国内起債市場を斬る 起債評価:11/23~11/27

勤労感謝の日を含む三連休明けで、営業日としては4日しかなかった週であるが、年内最後の債券募集期間に入っており、水曜日以降に債券の募集が相次いだ。募集された民間企業の社債だけを見ても、業種の幅が広い。金融、小売、化学、建設、石油、精密機器、陸運、通信、電力、金属製品、土石製品と様々である。年限を見ると、日銀オペ対象年限である3年や5年も多いが、7年や10年も幾つか見られ、逆に金利水準の上昇している超長期は北陸電力の12年債100億円のみと少ない。

年末が近づいたという実感を強くするのは、大型案件の募集であろう。複数年限を併せて1,000億円以上となる募集が複数行われている。まず、関西電力の5年債及び10年債各500億円の計1,000億円である。近年、原発誘致関連のスキャンダルに追われていた感の拭えない同社であるが、5年債のクーポンは0.18%で10年債のクーポンは0.44%とJCRでAA-格及びR&IのA+格を取得している会社にしては高い水準であることから、強い投資家のニーズがあったようである。何しろJCRでA格を取得している高砂熱学工業の10年債のクーポンが0.43%である。もっとも格付けだけで語るのは危険であり、他に募集された10年債を見ると、JCRでA+格のニコンが0.47%クーポン、R&I及びJCRで同じ水準の格付けを取得しているソフトバンクが0.57%クーポン、JCRでA格の太平洋セメントが0.45%クーポンと、必ずしも格付けとは連動していない。個々に企業の内容や業種、資金使途等を分析する必要があろう。

大型案件の二番目は、ソフトバンクである。5年債800億円・7年債250億円・10年債150億円の計1,200億円を募集している。投資持株会社と化したソフトバンクグループと異なり、同社は通信業者という位置づけである。それでも持株会社の投資活動による影響を完全には遮断しきれないことから、格付けのみでは説明できないような利回りの高さとなっている。それでも、調達の主軸が5年債というのは、市場への影響に配慮したものであろう。

もっとも大きな金額を募集したのが、セブン&アイホールディングスである。3年債1,300億円・5年債1,800億円・7年債400億円と短めの年限で合計3,500億円を募集している。3年債と5年債という日銀オペ見合いの年限では、一つの回号だけで前述の関西電力やソフトバンクの調達額を越えている超大型の起債である。資金使途は、大型起債につきもののM&A関連であり、具体的には米国子会社の7-ElevenがSpeedwayブランド等のコンビニ事業を買収するためのものである。つまり、M&A関連の起債の特徴として、同社の有利子負債比率が上昇することは確実であって、買収が収益に貢献できなければ格下げといった事態も生じる可能性が考えられる。セブン&アイホールディングスの事業全般を振り返ると、国内のコンビニ事業はネットワークの強さを維持している一方、そごう・西武の百貨店事業がコロナの影響で大きなダメージを受けているだけでなく、セブンペイの失敗やネット通販チャネルであるオムニ7の低迷もあって、8月末時点の持株会社の経常利益は10%を上回る低下となっている。なお、格付各社はSpeedwayの買収を発表した時点で、いずれも格下げ方向のレーティングモニターとしており、現在の格付けであるA+(R&I)及びAA-(JCR)を妄信するのではなく、引下げとなる可能性を十分に織り込んで考える必要があろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/16~20

ようやく2020年末に向けた起債市場の動きが本格化している。相変わらず金曜日への案件集中は顕著だが、既に火曜日から三菱重工業が5年債及び10年債で計650億円を募集し、その後も明治ホールディングスの3年債やNECキャピタルソリューションの10年債等が社債を募集されている。衛生用機器メーカーである瑞光(6279)が、初めての公募普通社債である5年債を募集したのも木曜日であった。

金曜日に案件の集中した状況を年限別に分解すると、日銀による買入れオペ見合いの5年債以内と、超長期債の募集が目立つ。また、中軸年限である7年債や10年債の募集も細々とではあるが確認できる。グリーンボンドで募集されたのはキリンホールディングスの5年債100億円であり、東日本高速道路の5年債・7年債・10年債の計900億円はソーシャルボンドとしての認定を受けている。

