国内起債市場を斬る 起債評価:6/13~6/17

3月期決算企業の株主総会が近づくと、例年起債市場の動きは鈍くなる。ヘッドラインリスクの発生を怖れるのが一つの要因であろうが、今年は金融政策の変更懸念や、円安に加えて株価が上下動を繰り返していることもあって、起債環境としてはやや不安定さが感じられる。そのためもあって、無理に資金調達を急がないという発行体側の事情も十分にあるだろう。

何しろこの週は、従前の10年国債に対する指値オペに加えて、国債先物が大きく売り込まれたため、残存7年国債に対しても日銀が指値オペを初めて実行したほどの状況であった。先物が売り込まれた結果、7年と10年の国債利回りが逆転するなど、通常の自然なイールドカーブが崩れてしまったのである。イールドカーブコントロールという金融政策そのものが、市場を統制し管理下に置くというものであるから、既に自然なイールドカーブでなくなっていた可能性は高いが、通常の右肩上がりの姿を失ってしまった状態に人為的な弥縫(びほう)策(さく)を講じても、必ずしも容易に目的が達せられるとは限らない。日銀の歪んだ政策に一部のヘッジファンド等が真っ向から挑んだ形である。もっとも、国債先物取引には限月が設定されており、ローリング決済が可能とは言うものの、期近でなければ取引量に限界があり、圧倒的に日銀及び財務省側が有利である。流動性供給入札と買入オペによって、国債の個別銘柄についても需要と供給の両方をコントロールできる当局と戦って、売り方に勝ち目はないだろう。

7年から超長期年限の金利上昇を受けて、長めの年限での調達がほとんど行われなくなっている。社債等の募集を見ても、北陸電力の8年債くらいなもので、地方公共団体金融機構がFLIPに基づいて14年債と15年債を募集しているが、これは公募と言っても、特定の購入者が具体的に見えている起債であって、一般的に広く市場で購入者を募るものではない。もっとも、金融商品取引法が想定していたような一般公募は、現実の有価証券募集の局面では、なかなかお目にかかれなくなっているようであるが。プレマーケティング等の事前ヒアリングによって、社債等の販売は募集金額が変更されることも少なくなく、また、取引の透明性を確保する募集方式が一般化したこともあって、募残が発生するようなことも珍しくなっている。

結局のところ、みずほリースの4年債100億円、JERAの3年債121億円、GMOインターネットの5年債60億円、加賀電子の3年債及び5年債各50億円と、イールドカーブコントロールが有効と見られる中期年限までの小額起債が、起債銘柄のほとんどとなってしまっている。社債等のSDGs債募集が見られなかったのは、珍しく感じる。なお、月内一杯は株主総会シーズンとなるため、カレンダーが7月に変わり、市場が落ち着きを見せるまでは、社債等の募集は全般的に大人し気味になりそうだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/6~6/10

この週の社債等の募集は、6月9日、木曜日にピークが来るという珍しい展開となった。それでも週の後半に募集が多く行われていることには変わりがない。まず、個別に目を引いた起債を幾つか挙げてみたい。中国電力の30年債120億円は野村證券による単独引受案件であり、クーポンは1.25%と高水準になった。円安が進み超長期金利が相対的には高い水準となっているが、決して歴史的に高い水準とまでは言えない。あくまでも、異次元の金融緩和以降の人為的低金利政策下において抑制された水準から、少し上がったという程度である。それでも1.25%が高いクーポンに見えてしまうのは、目線の慣れでしかないのだろう。

次に、アイフルが2年債300億円を募集している。クーポンは0.97%とわずかに1%を割れる水準である。中国電力30年債のクーポンにまでは届かないが、2年債としては明らかに高いクーポンである。かつてアイフルはR&I格付けがBBB-格に満たず、いわゆるハイイールド債の発行体として知られていたが、格上げ後の今回の債券発行に際して取得した格付けはJCRのBBB格である。決して安定性の高い業態とは言い難いが、2年債なら取得可能と考える投資家も少なくないだろう。

