国内起債市場を斬る 2023年度初め特別号:「ユニゾホールディングス」の場合

2022年の年度末で、社債募集がないこの週、前号から触れ始めたクレジット問題が国内においても強く意識される展開となった。一つはクレディスイスの債務処理にかかる「AT1債の減損」であったが、もう一つは「ユニゾホールディングの格下げ」である。いずれも(今のところは)国内クレジット市場全体に大きく影響を及ぼすような事象でもないが、前者は銀行等「金融関連の社債に対する注意」を喚起するものであり、後者は信用懸念の強い銘柄は容易に「回復することが出来ない」という現象である。第二次世界大戦後の日本において、公募普通社債がデフォルトした事例は必ずしも多くない。その中でも、一度デフォルトした公募普通社債発行企業が経営再建して再び公募普通社債の募集に戻って来れたのは、日本航空くらいなものであろう。また、公募普通社債を募集していた企業で格付けがBB格に落ちたものの、その後、再びAA格ゾーンにまで回復したのは、住友不動産くらいなものだろう。急速な信用悪化による破綻は少ないものの、一旦、信用不安を抱えると、なかなか復帰できないのが実情である。そもそも取引銀行との関係が良好で支援を受けられるならば、公募社債に頼らなくても、銀行融資を受けることで資金繰りを確保できるというのも、少し安直すぎるかも知れない。

期末も押し迫った3月28日にJCRは、ユニゾホールディングスの長期発行体格付けをB-格からCC格へと引き下げた。同時に、債券格付けをCCC格からC格へと引き下げている。引下げ前の水準でも既に投機的格付けとされるものであるが、C格という債券格付けは、もはやその下にはデフォルトしかないという状況である。今回の格下げの理由としては、現在のキャッシュフローと手元流動性では年間の有利子負債の返済額に届いていないことが指摘されている。既に保有物件はことごとく担保に供されており、資産売却による現金獲得も困難な状況にある。公募社債の償還予定としては、今年5月の第3回債100億円、11月の第5回債100億円などがあり、24年に入っても第8回債100億円と第11回債60億円が待っている(その他に、250億円が2026年から2027年に償還を迎える)。

日本の公募普通社債には社債間限定同順位特約が付されていることが多く(特約が一切付されていない社債すら存在するが)、そのため、融資に担保を付したとしても、無担保社債はそのまま放置されるという構造的劣後性を有している。結果として、既に残存する社債の単価は20~40円台という一般的に普通の債券価格では見ることが稀な水準にまで低下している。ユニゾホールディングスの信用力に対する懸念は以前から意識されていたため、今回の格下げが直接のトリガーになることはないと考えられるが、資金繰りに窮するタイミングは刻一刻と迫っているようである。社債管理者を設置されていないFA債の場合には、社債権者は発行体が破綻するまで具体的なアクションを取ることは困難であり、市場で売却することも容易ではないと考えられるため、ひたすら償還期日が無事に到来することを祈るしかない。

大幅にディスカウントされている単価を見て手を出せないかとヘッジファンドなどの投機家が考えるかもしれないが、キャッシュフローの先行きを考えると、購入(新規投資)する判断には至らないであろう。私的整理が行われ金融機関が債務減免で負担すると決断してくれることで社債権者の権利が守られる可能性がないとは言い切れないが、実際には、有担保ローンの残高が大きいため、法的整理によって担保権を行使された後に残る低い弁済率で社債権者は納得させられることとなる可能性が高い。ユニゾホールディングスの残存する社債の償還スケジュールを見ると、ここ2年以内に債務処理が行われてもおかしくないし、金融機関からの借入も多く残っていることを考えると、Xデーが来るのはそう遠くないことなのかもしれない。

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