3年債の募集はクーポンが低廉で済むこともあり、また、投資家が償還まで抱え込まないことも可能なため、市場では消化負担が小さいと考えられている。引受証券会社は、引受手数料を得ることが出来て実績となる。国債より利回りが高く、証券会社経由で日本銀行に持ち込めば売却益を得られるのだから、投資家に損もないだろう。日銀の金融緩和による副作用というか市場の歪みと言えよう。しかも、金融緩和という政策目標の錦の御旗を掲げた中央銀行は、市場介入によって損失が発生しても政策コストと割切ることが可能なのである。結局、市場参加者の誰もが不利益を被らない。敢えて言えば、日銀納付金の減少によって国庫がとも言えるが、その裏で金利の低下による最大の受益者は国内最大の債務者である政府であることから、国民もしくは納税者も受益者であると考えられるのかもしれない。

超長期債の募集者は、京阪神ビルディングが15年債、三菱ケミカルホールディングスと京浜急行電鉄・東武鉄道・南海電気鉄道が20年債といった顔触れである。R&Iの格付けでは三菱ケミカルホールディングスがA格と1ノッチ高く、京浜急行電鉄以外の三社が並ぶ構造にある。京浜急行電鉄はJCRからのみA+格を取得しており、これは三菱ケミカルホールディングスの格付けと同じ水準である。京阪神ビルディングは不動産業界であり、鉄道三社ともども、新型コロナ感染症による需要減の影響を強く受ける業態である。もっとも三菱ケミカルホールディングスのような基礎化学も、中長期的に消費低迷の影響を緩やかに受けることは間違いない。クーポンを単純に並べてみると、京阪神ビルディングが0.86%、京浜急行電鉄が0.67%、三菱ケミカルホールディングスが0.77%、東武鉄道が0.74%、南海電気鉄道が0.81%となっている。南海電気鉄道は、かつての負のイメージから完全には脱却できていないだけでなく、関西空港アクセス客の減少による下方圧力も意識されているのだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/9~11/13

11月に入り徐々に起債市場が動きはじめているものの、まだ、本格稼働という感じではない。あたかも12月中旬までの年内の募集期間ギリギリに向けて、エネルギーを蓄えているかのようだ。起債観測は、様々なメーカーや交通関連など多くの企業から上がっているが、新型コロナウイルス感染症の動きが活発になりつつある状況に鑑みると、旅行や小売、サービスに関連する発行体は今後も苦しまざるを得ないのかもしれない。札幌を中心とした北海道の感染者増に加えて、当初は感染者がないと豪語していた岩手県でも複数の飲食店でクラスターが発生しており、予断を許さない展開となっている。寒さや乾燥でウイルスが活性化し、飛沫の距離、範囲共に延びていくという。気温の低下から換気が不十分になり、これが感染拡大の要因となっている可能性が高い。もしそうであれば、本格的な寒波の到来による首都圏や中部・関西の気温低下による状況の悪化が懸念される。欧米の感染拡大を対岸の火事と見ることは極めて危険であり、未だに日本の感染者が少ない要因は、解明されていないのも、不気味だ。

徐々に動きはじめた起債市場では、住宅金融支援機構の3本立て財投機関債以外には、日銀オペ見合いの年限である3年債及び5年債の社債のみが募集されている。発行体は高格付けと低格付けとの両極であったと言って良いだろう。トヨタグループに属する自動車部品メーカーであるデンソーは、R&IのAA+格と日本国債並みの水準の格付けを得ている発行体である。募集した3年債は0.001%クーポンであるが、単価が100.003円のオーバーパーであって、利回りは0%である。それでも同年限の国債よりは高い利回りなのである。久しぶりの希少性も加わって、500億円の募集でも何ら支障がない。

もう一方のグリーは、BBB(R&I)格を取得しているネット企業である。元来はSNSの運営会社とされていたが、現状はネットゲームに注力しているようである。新型コロナウイルス感染症の拡大で在宅を強いられている人が多い中で、売上の拡大が確実視できる強みはあるものの、流行り廃りの激しい業界であって、短期間で大きく業績や収益状況の変化する可能性も高い。そういう意味では、3年債と5年債という組み合わせは、ギリギリの年限ではないか。しかも、募集金額は3年債50億円に対して5年債は30億円と、公募普通社債では見ることが稀な少額発行である。3年債の0.51%はデンソーと比べると500倍以上の高いクーポンであり、5年債も0.85%クーポンと十分に高い水準であるが、発行体の先行きが懸念からか、なかなか投資家の購入意欲を掻き立てるものではない。それが、BBB格という格付けであり、業種としての特性にも結び付いた見方であろう。今回が第1回債及び第2回債という初の公募普通社債であり、投資先の分散という意味では購入を考えても良いとする投資家はあっただろう。

