国内起債市場を斬る 起債評価:5/10~5/14

GWを終えて3月期決算企業の決算発表も峠を越えると、徐々に起債に向けた動きが増えて来る。一般的に動きが早いのは、電力・ノンバンク・財投機関というイメージであるが、この週はノンバンクがまだ動かず、電力と財投機関の動きが先行したようである。社債等の多くが14日の金曜日に募集されたためか、起債観測の上がっているノンバンクもあるが、募集は翌週以降に持ち越したようである。

電力関連で動いたのは二社で、電源開発が10年債300億円と20年債100億円を募集し、北海道電力が3年債200億円と10年債100億円を募集している。格付けを見ると、R&Iの評価は電源開発がA+格で、北海道電力がA格と1ノッチの差があるものの、北海道電力債には一般担保条項が付されており、顕著な信用力の差を意識しない投資家は少なくないだろう。電源開発債には社債管理者が付されているが、センサー機能を持った特約や一般担保条項が付されていないため、受託銀行が社債管理手数料を懐に入れるだけとなっている。同じ日に募集した10年債は、電源開発債が0.31%クーポンで北海道電力債が0.33%クーポンとわずかな差である。もっとも北海道電力が同時に募集した3年債のクーポンは0.001%クーポンと最低水準に設定されており、パー発行なので多くのノンバンク等の社債より投資妙味を感じた投資家もあるだろう。

財投機関等では、新関西国際空港が5年債と10年債を各100億円募集している他、西日本高速道路が5年債を800億円、地方公共団体金融機構が10年債を350億円、住宅金融支援機構が5年債400億円・15年債200億円・20年債100億円・30年債300億円の計1,000億円を募集している。地方公共団体金融機構の債券募集が10年債のみというのは、珍しいかもしれない。また、住宅金融支援機構も10年債を外して、5年債・15年債・20年債・30年債という刻みも過去多かったようには記憶していない。この4本立ての中では、15年債と20年債とがグリーンボンドとしての認定を得ている。

グリーンボンドという意味では、安川電機が5年債100億円をグリーンボンドとして募集している。安川テクノロジーセンターの建設資金に充てる予定であり、効果としては、「高環境効率商品、環境適応商品、環境に配慮した生産技術およびプロセス」の他に、「エネルギー効率」を掲げている。グリーンボンドの認定に際しては、セカンドパーティーオピニオンをR&Iから取得しており、調達した資金の適正な利用に対するモニタリングが期待される。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/26~5/7

GWを挟む時期は、3月期決算企業の決算発表もあって、起債市場の動きは鈍い。そもそも飛び石休暇であると、今年のカレンダーで行けば4月30日とか5月6日・7日といった証券会社の営業日程では、社債等の募集は容易でない。前日が休日であると募集しづらいし、募集から払込までの日程を大きく開けることは好まれないからである。結局のところ、この期間に社債が募集されたのは、本格的な休みに突入する前の4月27日及び28日に限られた。しかし、いずれの日も1銘柄ずつの募集であって、決して市場が盛り上がっているという訳でもない。

4月27日に募集されたのは、中日本高速道路の5年債950億円である。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されているため、信用力の面では実質的に財投機関と同等と考えられる存在である。発行体が株式会社形態という面での不安感は多少あるかもしれないが、国と実質的に一体である財投機関が併存して債務を引受ける仕組みである。格付けも引続き、R&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格と、いずれも日本国債と同じ符号を得ている。5年債でクーポンは0.05%であった。利回り水準としては、同月に募集された東日本高速道路の5年債と同じであった。日本政策投資銀行や住宅金融支援機構の0.02%クーポンは上回るものの、JR東日本やJR西日本も5年債は同じ0.05%で募集しており、決して割高感はない。

