国内起債市場を斬る 起債評価:10/4~10/8

下期の起債市場は、例年よりも動きが速いようだ。背景にあるのは、そこはかとなく感じられるようになった日米の金利先高感だろう。米国の場合には、連邦政府債務の上限問題をクリアしたものの、新型コロナ感染症による経済への影響から徐々に脱却しつつあり、11月にもテーパリングが開始されるという観測が高まっている。日本についても、必ずしも米国金利の動向に連動しないものではあるが、自民党総裁選で各候補が打ち上げたバラマキやプライマリーバランス公約の一時凍結などの発言から金利上昇懸念が生じている。財務事務次官が月刊誌で財政悪化に向かう傾向に対して反論するといった前代未聞の状況であり、金利押下げによってメリットを得ている日本政府のスタンスが顕著である。家計も企業も資金余剰にあり、最大の資金不足セクターは政府なのであって、当然、低金利によって最大の恩恵を得ている主体は政府なのである。

10月に入って早速動き出した起債市場ではあるが、すぐに債券等を募集した案件の特徴を、幾つかの単語で表現すると、高速道路、大型起債、電力債、SDGs債、劣後債といったことになるだろう。既に10月1日から首都高速と阪神高速が社債募集を開始しており、8日には西日本高速道路も追随している。3社合計では1,400億円を募集しているが、この額が小さく見えるほどの大型起債が相次いでいる。ソフトバンクの3本立て起債計800億円ですら大型起債には感じなくなってしまう。日本航空の劣後債は1回号で1,500億円を募集し、武田薬品工業は10年債2,500億円を同じく1回号で募集している。また、パナソニックの劣後債は、3本立てで計4,000億円という大規模の募集であった。

電力債では、東北14年債100億円、四国20年債100億円、九州10年債200億円及び27年債150億円、中部10年債141億円及び20年債90億円、関西3年債500億円・5年債300億円・10年債100億円と様々な年限と金額とで募集されている。半端な年限が複数見られているとともに、関西電力の3年債はオーバーパー発行によって0%の利回りを実現している。なお、中部電力の発行金額が141億と奇妙な数値となったのは、公正取引委員会による立ち入り検査を受けて投資家の購入ニーズが減退したことへの対応と考えられる。

SDGs債の募集も多く、東急不動産ホールディングスの10年債はサステナビリティリンク債であり、SPT未達の場合は、環境団体等への寄付を公約している。INPEXの10年債はグリーンボンドであり、東京地下鉄は10年債・30年債・40年債・50年債の各100億円を募集したうち、10年債のみサステナビリティボンドの認証を得ている。なお、前週の阪神高速道路債がソーシャルボンドの認定を得ていたのに続き、西日本高速道路債もソーシャルボンドとしての認定を得ている。SDGs債も引続き、投資家に対するアピール材料となっているようだ。

国内起債市場を斬る 下期初特別号:中国恒大集団の経営危機を考える―その2

今回は、前回より少し広い観点から、中国の恒大集団の経営危機問題についてシンプルに考えてみたい。前回も触れたように、この不動産市場最大のプレイヤーの明暗は、中国政府の政策如何に委ねられているのである。特に足元の中国政府は、極端な富裕層を抑制し、国民全体(と言っても、新疆ウィグル地域の住民が念頭に入っているとは思えないし、此処では沿岸主要大都市に居住する漢民族を想定しよう)が共に豊かになる道を目指そうとしている。その中で、巨大企業に対する規制が強化されており、過去に認められていた特権的な立場を富裕層から剥奪される方向にある。従って恒大集団に対し公的資金の注入で経営支援することは考え難く、既に報道が見られているように、同様に不動産バブルに踊った複数の不動産会社が破綻へと連鎖する可能性は高い。

日本での不動産バブルの破裂にも見られたように、巨大不動産会社は金融機関からの借入れを利用して自転車操業的に新規物件を建設し、即売却するサイクルを継続しており、金融機関への影響が生じる場合には、経済全体への影響が生じる可能性は否定できない。そのため、日本では法律を整備し監督を強化する中で、金融機関への公的資金を注入することで、金融システム不安から経済の機能不全へと陥ることを回避したのである。それでも、「失われた三十年」と呼ばれるように、経済の長い停滞は続いた。そもそも中国の経済統計に対する信頼性は必ずしも高くないが、ますます経済の停滞感は強まることだろう。そうは言っても、日本のGDP成長率よりは高い数値を発表することは、既定路線なのかも知れない。

