国内起債市場を斬る 3月期決算シーズン特集:日本で信用危機は起きるか

日本の直接金融を担う資本市場は、株式と債券とで成り立っている。しかし、欧米と大きく異なる要素としては、債券に関しては、間接金融の形態である金融機関による融資が過半を代替していることがある。こういった基本構造以外にも、債権など資産の証券化といった派生的な金融手段も存在するが、大きくは融資及び債券と株式という構造だと理解していれば良い。証券会社は債券と株式の仲介を行い、資本市場と投資家との間を繋ぐ。金融機関は預金等の形態で資金余剰主体から集めた資金を、貸付によって資金不足主体に繋ぐ存在である。現在の日本の資金循環を見ると、家計と企業が資金余剰主体になって、政府と海外とが資金不足であるという歪な構造になっているのが、残念である。日本の優良企業では無借金経営を誇る例が少なくないが、コーポレートファイナンスにおける負債によるレバレッジ効果を考えると、調達した資金でより高い収益を上げ株主に還元する努力を行わない企業経営者側に問題があると言わざるを得ない。これこそ一種のエージェンシー問題である(依頼人Principalと代理人Agentの間に生じる利害対立問題のこと。代理人が依頼人の意向通りに業務を遂行するとは限らないことから生じる非効率性を、エージェンシーコスト。)。

日本株が高値を更新し、新年度入りしてからやや上値は重くなりつつあるが、3月期決算企業の決算発表を乗越え、来期の収益予想が出揃って来たところで、新しい発射台に乗り込んだものと見て良いのではなかろうか。日経平均株価が1989年末のバブル経済当時の最高値を更新しているが、日経平均株価はNYダウ工業株30種平均ほどではないものの、業種構成を考慮した上での優良企業の株価の特殊平均である。合併・統合のみならず、企業業績が優秀でなくなると組み入れ銘柄からは外れる。1989年末と現在の日経平均株価で共に組入れられている銘柄ばかりではない。日経平均株価は、その時々の優良企業の株価指数なのだから上がって当然であり、PER等で見るとバブル経済期のような異常な水準の高値とまでは至っていない。

株価が大きく下落するような状態になると、株価との連動性が高い低格付け銘柄の信用スプレッドが拡大することがある。また、社債発行残高の大きな低格付銘柄が破綻するような事態があれば、信用スプレッドが全般的に大きく拡大することもなる。かつてのリーマンショック直後のように流動性が低下する事態が現出すると、高格付け銘柄の信用スプレッドも拡大するといった展開があり得ないことではないが、基本的に金融緩和が継続されマネーが市場に潤沢に提供されている現状では流動性に対する懸念は小さい。信用スプレッドの拡大を懸念するのは、低格付け銘柄についてだけで良いのではないか。日本国債の格付けについての懸念が全くないとは言えないが、既に海外系の格付会社による格下げがあっても、社債市場のスプレッドに影響することはないと思われる。また、国内系格付会社による評価も、野放図な財政出動といった事態にならない限り、変化はないことが期待される。

結局のところ、一部の発行体や先行きに対する懸念のある特定業種において、信用不安が拡大する局面(98年のジャパンプレミアムの再来)はあるかもしれないが、行き過ぎた信用スプレッドのタイトニングに対する反動以上のものは生じ難いと思われるし、そもそも信用スプレッドが拡大する方向の兆しを見つけること自体が難しい。当面、日本において信用危機が生じる可能性は小さいのではないか。一部の負債比率の高い社債発行企業に対する懸念が囁かれているが、万一の場合には、貸し込んでいる金融機関の経営問題に拡大することが想定され、到底、too big to fail(TBTF:大きすぎて潰せない)であると考えざるを得ない。したがって、信用スプレッドが大きく拡大するような局面があれば、まずは絶好の買い場を提供することになると考えて良いだろう。もしバブル経済の崩壊や中国の不動産危機のような事態になれば、中長期的な経済全体の崩壊危機といったことになるのだが、そういった兆候はまだ見られていないものと信じておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/22~5/2