続く28日に募集されたのは、住友不動産の10年債300億円であった。バブル経済の崩壊後に格付けが投資適格と呼ばれる水準を下回っていた時期には、個人投資家向けの社債募集で凌いだり、その後も、流通市場の実勢から大きく乖離した水準での社債募集を強行したりと、社債市場において”いわくつき”の発行体の一つと目されて来た。しかし、現在の格付けは、R&IのA+格及びJCRのAA-格と、高格付けと表現してもおかしくないような信用水準になっている。不動産市場の全般的な回復もあるが、特に、大都市圏のオフィスや物流施設等多様なニーズに対応したことで、人口減少社会においても、大手不動産各社は根強い需要を確保しているのである。クーポンは0.31%に設定されており、野村證券が単独で全額を引受けた。今月に募集された起債市場で同じく歴史的にいわくつきの発行体の一つとされる東京電力パワーグリッドの10年債は、0.8%クーポンであるから、格付けが大きく異なるとは言え、住友不動産の評価が大きく回復していることを感じさせる。同月に募集された他の10年債を見ても、0.31%クーポンは、他の電力債とほぼ同じくらいの水準であり、丸紅やオリックスよりも低い水準である。住友不動産が普通の発行体になったことを強く意識させられた起債であった。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/19~4/23

4月も下旬になると、3月期決算の発表タイミングを意識し、同時にGWのスケジュールを考えて、起債市場の動きは鈍くなる。決算発表を終えてしまうと、再び動きは活発化するのだが、しばらくは閑散とした展開になるのもやむを得ない。この週の起債としては、ノンバンクに銀行、財投機関等といったところが引続き主体となっている。本数は地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が計13本によって多くなっているが、金額で大きかったのは東京センチュリーの3本立て計500億円と商船三井の劣後債500億円である。もっとも地方公共団体金融機構のFLIP債は計13本もあるから、総額は計700億円に上っている。

この週に募集された社債を見ると、必ずしも格付けの高くない銘柄が少なくない。5年債を募集した日本トムソンはBBB+(JCR)格であるし、期限付劣後債を募集した商船三井はBBB(JCR)格である。日本トムソンは格付けが低いとは言えベアリングメーカーであり、必ずしも将来を悲観視する必要はないだろう。一方、商船三井の劣後債は、期限前償還を前提として5年債として評価すると、1.6%クーポンと極めて高い利回りを得られるが、果たしてこの発行体の劣後債が無事に期限前償還されるだろうか。期限前償還されず35年債となると、5年経過時点以降は6か月円Libor+260bpsの変動利付きになり、相当高い利回りとなる。発行体の利払い負担を考えると、期限前償還を当然と考えるのが一般的であるが、海運業界の先行きを楽観視できるだろうか。

ノンバンクと銀行の起債は、中期年限が主体となっている、東京センチュリーは3年債100億円と5年債200億円、7年債200億円を募集した。同社は、R&IのA格及びJCRのAA-格を取得するみずほグループの中核ノンバンクの一つである。5年債のクーポンは0.09%とこの週に募集されたノンバンク及び銀行の中でもっとも低い。三井住友信託銀行の5年債は、格付けはJCRのAA-格と東京センチュリーと同一水準だが、0.14%クーポンである。ノンバンクと銀行とで社債の位置付けが異なるという理由もあるが、両者のクーポンの差異は、やや意外感がある。もう一つのノンバンクは、日本住宅ローンで5年債と10年債を募集している。もっとも前二者とは異なり、今回が第3回債及び第4回債というレア銘柄であって、募集金額も5年債30億円と10年債20億円という小額である。公募普通社債の枠組みで募集されたものの、流通市場でお目にかかることは少ないだろう。

社債等の条件決定及び募集後の払込みまでのタイミングを考えると、GW直前の起債は多くならないことだろう。次の起債の山は5月下旬以降となることが想定される。金利水準に大きな変動はないと思われるものの、新型コロナ感染の状況と緊急事態宣言の延長次第では、株式市場の変調を通じて金利へ影響が及ぶことも考えられる。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/12~4/16

