国内起債市場を斬る 新春特別号:2023年の起債市場と日銀の金融政策

2022年も終わりになって、日銀がイールドカーブコントロールにおける10年国債利回りの変動幅を拡大したことが、2023年の起債市場に大きな影響を与えることは必至である。2016年に導入されたイールドカーブコントロールにおいては、短期金利はマイナス0.1%を目標とし、併せて10年国債利回りを0%程度にするという金利水準を目標としたコントロールを行うとし、その水準となるよう国債の買入オペを実行して、必要な場合には指値オペをも利用するとされていた。10年国債利回りの変動幅は12月まで±0.25%程度とされており、変動幅の拡大は金利上昇を反映・誘導するものと解され踏み込まないものと考えられてきたが、突如、金利上昇を誘導するものではなくイールドカーブコントロールの枠組みを維持するための措置として、変動幅を±0.5%に拡大したのである。海外金利の上昇を受けても動かず、昨秋に為替が1ドル150円を上回る円安となっても動かなかったのに、年末のタイミングで日銀が動いたのは、殊更にサプライズを起こすためであったものとしか考えようがない。

日銀が変動幅の拡大を容認したことで、10年国債利回りは0.25%程度から0.5%にまで上昇した。日銀総裁がどのように説明しようが詭弁としか取られず、市場は確かに金利上昇の方向へ動いたのである。すぐさま直接の影響を受けたのが、年明けに行われた10年長期国債の入札であろう。長い間0.1%と最低水準に固定されていたクーポンが、1月5日に入札された第369回債のクーポンは0.5%とされたのである。これでクーポンが5倍になったと一部のメディアは騒いでいるが、倍率ではなく差分の0.4%も上昇したと評価するのが適切であろう。結果として、日本国内における最大の債務者である日本政府の利払負担が大きく拡大したことは否定できない。

日本において企業は資金余剰セクターであるが、M&A等のニーズにより資金調達のため社債を発行することがある。ベース金利である国債利回りの上昇によって、企業にとっては社債のクーポン上昇に繋がることは否定できない。ただし、金利水準が大きく上昇したのは10年国債利回りと、日銀によるイールドカーブコントロール対象外となっている超長期年限である。これらの年限に与えられる影響は大きい。一方、10年以内の国債利回りも軒並みわずかではあるが上昇しており、既に昨秋から5年の高格付け債では国債対比のスプレッドプライシングを復活する募集事例が散見されており、民間企業のみならず、政府保証債や財投機関債の発行体、地方公共団体までにも、金利上昇の影響が及ぶことになる。もちろん短期金利のマイナス0.1%という目標水準は変更されていないために、2年債などの短い年偈については、金利上昇の幅は小さくならざるを得ない。

こうした調達コストの上昇によって、企業等の起債行動に影響が出ることは必定である。金利が上昇気味になったことで、政府保証債の発行体においてすらスプレッドの拡大を懸念する声が聞かれるようになっており、より信用力の劣る民間企業にとっては、社債発行による調達コストが上昇するため、社債発行を抑制する可能性が高い。加えて、イールドカーブの顕著なスティープニングから、超長期よりも長期、長期よりも中期といった形で調達年限を短くする方向になる可能性が高い。また、短期金利のコントロール目標が変更されていないことから、短期金利等に連動する金融機関からの短期借入れを選好することも考えられる。

こうした日銀の金融政策による影響としての調達コストの上昇に加えて、新型コロナ対応で導入されたゼロゼロ融資の返済が始まると、少なからずの中小企業の破綻が顕在化することは必至であり、クレジット市場全体に対する懸念が拡大することも考えておかねばならない。特に、前述のように、日本の最大の債務者が日本政府であることを考えると、既に海外の格付会社が懸念を示しているように、日本国債の格下げといった判断を惹起する可能性もあるだろう。更には、欧米の中央銀行による物価上昇抑制のための金利引上げが景気に対するオーバーキルとなって、経済成長の頭を抑える可能性は高い。そのため、株価の下落や低迷といった経路を経て、信用リスクの拡大傾向となることも考えられる。

勿論、私見ではあるが、こうした背景から2023年の起債市場は、極めて波乱含みの展開になると考えられる。潜在的に見え隠れするモノは、明るい材料よりも暗めの材料ばかりである。これらの懸念が杞憂に終わることを望んで已まない。

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