国内起債市場を斬る  ステイホーム特別号➂:いわゆるコロナ関連業種の信用リスク

欧米を中心に、再び北半球における新型コロナ感染者の数が増加しはじめている。日本においても、GoToトラベル等経済支援策の影響もあるのか、各地で再び感染者に増加の兆しが見られる。札幌を中心とした北海道における感染者の増加は、気温低下に伴うものか、それとも窓を閉め暖房を使用する影響なのか、今後の本州や他の地域への拡散は予断を許さない。日本においては第三波のように見える感染者数の増加であるが、欧米では第二波の到来と見られているようである。

こうした感染者再拡大の状況を考えると、クレジット投資に対する影響を改めて検討しておくべきではなかろうか。特に、コロナ関連業種と呼ばれる、感染拡大の影響が売り上げや収益へ直接に影響すると考えられる業種について、検討しておくべきだろう。まず、小売に関してはネット通販等で売上を代替できる可能性もあり、個別企業の地域展開やマーケティング手法によって影響は区々であり、一概には判断できないが、慎重に臨む必要はありそうだ。

一方、まず、直接のダメージが大きいのは、旅行や宿泊といったところであろうか。幸いなことに、ホテル関連企業による社債発行はほとんど見られていないが、投資法人債においては、影響の生じる可能性があろう。旅行関連では、旅行取扱業者による社債は顕著な影響がこれからも継続するだろうし、旅客運送業者に関しては、中長期的な影響が必至である。もっとも大きな影響を受けるのは航空各社であり、次に、鉄道業者ということになろう。バス事業者に関しても、営業地域によっては業績への影響が大きくなる懸念がある。

サービス関連では感染拡大で業績に影響のある企業も少なくないが、社債への影響という意味では、個々に吟味する必要があろう。テレワーク等在宅勤務や外出の抑制からビジネスチャンスが拡大するものがある一方、訪問型のビジネスは敬遠されがちとなる。雇用形態や労働実態の変化から、強みを発揮できる人材派遣関連サービスもあれば、逆に、厳しくなる企業もあるだろう。なかなか一括りには行かない。

中長期的にもっとも注意しておかねばならないのが不動産関連かもしれない。J-REITを含めて考えると、まず大きな影響を受けた宿泊関連の次に、中長期的にはテレワークの増加によってオフィス需要の低迷が不可避であろう。当面、新規竣工物件へのニーズは維持されようが、陳腐化したレガシー物件に対するニーズは低迷する可能性がある。更には、景気の低迷から住宅に対するニーズも影響を受ける可能性があるし、そもそも人口減少トレンドの中にあることを考えると、不動産全般の先行きは厳しく、個々に長所短所を見極めて行く必要があろう。

新型コロナウイルス感染症の再拡大によって、政府は新たな財政出動を強いられる可能性もあり、民間企業のみでなく、各国の国債に対する信用リスクも懸念される展開が考えられる。民間の手が及ばぬところに公的サービスの出動が求められる中で、所得の低迷から税収が減少するだけでなく、経済活動の沈滞によって消費税収も低迷するだろう。ラストリゾートではなく、最後に影響を受けるのがソブリンであることを忘れてはならないけ。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/26~10/30

10月の終わりは、例年起債募集が少ない時期である。前週は公的セクターと、事業会社では3年債及び森精機の永久劣後債を取上げたが、この週も普通の事業会社の起債は見られなかった。

まず、三井住友信託銀行が3年債及び5年債を募集している。取得した格付けがJCRのAA-格及びムーディーズのA1格という他の社債との比較が容易でない評価である。ムーディーズのA1格という国債と同じ符号を、政府による万一の場合のサポートを表すものと考えれば、中短期の時間軸で信用力を懸念する必要は多くない。もっとも銀行に対する信用判断は、格付けのみに基づくのは危険であり、今後の新型コロナウイルス感染症の影響による経済全般の低迷を頭の片隅に入れておいた方が良いだろう。3年債の0.1%クーポンは、マイナス金利の国債に比べると投資妙味があるし、高格付けの一部ノンバンク等で見られるゼロ利回りや下限ギリギリの0.001%クーポンよりに比べても、高い水準である。発行額が3年債100億円と5年債200億円しかなく、流動性の面も含めて、投資家に十分に行き渡る金額ではなかった。

