国内起債市場を斬る 令和元年特別第2号:電力債に風は吹くのか

東日本大震災と福島第一原発の事故を受けて、変わったものは幾つかあるだろう。日本経済は一旦大きく低迷したものの、復興景気によって景況感は回復した。所得税及び法人税は復興特別ということで、税率の引上げが行われた(所得税は2037年までだが、法人税は2014年3月まで)。社債の世界で大きな影響があったのは、電力債に対する認識の変化だろう。

電力債は、商法・会社法の枠組みとは異なる形で債券募集が行われて来た。戦後の高度経済成長を支える柱としての電力供給を行う電力各社に関しては、社債の発行限度や格付基準などで別格の扱いを受けていた。現在でも見られる一般担保付の仕組みは、電気事業法の規定に基づくものであるが、公共的性格を有する発行体にのみ認められた特別の取扱いである。特定物を担保としないために、歴史的には有効性に関して疑義を呈されることもあったが、実際には、事故賠償金にすら対する優先的な弁済順位が確認されたことで、無担保社債とは別格な存在であることが広く認知されたのである。

それまでも、電力債に関しては、総括原価主義や監督官庁による料金の認可制、徐々にしか進まない電力事業の自由化等から、超長期債の募集が継続的に見あれる数少ない業種の一つであった。しかし、福島第一原発の事故処理に際して奉加帳方式で他の電力会社が負担を求められたことや、原子力発電所の稼動が抑制されたことから、電力債に対しては、同じ格付け符号の一般社債よりも厚いスプレッドが求められるようになったのである。厳密な意味では電力債でない電源開発の社債(一般担保付ではないが、社債管理会社は付されている)も、未完成の原発を有していることで、沖縄電力を除く電力各社と同等の状況に置かれている。

東日本大震災以前でも、電力債の募集は社債募集のシーズンの最初に行われることが珍しくなかった。それから8年が経過し、今では、再び電力債が募集シーズンの頭で動くことも見られている。本年度の社債募集も、4月の頭の顔触れを見ると、東北電力、電源開発、関西電力といった名前が並んでいる。令和への代替わりの十連休明けも、中国電力の個人向け社債の条件決定が行われている。電力債に対しては、結局、放射性廃棄物の処理方法が確立できない原子力発電と、二酸化炭素の発生が不可避な化石燃料を利用した火力発電とが、主要な発電方法である以上、グリーンボンドや環境に配慮した企業と声高に叫ぶのはおこがましい。

債券の世界でもESG投資が強く言われるようになると、電力のみならず、その他の多くの産業においても、債券募集にブレーキのかかる可能性がある。化石燃料を燃やしている運輸業や、そのための機器を作っている自動車メーカーだけでなく、多くの電気を利用している非鉄金属や放送業なども、怪しいものである。PHV等に注力する自動車メーカーも、太陽電池等の再生可能エネルギーを利用しない限り、既存の電力会社からの電気で充電している限りは、グリーン特性に問題があると考えるべきだろう。二酸化炭素を排出しない燃料電池車は環境に優しいかもしれないが、水素を精製する際に電力を利用しているならば、五十歩百歩なのかもしれない。

国内起債市場を斬る 令和元年特別号:ハイイールド債への道

日本に新発のハイイールド債市場は存在しないとされる。投資家の需要が存在しないとされて来たことが主な要因と考えられる。しかし、GPIFは格付けがBBB-格に満たない債券を投資対象に加えるとしており、投資家の需要という側面は緩和されつつある。GPIFは国民年金及び厚生年金の積立金を運用している独立行政法人であり、被用者年金一元化の観点からは、今後同様の年金積立金を運用する国家公務員共済組合連合会や地方公務員共済組合連合会及びその傘下の各共済組合等、更には、日本私立学校振興・共済事業団も、右に倣って投資対象を意識する可能性が高い。

