国内起債市場を斬る 起債評価:6/3~6/7

先週の起債市場の特徴として大型起債が目立ったことを指摘したが、この週についても同様の傾向が続いている。しかも、発行総額の規模が大きいだけでなく、事業会社の劣後債の募集が相次いだということが特筆できるだろう。6月に入りボーナスシーズンがはじまったこともあって個人投資家向け社債の条件決定も複数見られるのだが、それらは大型起債の前に消し飛んでしまうようなインパクトしかない。金曜日の7日には財投機関債も複数募集され、ほとんどがソーシャルボンドかサステナビリティボンドの認定を得ている。こういったSDGs債のコレクターには意味があるかもしれないが、数百億円の募集では弱い印象しか残らない起債市場である。

事業会社による劣後債の一つ目が、武田薬品工業による60年債(劣後特約付)であった。募集額は投資家のニーズが高かったことも反映して4,600億円と巨額に上る。過去に発行した劣後債のリプレースメントとしての募集であり、5年経過時以降の期限前償還とクーポンのステップアップと変動利率化が設定されている。当初5年間の固定クーポンは、1.934%である。本件社債がJCRから取得した格付けは、劣後債ということもあってA格である。同日にR&IのA格でサステナビリティリンクボンドを募集したグローリーの5年債が国債対比+26bpsで0.804%クーポンであることから見て、本社債は極めて厚いスプレッドが付されている。国債対比+140bpsという厚いスプレッドが付され、武田薬品工業の高い知名度を考えると、十分に投資対象になると判断した投資家は少なくなかったようである。クーポンのステップアップを考えると、期限前償還されない蓋然性は極めて低い。確かに薬品会社に関しては、健康を害するインシデント等のヘッドラインリスクがあり、商品開発の高いコスト等から決して長期に安定した事業会社とは評価し難いのであるが、これだけの厚いスプレッドを付されると、リスクに見合うかそれ以上のスプレッドと判断することも可能だったのではなかろうか。

もう一件の事業会社による劣後債は、日本製鉄の3本立てである。最終償還年限は35年、37年、40年と異なるが、各々が当初5年、7年、10年で期限前償還が可能であり、その後はクーポンがステップアップした変動利率になることとされている。期限前償還を前提とした投資と考えると、5年債、7年債、10年債とみなすことが可能である。発行金額は35年債が675億円、37年債が200億円、40年債が800億円の総計1,675億円という大型起債である。取得した格付けは、R&IのA-格とJCRのA+格で、JCRの格付けを見ると、武田薬品工業よりも1ノッチほど格付けが高い。加えて募集額が少ないこともあって、35年債の当初5年間のクーポンは1.534%と武田薬品工業を大きく下回る。それでも、前述のグローリー債より高い利回りであり、日本製鉄の事業内容を考えると、薬品より変動性が低く安定した業態であることを否定できない。「鉄は国家なり」というのはドイツのビスマルクや伊藤博文の演説に見られる言葉であるが、今回の日本製鉄によるUSスチール買収が米大統領選での論点になっているのを見ると、現在においても相当の意味があると言わざるを得ない。今回の日本製鉄による起債も、既発の劣後債のリプレースメントだけでなく、USスチールの買収資金も使途とされている。USスチールの買収が米政府によって承認されなかった場合には、期限前償還される蓋然性がより高まろう。そういった意味でも、スプレッドの厚さを評価することは可能である。もっとも政治判断によって企業活動が影響を受ける可能性があることを嫌う投資家もおって、武田薬品工業ほどの募集額にならなかったことも頷けるだろう。

コメントは受け付けていません。