年度初めの起債市場は、引続き淡々と進んでいるイメージである。株価の波乱もないし、新型コロナのワクチン接種も遅々として進まない。ようやく一部の地方公共団体で高齢者への接種がはじまったものの、用意された接種可能回数が対象者に対して少ない。訪米から帰国した菅首相は9月までに対象者全員への接種をという方針を示しているが、その前にオリンピック・パラリンピックが立ちはだかり、更には、自由民主党総裁選と衆議院議員の任期満了が控えていることを考えると、口が裂けてもワクチン接種が晩秋以降にずれ込むとは言えないだろう。関西を中心に猛威を振るっているように見える新型ワクチンの変異株も、関東では調査数が少ないだけと指摘されており、決して明るい展望が開けたとは思えない。株価も金利も小幅の上下変動は見られるものの、なかなか一方向への動きは見られず、感染者数の増加のみが報道される中で、このままゴールデンウィークに突入することになるのだろうか。

起債市場で募集されている債券は、引続き、ノンバンク、電力、鉄道、財投機関債等といったところが主体である。これら以外を探してみると、丸紅が10年債を募集した他、初顔のNISSHA(旧日本写真印刷は2017年に「NISSHA株式会社」と社名変更)が5年債を募集し、明治ホールディングスが5年のサステナビリティボンドを募集しただけである。準財投機関債である東日本高速道路債は、5年・7年・10年の全年限についてソーシャルボンドの認定を受けているが、発行体の事業目的から考えると、当然の取組みであると思える。特に、ICMA(International Capital Market Association)等の設定したガイドラインに合わせた資金使途を宣言しなくても、ハナから発行体はソーシャルな存在なのである。

敢えて比較してみたいと思ったのが、前週金曜日のJR東日本と同様に、多年限の債券募集を行ったJR西日本である。R&Iの格付けは、JR東日本のAA+格に対し1ノッチ下のAA格であり、JR東日本が営業基盤として首都圏を有しているのに対し、JR西日本は関西圏を擁している。採算性の厳しいローカル路線(東北や山陰をイメージすると良いだろう)は両社とも有しており、将来的にJR北海道やJR四国の負担をどう負わされるかによって差の生じる可能性はあるものの、現状では顕著な差が見られない。このまま新型コロナの影響で旅客運送が大幅減を継続するならば両社とも大きな損害を被るが、昨秋のようなGoToキャンペーンの実施を狙っている政権・政治家・地方公共団体の動きを考えると、両社に対して破綻処理等が行われることは容易でないと想定される。

両社とも市場で調達したのは、3年債・5年債・10年債・20年債・30年債・40年債・50年債の計7本であった。JR東日本は計2,000億円を募集し、JR西日本は計1,600億円を募集している。利付国債の募集年限だと2年・5年・10年・20年・30年・40年であるから、超長期50年債は国債よりも長く、短い年限もマイナス金利の関係から国債より1年長い3年債の設定である。募集された利回りをJR東日本対JR西日本で比較すると、3年債は0%対0.001%、5年債は0.05%対0.05%と同じ、10年債は0.245%対0.23%、20年債は0.596%対0.582%、30年債は0.847%対0.829%、40年債は0.978%対0.961%、50年債は1.142%対1.133%となっている。総じて長めの年限は1週後に条件決定を行ったJR西日本債の方が利回りは低くなっている。財務省の公表する国債金利情報で国債利回りの水準を比較すると、10年以上の年限で1~2bpsほど利回りが低下しているので、JR西日本の発行利回りカットも概ねその範囲内であったことが確認できる。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/5~4/9

漸く本格的な2021年度の起債市場がはじまった。既に指摘したように、起債タイミングの頭を取るのは、電力・ノンバンクであり、その後に財投機関や鉄道が続いて、おもむろに銀行が動いてメーカーが出て来るというのが典型的なパターンのイメージだろう。この4月についても、まずは2日に中国電力が先走り、この週に入ってリコーリース、東北電力が週央までに社債を募集した後、8日の木曜に北陸電力、クレディセゾン、地方公共団体金融機構の募集があり、9日の金曜日に多くの案件が集中するという構図になった。金曜日に募集されたのは、関西電力、トヨタファイナンス、日本政策投資銀行・住宅金融支援機構、東日本旅客鉄道・九州旅客鉄道といった顔触れで、毎年のパターンの通りである。小売業に分類されるバローホールディングスが5年債を募集したのは、やや異質に映るところであった。