アイフルとほぼ似たような年限で起債したのが沖縄電力である。募集したのは3年債200億円で、クーポンは0.18%とアイフルの1/5以下になっている。格付けがR&IのAA格・S&PのA+格・ムーディーズのA1格と高いことに加えて、原子力発電所を有していないアドバンテージも有していることから、電力会社の中では相対的な勝ち組と見られている。もっとも同社の発電所は、水力発電が可能な大規模河川が県内に存在しないため、ほとんどが重油やLNG、石炭の燃焼による火力発電である。風力発電は離島にのみ設置されており、認可最大出力の0.1%のみしか占めない。

この週の起債は、相変わらずSDGs債が中心になっている。グリーンボンドの一つは、相鉄ホールディングスの5年債150億円であるが、資金使途を見ると、新型車両の購入はグリーンであるが、ホームドアの設置はソーシャルとされており、サステナビリティボンドの認定を得ても良かったのではなかろうか。もう一つのグリーンボンドは、サンケン電気の5年債50億円で、資金使途はEV投資とのことである。ソーシャルボンドは、日本高速道路保有・債務返済機構の4年債300億円・15年債100億円・20年債150億円の計550億円と福祉医療機構の10年債100億円といった公的セクターの財投機関債が占めている。

サステナビリティボンドの認定を得たのは、ゼンショーホールディングスの5年債100億円、三井住友建設の5年債50億円の二つで、サステナビリティリンクボンドは、オカムラの5年債50億円がSPT(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)未達成の場合に寄付する形式であった。なお、ENEOSホールディングスの10年債850億円と20年債150億円の計1,000億円はトランジションリンクボンドという目新しいラベルを付されているが、実態はサステナビリティリンクボンドであって、SPTs未達成の場合は、寄付し排出権を購入する仕組みである。引続き、様々なラベルを有した社債等によって、SDGs債発行市場の賑わいが続きそうである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/30~6/3

漸く、起債市場はエンジン全開に入った。目立つキーワードは、相変わらず、超長期、SDGs債という二つであるが、それらに含まれるものがあるものの、メーカーの起債が相次いだというのは、一つのピークであり、市場の盛り上がりを端的に示す兆候でもある。メーカーが発行条件を決定した社債は、横浜ゴムの7年債及び10年債計300億円、IHIの5年債及び10年債計200億円、キリンホールディングスの5年債200億円、サントリーホールディングスの3年債・5年債・10年債の計850億円、三菱ケミカルホールディングスの10年債170億円、エア・ウォーターの5年債100億円、JFEホールディングスの5年債及び10年債計300億円と、総計で2,120億円にも上っている。業種もゴム、食品、機械、化学、鉄鋼と幅が広い。

超長期債は、利回りが金利上昇の影響を強く受けており、民間企業による当該年限の社債発行は減っているように見えるが、公益企業や公共セクターといった安定基盤を有する発行体にとっては、まだまだ魅力的な水準なのかもしれない。低金利に慣れた投資家から見ても、現在の金利水準は、金利が上昇傾向を継続すると考えなければ、一頃よりも改善された利回りを享受することが可能である。全力で買い進むのでなければ、購入チャンスが継続していると考えていることだろう。中国電力16年債の0.85%クーポンは微妙な年限と利回り水準だったかもしれないが、四国電力の20年債に付された1%クーポンは数字が象徴する意味も大きい。一方で、都市再生機構のように、40年債が1.269%クーポンで50年債が1.435%クーポンと言われてしまうと、やや利回り水準の評価が難しく見えるかもしれない。果たして、それだけ先の将来の金利水準がどうなっているか、少なくとも現在の投資担当者は、債券の償還時にその部署どころか、その機関投資家で定年を迎えているだろう。何れにせよ、5年債以上では国債対比のスプレッドプライシングが復活している例も多くなっており、新たな目線の構築が必要になっている。