4月後半は、起債市場の動きが鈍い。3月期決算の発表が始まることに加えて、GWによって通常は募集から払込までの約1週間程度の期間が長く延びるという事情もある。また、この4月下旬というタイミングでは、日銀及びFRBの金融政策に関する判断とそれらを受けた金融市場の状況を見守りたいという投資家と発行体の双方の意図も感じられる。結局のところ、5月3日(金)に公表された米国労働省発表の四月雇用統計の発表内容も確認したいという意向もあって、GW後半を挟んでの募集も、ほとんど行われなかった。

2024年のこの期間では、唯一、良品計画が初めてとなる公募普通社債を募集している。小売業として広く認知されている発行体であり、そもそも決算期が小売業で見られる8月末となっていることもあって、3月期決算もしくは12月期決算を採用している企業とは異なるカレンダーサイクルでの募集が行われている。初めての社債募集に関しては、その知名度からクレジットを懸念する投資家は少なかったのではなかろうか。華美なデザインを排しシンプルで実用性を優先した製品群からなる無印良品のブランドは国内外で定着している。沿革的には西友のプライベートブランドとしてセゾングループの一部であったが、現在は関係が解消されており、コンビニでの展開先がファミリーマートからローソンに変わっている。JCRからA+格を取得しての第1回債は、募集が23日の火曜日で30日に払込みというスケジュールとされていた。投資家からは、ゴールデンウィーク後半を跨がない募集タイミングについて、投資にはプラス材料と判断されたのだろう。募集された年限は5年で、国債対比+26bpsとややタイトに見えるスプレッドで0.75%クーポンを付されたが、投資家の購入意欲は強かったようだ。タイミングも含めて成功した募集だったと評価してよいだろう。

ゴールデンウィーク明けに向けて複数の起債観測が上がっており、当面は、金利や為替の水準といった懸念材料を確認し、決算発表の進捗を確認しながらの展開になるものと予想される。起債観測で上がっている中で目立つのが、複数企業からトランジションボンドの募集に向けた動きが始まっていることである。とは言え、世界的に見ると、日本のSDGs債の市場はやや独自の展開となっているように感じられる。サステナビリティリンクボンドなどで、SPTs(Sustainability Performance Targets)未達の場合にクーポンがステップアップせず、寄付や排出権を購入するという形式が一般的な債券の構成である。

また、トランジションボンドの利用範囲がやや広いようにも思われる。トランジションボンドは、厳密な意味でのグリーンボンドを構成し切れない発行体が、グリーン化に向う努力のための資金使途で募集するものとされるが、ICMA(国際資本市場協会)のスタンダード上はグリーンボンドの一種である。日本で最初にトランジションボンドを発行したのは日本郵船(第一回債発行日は2021年7月29日)であったが、その後は、電力なども含めて様々な発行体がトランジションボンドを募集している。日本の投資家はトランジションボンドに対しやや寛容なように見えるが、何故グリーンボンドを出せないのか、トランジションの内容が曖昧ではないかといった点などを厳しく吟味する必要があろう。そういう意味では、安易に漠然とした内容のトランジションボンドではなく、SPTsを明確に設定されたトランジションリンクボンドの方が好ましいのではなかろうか。それによって募集される債券に対する投資意欲を表明する投資家の見識が試されるところになるだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/15~4/19

新年度の起債市場の動きが本格化している。個人向け社債の募集が複数見られているし、財投機関債を募集する動きも見られるようになっている。また、メーカーによる起債も珍しくなくなっており、様々なスキームのSDGs債の募集も少なからず見られる。ただし、これから3月期決算企業の決算発表がはじまり、翌週に開催される日銀の金融政策決定会合で円安対応の動きがある可能性も意識されると、市場の盛り上がりは時限的なものにならざるを得ない。特に、GWに入ると2週間近くの間、市場が正常に機能しないこともあって、早期の募集に向う企業は少なくない。逆の立場である投資家側も、利息収入を確保しようとする観点から、早めの購入を希望する者が多い。結果的に、社債等の募集が多く見られ、投資家側からの購入希望も多く集まっている。