従来、ハイイールド債に関しては、新発債市場は成立し難いものの、フォールンエンジェル(Fallen Angelというカクテルでないが)と呼ばれる格下げによるハイイールド債のみが存在するとされて来た。ところが、4月19日にアイフルの行った発行登録が、新発ハイイールド債募集の可能性を示している。取得している発行体格付けは、BB-(R&I)格及びBB(JCR)格であり、社債に付される格付けが発行体格付けを上回るには、担保や保証等が必要であり、無担保の社債であれば、ハイイールド債となる。発行登録書の内容は、詳細未定であるものの、起債観測として上がっている報道では、年限は1.5年で野村證券が主幹事を務める模様であり、5月以降に社債募集を行う可能性があるようだ。

同社の既発債は既にすべて償還しており、流通市場の実勢を基に新発社債に付すスプレッドの適正水準を見出すことは簡単ではないだろう。低格付けや新規の取組みとなる社債のプライシング及びマーケティングに関して、主幹事予定の野村證券には実績がある。買入償却を経て近年の光通信による社債やコベナンツを付した平和不動産債、更には、同残存の参照国債が存在しない三菱地所の50年債など、実績は枚挙に暇はないが、今回は慎重に投資家の需要を調査することになるだろう。そもそも、日本証券業協会の提案した社債管理補助者(会社法の改正によって今後制度化される可能性もあるが、第三者のためにする契約として先行的に導入することは可能)を付すのかどうか、発行体及び主幹事証券の取組みが注目されるところである。

日銀のマイナス金利政策によって国債対比スプレッドの機能しない1.5年という年限では、スプレッドの議論よりも絶対的な金利水準での検討ということになるだろう。米国の社債市場の例を見ると、投資適格とされる水準の社債に比して、ハイイールド債のスプレッドは格段に大きな水準が付される。また、景気が下向きの局面では、低格付け債のスプレッドは厚くなる傾向にある。どういった利回りで社債の募集に漕ぎ付けられるのか、こちらについても注目してみたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/15~4/19

4月の起債は、年度初めラッシュが一段落すると、少し落ち着く傾向にある。特に、決算の発表が近付くと、例年は動きが乏しくなるのだが、今年の場合には、ゴールデンウィークが十連休とかつてない規模の休みとなるために、動きにくくなっている。仮に、22日の週に起債条件を決定したとしても、払込みが連休明けとなると、単に2週間近く後になるというだけでなく、その間に、米FOMCや雇用統計の発表など、大きなイベントがある。日本のように証券市場が1週間以上休む先進国はないが、5月1日をレイバーデー等として休む国は、スイスや中国、香港、シンガポール等少なくない。その他の欧米では市場が機能しており、当然、為替の取引は行われる。海外で上場されている債券や株式の先物取引は可能であり、日本市場が潜在的な影響を受けることは不可避である。つまり、十連休の間の市場リスクは、発行体も投資家も負いたくないのである。年末年始も年によっては五連休を越えるが、程度こそ違うものの、欧米等も年末年始なのである。ほかの先進国で市場が開かれているのに、日本のみが長期の休場になるのは、極めてレアな事象である。

前週に続いて、年度初めの起債はやや大型案件の目立つ展開となった。ソフトバンクグループ債のような化け物はないものの、東京電力パワーグリッドは5年債400億円・10年債500億円・15年債300億円の計1,200億円を募集しているし、KDDIも5年債300億円・7年債300億円・10年債400億円の計1,000億円を募集している。公共セクターでも、東日本高速道路が5年債400億円・7年債200億円・10年債300億円と計900億円を募集し、日本高速道路保有・債務返済機構も40年債を一般的な年2回利払債500億円と利子一括払債200億円の計700億円を募集している。この4つの発行体だけで、債券の総募集額は計3,800億円と巨額になる。

民間二社の巨額の募集はいずれも興味深い。東京電力パワーグリッドについては、必ずしも全ての投資家が投資対象としておらず、未だに東日本大震災と福島第一原発事故の影響を懸念する声は残る。しかし、事故から8年が経過し、超長期を要する原発の事故処理が淡々と進められる中で、金利水準そのものが日銀による強力な金融緩和で低位に抑えられているため、利回りを欲する投資家は食指を伸ばすことも考えざるを得ない。今回募集された10年債はクーポン1.02%・15年債のクーポンは1.31%と十分に高い水準にある。前日に募集された電源開発の30年債が1.146%クーポンであったことを考えると、東京電力パワーグリッドを毛嫌いしていた投資家も、考えを改めざるを得ない。実際のところ、投資家の需要はかなり強かったようである。

