8月末からはじまった起債ラッシュは、9月に入ると勢いを増している。特に、週の半ばでも募集案件が散見されるだけでなく、金曜日の募集案件集中の慣習は引受証券の多忙さが思いやられる。月という意味でも、曜日という意味でも、分散して募集した方が売り手である証券会社にとっても、また、買い手である投資家にとっても、良いはずと思われるが、物事にはタイミングが重要であるのだから仕方がない。案件が集中する中では、埋没して注目を集めない銘柄もあるし、目立つ案件もある。
まず、案件の募集総額という意味では、アステラス製薬の5年債800億円および7年債200億円の計1,000億円や、住友化学の期限前償還条項付き35年劣後債1,000億円、三菱UFJフィナンシャルグループの期限前償還条項付き永久劣後債の2本計1,700億円といった大型案件が目を引く。単純な一括償還の社債はアステラス製薬のみだ。期限前償還条項については、100%確実に期限前償還されるとは限らないものの、これまでの国内の事例で実施されなかった例は見られない。金融機関や証券、保険といった発行体だと、金融庁の監督もあり期限前償還はほぼ確実と考えられるが、事業会社の場合には、格付会社の評価次第であり、期限前償還を実施されない可能性が全くないとも言えず、慎重な発行体の信用分析が必要である。もっとも劣後債の格付けは抑えられており、利回りに劣後プレミアムも乗っていることで、住友化学の実質5年債で3.3%クーポンと考えると、投資妙味は大きい。1,000億円の起債でも消化に支障はなかったようである。なお、劣後債は他にも、東洋紡の期限前償還条項付き37年劣後債170億円と群馬銀行の期限前償還条項付き永久劣後債100億円が募集されている。
全般的に5年債の募集が多く、特に、必ずしも発行体の知名度が高くない銘柄が登場している。ゲオホールディングス(2681、東証 プライム)、ミライト・ワン(1417、東証 プライム、他に7年債も同時発行)や、イチネンホールディングス(9619、東証 プライム)、岩谷産業(他に10年債も)、センコーホールディングス、東プレ、日本トムソン(6480、東証 プライム)など、案件が多く埋没しかねない。その一方で、小田急電鉄(他にも7年債)や豊田自動織機、京阪ホールディングスなど知名度や起債実績を有する発行体も5年債を募集している。国債利回りが上昇した影響で、5年債でもかつてより高いクーポンが必要になっているように見える。
劣後債を除いて相対的なクーポンの高さ、特に、年限対比という意味では、光通信の3年債1.073%と5年債1.58%計200億円とLINEヤフーの3年債0.993%と5年債1.35%の計500億円が目立っているが、前述のミライト・ワンの5年債は1.91%クーポン、イチネンホールディングスの5年債は1.5%クーポン、日本トムソンの5年債は1.43%クーポンと、5年債でも1%を上回る利回りが得られる募集も多くあり、「金利のある時代」に戻ったと実感させられる。
なお、SDGs債では、公的セクターで都市再生機構の5年債と10年債の計210億円がサステナビリティボンドで、別途の20年債がソーシャルボンド、日本高速道路保有・債務返済機構が15年債及び22年債の計150億円がソーシャルボンドとなっている。民間事業会社では、インフロニアホールディングス(5076、東証 プライム)の2本立てのうち6年債のみがグリーンボンド、日本トムソンの5年債がサステナビリティリンクボンド、京阪ホールディングスの5年債がグリーンボンドとなっており、着実にこういった種類のソーシャルボンドの起債が定着しているように見える。