「海の日」の三連休もあって、この週は営業日が少ない。休み明けの営業日には社債等を募集しないのは一種の不文律であり、週末跨ぎの状況変化を各当事者が十分に反映できていないためという解釈である。実際の社債販売においては、条件決定した後の募集完了まで瞬時ということは珍しくないのだが、募集開始までの需要調査・プレマーケティングが入念に行われるためである。投資家も予め十分な情報を提供されていなければ、即時の判断など出来るものではない。特に稟議書を上に挙げて購入の決裁を取得するといった手続きを考えると、休み明けすぐの募集に対しては依然としてハードルが高い。
この週の社債等の条件決定が少なく感じられるのは、営業日の少なさの他に7月の起債シーズンでの動きが一巡したこともあるが、日銀による金融緩和政策見直しに向けた動きの影響もあると考えられる。月末の金融政策決定会合において、利上げこそは見込まれないものの、前月の会合で明示された具体的な国債買入れの減額計画が示される予定であり、国債利回り水準への影響は不可避である。事前に開催された国債市場参加者会合においては様々な意見が出たとされ、立場が異なる市場参加者からの買入れの減額規模や年限の要望はかなり異なるものであったようで、植田総裁が示した「相応の減額」の内容は当日まで不透明と考えられる。そのため、発行体も投資家も帰趨(きすう)を見極めてからと考えた可能性もあろう。減額幅が巨大で国債利回りが上昇したとしても、その後の減額が見込めないような説明であれば、金利上昇は一時的なものに留まるかもしれない。また、買入れの減額が全年限で均等に行われるとは考えられず、短期もしくは長期でウェイトが異なる可能性も十分にある。そのため、月末に向けて市場参加者は慎重になっているだろう。
この週の社債等の条件決定に関しては、地方公共団体金融機構のFLIP債によって公共セクターの本数が大きくなっているが、それ以外にも、日本政策金融公庫の2年債300億円や中日本高速道路の5年債900億円、日本高速道路保有・債務返済機構の20年債150億円といった銘柄が募集されており、公共債主導というイメージが強い。また、民間企業の社債では、通信業や鉄道、電機、ノンバンクといった様々な業種による募集が見られている。ただし、前週のような大型起債がないことも特徴であるとして良いだろう。ちなみに、SDGs債の認定を得ているのは、日本高速道路保有・債務返済機構の20年債がソーシャルボンドとなっている他に、横浜高速鉄道の10年債及び20年債がグリーンボンドになっている。横浜高速鉄道は一応民間の社債として分類されるが、主要株主の上位に横浜市と神奈川県があり、第三セクターとすることも十分に可能である。ただし、地方債に区分するのは事業内容を考えても適切ではあるまい。
その他には、民間企業の社債が個人向けと機関投資家向けで同時に条件決定される例が二件見られている。近鉄グループホールディングスとクレディセゾンの5年債である。両社とも過去にも個人投資家向けの社債を募集した経験があり、ボーナスシーズンで個人が貯蓄より社債などの投資に注目している時流に沿ったものと考えられよう。両社とも個人投資家向けに各200億円の発行を予定しており、機関投資家向けの各100億円の倍額としているところが知名度の高さを活用したものと考えられる。なお、近鉄グループホールディングス債の募集期間が今月30日までなのに対し、クレディセゾン債の募集期間は8月6日までと長い。日銀による国債買入れ減額の影響が危惧されるところだが、早い段階で消化できると見込んでいるのだろう。