国内起債市場を斬る 起債評価:9/7~9/11

2020年度上期末の起債ラッシュは、11日(金)がピークであったと言うことになるだろう。既に8日の火曜日以降、条件決定を迎える銘柄は多く、公共セクターにグリーンボンドや劣後債といったテーマ型の起債も含め、「百花繚乱」と言ったところだろう。

この週の起債の一つの特徴は、鉄道銘柄だろう。まず、8日にJR東海が3年債1,000億円を募集している。定番の3年債で金額を稼ぐというところであるが、リニア新幹線の建設難航や南海トラフ等の震災懸念を考えると、3年という短めの起債が適しているのかもしれない。つづいて、京阪ホールディングスが3年債と5年債及び10年債を各100億円募集している。関西の私鉄の中では、イメージ負けしている発行体であるが、現在の本線運行の両端駅を見ても出町柳(1925年開業)や中之島(旧玉江橋駅)といった昔と異なる駅名が見られるように、路線の拡大と変化が見られ、七条京阪とJR京都駅の間にシャトルバスを運行するなど、経営努力を怠っていない。中韓等アジア圏からの旅客にあまり依存していたとは思えないこともあって、堅実な経営を続けてもらいたいものである。横浜高速鉄道は10年債を80億円募集している。いわゆるMM21線の運営会社であり、東急東横線が乗り入れる横浜駅から元町・中華街駅までの路線である。基本的に東横線と一体運営されているために、乗り入れているという感覚は乏しい。同社はみなとみらい線の他に、こどもの国線も保有している。最後に、登場するのが東京地下鉄である。最近のJRやガスの起債でしばしば見られる10年刻みの複数年限募集であり、今回は10年債・30年債・40年債・50年債が各100億円募集された。超長期の安定した経営が期待できる公共セクターでは、こういった起債運営も悪くないだろう。

相変わらずグリーンボンドやソーシャルボンドとして投資家を誘引する起債も少なからず見られるが、今週のもう一つの特徴としては、レア物の続出を挙げておきたい。いわゆるフリークエントイシュアーではなく、稀にしか募集しない社債発行体が複数見られたのである。朝日放送グループホールディングスは第2回7年債50億円を募集している。センコーグループホールディングスは第5回5年債(グリーンボンド)及び第6回10年債を各100億円募集している。キッツは第5回10年債100億円を募集し、ニッコンホールディングスは第8回4年債及び第9回10年債を各100億円募集している。ここまでの銘柄は、格付けが国内会社のA-格からA格といった水準である。R&IからAA格を取得しているきたい花王の第6回5年債250億円も珍しいと言って良いだろう。案件が多く募集される時は、フリークエントイシュアーは投資家に良く知られていて有利な面もあるが、起債頻度の多さに敬遠される可能性もあって、こうしたレア物こそが注目を集めることも期待できる。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/31~9/4

いよいよ上期末の起債ラッシュを迎える。特に、金曜日となった9月4日に募集が集中するのは近年の顕著な傾向であり、市場関係者の大変さは想像に難くないが、上期を計画通りに消化しようとする努力が、発行体からも投資家からも引受証券からも伝わって来る。この2週間強のラッシュ期間を過ぎれば、短いながら閑散期となるはずである。

この週の起債の特徴を幾つか挙げてみよう。まずは、銀行セクターの起債である。あおぞら銀行の3年債、三井住友フィナンシャルグループの永久劣後債と、短期と超長期の両極が募集されている。もっとも永久劣後債は、10年4か月経過時の期限前償還が可能である。歴史的には、日本の銀行持株会社が国内発行した劣後債で、期限前償還しなかった例はない。実質的に10年4か月債と見ても良く、当初10年4か月のクーポンは1.109%と高い水準である。万一期限前償還されなくても、5年国債利回り+105bpsの変動利付クーポンは十分に魅力的と映る。よもやメガバンクの一角が期限前償還をスキップしたり、劣後事由に該当するような事態は生じないと期待されるのであるが。

次は、やはり電力及びガスの公益セクターによる社債だろう。北海道電力の3年債と25年債、中部電力の10年債、中国電力の20年債、北陸電力の10年債に15年債といった多くの電力債に加えて、東京ガスが10年債・30年債・40年債・50年債で計400億円を募集し、大阪ガスは60年劣後債を期限前償還可能期の異なる2本で計750億円募集している。電気もガスも小売りの自由化がされているとは言え、日常生活に欠かせないインフラのプロバイダーであって、いずれも長期的な事業の安定性は高いものと期待される。