SDGs債の中では、ややトランジションボンドの募集が目立つようになっている。必ずしも環境に優しいとは思えない業態の企業が、環境改善に取り組む方向へ努力するプロジェクトに向けたファイナンス目的である。趣旨としては、ノンバンクが再生エネルギー関連融資に当てるといったグリーンボンドより、余程、筋は良さそうに思える。IHIは5年債と10年債の両方がトランジションボンドで、JFEホールディングスも5年債と10年債の両方がトランジションボンドとされた。トランジションボンド以外には、日本取引所グループの1年債はセキュリティトークンを活用したグリーンデジタルトラックボンド、長瀬産業の10年債はサステナビリティリンクボンド、エア・ウォーターの5年債はサステナビリティボンドと多様な募集があり、ソーシャルボンドもなかなかの流行のようで、キリンホールディングスの5年債、クレディセゾンの機関投資家向け5年債、都市再生機構の超長期債両方と目立っている。こうしたラベルを有した社債等は、投資家にとっても実利に限られない投資メリットがあり、ますますSDGs債市場の賑わいは続きそうである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/23~5/27

週の前半は静かに構え、週末に向けて一気に噴出するというまるで関脇「阿炎」関の立ち合いを彷彿する社債の募集の週となった。火曜日は地方公共団体金融機構によるFLIP債のみが募集され、水曜日はホンダファイナンスの3年債と5年債の2本立て計400億円の他クラレの10年債100億円と小規模の募集に留まり、木曜日も東急の10年債と20年債の2本立て計250億円、アサヒグループホールディングスの5年債と10年債の2本立て計600億円が募集され、徐々に募集金額の加速感が高まったように見える展開であった。ただし、ホンダファイナンスの格付けがR&IのAA格で、クラレはJCRのAA-格と高格付けであり、東急とアサヒグループホールディングスもJCRから取得している格付けはAA-格と、ここまではAAゾーンの高格付け起債が相次いだのである。

一気に社債等の募集が殺到したのは金曜日であった。条件決定された金額という意味では、楽天グループの個人向け3年物社債が1,500億円と最大の金額に見えるが、クボタの機関投資家向け社債も買収資金のリファイナンスの目的で、5年債と10年債とで同じく計1,500億円の総額を積み上げている。なお、楽天グループの個人向け社債には、楽天モバイル債という愛称が付されており、取り扱う楽天証券はインターネットセミナーで債券の基礎知識や『楽天モバイル債の魅力』に関する学習機会を提供している。楽天モバイルは、人口カバー率が高いと宣伝しているものの、大都市圏でも地下や高層ビルでの通信サービス提供に大いに難があるという批判は根強い。また、今年7月からの新料金プランでは3GB以内のデータ利用で月額料金が税込み1,078円とされ、6月まで1GB以内を無料としていたものからの騙し討ちの大幅値上げという批判を強く受けている最中である。楽天モバイルの設備投資に用いるという資金使途には則したネーミングではあるが、適切な愛称とは考え難い。3年債で0.72%クーポンという水準は高いようにも見えるが、JCRのA格という評価とモバイル通信のみならず様々なネットビジネスのコングロマリットである同社の将来性について、どのように評価するかで投資判断が分かれるだろう。

それ以外では、相変わらずGSS 債の募集が目につく。トヨタ自動車が業界トップカンパニーらしく独善的に命名している『Woven Planet』債は、5年債と10年債とで計600億円を募集しているし、大阪ガスは10年債・20年債・30年債の3本立て計310億円のうち、10年債100億円のみトランジションボンドの認定を取得している。戸田建設の10年サステナビリティリンクボンドは、温室ガスに関するSPTsが未達の場合、寄付を行うという最近の典型的な起債形式で100億円を募集しているし、東北電力も5年債と10年債で計300億円募集するうち10年債のみがグリーンボンドである。また、東武鉄道も3年債と10年債の2本立て計200億円のうち、10年債だけがグリーンボンドになっている。調達した資金の使途が異なるとは言え、実際はお金に色がなく、却って分別管理を行い、投資家等への情報開示を行う必要があるGSS債を、一部の起債にだけ採用するというのは、発行体にとってのメリットは大きくない可能性がある。第三者機関等による認定のコストなどとも関連するが、情報開示などで投資家とのコミュニケーションを強めるのであれば、起債全般をGSS債とした方がよほどスッキリ整理できるのではないだろうか。
夏場所(2022年5月)の関脇阿炎も、期待されつつ7勝8敗。もろ手の突き一本で立ち合い勝負で相手に向かうも、次の一手が出ないため、GSSのような『叩き込み』で土が付く。投資家を唸らせる起債が待ち遠しい。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/16~5/20

