国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐2

新型コロナウイルス感染の影響は、日を追って拡大している。異論はあるが、中国で最初に感染爆発が生じ、それが近隣の日韓に拡大した。前週末時点で中国の感染者は8万人強で、死者は3千人強とされている。日本では、武漢周辺からの帰還者や英国籍のクルーズ船乗客を除いて、決して感染者の発生は多くなかった。隣国の韓国では。宗教団体を中心にクラスター化及びスーパースプレッダー化したことなどから、感染者が1万人に近づいたが、死者は150人に満たない。韓国の感染拡大については、ピークを越えたようである。当初、東洋人や東洋料理店に対して「コロナ」差別を行っていたと報道され他人事と見ていた欧米では、遅れて感染が拡大することとなった。その欧州では、イタリアの感染者9万人弱・死者9千人を筆頭に、スペインで感染者6万人強・死者5千人、フランスで感染者3万人強死者2千人といった広範囲の感染となっている。英国皇太子及び首相の感染や、モナコ大公の感染は象徴的な事象である。対岸の火事と見ていた感のあるアメリカも、感染者は10万人を超え、死者は1,500人(3月26日現在)を超えている。既に中南米やアフリカでの感染も報告されており、世界的なパンデミックとなっている。日本はこれまで何とか感染爆発を抑えてきたが、大都市圏を中心として感染者の拡大や複数のクラスター発生が確認されている。

全世界で既に60万人が新型コロナウイルスに感染しており、拡大を抑止するため、各国によって人々の移動や生産活動が制限されている。東京で行われた週末の外出自粛などは可愛いもので、国によっては不必要な外出に対する刑事罰の適用すら行われている。こうした状況下では、当然、経済全般が停滞する。小売、サービス、運輸といった直接の影響を受け易い業種もあるが、従業員が生産工程に参加できないのであれば、メーカーにも大きな影響があるだろう。様々な企業への悪影響が長期に及ぶならば、雇用の減少から所得経由で消費に悪影響が及ぶのは必至であり、経済全般の停滞による影響を受けない業種はないと言って良いだろう。

それでなくても、2019から2020にかけては、景気循環による経済の停滞が予測されており、結果として、COVID-19が不況(場合によっては恐慌)のトリガーとなった可能性が高い。景気後退局面においては、信用力の劣る企業にまず影響が生じる。幸い日本にはハイイールド債市場が存在せず、代替機能を銀行等金融機関が担っているために、クレジット市場がすぐに機能不全となることは回避されるが、海外においては、経済活動の抑止が長引くに連れて、低信用力企業の破綻が多く生じることだろう。もっとも、信用力や業種の一般的な傾向とは別に、債務負担の大きな特定企業は信用力を大きく棄損することになるだろう。知名度のある大企業の破綻が引き起こされる可能性も、否定できない。

株価の大幅な上下変動は、必ずしも社債の価格変動とはリンクしないが、既にCDSは大きな値動きを示しているし、海外の一部社債銘柄では他にも理由があるものの、時価の大きく下落している例が見られる。これまでのところ金融市場そのものは、リーマンショック時のような機能不全には陥ってはいないが、これからの展開、特に都市の閉鎖や自粛がいつまで長引くかということが、大きなファクターになりそうである。何れにせよ、経済全般も金融市場も長期の非常事態に直面する厳しい状況に置かれていることになる。経済の実態と各国政府の施策を注意しておきたい。ただし、デフォルトが発生しない限り、債券は償還によって額面が返済されることを忘れてはならない。過度に悲観することは不要である。
(本稿続く)

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐1

2019年度内の起債市場の動きは、終了した。3月末に多くの企業が決算を迎えるためである。特に、金融セクターは投資家も引受証券も3月末決算を採用しており、具体的な起債の動きは停滞する。今年度末は、新型コロナウイルスによる肺炎の拡大による影響が色濃く市場に出始めている。特に顕著な影響が見られるのは株式市場であるが、日経平均株価も米ダウ平均も上下の値幅を拡大しながら、基本的に大きく値を下げている。これは、各国中央銀行の強力な金融緩和による株式市場のバブルが、新型コロナウイルスの蔓延によって経済のファンダメンタルズが受ける影響を懸念して崩壊したものとも考えられる。欧米の中央銀行は3月に入って金融緩和を強化し、日銀もETFの買入れを増額しているものの、株価の下落を防ぐことはできていない。こうした状況は、クレジット市場にも無関係ではない。

