国内起債市場を斬る 起債評価:7/6~7/10

7月第2週の金曜日は起債ラッシュになることは、ほぼ事前に予想はできていた。メディアも覚悟していたようで、いつもとは異なる多数の起債観測が事前に上がっていた。条件決定が集中することで苦労するのは発行体ではなく、引受証券と投資家なのである。もっとも、事前にマーケティングが終了していると、当日は値決めの儀式だけで済むだろう。以前のようにスプレッドプライシング方式でクーポンが決まるのであれば、参照国債の利回りを確認するだけの値決めだが、最近のマイナス利回り時代においては、想定されているクーポンの絶対水準で良いかどうかを確認する作業となる。日銀が金利水準をコントロールしている中では、それほど大きな金利変動がないことが期待できるため、絶対水準での値決めも決して難しくはないだろう。

10日の金曜日に条件決定された案件は、数えるだけでも膨大になる。まず、公的セクターからは、東日本高速道路が1年債100億円・5年債500億円・7年債200億円・10年債500億円の計1,300億円で、日本政策投資銀行が3年債300億円・5年債300億円・10年債350億円・50年債100億円の計1,050億円、住宅金融支援機構が5年債400億円・10年債200億円・20年債150億円の計750億円と、合計で3,100億円を募集している。

次に、鉄道関係では、阪急阪神ホールディングスが3年債200億円・5年債100億円・10年債200億円の計500億円、JR東日本が5年債200億円・10年債150億円・20年債100億円・30年債200億円・40年債200億円の計850億円、小田急電鉄が3年債600億円と合計で1,950億円を募集している。

電力・ガスでは、西部ガスは20年債100億円と小額であったが、東京電力パワーグリッドが5年債1,000億円・10年債1,200億円・15年債700億円の計2,900億円という圧巻の金額を募集している。募集年限の多さではJR東日本に負けるが、金額は3倍以上である。

ノンバンクでは、オリエントコーポレーションが2年7か月債100億円の他、5年債を機関投資家向けと個人投資家向けで各50億円を条件決定しているだけで、ソーシャルボンド認定を受けたことが目立つ。

もっとも多様であったのが、メーカーであろう。DIC(念のため旧社名:大日本インキ化学工業)の3年債200億円、セイコーエプソンの3年債100億円・5年債400億円・10年債200億円の計700億円、王子ホールディングスの5年債150億円・10年債150億円・20年債100億円の計400億円、小松製作所の3年債400億円・5年債100億円の計500億円、LIXILグループの3年債150億円・5年債250億円・10年債100億円の計500億円、タダノが5年債100億円、ダイドーグループホールディングスが5年債100億円・10年債100億円の計200億円、ENEOSホールディングスが同じく5年債100億円・10年債100億円の計200億円と、製造業の中でも様々な企業が社債を募集している。

更に、これらの分類に入らない企業としては、不動産の東京建物が5年債200億円・10年債200億円の計400億円をサステナビリティボンドとして募集し、情報・通信のコナミホールディングスが5年債・7年債・10年債を各200億円、建設業の日揮ホールディングスが3年債と5年債各100億円を募集している。

まさに壮観な起債ラッシュであったが、従来からの傾向である日銀オペ見合いの3年債及び5年債(オリエントコーポレーションの2年7か月債も含められる)が目立つとともに、利回り水準を求める投資家を意識した超長期の起債も、日本政策投資銀行の0.892%クーポン50年債やJR東日本の0.902%クーポン40年債に代表されるように目立っている。クーポンの絶対水準から言えば、東京電力パワーグリッドの1.08%クーポン10年債及び1.37%クーポン15年債が突出した水準である。

一部にコノタイミングでの起債を延期した発行体もあったように報じられているが、7月の起債ラッシュが今後もまだ続くのか注目しておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/29~7/3