募集された債券種類と年限構成を概観しても、前年度からの起債市場の特徴に大きな変化は見られない。まず、日銀による社債買入れオペの対象となる3年債・5年債の募集が多い。リコーリースとトヨタファイナンスはこの2年限のみに絞った起債であるし、クレディセゾンは5年債と7年債を募集している。結局のところ、日銀の社債オペによって起債が容易になる恩恵を受けているのは、ノンバンクが最大なのかもしれない。

もう一つの特性としては、超長期年限を含めた起債である。地方公共団体金融機構が10年債・20年債・30年債という主力年限で3本立てを選択したのが典型であり、日本政策投資銀行は主幹事証券の異なるスポット分を含めると3年債・5年債・10年債・30年債・50年債という5本立て計1,000億円の構成である。一方で住宅金融支援機構は、5年債・10年債・15年債・20年債で計800億円とやや刻みが細かいイメージに映る。

更に、これらの上を行くのが東日本旅客鉄道で、3年債・5年債・10年債・20年債・30年債・40年債・50年債と最近の起債パターンで、日銀買入れゾーンから超長期まで幅広い年限を一度に募集している。一つの回号は最大450億円でも、総計で2,000億円になる。一つの発行体による起債でイールドカーブを描くことが可能になるのは、面白い起債であると言って良いだろう。

東日本旅客鉄道と対極にあるのが、九州旅客鉄道で10年のグリーンボンドを募集している。新年度に入ってもSDGs債の募集トレンドは継続するものと期待される。既に、神戸市のようにグリーンボンドやソーシャルボンドといったガイドラインに基づくESG債の厳密な枠組みを嫌って、広い意味でのサステナビリティに資する起債としてSDGs債を標榜する例が見られるようになっている(2021年3月8日、神戸市の起債は包括的なSDGsへの取り組みの一環で、ICMAの環境債や社債貢献債など特定のガイドラインには沿わない形で発行)。特定の債券だけ使途を絞ったとしても、責任財産限定特約でなく無担保やジェネラルモーゲージである以上お金に色がないため、特定のガイドラインを遵守しているかどうかは、第三者による十分な確認がなければ、発行体の恣意的な発表に任される可能性があることを考えると、神戸市のような考え方も首肯できるのではないか。

国内起債市場を斬る 令和2年度末特別号-2:2021年度の起債市場を予想する

既に2021年度の起債市場は動きはじめている。4月2日に中国電力が10年債を募集した。引続き、四半期初めの起債市場を、電力会社やノンバンク、財投機関債がリードするという構造は変わらないだろう。それに、鉄道や銀行が加わり、おもむろにメーカーが動くというのが恒例のパターンと考えられる。メーカーによる起債の多くはM&A絡みであり、金額が大きくなることも珍しくない。M&A絡みで発行金額が大きくなるのは、メーカーに限らず、他の業態でも同様である。金余りが基本となっている現在の金融環境で、巨額の資金調達ニーズが生じるのは、業態を問わずM&A関連である可能性が高い。

本年度の起債市場を見通すと、昨年度から状況が大きくは変わらないだろうと結論付けざるを得ない。発行金額自体は、M&Aの多寡によって影響がある他、満期償還を迎える債券やローンの借換えニーズに左右されることとなろう。先行きの金利上昇期待が、米国国債ですら2023年と言われる中で、日本でより強く感じられることはない。金利上昇を意識し慌てて資金調達意欲が高まるといったことはないだろう。日本銀行は社債等買入れオペについて特に大きな政策変更を打ち出していないため、引続き、日銀の買い入れる5年以内の社債による調達が見込まれるとともに、利回りの絶対水準を求める投資家のニーズに対応する観点から、超長期債の募集も多くなるだろう。

