国内起債市場を斬る 起債評価:11/25~11/29

師走である。それでも、金曜日に条件決定が集中する慣習は変わらない。証券会社も投資家も仕事が集中して大変ではないかと思うのだが、条件決定の前にほぼ大勢が決しているために、募集当日に色々と集中しても問題ないのか。それはそれで、現在の募集実態が適切に運営されていないということとも思えるの。引受証券は、外部から指弾されないよう、法律や規則のみならず、ノブレスオブリージュ(noblesse oblige)に則った行動が求められる。

金曜日の29日に多くの募集案件が集中しているが、比較的に知名度の高くないメーカー等の条件決定が多くなったことが特徴的な動きとして挙げられるだろう。5年債を募集した日本冶金工業は、第1回債を募集している。デンカの7年債は第22回債と回数は多くなっているが、決して同社はフリークエントイシュアーとは言えない。住友林業(現在では建設業に分類されており、メーカーではない)は、10年第9回債及び20年第10回債を募集している。戸田建設も第5回の10年債を募集した。KHネオケムは、第1回の5年債を募集している。KHネオケムは、キリンホールディングスの傘下に入った協和発酵グループから、分離独立した化学品メーカーである。これらの企業の中では、住友林業がTVCMで見かけることがあるくらいで、他の企業は、一般消費者には直接触れる機会の少ない企業群であろう。なお、こういったレア物銘柄と見られる発行体の社債は、募集額が小さくなりがちである。日本冶金工業とKHネオケムは50億円の募集であるし、デンカが150億円を募集した以外は、各回号100億円ずつである。

中国電力の第421回債は、25年と珍しい年限で募集されている。電力会社の超長期起債も増えて来ているが、20年債や30年債に比べると25年債はほとんど見ることがない。20年や30年は国債の新規発行があるため、プライシングが容易であるというのが教科書的な説明である。新発の国債とクーポン水準が大きく乖離しないために、リスク把握や管理が容易であるという指摘もある。もっとも、近年のような低金利に加えて、金利変動幅も小さくなっていると、25年といった新発国債とリンクしない年限でも、条件決定は難しくないだろう。今回の中国電力の25年債は国債対比のスプレッド・プライシングで条件決定されたが、木曜日の28日に募集された三井化学の20年債は絶対水準でクーポンが決定されている。基軸が見え難い中でのプライシングであるから、20年や30年といった年限への拘りを捨てても良いだろう。今後は地方公共団体金融機構が募集するFLIP債のように、端数年限での起債がもっと増えても良いのかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/18~11/22

週央に古巣の証券会社のDCM担当と話していると、22日(金)は条件決定が大量に集中するとのことであった。実際に、社債と財投機関債とを合わせて10以上の発行体が債券の発行条件を決定する展開となった。前日である21日の木曜日は、電力2社と双日、日本高速道路保有・債務返済機構だけが条件決定しており、22日の集中度が極めて大きかったのである。これからの起債観測を見ると、12月中旬の年内最終募集期限に向けて、年内最後の繁忙期となりそうだ。

22日に登場した発行体の顔触れを見ると、メーカー、商社、電力、通信、運輸、ノンバンク、財投機関と幅広い。今回は、運輸に着目すると、まず、南海電気鉄道および京浜急行電鉄が各々20年債を募集している。格付けでは、前者がA-(R&I)格で、後者がA+(JCR)格と2ノッチ差がある。しかし、決定されたクーポンを見ると、前者の0.69%に対し後者は0.576%と必ずしも大きな差にはなっていない。前者が絶対水準でプライシングされたのに対し、後者は国債対比+32bpsでスプレッドプライシングされたためもあるが、日本銀行によって利回りもスプレッドも潰されている現状では、投資家の目線はどちらに寄ったのだろうか。