新型コロナウイルスの拡大による影響は、様々な経路からクレジット市場にも及ぶことになるだろう。一つには、端的に影響を受ける業種としては、収益低下から信用力の悪化が考えられる。まずは、各国が人と物の流れを遮断しているために、空運・海運といった運輸企業が大きなダメージを受ける。既に、737MAXのトラブル問題から経営悪化していた米ボーイング社は、政府に対して支援要請を行っている。また、他の国々でも航空会社の路線休止からレイオフや経営統合に向けた動きが見られており、さらに、LCCの経営危機や破綻も次々に表面化している。海運に関しては、これから徐々に影響が出て来ると思われる。少なくとも、クルーズ船については、プリンセス号に加えてナイル川クルーズでの感染者続出から、当面、大きく業績が損なわれることだろう。

次に、多くのサービス業が影響を受けるのは必至である。代表的なのは演劇、音楽等の興行系企業であるが、クラスター感染のポイントとなったスポーツクラブや接客業等は特に大きなダメージを受ける。社債発行企業は決して多くないが、期限の見えない自粛を求められることから受ける影響は甚大である。しかも、株価の全般的な下落に見られるように、経済全般が大きな影響を受けていることは否定できない。中でも、医薬品等の特定業種を除いて、消費全般が低迷している。生活必需品に関しては、状況に関わらず消費は継続するものの、奢侈品やレジャー系の消費は低迷する。外食産業の受ける影響も甚大である。企業による余剰人員の削減等の対応は進むが、その結果として所得が減少し、消費全般が低迷するという悪循環に陥るだろう。

このように、幾つかの特定業種だけのクレジットが悪影響を受けることから始まり、その影響がマクロ経済全般にまで及びかねない状況である。オリンピックの予定通りの開催可否は単なる象徴に過ぎず、日本だけでなく世界経済に対して新型コロナウイルスの与える影響は大きい。ファンダメンタルズの悪化に加え中央銀行の金融緩和強化もあって、金利の上昇を到底望める状況にはないのである。
(本稿続く)

国内起債市場を斬る 起債評価:3/9~3/13

今年度の起債としては、最終ステージと言える週となった。駆け込みの案件や、大型案件が見られ、例年特殊な事情や特徴のある案件が出て来る時期である。実際に募集された案件の中から幾つか挙げてみよう。

まず、大和証券グループ本社の二本立て永久劣後債である。期限前償還のタイミングで5年と10年の二つに分けられているが、NC5年債が1,250億円でNC10年債が250億円と合計で1,500億円の大型起債である。いわゆるAT1債であり、Tier1に算入される。格付けはBBB+(JCR)格と高くないが、ファーストコールまでのクーポンは1.2%と1.39%であり、通常の社債では得られないような高水準である。魅力的な購入対象と考える投資家も少なくないが、大和証券グループの将来を考えた際に、懸念なしとは言えない。特定の大手銀行、大手外銀グループとのパイプを有しない独立系の位置づけは、野村證券と同様である。しかし、今や「債券の大和」「国際部の大和」のプレゼンスは、野村ほど見られず、脅威を感じるようなグループの展開網はない。大手証券の一角を維持しているものの、経営陣の人選が法人部門にバイアスがかかっている同社には、将来的に経営戦略上の懸念は残る。今月に入っても、経営危機を意識されているドイツ銀行がAT1債の期限前償還をスキップしており、同様の手段をとる可能性がないとは言えない。この劣後債についても、投資家が十分にコールされないリスクを意識して購入したか、興味深いところである。

次に、三井不動産は、15年債300億円・30年債100億円・50年債100億円の超長期債計500億円を募集している。中でも50年債は、対照年限の国債が存在しない中での募集であり、過去に三菱地所、東日本旅客鉄道、大阪瓦斯、東京メトロと4社の発行事例があるものの、三井不動産という会社の安定性は、やや先行4社に劣る。しかも1.03%のクーポンで絶対水準を確保したとされるが、わずかな1%越えでは投資妙味があると言い難いのではなかろうか。

続いて、ソフトバンクは3年債・5年債・7年債・10年債の4年限で各100億円を募集している。ほぼ投資会社と化した親会社とは異なって、携帯電話等を中心とした通信会社であり、現在の事業の安定性は高い。しかも、ソフトバンクグループの社債と異なって、100億円×4本と小額の分散発行である。機関投資家は、十分に投資価値があると判断したことだろう。