この週に募集された社債等の中で、スキームの面などで特徴的なものを取上げてみよう。まずは、三菱マテリアルの5年債と7年債計200億円のうち、5年債の150億円である。この5年債はトランジションリンクボンドの認定を得ている。SPTs(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)として設定されているのは温室効果ガスの排出量45%削減と再生可能エネルギー電力の利用率向上である。トランジションリンクローンの場合には、利率のステップアップ/ダウンを組み込むこともあるというプログラムだが、債券の場合にはクーポンを修正するのではなく、寄付や排出権の購入といった形で対応することが予定されている。海外の市場で発行されるリンクボンドの多くはクーポンのステップアップを含むことで、発行体のSPTs達成を強く誘導するとともに、投資家にメリットを与える形になっているが、日本の市場では必ずしも投資家の直接の利益とはならない寄付や排出権の購入の形が一般的である。固定利付という債券の基本的な特性を考えると、クーポンの変動というのは必ずしも投資家の望むところではないかもしれない。今後の市場慣行として一般的なものがどうなるかは、時代の推移を見守るしかない。

次は、不二製油グループの劣後債とマルハニチロの5年債の二つがR&IのBBB+格を取得している点である。前者は5年経過後に期限前償還できる30年劣後債であり、劣後性を反映したためにBBB+格となっており、後者はシンプルな5年債である。前者の当初5年のクーポンは劣後プレミアムを含むとは言え1.571%と高く、後者の0.951%クーポンより60bps以上高くなっている。事業会社の劣後債の場合には、予定された最初のタイミングに期限前償還されない可能性が危惧されるし、5年経過後に変動利付債に変わった後のクーポンは1年物国債対比スプレッド+210bpsと設定されている。国債の1年債と5年債の利回り格差が大きくなっていた場合には、十分な信用スプレッドが取れない結果となりかねない。

最後は、ソフトバンクグループの3年債300億円・5年債500億円・7年債200億円の計1,000億円の大型起債を挙げよう。近年は劣後債などを個人投資家向けに募集するケースが多い発行体であったかったが、今回は4年以上ぶりとなる機関投資家向けの普通社債募集である。3年債で1.799%クーポン、5年債で2.441%クーポン、7年債で2.9%クーポンと、利回りの絶対水準は極めて高くなっている。同日に条件決定された同じJCRのA格の社債と見比べると、東京建物の個人投資家向け7年債は1.19%クーポンで171bpsの差であり、神戸製鋼所の5年債は0.871%クーポンだから157bpsの差となっている。ここまで高いコストを払ってまで起債するという発行体は珍しい存在と言って良いのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/8~4/12

2024年度の起債市場が本格的に稼働を始め、様々な社債等を見ることの出来た週になった。前週の電力債登場に出遅れた関西電力や東京電力パワーグリッドといった電力債の募集があった他、四半期や毎月の頭によく起債する公的セクターでも、地方公共団体金融機構が10年債・20年債・30年債の3本計700億円をまとめて募集した他、東日本高速道路も2年債・5年債・10年債の3本で計1,790億円を募集している。格付けの符号としては日本国債と同じ水準である東日本高速道路の2年債のクーポンが0.314%と従来より高めの水準になったことで、日銀による金融緩和政策の見直しの影響が改めて意識される。それでも、同じ発行体の10年債は0.905%クーポンと1%を下回っており、まだまだ金利は低いと言わざるを得ない。

電力と公的以外の発行体はバラエティーに富んだ状況となった。DICや住友重機械工業、スタンレー電気、テルモといった様々なメーカーによる募集が見られた他、建設や不動産、運輸といった業種からも、日本郵船の他に大和ハウス工業、ヒューリックといった発行体が社債を募集している。三井住友系の複数のノンバンクや総合商社大手である伊藤忠商事による社債の募集もあり、まさに百花繚乱である。また、条件決定された社債の形態を見ても、GMOフィナンシャルホールディングスや光通信、丸井グループの個人向け社債があり、みずほフィナンシャルグループとかんぽ生命の劣後債もある他、事業会社からは大和ハウス工業も劣後債を募集している。なお、丸井グループの1年債は同社が継続して募集してきているセキュリティートークン債である。エポスポイント(エポスカードのご利用に応じ、同社所定の加算率でポイントを加算し、ポイント数によりマルイやマルイの専門店でのショッピング割引きや景品の交換、他社ポイントサービスへのポイント移行、社会貢献活動団体への寄付ができる特典)で利息を受け取るといった機関投資家には全く馴染まないスキームであるが、エポスカードのユーザーである個人投資家には利用価値は高い。1年債で1%というクーポンは、十分に魅力的だろう。