劣後債という意味では、他に、大日本住友製薬も30年で期限前償還が7年と10年でかのうになる債券を、各600億円募集している。劣後債の格付けはBBB+(R&I)格であり、必ずしも高水準ではないが、当初のクーポンは1.39%ないし1.55%と魅力的な利率になっている。BBB+格の通常の長期債に投資するかと尋ねられれば、鉄道とか安定業種ならば考えるといったところだろう。変動の大きな製薬で期限前償還ですら7年や10年といった期間が設定されており、ましてや30年債となった場合にはどうであろうか。

その他に目立つのは、芙蓉総合リース、ホンダファイナンス、住友三井オートサービスといったノンバンクによる社債、また、戸田建設、清水建設、前田建設工業といった建設会社による起債も相次いでいる。戸田建設の10年債はグリーンボンドであり、他にも、都市再生機構の20年債・30年債・40年債がソーシャルボンドとなっている。なお、ホンダファイナンスと住友三井オートサービスは、両社とも3年債及び5年債を募集しており、5年債のみがいずれもグリーンボンドの認定を受けている。金に色が付けられず厳密な区分が出来ない以上、ノンバンクの起債で一部だけグリーンボンドというのは、眉唾物と考えて良いだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/24~8/28

上期の起債募集は例年9月の中旬までであり、もう残り一か月を切っている。まだ起債ラッシュという感じではなかいが、徐々に盛り上がりが見えはじめている。この週に最初に募集されたのは、奇しくも鉄道関連からであった。名古屋鉄道の3年債200億円は、日銀オペ見合いと考えれば、実態を伴ったものではないかもしれない。しかし、同日に京成電鉄が募集したのは、3年債100億円以外に、10年債100億円と20年債100億円である。鉄道事業の時間軸から考えると、JR東日本や西日本で見られるような10年刻みの超長期債というのが馴染むものの、純粋の民間鉄道会社の場合には、周辺の経済情勢と見通しを考えた場合に、必ずしも30年や40年といった超長期の与信に躊躇させられることもある。京成電鉄の場合には、東京東部から千葉方面の安定した運送を担う一方、成田国際空港へのアクセス提供者でもある、前者には根強い需要があると考えられるが、後者に関しては今回の新型コロナウイルス感染症の拡大で脆弱な需要に則ったものであることが露呈した。特効薬やワクチンの開発によってある程度の国際線需要は戻ると期待されるものの、以前のようには戻らないと想定されるし、より都心に近い羽田空港の増便を考慮すると、LCC依存を高めた成田空港の将来は決して明るくない。結果として、京成電鉄の超長期債には、一抹の不安が残ると言わざるを得ない。その後、近鉄グループホールディングスも3年債と5年債の中期債を募集しており、鉄道関連だけで計800億円の起債となる。

次に動いたのが、銀行持株会社の劣後債である。と言っても、メガバンクではないし、事業会社の劣後債は9月に入ってから複数の動きが予定されているようだ。募集されたのは、三井住友トラストホールディングスと地銀の雄であるコンコルディアホールディングスの期限付き10年劣後債である。いずれも5年で期限前償還が可能となる伝統的な形であるが、変動利付となった後のステップアップ幅は大きくない。三井住友トラストホールディングスが条件決定した計400億円のうち300億円は個人投資家向けである。よもや金融機関の債券が個人投資家に実損を及ぼすことはないと期待されるのであるが、果たして5年後時点での未来像はどうだろうか。金利水準に変化がなければ、5年ものスワップレート+0.45%という変動金利は十分に魅力的であり、個人投資家は期限前償還しない方が良いと感じるだろう。

最後に、レノバとプレミアムウォーターホールディングスの二社が初の公募普通社債を募集している。格付けは前者がJCRのBBB格で、後者がR&IのBBB-格である。いわば、投資適格ギリギリの初顔と言って良いだろう。その結果、前者の5年債が1%クーポン、7年債が1.39%クーポン、後者の3年債が1.8%クーポンと他の銘柄であれば見ることのできないような高利回り債券となっている。募集金額も50億円から70億円と小額であるが、慣れない投資家にはなかなか受け入れ難い銘柄だったのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/17~8/21