利回りを求めるという観点からは、超長期債の一種と考えられなくもないが、発行体による期限前償還が可能な劣後債の募集が、発行体及び投資家双方のニーズにマッチしており、引続き相応の募集金額となる可能性は高い。ほとんど破綻することがない日本の社債発行企業に関しては、期限前償還されることを前提とした投資家による投資判断が一般化している。しかし、劣後債の保有に関する規制の変更や格付会社による資本性認定基準の見直し等外部要因による影響に左右されることは不可避だろう。

もう一つ起債市場で焦点になるのは、SDGs債の募集だろう。既に日本の公的年金はESG投資の対象を国内の株式だけではなく、すべての投資対象資産としている。当然に、不動産やインフラ投資だけでなく、社債や債券一般も含まれる。財投機関債や地方債のようにコンセプト面からは、当然にソーシャルやサステナビリティの要素を持っている発行体の債券は、基準に合致した体裁を作ることで、容易にSDGs債を発行することができるだろう。そうなれば、ほとんどすべての債券がSDGs債になってしまい、一部の特定業種の発行体による社債のみが非SDGs債として、スプレッドの上乗せを要求される状態になるかもしれない。これまでの日本の起債状況を見ても、空運会社のトレーニングセンターが二酸化炭素排出を抑制しているからとグリーンボンド認定を受けたり、ガソリン燃焼自動車の売上が過半を占める自動車メーカーがサステナビリティボンドを募集したりもしている。発行体の努力を否定する気はないが、基準の設定次第では、すべての債券がSDGs債となってしまい、認定を受けることの意味合いが低下してしまう可能性もあろう。第三者の認定機関の任命など、より適切な運営が望まれる。

これらの着目点は、いずれも前年度以前から継続している物ばかりである。果たして新年度は、新しいトピックが起債市場の話題になることがあるだろうか。楽しみは、尽きない。

国内起債市場を斬る 令和2年度末特別号-1:サステナビリティ・リンク債

2020年度の起債市場で注目を集めた起債の種類の一つが、SDGs債であることは言うまでもない。SDGs債は日証協の作った広範な概念であり、その中には、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドといった複数の類型を含むが、新しく日本の公募社債市場で見かけることになったのが、サステナビリティ・リンク・ボンドである。公募普通社債で確認されたのは、12月18日に募集された芙蓉総合リースの第27回債、3月12日に募集された高松コンストラクショングループ第2回債、3月19日に募集された野村総合研究所の第8回債といったところである。なお、高松コンストラクショングループ第2回債はグリーンボンドとしての特質も有しているし、野村総合研究所の第8回債は後述するように期限前償還条項が付されている。

この3つのサステナビリティ・リンク債は、其々が異なる仕組みを採用している。黎明期の債券種類であり色々な試行錯誤の最中であって、どのような仕組みが最終的に市場における慣行として定着するかは、現時点では読めない。いずれも「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット」(以下、SPTと略す)を設定するところまでは同様であるが、達成の有無による影響が異なる。そこで、今回はそれぞれの社債の特徴を分析してみたい。なお、SPTについての細かい定義は各々で異なっているが、概ね再生可能エネルギー使用率等であり、高松コンストラクショングループ債のみが後述のように、その他の要素も考慮するものとなっている。

まず、芙蓉総合リース債は、当初4年間は固定の0.38%クーポンであるが、その後3年間の償還までは、発行体がSPTを達成した場合にはクーポン水準が変更されず、未達成に留まった場合にはクーポンが0.48%と10bps跳ね上がる仕組みとなっている。

