国内起債市場を斬る 起債評価:7/19~7/23

東京オリンピック開催に向けた祝日の変更によって週の営業日が3日に限られると、起債は多くなりようがない。しかも、休み明けの月曜日にいきなりは動きづらいため、結果として社債等の募集日は2日間に限られてしまう。それでも、この週に募集された社債等の本数が計12本と多くなったのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券募集が7本あったからである。四半期最初の月の中旬以降に、FLIPに基づく債券募集を行うのは同機構の定例であり、今回も8年債から19年債を募集している。8年債のみ200億円とまとまった金額であったが、それ以外は30億円もしくは40億円の募集であり、一般的な公募債の募集とは位置付けを異にする。もっとも同機構の信用力を最上位の地方公共団体と同等であると考えるならば、様々な年限の地方債を基に相対的な価値を評価することが可能であり、細かな年限の債券を募集してもプライシングに困ることは少ないだろう。

民間の社債で募集されたのは、Zホールディングス(2019年10月1日に持株会社体制に移行し当社の商号を「ヤフー株式会社」より社名変更)と日本郵船の2社によるものである。新興といっても古株ではある情報通信業と、岩崎弥太郎の時代に創業した海運業とでは、後者の創業年代が1885年であり、前者の1996年と両社は100年以上の差がある。一方、格付けを見ると、ZホールディングスがR&IのA+格及びJCRのAA-格であるのに対し、日本郵船はJCRのA-格と劣っている。創業年代の古さと信用力の高さは、決してリンクしない。もっともZホールディングスは東証1部に上場している持株会社であるものの、更に上位の持株会社Aホールディングスが存在しており、それがソフトバンクと韓国NAVERの合弁会社であるという複雑な資本提携関係となっている。単純な信用力の評価だけでなく上位構造の資本関係変化による影響が不可避であることも忘れてはならない。なお、Zホールディングスは、傘下に抱える主なネット関連事業を列挙しても、アスクル、PayPay銀行、イーブック、一休、GYAO、出前館、ZOZO、ヤフー等多様な業種が存在しており、情報通信業と考えるより一大コングロマリットと考えるべきであろう。募集したのは、5年債500億円・7年債200億円・10年債300億円と合計で1,000億円に上る。

一方、明治初期からある日本郵船が募集した5年債及び7年債各100億円は、トランジションボンドとしての適格性評価を得た日本初の公募普通社債である。トランジションボンドは、”企業の温室効果ガス排出削減に向けた長期的な移行(トランジション)戦略に則ったプロジェクトへの投資を使途とする債券”である。グリーンボンドが再生可能エネルギー関連の設備やファイナンスを意識し環境に配慮した債券とされるのに対し、トランジションボンドは重厚長大型産業や運輸業等の化石燃料を大量に利用する企業が、温室効果ガス排出削減に向かうためのファイナンス目的の債券とされる。考えようによっては、グリーンボンドの曖昧な境界線を部分的に明確化することで、発行企業の裾野を拡大することを可能にしたものとも考えられる。今後もトランジションボンドの発行が広まるのかどうか注視したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/12~7/16

2021年7月の起債市場は、東京オリンピック開催によるカレンダー変更の影響を受けている。四半期頭の起債市場では、そろそろ多様な業種の起債が見られ、一気に起債市場が盛り上がる時期なのだが、例年にはない4連休があり、都心部の交通規制等による物量及び人流への影響、無観客での競技開催の影響を世の中全般が受けており、盛り上がるだけの一方向でないオリンピック関連イベントを見ると、起債市場でもやや変質した雰囲気が醸し(かもし)出されている。この週に起債市場で社債を募集した業態も、複数のノンバンクが動いた他、商社や不動産、メーカーなどが出て来ているが、やや小粒の案件が多いイメージを受ける。