SDGs債では、東日本高速道路が全体をソーシャルボンドとして認定を受けている他、日本郵船の2本立ての募集では、5年債がトランジションボンドであり、10年債がグリーンボンドと細かく使い分けている。丸井グループの個人向け債もグリーンボンドとなっている他、大和ハウス工業の劣後債はサステナビリティリンクボンドである。4月に入って募集された社債等の中ではややSDGs債の目立たない感じがあったものの、ようやく様々な形態の物が募集されるようになって来た。

募集金額では、みずほフィナンシャルグループの劣後債が2本で計2,300億円と巨額であり、東日本高速道路が計1,790億円、かんぽ生命保険の劣後債が1千億円、東京電力パワーグリッドが3本で計1,800億円など大型の起債が相次いでいる。その他の案件も当初の起債観測が上がった時の募集予定額よりも、最終的な募集額が大きくなっている例が少なくなく、期初の投資家のよる債券に対する購入意欲の強いことが確認されている。すぐには日銀による利上げも見込まれないことから、当面、業種のバリエーションも様々な起債市場になることが予想されるが、3月末決算の発表時期を考えると、GW前までの俄かブームということになるだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/1~4/5

4月2日に10年長期国債の入札が行われイールドカーブの居所が概ね確定できたところから、2024年度の起債市場がスタートした。株価が上下に変動しても、金利水準はほぼ安定的な状況にある。物価や賃金の上昇を受けて金利が上昇する方向へ向う懸念はあるものの、日銀は金融緩和の姿勢を崩さない。投資家としては金利水準が上昇してから購入したい意向があるものの、利息収入の総額は金利水準と保有期間の掛算で求められるから、購入のタイミングは早い方が望ましい。この週後半に多くの社債等が募集されているが、投資家の購入意欲は強く、あるかどうか必ずしも定かでない金利上昇を待たずに、淡々とした購入姿勢を崩していないようである。募集された社債等のほとんどに対して超過需要が確認されている。

事前の予想では、例年通りのパターンから社債等で募集に動くのはまず、電力とノンバンクであろうと見ていたが、ほぼ予想通りの展開が見られた。まず、電力関連で募集されたのは、電源開発10年債100億円、東北電力が10年債300億円及び30年債130億円、中部電力が10年債350億円及び20年債100億円、関西電力が10年債123億円及び20年債90億円、九州電力が10年債200億円及び12年債100億円、北海道電力が10年債50億円と総計で1,500億円を越える。スプレッドを絞った関西電力債が端数の金額を刻んだ他、北海道電力は50億円限定のグリーンボンドの募集となっているが、他の案件は年限も含めて多様な募集となっている。いずれも10年債に加えて、超長期年限という組み合わせになっているのは面白い。

ノンバンクとしてはトヨタファイナンスが3年債400億円及び5年債600億円と、いきなり合計1千億円の募集を行っている。格付けがR&IのAAA格・S&PのA+格・ムーディーズのA1格と日本国債と同等かそれを上回る評価を得ていることもあって、起債観測の上がった時点よりも大きく増額しての募集になっている。金利水準の上昇もあって、3年債が国債対比の+20bpsというスプレッドプライシングで条件決定されており、今後の3年債の条件決定の基準が絶対値からスプレッドに戻る可能性を示唆する動きになりそうである。

財投機関債では、日本政策投資銀行が3年債400億円・5年債350億円・10年債300億円と1千億円を越える債券を募集しており、主要な募集年限の金利やスプレッドの居所を提示する形になっている。各年限ともが増額された募集となっており、投資家の根強い購入ニーズを確認できる。その他に、西日本鉄道が5年債と10年債を各150億円募集しており、今後、鉄道銘柄を募集する動きも続くことが期待される。

なお、この週で募集された社債等のうち、電源開発の10年債と西日本鉄道の募集した5年債及び10年債、それに北海道電力の10年債がグリーンボンドの認定を得ている。グリーンボンドを募集する例が増えているようにも見えるが、起債観測で上がっているものには、サステナビリティボンドやリンクボンドの動きもあるようで、この週はたまたまグリーンボンドが先行しただけに過ぎないと見ておきたい。

国内起債市場を斬る 令和6度期初特別号:2024年度の起債市場は如何に!