最後に挙げるのは、日本航空の3年債及び20年債各100億円である。3年債は日本銀行のオペで買入対象となることが期待できる。しかし、その一方で、新型コロナウイルスの世界的な蔓延で航空ビジネスに甚大な影響の発生が確実視される中での社債募集は、投資家軽視と批判されても仕方ないだろう。既にイギリスではLCCが倒産しており、他の国々でも航空会社が大幅に路線減を強いられ経営危機が意識されている。欧州諸国で国境を閉鎖したり、アメリカが欧州からの渡航を遮断するといった動きが見えており、人と物の動きが止められているため、空運ビジネスに与える影響は軽々なものではないし、まだ、十分に見通すことが出来ない。日本からの流入に対して制限を科したり受け入れを拒否している国は、既に50を超えている。このタイミングでの空運会社の社債募集は、不適切であると言っても過言ではない。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/2~3/6

いよいよ年度内の最終月に入ったが、起債市場の盛り上がりは感じられない。何しろ新型コロナウイルス問題で、経済が正常の状況にはないのである。日本のみならず世界的に株価下落が進んでいることに加え、アメリカの予防的利下げからの金融緩和は世界的な金利低下の再燃となっている。特に、Brexitの余震が冷めやらぬイギリスでは、2年物と5年物国債の利回りがマイナス圏に突入するという事態に至っている。世界的な経済活動の停滞が見込まれることもあって、原油価格の大幅な下落とともに、リスクオフの円高も確認されている。当初は日本を新型コロナウイルスの感染国とする見方から、円安に振れる可能性も残されていたが、イタリアを筆頭とする欧州やアメリカ本土での感染が日本以上に拡大するにつれて、円安の可能性は消失しつつある。

このような経済情勢の大きな悪化の中では、クレジット市場も低信用力のゾーンを中心に大きな影響が生じることは必至である。欧米でいえばハイイールド債であるし、原油価格の低下による直接の影響を受けるのは、シェール関連企業である。これらの先行きには大きな懸念を持つべきである。また、新型コロナウイルスの直接的な影響が懸念され、実際に破綻やレイオフ等の実例が見られ始めているのは、空運、サービス、レジャー、宿泊等の業種である。

金利の低下とクレジットスプレッドの拡大という平時には見られない展開が予想される状況にある。発行体は慎重に動くようになるだろうし、投資家も慎重に見るべき時間帯である。しかし、東日本大震災の9周年を迎えて、つくづく3月は鬼門であるという思いが強い。学校の卒業式・入学式やスポーツ、イベント等に与えるネガティブな影響は、経済的にも心理的にも甚大なものが予想される。近年の金融緩和に下支えされた微温経済と呼ばれる状況は、ウイルスの蔓延によって崩壊を迎えることになるだろう。なお、異常気象下で大発生したバッタによる被害がアフリカからインド亜大陸に拡大しており、中国方面に展開した場合には、黙示録に描かれたような惨状となるリスクが懸念され始めている。その場合には、食糧不足による物価上昇というパスの示現する可能性もあるのだが、その前に世界的な政治・経済の混乱が生じる可能性も否定できない。

こういった状況での起債市場は、年度末に向けての追い込みである。日立製作所の計2,000億円の大型起債やオリックスによる1,000億円の劣後債の募集といった動きもみられるが、メーカー、不動産などの起債も幾つか行われているし、グリーンボンドやソーシャルボンドの募集も見られている。世界的には金利水準が低下しているものの、日本の場合には元から低金利となっていたためにあまり顕著な低下は見られない。3月9日の週がほぼ年度内最終の条件決定可能期間であり、その後は3週間程度の起債市場は様子見となることだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/24~2/28

前週は起債市場が盛り上がりを見せたものの、この週は、また、28日の金曜日にほぼ一極集中した。27日、木曜日に募集されたのは国際協力機構のソーシャルボンドのみであり、残り2週間となった年度内の起債市場の募集に向けた動きは、多くが3月に持ち越されている。この週の動きとしては、日立製作所の募集延期を挙げることができる。最大2,000億円程度の大型起債が予定されており、この週の候補案にでも募集する予定であったが、M&A関連の動きが遅延したことで、1週間程度遅らせることになったようである。年度内には募集されるのではないかと思われる。