ノンバンクの起債を見ると、トヨタファイナンスの3年債200億円が利回り0%で募集され、東京センチュリーは7年債及び10年債各150億円を募集し、オリエントコーポレーションは2年7か月債と10年債各100億円を募集している。特に、グリーンファイナンス等の資金使途ではなく借換え等の対応が中心であって、あまり話題になるような材料が見られない。トヨタファイナンスの格付けは、R&IによるAAA格が日本国債より上であり、S&PによるA+格とムーディーズのよるA1格は日本国債と同水準である。投資家による支持は強く、オーバーパー発行で応募者利回りが0%となっても消化に支障はない。

強いてこの週の起債市場の特徴を挙げるならば、トヨタファイナンス債の高格付けと異なり、いわゆる投資適格の下限に近いBBB格ゾーンの社債募集が複数見られたことであろう。永谷園ホールディングスの5年債200億円は、JCRからBBB+格を取得している。もっとも、食品メーカーという業種特性から、健康問題に関連したヘッドラインリスクが現れない限り、信用力の安定が期待できる。一方、SBIホールディングスはR&IからBBB+格を取得して、3年債及び5年債各400億円を募集している。以前からネット経由で銀行や保険への進出を図り、複数の地銀と連携するなど業容の拡大に勤し(いそし)んでいて、今回の起債は募集金額も大きい。5年までの中期年限であれば業容に大きな変化はないものと期待されるが、知己金融機関を中心に合従連衡がますます増えると考えられる中、必ずしも5年間の安定性の維持できない可能性も否定できない。

帝人の募集した期限前償還可能な30年劣後債600億円も、格付けはR&Iから取得したBBB格となっている。同時に募集した3年債及び5年債はA-格であり、劣後債の構造的な評価(ノッチダウン)である。

第1回債を募集したオープンハウスの3年債100億円が興味をそそる。取得した格付けは、R&IからのBBB-格であり、クーポンは0.95%と極めて高い水準である。1997年創業と必ずしも社歴は長くなく(多くのIT系新興企業よりは長いが)、首都圏を中心とした大都市圏での不動産分譲及び住宅建築等を行う。テレビでの積極的なCM展開や、東京ヤクルトスワローズのトップスポンサーの一角を占めるなど、知名度は決して低くない。住宅に対する評価も取り立てて悪いものは見られないようであり、人口減少の日本において大都市圏に特化した地域戦略は、適切なものと考えられる。90年代に低格付けの複数の不動産会社が破綻し、社債がデフォルトした事例があった。オープンハウスに関しては、同様の展開となるリスクは低いように見えるが、どうだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/5~7/9

年度第2四半期の始まりである。この週は3月期決算企業の株主総会が終わったタイミングでもあり、例年、起債が多く見られる時期でとなる。四半期の頭ということで、ノンバンクや銀行といった金融セクター、鉄道関連、電力会社に財投機関等公共セクターといった顔触れが動き、その後に、メーカー等様々な業態が登場してくるというのが、例年の典型的な展開であろう。今年度はオリンピックによって祝日のカレンダーが例年と異なる(ただし、昨年度と同じ)並びになっているため、必ずしも毎年の夏と同じような展開にはならないかもしれないが、まずは、オリンピック開催期間の前までというのが一括りになろう。海外はおろか国内の観客動員も抑制したため、オリンピック開催期間中のテレワーク要請が無意味となる可能性もあり、4回目の緊急事態宣言が発出された中で、東京都心のビジネスコンディションが予想できない。資金調達の必要がある発行体は、オリンピック開催に向けた4連休前までに、動くものと予想される。

この週の起債の特徴は、まずは、多くの年限に渡る複数本立ての起債が目立ったことだろう。それは結果として、募集金額も大きなものとなる。まず、東京ガスは、5年債100億円・10年債150億円・20年債150億円・30年債100億円の計500億円を募集した。中期から超長期まで分散した年限設定であるが、その後に追随した案件と比べると、可愛いサイズであったと言えるだろう。日本政策投資銀行は、スポット発行の20年債100億円の他に、四半期案件として3年債300億円・5年債300億円・10年債400億円を募集しており、合計は1,100億円に上る。また、東日本旅客鉄道も負けていない。10年債100億円・20年債150億円・30年債250億円・40年債250億円・50年債250億円の計1,000億円の募集である。