年度がかわって、また起債市場も新たなスタートである。長期国債の入札を経た後頃から、徐々に起債案件が募集を始めるというのが例年のパターンである。長く起債市場を見ていると、まず動き出すのは、電力かノンバンク、あるとしたら銀行といったところと推測できる。その後、メーカーがゆっくりと募集に動き出すのが、ゴールデンウィークの前あたりになるかといったところだろう。しかし、今年度は幾つかの要素で異なる展開になる可能性がある。

最大の変化としては、3月の決定会合で実施されたマイナス金利とイールドカーブコントロールの撤廃であろう。前者に関しては異常な低金利政策の終焉を指しており、後者は長い年限の金利水準を市場のメカニズムに委ねるという判断である。金融緩和政策をほぼ昔に戻したという政策見直しだが、長期国債の買入れは継続されるし、CPや社債等の買入れに関しても停止ではなく1年程度の時間をかけての縮小になるとされている。したがって、まずは金利水準の居所を探る必要があるし、同時に社債買入れオペの縮小によるスプレッド水準の確認が必要になるだろう。国債の流通市場における出会いを確認することで、ベースとなる国債利回りはすぐにでも居所が確認できる。一方、3年までの社債の買入れを即時停止とはしなかったため、社債のスプレッドが拡大するといったほどの影響はないだろう。しかし、そもそも社債を発行できるような優良企業に関しては日銀の買入れによるスプレッド圧縮の効果は、ほぼ無関係であって、かつて市場において見られたような応募者利回りが0%となるような異常な新発債の募集はもう見られなくなるであろう。

金融政策の変更による影響の確認と同時並行で、日証協による社債インフラ見直しの動きによる影響も頭の片隅に入れておく方が良さそうである。結果としては、優良銘柄に与える影響は大きくなさそうであるが、近年のユニゾホールディングス(2023年4月26日民事再生法申請、負債総額1262億円)の顛末で広く知られるようになり、問題としては古くから指摘されていたチェンジオブコントロール条項(会社が取引先と交わしている契約に解除事由が発生したり、契約相手に対して通知または承諾を得なければならないといった条項)の設置について、検討が進められている。純粋に市場メカニズムに任せることで、社債契約の無特約化が進んできたことに対して、投資家保護のみならず社債市場を育成・活性化する観点からの見直しが行われようとしているのである。金融庁が近年強く主張している「顧客本位の金融機関運営」という観点からは、発行体および投資家の双方に不利益になることがないよう慎重な検討が望まれる。一律のコベナンツ設定を強制するのではなく、投資家を保護し、発行体側の経営の自由度を確保できるよう、個々企業の状況に応じた対応が必要になるのではないか。

起債市場全般のトピックとしては、新NISAの導入や株高によって個人投資家の目が証券市場へ向かっている中で、個人向け社債の活用が期待される。また、金利水準が上昇する中で、プレミアムの乗った金融機関や事業会社の劣後債に対するニーズに変化が見られるかどうかも注目される。更には、様々な新種の導入やスキームに関する工夫が見られているSDGs債の需給に関する変化も注目されよう。3月に募集された共同発行地方債では、引続きグリーニアム(地方自治体のESG;環境・社会・企業統治に使用目的を特定した債券)の債券を選ぶという姿勢のものも少なくない。今後の市場動向を確認してみたい。

国内起債市場を斬る 令和5年度期末特別号:日銀の金融政策見直しと社債市場

3月18日と19日に開催された金融政策決定会合において、植田日銀は金融緩和政策の見直しを決定した。決定した内容は決して金融緩和を撤廃することではなかったし、金融を引き締めるというほどのものではなかったが、『「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みおよびマイナス金利政策は、その役割を果たした』と明確にしている。また、オーバーシュート型コミットメントについても要件を充足したと言明しており、大規模な金融緩和の終了を宣言しつつ、金融緩和の姿勢は維持するものとした。結果的には、黒田前総裁が導入した異次元の金融緩和からの一連を終了して、白川総裁末期に見られた程度の金融緩和状態にまで戻すという理解が概ね正しいだろう。

