国内起債市場を斬る 起債評価:5/27~5/31

相変わらず、投資家の起債に対する購入ニーズは強い。この週も多くの案件が募集され、個人投資家向け社債の条件決定も相次いだが、市場環境は総じて良いように感じられる。機関投資家向けの起債は消化が順調なようであり、投資家側からの購入希望額が発行予定額を大幅に上回った案件も幾つかあるようだ。しかし、金利の先行きに上昇期待があり、特に、10年国債利回りが10年ぶり以上の高水準となっている中では、知名度の低い案件に積極的に突っ込むべきタイミングでもないと思われる。総じて順調な消化が観測されている中で、レアな発行体である化学商社の稲畑産業(8098東証プライム市場)の起債は、5年債74億円と10年債26億円といった年限構成になった。100億円程度の起債観測が上がっていたが、年限を分割して100億円を積み上げた形である。先行きの金利上昇を想定すると、発行体側としては長めの年限で多額を調達することが考えられるが、市場のニーズに合わせてウェイトは5年債に置かれたのである。

この週の特徴は、何と言っても大型起債。募集は6月に入ってからであるが、ソフトバンクグループの個人向け5,500億円の7年債が条件決定されている。クーポンは3.03%と高く、証券会社の引受手数料も1円10銭と桁違いに大きい。機関投資家は、この発行体の事業内容の変動性が高いことを熟知しており、長い年限の与信を躊躇している。一方で個人投資家は、携帯電話キャリアのソフトバンクの親会社ということもあって、親近感を覚えて購入対象とする。決して機関投資家の判断が誤りで個人投資家が正しいというつもりはないが、株価のみならず信用力の変動性が高いことを許容できる個人投資家と、時価評価を求められる機関投資家の特性の差と考えるべきだろう。1984年のコンチネンタル・イリノイ銀行ではないが、同社がTBTF(Too Big To Fail)でなくなることがあれば機関投資家の消極的評価が正しかったことになるが、当面、創業者の後継問題が最大の不透明要因であると考えるべきだろう。

続く大型起債は、NTTファイナンスの3年債から10年債の4本立て計2,900億円である。近年はNTT本体でなくNTTファイナンスが資金調達を行うようになっているが、日本国債と同水準の格付けを取得していながら、国債対比のスプレッドが+20~39bpsの範囲で付されており、投資妙味は高い。発行金額が大きいのは需要の強い5年債と10年債の2年限とされており、市場に対する的確な認識は親会社の時代から連綿と続く伝統を感じさせる起債であった。

もう一つの大型起債は、三井住友フィナンシャルグループの5本立て永久劣後債である。1年数カ月前に世界的にクレディスイスのAT1債無価値化が問題となったが、その直後に日本国内の法制では同様の事象が生じないことをセールストークとしてAT1債を発行した発行体である。今回は、期限前償還のタイミングを5年から15年で5本ほど刻んでいる。12年は主要年限とは言い難いかもしれないが、5年・7年・10年・15年は主要な社債等の発行年限である。5本の募集による総額は1,900億円であった。15年ノンコールだと期限前償還までの固定クーポンは2.949%であり、同年限の国債よりも遥かに高い水準とされている。金融システムへの影響を考えると破綻処理できる発行体ではないが、元本が毀損される可能性が全くないとは言えないから、厚いスプレッドが付されているのである。決して大型起債だからと言うことだけではない。

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