そして、公共債も負けない。東日本高速道路は、レアな年限である1年債200億円の他に、5年債300億円・7年債200億円・10年債700億円と、超長期ゾーンを含まずに、計1,400億円を募集している。日本政策投資銀行の3年債も同様だが、東日本高速道路の1年債もオーバーパー発行であり、いずれも利回りは0%となっている。住宅金融支援機構の財投機関債も、5年債300億円・10年債250億円・15年債100億円・20年債100億円の計750億円と大規模の募集となった。なお、これらの複数年限と比べると、3本立ては可愛く見えてしまうが、地方公共団体金融機構も、5年債200億円・10年債350億円・20年債200億円の計750億円を募集している。

これらの大規模な起債の陰に隠れるかのように、SDGs債の募集も引続き、見られている。そもそも、東日本高速道路債は全年限がソーシャルボンドとなっており、住宅金融支援機構債も15年債と20年債はグリーンボンドの認定を得ている。その他に、中部電力の10年債がグリーンボンド、川崎重工業の10年債がサステナビリティボンド、京阪ホールディングスの10年債もサステナビリティボンドになっている。公的機関でない民間企業の場合には、火力発電で大量の化石エネルギーを燃焼し炭酸ガスを排出していたり、オートバイ等の内燃機関が不可欠な輸送用機器を製造していたり、見た目は電車の運航でクリーンかもしれないが電気の創出過程を考えると炭酸ガス排出に依存している、これらの発行体が、グリーンボンドやサステナビリティボンドを語り債券を募集することは、やや口幅ったいところであるが、よりクリーンな事業活動に向けた努力を行っているということで、前向きに評価しておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/28~7/2

結局、3月期決算企業の株主総会が終了するまで社債の募集はなく、第一四半期の終わりを迎える中では、財投機関債等も動くタイミングではなかった。そのため、社債等の募集があったのは、金曜日に募集されたサントリー食品インターナショナルと近鉄エクスプレスのみであった。

サントリー食品インターナショナルが募集したのは3年債200億円で、クーポンは0.001%と最低水準で設定された。発行単価は100.003円のオーバーパーであり、応募者利回りは0%となる。JCRからAA-格と高評価を受けた3年債であり、日銀オペによって買い取られる期待もあって、問題なく消化された模様である。日銀による社債買入れオペは、やや消極的な姿勢に変化しているものの、拡大した年限である5年債まででなく、元からの購入対象とされていた3年債までならば、オペ対象として継続される可能性は高いだろう。事務方としては信用リスクを過度に負いたくないと考えているだろうが、日本にハイイールド債の新発市場が存在しないことを考えると、このような高格付け債を購入することは、社債買入れ実績の積み上げにこそ貢献すれ、企業に対する資金繰り支援の観点からは、何らの意味がないものになっている。信用危急時を除いて存在意義の乏しい日銀による社債買入れオペであるが、真剣に役割と継続することの意義を見直すべきだろう。単に、現執行部による金融緩和政策を継続するというだけの観点では、金融資本市場を歪める取組みでしかない。結局、誰も喜ばない取組みを無駄に続けているようにしか見えない。