3月期決算企業の株主総会が終わると、7月の起債シーズンに突入する。年度の第2四半期入りしたことに加え、6月下旬の起債抑制期を越えており、その一方で8月中旬には市場参加者の多くが夏休みとなるから、例年7月は濃縮された起債シーズンとなる。過去の歴史を振り返っても、期末が意識される9月・12月・3月以外で起債ラッシュが見られるのは、7月と11月の可能性が高い。実際に市場がどうなるかは、金利の先高感の有無やその年の祝日カレンダーにもよる。今年は東京オリンピック対応のために祝日が7月下旬に並べられており、延期になっても祝日を動かすことはできなかったため、例年にはない四連休が7月に設定されている。起債活動には影響が少ないと思われるものの、それまでに起債が集中する可能性もあるため、7月10日以降の起債観測の盛り上がりには注意が必要であろう。

四半期初旬、起債に向けてすぐに動く業態としては、いつも電力、ノンバンク、銀行、鉄道といった傾向が見られる。それに、公共機関も加わることがあるが、週の途中で月が替わったため、ややいつもの典型的な顔触れ以外も見られる。もっとも、中部と中国の電力2社、ノンバンクのクレディセゾン、銀行からは新生銀行、公的セクターからは中日本高速道路と、期待に違わない銘柄が社債を募集している。

それ以外の起債の一つの特徴は、相変わらずの日銀による社債買入れオペ対応の3年債と5年債である。豊田自動織機製作所の3年債に加えて、アシックスの3年債及び5年債は、この分類に含めて良いだろう。両社ともれっきとしたメーカーであり、前者は自動車部品や車体、産業車両、繊維機械の製作会社であり、トヨタ自動車グループの源流にも当たる。募集された社債は、0.001%クーポンの3年債で100.002円のオーバーパー発行であるから、辛うじてプラス利回りの発行条件である。アシックスはスポーツ用品メーカーであって、今回の公募普通社債の募集は第3回債及び第4回債と希少価値が高い。

これらとまったく異なる起債という意味では、電通グループの5年債500億円・7年債100億円・10年債600億円の計1,200億円という大規模な起債が注目される。R&IでAA-格を取得する高格付企業であるが、何しろ近年の政治スキャンダルで叩かれている広告代理店の持株会社である。安倍政権との癒着により不当利得を得ているのではないかという指摘は強い。加えて、電通は2016年のブラック企業対象を受賞しただけに留まらず、2019年も同特別賞を受賞している。どう考えても、SDG(Sustainable Development Goals)のうちsocialの観点で懸念される投資先と言わざるを得ない。電通グループの社債を購入した投資家がESG投資(Environment、Social、Governance)を意識していると言うなら、その投資姿勢が眉唾であることを容易に指摘できる試金石のような起債であった。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/22~6/26

新型コロナウイルス感染症の影響で、3月期決算企業が株主総会を一部延期しているものの、基本的に6月下旬の総会開催が集中している。そのため、例年通り、6月下旬は起債の多くない時期である。こういった時期に、前の週から続いている一つの流れが、公共セクターによる起債である。この週も、日本高速道路保有・債務返済機構の財投機関債50億円の他、地方公共団体金融機構がFLIPに基づく債券を10本計1,140億円募集している。FLIPであるから当然でもあるが、1本当たりの募集額は決して大きくない。流通市場では、なかなかお目にかかることができなくなってしまう起債である。

この週でもう一つ際立ったのが、事業会社による劣後債の募集であろう。事業会社による劣後債の募集に関しては、期限前償還期に必ずしも償還されない可能性があり、また、格付会社が資本性を認定する条件として、期限前償還を実施した場合に、同種の劣後性資金調達で借換を行うことが求められている。後者に関しては、株式に近いとして資本性を認定する条件としては当然の要請であり、5年等の短い期間で償還してしまうのであれば、到底、株式と同等の安定した資金調達とはなり得ないからである。企業が資本性調達による借換えという公約を守らない場合には、格付会社は資本性を認めない可能性がある。この6月にも三菱商事の劣後債が期限前償還を迎え、借換えの実施有無が注目を集めたところ、結局、劣後ローンでの資本性資金調達が継続された。シニア債と比べると調達コストが高くなるために、収益性の観点からは単純な償還を望み易いが、資本性を認めてもらうためには劣後調達を継続する必要がある。発行体にとっては、一種のジレンマが存在するのである。