2月28日の金曜日に募集された社債等の中では、まず、以前に指摘した大型起債が目に付く。パナソニックは6年債300億円と10年債700億円の計1,000億円を募集している。R&IのA格と必ずしも高水準の格付けではないが、知名度の高さは投資家に受け入れ易い発行体である。また、富士フィルムホールディングスは3年債1,000億円と5年債500億円の計1,500億円を募集している。R&Iの格付けはAA格と日本国債を1ノッチ下回るだけであり、3年債と5年債という短めの年限もあって、この日最大の起債となった。更に、本田技研工業は3年債400億円・5年債400億円・7年債200億円の計1,000億円の社債を募集している。格付けは、富士フィルムホールディングスと同じくAA(R&I)格である。同年限のクーポンを比べると、3年債では富士フィルムホールディングスの0.06%に対し本田技研工業は0.05%と発行額によって差が生じ、5年債では富士フィルムホールディングスと本田技研工業は同じ0.12%クーポンとなっている。発行額に100億円しか差がなかったためであろう。

世界的には新型コロナウイルスによる肺炎が蔓延したことを受けて、実体経済や金融市場への影響が懸念されることから、欧米の資本市場では社債募集の動きが乏しくなりつつある。株価の大きな下落と反騰、更には中央銀行による金融政策の匂わせ(におわせ)などから、週明けには米国の10年国債が最低水準の利回りを更新しており、安定した金融市場の状況にあるとは見えない。このような状況でも、日本の金利水準は低下したものの、日本銀行による統制下にあるため、大きく金利が変動しないために、当初は日本の起債市場は新型コロナウイルスの影響をあまり受けないやに見えた。しかし、27日に安倍晋三首相から、全国の学校に対し春休み迄の休校要請があった。これによって、市町村立小学校は全体の98.8%、市町村立中学校と都道府県立高校はそれぞれ99.0%が休校に入った。国立の小中高校は100%が休校、私立学校、その他教育機関もそれにならった措置を行っている(3月4日朝現在)。もはや、金融史上に残る非常事態である。日本はイタリアを除く欧米よりも多くのウイルス患者を出しており、中期的に経済の受ける影響は甚大であると想定される。起債市場に於ける影響に関しては、年度末に向けた動きに大きな変化が起こるようだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/17~2/21

ようやく起債市場での募集の動きが本格化している。しかも、金曜日に向けての盛り上がりが顕著であった。民間の社債だけでカウントしてみると、19日の水曜日が2社3本で、20日の木曜日が2社2本、そして21日の金曜日が7社計16本である。毎度のことだが、もう少し分散した方が、引受証券も投資家も楽ではないかと思うのだが、基本的に「出せば売れる」市場であるため、あまり問題視はされていないようだ。ただし、今月に入って日本証券業協会は、「社債等の発行手続きに関するワーキング・グループ」を組成して、発行市場に関する課題について議論を開始している。会員である証券会社のメンバーからなる議論で、どこまで突っ込んだ話ができるかは懸念されるが、何らかの進展が見られることを期待したい。必ずしもPOT方式の採用だけが、万能の改善策ではないはずだ。

この週の起債の特徴としては。大型起債を指摘して良いだろう。まずは、三菱ケミカルホールディングスの7年債200億円・10年債200億円・20年債300億円の計700億円である。同社の格付けはA(R&I)格及びA+(JCR)格であり、高いと言えば高い水準ではあるのだが、必ずしもBtoCが主体の企業ではなく、知名度も高くない。多くが基礎化学や素材の領域に属する製品のメーカーであり、20年債を募集するにはやや危惧が残る。元々の三菱化成等はBtoCに縁は薄いように見えるが、クリンスイは旧三菱レイヨン系の浄水器メーカーであり、三菱ケミカルメディアは光学メディアのメーカーとしてユーザーからは高い評価を得て来た。更には、旧田辺製薬から引き継いだ医薬品事業には、市販医薬品などが残っている。それでも、700億円の起債を成功させるには、知名度は高くないと言うべきだろう。

もう一つの大型起債は、アイシン精機による劣後債の募集である。同社の劣後債は3本立てで、いずれも最終償還は60年後とされているが、最初の償還可能時点が5年のもの、7年のもの、10年のものと区別されている。発行額で見ると、ノンコール5年債が1,300億円、同7年債が190億円、同10年債が510億円と計2,000億円の超大型起債となった。当初の固定利率期間のクーポンは、0.4%、0.41%、0.47%と年限ごとの差は大きくなく、スプレッドで見ると+47bpsで横並びに設定されている。アインシン精機の劣後債は、劣後性のためにA(R&I)格と評価されているが、トヨタグループの重要な部品メーカーであり、現在でも筆頭株主はトヨタ自動車である。万一の場合に期待できるサポートを考えると、投資妙味を高いと見た投資家も少なくなかっただろう。それが超大型起債につながったものと見られる。