一方、近鉄エクスプレスの10年債100億円は、R&IのBBB+格という評価を得て募集されている。近鉄グループに属する運送会社であり、高い競争力を有しているとされるが、格付けは決して高くない。10年債は格付け対比だとやや長い印象を受けるが、事業特性やグループ母体企業の存在を考えると、決して格付けがBBBレベルだからと言って、投資を躊躇する必要はないようにも思える。希少性のある業種と発行体であり、社債募集のタイミングも良かったのではなかろうか。6月に同じR&IのBBB+格で募集された社債(劣後債除く)を見ると、マクロミルル (本社:東京都港区、代表執行役 グローバル CEO:佐々木 徹)はの5年債が0.56%クーポンでほぼ同程度の利回り、また、GMOインターネット(本社:東京都渋谷区桜丘町26番1号 セルリアンタワー、表取締役会長兼社長・グループ代表熊谷 正寿)は3年債で0.58%クーポンと近い水準の利回りになっている。同じ格付けでも、業種と企業の双方の観点から、同程度の利回りとなる年限が大きく異なっているのは面白い。近鉄エクスプレスの信用力に対する信頼が強いことを、端的に示す結果となっている。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/21~6/25

3月期決算企業の株主総会がピークに達する時期であり、民間企業の起債は見られない。財投機関債等で募集されたのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債と国際協力機構の10年債及び20年債のみであった。

国際協力機構の募集した財投機関債は、10年債と20年債が各100億円である。営利を目的としない政府系機関であり、実質的にODA等政府と一体となって一部の役割を担う存在であることから、取得している格付けは、R&IのAA+格及びS&PのA+格と日本国債と同水準の符号である。前回までの起債と同様に、今回の2本立ての起債も、ソーシャルボンドとしての認定を得ている。

国際協力機構の設立目的は、「開発途上地域に対する技術協力、有償及び無償の資金供与による協力の実施、住民を対象とする国民等の協力活動の促進に必要な業務、開発途上地域等における大規模な災害に対する緊急援助の実施を行い、開発途上地域の経済及び社会の開発若しくは復興又は経済の安定に寄与することを通じて、国際協力の促進並びに我が国及び国際経済社会の健全な発展に資すること」であり、そもそもが十分に社会的な存在であることに疑いはない。それが、ICMA(The International Capital Market Association)の定義する基準に基づきソーシャルボンドとしての特性を有するものと認定されている。特に、今回の起債の前に更新されたセカンドオピニオンは、石炭火力発電事業を起債によって獲得した資金使途から除外されたことを評価している。お金に色はないのであるが、セカンドオピニオンを公表した日本総研からは、「適格基準を満たす使途に適切に資金が充当され、新たに設定した除外基準に基づく使途に調達資金が充当されないように管理し、その結果を開示していくことを推奨する」と指摘されている。

同じくこの週に募集された東京都の5年債も、地方債としては、初めてソーシャルボンドとしての認定を得ている。具体的な資金使途としては、「①社会的に支援が必要な人々を対象とする事業であること、②明確な社会的便益(新たな便益の発生又は既存の便益の維持)が見込まれ、その効果を定量的に把握できる事業であること、③地方財政法第5条各号その他の法令の規定により地方債を財源とすることができる事業であること」という3つの要件を満たす事業とし、資金区分を明確にした上で管理・レポーティングを行うものとされている。今回債については、具体的に、特別支援学校とチャレンジスクールの整備、雇用・就業促進施設等の整備、中小企業制度融資預託金が明示されている。

地方公共団体そのものが、ソーシャルな存在であることに間違いはないのだが、より具体的に基準へ合致するよう資金使途となる事業を絞っていることで、通常の地方債と異なる位置づけのものとしている。日本の地方債は米国でいうゼネラルモーゲージ債であり、資金使途等を特定したレベニュー債とするのは法的に不可とされているが、資金管理を厳格にすることで、倒産隔離等を実現することは不可能であるものの、レベニュー債に少し近づいた仕組みを実現したものである。今後、同様の取組みが他の地方公共団体でも活用されるか注目したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/14~6/18

起債市場は、3月期決算企業の株主総会シーズンが迫り、急に下火になった観がある。もっとも7月に入れば、次の四半期になることもあって起債量は自ずと復活してくるのは必至であり、現在は単なる準備期間と考えて良いだろう。この週は、募集案件の数が多くなかったものの、いずれも個性的な物が集まったようである。