漸く3月期決算企業の決算発表シーズンが終わり、社債等の募集に至る案件が増えて来た。しかし、中身を見ると、シーズン当初に動く事の多い電力関連債券に加え、SDGs債がほとんどである。実は、SDGs債という呼称も日本証券業協会が提唱しているものの、必ずしも海外で一般的な表現ではない。一方で、ESG債といった表現を使われることもあるが、Environment・Social・Governanceという三要素を中心に据えたESGという概念は必ずしも、現在の起債市場の実勢にそぐわないものである。少なくともガバナンス債という概念は成立しない可能性が高い。ICMAの策定した原則等で定義されているのは、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティリンクボンドの三種であり、別途、サステナビリティボンドのガイドラインが設けられている。海外では、グリーンボンド等の頭文字を取って、GSS債といった表現も用いられているようだが、少し実務における定着等の様子を見てみたい。将来的にSDGs債やGSS債といった表現について変更する可能性があることは留意されたい。

この週で目立ったのは、まず、電力関連のトランジションボンドである。主に化石燃料を燃焼して発電している従来型の電力会社にとっては、特定の再生可能エネルギー等による発電プロジェクトを抜き出してグリーンボンドの認証を得ることも不可能ではないが、トランジションボンドを打ち出すことがより適切であろう。世の中の流れもあって、電力各社が温室効果ガスの排出抑制と再生可能エネルギーの活用に向かっている中では、トランジションの評価を受けることが妥当であろうし、やや無理筋のプロジェクト単位でグリーンボンド認定を取得することに対しては、グリーンウォッシュの誹り(そしり)も免れない可能性がある。具体的な起債としては、九州電力の5年債及び10年債がトランジションボンドとされ、また、JERAの5年債及び10年債も同様である。後者については、東京電力と中部電力の火力発電事業を統合した経緯もあって、トランジョションボンドとしての取組みにこそGSS債募集の活路があるように思われる。なお、北陸電力の二本立て、関西電力の三本立て、電源開発の二本立ては通常の電力債もしくは社債として募集されており、中部電力の二本立ては5年債が通常の電力債で、10年債のみがグリーンボンドとしての認定を得ている。

その他に、グリーンボンドとしての認定を得たのが住友商事の10年債とJR東海の35年債であり、日本学生支援機構の2年債はソーシャルボンドとなっている。また、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の5年債と10年債の二本立てはサステナビリティボンドである。結局のところ、GSSのいずれかに該当するような可能性のある発行体なら、GSS債のラベルを得て投資家にアピールできることもあって、有効活用出来る可能性が高い。認証に要するコストも必要となるが、社債等の売れ行きにプラスとなるかどうか需要調査の段階で検討する価値はあろう。ESG投資を掲げる投資家は少なくなく、GSSのラベルが付いた起債を購入することのメリットは投資家側にもあるし、結果的に、取扱う証券会社をも利することになる。ラベルの認証機関も手数料収入で潤い、メディア受けも良いというのであれば、誰にとっても失うもののないWin-Winの関係となるのだが、果たして欠落している視点はないのだろうか。より、現実に沿った検証が必要である。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/9~5/13