恒大集団の破綻が生じた際に懸念されるのは、仮に金融機関への影響を抑制できたとしても、個人投資家への多大な影響である。この数十年間、中国の経済を回してきたのは、経済の高成長から得られる利益を享受できる個人投資家向けの金融商品であった。お金儲けの大好きな漢民族にとって、共産主義による抑圧からの解放は、その反動も含めて投資から投機による蓄財へと移行するものとなった。株式投資による果実は当然の利益であり、更に、理財商品と呼ばれる様々な投資商品が個人の投資対象となっている。理財商品には様々な形態を取るものがあり一概には定義しづらいが、SPCのようなプラットフォームを活用した資金集めと成功報酬的なリターンの還元等が特徴であり、こうしたシャドーバンキングによる資金調達が中国経済の成長を支えてきたのである。

筆者も二十年程前に中国本土での資産運用を検討したことがあるが、理財商品は高利の魅力的なものであるものの、スキームに登場する関係者が破綻した際の投資家保護とディスクロージャーが十分でなく、安定的な運用対象になり得ないと判断した。恒大集団の経営危機で既に理財商品の損失が発生しているようであり、国民経済への影響は少なからず生じることになろう。既に報道されているように、損失の発生から自殺をほのめかすような投資家も見られており、そもそも、そのような全財産を投機に賭けるような投資姿勢は、国内バブルを見てきた我々サラリーマン投資家には極めて不適切と決めつけてしまう。
お金儲けに血道をあげる中国の民族性は、その歴史的背景と中央政策に帰結するのであろう。歴史的背景とは、投資分散といったリスク管理の原点からとかく逸脱し、また、政府による投資家の保護は、預金保護と異なって、到底期待し難い、という点である。共産主義的なみんなで豊かさを目指す環境の中では、過度な投資で自分だけが豊かさを目指す行為は不適切と評価され、市場の反転局面では、当然の報いを受けることになる。その結果、中国経済は、高い成長率を維持することが難しくなるのであろう。

結局のところ、中国政府がどのような支援策・収拾策を投入するかで、今後の市場や経済全体への影響が大きく異なって来るだろう。過度な公的資金の投入は中国国債の信用力を低下させることになるし、世界国債インデックスへの算入がはじまる中での信用力低下は避けたいはずである。まずは、中国政府の動向を注視しつつ、債券市場は淡々とデフォルトを迎えるしかないのではないか。影響が大きくなって来た場合に世界経済への影響を考慮する必要も考えられるが、それは中国国内での影響や対応が判明した後であり、まだ暫く先のことになるだろう。(本稿終わり)

国内起債市場を斬る 上期末特別号:中国恒大集団の経営危機を考える―その1

上期末を挟むこの時期は、起債市場で新規に社債等を募集する動きが見られなくなることもあり、少し巷を騒がせている問題を考えてみたい。いわゆる中国恒大集団の経営危機問題である。今回は主にクレジット市場や債券市場の観点から、次回は金融機関や経済への影響という観点から、と分けてみよう。

中国の不動産企業に明らかな構造的問題があることを意識されるようになったのは、何もこの数カ月といった時間軸の話ではない。新たな物件を建設し、売却資金で再び新規物件の建設に向かうといったビジネスモデルは、日本のかつてのバブル期にも似たものがあり、更には、不動産に対する所有権を認めない中国政府の方針から、より顕著な動きとなったのが痕跡に入った頃だったろうか。人口の大きな大都市はともかく、地方都市等に建設された高層マンション等が建設途上で打ち捨てられたり、竣工していても人の済まないゴーストマンション(現地では”鬼城”と呼ばれる)化していたといった報道は散見されていた。いつかは破裂する中国の不動産バブルと意識されてから、随分と長い年月が経過しており、中国政府は上手に対応しているという認識すらあったのではないか。しかし、それにも当然限界は存在する。