もう一つの発行体であるKDDIは、頻繁に起債する企業ではない。しかし、今回の起債の背景には、5G(第5世代移動通信システム)の規格化が迫る中で、基地局の設備更新や投資を迫られるのがキャリアである。既に、米国と韓国ではこの4月に5Gの商用サービスが開始されており、日本でも2020年の開始が予定されており、負担感は決して小さくない。現在の格付けはR&IのAA-格であるが、10年債の国債対比+39bpsというスプレッド設定は、10年国債の利回りがマイナス圏に沈んでいることから割引いて考えても、厚めの水準であった。なお、R&IでAA+格を取得している東日本高速道路の10年債は、国債対比+24.5bpsのスプレッドで条件決定している。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/8~4/12

年度初めの起債は、発行体側から見れば早期の資金調達実現である。一方、投資家側から見れば、早期の投資実行であり、期間収益という意味からは、なるべく早い時期での債券購入が、利息収入に繋がる。つまり、早期の起債に対しては、需要と供給がマッチする傾向にある。一部の投資家には、4月早々には体制が整っていないとか、年度方針が固まっていないとかの理由で、年度始すぐには動かない例もあるが、基本的にはもったいないことであり、投資機会を逸していると見るべきだろう。もっとも多くの投資家が早期に債券を購入しようとするならば、スプレッドはタイトになる可能性があり、無理してまで購入すべきでないというのもごもっともである。

この週に条件決定された起債で最大の金額であったのは、ソフトバンクグループの個人投資家向け6年債5,000億円である。JCRでA―格という評価は既に無視してよいのかもしれない。クーポンは1.64%に設定されており、同日に機関投資家向けに募集された三菱地所の50年債の1.132%クーポンをはるかに上回る。スマホやADSL等通信関連でユーザーを押さえており、TVCMの出広量も多いことから、知名度は高い。クーポンが高いだけでなく、証券会社に支払う引受手数料も1円25銭と、個人投資家向けという顧客管理の要素を考慮しても、極めて高い水準にある。つまり、投資家にとっても引受証券にとってもハッピーな起債であり、唯一、高水準な利息を支払っているということなのだから、株主の利益が毀損されているのである。しかも、過去の経緯からは機関投資家は、ソフトバンクグループ債に積極的な投資姿勢を見せていない。それは、個人投資家が保有債券の時価評価を求められないのに対し、機関投資家の多くが、バイアンドホールドを意図していても、保有債券は時価評価を求められるからである。業態特性から通信障害等の発生といったヘッドラインリスクが高いだけでなく、元々、M&Aによる信用力の変化が大きいことにある。つまり、企業分析や業界分析だけでは、保有債券の価値が保全できないのである。したがって、同社が個人投資家向けの大量起債を行うのは、理に適っていて、某大手証券のセールスからは小職にも早くから電話でのセールスに来ていた。

もう一つの大型起債が、ブリヂストンによる5年債500億円・7年債500億円・10年債1,000億円の3本立て計2,0000億円である。マーケティング当初は、もう少し少な目の起債額が言われていたものの、投資家の強いニーズから各年限とも増額されている。近年の大型起債では、M&A絡みのものが多いが、今回はそういった資金使途ではないようだ。足もとでは10年金利が回復しつつあるものの、未だにマイナス圏で推移しており、ブリヂストンの10年債も国債対比+43bpsのスプレッドで、クーポンは0.375%である。R&IでAA格と高格付けであるが、より高格付けな公共関係の債券が低クーポンになっているため、相対的には投資妙味があると受入れられたようである。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/1~4/5

2019年度の起債シーズンは、10年長期国債入札とともにはじまった。しかも、週初めに新しい元号の発表があり、いよいよ新時代への胎動もはじまっている。年度の初めに動き出すのは、公共セクターと電力、ノンバンクというのが、定番である。この週も、東北電力、電源開発、関西電力、中国電力と電力が続き、日本政策投資銀行と住宅金融支援機構の財投機関債が募集している。

