国内起債市場を斬る 令和6度期初特別号:2024年度の起債市場は如何に!

年度がかわって、また起債市場も新たなスタートである。長期国債の入札を経た後頃から、徐々に起債案件が募集を始めるというのが例年のパターンである。長く起債市場を見ていると、まず動き出すのは、電力かノンバンク、あるとしたら銀行といったところと推測できる。その後、メーカーがゆっくりと募集に動き出すのが、ゴールデンウィークの前あたりになるかといったところだろう。しかし、今年度は幾つかの要素で異なる展開になる可能性がある。

最大の変化としては、3月の決定会合で実施されたマイナス金利とイールドカーブコントロールの撤廃であろう。前者に関しては異常な低金利政策の終焉を指しており、後者は長い年限の金利水準を市場のメカニズムに委ねるという判断である。金融緩和政策をほぼ昔に戻したという政策見直しだが、長期国債の買入れは継続されるし、CPや社債等の買入れに関しても停止ではなく1年程度の時間をかけての縮小になるとされている。したがって、まずは金利水準の居所を探る必要があるし、同時に社債買入れオペの縮小によるスプレッド水準の確認が必要になるだろう。国債の流通市場における出会いを確認することで、ベースとなる国債利回りはすぐにでも居所が確認できる。一方、3年までの社債の買入れを即時停止とはしなかったため、社債のスプレッドが拡大するといったほどの影響はないだろう。しかし、そもそも社債を発行できるような優良企業に関しては日銀の買入れによるスプレッド圧縮の効果は、ほぼ無関係であって、かつて市場において見られたような応募者利回りが0%となるような異常な新発債の募集はもう見られなくなるであろう。

金融政策の変更による影響の確認と同時並行で、日証協による社債インフラ見直しの動きによる影響も頭の片隅に入れておく方が良さそうである。結果としては、優良銘柄に与える影響は大きくなさそうであるが、近年のユニゾホールディングス(2023年4月26日民事再生法申請、負債総額1262億円)の顛末で広く知られるようになり、問題としては古くから指摘されていたチェンジオブコントロール条項(会社が取引先と交わしている契約に解除事由が発生したり、契約相手に対して通知または承諾を得なければならないといった条項)の設置について、検討が進められている。純粋に市場メカニズムに任せることで、社債契約の無特約化が進んできたことに対して、投資家保護のみならず社債市場を育成・活性化する観点からの見直しが行われようとしているのである。金融庁が近年強く主張している「顧客本位の金融機関運営」という観点からは、発行体および投資家の双方に不利益になることがないよう慎重な検討が望まれる。一律のコベナンツ設定を強制するのではなく、投資家を保護し、発行体側の経営の自由度を確保できるよう、個々企業の状況に応じた対応が必要になるのではないか。

起債市場全般のトピックとしては、新NISAの導入や株高によって個人投資家の目が証券市場へ向かっている中で、個人向け社債の活用が期待される。また、金利水準が上昇する中で、プレミアムの乗った金融機関や事業会社の劣後債に対するニーズに変化が見られるかどうかも注目される。更には、様々な新種の導入やスキームに関する工夫が見られているSDGs債の需給に関する変化も注目されよう。3月に募集された共同発行地方債では、引続きグリーニアム(地方自治体のESG;環境・社会・企業統治に使用目的を特定した債券)の債券を選ぶという姿勢のものも少なくない。今後の市場動向を確認してみたい。

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