起債市場は旧盆の休みを越えたものの、まだ募集される債券は公的セクターが主体である。しかし、上期末に向けた民間企業の起債準備も徐々に進んでいるようだ。特に、劣後債やグリーンボンド等SDGs債の募集を準備しているという話は少なからず伝わって来ている。通常の一般的な優先債と異なる特性を持つために、ニュースのネタになり易いために報道されることは多くなるのであるが、発行体の裾野拡大と同時に投資対象の多様化という意味では評価して良いだろう。

しかし、いずれにせよ通常の一般優先債と異なる証券特性を有していることに十分留意した上で評価を行い、投資判断を行うことが必要である。特に、劣後債で期限前償還可能タイミングに償還されず変動利付債となった場合、ユーロ円ライボー連動となるようなスキームの場合には、ライボーの後継指標金利の行く末を意識する必要がある。それでなくとも優先債の証券情報・発行要項よりも複雑な債券の内容を確認するのには、骨が折れる。それでも、十分な吟味が必要であることを忘れてはならない。

民間企業の社債としては、西日本旅客鉄道が5本立て計1,100億円という大型の募集を行っている。最近の同社及びJR東日本等で見られる年限選定の形であるが、今回は10年刻みの複数年限のみを募集するという形式である。今回選択されたのは、10年債・20年債・30年債・40年債に50年債という組み合わせで、40年債のみ300億円であるが、他は200億円ずつの募集とされた。JRの安定した経営基盤に対する評価はあるものの、近年の地震や豪雨災害等による被害もあって、必ずしも順風満帆な経営状態ではない。一方で、JR東海のようにリニア新幹線の建設負担といった重荷もないことから、R&IによるAA格という評価は妥当であろう。10年刻みの年限設定は、50年債こそ同年限の参照国債が存在しないものの、それ以外は国債発行年限と一致させており、国債対比の評価は難しくない。

難しいのは、数十年に渡る同社の経営環境に対する見通しか。鉄道事業そのものが陳腐化してしまう可能性や、人口の減少による運営コストの高止まり等懸念材料は少なからず存在する。一方で、同社が破綻するような運賃設定は国土交通省の認可を得られるはずもなく、地域住民の利便性確保とのバランスが要求されることになる。収益性が後回しになり経営状況の悪化した国鉄と同じ道を歩まないための民営化であり、上場企業に対してどこまで公益性を意識させるかという問題が常に付きまとう。果たして地方の赤字路線を何処まで切り捨てられるのか。株式未上場のJR北海道やJR四国の方が先行して収支の悪化が必至であるものの、それらをJR東日本やJR西日本に単純に統合して救済するようであれば、旧国鉄への先祖返りでしかなく、問題の先送りでしかない。日本の人口減少は、一部を除く地方から深刻になり、大都市圏にまで及ぶことは間違いなく、クレジット投資に当たっては償還までの十分に長い目線が求められるのである。

国内起債市場を斬る 夏季特別号:投資対象としての国立大学債

国債以外のいわゆる一般債を投資対象として考える際に、民間企業の発行する社債とそれ以外の公共セクターの債券に分けて考えることが一般的である。公共債と呼んでしまうと国債も含むため、公共セクターの債券と称してみたが、近いうちに新しい公共セクターの債券募集が行われる可能性がある。

公共セクターの債券が社債と大きく区別される点としては、まず、発行体が営利目的の法人であるかどうかであり、もう一つが倒産処理や政府等によるサポートの程度であろう。純粋な民間企業が発行体である社債であれば、企業は営利目的の法人であり、社債の募集は設備等の投資や債務の借り換え等が調達目的であり、相対的に機動性の低い社債で資金繰りを図ることは考え難い。社債の発行企業が破綻した場合には、多くは民事再生や会社更生等の手続きを経ることになるが、金融機関や一部の運送会社、電力会社等に対しては破綻前から後に公的サポートの行われる可能性が高い。破綻処理が行われた場合に国民生活に及ぼす影響の大きさや、料金や事業に対しての認可等公的関与の大きさによって、公的サポートの要否が判断されるのが過去の事例である。単純な破綻処理が行われない企業の社債には、少なからず公共性があると考えることが出来る。