この二つの財投機関債は、年度の初めから複数本立ての大型起債となった。日本政策投資銀行は、3年債200億円、5年債250億円、10年債350億円、20年債100億円、40年債350億円と5年限で計1,250億円の募集である。それに比べると、住宅金融支援機構の5年債350億円、10年債100億円、20年債250億円と3年限で計700億円は小さく見えてしまう。しかし、金利低下の影響を強く受けたことで、10年債のクーポンはいずれも0.135%でしかない。40年債ですら0.81%クーポンと1%に満たないのであるから、投資家の購入意欲も高まり難い。

ノンバンクでは、トヨタファイナンスが3年債300億円と5年債600億円の計900億円、三菱UFJリースが5年債200億円と10年債100億円の計300億円、クレディセゾンが20年債120億円、オリエントコーポレーションが5年債50億円と7年債150億円の計200億円、三井住友ファイナンス&リースが5年債200億円と10年債100億円の計300億円が募集されている。ノンバンク全体では、総計1,820億円の募集である。ノンバンクの事業特性を考えると、クレディセゾンの20年債はやや年限が長過ぎるだろう。特に、個社事情としては、みずほフィナンシャルグループとの包括的業務提携関係を解消することで合意しており、今後UCカードの分離が予定されている。クーポンは1%と高水準であるが、A+(R&I)という格付けだけで投資評価を行うべきではないだろう。

多く見られたノンバンクの起債のうち、トヨタファイナンスの5年債とオリエントコーポレーションの5年債は、いずれもグリーンボンドの認定を得ている。奇しくも両案件とも今年の1月に起債環境の変化から募集を一旦見送っていたもので、その後の株価の回復や金利水準の低下を受けて、年度初めの再チャレンジとなっている。ノンバンクの発行するグリーンボンドというのは、「金に色はない」という前提に立ち返り、日本の社債は基本的に発行体の全財産に対する請求権であることを考えると、何度も述べるように単なる名分にしか過ぎないのであり、投資家は決して割高に買ってはならないのである。

国内起債市場を斬る 新元号特別号:2019年度の起債市場を展望する

この4月からはじまる年度は、途中で元号が「令和」に変わるために、平成31年度と称するのは適切でないだろう。4月1日に新元号が公表されても、実際の適用は天皇陛下が退位されてからであるから、最初の1ヶ月は平成31年度である。これで元号よりも西暦の使用が一般化するとも思えない。先進国で元号を使用している国は他にないが、それ以外の国であれば、イスラム暦を使用していることもある。キリスト教由来の西暦を必ずしも唯一の世界標準とすべきではないという説もある。元号も切換等面倒であるのだが、時代の区分という意味でも存在意義はあると思える。かつて吉祥が現れたり、天変地異が起きたりしたことを改元の理由としたのも、無理はない。一世一元を制度化したのも、日本は明治以降だし、中国でも明清の時代である。

2019年度の起債市場を占うには、まず、前提としての金融環境を考える必要がある。ベースとしては、日銀の金融政策を展望することになる。昨年後半に見られた金利の先高感は、米中の貿易摩擦拡大とそれに伴う両国経済のみならず世界経済全般の失速感から、既になくなっている。欧米の景気は、今年度後半は横這いか下向きの可能性すら懸念される。こういう周辺環境で日本経済のみが強いことは考え難い。消費税率が10月に予定通り引上げられたとしても、そのことだけで金利が上昇するとは思えないのである。結局のところ、2019年度に大きな経済成長は期待できないし、日銀の金融政策に大きな変更がないと考えるならば、金利の大幅な上昇はないという見通しになる。欧米が金融緩和の見直しを停止して万一緩和に逆戻りした場合にも、日本が緩和を強化こそすれ、引締めに転じられる可能性は低い。金利は概ね横這いと見込むとして、信用スプレッドは欧米の景気後退が顕著になれば、拡大する展開も考えられるが、投資家が購入意欲を強めると、縮小することもあろう。したがって、発行体の調達意欲が高まらない限り、淡々とした社債募集が続くのではなかろうか。