まず、三菱地所は、7年債200億円・10年債300億円・20年債200億円と計700億円を募集している。格付けがAA-(R&I)・A+(S&P)・A2(ムーディーズ)と高いこともあって、クーポンは7年債で0.16%、10年債で0.26%、20年債で0.61%と決して高水準にならないが、信用力の安定性を評価されていることは間違いない。新型コロナ首都圏集中感染によって、都内オフィスビルの位置づけの激変は否めないが、高格付けの超長期債を含む大型募集案件と題して良いだろう。

西日本鉄道は、劣後債を計300億円募集している。5年経過時点以降で償還可能な35年債200億円と、7年経過時点以降で償還可能な37年債100億円という内訳である。鉄道会社の劣後債については、劣後事由が発生するようなことは考え難いと思われるが、地域限定のイベントが生じる事態も頭の片隅には置いておくべきだろう。地震や台風、火山の噴火等による被害の長期化や、海外からの影響等もあり得ないこととは断言できない。また、超長期的には人口動態の影響も、営業地域を変えることが難しいため、リスクとして認識しておく必要がある。

一方で、東武鉄道が募集したのは、0.001%クーポンの3年債であり、オーバーパー発行で実質利回りは0%である。年限から見ても、明らかに日銀オペに吸収されることを前提とした起債であると思われる。日銀は社債買入れオペを継続する姿勢を表明しているが、金額面では抑制的に取り組まれる可能性が高く、日銀による買入れを前提にすることは、やや将来に対する懸念を持っておいた方が良いだろう。

レア物として括って(くくって)よいと思われるのが、マクロミルの3年債50億円及び5年債100億円、東海カーボンの5年債100億円、GMOインターネットに3年債100億円及び5年債150億円である。マクロミルの5年債で第4回債と回号がもっとも大きく、GMOインターネットの3年債は第1回債と回号が最小である。格付けは、東海カーボンがA-(R&I)格であるものの、マクロミルとGMOインターネットはBBB+(R&I)格である。東海カーボンが炭素製品のメーカーであるのに対し、マクロミルはネット等によるマーケット調査会社、GMOインターネットはネットを利用した金融を含む様々なサービス提供者といった違いがある。GMOインターネットは。グループ内の上場会社が多いだけでなく、海外展開も広いので、やや実態の把握が難しいだろう。そういう意味では、レア物で募集された社債は、長くても5年債までという年限設定には、違和感が少ない。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/7~6/11

6月に入って起債市場がやや盛り上がりを取り戻したかに見える。これまでのパターンですと金曜日に募集案件の集中する傾向が強いが、この週は週初めの月曜日を除くと火曜日から金曜日に万遍なく案件が分散している。また、金曜日の案件数が木曜日よりも少ないために、慌ただしい展開とは見えない。いつの間にか、金曜日に案件が集中する状況に慣れきってしまったようだ。今月末に企業の株主総会が多く集中することを考えると、翌週以降の起債は3月期決算企業以外の民間企業や公的セクターが中心となることだろう。

この週の起債の特徴は、概ね前週までと異なるものではなかった。ノンバンク、電力、個人向け、劣後債、SDGs債、財投機関債等といったラベルでほとんどの案件を語り尽くせる。これらから外れているものと言えば、光通信の5年債・10年債・20年債の3本立て計500億円とスターゼンの第1回債50億円の2件に留まる。前者は、過去の発行体による忌まわしい買入消却さえなければと思う一方、この事業内容での20年債という年限について疑問視しておくべきだろう。20年という超長期では、事業内容と格付の安定性は両立しない可能性が高く、中短期債ならともかく超長期債を安心して購入できる発行体ではない。逆に、スターゼンの初回債は5年という年限の設定も適切である。BBB+(JCR)という評価でもあり、食肉専門の商社という事業内容からも、ヘッドラインリスクさえなければ安定的な企業と期待できる。同じ年限の5年債でも、R&IのA-格及びJCRのA格を取得した光通信の0.3%クーポンより高い0.35%クーポンとなっている。光通信も5年債なら、事業展開を想定できる範囲であり、投資対象に加えても悪くない年限なのであるが。