結局のところ、中国の不動産バブルは必ずいつか崩壊するものと思われており、特に当事者がそれに気付かないか、気付かないふりをしていたのも、典型的なバブル現象だったのである。リーマンショックの前段にあったモーゲージやCLOのバブルも、そろそろ破裂するのではと思われはじめてから、数年ほども長く継続した。バブルは外から気付くことが出来ても、外から破裂するタイミングを予想するのは難しい。そもそも、世界で最も最初の”
「バブル」であったとされるチューリップ(チューリップ・バブルのピークは1637年と一般的に言われている)にしても、本源的な価値は花を愛でるだけであったのが、ブームが過熱して建物等と同等にまで球根の価格が跳ね上がり、それが突然、急速に醒めてバブルが崩壊したのである。バブルの直中にいたら、それこそ醒めるまで気付かない、というのが、日本のバブルでの私たちの経験でもあろう。

既に恒大集団の発行した一部の債券で、利払いを停止されたことが報道されている。利払いに猶予期間の設定がない人民元建て債券の利払いを優先し、猶予期間が設定されているドル建て債券の利払いを延ばしたのは当然であり、現時点ではデフォルトの認定はされない。しかし、デフォルトが時間の問題であることは自明であろう。利払いに窮している発行体が、元本の償還による巨額のキャッシュアウトフローに対応できるとは思えない。しかし、借換債の発行や金融機関からの借入れが可能なら、資金繰りに窮しても延命できる可能性はある。中国の経済システムにおいては、鍵を握るのが政府の姿勢であることは明白であろう。日本においても、日本航空に公的資金を注入する際にデフォルト処理を行い、株式や社債の保有者には実損が生じた。一方、金融機関への公的資金の注入に際しては、特にメガバンクの場合、破綻処理は実施されていない。国民からの反発や経済への影響など様々な要素を考慮する必要はあるが、近年の中国政府は、特に大企業への締め付けを強化しているように見えることから、恒大集団に対して特別な支援を行わないのではないかという観測が強い。となれば、早晩、恒大集団は破綻することになるのではないか。

企業が倒産した場合に、日本の場合は株式が無価値になり、社債の弁済率は10%程度になるのが一般的である。デフォルトした社債の弁済率は、欧米の事例よりも一般的にかなり低い。その背景には、ギリギリまで破綻を回避することに加え、取引銀行が貸付の回収を優先するため、社債権者への弁済にあまり回らないという構造がある。いわゆる社債間限定同順位特約による社債の劣後性であるが、果たして中国の社債がデフォルトした場合に、どの程度の債権回収が可能になるだろうか。2010年代後半から中国で社債のデフォルトは多く見られており、弁済率は日本のそれとあまり変わらない水準である。どうやら恒大集団の社債がデフォルトした場合も、建設途上の物件の価値や手広く展開した多角化した事業内容等を考えると、高い弁済率は望めない可能性が高いと覚悟しておいた方が良さそうだ。(次号に続く)

国内起債市場を斬る 起債評価:9/13~9/17

おそらく上期末の起債は、この前の週がピークだったのだろう。カレンダーを見ても、翌週は敬老の日と春分の日によるシルバーウィークとなっており、募集から払込までの期間を考えると、9月中の募集はほとんど残っていないと考えられる。

こういった状況では、フリークエントイシュアーよりも、レア物の起債が目立って来る。日本発条(ニッパツ)の第9回5年債100億円、中央日本土地建物グループの第3回5年債50億円、KYBの第1回5年債70億円、DOWAホールディングスの第6回5年債100億円といったところが、シニア債として募集されている。また、劣後債を見ると、ツバキ・ナカシマが100億円、三菱HCキャピタルが1,000億円、横浜冷凍が100億円とそれぞれ第1回の劣後債を募集している。注意したいのは格付水準であり、幾ら劣後債がシニア債と比べて1ノッチ程度下回った符号になるものではあるが、ツバキ・ナカシマの劣後債はR&IのBBB-格であり、横浜冷凍の劣後債はJCRのBBB格である。予定通り期限前償還されるとすれば、両者とも7年債であるが、期限前償還されなかった場合、最大で前者は30年債となり、後者は37年債である。この水準の格付けの銘柄に、そこまで長期の与信を行う投資家は、正気と思えない。劣後債によるプレミアムの上乗せによる利回りの高さと、期限前償還への期待だけに捕らわれているのではないか。