次に、高松コンストラクショングループ債は、5年間のクーポンが固定されており、SPTが達成できていない場合には、償還時に金額100円あたり0.50円のプレミアムを支払うものとしている。あくまでも償還時点での1度のプレミアム支払いであるが、5年の保有期間に均すと10bpsの上乗せ効果である。芙蓉総合リースの後半3年間と同等の利回り上乗せ結果であるが、償還時点での保有者しか受取ることができないため、発行体がSPTを達成できるかどうかの見通し次第では、社債の売却を抑制する効果が生じてしまう。そもそも、日本の社債は多くがバイアンドホールドの対象であり、殊更に売却を抑制する効果が生じるかどうかは発行体次第であろう。
高松コンストラクショングループ債のSPTは、SDGs貢献売上高の絶対額で定義されている。その中には、耐震補強工事の出来高やマンション等の大規模リフォーム工事の出来高、社寺建築及び埋蔵文化財発掘事業の出来高等をも含んでおり、必ずしもSDGs貢献というラベルに相応しいもののみとは見えない。この社債の狙うサステナビリティとは、社会のサステナビリティではなく、発行体の企業としてのサステナビリティなのではないかと疑ってしまう。投資家は、単なるラベルに惑わされることなく、サステナビリティ・リンク債の中身をしっかり吟味する必要があるだろう。

最後に、野村総合研究所債は、当初10.5年間は0.355%クーポンであり、SPTを達成した場合には、発行体の選択で期限前償還を可能とする。しかし、SPTを達成していない場合には、残りの1.5年は0.811%クーポンとステップアップした利息を支払うこととしている。つまり、SPTを達成すると見る投資家からは10.5年債であるが、あくまでも期限前償還を可能とする条項であって、発行体の判断でコールをスキップされる可能性は残っている。

これらの仕組みを概観すると、大きく二点の課題を指摘することが可能である。まず、発行体にとってはSPTを達成することによって、利息の支払を抑制したいというインセンティブがあるものの、投資家からすれば経済的な意味からはSPTを達成できない方が望ましい。つまり、投資家と発行体の利害が真っ向から対立する可能性があるということなのである。確かに企業がSDGsに即した経営目標を設定することは現代の潮流であるが、SPTの設定次第では緊張感のない基準となっている可能性がある。また、SPTの達成についても、発行体が自ら判定することは、お手盛りになる可能性がある。SPT目標の設定や達成の判定に関しては、第三者による厳格な認定と判定を求めることが必須と考えるべきであろう。

次に、いずれのサステナビリティ・リンク債も、発行体は超過的な利息支払いを回避できるように、SPT達成に向けた努力を行うと期待されるが、その一方で、発行体による買入消却がいつでも可能と規定されている。そのため、時価であれば、いつでも買取りが可能である。つまり、金利が上昇してしまっていたり発行体の信用状況が大きく棄損されているようであれば、アンダーパーでの買取りが可能である。結局、そういう状況では、買入消却によってサステナビリティ・リンクの効果を生じさせなくすることができる。信用状況が悪化している場合には、SDGsへの配慮をかなぐり捨てて、利益獲得に邁進する方向に誘導しそうである。歴史的には、発行体が財政状況の悪化を喧伝して安値で既発行の社債を買入消却し、有利子負債を減少させることで経営を立て直した企業も存在する。サステナビリティ・リンク債については、発行体が買入消却を行わない旨の宣言が必要ではないいだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/15~3/19

毎年のことではあるが、起債市場の動きが終焉するタイミングは何とも寂しい。カレンダーを見て物理的にそろそろ終わりだろうと思いつつも、細々ながら条件決定の動きがあると安堵するし、一方で、4月以降の起債観測が多く聞こえてて来るようになると、年度内の動きが終結に向かっていることを実感させられる。そもそも、3月末の区切りは、発行体や投資家の会計サイクルの切れ目であるだけで、法人としての事業は継続しているのだから、年度末が近づいたら社債等を募集しないというのは単なるカレンダー要因でしかない。毎年同じような状況を繰り返しているのだから進歩がないと言うこともできるが、変わることを要しないと言うことも出来よう。将来的に債券発行の手続きが更に電子化されても、会計サイクルといったテクニカルな要因によって起債に向けた動きが休止する期間は、なくならないものなのだろう。