劣後債を募集したのは、野村ホールディングスとENEOSホールディングスの2社である。前者は永久劣後債で5年経過後に期限前償還が可能になるもので、後者は60年劣後債を期限前償還が可能になるタイミングで5年・10年・15年の3本に分けたものである。野村ホールディングス債は2,250億円の1本で、ENEOSホールディングス債は1,000億円ずつが3本といずれも巨額の募集であった。こういった期限前償還が可能なコーラブル債については、期限前償還の確実性を適切に評価しないと、投資元本回収のスケジュール見通しを誤る可能性がある。金融庁監督下の野村ホールディングスについては、期限前償還される可能性は極めて高く、当初5年のクーポン水準1.3%は投資妙味が高い。それでも、証券会社を主力とするグループの持株会社であるから、絶対的な安心感は持ち得ない。海外投資での損失発生といったニュースが、いつ入って来るか予測できるものではない。

一方、ENEOSホールディングスに関しては、期限前償還の確実性が、かなり劣る。当初5年の0.7%クーポンや当初10年の0.97%クーポンは、野村ホールディングス債の当初5年より低く、当初15年の1.31%クーポンでようやく野村ホールディングス債の当初5年と同程度である。石油関連という事業リスクの高さを考えると、明らかに割高な起債と見るべきだろう。ヘッドラインリスクという意味では、証券会社よりも高いかもしれず、中東地域での紛争や代替エネルギー関連の話題にも振り回されかねない。更に言えば、化石燃料が事業の大半を占める以上、部分的に再生可能エネルギー開発の努力等ESG経営に向けた努力を行っているが、ESG投資のEの観点からはアウトというレッテルを貼られる企業である。ダイベストメントと呼ばれるESG投資の手法では、除外対象となる可能性が高い。単純に利回りの高さを求めて兵器製造企業や賭博関連企業にも投資するのが適切な投資行為なのかという、投資家の規範意識が問われるものである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/31~6/4

カレンダーが6月に変わった途端、多くの社債等の募集が動きだした。本数・金額ともに4日の金曜日は相変わらず多いものの、月が変わった火曜から木曜にも万遍なく募集があった。この週には、10年長期国債の入札から地方債の条件決定といった公共債の動きも少なくなく、慌ただしい週となった。これから株主総会までの期間が、一つの社債等募集のタイミングである。

この週の社債等の募集を幾つかの特徴でまとめてみたい。まずは、SDGs債の募集である。投資家側のESG熱の高まりもあって、グリーンボンドやソーシャルボンド等のSDGs債募集が増えているのは近年の傾向だが、この週も幾つか見られる。SCSK(2011年11月住商情報システム株式会社を存続会社として株式会社CSKと合併し、SCSK株式会社に商号変更)の5年債はグリーンボンドであり、九州電力の募集した5年債と10年債のうち、10年債のみがグリーンボンドとなっている。都市再生機構の20年債・40年債・50年債という超長期債の3本立ては、いずれもソーシャルボンドの認定を受けている。最後に、ANAホールディングズの5年債はサステナボリティリンクボンドとなっている。かつてトレーニングセンターの二酸化炭素ガス排出を抑えるとしてグリーンボンドを募集した発行体であるが、欧州のESG教信者の中にはジェット燃料を燃やして大量の二酸化炭素排出を継続する空運業そのものに否定的な見方が強く、航空会社のグリーンボンドは強く疑問視されたものである。今回のサステナビリティリンクボンドは、SPTsを未達の場合に環境保護団体等へ発行体が寄付を行うという仕組みである。投資家に直接の経済的なメリットのない点が斬新であり、固定利付という本来の債券の特性を考えると、投資家に経済的なインセンティブを与えなくても良いとも考えられる。

