酷暑の夏もようやく朝晩には、秋風を感じられるようになった。秋の訪れが近いと期待されつつも、南海トラフ地震に加え連続的な線状降水帯の襲来と台風の接近も招く季節となった。交通機関やイベントの受けるダメージは小さくなく、結果として損害保険料率が上昇してしまいそうな昨今である。地震や豪雨によって被害を受けた地域も復旧が終わっておらず、台風によって更なる被害の生じないことを祈りたい。
一方、社債等の起債市場は、旧盆の休みを経て巡航モードに戻ったようである。この前の週も公共セクターによる債券募集は確認されており、この週に入っても、ソーシャルボンド認定を受けた複数の財投機関債が募集された後、民間企業の社債もようやく募集が再開されている。民間企業ではないが、募集総額という意味では、西日本高速道路が4本立ての社債を募集しており、総額は1,400億円を越えている。7月末の日銀による利上げを受けて金融資本市場が変動した後は、10年国債利回りの1%割れ水準が続いており、結果的には、矛盾しているように見える表現ではあるが、利上げによって利回りが低下した形になっている。発行体としては、低利で調達できる千載一遇の機会にも見えるだろう。社債等を募集する準備が整った発行体から、9月中旬までの期間に社債等の募集が増えるものと期待される。
この週の民間企業による起債の中では、オリエンタルランドの3本立て計1,200億円の募集が面白い。R&IのAA-格及びJCRのAA格と高格付けを取得しており、インバウンドも含めた東京ディズニーリゾートの集客力には根強いものがある。新しいアトラクションの導入にも積極であり、また、今回の起債による資金使途の一つとして、先般公表されたクルーズ船事業への投資が予定されている。新型コロナのダメージから回復しつつあるクルーズ船事業であり、既に米国等でディズニーによるクルーズ船事業が定着していることから、日本での成功も期待できると見込めるだろう。一方で、これまでの定地型エンターテイメントとは異なるリスクも抱えることになるため、少し慎重に取り組みたい案件と考えられる。ただし、10年債で1.258%クーポンといった利回りを見せられると、飛びつきたくなる気持ちもわからなくもない。
なお、8月7日の内田日銀副総裁による「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」という発言は、ある意味では今後の市場運営に禍根を残すものになる可能性がある。8月頭に為替や株価が大きく変動した要因のすべてが日銀の利上げによるものだったとは思わないが、最初に引鉄を引いたことは間違いなく、その後の米雇用統計を受けたFRBの利下げ示唆によって為替が大きく変動し、ヘッジファンド等の動きもあって株価にも波及したものである。新NISAで投資をはじめた不慣れな個人投資家が狼狽したのもあろう。その結果、動揺を抑えるために言わされた可能性も強く、中央銀行の独立性や日銀の機能を考えると、やや疑問が残る。金融資本市場の安定を確保するという目的には適うものであるが、そのために将来の金融政策を縛ることは適切と思えない。引続き、市場との適切なコミュニケーションを図ることが望まれる。