翻って日本国内の円債市場以外に目を向けると、9月に入ってドル建てやユーロ建てなど、海外での調達を行う国内企業が増えている。募集される市場もユーロ市場あり、米国SEC登録のRule144A債ありと様々であるが、主な銘柄を挙げても、メーカーではデンソーが5年債5億ドル、商社では丸紅が5年債5億ドル、鉄道ではJR東日本が7年債3億ポンド・13年債5億ユーロ・18年債7億ユーロとある。更に、もっとも目立ったのが金融セクターである。千葉銀行の5年債3億ドル、みずほFGは8年NC7年債10億ユーロに加えて、10年劣後債を10億ドル、三井住友信託銀行は3年債7.5億ドル・3年変動利付債7.5億ドル・5年債7.5億ドルと、様々な年限・通貨での募集が見られる。また、農林中央金庫が今世紀に入って初めて5年債と10年債を各5億ドル募集している。

外貨建ての起債に関しては、メーカー等では買収などに伴う実需があり、金融機関等では外貨ニーズへの対応という側面もあり、また、グローバルな幅広く多様な投資家に対してニーズに即した社債を訴求するという面もあるが、為替レートの変動や見通しによって機動的に募集していることも考えられる。中でも、デンソーがサステナビリティボンド、農林中金がグリーンボンドとしての認証を取得しており、世界的な投資家のSDGs債に対するニーズに対応しているように見える。決してSDGs債に対する国内機関投資家のニーズが小さいとは思えないが、国内では金融債があるため社債を発行しない農林中金が、久しぶりにドル債の起債へと動いたことには注目しておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/6~9/10

上期末の「起債ラッシュ」の様相を呈して来た。金額・本数とも顕著に大きくなっている。ただし、本数は例年よりも抑制気味か。金利先高観は少なくとも日本国内には見られない。また、発行体も、メーカー、電力、商社、公的機関、ノンバンク、通信、小売と様々である。年限という意味では、成田国際空港の1年債というレアな年限が募集されている。その一方では、地方公共団体金融機構が20年債を募集したものの、それ以外に超長期債の募集が見られないというのは珍しいかもしれない。

こういった起債が多く見られる局面では、初物ではないがレアなイシュアーが債券を募集することがある。回号の若い募集例を見ると、イチネンホールディングスの第6回3年債及び第7回5年債や、センコーグループホールディングスの第10回10年債、青山商事の第2回3年債及び第3回5年債といったものが見られる。これらの銘柄は格付けを見ると、イチネンホールディングスがJCRのBBB+格、センコーグループホールディングスがJCRのA-格、青山商事がR&IのA-格と決して高水準ではない。珍しい発行体のやや格付けの低い社債が、起債ラッシュの中で出て来たというところだろう。

この週でもっとも金額を稼いだのは、ソフトバンクグループの劣後債である。いずれも7年債で、個人投資家向けが4,500億円で機関投資家向けが500億円の計5,000億円という大型案件であった。劣後債ということもあって、格付けはJCRのBBB+格である。そのため、クーポンは2.4%と普通の社債では全く見ることの出来ないような高水準になっている。発行体の信用力の安定性に疑念を持つ機関投資家よりも、「ソフトバンク」という馴染みの社名に期待する個人投資家向けに巨額の社債を発行するというのは、同社の過去からの戦略のように思われる。しかし、実態としては、ソフトバンクグープは持株会社であって、事業の本質は投資会社である。CM等で馴染みのある通信事業は子会社が営んでおり、別途、社債の発行も行っている。国民生活のインフラとなっている通信事業は、認可事業でもあり、万一の場合でも単純な破綻処理となることはないと予想されるが、投資会社については、また、異なる観点からの評価が絶対に必要である。

投資会社の発行した劣後債の信用力に信頼を置けるかどうかについては、過去の実績も当てにならないし、政府等による支援の有無も予測しづらい。まさに投資よりもギャンブルに近い。海外展開も含め、M&Aの成否や投資先の状況等をすべて予測することは、不可能に近い。また、ソフトバンクグループがメインバンクにとって、「Too Big To Fail」になっていると評価する意見もあるが、メインバンクのみずほ銀行は度重なるシステムトラブルによって監督当局からの信頼を失墜しており、週刊誌等では分割して他行と統合すべきといった極論も見られている。メインバンクの支えが期待し難い状況で、巨額の有利子負債を抱え、投資先の含み益に依存した財務構造を有する投資会社の信用力は、はたして7年間安定を維持することが可能だろうか。7年は短いようで、十分に長い年限である。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/30~9/3