次に、個人投資家向け社債の条件決定である。夏のボーナスシーズンを見据えた動きであるが、そもそもボーナスを貰うようなサラリーマン等が必ずしも個人投資家向け社債を積極的に購入するとは考え難く、単なる既存の個人投資家向け社債の償還見合いのタイミングと考えるべきかもしれない。10万円から購入可能な四国電力の3年債はオーソドックスな電力債であり、0.13%クーポンは銀行預金と比べればはるかに高い利回りである。一方、ソフトバンクグループの劣後債は100万円が最低の購入単位であり、5年経過以降に期限前償還が可能になるものの、最終償還は35年に設定されている。個人投資家保護の観点からは、発行体に償還オプションを与えることに疑念は残るが、これまでは期限前償還されて来ている。格付けはJCRのBBB格であり、持株会社の構造的劣後性を帯びていることもあって、投資家に十分なリスクの所在を説明出来ているかが大いに疑問視される。そもそも、通信事業者のソフトバンクと、持株会社のソフトバンクグループが混同されている懸念すらある。期限前償還されている間は問題が表面化しないが、今後の経営状態次第によっては、劣後債を販売した証券会社の説明責任を問われるような事態も発生しかねないだろう。

また、機関投資家向けの起債において、5年債が復権している可能性を指摘しておきたい。歴史的には、10年債と並ぶ主軸年限の一つでありながら、マイナス金利政策のお陰で影が薄くなっていた感はあったが、この1年くらいで5年債の募集がやや増えているように見える。この週だけでも、三菱マテリアルの3本立てのうち200億円、SCSKのグリーンボンド50億円、ジャックスの3本立てのうち200億円、九州電力のグリーンボンドでない方の500億円、共英製鋼の初物100億円、神戸製鋼所の100億円、日本航空の300億円と数多い。日銀の社債オペに対する姿勢が少し変化したことで、3年債の募集から5年債にシフトしている可能性も考えられ、今後の動向を注目しておきたい。

最後に、アイフルの1.5年債についても触れない訳には行かないだろう。同社は日本で唯一のハイイールド債発行体となっているが、同社による継続発行だけでなく、他の発行体が追随して市場の拡大が進むことを期待したい。必ずしもそれだけで社債市場の活性化が進んだとは言えないと思われるが、一つの重要な指標と見て間違いないからである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/24~5/28

3月期決算企業の決算発表を越え、電力と財投機関といった早駆けの得意な発行体に続いて、ようやく社債等がまとまって募集されるようになって来た。特に、業種面での偏りがなくなり、幅広い業態からの募集が見られた週であった。業種を列挙してみると、高速道路、銀行、証券、建設、ノンバンク、化学、鉄道、通信、ガスといった顔触れである。金曜日に多くの社債募集が集中するのは、やむを得ないところでもあるが、募集日をもう少し工夫すれば良いのではと、何時ものことながら思わざるを得ない。

この週の起債では、複数本立ての起債が目に付いた。二本立ての起債としては、大和証券グループ本社の5年債及び7年債各150億円、キリンホールディングスの5年債400億円及び7年債300億円、東急の3年債及び20年債各100億円である。東急の起債は、日銀オペ見合いの3年債と鉄道にふさわしい超長期の20年債という組み合わせで、合理的な選択と思える。しかも、3年債はオーバーパー発行で利回りは0%という起債である。残りの2社は、5年債及び7年債と中期年限が主体である。証券会社が中期の起債というのは違和感のないところであるが、飲料メーカーであるキリンホールディングスに関しては、より長い年限も選択できたのではないかとも考えられる。

