国内起債市場を斬る 起債評価:2/6~2/10

前々週につづき12月末決算発表シーズンであり、社債等の募集に進む企業は少ない。最も目立った発行体が公共債セクターであり、地方公共団体金融機構や、中部国際空港、西日本高速道路、大学改革・学位授与機構、鉄道建設・運輸施設整備支援機構、科学技術振興機構といった顔触れが財投機関債などの債券を募集している。ソーシャルボンドと認定されたのが中部国際空港と西日本高速道路であり、鉄道建設・運輸施設整備支援機構はサステナビリティボンドとされている。

科学技術振興機構は初めての財投機関債を募集しており、資金使途は大学ファンドによる運用益の獲得とされている。つまり、借金して資金運用し、その収益を大学への交付金として利用するのである。高利の調達であると無謀な仕組みという評価になるが、2年債で0.061%クーポンという調達コストは、グローバル株式65%:グローバル債券35%という大学ファンドのレファレンスポートフォリオから得られる期待運用利回りから見ると決して高い水準ではないだろう。もっとも大学ファンドの運用が開始されてからのこの1年は、内外の債券や株式に対する運用が市場インデックスベースではことごとくマイナスとなっており、短期的な状況に過ぎないものの、厳しい結果となる可能性が高くなっている。

民間企業による社債の条件決定は、損害保険ジャパンの劣後債や、住友三井オートサービスのサステナビリティボンドに、中央日本土地建物グループのサステナビリティリンクボンドといった一般的な公募普通社債以外が目立つ展開になっている。中でも異彩を放ったのが、個人投資家向けに募集するとして条件決定したカゴメの1年債である。機関投資家向けだと、1年債というのは極めて珍しい。金利上昇懸念のある中では、個人投資家向けでも単なる利回りのみで訴求するのは難しいかもしれない。今回のカゴメの第1回債は、初物というレアさに加えて、身近な食品関連企業であって、更には、「カゴメ 日本の野菜で健康応援債」と銘打って社債権者に対し0.2%クーポンの利息以外に特典の提供が予定されていることもプラス材料になったと考えられる。

同社債の主幹事証券はみずほ証券であるものの、取扱証券は楽天証券となっており、ネット経由での購入が可能になっている。申込単位は10万円と小額で、募集総額は10億円のみとされていて公募普通社債としては小さな金額である。社債の決済に証券保管等振替機構を利用しているが、別途、ブロックチェーン技術によるデジタルエンゲージメントプラットフォームを利用して社債権者の情報が発行体に提供され、カゴメからは利息と別に、特典として社債権者一人当たり”つぶより野菜”ジュース15本(直販サイトで1,980円相当)がプレゼントされる。また、直販サイトに登録しアンケートに回答することで、特別割引クーポンを配信するとしている。なお、この特別割引クーポンは社債保有に対する特典ではなく、”投資家様とのコミュニケーション強化を目的”としたものとされている。このように、従来の個人投資家向け社債では見られなかった様々な取り組みが行われており、新たな訴求材料となって行くのか注目したい。

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