この週に募集されたのは、まず東海カーボンの劣後債200億円である。30年債を募集したが、10年経過後に期限前償還可能とされている。格付けはR&IのBBB格であり、10年後に償還されるという前提で見れば、実質的に1.77%クーポンの10年債である。小額の募集であったが、投資妙味はあるのかもしれない。

次に、不動産会社であるヒューリックが募集したのは、5年経過後に期限前償還可能な35年債1,200億円、7年経過後に期限前償還可能な37年債400億円と10年経過後に期限前償還可能な40年債400億円の計2,000億円である。取得した格付けは、JCRのA-格であった。当初クーポンは、35年債(実質5年債)が1.28%、37年債(実質7年債)が1.4%、40年債(実質10年債)が1.56%と設定されており、格付けの低い東海カーボン債より低利である。しかし、発行総額の大きさと不動産会社という事業特性を考えると、リスクは小さくないと考えるべきだろう。特にコロナ禍の影響で、オフィス需要の低迷が懸念される。唯一投資対象として考慮できる要素は、旧芙蓉グループの位置づけとみずほフィナンシャルグループとの関係である。これから不動産不況が来ると考えれば、メガバンクグループによる財務面でのサポートの有無が大きな要素となることだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/15~6/19

3月期決算企業の株主総会シーズンである。COVID-19への対応で、総会の開催も例年とは異なる形態が可能となっているものの、基本的には例年通りのスケジュールを維持している上場企業は少なくない。もっとも株主自身が「三密」を避けようとするため、必ずしも大規模な人数の株主総会の開催とはならないようだ。起債市場も株主総会を意識して暫時動きが大人しくなり、7月に入ってからのラッシュに備える展開である。既にメーカーや銀行、鉄道、通信等で大規模の起債観測が見られており、7月はやはり例年のような起債市場の展開になるようだ。

今年度は、新年度入りしてすぐに緊急事態宣言に伴う自粛が行われたため、学校や企業の夏季休暇スケジュールがよく読めない。そもそも東京オリンピック対応で祝日を移動したものが存置されているが、海外への渡航は困難であり、国内でも県外への移動がようやく解禁されたばかりの状況であるから、多くの国民にとって夏の予定がまだ立っていないというのが実情だろう。当面、新型コロナウイルスに脅えながら、春先の遅れをしっかり消化しようとするしかなく、夏場の起債市場が例年のように実質的な休みとなるのかは、まだ判然としない。

この週の起債では、金額面で目立ったのがみずほフィナンシャルグループの期限付き劣後債である。バーゼルⅢの規制に対応してTier2にカウントできるものであり、劣後事由等に該当した場合、元本が毀損する可能性はある。そのため、通常のシニア社債に対して劣後プレミアムが乗ることで、10年固定債の利回りは0.895%と高水準である。劣後性を考慮した格付けはR&I及びJCRのA+格であり、前週の10年債での起債で言えば、エアウォーターや日本製鉄(何れもシニア)と同程度の評価である。エアウォーターのクーポンは0.38%で、日本製鉄は0.42%であるから、みずほフィナンシャルグループの劣後債だと倍以上の利回りが得られる。400億円と決して大き過ぎる規模ではない。同時に募集された5年で早期償還が可能な10年債300億円は、当初クーポンが0.56%である。調達額は、計700億円に過ぎない。

一方で、クーポンが目立ったのは、NTTファイナンスとサントリーホールディングスの3年債である。前者はJCRのAAA格及びS&PのA-格を取得した400億円の募集で、後者はJCRのAA-格で300億円の募集である。いずれも日本銀行による買入れオペの対象年限であり、投資家による一次購入が期待できるだけでなく、発行体としては実質的に最低利回り(オーバーパー発行とすることで、更に利回りを低くすることは可能であるが)での資金調達が可能である。金融緩和の効果として、高格付けの発行体が低利で資金調達できることに必ずしも違和感はないが、むしろ需要の消失や固定費負担の大きさで喘ぐ中小企業等の資金調達に資する政策の方が、より金融支援としての意味があるのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/8~6/12