発行体の調達意欲を左右する要素として、金利の先高感がないとすれば、それ以外の要因に注目すべきである。一つには、企業が資金調達を大規模に行うのは、M&A絡みである。既に新年度早々にも、武田薬品の大規模な起債が予定されており、今後もこういった感じで起債が行われることになろう。したがって、必ずしも季節性はない。年度の初めや四半期の頭に、公的セクターや電力等の募集は集中することになるが、M&A絡みの大型起債は別であろう。

投資家側の行動を考えると、期間収益を確保する観点からは、なるべく早めに投資したいだろう。金利の上昇による評価損の拡大が起こり難いと考えるならば、年度初めこそが投資の好機である。発行体側とは相容れない着目点であるから、年度初めの方が投資家の需要は集まり易いために、スプレッドはタイトになる可能性がある。結局のところ、募集のタイミングに関しては、発行体による決算の発表や株主総会等の要素に左右されることになり、それらのスケジュールについては、例年と大きく異なることはない。なお、今年のゴールデンウィークは10連休が予定されているが、従来から決算発表の時期であるために。社債の募集は必ずしも多くない。今年は、ゴールデンウィーク近辺だと債券募集と払込の間が不必要に空く可能性もあり、4月22日の週は債券募集があまり見られないのであろう。

国内起債市場を斬る 年度末特別号:起債年限を考える

最近の起債年限を見ると、一つの傾向として言えるのが、長期化である。特に、劣後債やハイブリッド証券について最終償還までを考えると、永久債であったり、数十年先の償還が設定されている。しかし、銀行・証券・保険といった金融関連の場合には、期限前償還の蓋然性(がいぜんせい)が極めて高い。クーポンのステップアップ要因に加えて、期限前償還しないことについて、監督官庁に対する説明が求められるからである。状況によっては、業務改善計画の提出が必要になるかもしれないのである。一方、事業会社の場合には、経営環境の変化等から再調達コストがどうなっているか次第で、期限前償還を見送られる蓋然性がないとは言えない。クーポンのステップアップ幅が不十分であれば、尚更であろう。万一期限前償還されなかった場合の信用評価を、業種全体の将来像を考慮して考える必要がある。しかし、言うまでもなく、それは極めて困難である。

年限の長期化は、低金利のメリットを長期間享受する発行体の調達ニーズに対して、低金利環境下でデュレーションの長期化で利回り確保を目指す投資家の購入ニーズ双方に対応する。一方で、信用プレミアムを取ることでリターンを上げる手法も投資家は選択できるが、ベースの利回りが低くなっているだけでなくマイナスになっている可能性もあり、投資妙味は極めて低い。特に、信用力に懸念のある発行体に対して、長い年限を与信するのは難しい。結果として、信用力と年限のバランスを考慮して投資対象を検討することが求められるのである。超長期の与信に適する発行体は、自ら業種や企業が限られるだろう。

近年の起債市場では、中途半端な5年前後の中期年限の起債が減少する一方で、従来あまり見られていなかった2年債や3年債といった短期債が目立ち続けている。2年債は、特に、財投機関債や高速道路会社債といった公共セクターでの募集が見られる。一方、3年債の募集のうち、かなりの物が、日銀による社債買入れオペを意識した起債であると考えられる。購入者は、セカンダリーになった瞬間から、日銀オペを意識する。つまり、本格的な保有目的の投資ではなく、ディーリングタッチの短期購入でしかない。これも日銀の金融緩和による市場の副作用の一つと考えられるのだが、既にETFやJ-REITの買入れとともに、社債の購入は目的と現実との乖離が大きくなっているように感じられる。

足元では、10年国債利回りの水準が大きく低下している。こうなると、10年債の国債対比スプレッドが形式的に大きくなる可能性があり、起債市場の受ける影響は小さくない。特に、4月は多くの企業や投資家にとって年度始めであり、投資家も期間収益を考えると、早めの買入れが望ましいと考える。しかし、為替市場や株価の変動に振らされている現状を考えると、新年度の起債市場への投資家の対応は、慎重にならざるを得ないかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/11~3/15