運輸の中でも、空運のANAホールディングスは、格付けがR&IのA-格及びJCRのA格である。鉄道と航空という業種の差を無視すれば、南海電気鉄道と同等、京浜急行電鉄より1ノッチ下の格付けである。条件決定したのは、6年の個人向け社債の他、10年債及び20年債各100億円であった。20年債のクーポンは0.69%と、南海電気鉄道と同水準で決定されている。格付水準のみを見れば、同格であることから同じ利回りを適正と考えることもできるが、果たして鉄道と空運を同列に論じて良いだろうか。欧州を中心に燃え盛っているESG(Environment, Social & Governance)やTCFD(The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures)といった運動の中では、空運に対する風当たりは極めて強い。ジェット燃料を大量に消費して二酸化炭素を巻き散らす業種として、活動家は移動に際して飛行機の使用を忌避するほどである。一方、鉄道に関しては、使用する電力に関してそのエネルギー源を問われないため、クリーンであるとする評価が根強い。実態は、化石燃料による火力発電と、廃棄物処理に問題のある原子力発電とに多くを依存しているのだから、決して電車はクリーンな輸送手段と思えないのであるが、目に見えるものしか相手にしない活動家という連中は、そんな浅薄な理解で満足するものである。いずれにせよサステナビリティ(sustainability)を重視する観点からは、鉄道と空運には将来的に大きな差が存するために、格付水準のみから同じ利回りというのは、機関投資家からは受け入れがたいであろう。

環境という意味では、日本電産が3年債500億円・5年債300億円・7年債200億円と計1,000億円のグリーンボンドを募集している。創業者がブラック企業体質であることを是とする方針を長期に強調し続け、足元では米中貿易摩擦から業績の下方修正が確実視される中で、グリーンボンドを募集するというのは実に皮肉である。株式と異なって、社債の元利弁済に業績の下方修正は大きく影響しない可能性はあるが、信用力の低下等で時価の下落を気にする投資家にとっては、長めの与信を警戒することになろう。年限ごとの発行金額の差が、投資家の警戒感を端的に表している。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/11~11/15

未だ、国内起債市場は本格稼働とはなっていない。前週に続いて、まだ、公共債が主体となっている。地方公共団体金融機構が毎月募集する10年債350億円の他、半期に1回ペースの珍しい5年債を100億円募集している。5年債の利回りを前週の住宅金融支援機構と比較すると投資妙味は格段に落ちるが、市場実勢という観点からはおかしくない水準である。やはり国債がマイナス金利となっている年限では、一般債の目線は難しい。なお、10年債の利回りは、国債対比+16bpsのスプレッドと発表されている。

同じく公共債セクターでは、東日本高速道路と日本高速道路保有・債務返済機構が債券を募集している。前者は、5年債300億円・7年債200億円・10年債400億円と計900億円の募集である。前述の地方公共団体金融機関の10年債と同様に、東日本高速道路の10年債も国債対比+23bpsのスプレッドとされている。10年国債利回りが大きく動く中でのプライシングとなったこともあって、絶対水準オンリーでは投資家のニーズが確保できなかった可能性もあろう。本来のあるべき姿に戻りつつあるのか、それとも暫時の姿なのか、今後の動向を見極めたい。日本高速道路保有・債務返済機構の財投機関債は40年である。国債対比+41bpsのスプレッドとされるが、クーポンは0.882%と1%に満たない。40年という途方もなく長い年限を考えると、例え発行体のデフォルト・リスクがほとんどないにしても、満期持ち切り目的ではない投資家としては、此のクーポンでの資金固定のリスクは、十分に考えるべきであろう。

民間で唯一の起債が、阪急阪神ホールディングスによる10年債及び20年債100億円ずつの募集である。両年限とも国債対比のプライシングが行われ、10年債は+31bps、20年債は+45bpsとされる。この週の10年債のスプレッドを並べると、準地方債とも言える地方公共団体金融機構債が+16bps、準財投機関債と言えるが形式的には社債である東日本高速道路債が+23bps、阪急阪神ホールディングスの社債が+31bpsとなる。格付けは、前2者がAA+(R&I)格であり、阪急阪神ホールディングスがA+(R&I)格であるから、発行体の規模的な格差は整合的であると言えよう。しかし、AA+格とA+格の差は3ノッチと大きく、それでありながらスプレッドの差が10bpsにも満たないというのは、金利水準の低さそのものに影響されたと見るべきであり、投資家は割高感と流動性リスク格差を認識すべきであろう。