GWが終わっても、3月期決算企業の決算発表シーズンという市場の動きが鈍くなる要因は解消されていない。そのため、引続き起債市場での社債等を募集する動きは少ない。間もなく到来すると思われる社債等の募集が盛んになるシーズンを控えて、発行体との調整準備に勤しんでいるのであろう。こういった状態の期間に社債等の募集に動くのは、公的セクターや電力会社というのが例年のパターンである。実際に、この週に社債等を募集したのは、まず、地方公共団体金融機構の定例であり、10年債300億円のみが募集された。次に、住宅金融支援機構は、15年債100億円・20年債100億円・30年債300億円の計500億円の財投機関債を募集している。30年債だと国債対比+10bpsのスプレッドでも、クーポンが1%を越える水準となっており、公共セクターの安定を好む投資家の需要を集めている。他の年限と比べて、募集金額が圧倒的に大きく目立っている。

東日本高速道路の社債も、準財投機関債と言える公共セクターの起債と言える。今回募集したのは、2年債400億円および5年債800億円の計1,200億円と大きな金額になった。2年債のクーポンが0.08%で5年債のクーポンが0.105%と、昨今の金融情勢を反映して一頃より高い利回り水準になっている。発行体側から見れば調達コストの上昇ということになるが、投資家から見れば期待収益の増加であるから、好ましい状況と言っても差支えないだろう。発行体側も国債の流通利回りが上昇しているのであれば、組織内部的にも説明が付くと考えられる。この利回りの上昇は、市場の拡大や安定には好ましいものと考えて良いだろう。日銀による金利の押下げとスプレッド圧縮が長期にわたったことの反動が、これから生じてくる可能性が高い。極端に低利の社債等が売れなくなる懸念を持っておくべきであろう。

中国電力が募集したのは、12年債と20年債各100億円である。12年債が0.67%クーポンで20年債が0.97%クーポンで募集された。20年債については、4月頭に同社が募集した際のクーポンが0.9%であり、超長期金利の変動幅が大きくなっていることを考えると、やや利回り水準に物足りなさがあろう。100億円の起債であったからこそ消化可能となったと見るべきである。

これらの起債の他、丸井グループが1年債1億3000万円を自己募集している。特徴としては、先行したSBI証券などと同様にセキュリティトークンを利用していることである。最低投資単位は1万円で、社債管理者も設置されているが、個人投資家保護の観点からIT技術に全幅の信頼を寄せるのは躊躇されるかもしれない。特に、1%クーポンと極めて高水準の利回り設定になっているがものの、源泉徴収等控除後の利息の7割を同社のエポスポイントで付与する仕組みには、やや疑念を覚える。エポスポイントは確かに1ポイント=1円の換算が可能になる仕組みであるが、運営主の恣意性が介入する余地はある。例えば、セールスイベントなどの際に、エポスポイントの付与率アップとかが行われていることを考えると、1%クーポンという公表を過大表示と考える余地があるのではなかろうか。ポイントの換金性を停止されたり交換比率が変更されたりした途端、1%の高いクーポンは画餅に帰する。個人投資家向けの社債募集であり、適正なポイント運営が行われることについて何らかの担保が必要であろう。ブロックチェーンを活用したデジタル社債といった新奇な面にのみ目を向けず、しっかりと債券としての中身を考えたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/25~5/6

GWを挟む時期は、金利の動き易い時期であるが、起債市場は動きが鈍くなる時期でもある。一つには、日本以外にも、メーデーを祝日として休む国が少なくない。良く知られるのは、新型コロナ感染拡大以前に訪日客の多かったことで知られる中国であるが、他の先進国でもヨーロッパの多くの国が5月1日を祝日としている。その結果、為替だけでなく金利も大きく変動することが少なくない。また、米FRBや日銀の政策判断が行われる時期となっていることもあって、金利水準の動きが大きくなりがちである。更には、3月決算の発表日をゴールデンウィークの前後に予定する企業も少なくない。そのため、金利の変動だけでなく、ヘッドラインリスクも考慮すると、社債等の条件決定や募集を行う発行体は躊躇しがちになる。投資家側も、募集日から払込日まで日数が開くことが考えられるため、投資判断を消極的にする傾向が見受けられる。こうして、発行体と投資家との双方の理由から、この期間の起債市場の動きはあまり見られなくなってしまう。