緊急事態宣言が解除されたものの、大都市を中心とした感染は完全にはなくなっていない。徐々に街の生活は日常に戻りつつあるが、株価の動きを見ても、必ずしも旧来には戻り得ない。ウィズコロナの時代における新しい生活や経済のあり方を模索しているかのように見える。油断すれば、何時でも、何処でも新宿歌舞伎町の「夜の街」のように大規模感染が起きるだろう(歌舞伎町だけが注目されるのも気の毒だが)。今月下旬に都道府県を跨ぐ移動が解禁されると、大都市から地方への感染者移動が生じ今までに感染者が多く出ていなかった地方でクラスターはが発生するかもしれない。海外の動向を見ても、まだまだ決して安心できる状態にはない。なまじ金融緩和で株価水準を高めに維持していることもあって、不安定な株価も、こうした脆弱な状況を象徴しているかのようである。

コロナショック後の社債市場の注目年限としては、5年債を挙げることができる。日銀による買入れオペの対象となったことで、一気に発行量が増加している。これまで、利回りを求める投資家が10年債からそれ以上に長い超長期債へシフトする一方。短期的に利益を得る対象として日銀オペ見合いの3年債購入が行われてきた。近年は3年債と10年債もしくは超長期債という組み合わせが見られていたのが、オペ対象の拡大以降、3年債及び5年債に10年債以上を組み合わせたり、5年債と10年債以上といった組み合わせの起債がよく見かけられるようになった。かつて5年債は、中期年限の中核と位置づけられ、投資家層も厚いとされていたのが、マイナス金利政策によって利回りが低下したこともあって、感覚的に発行量が減少していたように見られた。それが、日銀オペの対象となったことで、見事に復権を果たしたのである。

この週においても、5年債を募集した発行体としては、ノンバンクで芙蓉総合リース・ホンダファイナンス、その他に大成建設、日本通運、日本製鉄、丸紅、旭化成、三井住友信託銀行と業種も幅広く分散している。この中でも、3年債とともに5年債を募集したのが、ホンダファイナンス・日本製鉄・三井住友信託銀行・旭化成と4社ある。必ずしもすべてが日銀オペ見合いのみとは言えないかもしれないが、5年債の募集は一つの顕著なトレンドとなっているようである。

5年債の復権による反動なのか、この週に超長期債を募集した民間企業は見られない。野村ホールディングスの永久劣後債は、5年経過時に期限前償還が可能であり、金融庁による監督の下でほぼ間違いなく償還されることが期待できるため、投資家は実質的に5年債として扱うだろう。他の超長期債としては、都市再生機構が40年債200億円、日本高速道路保有・債務返済機構が利子一括払いの20年債及び40年債の計100億円を募集したのみに留まる。コロナショックを受け大きく水準の変動した超長期ゾーンに対して、投資家がやや慎重な姿勢を示している可能性もあるが、単に民間企業が超長期年限を発行対象として選択肢にしなかっただけなのかもしれない。もう少し市場の動きを確認すべきだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/1~6/5

新型コロナウイルス感染症は、国内だけ見るとようやく沈静化しはじめているようであるが、第二波以降の感染再拡大に対する懸念はなかなか拭えない。消費の低迷に起因する経済への悪影響は、しばらく続くものと思われるが、世界的に株価は2月の水準へと回復している。これを中央銀行による金融緩和のもたらしたミニバブルと考えるのか、それともコロナの早期終息に向けた期待による株高なのか、今後の推移のみがそれを教えてくれることになるだろう。一頃の「先の見えない不安感」が薄れていることは、様々の意味で前向きになる兆候であるが、債券市場について考えると、補正予算に対応する国債増発と日銀による大量買入れの綱引き、それに企業倒産の増加による信用懸念の高まりが加わって、一般債利回りの方向感が掴み難くなっている。

