国内起債市場を斬る 2023年節分特別号:イールドカーブコントロールの弊害

今週は、地方債のプライシングで少し話題になったトピックを取上げてみたい。愛知県の令和4年度第17回10年債のプライシングに際して、国債利回りの補間をどうするかということが話題に上ったものである。この現象については、古くから少なからず意識されて来た点でもある。簡単に言ってしまうと、国債対比のスプレッドプライシングを行う際に、償還の一致する国債がなかった時にどう考えるかということである。一般的に参照国債として用いられるのは残存年数の近い10年国債であり、国債の償還月は3・6・9・12月となっている。そのため、その間の月に償還・払込となる新規発行社債等は、1か月ないし2か月の償還月のズレをどのように処理するかという論点である。さすがに、償還日のズレは細かい差と考えられるために意識されないが、月ズレの場合には、国債のイールドカーブを補間して、想定カーブ対比でプライシングするという手法が採用されることがある。また、補間の手間を避けて、国債と募集する債券の償還月を一致させるという手法も存在する。この場合には、例えば7年債と言っても厳密には6年11か月債だったりするが、財投機関債の一部などでの採用例は少なくない。要するに、何処に厳密なポイントを置くかという問題である。

この銘柄かカーブかという問題は、高格付け債の値決めにおいて国債対比のスプレッドプライシングが行われるようになってからずっと存在して来た事であるが、マイナス利回り下ではスプレッドプライシングが適用されない年限も増えていたし、また、利回り水準自体が低下していたために、補間による修正幅があまり大きな意味を持たなかったこともあり、こうした意識は薄れていた。ところが、2022年度に入ってから、イールドカーブコントロールの目標年限である10年とそれより少し短い年限の国債利回りが逆転し、また、同じ10年近傍(きんぼう)の国債でも指値オペの主な対象であるカレント銘柄とその三か月前に償還される前の回号銘柄との利回りが逆転していると、適切な補間が困難になってしまうのである。単純に言えば、国債のイールドカーブが右肩上がりの順イールドでないために、生じる問題である。

律儀にカーブを補間するよりも、一部の市場慣行にあるように、償還月を国債に合わせる方法が手っ取り早いと考えられる。また、ズレがあることを前提にしても、あくまで10年国債第XXX回対比でのスプレッドがZZbpsと表示しても良いのではないか。実際に、50年物の社債や財投機関債等では、参照できる国債が最長の40年物(実際には、残存年数は40年を少し下回っている)しか存在しないため、最長の40年国債プラスZZbpsとした割り切ったプライシングを行っているのに、何故10年物の地方債における国債対比のスプレッドプライシングで議論になるのだろうか。基本的には、発行体が愚直なまでに真面目で融通が利かないということではないか。主幹事証券も説得し切れないということだろう。投資家側から見れば、プライシングに際してのスプレッド表示だけに捉われず、市場実勢から判断するので、所詮、言い値の問題だけなのである。

もっとも、根本的には、イールドカーブコントロールにおいて指値オペを乱発し、基準となる国債のイールドカーブを歪めている日本銀行の責任に帰せられるべき問題である。カーブの歪みが地方債や社債等一般債の発行市場に悪影響を及ぼしているのならば、金融政策による弊害として追及されるべきものだろう。政府は新しい日銀執行部の指名を間もなく国会に提示する方針を示している。国債と異なり償還のないETFやJ-REITの残高圧縮も新執行部の大きな課題であるが、利付国債の半額以上を保持するに至り、イールドカーブコントロールによって国債利回りを歪めてしまっている今の債券市場の正常化こそが、喫緊の課題として意識されるべきである。

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