楽天の劣後債は、変動利付化する期限前償還の後、存続していないと期待される年限を30年に固定して、35年債・37年債・40年債の3本が募集された。EC市場でのプラットフォーム提供だけでなく、銀行や保険、携帯電話等多様なビジネスに展開する企業であり、同社の事業展開の先行きを予想することは容易でない。期限付劣後債ということで、取得した格付けは、R&IのBBB格及びJCRのBBB+格である。将来の格下げの危険性を考えると、期限前償還されなかった場合の35年債・37年債・40年債といった年限は、到底、投資できるものではない。クーポンのステップアップが盛り込まれていることで期限前償還を前提に投資する購入者も少なくないだろうが、例えば35年債の場合、当初5年は1.81%の固定クーポンで、その後、6カ月円ライボー+210bpsに変動化する。5年後の金利水準は想像しがたいものの、現在と同程度の状態であれば、決して高い金利にはならない。事業特性を考えても、期限前償還されない可能性を無視してはならない投資対象であろう。第4極を目指して参入した携帯電話事業も、当面の通話料金の無料設定を考えると、設備投資の回収にかなりの年限を要すると考えられ、通信品質の確保や通話可能エリアが改善しなければ、5Gは掛け声倒れに終わり、まだまだ他の事業のお荷物になるのではなかろうか。当初1,000億円とされていた募集額が、35年債500億円・37年債200億円・40年債500億円の計1,200億円まで増額されている。投資家の需要は多く集まったようであるが、果たして、5年から10年後に無事早期償還されるだろうか。投資家判断のばらつきに、目が離せない。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/19~10/23

此の週は、秋の長雨から秋晴れへと天気の構図が移り変わる週であった。起債市場の方は、活発な起債が減り、やや公的セクターが中心の展開へと推移しつつある。その中でも、幾つか面白い起債を見ることが出来た。

公的セクターにおいては、そもそも前の週から続く地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が多い。もともと四半期最初の月の中下旬に多くを募集し、最低30億円で定例発行の年限と重ならないという条件であるから、引受対象になっている証券会社が投資家を見つけてくれば、債券発行は容易である。セカンダリー市場に出てくる可能性は大きくなく、実質的に私募債と変わらないように思うが、位置付けは公募債であり、そこそこの数の銘柄が日証協の店頭売買参考統計値の公表対象になっている。市場での出会いが乏しい中で、毎日価格を付ける証券会社に無駄な労力を強いているということになる。そろそろ、店頭売買参考統計値の公表対象を見直すべきとも思う。

3年債を募集したのが、名古屋鉄道とポケットカードであった。前者は、20年債とのセットでの募集であり、いわば、一般的な起債年限の上限と下限とを募集した形であった。クーポンを比較すると、前者は0.001%で、後者は0.3%と水準が全く異なる。格付けは、前者がR&IのA格及びJCRのA+格で、後者はR&IのA-格及びJCRのA格と1ノッチずつの差である。それで、ここまでクーポンに差が出るのは、業種による違いが大きいだろう。より高格付けの銘柄なら、0.001%クーポンでオーバーパー発行が珍しくないのが3年債である。

民間企業の起債でもう一つ目を引いたのが、DMG森精機による劣後債の募集である。募集されたのはいずれも民間事業会社としては初となる公募の永久劣後債であった。同社は以前に私募の永久劣後債を募集した例があり、発行体として永久劣後債の発行に違和感はなかったものと思われる。投資家側も期限前償還を前提にすれば、期限付き劣後であろうが永久劣後であろうが、大きな差はないと認識したのかもしれない。今回の永久劣後債2本は、3年後もしくは7年後に期限前償還が可能である。一般的な格付会社のルールにしたがって、永久劣後債は発行体格付けから2ノッチより下とされており、今回の永久劣後債はBBB格と評価されたために、投資家によっては手が出し難くなっている。万一発行体の業績が悪化した場合には、簡単にいわゆる投資適格の格付水準を下回ってしまう懸念がある。早期償還を前提にすれば、3年債は1%、7年債は2.4%という高いクーポンであって魅力的なのであるが、ダウングレードリスクについては大丈夫という判断なのだろうか。なお、劣後事由として清算型倒産のみを対象としていることは、投資家が外形的に判断できるため評価して良い設定であると考えられる。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/12~10/16