6月に入って起債市場の動きが活発化している。決算発表を乗越え、緊急事態宣言による自粛も徐々に解除されていることから、大型の起債案件も見られるようになっている。それでも、動きが遅いメーカーより、ノンバンク、鉄道などの動きが先行している。相変わらず、日銀による買入れ見合いの3年債及び5年債の募集は目立っているが、それを含めた複数年限にわたる起債が一つの特徴である。野村不動産ホールディングスの3年債200億円・5年債100億円・10年債100億円は、まさに日銀対応の年限で調達金額を稼いでいる。同様の年限設定は、川崎重工業でも見られるが、5年債を300億円と大きく積み増している。JR九州も日銀対応の3年債200億円が募集金額の半分となり、10年債と20年債は各100億円の募集である。

複数年限の起債としては2年限や3年限は良く見かけるが、5つの年限で社債を募集した発行体が2つもあったのは珍しい。一つは東京地下鉄で、10年債から50年債を10年刻みで各100億円を募集した。したがって、合計募集金額は決して大きくない。最近の鉄道関連で見かけられる起債形態で、年限の分散を図ったものと考えられる。なお、10年債のみサステナビリティボンドの認証を得ているが、同社の位置づけを考えると、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の財投機関債のようにすべての年限で認証を得る方が適切だろう。

もう一つの5年限を募集したのが、Zホールディングスである。ソフトバンクグループに属する上場持株会社であり、傘下にヤフーやイーブック、一休、GYAO、ジャパンネット銀行など多数のIT関連企業を有している。上位の持株会社であるソフトバンクグループも同様であるが、あまりにも資本関係が複雑であり、かつ、LINEの経営統合に端的に表れているように、買収やスピンアウトによって企業の将来像が容易に転変してしまうため、社債投資の対象としては躊躇せざるを得ない。今回募集された社債でも1.5年債250億円・3年債800億円・5年債700億円までは、日銀買入れを意識して購入するのも面白いが、7年債150億円・10年債100億円ともなると、A+(R&I)・AA-(JCR)といった格付けのみを鵜呑みにして投資するのは危険過ぎるだろう。10年債に付された0.9%という高い水準のクーポンが、不透明リスクに見合っているだろうか。それでも、5年限で計2,000億円の大型起債を成功させたのだから、驚嘆を禁じ得ない。

Zホールディングスの起債に比べると、京成電鉄と京浜急行電鉄が各々20年債を募集しているのは、違和感なく見ることが出来る。クーポンはいずれも0.73%に設定されている。なお、取得した格付けはA+格で同水準であるが、京成電鉄はR&Iからで、京浜急行電鉄はJCRからであり、発行額は京成電鉄の100億円に対し、京浜急行電鉄は150億円と多い。どちらの投資妙味が高いと考えられるか、好みも分かれるところだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/25~5/29

新型コロナウイルス感染症の拡大に対応した緊急事態宣言が徐々に解除され、少しずつ日常が戻りつつある。と言っても、ウイルス自体が完全に根絶されるものではなく、第二波以降の感染拡大を懸念すると、単純に以前の状態に戻るのではなく、新しい態勢を築くしかないのだろう。それをウィズコロナと呼ぶのかどうかは別にしても、以前のように皆が一か所に集まるといった方式は見直さざるを得ない。人と会うことについても、オンラインで代替することが増えるだろう。ただし、どんなにインターネット技術が進んでも、直接に対面することがすべてなくなるとは思えない。これからは、新しいスタンダードを模索する時間帯だろう。

起債市場の運営も色々と変わって行くのではないか。発行体や主幹事証券による投資家訪問は考え難くなっている。また、発行体が投資家や市場関係者を一か所に集めて、決算の状況や起債計画を説明するといったイベントも、徐々にネットを活用によるロードショー開催が、一般的になるのではないだろうか。参加者が都合の良い日時に随時アクセスできるのであれば、いずれの市場関係者にとっても利便性は高い。募集のスケジュールも見直すことが出来るだろう。