起債市場の動きは活発である。中でも、募集金額で目をひいたのは、野村ホールディングスのTLAC対応債1,200億円と、三菱商事の劣後債1,300億円である。前者は劣後債ではないが、総損失吸収力規制に対応したものであり、国際的な金融システムに影響を及ぼすような規模の金融機関持株会社が危機に瀕した際に、納税者に負担させることなく、つまり、公的資金の注入を抑制して処理するために募集する債券である。つまり、危機時には、社債の保有者が損失を負担することになるものである。結果として、社債権者からすれば、劣後債と類似した損失負担を強いられる可能性のある債券である。このような損失負担リスクを負うため、プレミアムが乗った利回りを得ることができる。

今回火曜日に募集された野村ホールディンスのTLAC対応5年債は、0.28%クーポンである。格付けは、R&IのA格及びJCRのAA-格であった。一方、翌日に募集されたR&IでA+格及びJCRでAA格と格付会社によって水準は異なるものの1ノッチ上の評価を得る中部電力の10年債が、同じ0.28%クーポンになっている。電力会社の募集する債券にも、原発事故等の共同負担を強いられる可能性という業界独自のリスクが存在し、一方で、一般担保付と他の多くの債権に回収を優先できる特性がある中で、中部電力の10年債と同じクーポンとなった5年債に投資妙味を感じる投資家は少なくないだろう。しかし、損失負担を求められる可能性を無視するのは適切ではない。

この週は、複数の劣後債の募集が見られる。前述の三菱商事の劣後債は、5年経過時点に期限前償還が可能な仕組みで、当初クーポンは0.51%である。格付けはR&IのA格であり、野村ホールディングスのTLAC5年債と同じ符号であるのが面白い。一方で、問題視されるべきなのが、イオンの劣後債だろう。劣後債の格付けは、R&IのBBB格を取得している。今回の募集は既発劣後債の期限前償還対応と短期借入金の返済目的とのことであり、第8回債400億円は30年債で期限前償還は10年経過以降、第9回債300億円は35年債で期限前償還は15年経過以降である。つまり、期限前償還が必ず行われると考えても、10年債と15年債なのである。イオンの長期債務に付されている格付けは、R&IのA格とS&PのBBB格である。

果たして、A格の小売業に10年や15年といった与信を積極的に行えるだろうか。小売業は不動産業と並んで、過去に公募社債がデフォルトした代表的な業種であり、それは事業特性から見ても、決して違和感がない。一般的なメーカーに比べると、小売業の収益安定性は高くないように思えるし、積極的な投資による出店や買収等の失敗によって債務超過に陥ったり、過大な有利子負債の負担に苦しんだり、といった構造が目につき易い。かつて小売流通大手だったとされる企業がどれだけ現在のイオングループに統合されているかを考えても、果たしてイオンの優位性が10年、15年といった長い期間保てるだろうか。そこまでのリスクを考え、状況によっては期限前償還が実施されないリスクを考えると、決して投資妙味の高い債券には見えないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/23~8/27

ようやく8月の起債市場が本格的な動きを見せるようになった。主として東京オリンピックと旧盆の夏休みによる影響であったが、基本的には、これから上期末最後となる募集期間に向かう時間帯である。例年であれば、電力や鉄道、ノンバンクといったフリークエントイシュアーだけでなく、メーカーの起債も見られ、更には、新顔の発行体も加わって起債ラッシュに近い状態となることも珍しくない時期である。今年は敬老の日が9月20日の月曜日とやや遅めになるため、ギリギリで9月17日の金曜日まで募集が行われるそうなカレンダーの並びである。

8月23日の週に債券を募集した発行体は、それまでの財投機関等主体と打って変わって、民間の事業会社が中心になった。業種としては、鉄道、メーカー、電力、サービス、ノンバンク、高速道路といったところである。年限も、3年債から通常の35年債まで様々であり、DNG森精機の劣後債は5年経過以降に期限前償還されなければ永久債である。格付けも幅が広く、もっとも高いのはR&IでAA+格およびJCRでAAA格の西日本高速道路であり、もっとも低いのはR&IでBBB格のタケエイである。DNG森精機の永久劣後債もR&Iから同じくBBB格を取得しているが、劣後債とシニア債では格付けの意味するところが若干異なる。利回りに目を転じると、オーバーパー発行で0%利回りとなったのが京成電鉄とオリエンタルランドの3年債および西日本高速道路の2年債であり、もっとも高いクーポンを付されたのがJR東海35年債の0.897%であり、それに次ぐのが東京電力パワーグリッドの15年債0.88%であった。DNG森精機の永久劣後債の当初5年は0.9%クーポンであり、期限前償還を前提にすると、実質5年債の0.9%クーポンで最も高いと評価できる。