これから12月中旬に向けた約1か月間が年内の新発債に関する最終募集期間であり、起債観測はメーカー、鉄道、通信、建設、商社、小売り、ノンバンク等様々なのものが見られている。年内の各週の金曜日は、慌ただしい展開になりそうだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/4~11/8

9月末決算の発表が引きつづき継続しており、民間企業の社債募集は動きが鈍い。1週間を見渡すと、国債や地方債を除いて条件決定から募集に至ったのは、日本高速道路保有・債務返済機構と住宅金融支援機構の財投機関債を除くと、森ビルの社債のみとなった。

森ビルは3月期決算を採用しているが非上場であり、必ずしも上場企業と同様のスケジュールには馴染まない。今回募集したのは、10年のグリーンボンドである。不動産業は、比較的にグリーンボンドには馴染みやすい業種であろう。今回の起債に関しては、虎ノ門・麻布台プロジェクトの保留床取得資金を使途とすることが発表されている。「アークヒルズ」に隣接し、「文化都心・六本木ヒルズ」と「グローバルビジネスセンター・虎ノ門ヒルズ」の中間点に位置し、ロシア大使館の斜め向かい、旧麻布郵便局のあった日本郵政グループ飯倉ビル及びその背後にあった古い住宅地等を再開発するプロジェクトである。やや地下鉄の駅からアクセスは良くないが、港区内の一等地である。『緑につつまれ、人と人がつながる『広場』のような街』というコンセプトが提示されており、超高層ビルと緑化地域を両立させる狙いで、グリーンボンドには相応しいプロジェクトであろう。なお、グリーンボンドとしての適格性に関する第三者オピニオンは、サステイナリティクスより取得している。

ここで近年の社債発行市場における変化の可能性について、コメントしておこう。従来、投資家は自らがどの債券を幾ら購入したかが公になるのを望んで来なかった。また、どの証券会社から購入したかも、他の証券会社との取引関係に影響する可能性があることから、明らかになるのを忌避して来た。こうした状況に変化が訪れる可能性が、二つの方向から見られている。一つは、グリーンボンドやソーシャルボンド等に対する取得意向の表明である。投資家が新規に発行される債券に対して事前に購入意欲を示すということは、価格決定に影響を与える可能性もあり、避けられてきたのである。ところが、購入意欲の表明は、実際には、購入しない可能性もあるし、金額が明示されないことで、必ずしも忌避されないようになっている。グリーンボンド等に投資する異様の表明は、結果として、投資家と発行体双方のメリットがあるように思える。

もう一つの方向がPOT方式の採用である。主幹事証券等が顧客からのオーダーをすり合わせ、適正価格と玉(ぎょく)の配分をコントロールするものである。一部の投資家には根強い抵抗感があり、必ずしも全面的な採用には至っていない。そして、投資家の抵抗の背景にあるのが、購入申し込み玉の数量や完売に関する引受証券から流される情報が必ずしも真実でない可能性があると疑われていることにある。歴史的には、ある程度の疑いが古くから根強く囁かれてきたものの、近年では、「条件決定の金曜日集中化」と極端な偏りもあって、情報ベンダー経由で公表される完売宣言や応募倍率等の一方的な情報に対して内容の正確性が疑われている。一部の情報ベンダーからは、「実は完売していなかった」といった類の報道すら見られる。このように起債運営に対する投資家の不信感が高まっていることを前提とすると、POT方式が必ずしも容易には前に進まないものと考える。引受証券は改めて市場から疑念を呈されないように襟を正す必要があるのではないだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/28~11/1

10月最終週に債券の募集は、まず行われない。しかし、かなり以前から、11月1日に光通信によって社債が募集されるという観測は上がっていた。前週の時点では、募集年限が10年・20年・30年の3本とされ、10年債及び20年債は100億円程度の募集が見込まれており、30年債については、投資家のニーズ次第とされていたようである。実際に11月1日に募集されたのは、10年債が90億円、20年債が100億円で、30年債が75億円となった。