一方、営利を目的としない公共セクターの発行する債券は、社債ですらない可能性が高いし、事業の継続が困難となったとしても単純な破綻処理となる可能性は高くない。むしろ公的サポートが行われ、法人に対する支援や統合によって債務を守る可能性が高い。そもそもが営利を目的としない発行体が債券を募集するということは、損益に基づく事業判断には関係ないし、資金繰りで返済が困難に陥ることは想定されないのである。

今年度中にも債券の募集が予定される国立大学法人債の位置づけを考えると、発行体は非営利法人であり、教職員が準公務員的存在とされるなど、公的性格が強い。収益性の追求は求められないために、むしろ公的サポートの程度を予想することが債券の償還可能性を左右するものと考えられる。国立大学法人の場合には、文部科学省の管轄下にあって営利を追求せず、官僚になるかどうかを問わない学生の教育、必ずしも営利を目的としない研究、様々な政策検討場面への支援を行っている。十分に公共性が高い。財投機関債を募集する独立行政法人の一部には、営利性を伴う事業を営む法人もあるが、公共的役割や公的サポートから市場で違和感もなく受け入れられており、国立大学法人債も同様に受け入れられるだろう。

国立大学法人債の信用力としては、既に格付けの取得が発表されている東京大学の場合には、R&IのAA+格及びJCRのAAA格と日本国債と同じ符号が付されている。近年は大学法人や学校法人の合併、買収も見られていることから、債券の破綻処理が行われる可能性は低いと考えて良いだろう。他の国立大学法人についても、債券の募集を追随するかもしれない。更なる将来を考えると、民間の学校法人が債券を募集することはあるだろうか。在校生の保護者等に対する「学債」の募集は既に見られているが、関係者以外の一般投資家への募集はどうだろう。これまでの私立学校法人による格付けの取得は、資金調達目的というよりも、学校法人のステータス、財務的な安定性を示す指標として使われて来た。少子高齢化が進み学生数の減少が懸念される中で、学校法人による格付けの取得や債券の募集による資金調達が拡大するかもしれない。今後の市場拡大に注目してみたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/3~8/7

8月に入ると、起債市場はますます夏休みモードが濃くなる。今年度は新型コロナウイルス感染症を回避する観点から遠出はできないものの、テレワーク等勤務形態が従来と異なる企業が多い。社債の引受けを行う証券会社においても、直接の接客を行わない間接部門ではテレワークが多くなっており、投資家や発行体と接する営業部門も、対する相手がテレワークだと接触手段はTEAMS(ZOOM)や電話がメインになる。どんなにIT技術が進歩しても、重要な状況での対面が重要であると考える相手は少なくない。よほどのIT企業でない限り、完全にリモートでの社債募集はできないのではないか。古い意識だと思われるかもしれないが、市場参加者のほとんどが変わらなければ、ネットで社債発行のすべてが完結することは望み難いだろう。とは言うものの、小職の長野の田舎の隣は長い間、駐車場付きの飲食店だったのが、いつの間にか賃貸型テレワーク・オフィスに変わっていた。某企業が、居抜きで契約した様で得ある。社員も、全員東京から転居したのであろうか。対面ビジネスの変化は、身近でも起こっている。

この週に募集されたのは、民間企業の社債も公的セクターも少しずつといったところであった。民間企業では、三井住友ファイナンス&リースが3年債及び10年債計250億円を募集し、日鉄興和不動産が5年債及び10年債を計100億円募集している。JCRの格付けで見ると、前者がAA格で後者がA-格と大きな差がある。その結果、10年債のクーポンを比較してみると、三井住友ファイナンス&リースの0.39%に対し、日鉄興和不動産は0.74%と35bpsの差になっている。三井住友ファイナンス&リースが三井住友フィナンシャルグループの中核ノンバンクであるのに対し、日鉄興和不動産は日本製鉄系の不動産会社である。グループの中核企業が有する事業の安定感に加えて、ノンバンクよりも不動産に対する懸念が強いこともあろう。新型コロナウイルス感染症の影響によってテレワーク等働き方の変化が進み、今後のオフィス需要がどうなるか注目を集めている。住宅需要に関しても、遠距離通勤に対する考え方の変化が生じつつあり、先行きの方向性が不透明である。新型コロナウイルスが信用力に与える影響は長期間に及ぶ可能性が高く、慎重に評価する必要がありそうだ。