このように、DMG森精機の永久劣後債が、格付けの面でも利回りの面でも、際立った水準であるが、期限前償還されない場合には、永久債となってしまうリスクがある。5年経過後のクーポンは、1年物国債利回り+2.015%の変動になる仕組みであり、1年物国債の利回りが大きくマイナスに沈んだ場合には、発行体に期限前償還しないインセンティブが生じる可能性もある。事業会社の発行した劣後債が投資家の期待通りにファーストコールされるかどうかは、もう少し実例の蓄積を待った方が良いだろう。あくまでも発行体によるオプション行使の有無であり、行使しないことが資本市場において容認されるかどうか、仕組みの吟味、格付会社の資本性評価と、参加者の受取り方によって大きく左右されるだろう。

年限と利回り、格付けを総合的に考えると、8月にR&Iが格上げと評価した東京電力パワーグリッドの10年債0.68%や15年債0.88%が魅力的に映る。しかし、温室効果ガスの排出に対する世界的な抑制が進む中で、長期や超長期の与信がどう評価されるかは不透明感が拭えない。それが利回りの高さの源の一つである。一般担保付という特性は電気事業法の附則に落とされており、当面は、かつて見られた強い信用力サポートの効果があると思われるが、附則が修正されなくても経済産業大臣による認定を失うことで、将来の電力債が持つ信用力に影響が生じる可能性がある。枠組みが変わらなければ、格付け対比で魅力的な利回りが得られるのが電力債であるが、劣後債の期限前償還と同様に、先行きの不透明感がその根底にあることを忘れてはならないだろう。

国内起債市場を斬る グリーンボンド特別号:東京電力リニューアブルパワーの起債へ

旧盆休みが明けたばかりの起債市場では、引続き起債観測が幾つか上がって来るものの、具体的な条件決定から募集に至った案件は財投機関債のみで、20日に募集された鉄道建設・運輸施設整備支援機構の5年債および20年債各100億円と、日本学生支援機構の2年債300億円のみであった。前者の鉄道建設・運輸施設整備支援機構はいずれもサステナビリティボンドの認証を得ており、後者の日本学生支援機構はソーシャルボンドとしての募集である。どちらの発行体も以前の起債から、これらSDGs債としての認定を取得して債券を募集しており、各機構の業務内容を考えても、認定を受けることに違和感がない。結果として、クーポンは低水準であり、日本学生支援機構の2年債はオーバーパー発行で利回りは0%である。それでも投資家の超過需要が集まるのであるから、財投機関の公益性とSDGs債という認定の効果は侮れない。特に、3年の高格付け社債での0%利回りを見慣れると、2年の財投機関債の0%利回りは十分な割安に見えてしまう。また、同年限の国債と見比べても割安に見える。

民間企業による社債募集に向けた動きが様々に見られる中で、一つの新しい発行体の動きを取上げたい。発行体の名称は、東京電力リニューアブルパワーである。先週の当MDWで取上げた東京電力グループ3社の中の一つであり、8月5日にR&Iの格付けがBBB+格からA-格に評価を引き上げられたばかりの発行体である。18日に公表された起債の見込みは3年債100億円であり、東京電力グループ初のグリーンボンド認定を受けての発行が予定されている。グリーンボンドとしての認定は、ICMA(International Capital Market Association:国際資本市場協会)のグリーンボンド原則2021と環境省のグリーンボンドガイドライン2020年版に基づいており、DNV(Det Norske Veritas group)ビジネス・アシュアランス・ジャパンによって適格性を確認されたことが発表されている。DNVビジネス・アシュアランス・ジャパンは神戸に日本地区本部を置く”全世界80認定のもと、88,000件以上のマネジメントシステム認証および製品認証を有する第三者機関”である。