起債市場は、必ずしもフル回転といった状況ではない。決算発表のピークを越え、徐々に社債等の募集がはじまっているものの、関係者がフルに出勤しているものではなく、手探りで進んでいるといった感じは否めない。それでも、29日の金曜日には、メーカー、ノンバンク、鉄道など幅広い業態による社債の募集が行われた。前週にも見られたが、4月末に日本銀行が社債の買入れ対象年限を残存5年以内としたことで、従来からの3年債に加え5年債を併せての起債が増加している。この週でも、キリンホールディングス、SBIホールディングス、南海電気鉄道、オリックスが、3年債と5年債をともに募集している。残る電源開発も5年債を募集しており、まさに日銀買入れによる5年債の復権と呼んでよいだろう。

その一方で、超長期年限の国債利回りが上昇していることもあって、超長期年限の社債が募集されていないことにも注目しておきたい。この週の発行体の中でも、電源開発や南海電気鉄道は、超長期債を募集してもおかしくない業種の発行体である。両社がともに10年債までに年限を留めていることは注目しておきたい。もし超長期年限の国債利回りが当面下がらないのであれば、現状水準での超長期債に投資妙味が高いと考える投資家も少なくないだろう。かつて10回台の20年超長期が入札されていた時代に、米系のヘッジファンドから10bp以上も下の利回りで大量買い注文を店頭市場で受けた時代を思い出させる。発行体と投資家の間での、鬩ぎ合いは見物である。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/18~5/22

この前の週で取り上げた起債の一つが、JR西日本の7本立て計1,900億円の募集であった。募集された年限が3年債から50年債まで幅広く、実質的に社債のもっとも短い年限から長い年限まで網羅したものであった。ここまで年限を分散させ、発行金額を積み上げた起債は珍しい。絞った年限で起債金額を稼いだ例は過去にも様々あったが、この起債は当面一つのベンチマーク的な存在となるだろう。

この週に早速、追随したかのように見える起債が、東京ガスによって募集された。追随したと言われるのは、東京ガスとしては不本意だろう。50年債の起債を早くにはじめた発行体は東京ガスであるし、超長期債を主体に複数年限にわたる起債を行うのは、同社のお得意芸だからである。JR西日本を意識して起債したものかもしれない。なお、東京ガスによる起債は、4本立て各100億円の計400億円であり、一つの年限でも募集できるような規模に留まっている。そもそも社債による資金調達は、利子の支払い等コストを要するものであり、負債によるレバレッジ効果はあるものの、不必要に負債比率を上げる必要はないだろう。しかも、R&Iの格付けを見ると、JR西日本のAA格に対し、東京ガスはAA+格と2ノッチ上で日本国債と同符号である。両社が競合を意識するまでもない。

東京ガスが今回起債したのは、10年債・30年債・40年債・50年債という組み合わせであり、なぜか20年債が年限から外れている。JR西日本と重なる年限の国債対比スプレッドを比較すると、10年債は+25.5bps対+24.5bps及び30年債とは+25bps対+24bpsと各々わずかの1bpタイトさに留まる。さらに、40年債は国債対比のスプレッドは+36bpsで同じであり、50年債は+50bps対+49bpsと同じく1ノッチのタイトである。決して格付けだけで信用力を評価すべきでなく、業種や企業の抱えるリスクを考慮して信用判断を行うべきであるが、ここまで前週に巨額の募集を行われたJR西日本債をタイトに買う必要があっただろうか。東京ガスの方が、発行金額が小さく入手は容易でななかったと思われるが、営業基盤とする地域の経済力を考えると、社債としての投資妙味があったのではなかろうか。