一方、公共セクターでは、地方公共団体金融機構が30年債100億円を募集し、住宅金融支援機構が5年債500億円・10年債200億円・40年債100億円の計800億円を募集している。新型コロナウイルス感染症の影響が沈静化しない中では、民間企業だと業種によって信用懸念が残るもの、公共セクターに対する信頼感は逆に強いと考えられる。例えば、民間不動産会社の信用懸念を意識するものの、逆に、住宅金融支援機構に期待される役割は大きい。地方公共団体金融機構についても、政府の財政状況が厳しい中で、地方公共団体が独自の感染症対策を打ち出すためには、重要なファイナンス主体となっている。公共セクターの信用力が高まっているというよりも、民間企業の信用力が相対的に下がっていると考えるべきだろうか。海外の状況を見ても、日本の企業が新型コロナウイルス感染症の影響から脱したと見ることはできないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/27~7/31

この週は、ついに民間企業による公募普通社債の募集を見ることができなかった。公共機関の中では、埼玉県が25年債(0.522%クーポン150億円)を条件決定し、その他に西日本高速道路による5年債(0.07%クーポン800億円)、日本政策金融公庫による2年債(0.001%クーポン1,100億円)及び4年債(0.01%クーポン800億円)の募集が見られた。

埼玉県債の25年というのは、地方債としては募集されることが決して多くない年限である。国債も地方債も募集される年限の基本が10年債というのは同様なのであるが、マイナス金利環境下では、10年債より短い年限であると国債の利回りがマイナスになっているため、国債対比スプレッドが大きくなってしまう。その結果、中期債の募集は地方公共団体には、あまり好まれない。一方で、投資家も利回りを求めるニーズを有しており、年限の長期化で需給が合致する。地方債の場合には、国債のような発行年限の制約は厳しくないため、15年債や25年債、更には定時償還債といった各種の債券募集が見られる。定時償還は歴史的には古い地方債に多く見られ、一時期は満期一括償還ばかりとなっていたが、投資家が適切にキャッシュフローを評価できるようになって、再び脚光を浴びるようになったものである。

西日本高速道路の発行する債券は、前年度までは厳密な意味での財投機関債ではなかった。財政投融資計画に付属する財投機関債の発行計画に記載されていなかったのである。ところが、令和2年度の財投機関債の発行予定には、当初の段階から西日本高速道路の4,200億円が明記されている(中日本の他に東日本及び西日本高速道路の計3社の発行する債券が財投機関債の予定に含まれている)。元来、日本高速道路保有・債務返済機構による重畳的引受条項や併存的債務引受条項の存在によって、実質的に財投機関債発行体である同機構の債務と同様のものとみなされており、債券の区分が変化しても必ずしも信用力に影響はないと考えられる。それでも、財政投融資計画に明記されたことで、より安全性が高まったと考えて良いのかもしれない。

日本政策金融公庫は、政府系金融機関の特性からも、経済的な困難時には民間からの依存度が高まるため、国民一般向けの融資事業用に募集された2年債は1,100億円と巨額であり、中小企業向け融資証券化の支援保証用の4年債も800億円の募集となった。新型コロナウイルス感染症によって中小企業等が資金繰りに苦しむ中では、政策金融機関が機能を発揮する機会もあると考えられ、合計1,900億円の起債も必要なものと見ることが出来よう。

昨年度の起債市場の実績を見ると、8月前半は公的セクターによる起債のみしか見られない。当面、同様の展開が続くものと考えておくしかない。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/20~7/24

本来なら東京オリンピックが開会を迎えたはずの週である。開会スケジュールに合わせて祝日を移動させたため、23日木曜からの四連休となった。オリンピックが延期されたからと言って、移動させた祝日を元に戻すわけには行かず、結局、来年もオリンピックを開催できるかどうかわからない状態で再び祝日を移動させることとなる。本来は1964年の東京オリンピック開会式の日であった「体育の日」は、「スポーツの日」と名を変えてしまっており、このまま7月に定着してしまうのではないか。出自がオリンピックにあることから、スケジュールに合わせ数日ずらしただけの海の日や山の日とは、大きく意味合いが異なる。そもそも過酷な東京の夏にオリンピックを開催しようという計画に誤りがあることは、1964年のオリンピックが10月開催だったことからも明らかであろう。新型コロナウイルス感染症が来年夏には落ち着いていることを、ひたすら祈るばかりである。