引続き、メーカーによる大型起債の動きが観測されている一方、金融系の劣後債も大型募集が予定されている。年度末に向けて、まだまだ起債市場の熱い動きは続きそうだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/10~2/14

相変わらず社債等の募集は少ない。決算発表に絡む時期であるという季節的な要因に加えて、火曜日が建国記念の祝日であったため、募集に動ける営業日が多くない。週末の金曜日に多数の条件決定と募集に動くのは、次の週以降になりそうだ。この週に募集された民間企業の社債は、日本土地建物の5年債と10年債計150億円のみであった。

今年度中に社債等を募集できる期間は、後1か月ばかりである。そのため、条件決定に向けた動きは多数確認されている。募集の直前に動き出す銘柄も少なからずあると考えられるが、既に起債観測の上がっている銘柄は少なくない。大まかに見ると、幾つかの傾向があるようだ。一つには、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンド等のいわゆるSDGs債である。東北電力、三井倉庫ホールディングス、学研ホールディングス、鹿島、国際協力機構などの募集に向けた動きが観測される。SDGs債の多くが5年債で募集される傾向にあるが、決して5年債でなくてはならないというものでもない。発行体の業種特性に応じて、長めの年限ということも考えられるだろう。本来的に、SDGsのサステイナビリティ要素を考慮すれば、長期債の方が望ましく、中短期債は必ずしも趣旨にそぐわない可能性が高い。

もう一つの動きが、劣後債である。ハイブリッド債と馴染みやすい命名で呼んでいるものの、基本的には、通常の社債券に回収等の局面で劣位する債券である。期限前償還がほぼ確実視される金融機関の発行するものと、純粋に経済的な観点から期限前償還が行われるかどうかが決められる一般事業会社の発行する劣後債とでは、償還に対する発行体の考え方が大きく異なる可能性が高い。加えて、会計上は負債に分類されるものが格付会社によって部分的に資本性を認定されるという証券の位置づけは、格付会社による評価基準が変更された場合、一瞬で状況が変わってしまいかねない。ハイブリッド債といった美名で、制度変更リスクを糊塗(こと)するのはやめておいた方が良い。

最後の動きとして挙げておきたいのが、大型起債である。歴史的にも、ソフトバンクのような例外はあるものの、年度末近くのタイミングで、まとまった金額の社債募集が散見されている。今回もアイシン精機とオリックスの劣後債の他に、パナソニックや三菱ケミカルホールディングス、富士フィルムホールディングス、日立製作所、ホンダといった企業の大型起債に向けた動きが見られる。500億円を上回る金額が想定されており、これら大型起債のほとんどがメーカーによるものであることに留意しておきたい。他にも、銀行や証券による大型起債の可能性もあり、年度末に向けてこれから約1か月の動きが注目されるところである。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/3~2/7

この週は、純粋な民間企業による公募普通社債の募集は見られなかった。市場に登場したのは、財投機関を中心とした公共セクターばかりである。地方債と地方道路公社債を除くと、中部国際空港、阪神及び西日本の高速道路、都市再生機構、住宅金融支援機構、大学改革・学位授与機構といった発行体である。年限は3年から40年と幅広い。クーポンで見ると、0.005%から0.677%という分布幅である。基本的には準ソブリンという位置づけの発行体ばかりであり、必ずしも日本国債と同じ格付けという評価ではないが、十分に高水準の評価を得ており、万一の場合にも、政府による財政支援の可能性は高いことが期待される。特に、最長の40年債を募集した都市再生機構は、前月末にR&Iの格付けがAA格からAA+格と引き上げられて日本国債と同じ符号になったため、投資家の購入意欲が高くなったのではなかろうか。事業内容が民間企業と近しいものであっても、災害時の支援等公的セクターが担うべき使命がある以上、安易な民営化が強行できないことは、特に東日本大震災以降の政権が強く認識していることだろう。