年度末に向けた起債のピークは前の週までであったかもしれないが、この週も細々と募集は行われている。日本銀行は、この週に開催される金融政策決定会合までに金融緩和政策の手段に関する点検を行うとしていたが、市場参加者は社債買入れオペに関して全面的な見直しを想定していなかった。日銀が5年以内の社債を購入することで、オペ見合いの歪んだ起債慣行があることは認知されているものの、企業の資金調達を容易にし信用リスクの拡大を抑制するという目標からは、金額面で見直しがあるとしても、枠組みの見直しはないと予想していたのである。実際に、オペの上限について金額面での変更はあったものの、社債買入れオペの位置づけは、他の政策手段のように見直しを強く求められるものではなかった。今回の金融政策決定が社債発行市場に与える影響は軽微なものに留まろう。

この週に実際に募集された案件としては、名古屋鉄道の5年債、王子ホールディングスの5年債及び10年債、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく6年債、野村総合研究所の期限前償還条項付12年債といった程度の散発的な動きであった。金額面では、王子ホールディングの2本立て計350億円の募集が最大となった。また、野村総合研究所の12年債は、サステナビリティ・リンク・ボンドを選択している。

先週号でも少し触れたが、国内の起債市場では乏しい中で、グローバルドル債市場で、トヨタ自動車が前週の国内債券市場での募集に続き、Woven Planet債と称するサステナビリティ・ボンドを募集している。3年債12.5億ドル、5年債10億ドル、10年債5億ドルの3本立てで計27.5億ドル(1ドル=108円換算で約3,000億円)と決して巨額ではないが、総額では5千億円を越える大型の調達となっている。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/8~3/12

起債市場の動きが例年の同時期と比べてやや低調である。トヨタ自動車の3本計2,300億円の条件決定は見られたものの、それ以外は、数百億円規模の案件は幾つか見られるだけであった。金額面ではあまり目立たない一方で、募集方法や仕組み等で注目される案件が幾つか見られた。

まず、引続き、劣後債の募集が続いたことを指摘できる。オリックスは期限前償還が5年目以降で可能なものと10年目以降で可能になる60年物劣後債を計500億円募集している。もっとも、マーケティング開始時点では計600億円の募集予定とされており、発行額を抑えた背景には、投資家からスプレッドと発行体の信用リスクのバランスについて、必ずしも妥当だと評価されなかったことを示している。第一生命ホールディングスは、10年経過で期限前償還可能となる永久劣後債を600億円募集している。金融庁の監督下で期限前償還は確実なものと期待される中で、10年債として評価すれば当初クーポンの1.124%は魅力的な存在に映るだろう。NTNの劣後債を募集している。我々には「洋ベア」の方が耳慣れているが、社名変更して30余年が経つ。同社の劣後債は30年債で期限前償還が5年で可能になるが、格付けはR&IのBBB-格と、いわゆる投資適格の最下限である。格下げがなく予定通りに期限前償還されるならば、5年債で2.5%クーポンはとても魅力的な水準に見えるが、もしもの事は考慮すべきである。

次に、レア物ないし新規募集の社債が少なくないことがある。国際石油開発帝石は、5年債と10年債各100億円で初の公募普通社債を募集している。飯野海運の3年債は、第2回のグリーンボンドである。もっとも資金使途は海運業でなく、不動産業に関するものである。中央日本土地建物グループは合併後初の公募普通社債募集である。高松コンストラクショングループは、高松建設等を抱える建設関連の持株会社で、第1回の10年債と第2回の5年物サステナビリティ・リンク・グリーンボンドを募集している。不動産や建設といったセクターの持株会社による初の起債は、ややきな臭いものを感じなくもない。

最後に、トヨタ自動車の大規模起債についても触れざるを得ないだろう。5年物個人投資家向け1,000億円と、機関投資家向け5年債700億円及び10年債600億円を条件決定している。事前に報道されていた同社の提唱するWoven Planetへの取組みに向けた資金調達であり、SDGsに係る幅広い取組みに当てるものであるが、個人投資家向けはICMA(国際資本市場協会)のガイドラインに適合しないため、サステナビリティボンドとされていない。機関投資家向けの1,300億円はICMAのガイドラインに適合したサステナビリティボンドとなっている。なお、同じ5年債でありながら、個人投資家向けのクーポンが0.1%であるのに対し、機関投資家向けのクーポンは0.05%と半分である。純粋の金融理論からは疑問視されるプライシングであるが、レクサスを乗って頂く個人投資家を優遇したものと解されるし、Woven Planetへの賛同に対する感謝を含むものと考えるべきなのだろう。