営業日が三日しかない中でも、起債市場は整斉(せいせい)と動いていた。コロナの蔓延に対する警戒から夏休みの予定が立たない中で、報道される感染者数の増加傾向を意識すると、再び警戒宣言が発出される前に、起債してしまおうという意識も根底にあるだろう。いずれにせよ、例年では、8月上旬がギリギリの起債タイミングというスケジュールである。

本数を稼いだのは、引続き、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債である。新型コロナ対応による地方公共団体の歳出増加もあり、構造的には、機構による年間調達額は増加される可能性が高い。21日と22日の二日間で、計10本総額765億円が募集されており、金額面でも決して小さくない。

金額面では、まず、ソフトバンクの3年債・5年債・10年債の3本立てである。3年債を100億円と抑えたものの、5年債700億円と10年債200億円で計1,000億円を調達している。持株会社のような果敢な投資活動による財務的な不安定性はなく、通信会社という事業基盤の構造的な安定性は評価される。しかし、持株会社の国内外における積極的な投資活動によって、間接的に影響を受ける可能性があることは、子会社であるソフトバンクの弱点かもしれない。

金額を稼いだもう一つが、東京センチュリーの劣後債である。いずれも60年債であるが、早期償還が5年で可能なものを1,000億円、10年で可能なものを300億円募集している。ノンバンクの劣後債に関しては、銀行や保険・証券と異なり、金融庁による早期償還に対する強い指導は期待し難いため、事業会社の劣後債と同様のノンコールリスクを検討する必要がある。決して単純な5年債や10年債と評価してはならない。東京センチュリーの場合には、リース等ノンバンク業界の将来性に加えて、みずほフィナンシャルグループとの距離感を考慮するべきだろう。元々は第一勧業銀行との関係が密であった。旧興銀リースであるみずほリースとの併存は難しく、東京センチュリーはNTTの出資を受入れているが、果たしてNTTファイナンスとのすみわけが出来るのか、一寸先はわからない。両巨大企業グループの狭間に落ち込んでしまわないだろうか。最大60年間の与信判断は、決して容易ではない。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/13~7/17

起債ラッシュは長続きしなかった。最大の要因は、日銀による金融緩和の意図が固く金利の先高感が感じられないことだろう。この7月に資金調達しなくても、上期中にでもまだ十分に機会があるだろうと思える。新型コロナウイルスの感染者数が再び増加し、感染第二波の到来が懸念されるものの、重症者数や死亡者数の増加率は鈍い。PCR検査数の増加や若年層の感染などが背景にあるものと考えられ、そのためGo Toキャンペーンによる旅行業への需要促進やイベント等の入場拡大が検討され、4月のような緊急事態宣言による自粛へと向かう状況にはない。こうした景気実感も、慌てて起債しようとする発行体の行動を引き留めているものと思われる。

実際に起債された顔触れを見わたすと、本数で上げれば、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく6本が、金額で上げると、みずほフィナンシャルグループの永久劣後債計2,070億円が、目立った両巨頭ということになろう。しかし、起債として注目すべきは、日産自動車とTDKによる起債だろう。金曜日に募集されたTDKの社債は、5年債300億円・7年債300億円・10年債400億円の計1,000億円で、極めてオーソドックスな年限設定である。かつてはカセットテープ等記録メディアのメーカーとして、一般消費者にも知られる会社であったが、現在はハードディスクドライブのヘッドやフェライト等電子部品のメーカーとして認識すべきであろう。そもそもがフェライト関連の製造を目的に起業されたメーカーであり、今回の起債も第5回債から第7回債と希少価値が高い。これまで事業内容を変化させ生き残って来た企業であり、投資対象として検討するのは面白い。なお、格付けはR&IのA+格を取得している。