東京電力リニューアブルパワーは、東京電力グループの中で再生可能エネルギーによる発電事業を展開する子会社であり、カバーしているのは、水力発電163か所約987万kw、風力発電2か所約2万kw、太陽光発電3か所約3万kwである。地熱発電を持ってないか調べると、八丈島に建設した地熱発電所を閉鎖したため、現在は保有していない。日本は火山国であり地熱エネルギーは豊富に存在するのだが、国立公園等観光資源化されているものが多く、地熱発電所を建設することは容易でない。いわゆる東京電力管内(現在は電力小売りの自由化によって、以前のような管轄エリアの概念は適合しない)では、那須や伊豆に民間や地方自治体の建設した小規模な発電施設が存在するのみである。他の地域であれば、東北電力と九州電力が複数の地熱発電施設を有しており、北海道電力も森地熱発電所を有しており、再生可能エネルギー利用拡大の観点からは、更なる活用が期待される。

この発行体は、古典的な水力発電と、風力発電および太陽光発電と再生可能エネルギー活用の発電事業に特化し、原子力発電を含まないのであるから、グリーンボンドの発行体としての適格性は容易に想像できるところである。ノンバンク等のファイナンスによる迂回的なグリーンボンドではなく、再生可能エネルギーによる発電事業という直接的なグリーンボンドであり、投資家も購入判断が容易であると思われる。また、東京電力パワーグリッドの既存債券を参考にできることから、価格の適正評価も行い易いことだろう。前回に取り上げた東京電力リニューアブルパワーを含む東京電力グループ3社の格上げは、この東京電力リニューアブルパワーによるグリーンボンドの発行を視野に入れていたと考えるのは穿った見方だろうか。あくまでも結果論として考えておこう。

国内起債市場を斬る 東京2020特別号:東京電力Gの格上げで考える

旧盆の休みを挟む時期では、民間企業の社債は今月下旬からの募集に備えた準備が主になり、実際の債券募集に動く発行体としては、引続き公的セクターに限られる。募集された地方公共団体金融機構の10年債は、前月の0.09%を上回ったものの、クーポンは0.1%でしかない。理論的に、機構の信用力は、地方公共団体の中でもっとも信用力の高いものとリンクする構造にあるが、前回触れたように、新型コロナウイルス感染症蔓延に対応した給付金等支出と税収の減少、加えて東京オリンピックの巨額に上る赤字負担で東京都の財政状況は大きく悪化している。その影響は、結局、地方公共団体金融機構の信用力にも及ぶ。何しろ最終的な局面に至った際に、日本政府の支援を法律的に期待できない仕組みとなっていることを忘れてはならない。長引くコロナの影響を考えると、中長期的な信用力悪化の影響は国債、地方債、社債等様々な箇所で見られるようになる可能性がある。

結局のところ地方公共団体の信用力は日本政府の信用力に支えられる構造にあるが、同様に政府に支えられると考えることの出来る民間企業に対する評価に、今月に入って変更があった。具体的には、R&Iによる東電グループ3社に対する格上げである。3社の格付けは同水準であり、2017年以降の社債発行体は東京電力パワーグリッド(以下、PG)である。8/5に公表された格上げは、BBB+格からA-格への引き上げであった。複数の格付会社から異なる水準の格付けを見る場合に、保守的にもっとも低い水準の符号を見る投資家にとっては、Aゾーンへの格上げであり、発行体に対する評価の変わる可能性がある。海外系の格付会社の東京電力ホールディングスに対する発行体評価は、S&PがBB+格であり、ムーディースはBaa3格とまだ低い水準にあるが、海外系の格付会社と国内2社の評価を同水準のものとして考える投資家は、まず、存在しないだろう。海外系の格付会社による格付けは、金融機関や総合商社を除くと極めて少ない対象にしか格付けを付与されておらず、同列に扱うことはバランスを不当に失するものと見られるからである。

代表的な債券市場インデックスであるNOMURA BPI総合への銘柄組入基準はA-格以上であるが、元々JCRのA格として算入されていたため、今回の格上げは直接影響しない。しかし、BBBゾーンからAゾーンと添え字でなく符号が変化したことは、象徴的な意味も大きい。そもそも、東日本大震災と福島第一原発の事故を経て政府による支援が実施され、今後もコミットが無くなるものとは考え難いからである。決して日本国債と同等の格付けであるべきとは思わないが、これまでの評価が低過ぎたのではなかろうか。R&Iによる今回の格上げの理由を、同社のプレスリリースから抜粋すると、『今回の格上げは、原発事故処理のために用意された各種の枠組みが今後も十分に機能し続け、東電グループの財務リスクが低減すると判断したことが主な理由だ』である。果たして、東日本大震災から約10年半が経過した今夏に格付けを変更する理由として十分なものと考えられるだろうか。格付けは必ずしも数量的な分析だけに基づくものではなく、継続的に対象企業と業界を観察するアナリストの判断を加えたものであると考えられる。しかし、このように、必ずしも十分な説明とは思えない変更理由を提示されると、以前の評価が誤っていたと認めることに等しいのではないか。格上げを嫌う投資家も発行体も存在しないと思われるが、格付会社は自分の判断について利用者が十分に納得できるような説明を対外的に行うべきであろう。