複数本立て起債としては、三本立て起債の方がより目立ったように感じる。三菱ケミカルホールディングスは5年債200億円・10年債200億円・20年債300億円の計700億円、大和ハウス工業は5年債250億円・10年債150億円・20年債100億円の計500億円、ソフトバンクは5年債350億円・7年債300億円・10年債350億円の計1,000億円、大阪ガスは10年債200億円・20年債100億円・30年債100億円の計400億円と、いずれも大型の起債になっている。しかも、ソフトバンク以外は超長期債を組み込んでいるところが面白い。また、二本立て起債と同様に、5年債が4社で計800億円と多くなっている。基本形は、5年債・10年債・20年債という組み合わせだが、ソフトバンクは20年債でなく7年債とし、大阪ガスは5年債でなく30年債を選択したのは、業種特性によるものと考えればよかろう。

これから株主総会の時期まで、少し起債が増えるものと思われる。引続き、多様な業種が多様な年限で募集することだろう。また、この週はケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人(資産運用会社:ケネディクス不動産投資顧問株式会社)によるソーシャルボンドくらいしかSDGs債の募集は見られなかったが、最近の潮流に乗り、様々な発行体によってグリーンボンドやソーシャルボンドなどが手を変え品を変え登場してくるものと予想される。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/17~5/21

前週に引続き、電力と財投機関が主体になった。電力債では、四国電力が10年債と20年債各100億円を、東北電力が10年債300億円・20年債100億円・30年債100億円を、北陸電力が10年債と端数年限の13年債各100億円を募集している。ゴールデンウィークが明けてからすべての電力会社が出揃ってはいないが、順調に電力各社が募集している展開である。東日本大震災と福島第一原発事故から10年以上が経過したが、電力債にはある程度のスプレッドが乗ったままである。一般担保条項に効果があることは認識されるものの、将来の新発債には付されなくなることが予定されており、福島原発と同種の事故が生じた場合に奉加帳方式で各社に損失負担が再び強いられる悪夢は必ずしも忘れ去られていない。化石燃料エネルギーへの依存度の高さも、ますますESGへの取組みが強く意識される中では、業界全体がネガティブに捉えられかねない。再生可能エネルギーへの注力にも限界があり、万一原油やLNGの価格が上昇した場合にもユーザーへの価格転嫁が容易でなくなっているため、収益構造が悪化する可能性は高い。これらの懸念から電力債にはプレミアムが乗ったままになっており、格付け対比での投資妙味を感じる投資家は少なくない。

財投機関等による債券募集も相変わらず多い。日本高速道路保有・債務返済機構は29年債50億円と34年債100億円の端数年限の利子一括払債の2本を、鉄道建設・運輸施設整備支援機構は10年債と15年債各100億円を、日本学生支援機構は2年債300億円を募集している。その他に、地方公共団体金融機構は、FLIPに基づく5年債から21年債計6本350億円を募集している。これらのうち、鉄道建設・運輸施設整備支援機構債券が両年限ともサステナビリティボンドの認定を受けている他、日本学生支援債券はソーシャルボンドとなっている。いずれも社会的に意義のある取組みを行っている財投機関であり、認定を受けることに必ずしも大きな意味はないとも考えられるのだが、SDGs債券への投資実績を誇りたい投資家にとっては、十分に購入するインセンティブになるだろう。利回りに悪影響がないのであれば、発行体が認定機関に対して支払う手数料と、発行後が取組み結果の公表等の手間を負担するだけであり、投資家にはマイナスの材料がない。サステナビリティリンクボンドのような仕組みは、公的な機関の発行する債券には必ずしも必要であると思えない。

その他に、大丸や松坂屋、パルコを傘下に有するJ.フロントリテイリングが募集した5年債と7年債各150億円のうち、5年債のみがサステナビリティボンドの認定を得ている。具体的な資金使途としては、「大丸心斎橋店本館・渋谷パルコの建設、再生可能エネルギー由来電力の購入、LED照明への切り替え、社用車のEV化、神戸・旧居留地の賃借、女性の活躍推進への取り組み」とされているが、これではサステナビリティボンドとしての位置づけが疑問視されるだけでなく、投資表明した投資家のESG投資に対する真摯さも懸念されるところである。