同社債の格付けは、R&I及びJCRのA-格である。格付けの面では10年債を募集することに必ずしも違和感はないが、同社の事業内容を考えると、20年債及び30年債に投資するのは躊躇される。鉄道や電力・ガスのような安定的な事業基盤はなく、また、基礎財のメーカーでもない。非製造業に関しては、超長期の起債は慎重に考えざるを得ないというのが大原則である。そもそも、格付けの有効年限は、会社の中期計画や業種特性を考慮しても、3年ないし5年といった水準でしかない。それを大きく上回る年限に関しては、投資家が自己責任で投資判断を行うしかないのである。同社の場合、人によっては10年債ですら積極的な投資対象にはし難いのに、20年債や30年債となると、もはや投資を越えて投機の領域に近い。同社の創立は1988年、東証一部上場は1999年である。辛うじて20年前がイメージできるところだ。投資家は、同社の20年前、30年前がどうであったかを思い出して、逆にこれからの20年後、30年後を考える作業が必要であろう。

日本銀行による低金利政策の影響下であっても、光通信の社債は20年債で1.7%クーポン、30年債で2.5%クーポンと、極めて高水準の利回りとなっている。最近の社債市場は消化不良ではないかという観測(10月25日日経朝刊)が発せられており、極めて高い水準のクーポンが付されていても、同社の社債が3年限合わせても265億円しか募集成立しなかったことは注目してよいだろう。投資家が闇雲に利回りだけを求めているわけではなく、リスクに見合った年限や利回りといった発行条件を吟味しているものと考えられる。また、金融資本市場がグローバル化している中で、日本国内の社債市場のみに拘るというスタンスが薄れているのではなかろうか。こんなに潰れたスプレッドであれば、国債で十分といった考えもできるし、マイナス利回りの国債が嫌なら普通預金のままで良いと公言する投資家も少なくない。

株式はグローバル市場化しており、それは、日本企業の海外収益依存度の上昇とともに、国内株と外国株の相関の高まりとして観測されている。また、国内の低金利を敬遠する投資家は、外債や海外のオルタナティブ資産への投資に注力しはじめている。振り返って、日本の社債市場を見ると、現在もR&IとJCRという国内系の2社による格付けが実質的な寡占状況にある。この現状は、海外系格付会社が収益性の低さから退出して行った結果であるが、このままガラパゴス状態がいつまでも継続するだろうか。日本の金融資本市場の在り方について、改めて検討すべき時期に来ているものと思われる。株式や他の資産がどんどんグローバル化して行く中で、債券市場のみがドメスティックな状態のままで良いはずがない。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/21~10/25

10月の起債は下旬ともなると、低迷とすら言える本数になる。民間企業の起債が滞り、公的セクターにしか動きがない。11月以降に向けた民間の起債準備は進んでいるが、条件決定にはまだ至らない。

前週に続いて、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債がその本数に貢献している。四半期の頭の月にFLIPの起債は多く見られるが、10月も既に第489回から第504回の計16本が募集されている。FLIPに基づく債券の募集は、毎月に行われる10年債及びその他の年限を募集した後に行われるために、月後半に行われることとなる。しかも、定例起債(10年債以外に、半期1回の5年債、四半期に2回の20年債、半期1回の30年債が想定される)を除く年限で募集されるために、通常の社債では見られない年限が多く見られることになる。

今月のFLIPに基づく起債の年限を見ると、5年債、7年債は社債でも見かけられる年限であるが、そのほかに11年債、12年債、17年債、18年債、34年債といった珍しい年限が見られる。FLIPを担当すると年度初めに決められた証券会社が、年限や金額といった投資家のニーズを集めて地方公共団体金融機構の望む年限と突き合わせる。最低金額は30億円とされており、それ以上の金額となるFLIP債の回号も存在する。地方公共団体金融機構は、地方公共団体への融資を行う法人であるから、調達と融資の年限のマッチングを意識するだろう。FLIPに基づく起債は、主要調達年限と分散を意識している可能性は高い。

10月のFLIPに基づく年限ごとの起債額を合算してみると、5年債290億円、7年債240億円、11年債180億円、12年債・17年債・18年債各30億円、34年債90億円といった分布である。これらの調達年限を金額で加重平均すると、およそ10.76年となる。実際には、11年債と言われていても償還までの年限が10年7か月のものや10年8か月のものがあったりするし、5年債と言われるものも償還までは5年5か月や5年4か月だったりする。端数月の影響を考慮して加重平均を行うと、およそ10.8年となり、概算と大きな差は生じない。本数で11年債が6本と多かったのは、平均的な調達年数に近かったからと考えられる。