社債等の起債市場に影響を与えると考えられるのは、大きく以下の3点であろう。まず、既にこの半年ほどは形骸化していたイールドカーブコントロールの終了である。10年金利の目標水準を0%とした長期金利に対する操作であったが、許容する変動幅が拡大された後に、上限の目途を1%としたことで既に実質的な効果は無くなっていた。つまり、今回の決定では、長期金利を市場の手に委ねると正式に発表したのである。長期金利の操作に際しても、日銀は市場から国債を買い入れているので、市場機能を維持しているというのが公式見解であったが、市場参加者に対する債券市場サーベイのアンケート結果から明らかであったように、最大の国債保有者による市場コントロールは自由な価格決定機能を阻害していたのである。言わば、日銀が手を離すことで「神の手」に戻されたのである。既に長期金利の目標が形骸化していたこともあって、10年国債利回りが大きく上に跳ねることはなかった。今後は、10年国債利回りの市場実勢が上方にシフトしても、日銀による市場介入は期待されないことから、10年債のクーポンはある程度大きくなることだろう。ただし、信用リスク等の要因がなければ、極端な上昇は見られないと考えられる。

次に、短期金利の目標水準が『0~0.1%程度で推移するよう』と明示されたために、明らかに短めの年限でも金利水準が上昇することになり、社債等の利回りも全般的に上がることが考えられる。かつて見られたような高格付債で実質利回りが0%となるようなオーバーパーでの起債は、もはや考えられない。それでも短い年限については日銀の短期金利に対するコントロールが緩やかに波及することが考えられるため、長期ほどの金利水準の上昇は生じないものと考えられる。新年度の起債市場の目線は、それ以前に国債利回りが落ち着いていると思われるため、4月早々から固まって来ることだろう。

最後に、白川総裁の時代に開始された社債等の買入れオペについて、『買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了する』という方針が示されている。政策が導入された当時の意図は社債等の買入によって信用スプレッドを圧縮し、企業の資金調達コストを引き下げることにあったが、そもそも社債を発行して資金調達を行うような大手企業にはあまり直接のメリットはなく、あくまでも間接的な信用スプレッドの圧縮が広範囲の企業に対して影響があったかもしれないという程度である。買入れ年限が3年以内ということで、日銀による買入れ対象となることが期待される新発債の応募者利回りが異常なほどに低下していたような事態は、なくなって行くことが期待される。少なくとも社債等の書入れは、実質応募者利回りが0%となるような起債など市場に歪みを与えた方が顕著であり、ようやく収束に向うことが評価できる。

現在の日本の景気等を考えると、すぐに次の利上げを行うというよりも、これまでの金融緩和のレビューを行い、今回の緩和見直しの影響を確認しつつ、大企業以外の中小企業等への利上げの波及状況を見守ることになるだろう。2000年代のマイナス金利解除の失敗を繰り返さないよう、慎重

国内起債市場を斬る 起債評価:3/11~3/15

2023年度最後の社債等の募集が行われる週である(おそらく)。月曜日に条件決定されたのは、大和証券グループ本社のセキュリティートークン債である。1年物の社債で年1回利払であるから、購入した個人投資家は償還される2025年3月21日に元本と利息を受取ることが出来る。クーポンは0.8%であるが、所得税と復興特別税がかかるため、最低単位の10万円分を購入しても利息は637円にしかならない。しかも、利払は電子マネーの一種である楽天キャッシュでのみ払われる。1年後までに楽天グループが破綻することはないと思われるが、楽天のリスクを一部負っているスキームであることは否定できない。

セキュリティートークン債は証券保管等振替機構のシステムを利用せずブロックチェーン技術を利用することで、様々な制約から免れることを可能としているが、個人投資家には必ずしもそのメリットは理解されないだろう。R&IのA格及びJCRのA+格という信用評価の社債が1年物で0.8%クーポンという利回り水準は、破格に厚いスプレッドと解することも出来るが、これもまた個人投資家には伝わりにくいだろう。個人投資家にとっては、大和証券のグループ持株会社の発行する社債であることと、1年物で0.8%と銀行預金を大きく上回る利率が付されていることが評価されるだけである。募集額の10億円は、申込みが締め切られた18日を待たずに完売した模様である。