同社公式HPより:「Woven」とは「織り込む」という意味で、その由来は、創業者・豊田佐吉が自動織機を発明したときの原動力である「母親の仕事を楽にしたい」という想い、創業の精神を継承し続けることにあります。また、自動運転やモビリティサービスの開発・実装を支えるために絶対に必要になる「道」を「織り込む」ことも意味しています。人を中心に、ソフトウェアやコネクティッド技術により、モノ・情報・街をつなげ、新しいサービスや商品を創出することを目指しています。
「Planet」には、ホームタウン、ホームカントリーと同じように、地球単位の視点「ホームプラネット」という考え方で、この地球に住む人が未来に貢献することで次の世代に美しい故郷を残したいという想いが込められています。誰かと対立するのでなく、「ただ自分の強みを誰かの役に立たせたい」という想いで、各々が力を出し合えば、SDGsに貢献することにつながると考えます。(2021年3月2日)

国内起債市場を斬る 起債評価:3/1~3/5

2021年は、3月に入っても募集される社債の数が増えない。ノンバンクや銀行劣後債の募集等はあるが、大型起債も見られないし、「金曜日、20本集中起債」ということもない。と言っても、5日の金曜日には12本の募集が集中したという状況を見ると、社債等に全く動きがないと言うのでもない。単に、例年ほど年度末に向けて急いで起債するといった動きが、感じられないというのが正直な感想である。

大型起債がないと言っても、アサヒグループホールディングスは3年債と5年債を500億円ずつ計1,000億円の社債を募集している。しかし、いずれも日銀による社債買入れオペの対象年限であるため、投資家の視点からは大型起債とは言い難い。年度内の引受手数料を稼ぐ証券会社からすれば、最終投資家が機関投資家か日本銀行かは、どうでも良いことだろう。3年債のクーポンは0.001%と最低水準であり、500億円の発行総額でも利息の支払負担は大した金額にならない。

この週で目立ったものとしては、初登場も含めて回号の若い起債が多かったことが上げられる。社債発行体の裾野が拡大していると見れば良いことなのだが、知名度や格付けの水準を考えると、必ずしも手放しで喜んでもいられないようだ。まず、北國銀行のB3T2劣後債(バーゼルⅢ適格Tier2証券)は第2回となっている。これは特約の種類が異なるために若い回号となっているものであり、昨年7月以来の劣後債募集であって、必ずしもレアな発行体ではないように感じられる。

第2回から第4回債を募集した昭和産業(JCRのA-格)や、第2回債を募集したプレミアムウォーターホールディングス(R&IのBBB-格)、第1回債を募集した東祥(JCRのBBB+格)、第1回債及び第2回債を募集したTOYO TIRE(JCRのA-格)といったところが、レア銘柄と言って良いだろう。いずれも格付けは、公募普通社債として必ずしも高い水準にはない。なお、TOYO TIREは2019年に東洋ゴム工業から社名変更したものであるが、タイヤのブランド名はTOYO TIRESと複数形で、法人名は単数形と使い分けている。

オリックス銀行の第1回債が登場している。母体企業はフリークエントイシュアーであるが、銀行子会社による社債募集は初めてとなる。発行登録を用いず、有価証券届出書での募集であった。オリックスの100%子会社であって、格付けは同じくAA-(R&I)格と高水準である。募集された社債のクーポンは0.16%で、JCRから同じ符号のAA-格を取得しR&IからはA+格を取得しているアサヒグループホールディングスの5年債に比べると、2倍の高い水準である。銀行という業態の特性や、やや変動性の高い親会社のオリックスの業態を意識したものと思われるが、投資家が、嗜好品主体のアサヒグループホールディングスなら、安定した発行体と言い切ることが正しい判断なのか、疑問は残る。