地方公共団体金融機構以外には、中日本高速道路の5年債と日本政策金融公庫の2年債が募集されている。後者は単利の応募者利回りが0%となっている。初めて同公庫の募集する2年債の応募者利回りが0%となってから、既に2年半が経過している。日本学生支援機構が8月に募集した2年債で、財投機関債のマイナス金利は実現されているものの、日本政策金融公庫はまだマイナス金利に踏み込んでいない。今後が注目される。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/14~10/18

10月の起債の動きは、すぐに峠を越える。この週も、条件決定・募集された本数は多いが、業種の広がりはあまり感じられない。公共セクターで、地方公共団体金融機構がFLIPに基づく債券を計12本も募集しており、日本政策投資銀行や日本高速道路保有・債務返済機構、日本学生支援機構といった財投機関債も募集が行われている。日本学生支援機構の2年債は、オーバーパーで単利の利回りは0%であった。その他に、メーカーの起債では、DIC、ニプロ、三和ホールディングスといった顔触れが、いずれも10年債を募集している。R&IでBBB+格のニプロでさえ、クーポンが0.44%といった低水準なのであるから、A格前後の発行体にとっては十分に魅力的な金利水準であろう。

この週の起債で圧倒的な存在感を示したのが、ノンバンクである。しかも、芙蓉総合リースや日立キャピタル、クレディセゾンといった上場ノンバンクよりも、非上場ノンバンクが目立っていた。芙蓉総合リースとクレディセゾンは、1回号のみを条件決定したのに対し、日立キャピタル(2016年に三菱UFJフィナンシャル・グループ及び三菱UFJリースと資本・業務提携契約を締結)は3年債・5年債・10年債の3回号計600億円を募集している。非上場ノンバンクでは、住友三井オートサービスが3年債及び5年債計300億円、三井住友トラストパナソニックファイナンスは3年債・5年債・10年債の計300億円を募集している。

前者は、住友商事系の住商オートリースと、三井銀行系の三井住友銀オートリースが合併して出来た会社で、三井住友系では珍しく”住友三井”という順の社名である(ちなみに、和名が三井住友の順になっている企業の多くは、英文名称ではSumitomo Mitsuiの順となっている。例外として、少なくとも三井住友海上火災保険の英文名称はMitsui Sumitomo Insurance Companyであり、同社のグループ会社の英文名称はMitsui Sumitomo となっているようである)。

後者は、三井住友銀行系ではなく、トラストの文字が入っていることでわかるように、住友信託銀行の傘下にあった住信リースと、松下電器が設立したリース・クレジット会社に住友信託銀行が出資した住信・松下フィナンシャルサービスが合併し、後に信託銀行の合併によって、三井住友トラストパナソニックファイナンスという長い名前になったものである。なお、三井住友トラストホールディングスの英文名称は、Sumitomo Mitsui Trust Holdingsと商業銀行と同じ並びになっている。

非上場であっても、前者は上場している銀行持株会社の持分法適用関連会社であり、後者は連結子会社とされている。いずれのノンバンクも有価証券報告書を提出して社債の発行登録制度を利用しているため、投資家は上場の有無を大きくは気にしないで済む。そういう意味では、上場銀行持株会社の傘下にある銀行子会社と、大きく異なるものではないということなのである。とは言え、持株会社の財務内容に与える影響の程度は、銀行子会社とは異なるということを、忘れてはならない。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/7~10/11

起債市場において募集に適した時間は決して長くない。カレンダーが10月に入ってしばらくすると、3月期決算企業の上期末決算発表を意識するタイミングが迫って来る。そのため、必然的に下期入りしてからの限られた時間に案件が集中しがちとなる。さらに、劣後債や個人向け社債などの条件決定が重なれば、金額だけで見ると、巨額の募集になってしまう。この期間においても、メガバンクグループによる劣後債の募集が2グループによって行われたため、他の週とは桁違いの金額となっているのである。