一方、木曜日に募集された日産自動車は1.5年債290億円・3年債300億円・5年債110億円と計700億円であったが、クーポンを見ると、1.5年債で1%、3年債で1.4%、5年債で1.9%と随分と高いクーポンが付されている。背景としては、新型コロナ感染症の影響を受けた自動車に対する需要の低迷と、日産自動車そのものに対する財務体力の懸念がある。格付けだけを見るとR&IのA格を取得しており、TDKの1ノッチ下でしかない。しかし、同じ5年債を見比べても、TDKの0.18%クーポンに対し、日産自動車は1.9%という高い水準である。倍率を計算すると、10倍以上という結果になってしまう。日産自動車の先行きをどのように懸念するかは、ルノー等海外のステークホルダーによる影響があるため、なかなか読み難い。そのために、ここまで大きなクーポン格差が付されたものと解されるが、クーポンが1%あると、何となく嬉しくなってしまうのが、高金利時代を知っている人間の性なのだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/6~7/10

7月第2週の金曜日は起債ラッシュになることは、ほぼ事前に予想はできていた。メディアも覚悟していたようで、いつもとは異なる多数の起債観測が事前に上がっていた。条件決定が集中することで苦労するのは発行体ではなく、引受証券と投資家なのである。もっとも、事前にマーケティングが終了していると、当日は値決めの儀式だけで済むだろう。以前のようにスプレッドプライシング方式でクーポンが決まるのであれば、参照国債の利回りを確認するだけの値決めだが、最近のマイナス利回り時代においては、想定されているクーポンの絶対水準で良いかどうかを確認する作業となる。日銀が金利水準をコントロールしている中では、それほど大きな金利変動がないことが期待できるため、絶対水準での値決めも決して難しくはないだろう。

10日の金曜日に条件決定された案件は、数えるだけでも膨大になる。まず、公的セクターからは、東日本高速道路が1年債100億円・5年債500億円・7年債200億円・10年債500億円の計1,300億円で、日本政策投資銀行が3年債300億円・5年債300億円・10年債350億円・50年債100億円の計1,050億円、住宅金融支援機構が5年債400億円・10年債200億円・20年債150億円の計750億円と、合計で3,100億円を募集している。

次に、鉄道関係では、阪急阪神ホールディングスが3年債200億円・5年債100億円・10年債200億円の計500億円、JR東日本が5年債200億円・10年債150億円・20年債100億円・30年債200億円・40年債200億円の計850億円、小田急電鉄が3年債600億円と合計で1,950億円を募集している。

電力・ガスでは、西部ガスは20年債100億円と小額であったが、東京電力パワーグリッドが5年債1,000億円・10年債1,200億円・15年債700億円の計2,900億円という圧巻の金額を募集している。募集年限の多さではJR東日本に負けるが、金額は3倍以上である。

ノンバンクでは、オリエントコーポレーションが2年7か月債100億円の他、5年債を機関投資家向けと個人投資家向けで各50億円を条件決定しているだけで、ソーシャルボンド認定を受けたことが目立つ。

もっとも多様であったのが、メーカーであろう。DIC(念のため旧社名:大日本インキ化学工業)の3年債200億円、セイコーエプソンの3年債100億円・5年債400億円・10年債200億円の計700億円、王子ホールディングスの5年債150億円・10年債150億円・20年債100億円の計400億円、小松製作所の3年債400億円・5年債100億円の計500億円、LIXILグループの3年債150億円・5年債250億円・10年債100億円の計500億円、タダノが5年債100億円、ダイドーグループホールディングスが5年債100億円・10年債100億円の計200億円、ENEOSホールディングスが同じく5年債100億円・10年債100億円の計200億円と、製造業の中でも様々な企業が社債を募集している。

更に、これらの分類に入らない企業としては、不動産の東京建物が5年債200億円・10年債200億円の計400億円をサステナビリティボンドとして募集し、情報・通信のコナミホールディングスが5年債・7年債・10年債を各200億円、建設業の日揮ホールディングスが3年債と5年債各100億円を募集している。

まさに壮観な起債ラッシュであったが、従来からの傾向である日銀オペ見合いの3年債及び5年債(オリエントコーポレーションの2年7か月債も含められる)が目立つとともに、利回り水準を求める投資家を意識した超長期の起債も、日本政策投資銀行の0.892%クーポン50年債やJR東日本の0.902%クーポン40年債に代表されるように目立っている。クーポンの絶対水準から言えば、東京電力パワーグリッドの1.08%クーポン10年債及び1.37%クーポン15年債が突出した水準である。

一部にコノタイミングでの起債を延期した発行体もあったように報じられているが、7月の起債ラッシュが今後もまだ続くのか注目しておきたい。