その他に、純粋な起債にかかる動きではないが、社債に関して興味深い発表が見られた。NTT都市開発が会社分割によって、社債の債務をNTTファイナンスへ承継するというものである。両社いずれもNTTの関係会社である。前者は、NTTの100%子会社であるNAT-SH社の100%子会社である不動産会社である。かつては東証一部に上場していたが、2019年初までに公開買付けによって上場廃止となっている。後者は、NTT及びグループ会社が全株式を保有しているNTTグループのファイナンス会社である。今回の社債の承継は、NTT都市開発の非上場化に続く、同社のグループ内での位置づけの再設定と考えて良いだろう。歴史的に、NTT都市開発はNTTグループの所有して来た電話局等の不動産物件の管理と周辺を含めた開発を担って来た不動産会社であり、バブル経済崩壊後には傷みを抱えていたものが、その後の立て直しが功を奏し、総合不動産会社としての地位を確定している。ビルのブランドとしては、アーバンネットが代表的である。

今回の社債承継の対象となるのは、NTT都市開発の第10回債から第18回債(償還済の第16回債を除く)というすべての既発債である。いずれもNTTファイナンスによる承継後は、名称がNTTファイナンス第6回債から第13回債へと変更される予定である。NTT都市開発の格付けはR&IのAA格で、NTTファイナンスの格付けはJCRのAAA格及びS&PのAA-格である。ニュースリリースでは、債務の承継により同等以上の信用力を有する債務の承継となるために社債権者への不利益変更ではないとしている。債務の承継に際して、当該社債の時価に相当する金銭その他の資産も承継するとしていることが理由とされる。

今回の一連の経緯を見ると、NTTグループ全体の中での企業の役割を整理するものに伴うものであると解されるし、債務と資産の承継であるから、社債権者が今回の会社分割によって不利益を被ることはないと考えられる。日本の社債市場においては、M&A等による社債権者への不利益変更を強行した例が少なからず見られて来たが、今回は十分に適切な対応であろう。

懸念されるのは、投資家によっては、NTT都市開発債がNTTファイナンス債へと変更されることで、同一発行体に対する社債投資の規制に抵触する可能性があることだろうか。継続保有が困難になる投資家については、ニュースリリース記載の問合せ先まで照会してほしいと明記されており、限定的なケースではあるが、こういった事態の発生も念頭に置いているようである。

国内起債市場を斬る 新春特別号Ⅱ:新型コロナウイルスとクレジット

中国武漢市を淵源と想定されている新型コロナウイルスは、中国国内での高速鉄道や航空機網の発達で、中国本土の各地に蔓延するだけでなく、日本を含む世界各国に感染者が出ている。既に死者は中国外でも生じており。かつてのSARS禍の時代とは異なり、既に中東や欧州等短期間で世界全体に広がっていると言って良いだろう。当初の湖北省地方政府による情報隠蔽等の責任は否定できないが、交通網の発達によって現代社会におけるパンデミックとして懸念されていた通りの状況になりつつある。既に小松左京が「復活の日」で予想していた惨状であるが、現状まででは、新型コロナウイルスによる肺炎の致死率が必ずしも高くないことが唯一の救いのようにも思える。もっとも、今後より悪性に変異する可能性はあり、警戒を怠るべきではない。

既に数十の国が中国全土もしくは湖北省等特定地域に滞在していた非自国民の入国を拒絶するようになっている。WHOは往来を制限しないように勧告していたが、各国の世論を考えると、個別政府による入国拒否の判断はやむを得ないだろう。そのため、観光客の減少によるインバウンド消費の減少などだけでなく、インバウンドとは比べ物にならないくらいの大きな影響が世界経済全体に及びつつある。中国が担ってきた世界の工場としての機能は、最低でも数か月の停滞は必至である。工業生産の停滞は、脆弱さが徐々に明らかになりつつあった世界経済の足腰を更に弱らせることになろう。

新型コロナウイルスは経済全般に大きな悪影響があることから、株価全般に悪い影響が出続けるだろう。日によって株価の上下は繰り返されるものの、当面、下降トレンドとなることは必至であろう。同時に、金利の上昇を抑止する傾向は継続する。幸いなことに、金利水準が既にマイナスに突っ込んでいることから、更なる金利の低下は回避できるかもしれない。しかし、全般的な金利の低下もしくは横這いと、クレジット市場の先行きは別物である。新型コロナウイルスの感染拡大は、薬品やマスク等医療関連の企業にのみプラス効果となる可能性があるものの、物流・観光の量的減退に加えて、消費の全般的な停滞と世界経済そのものの悪化から、幅広い悪影響が出かねない。もしウイルス感染の影響が長期間に及ぶようであれば、特に、信用力の低い企業に関しては、業種にかかわらずデフォルト懸念が拡大するだろう。