下半期入りしたとたんに賑わった起債市場は徐々に落ち着きを見せはじめている。それでも16日の金曜を中心とした週後半には、条件決定が相次いでいる。この週の特徴としては、銀行持株会社の劣後債と、新顔の登場といったところだろうか。

銀行持株会社の劣後債としては、まず、火曜日の13日に三菱UFJフィナンシャルグループが永久劣後債を2本募集している。早期償還可能なタイミングが、5年3か月後のものを230億円で、10年3か月後のものは370億円と、計600億円の募集である。格付けはR&I及びJCRのA-格で決して高格付けとは言えないが、将来的にメガバンクが破綻するとは考え難く、早期償還を確実だと考えるならば、前者で0.851%、後者で1.038%クーポンという水準は十分に魅力的である。
次に、翌14日の水曜日に条件決定したのは、みずほフィナンシャルグループの10年物個人向け期限付き劣後債である。シンプルな10年債は0.875%クーポンで630億円、当初5年で期限前償還可能なものは当初0.56%クーポンで740億円の計1,370億円が条件決定されている。期限付き劣後債であるため永久劣後債ほど格付けは引き下げられず、R&I及びJCRからA+格を取得している。期限前償還を前提とした5年債と考えるならば、ブレットの10年債ともども機関投資家でも手を出したい水準なのではないか。

新顔の登場としては、まず三井住友建設の5年債である。三井建設と住友建設が2003年に統合して設立されたゼネコンであるが、位置づけは準大手に過ぎない。JCRでA-格という評価からも積極的な投資対象とはし難いかもしれない。
続いて、東京臨海高速鉄道が10年債100億円を募集している。お台場地区に繋がる「りんかい線」の運営会社である。東京都が9割以上の株式を保有してる第三セクター会社であるが、鉄道の運営は実質的にJR東日本と一体化され埼京線の電車が乗り入れている。もっとも運賃は別計算であるために、割高感は否めない。コミケ等お台場でのイベントや通勤時には、多くの人が蛇行して時間を要するゆりかもめでなく、りんかい線を選択する可能性は高いが。
最後の新顔はJERAで、中部電力と東京電力フュエル&パワーが半分ずつ出資する火力発電等の会社である。既存電力債と異なり一般担保付の社債を発行できないが、5年債と10年債各200億円を募集している。結局のところ、中部電力及び東京電力と事業を切離すことができないため、両社の信用力の影響を受けざるを得ないと考えられる。JERAの格付けはR&IのA+格及びJCRのAA-格を取得しており、東京電力ホールディングスの格付けがR&IでBBB+格、JCRでA格であり、中部電力の格付けがR&IでA+格、JCRでAA格という水準から見ると、必ずしも高い方に寄せているものではない。なお、JERAは2020年のプロ野球セントラルリーグに特別協賛し冠スポンサーとなっており、知名度の向上に役立ったものと思われる。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/5~10/9

10月の第2週も、9日金曜日への案件集中が著しい。しかも、500億円を越える大規模の案件が複数あり、起債市場は活況を呈しているかのように見える。しかし、大型案件のうちでも、JR東日本の3年債1,000億円などは、日銀による社債買入れオペ見合いの募集であり、投資家の保有対象ではない。結局のところ、引受証券の実績作りと鞘取り目的の一部投資家(更には、日本銀行の金融政策への貢献)のための起債だから、本来的な投資に繋がらない起債市場の虚しさは強まるばかりである。このような環境の中でも、この週の起債で幾つかトピカルなものが目立ったので、概説しておこう。

まず、五洋建設の3年債及び5年債で後者のみがグリーンボンド認定を得ているなど、複数年限での債券募集のうち、一部のみがグリーンボンドやソーシャルボンドであるという案件が見られた。アサヒグループホールディングスは、普通の3年債と5年のグリーンボンド、60年の早期償還可能劣後債の組み合わせで募集した。住宅金融支援機構も5年債は通常の起債であるのに対し、10年債及び20年債はグリーンボンド認定を得ている。お金に色がない以上調達した資金に境目はなく、このような起債を行った発行体は、認定を得た当該債券の償還まで適正に調達資金を利用していることを、投資家に対して報告を続ける義務があると考えるべきなのではなかろうか。一方、中国銀行の劣後債やトヨタファイナンスの5年債は単独で認定を得ており、住友倉庫の3年債及び5年債は揃って認定を得ている。

