2015年6月号  What Makes an Idea Creative?

卓越したアイデアというものは、アイザック・ニュートンの頭に落ちたと言われている林檎のように、不意に思いがけなく生まれるものだと多くの人は信じていますが、それは誤った認識なのです。事実、殆どの新しいアイデアというのは、それが如何に画期的なものであっても、革新的なものであっても、それ以前からあったアイデアと密接に関連しているのです。アイデアの創出とソーシャル・ネットワークについて研究しているオリヴィエ・トウビア教授によると、「新しいアイデアの発想は、独創的なお料理に例えられる」と述べられています。つまり、既存の材料と既存のレシピを組み合わせたり、一部を変えたりすることによって、新しいものが生み出されるのです。
しかし、材料をどのように組み合わせたりアレンジしたら、卓越したアイデアが生まれるのでしょうか、又、その方法を特定する事が出来るのでしょうか。 この疑問に答えるべく、トウビア教授はオベッド・ネッザー教授との共同研究で、アイデアに含まれる様々な構成要素と創造性の関連性を見いだしました。これは、最もクリエイティブとされるアイデアの構成要素が、斬新性(novelty)と普遍性(familiarity)の点でどのように上手くバランスを保っているのかを数量化したもので、初めての画期的な研究でした。
二人の教授は、8つの一連の実験を行いました。実験では、参加者が特定のトピック(例えばヘルスケアの商品をいかに改良するか等)についてアイデアを出します。4,000件以上のアイデアが出された後、各アイデアは審査員によって評価されます。審査員は消費者、該当分野の専門家、オンライン上のアイデア創出コミュニティーのメンバー達で構成されています。各アイデアに「創造性」に対する評価の平均点が出されます。
ネッザー教授は、ビジネスの意思決定のためにビッグデータ(情報通信技術の進展により、生成・収集・蓄積等が可能・容易になる多種多量のデーター)と関連ツールをどのように活用きるかを研究しており、この実験では、自動的に何千ものアイデアを読み込み、どのアイデアが最もクリエイティブと見なされるかを予想するために、テキストマイニングツール(定型化されていない文章の集まりを自然言語解析の手法を使って単語やフレーズに分割し、それらの出現頻度や相関関係を分析して有用な情報を抽出する手法やシステム)のようなビッグデータの分野のテクニックを使ったと述べています。
「お料理」との類似性については、各アイデアをレシピに例えることができるでしょう。テキストマイニングにより、まず材料を選ぶことができます。そしてネットワーク分析を用いて、教授らは基本的ネットワーク内にある、これらの材料の関連性を分析することができます。もし、誰かに「オムレツのアイデアを出すように」と指示ずると、「卵とチーズを混ぜます。」という人達がいるでしょう。彼らは極めて一般的、且つよく知られた組み合わせを選んでいるのです。しかし、卵とミントを混ぜるというアイデアが出るとすると、それはあまり一般的ではなく、より斬新な組み合わせなのです。
これらの組み合わせを見て、教授らは各アイデアにおける斬新性と普遍性の組み合わせを数量化することに成功しました。「オムレツ」に卵とチーズとミントが使われている場合、それは平均的な組み合わせ(卵とチーズ)と斬新的な組み合わせ(卵とミント、又はチーズとミント)の両方を含んでいます。実験によると、最もクリエイティブと見なされたアイデアは、斬新性と普遍性の両方を備えたものでした。「もし、あるアイデアが刺激のある斬新なものとして受け取られるとすると、何かしらの仕掛けがなければならない。」とトウビア教授は述べています。つまり、同時に、何か普遍的なもの、馴染みのあるものも含んでいなければならないのです。この斬新性と普遍性のどの組み合わせが最適なのかを知るために、二人の教授は、過去に心理学者と生物学者達が発見した「The beauty-in-averageness(平均美) 効果」という理論に辿りつきました。 最も平均的な特徴を持った人間の顔が、最も美しいと感じられるのと同様に、斬新性と普遍性のプロトタイプ的な面との組み合わせを備えたアイデアが「最もクリエイティブな顔」と判断されることを、彼らは見い出したのです。
この研究の最終段階で、二人の教授はさらに、先の研究結果をもとにして人間が問題を最も効果的、創造的に解決できるような方法を研究しました。 この研究参加者にはユーザーが健康を改善するためのスマートフォン・アプリのクリエイティブなアイデアを出すように指示しました。まず幾つかの健康アプリのユーザー同士のディスカッションから、二人の教授が500のコンセプトをテキストマイニングします。そしてそれらコンセプトを斬新性と普遍性の理想的な組み合わせに近づけることにより、参加者のアイデアを改善するようなツールを設計したのです。
例えば、ある消費者が基本的な500のコンセプトの中から3つの要素を盛り込んだスマートフォンのアプリを提案し、その3つがどれも極めて平均的なものである場合、アイデアをさらに斬新性と普遍性の理想的な組み合わせに近づけるために、ツールは非平均的な、他とは異なるコンセプトを提案することができました。同様に、消費者が5つのコンセプトを選び、それらが全て非平均的なものである場合、アイデアを斬新性と普遍性の理想的な組み合わせにするために、ツールはより普遍的な要素を提案することになるのです。このようにして修正されたアイデアは、よりクリエイティブと見なされることを二人の教授は発見したのです。
「我々は皆ビッグデータのツールを持っており、タグやソーシャル・ネットワークを分析することができます。これらのツールの殆どはターゲティングやマーケティングにだけ使われています。」とトウビア教授は述べています。「しかし、実はこれらのツールは人々を助けるためにも使うことができるのです。」とネッザー教授は追加述べていました。
これらの研究結果は、アイデア創出に関連するどの企業、全ての産業において意義のあることなのです。似たようなツールを他にも様々に応用できることをこの二人の研究者は期待しています。「哲学的に言うならば、良いアイデアというものは調和とバランスが全てであることを、この研究は示しています。」「そしてそのバランスは新しい商品アイデアだけではなく、それを超えた人生の多くの局面で役立つことになるでしょう。」とトウビア教授は最後にコメントしていました。

さる4月21日、Columbia Business Schoolを訪問した際に提供された季刊冊子「Columbia Ideas at Work」-Winter 2015に掲載されていた、「What Makes an Idea Creative?」という記事を要約してみました。
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