業種によっては、特に大きな影響を受けるものもあるために、業種毎の脆弱性をよく吟味しておくべきである。新型コロナウイルスの感染拡大による影響を特に強く受ける可能性のある業種として考えておくべきなのは、東証33業種の区分でいえば、電気機器、サービス業、海運業、空運業、卸売業、小売業が、まず浮かぶ。しかし、中国マネーが多く入って来ていた不動産業にも懸念は残るし、経済の停滞が長期間に及ぶようであれば、製造業全般にも影響が及ぶだろう。これらの業種に属する企業の発行する社債が影響を受ける可能性はあるし、逆に、スプレッドが乗るのであれば、絶好の投資チャンスとなるかもしれない。金利低下の趨勢に大きな変化のない中で、こうした市場の状況変化を着実に掴んでおきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/20~1/24

起債の波に大小があるのは、いつものことである。条件決定のラッシュが来たかと思うと、翌週は急速に案件数が減ってしまうことも少なくない。実際に、前週と比べると、この週の案件数は、減ってしまっている。それでも、24日の金曜日は、複数の条件決定が行われている。この後は、12月決算発表もあるので、波は小さくなりそうであるが。

この週の全般について特徴を探すと、ノンバンクと鉄道が主であるといったことになるだろうか。いずれも金曜日の募集案件であるが、ノンバンクでは、イオンフィナンシャルサービスが3.5年債と5年債計500億円、オリックスが5年のグリーンボンド100億円、クレディセゾンが5年債200億円の計800億円を募集している。この中ではオリックスの5年債が0.19%ともっともクーポンが低く、続いて、クレディセゾンの5年債0.22%で、同水準にイオンフィナンシャルサービスの3.5年債が続いており、もっとも高水準だったのはイオンフィナンシャルサービス5年債の0.3%となる。利回り水準そのものは決して高くはないが、R&Iの格付けのみで見ると、オリックスとクレディセゾンがA+格であるのに対し、イオンフィナンシャルサービスはA-格とツーノッチの差が存在している。なお、オリックスとイオンフィナンシャルサービスについては、東証の業種区分は「その他金融業」であるが、傘下に銀行や保険子会社を有しており、総合的な金融コングロマリットの持株会社としての側面も有している。将来的には、傘下の事業が拡大するならば、業種区分の変更が行われることがあるのかもしれない。

鉄道に関しては、月初に募集された個人投資家向け社債とは異なり、年限は長めである。京王電鉄が10年債100億円を募集した他、近鉄グループホールディングスは5年債と20年債各100億円を募集している。格付けで見ると。京王電鉄がJCRのAA格と突出した高水準であるのに対し、近鉄グループホールディングスはBBB(R&I)格及びBBB+(JCR)格と前述したノンバンクよりも低い水準にある。クーポンのみで比較すると、京王電鉄の10年債が0.205%とオリックスの5年債に続く水準であり、その後に近鉄グループホールディングスの5年債0.22%が続き、同社の20年債0.91%が別次元の高存在となっている。別の見方をしてみると、近鉄グループホールディングスは格付けでは劣位にあるものの、相対的に安定した事業基盤を有する鉄道セクターということで、5年債のクーポンがクレディセゾンの5年債と同水準であり、イオンフィナンシャルサービスの3.5年債とも同じになったものである。利回りの水準が単純に格付けに表される信用力だけに左右されるものではないという例になっている。

これらのセクター以外には、東京電力パワーグリッド7年債やT&Dホールディングスの劣後債、中日本高速道路の5年債などの募集が見られる。利回り水準だけで見ると、東京電力パワーグリッド(0.68%クーポン)やT&Dホールディングスの劣後債(当初5年0.69%クーポン及び当初10年0.94%クーポンの2銘柄)は高水準である。原発事故の影響を受ける一方で一般担保付の枠組みを維持している電力や、金融庁の監督下にあって初回コールがほぼ確実視される保険持株会社の劣後債という特性から、購入姿勢を示す投資家が限定的なためでもあるが、仕組みの面では、デフォルトへの距離は遠いとも考えられる債券である。債券の特性を理解し購入対象とする投資家が限定的であることが、高水準の利回りが付される大きな要因である。