この週に条件決定されたもう一つの社債は、木曜日に募集された三菱商事の10年債500億円である。大和証券グループ本社のセキュリティトークン債とは打って変わって、極めてオーソドックスな機関投資家向けの普通社債である。ただし、三菱商事の普通社債は以前から、担保提供制限等財務上の特約を一切付されていない社債である。担付切替条項もないために、完全な無担保社債であると言い切っても良いだろう。このタイプの社債を発行する会社は、決して多くない。それでも、格付けは、AA格(R&I)・A格(S&P)・A2格(ムーディーズ)と極めて高い。日銀による金融緩和の修正が翌週にあると期待される中でも、十分に高い信用力に対して国債対比+28bpsのスプレッドが付されており、1.054%という高いクーポンは、年度内最後の社債等の募集となることもあって、強い需要を集める結果になったようである。

これら以外に地方公共団体金融機構も定例の10年債を火曜日に210億円募集しているが、国債+9bpsと地方債並みの水準であり、当然のように順調に消化されたようである。4月以降の社債等の起債市場は、日銀による金融政策見直しの影響を受けて金利の水準が変わるであろうことから、まずは、スプレッドも含めて利回りの居所を模索する動きになることが期待される。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/4~3/8

年度内で社債等を募集できるタイミングとしては、この週が終わるとほぼ残り1週間に絞られる。本来ならば、年度内に資金調達したい発行体と社債等を購入したい投資家とのせめぎ合う時期であるはずなのだが、金利の先高感が台頭し始めた中で、投資家はあえて購入を急がない。とは言っても、基本的に買いたい意向は強いようで、募集された社債等に対する強い需要は確認されている。金利動向の鍵となる日銀による金融政策決定会合の次回会合は3月18日と19日の開催予定であり、その結果を待っていると春分の日の休日が入ることもあって、社債等の募集可能な時期を逸してしまうことになる。外部からは金融緩和の「見直しが3月に行われる」とか「いや4月だ」とか観測が上がっているものの、当の日本銀行は直前まで姿勢を明らかにすることはない。近年メディアによるスクープで政策判断が事前にリークされている可能性もあるが、本来はブラックアウト期間が設定されているために、日銀関係者等から漏れるはずはない。

この週の社債等の募集は、株高や米国の雇用統計発表待ちで神経質な相場展開の中、決して案件が多くはならなかった。また、光通信が3年債・5年債・7年債を募集する中、3年債のみをソーシャルボンドとした他は社債等でSDGs債の募集はなく、一頃の盛り上がりと状況を異にする展開になっている。また、東京ガスの20年債と名古屋鉄道の12年債各100億円を除いて超長期債の募集はない。ガスと鉄道という業種は古くから超長期債を募集して来ており、マイナス金利解除の観測が高まっている中で、ようやく超長期セクターの発行体が以前の業態に戻りつつあるようである。引続き、鉄道、電力・ガスといった公益セクターが超長期債市場の主な発行体になるのであろう。

概ね5年債以上の社債等の募集で国債対比のスプレッドプライシングが復活しており、クーポンの絶対水準に目を向けると、投資家にとって決して1%の確保が難しくなくなっている。格付けの高い東京ガスの20年債1.647%クーポンや、名古屋鉄道の12年債1.252%クーポンという超長期年限の選択肢もあるが、短い年限でも1%の確保が可能になっているのが現在の起債市場である。三菱倉庫の10年債が国債対比+30bpsのスプレッドで1.035%クーポンとなっているが、5年債でもKPPグループホールディングスの1.167%クーポンや光通信の1.272%クーポンといった選択が可能である。これらをR&Iの格付で見ると、東京ガスがAA+格、名古屋鉄道がA格、三菱倉庫がA+格、KPPグループホールディングスがJCRのA-格、光通信がA格と決して低いと見られる水準ではない。