三菱UFJフィナンシャルグループによる劣後債は機関投資家向けの募集であり、5年3か月早期償還付き永久劣後債が1,570億円、10年3か月早期償還付き永久劣後債が1,160億円と2本立てで計2,730億円が募集されている。早期償還を前提にし劣後事由や債務免除事由の発生がなかった場合には、5年3か月債でクーポンが0.82%、10年3か月債でクーポンが1%と高水準である。取得した格付けはJCRのA-格であり、永久劣後性等の考慮から決して高水準ではないが、特に10年3か月債の1%クーポンは魅力的だろう。同日に募集された同じA-(JCR)格を取得したトナミホールディングスの10年債のクーポンは0.4%であり、半分以下の水準である。早期償還のオプション性及び劣後や債務免除事由が生じる蓋然性と、三菱UFJフィナンシャルグループのネームを比較考量し、購入する投資家も少なくない。

一方、みずほフィナンシャルグループは個人投資家向けに劣後債を募集している。個人投資家向けであるから、形式的に永久劣後債は選択し難い。10年の一括償還債410億円と5年早期償還付き10年劣後債1,170億円の計1,580億円を条件決定している。10年債のクーポンは0.538%と銀行預金などでは得られない高利回りであり、5年の早期償還付き劣後債のクーポンは0.39%である。劣後特約等が付されているとはいえ、みずほフィナンシャルグループの期限付き劣後債の格付けは、R&I及びJCRのA+格である。同日に条件決定された近鉄グループホールディングスの個人投資家向け5.5年債のクーポンは0.21%であり、格付けはR&IのBBB格及びJCRのBBB+格である。格付けの差が3~4ノッチあるため、早期償還を前提にした5年程度の債券として比較すると、利回りの逆転は著しいと評価することが可能である。個人投資家は劣後等のリスクをどう評価するだろうか。なお、近鉄グループホールディングスの個人投資家向け社債には、抽選で200名に賢島宝生苑の宿泊招待券が当たる。これへの期待も含めた評価となるだろう。

なお、11日に募集されたトヨタファイナンスの3年債は、民間企業の募集した社債としては、初めて利回りが0%となっている。クーポンは0.001%に設定されているが、発行単価が100円00銭3厘のオーバーパーとされているためである。既に財投機関債等では同様の0%債券は確認されていたが、社債でも見られるようになったものである。ほかの高格付け発行体で追随が見られるか注目されるが、日本銀行が今後マイナス金利を深掘りした場合には、より長い年限や格付けの低い発行体による募集も考えられる。利回り0%の意味するところを、よくよく考えておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/30~10/4

下期入りした起債市場は、月初めの10年長期国債の入札を経て、3日(木)から社債等の条件決定と、募集が始まっている。その木曜日にいきなり、ジャックスが3本立て計400億円を募集し、東京電力パワーグリッドは同じ3本立てで計2,000億円と巨額の募集を行っている。決して金利の先高感はなく、むしろ先行きの金利について日銀によるマイナス金利の深掘りを見込む市場参加者が多い中では、発行体側に慌てて起債するインセンティブは乏しい。逆に、金利低下を見込んだ投資家側には購入ニーズがあると見るべきだろう。もっとも、近年の市場環境では、社債等の潰れたスプレッドと日銀による低金利政策から、社債等の購入意欲を減退させている投資家も少なくないだろう。下期入りした時点での運用資金の消化ニーズと見るべきかも知れない。

近年の社債等は金曜日に募集される案件が多い。週の初めを避けて、曜日の兼ね合いから結果的に金曜日に集中する傾向が顕著なのだが、もう少し曜日を分散した方が投資家にとっても引受証券にとってもメリットあると考えられる。実際には、既にクーポンや発行額等かなりの条件が前日までに決まっており、条件決定の当日は、単なる儀式に過ぎないために、案件が集中しても支障ないと見るのであろう。実際、金曜日に3本立て1,000億円の社債を募集したソニーについては、既に前日の段階でクーポンも募集金額も仮決めされており、当日は単なる確認でしかなかったのは事実だ。現実、募集当日の起債環境に大きな変化がなければ、このように前日までに、実際的な募集行為がほぼ終了していることは珍しくない。