その他には、電力やガス、公共セクター以外で、ようやく事業債の募集が見られたことは心強い。募集されたのは、化学メーカーであるJSR(97年に日本合成ゴムから社名変更)の5年債130億円・7年債100億円・10年債120億円というオーソドックスな3本立ての起債である。募集金額も中央の年限を少なめにするという、一般的な金額配分であり、計350億円と過大な募集金額でもない。消費財メーカーではないために決して知名度は高くないが、合成ゴムや様々な樹脂、半導体関連の素材等の優良メーカーであって、格付けはAA-(R&I)格とJR西日本よりも高い。その一方で、10年債のクーポンが0.37%と同日募集された東京ガス債より13bps近く厚い。つまり実質的に、国債対比+37bps程度のスプレッドはあり、JR西日本の10年債よりも遥かに高いクーポンが付されたのである。起債そのものが20年ぶりということもあって、購入したかった投資家が多かったのではないか。

国内起債市場を斬る ステイホーム特別号②:ソフトバンクGの1-3月期1.4兆円赤字に思う

ようやく決算発表シーズンの峠を越え、起債市場は公的・電力・鉄道といった特定セクターのみから盛り上がりはじめている。中でも、まず、日本銀行の社債買入れオペの対象拡大を意識して、九州電力の3年債やJR西日本の3年債及び5年債といった起債が見られる。資本市場の活性化を意識し企業の資金繰りを支援するというのが日銀オペの拡充の趣旨だったはずだが、こういった公的に近い企業の社債買入れは政策意図と乖離した効果しかないだろう。何しろJR西日本の起債は、3年債から50年債まで計7年限で、総計1,900億円もの巨額の募集であった。こういった巨額の資金調達が可能な企業の社債に対して、資金繰り支援という主旨の日銀による買入れオペは馴染まなない。結局のところ、金融緩和の拡大は、コロナショックに対する支援になり難いという限界を露呈しているだけである。

相対的に公的関与の強い業態ばかりであるために、発行年限の超長期化は必然であろう。超長期年限の起債は、住宅金融支援機構の15年債150億円及び30年債500億円、中国電力の25年債100億円、四国電力の20年債100億円、JR西日本の20年債150億円・30年債150億円・40年債100億円・50年債200億円の計600億円とすべてを足し上げると、1,450億円にも上る。JR西日本の50年債だとクーポンは1.031%と高水準になるが、住宅金融支援機構の15年債だと0.342%と低い。どうせ売却する必要をあまり考えなくて良い銘柄群なのだから、バイアンドホールド前提で少しでも高いクーポンをと考える投資家もいるだろう。しかし、現在の金利水準で50年もの資金固定が、後世にどう評価されるだろうか。いずれにせよ、現在の投資担当者が50年債の償還時点まで在任していることはあり得ない。

こうした公的及び周辺セクターの起債によって、ゴールデンウィーク明けの起債市場は動きはじめている。しかし、18日の月曜日に発表されたソフトバンクグループの決算が、1兆4,381億円もの純損失となったことには必ず着目しておくべきだろう。誤解してはならないのが、携帯電話等通信事業を営むソフトバンク(今年の3月に社債発行)は同社の子会社であり、ソフトバンクグループは持株会社である。通信事業は総務省の認可事業であって、仮に経営状況が悪化しても、利用者のユーザビリティを考慮すると、サービス提供会社の破綻処理は考え難い。

一方で、投資会社である親会社に関しては、破綻処理が可能であるし、そもそも実質的に投資ファンドと化した持ち株会社に対する適切な信用力判断は容易でない。単純に現時点でのLTV(Life Time Value:注1)等指標を見るだけでは不十分であり、投資先のファンド等が順調に稼いでいるのか、新型コロナウイルス等経済変動の影響を受けていないか等素人投資家が外から投資判断のできるような先ではない。歴史的に見ても、買収や傘下企業の切出し等で財務構造の変化が著しく、普通社債の投資対象としては格付けのみで評価するべきではないし、適切な事業評価も容易でない企業体である。筆者は繰り返し述べているが、証券会社の営業に勧められて、同社の劣後債を購入するのは、崖から海に飛び込むような丁半博打と同様の投資であり、丁と出れば高利回りを得られるかもしれないが、半と出れば身の破滅となるようなものである。限りなく投機に近い投資対象と考えるべきである。

