:9/5~9/9

今年度上期の起債シーズン、最後の追い込みの時期に入ると、従来とは異なった銘柄や種類の社債が募集されるのが、例年も見られる流れである。この週も、イビデンやキッツ、THKといった滅多に社債を募集しないメーカーによる起債が目立った一方で、結果的には電力関連の起債が金額ベースでは大きくなっている。

電力関連の起債と言っても、伝統的な電力債の枠組みに入らないものばかりが募集されているのも珍しい。東京電力と中部電力の火力発電等に関する合弁会社であるJERAは、一般担保付きの社債によって資金調達することが認められていない。なお、既存の電力会社の一般担保も、電気事業法附則第17条の規定で認められているものであり、同20条の規定によって令和6年度末までに発行されたものまでとされている。この週にJERAが募集したのは、22年債と24年債といずれも半端な年限であり、しかも募集金額はそれぞれ53億円という端数付きである。社債の金額が1億円単位であるから何らの問題もないのであるが、10億円単位に慣れていると、奇異な感じは否めない。

もう一つの電力関連の起債は、東京電力リニューアブルパワーによる5年物グリーンボンド300億円である。社名に表れているように、水力を含む再生可能エネルギーによる発電会社であり、グリーンボンドとしての適格性は認められやすい。一方で、一般担保を付されていないため、JERAと同様に信用力評価の際には注意が必要である。東京電力ホールディングスによる支払保証が付されていれば明確であると考えられるものの、持株会社の100%子会社であるから、基本的には持株会社と同等の信用力を有すると考えて良いだろうし、ESGやSDGsを重視する最近の潮流を考えると、持株会社から切り捨てられる可能性は極めて低いだろう。

最後の電力関連は、東北電力の劣後債である。劣後特約が付されているために一般担保の対象とならず、利払繰延べや期限前償還が可能になっている。最終償還の35年物が1,330億円、37年物が260億円、40年物が820億円、45年物が390億円と総計で2,800億円と巨額の募集となっている。期限前償還が最初に行われるならば、それぞれ5年債、7年債、10年債、15年債であり、クーポンはそれぞれ1.545%、1.754%、2.099%、2.521%と極めて高い水準で設定されている。取得した格付けはR&IのA-格及びJCRのA+格であって、決して低過ぎる水準ではない。期限前償還を前提にすれば投資妙味は高いようにも思えるが、一般担保付電力債などの優先債務が弁済された後には、どう考えても残余財産は何もないため、劣後債の弁済率は0%になることが必至である。東日本大震災のような大規模災害が発生した際に政府からの支援があれば問題ないとも考えられるが、「もしも」のことは何も約束されていない。期限前償還されない可能性を完全に排除できない中では、見た目のクーポンの高さのみに飛びつくべきではないだろう。もっとも、期限前償還をスキップした場合には、1年物国債利回り連動の変動利付債になることが予定されており、日銀によるイールドカーブコントロールが終了していれば、却って高い利回りを得られるかもしれない。要は、劣後事由に該当したり、利払の任意停止による繰延べの生じないことを期待するしかない投資対象なのである。

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