実際に、4月最終週から5月の頭までに行われた社債等の募集は、4月27日に募集された光通信の2本立てくらいのものである。光通信は、近年、格付けがR&I・JCRともA格にまで高まっていることもあり、長めの年限での起債も少なからず行っている。今回の起債も、5年債150億円および10年債100億円の計250億円とまとまった金額である。しかも、事務主幹事として継続して野村證券が担当しており、日本国内最強の販売網がサポートする形になっている。長期から超長期の金利水準が上昇していることもあって、光通信の10年債に付されたクーポンは1.17%と1%を超える。4月全体を見回しても、1%を越えるクーポンを付された社債等は、東京電力パワーグリッドの15年債、四国電力と九州電力の30年債、日本政策投資銀行と大阪大学の40年債、JR東日本の50年債といった顔触れだけである。10年債で1%を越えるクーポンが付された意義は極めて大きく、光通信の10年債を投資可能と判断するなら、妙味はあろう。

米国の更なる利上げを受けて、為替も株も変動幅が大きくなっており、日銀のコントロール外となっている超長期年限の金利水準も上昇している。このため、社債等の発行コストの増大を懸念する発行体に対して、投資家は従来より高い利回り水準を期待することが可能な状況にある。日本銀行は10年国債に対する指値オペを継続する姿勢を示しているが、何処まで市場介入が有効かは疑問視されており、特に、日米金利差の拡大によって為替が円安方向に動くことの影響が強く懸念されている。円安による輸入物価の上昇が日銀の目標とする2%の物価上昇を数値的には実現可能とするかもしれないが、輸出推進効果の発現がほとんど期待できず、賃金上昇を実現できるような状況にもないことから、スタグフレーションに近い状況の発生が懸念されはじめている。人為的な低金利から日本の金利市場は離脱することが出来るのだろうか。起債市場が活性化するのは、まだ先のことのように思えてしまう状況である。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/18~4/22

この週の起債では、電力関連のものが再び中心になったかのように見える。大林組のサステナビリティリンクボンドや、日本高速道路保有・債務返済機構のソーシャルボンドといったSDGs債も相次いでいるが、既に新鮮味を失いつつある。唯一目新しいSDGs債としては、大阪大学がサステナビリティボンドを募集している。国立大学法人による公募債券としては東京大学に次ぐものであり、40年という超長期年限であった。実質的に暗黙の政府保証の存在が期待できることもあって、格付けは国債と同符号であり、特に文部科学省系や学校関係の投資家にはアピールしたものと考えられる。超長期年限の利回りが上昇し、国債利回りで30年国債で1%を超える水準となっていることから、大阪大学40年債も1.169%と高いクーポンが付されている。希少価値のある銘柄と考えた投資家も少なくないだろう。

電力関連の起債が相次いだと言っても、いわゆる電気事業法に基づく典型的な電力債ではないのが味噌であろう。東京電力パワーグリッド債は、一般担保付を付すことが認められており、まだ電力債に近い債券である。5年債900億円・10年債800億円・15年債300億円と計2,000億円の大型起債となった。15年債に付された1.1%クーポンは、大阪大学の40年債とほぼ同水準であるが、年限の差と信用力の差について判断を悩む投資家も少なくないだろう。東京電力パワーグリッドについては、福島第一原子力発電所の事故処理を見ても、国もしくは他の電力各社による支援の発動を期待してしまうが、それが必ずしも法的な枠組みに基づくものではないことで、投資判断が大きく分かれる。それでも、10年債の0.94%クーポンは魅力的な水準だったのではなかろうか。