国内起債市場を斬る 夏季特別号:東京オリンピックが終わって

東京オリンピックは、概ね大過なく終了したと言って良いだろう。あれだけ開催の延期や反対を訴えていた世論も、選手に対する誹謗中傷を浴びせたー方々も、結局熱戦やメダル獲得に一喜一憂し、開閉会式や決勝種目等の視聴率は良好であった。逆に、オリンピック終了後の反動として新型コロナウイルス感染症の蔓延が懸念される状況にあるし、政権への批判も再度盛り上がる可能性が高い。また、当初計画のコンパクトなオリンピック開催とはならず、国立競技場の建て直しをはじめ、少なからずの新規施設の建設が行われてしまっている。オリンピックの終了が債券市場に与える影響を考えてみたい。

おそらく民間企業のクレジットという意味においては、好悪双方の材料は少ないと思われる。海外からの選手団にコンビニやアイスクリーム等の食料品が高い評価を得たと報道されているが、国内では日常のことである。金メダルに噛みつくという愚行を謝罪に来た名古屋市長を毅然と門前払いしたトヨタ自動車も、地域経済の中心を担うトップ企業だからのことであって、信用力に対する大きな懸念とはならない。なお、今回のオリンピック期間中にスポンサーでありながら、オリンピック関連のCMを展開しなかった同社は、準備していたはずのCMの製作費という意味ではロスが生じているものの、経営に影響が及ぶような金額ではないだろう。結果的には、CMを活用しても企業イメージの低下するようなことはなかっただろうが、それは結果論である。
そんな中で、SNSでも話題になっていたのが、東京2020のワールドワイドパートナーである同社の電気自動車「TOYOTA Concept-愛i」であった。同車は、2017年モーターショーで既に一般公開されていたが、女子マラソン、男子マラソンの先導車両を務めたことは、イメージ向上効果は絶大だったようだ。

一方、オリンピック(および月内に開会するパラリンピック)によって長期間に悪影響が生じると思われるのが、公的セクターの財政状況である。施設建設の費用のみならず、運営費用に関して、結局、ほとんどの競技が無観客となったため、900億円程度と言われる入場料収入が見込めない(正確に言えば、これから払戻しでキャッシュアウトが生じる)。当初想定より費用は大きく増加しており、東京都及び関連地方公共団体と日本政府の負担規模は、1兆円程度になるという報道も見られる。平時であれば、時間を要するものの、吸収できる負担であるはずだが、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けている現状では、様相が異なる。潤沢と言われた東京都の財政状況も、新型コロナ対策で大きく財政調整基金等を取り崩している。川崎市が2021年度から地方交付税の交付団体になったことが報道されているように、コロナの影響は徐々に地方公共団体の財政状況を蝕んでおり、特に東京都は、オリンピックの負担次第では、財政状況が大きく悪化する可能性がある。

結局のところ、日本の地方公共団体の財政は政府の保障する制度下にあり、東京都の財政状況が大きく悪化した場合、東京都債のスプレッドが多少拡大することになっても、デフォルトする懸念はない。財政破綻したと言われる北海道夕張市でも、過去に同様の財政再建団体の指定を受けた多くの地方公共団体においても、公募や私募の証券形態の地方債が償還されなかったことはない(公募地方債の発行団体が財政再建団体に指定された例はない)。利払負担を軽減するために早期償還させたくらいである。東京都の財政への影響がいかほどの物かは、パラリンピックの終了後に明らかになると思われるが、新型コロナの影響は、まだまだ継続しそうな状態である。既に京都市等財政状態を懸念される地方公共団体が見られはじめており、オリンピック等が財政に与える影響は軽微なものに過ぎない可能性がある。しかし、結局のところ、最後に地方公共団体の財政について面倒を見るのは、日本政府である。オリンピックとコロナの影響で、どれだけ日本の財政が悪化するのか、注目すべきは地方債より日本国債のスプレッドなのである。