更に、GMOフィナンシャルホールディングスの3年債はJCRのA-格であるもののITと金融という業種特性もあって、1.7%と高いクーポンが付されている。従来はR&IのBBB+格を取得して社債を募集しており、今回JCRの格付けに切り替えたのは「格付けショッピング」であると指弾されても仕方ない。現在もR&Iの発行体格付けはBBB+格である。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/26~3/1

日銀の金融緩和見直しの実施観測が高まり、日経平均株価が史上最高値を更新する中で、金利の先行きが不安視されるのは仕方ない。しかし、払込みまでの期間を考えると、社債等を募集可能なのは物理的に3月第二週あたりまでであるから、結果的に週後半に起債市場は盛り上がりを見せる展開となる。もちろん案件が集中するのは週末の金曜日であり、水曜と木曜に募集されたのは、日産フィナンシャルサービスの3年債400億円及び5年債100億円と、JERA(2014年東京電力(当時)および中部電力、包括的アライアンスの協議に入り準備開始し2015年4月設立。)の3年債300億円及び10年債100億円、合同製鐵第一回債の5年債50億円、コニカミノルタの3年債300億円及び5年債100億円であった。並べてみると分かるように、金額面で3年債の募集が多い。これまでイールドカーブコントロールのなし崩し的な見直しは行われているものの、マイナス金利解除にまで踏み込まれていないため、短い年限は大きく金利が動いておらず、次の日銀のアクションを考えて短い年限の社債を募集する動きが増えたものと考えられる。なお、これらの起債の中では。日産フィナンシャルサービスの5年債がグリーンボンドであり、JERAの10年債がトランジョションリンクボンドとなっている。

大量に社債等の条件決定や募集が行われた金曜日の案件の最大の特徴は、金利上昇前の個人投資家向けの条件決定であり、何と言っても、ソフトバンクグループの7年債5,500億円は巨額である。個人投資家向けの社債で7年という年限は異例の長さであり、期限前償還条項も付されていない。愛称として「福岡ソフトバンクホークスボンド」が付されているが、特にホークスグッスのプレゼントは提供されないようで、確認したところ(目論見書に記載がなく、主要販社のオンラインサイトを見ると)、「「お父さん応援隊長タオルハンカチセット(今治タオル)」を投資家あたり1セットずつプレゼントされるようである。週明けから募集開始の予定であるが、既にオンラインでの申込を締め切っている会社ばかりであった。投資家にとっては、7年という期間リスクを負うことになるものの、3.04%クーポン(ただし、源泉課税によって税引後の利回りは2.422%)は銀行預金に比して遥かに高い水準である。しかし、この比較は現時点での金利水準であり、今後7年間の預金金利の上昇を期待すると判断は難しくなる。個人投資家の場合は基本的に時価評価を要しないため、発行体がデフォルトしなければ信用力の悪化を懸念する必要はないと考えることが可能である。

同じく週明けからの募集開始で、オリックスが5年債300億円を0.677%クーポンで条件決定している。販社のオンラインサイトを見ると、ソフトバンクグループ債の申込みを締め切っているのに、オリックス債は受付中のところがあった。両社ともプロ野球の球団を持っており知名度は確保しているのであるが、格付けが大きく異なるため、顕著なクーポン水準の差によるものであることがわかる。オリックスは同日に条件決定した5年債100億円を機関投資家向けに募集しており、同じ0.677%クーポンに設定している。同じ5年債で個人向けと機関投資家向けに利回りを異なる水準にすることは特別の理由がない限り不適切であり、ソフトバンクグループのような高いクーポンにして発行額を増やすことは出来ないのである。

同日には、機関投資家向けでは、三菱UFJフィナンシャルグループの永久劣後債計2,000億円や、東京地下鉄の20年グリーンボンドなどが募集されている。また、5年債の募集が盛んで、オリックス以外にも、SBIホールディングスやサワイグループホールディングス、ゲオホールディングス、ソニーグループ、マツダ、東京センチュリー、日立建機が募集しており、合計で1,500億円近くに上っている。このうち、マツダがトランジションボンド、日立建機がグリーンボンドである。なお、ソニーグループの起債は3年債と10年債と合わせて1,500億円の巨額となっており、年度を通じて機関投資家向けの起債としては最大級の募集となっている。いずれの募集に関しても、投資家の強い需要が観測されている。