2018年度の起債募集シーズンは、ほぼ終わった。翌週に募集案件があるという観測も目にしているが、大勢は15日までに終わったと考えられる。しかも、11日の週に募集されたのは、公共セクターと保険持株会社の劣後債、個人投資家向け社債に、日本航空債といった顔触れであった。

公共セクターのうち、地方公共団体金融機構は定例の10年債及び20年債の募集であり、国債対比のスプレッドはほとんど変動がない。地方公共団体の減債基金や地方公民関連の共済組合等の安定した消化先があるだけでなく、構造的に全地方公共団体の共同ファイナンスという特性もあるために、信用力の評価も高い。同年限の国債よりも、スプレッドが上乗せされていることで投資価値は低くない。また、日本高速道路保有・債務返済機構は、非定例で20年債を募集した。募集金額が84億円と中途半端な金額である。

第一生命ホールディングスの劣後債は、SPCを用いず国内市場で直接発行という形では、T&Dホールディングスやかんぽ生命に続いての募集となる。永久劣後債であるが、10年目にコール可能な形式であり、実質的に10年債という理解の投資家も多かったことだろう。非金融会社の劣後債と異なり、期限前償還を選択するためには、金融庁の了解を得る必要があるので、よほどの環境変化や監督姿勢が変わらない限り、10年経過時点での償還は確実であると想定すべきなのだろう。10年債で1.22%クーポンと考えれば、十分に高い利回りである。少子高齢化の進む日本社会において生保ビジネスに翳りがあるのは否定できないが、海外展開等積極的に進めている第一生命グループに関しては、A-(JCR)格という評価なら決して低過ぎるということもないだろう。

個人投資家向け社債を募集したのは、イオンモールである。13日から募集しているが、5年向けの0.3%クーポンである。地方や国外では圧倒的なマーケティングパワーを有するイオンであるが、国内生保以上に少子高齢化の影響を受けていくのではないか。ショッピングモール発祥とも言えるアメリカでは、既にモールの衰退が顕著になっており、イオンモールのビジネスモデルにも、明らかに限界が来ている。個人投資家向けではやや長めの5年という年限であるが、ギリギリの年限設定と見て良いだろう。0.3%クーポンは低水準と言えるが、国債や銀行預金の利回りに比べると十分に高いのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/4~3/8

年度末まで1ヶ月を切り、社債の募集に適した期間も終わりに近づいているが、起債市場には大きな盛り上がりは見えない。以前から指摘しているように、金利の先高感がない中では、特に必要がなければ、このタイミングでの募集を選択する意義は乏しい。ベースとしての金余りが続いており、企業側の資金調達にとってはこの週に起債するインセンティブは乏しいのである。昨年の夏から秋の金利上昇も、米国の金利引締めに向けた動きや欧州での金融緩和解除の動きから、日本だけが低金利を維持できないという背景があり、他律的な金利上昇であった。足元では、米国の利上げが停止されるという観測が高まり、欧州の金融緩和解除も先送りになるという観測が高まっており、日本の金利環境に変化が訪れるとは、ほとんどの市場参加者は予測していない。従って、この3月に慌てて起債する必要などないという筋書きは変わっていない。

この週の起債は、中日本及び東日本高速道路、製紙メーカー持株会社の北越コーポレーション、地銀持株会社のコンコルディアホールディングス劣後債、スポーツ用品メーカーのアシックス、九州電力、化学品及び食品のメーカーであるADEKA、東海及び東日本旅客鉄道、三井不動産、東京建物の劣後債といった顔触れである。本数と言う意味では、引続き、5年債が多いのだが、北越コーポレーションは0.22%クーポン、アシックスは0.2%クーポン、九州電力は0.24%クーポン、ADEKAは0.18%クーポン、三井不動産は0.16%クーポンと、0.2%前後の利回りのものが多い。唯一、東日本高速道路は、信用力の高さから0.07%クーポンと突出した低利回りである。その他に、中日本高速道路は0.001%クーポンでオーバーパーの2年債、JR東海も0.02%クーポンの2年債を募集している。