SDGs関連では、ヒューリックの10年債がサステナビリティリンクボンドとして募集されている。当初のクーポンが0.44%に設定されており、2026年8月末に予め宣言した基準を達成できていない場合には、クーポンが0.54%にステップアップし、達成している場合には0.44%クーポンを償還まで維持するというものである。過去には、日本企業のユーロ円債で、格付けの低下や支配株主の変更といった要因でクーポンが上昇する債券を募集した例はあるが、国内公募でサステナビリティを基準としクーポンが変動する債券は初めてである。面白い取り組みであり、あくまでも基準未達でクーポンは上がり、下がることはないので、投資家の判断は比較的容易であろう。もっとも、今回の基準設定内容は不動産業を営む発行体に馴染むものではあるが、現状で10年の与信が適切な先であるか疑問がないとはしない。

次に、九州電力が最終償還60年で、早期償還可能のタイミングが5年債700億円、同じく7年債300億円、10年債1,000億円と計2,000億円の大型の劣後債を募集している。事業会社による劣後債の募集は既に珍しくなくなっているが、事業債の場合には無担保社債対比で劣後する社債であり、電力債の場合には元々募集されているのが一般担保付社債である。つまり、発行体の全資産が既に電力債の担保となっており、実質的に社債権者は先取特権を持つのと同様の効果を期待することが可能である。結果として、事業債は無担保の金融機関借入と同順位なのに対し、一般担保付電力債は無担保の借入等に優先する。その結果、電力会社の発行する劣後債は、回収可能性が電力債対比で著しく劣ることに留意しておく必要がある。

最後に、以前にも触れた東京大学債である。結局、40年債200億円が0.823%クーポンで、ソーシャルボンドの認定を得て募集された。同大学の位置付け等を考えると違和感はないし、AA+(R&I)及びAAA(JCR)という日本国債と同符号の格付評価も頷けるものである。しかも、国債対比では+18bpsの上乗せがあるのだから、実質的に財投機関債並みの存在と考えて良いだろう。高い信用力の源泉は、東京大学の債券だからということなのか、国立大学法人の債券だからということなのか。前者はプラス要素であるものの、本質は後者であろう。頭の体操をしてみると、京都大学や一橋大学でも、更には、帯広畜産大学でも同じように考えられるだろうか。なお、財投機関と同様に、国立大学法人も経営困難になった場合には破綻処理ではなく、別の法人と統合して救済されることが確実視できるだろう。経営破綻でなくとも2007年に大阪外国語大学は大阪大学に統合されているし、同様の国立大学法人の統合は単科大学を中心に珍しくない。統合による救済を所与とするならば、すべての国立大学法人の信用力を日本国債と同程度と見て良いのだろうか。なかなか難しい問題である。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/28~10/2

下期入りを待っていたかのように、複数の社債等が募集された。ちょうど1年前にあたる時期の社債等の募集を見てみよう。本年はうるう年であったため、2019年の同時期は10月3日が木曜日、4日が金曜日であった。昨年の木曜に募集されたのは、阪神高速道路・電源開発・ジャックス・東京電力パワーグリッド・クレディセゾンの5社であり、金曜に募集されたのが中国電力・ソニー・セガサミーホールディングス・リコーリース・首都高速道路・ダイキン工業・日本政策投資銀行・ニッコンホールディングス・新生銀行・北海道電力・住宅金融支援機構と既にプチ起債ラッシュとも見える状況になっている。

2020年は10月1日が木曜であり、昨年ほど2日の金曜に起債が集中することはなかったが、10月に入った二日間で募集されたのは、みずほリース・阪神高速道路・首都高速道路・東京電力パワーグリッド・クレディセゾンの計5社である。昨年の同時期と比較してみると、社債募集が重なっていないのは、みずほリースのみであって、他の4社は同様に下期入りした瞬間とも言える10月最初に社債を募集している。こうした発行体の癖というか傾向を見ておくと社債等の募集タイミングを予測することが可能になる。

昨年の起債内容と比較してみよう。阪神高速道路は2019年が1年債550億円に対し、2020年は4年債350億円を募集している。1年債はレアな募集年限である。なお、前年の1年債からソーシャルボンドの認定を得ており、2月の前回は3年債と、徐々にソーシャルボンドによる調達年限を伸ばしている。一方の首都高速道路は2019年の5年債400億円と発行額は大きく変えず、5年債を360億円募集している。前年のクーポン0.03%に対し、今年のクーポンは0.07%と水準が異なる。利息が倍返しになったと考えるか、わずかに4bps増えたと考えるか、投資家の印象も其々であろう。