一方、東京電力と中部電力の火力発電機能を統合して設立されたJERAは、日本国内の発電力の3割を担う会社であり、海外展開や再生可能エネルギーの活用によってゼロエミッションを目指している。トランジションボンドの起債観測が上がっていたものの、今回は3年の普通社債を募集している。格付けは東京電力パワーグリッドよりも高いが、今回の社債は3年債として、0.2%クーポンを選択している。国債利回りの上昇が長期から超長期に限られ、3年といった年限でほぼ変動していない中では、積極的に投資した投資家もいたのではなかろうか。

最後に、新顔で社債募集したイーレックスは、東証プライム市場に上場する電気事業会社であり、バイオマス発電を行うとともに、法人及び個人向けに電力小売にも従事している。同社の創業は1999年、現セントラル短資である日本短資が、電力取引事業への参画を構想したことが背景にあり、創業時より排出権取引や、グリーン電力への関心は高く、そのことが現在の再エネ発電事業につながっている。募集したのは5年債50億円と小額であり、0.59%クーポンを付している。取得した格付けはJCRのA-格と、JERAより3ノッチも低い水準であり、東京電力パワーグリッドよりも1ノッチ低い。東京電力パワーグリッドの5年債より低いクーポンなのは、希少性ということか。社歴は20年を超えており、破綻や新契約停止などの相次いでいる新電力各社とは別物であるが、投資を躊躇した投資家も少なくないだろう。50億円というほぼ最小募集金額の社債とせざるを得なかったのもやむを得ない状況だったのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/11~4/15

例年であれば、期初の起債市場で電力債の次に来るのはノンバンクや銀行の社債というのが定番であったと思うが、最近の市場を象徴するように、今年度は、『お次はSDGs債』という順番となった。地方公共団体金融機構の10年債・20年債・30年債といった公共セクターの債券も募集されているが、条件決定された社債等計3,400億円のうちSDGs債が2,700億円とほとんどを占めているのが実態である。

機関投資家向けにソーシャルボンドを募集したのは、富士フィルムホールディングスである。3年債400億円・5年債400億円・7年債200億円・10年債200億円と、報道されていた予定通りの計1,200億円を募集している。取得した格付けはR&IのAA格とムーディーズのA2格であり、いずれも、日本国債の1ノッチ下の紛れもない高格付けである。付された回号が第16回から第19回であることからもわかるように、決して頻繁な社債の発行体ではない。5年債以上は国債対比のスプレッドプライシングで行われ、+14~+17bpsの水準で募集されている。ソーシャルボンドによる調達資金は、『当社連結子会社を通じて行った、バイオ医薬品製造会社であるBIOGEN (DENMARK) MANUFACTURING ApS(現 連結子会社 FUJIFILM Diosynth Biotechnologies Denmark ApS)の株式取得及び同社の製造設備の増強に係る設備投資に要したリファイナンス資金に充当する』とされている。つまり、買収対象がソーシャルボンド適格な事業を行っているものの、単純に言ってしまえば、M&Aとそれに伴う設備投資 のための資金調達・借換えである。

同様に、機関投資家向けのソーシャルボンドを募集したのが東日本高速道路である。2年債400億円・5年債500億円・10年債200億円の計1,100億円を募集している。すべての年限で国債対比のスプレッドプライシングが行われ、+10bps前後で決定している。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されており、取得した格付けは日本国債と同符号のAA+(R&I)格・AAA(JCR)格・A1(ムーディーズ)格である。資金使途は『高速道路の新設、改築、修繕又は災害復旧に要する資金』となっており、いわば本来業務である。結局のところ、この週のソーシャルボンドは2社とも、ほぼ本業のコアに関する資金調達であり、殊更にソーシャルボンドとしなくても良いような案件であった。このように、最後にSDGs債として残って行くのは、奇をてらった特殊な債券ではなく、こういった本業にしっかりと結びついた起債だけになるのかもしれない。