これらの対極に位置するのが、超長期債であろうか。JR東日本は0.782%クーポンの30年債と0.997%クーポンの40年債を募集した。その他に、九州電力も0.788%クーポンの20年債を募集している。電力・ガスと鉄道は超長期債の常連であり、業種特性からも相応しいものと考えられている。一方で、東京建物の劣後債に関しては、コールされずに超長期債の最終償還まで保有を迫られた場合の信用リスクは大きい。不動産業に対する37年債や40年債の与信は、かつてのバブル経済の崩壊等から30年も経過していない歴史を考えると、最初のタイミングでのコールを前提とせざるを得ない。それでも、最初の償還までは7年もしくは10年であり、不動産業に対する与信という意味では、期間が長い。同日に募集された三井不動産のシニア債だと、7年債のクーポンは0.28%で、10年債のクーポンは0.38%である。同社がJCRから取得した格付けは、AA格である。劣後性を考慮した東京建物のハイブリッド債の格付けは、JCRのBBB格と6ノッチも下である。37年債の当初7年のクーポンは1.66%で、40年債の当初10年のクーポンは2.15%である。利回りとしては明らかに高いのであるが、BBB格の不動産業者に対する長過ぎる与信ではなかろうか。40年債はグリーンボンドの認定も受けているが、それが投資家の主な購入理由になると言うのも、不自然な判断であることは隠せない。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/25~3/1

いよいよ年度末も近い。金曜日が3月1日なので、週央よりも、月が変わってからの方が動きは多い。ボーナスシーズンでもないのにクレディセゾンやオリックスといったノンバンクによる個人投資家向け起債の条件決定がなされた事に違和感を覚える。しかし、低金利が続く中で個人投資家の社債購入意欲は小さくないはず、ということで発行体も証券会社も狙ったのであろう。もっとも、クレディセゾンは、みずほフィナンシャルグループと距離を置く趣旨の報道が見られており、個人投資家向けでも10年債というのは、同社の今後のビジネス展開を考えると、慎重に取組むべきだろう。

それ以外の機関投資家向けの起債は、多彩であった。しかも、必ずしもフリークエントイシュアーではない発行体が多く、レア物起債が目立つ展開となった。住友林業は、事業ウェイトとしては住宅関連が大きいとは言え、林業を冠するメーカーである。5年債と10年債を募集し、今回は第7回債と第8回債である。オリンパスの5年債は第23回債と回号は小さくないが、2011年には粉飾決算で上場廃止の危機に瀕し、2017年には起債市場に復帰したものの、昨年11月の起債準備時にも内部告発を受けた株価急落から募集を見送った発行体である。投資家の発行体に対する不信は小さくない。

自動車部品メーカーのフタバ産業は、5年債と10年債を募集しており、第2回債と第3回債である。また、JR九州が10年債と30年債を募集しているが、第1回債と第2回債であり、初の公募社債募集である。同様に、大塚ホールディングスは、5年債・7年債・10年債の3本立てを募集しており、これらが第1回債~第3回債である。そういう意味では、デビュー銘柄の多い起債市場であったと言えよう。

また、この2月1日にドンキホーテホールディングスからパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに社名変更したため、同社の3年債・7年債・10年債の3本立ての起債は第15回債~第17回債と回号は多いものの、レア感が強い。社名変更については、2月4日の弊稿でも触れたが、環太平洋を征するという経営戦略は感じるものの、競泳の国際大会を連想させる「パンパシ」で、投資家へのブランド戦略は成功するのであろうか。

その他にも、豊田通商や、あおぞら銀行、京成電鉄といった起債頻度の多い銘柄も社債を募集している。年度内の募集に適した期間も、概ねあと2週間程度である。既に、鉄道や不動産といった銘柄の起債観測が上がっており、ハイブリッド債の募集予定も公表されている。この金利先高感が皆無の環境下で、やや盛り上がりに欠ける展開になるかもしれないが、2018年度の起債市場は、いよいよラストスパートである。