東京電力パワーグリッドは、前年が5年債700億円・10年債700億円・15年債600億円の計2,000億円であったが、今年は6年債500億円及び12年500億円の計1,000億円と募集額を半減している。年限の設定は、償還年限の分散を図ったものと考えられるが、昨年の10年債は0.98%クーポンであり15年債は1.28%クーポンであった。両者を足して2で割ると1.13%になり、今回の12年債のクーポンと一致する。絶対金利水準で募集するのが同社の社債募集の常であるが、意外にも、こういう簡単な決まり方をしているのかもしれない。

クレディセゾンは2019年に7年債100億円を募集したのに対し、今年は10年債100億円を募集している。クーポンは0.23%から0.4%に上昇しているが、年限延長から当然の結果であろう。

国内起債市場を斬る 2020年度上期末特別号:コロナ禍上期の起債の特徴

今年度上期の起債市場の特徴を三つほど挙げてみよう。今年に入ってからの世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大で、前年度末に株価は大きく下落しただけでなく、クレジット市場でのデフォルト懸念を意識せざるを得ない状況となっていた。結局、日本では社債発行企業が破綻するようなことはなかったものの、海外では経済活動の自粛によって影響を受けやすい業態で上場企業を含めた倒産事例が複数発生していた。ところが、各国政府の経済的な支援策と中央銀行による金融緩和の強化で、株価水準は急速に回復した。一方、金利の面では、各国の財政赤字に対する懸念が高まり、特に超長期の金利水準に底堅さが見られるようになった。手前の短期金利はより低く、国によってはマイナスになっているのに、超長期年限の金利はそれほど下がらないツイスト傾向にとなったのである。

特徴の一つは、日銀による社債買入れの年限拡大による影響である。日銀は従来から残存3年以内の社債を買入れていたのであるが、対象を5年以内に拡大した。その結果、起債市場で3年債と5年債を併用する起債が顕著に増えたのである。新発債もすぐに買い入れ対象になるのだから、通常の債券投資で利回りの稼げない投資家も、購入後、節操なく証券会社経由で日銀オペに入れ差益を稼ぐ短期売買として取組むスタンスが目立ったのである。70年代で言う所謂「サヤトリ商い」「ツモ切り」であり、トレーダーの世界では、下劣な行為とされていた取引である。5年債そのものは従来から起債市場における基軸年限の一つであるが、日銀オペで復権した3年債と同様の使われ方が目立ってしまった。利付国債の発行残高の4割以上を購入し市場の価格法顕機能を損なってしまったのと同様に、中央銀行の金融緩和オペレーションによる副作用の一つと考えて良いだろう。

二つ目の特徴は、グリーンボンド等SDGs債の募集拡大である。決して割高に発行されるグリーンプレミアムは確認されないのであるが、ESGやサステナビリティを意識した投資が求められる風潮の中で、投資家の姿勢を端的に示すために好適な投資対象として活用された。米国では、ESGと受託者責任の優先順位について議論があるが、日本においては、利回りの確保という最大の受託者責任を無視してまでESG投資に注力すべきという情勢にはない。どんなにESG投資に取り組んでも、必要な運用利回りを獲得できなければ、運用者は責任を取らざるを得ない。一方、結局のところ、お金に色はないのだから、発行体全体としてのSDGsを追求しなければ、部分的なSDGsへの取組みは、掛け声倒れの画餅に帰するのではないか。

三つ目の特徴としては、相変わらずの事業会社による劣後債の募集である。通常の社債では利回りを得られない投資家が得られる高利回りのメリットと、格付会社に資本性を認定してもらえる発行体の自己資本拡充メリットと、更には、引受証券にとっても高めの引受手数料と引受実績を得られるのであるから、三方一両得の構造にある。しかし、こうした幸せな状態も、当該債券のデフォルトや利払い繰り延べが生じず、予定通りに期限前償還が実行されるのであれば、という限定条件が付される。ハイブリッド証券という欺瞞のラベルではなく、劣後債として正面から証券特性を見つめるべきである。劣後ローン等の借換え等に際して、既に格付会社から資本性認定に関して疑問視する指摘は見られており、適正な募集活動と条件設定、期待通りの発行後運営がなければ、事業会社の劣後債という商品類型そのものが市場参加者から見放される可能性は残る