企業としてのソフトバンクグループは、創業者からの事業承継リスクも強く懸念されており、新型コロナウイルスの影響がどれくらい、いつまであるのかわからない中では、ますます警戒する必要のある発行体の一つである。自己資金で投資判断を行う個人投資家ならともかく、機関投資家が安易に手を出せるような銘柄ではない。
注1:LTVとは、ある特定の顧客が企業に対して、最初の接触時点から、関係性が継続する限りの期間に、企業が得られる収益の総額を算出する指標です。日本語では「顧客生涯価値」とも言うことがある。

国内起債市場を斬る ステイホーム特別号①:日本経済はコロナ危機から脱したのか

4月7日に発表された緊急事態宣言は、同月16日に対象を全都道府県へ拡大した上で、期限を5月31日まで延長している。可能であれば早期に解除される可能性が示唆されているものの、特定地域に指定されている大都市圏では、まだ解除が可能と思えるような状況にはない。その一方、新規感染者がしばらく発見されていない県が多く存在することも事実であり、今後、自粛や制限を緩和する方向へと徐々に動き始めているように見える。

一方、金融市場の動きはどうか。株価は1月下旬に高値を付けた後、新型コロナウイルスの世界的な蔓延と経済的なインパクトを受けて3月中旬に底値を付けている。その後の株価回復局面では、中国等での感染抑圧の成功というよりも、米欧日の中央銀行による金融緩和、特に、企業金融支援の動きが効果を持ったものと考えられる。しかし、このような金融政策による株価の下支えは、日本銀行によるETFの買増しといった極端な政策でなくとも、市場操作の一種であり決して経済のファンダメンタルズに立脚したものではない。つまり、株価が底打ちしたかのように見えるものの、ファンダメンタルズの悪化は、先週公表された米国の雇用統計に見られるように、これから明らかになってくるものが本番なのである。

コロナショックによる企業倒産の発生も、国内では旅館や小規模小売等で多少発生が見られる一方、海外では既に空運や百貨店等の大規模な企業の破綻が生じている。日本においてはロックダウンといった強権的な対策を講じることが出来なかったために、緊急事態宣言が予定通りに解除されても、すぐには以前のように経済活動を回復することは期待できない。当面は、様子を見ながら慎重に経済活動の再開を図る展開になるだろう。つまり、企業収益の回復にはまだ長期間が必要であり、金融相場を実現することで市場価格を押し上げている現状は、サステイナブルでない可能性が高いということなのである。クレジット市場と株式市場は爆弾を抱えているようなものである。こういう状態にある時には、慎重な企業及び環境分析に基づいた投資判断が必要であり、不必要に長期間の与信は避ける必要があるし、信用力に多少でも懸念のある企業への与信は極力避けるべきだということである。98~99当時のクレジット市場が崩壊した際、国内でも残存2‐3年の丸紅、伊藤忠、日商岩井の社債が、LIBOR+2000bp以上で取引されたことを、昨日のことの様に思い出す。年腐りかけた果物が一番甘いと言われるように、信用懸念の高まりはじめた企業に対する与信からは高利回りの獲得が期待できるものの、知名度の高さや過去の名声などだけに頼った与信行為は、すぐに大きなしっぺ返しを受けることになるだろう。

現在のようなもの環境が当面続くとみられる中では、ひたすらに慎重な投資判断が求められるし、「人の行く裏に道あり花の山」と見られるような好機はほとんどないと考えるべきである。今のこの瞬間は、ユニークな投資判断は足元を掬われる可能性が高い。海外企業が日本国内でサムライ債を募集するような状況も、自国内でのファイナンスが容易でないために、情報の非対称性を利用して、日本市場で資金調達を目指している可能性が高いのである。

コロナショックが実体経済に与える影響が顕在化するのは、これからが本番であり、少なくとも国会で家賃支援や大学生に対する給付等の追加経済対策が議論されている限り、まだ底を打った状況にはない。表面的な株価や金利、為替の水準に惑わされることなく、今こそ地に足の着いた投資判断が求められているのである。

(先週の配信は、GW中のため休刊いたしました。)