最後に、イオンモールは個人投資家向けの5年債400億円の条件を決定している。100万円単位で購入が可能であり、『ハピネスモール債』と称するサステナビリティリンクボンドである。SPTとしては、『2025年度末に国内の全イオンモールで使用する電力をCO2フリー化すること』としており、未達成の場合には、『発行額の0.2%相当額』をイオン環境財団等の適切な団体に寄付する予定とする。5年債で0.49%クーポンの水準はA-(R&I)格の信用力から大きな違和感はなく、比較的身近な発行体であって、個人投資家の資金を集め易いものと想像できる。もっとも、少子高齢化が進んで行く中で、地方物件の収益性低下と、温室ガス抑制のための設備更新努力が見合うかどうかには、懸念が残る。

なお、これらの公募普通社債等以外に、フィリピン共和国の円建てサステナビリティボンド4本立て計701億円や、オリックスのユーロ建てグリーンボンドなどの起債も行われており、今後の起債観測を見ても、新年度もますますSDGs債の募集が相次ぎそうである。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/4~4/8

期初は電力債から、というのが例年のパターンである。起債時期で、それに競合できる業態としては、ノンバンクや銀行であり、辛うじて公共債が同時期に債券を募集出来るかといったくらいだろうか。2022年度の起債市場も、予想を裏切らない形ではじまっている。

この1週間で募集された中では、電力債が圧倒的な存在感を持って見える。それ以外の社債等では、日本政策投資銀行が3年債400億円・5年債400億円・10年債300億円・40年債100億円の計1,200億円という大型の募集を行った他、JR東日本も5年債100億円・20年債150億円・50年債200億円と、金額は大きくないが年限の幅として広い社債募集を行っている。これらについては、物価上昇を受けた金利の上昇によって国債対比のスプレッドプライシングが復活しており、3年債や5年債といった年限でも国債対比が機能するようになったことを評価して良いだろう。とにかく、利回りがマイナスであるというのは、通常の状態ではない。異常が長続きすればそれが常態になるとも言われるが、マイナス金利は、あくまでも日銀が人為的に作り出したものであり、巨額の国債買入れを停止し、目標金利の水準を変更したり撤廃すると、金利水準は自然に本来の姿へと戻って行く。特に、日本政策投資銀行はS&P以外の主要格付け会社から日本国債と同符号の格付けを取得しており、3年債のクーポンを国債対比+5bpsの0.031%と設定できたことは、起債市場が正常化に向かっている動きとして評価できるだろう。

電力債の起債は週を通して多く目立った。羅列するだけでも、四国電力の10年債及び30年債、中国電力の10年債及び20年債、東北電力の3年債・5年債・10年債、九州電力の5年債・10年債・30年債、中部電力の3年債及び10年債、関西電力の5年債及び10年債、北陸電力の10年債、北海道電力の3年債と、東京電力関連と沖縄電力以外はことごとく電力債を募集しており、総額は3,900億円にも上る。年限のバリエーションも大きく、中期から超長期まで投資家の多様なニーズに応えることが出来ている。電力会社に関しては、エネルギー価格の高騰によって収益力の低下が懸念されている。総括原価主義の下でも、国民生活や産業発展に大きな影響が予想されるため、電力価格への転嫁がタイムラグを伴い、簡単には進まないと思われる。そのため、収益性の悪化が顕著になる前に、率先して起債する動きになったものだろう。電力供給はこれから夏場にかけての危惧も囁かれており、小口の電力会社の業務停止や破綻も散見され始めているため、年度早々に資金調達を急いだものと考えられる。引続き、いずれも格付け対比ではやや甘めのスプレッドが付されており、一般担保付きの電力債を購入可能と考える投資家には、4月頭から利回りを稼ぐ絶好のチャンスを提供している。

なお、関西電力の5年債及び10年債はグリーンボンドとしての認定を得ており、起債観測の上がっている関連した後続案件としては、JERAのトランジションボンドや東北電力のグリーンボンドなどがあり、ESG関連債券の潮流は電力会社にも押し寄せているようである。理屈の上では、未だにLNGや石炭火力への依存が強い(特に、JERAはほとんどが火力発電)ため、特定プロジェクトに紐付けしたグリーンボンドよりも、トランジションボンドを選択した方が、一般担保の特性から考えると適切であろう。