この週は、上半期頭の起債ということで、やや高格付けの案件が集中したように見える。ソニーこそ現在の格付けはR&IのA格及びJCRのA+格と必ずしも高格付けではないが、かつて有力な引受証券群を傅かせていた強固さは、発行金額の大きさに表れている。その他に、7年債と10年債各150億円を募集したダイキン工業はAA-(R&I)格及びAA(JCR)格を取得しているし、3年債200億円及び5年債100億円を募集したリコーリースはJCRのAA-格と高水準の格付けを取得している。首都高速道路5年債400億円、日本政策投資銀行の3年債・5年債10年債・30年債の4本立て計900億円といった公共セクターも大型起債である。

電力債の格付けは必ずしも回復していないが、A(R&I)格の北海道電力は10年債100億円を募集し、A+(R&I)格及びAA(JCR)格の中国電力は10年債200億円を募集している。これら以外にも、A(R&I)格のニッコンホールディングスが10年債100億円、A-(R&I)格のセガサミーホールディングスが10年債100億円、同じくA-(R&I)格の新生銀行が3年債100億円及び5年債200億円を募集している。この後も様々な業態の起債観測が数多くつ上がってきており、下期の起債市場は、当面、活況な展開になりそうである。

国内起債市場を斬る 2019年度上期末特別号:令和元年の上期を振り返って

5月から令和元年度となった今年度上半期の起債市場を振り返ってみよう。起債環境としては、米中貿易摩擦の影響を受けて欧米の金利先高観が後退し、グローバルの景気トレンドは下方に向かうと想定された。その結果、クレジット面では、低格付け債のスプレッドに拡大圧力のかかることが懸念された。ところが、FRBによる予防的な利下げやECBによる金融緩和縮小の撤回によって、株価は利下げ催促を意識して高水準を保っている。日本においても、日本銀行は既に金融緩和の手段を相当程度使い尽くしているものの、マイナス金利の深掘りを意識して、株価は高めを維持している。欧米のみならず、日本においても金利の先高感は後退し、10年国債利回りはマイナス金利が導入された2016年に記録した最低水準と同程度にまで低下している。利回り確保の一つの方向性である年限の長期化が十分に機能しない中で、投資家はもう一つの方向性であるクレジットリスクの拡大を意識せざるを得なくなっている。

年限について振り返ると、日銀による買いオペ対象の期待から見られていた3年債の募集は環境変化から少なくなり、低利回りから5年債の募集もあまり多くは見られない。起債市場の中核は、従来からの10年債に加えて、業種・銘柄によっては超長期債になる。その一方で、国債利回りのマイナスが残存15年程度にまで拡大すると、ほぼ全年限でスプレッドプライシングが適切に機能しなくなり、結果として、20年前の起債市場のような絶対水準の利回りをベースとした起債がほとんどになっている。もっとも、マイナス金利政策によって、対象年限の国債利回りがマイナスとなっていた中期債では、既に利回りの絶対値によるプライシングが主流となっており、絶対値の適用年限が全体に及ぶ傾向のあることが上期の一つの特徴であろう。

クレジットの面では、必ずしも低格付け銘柄の募集が増えたというイメージではない。それでも、新規に市場での社債発行に取り組んだ企業は少なくなく、A格付のゾーンを中心に起債本数は確保されている。BBB格付ゾーンに満たないハイイールド債が公募されたことは一つのトピックであり、後続案件の参加による市場の拡大が期待されるところである。

年限の長期化とクレジットリスクの拡大という二つのベクトルを同時に満たしているのが、ハイブリッド債の流行であろう。期限前償還されるならば単なる中期債であるが、コールされないと仮定して最終償還を意識すれば、超長期債である。しかも、コールオプションのプレミアム相当分に加えて、劣後プレミアムが乗っているのであるから、利回りは十分に高くなる。投資家のイールドハントに対するニーズと、発行体の長期資金調達及び資本の充実ニーズの双方を満たすウィン・ウィンの起債である。しかし、双方がハッピーということは稀なのが市場の常であり、将来的にはハイブリッド債に対する幻想も、資本性評価の見直しや発行体によるコール見送りが頻出するようなことになれば、投資家からの需要は急速に減退することになろう。