国内起債市場を斬る 起債評価:6/14~6/18

起債市場は、3月期決算企業の株主総会シーズンが迫り、急に下火になった観がある。もっとも7月に入れば、次の四半期になることもあって起債量は自ずと復活してくるのは必至であり、現在は単なる準備期間と考えて良いだろう。この週は、募集案件の数が多くなかったものの、いずれも個性的な物が集まったようである。

まず、三菱地所は、7年債200億円・10年債300億円・20年債200億円と計700億円を募集している。格付けがAA-(R&I)・A+(S&P)・A2(ムーディーズ)と高いこともあって、クーポンは7年債で0.16%、10年債で0.26%、20年債で0.61%と決して高水準にならないが、信用力の安定性を評価されていることは間違いない。新型コロナ首都圏集中感染によって、都内オフィスビルの位置づけの激変は否めないが、高格付けの超長期債を含む大型募集案件と題して良いだろう。

西日本鉄道は、劣後債を計300億円募集している。5年経過時点以降で償還可能な35年債200億円と、7年経過時点以降で償還可能な37年債100億円という内訳である。鉄道会社の劣後債については、劣後事由が発生するようなことは考え難いと思われるが、地域限定のイベントが生じる事態も頭の片隅には置いておくべきだろう。地震や台風、火山の噴火等による被害の長期化や、海外からの影響等もあり得ないこととは断言できない。また、超長期的には人口動態の影響も、営業地域を変えることが難しいため、リスクとして認識しておく必要がある。

一方で、東武鉄道が募集したのは、0.001%クーポンの3年債であり、オーバーパー発行で実質利回りは0%である。年限から見ても、明らかに日銀オペに吸収されることを前提とした起債であると思われる。日銀は社債買入れオペを継続する姿勢を表明しているが、金額面では抑制的に取り組まれる可能性が高く、日銀による買入れを前提にすることは、やや将来に対する懸念を持っておいた方が良いだろう。

レア物として括って(くくって)よいと思われるのが、マクロミルの3年債50億円及び5年債100億円、東海カーボンの5年債100億円、GMOインターネットに3年債100億円及び5年債150億円である。マクロミルの5年債で第4回債と回号がもっとも大きく、GMOインターネットの3年債は第1回債と回号が最小である。格付けは、東海カーボンがA-(R&I)格であるものの、マクロミルとGMOインターネットはBBB+(R&I)格である。東海カーボンが炭素製品のメーカーであるのに対し、マクロミルはネット等によるマーケット調査会社、GMOインターネットはネットを利用した金融を含む様々なサービス提供者といった違いがある。GMOインターネットは。グループ内の上場会社が多いだけでなく、海外展開も広いので、やや実態の把握が難しいだろう。そういう意味では、レア物で募集された社債は、長くても5年債までという年限設定には、違和感が少ない。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/7~6/11

6月に入って起債市場がやや盛り上がりを取り戻したかに見える。これまでのパターンですと金曜日に募集案件の集中する傾向が強いが、この週は週初めの月曜日を除くと火曜日から金曜日に万遍なく案件が分散している。また、金曜日の案件数が木曜日よりも少ないために、慌ただしい展開とは見えない。いつの間にか、金曜日に案件が集中する状況に慣れきってしまったようだ。今月末に企業の株主総会が多く集中することを考えると、翌週以降の起債は3月期決算企業以外の民間企業や公的セクターが中心となることだろう。

この週の起債の特徴は、概ね前週までと異なるものではなかった。ノンバンク、電力、個人向け、劣後債、SDGs債、財投機関債等といったラベルでほとんどの案件を語り尽くせる。これらから外れているものと言えば、光通信の5年債・10年債・20年債の3本立て計500億円とスターゼンの第1回債50億円の2件に留まる。前者は、過去の発行体による忌まわしい買入消却さえなければと思う一方、この事業内容での20年債という年限について疑問視しておくべきだろう。20年という超長期では、事業内容と格付の安定性は両立しない可能性が高く、中短期債ならともかく超長期債を安心して購入できる発行体ではない。逆に、スターゼンの初回債は5年という年限の設定も適切である。BBB+(JCR)という評価でもあり、食肉専門の商社という事業内容からも、ヘッドラインリスクさえなければ安定的な企業と期待できる。同じ年限の5年債でも、R&IのA-格及びJCRのA格を取得した光通信の0.3%クーポンより高い0.35%クーポンとなっている。光通信も5年債なら、事業展開を想定できる範囲であり、投資対象に加えても悪くない年限なのであるが。

劣後債を募集したのは、野村ホールディングスとENEOSホールディングスの2社である。前者は永久劣後債で5年経過後に期限前償還が可能になるもので、後者は60年劣後債を期限前償還が可能になるタイミングで5年・10年・15年の3本に分けたものである。野村ホールディングス債は2,250億円の1本で、ENEOSホールディングス債は1,000億円ずつが3本といずれも巨額の募集であった。こういった期限前償還が可能なコーラブル債については、期限前償還の確実性を適切に評価しないと、投資元本回収のスケジュール見通しを誤る可能性がある。金融庁監督下の野村ホールディングスについては、期限前償還される可能性は極めて高く、当初5年のクーポン水準1.3%は投資妙味が高い。それでも、証券会社を主力とするグループの持株会社であるから、絶対的な安心感は持ち得ない。海外投資での損失発生といったニュースが、いつ入って来るか予測できるものではない。

一方、ENEOSホールディングスに関しては、期限前償還の確実性が、かなり劣る。当初5年の0.7%クーポンや当初10年の0.97%クーポンは、野村ホールディングス債の当初5年より低く、当初15年の1.31%クーポンでようやく野村ホールディングス債の当初5年と同程度である。石油関連という事業リスクの高さを考えると、明らかに割高な起債と見るべきだろう。ヘッドラインリスクという意味では、証券会社よりも高いかもしれず、中東地域での紛争や代替エネルギー関連の話題にも振り回されかねない。更に言えば、化石燃料が事業の大半を占める以上、部分的に再生可能エネルギー開発の努力等ESG経営に向けた努力を行っているが、ESG投資のEの観点からはアウトというレッテルを貼られる企業である。ダイベストメントと呼ばれるESG投資の手法では、除外対象となる可能性が高い。単純に利回りの高さを求めて兵器製造企業や賭博関連企業にも投資するのが適切な投資行為なのかという、投資家の規範意識が問われるものである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/31~6/4

カレンダーが6月に変わった途端、多くの社債等の募集が動きだした。本数・金額ともに4日の金曜日は相変わらず多いものの、月が変わった火曜から木曜にも万遍なく募集があった。この週には、10年長期国債の入札から地方債の条件決定といった公共債の動きも少なくなく、慌ただしい週となった。これから株主総会までの期間が、一つの社債等募集のタイミングである。

この週の社債等の募集を幾つかの特徴でまとめてみたい。まずは、SDGs債の募集である。投資家側のESG熱の高まりもあって、グリーンボンドやソーシャルボンド等のSDGs債募集が増えているのは近年の傾向だが、この週も幾つか見られる。SCSK(2011年11月住商情報システム株式会社を存続会社として株式会社CSKと合併し、SCSK株式会社に商号変更)の5年債はグリーンボンドであり、九州電力の募集した5年債と10年債のうち、10年債のみがグリーンボンドとなっている。都市再生機構の20年債・40年債・50年債という超長期債の3本立ては、いずれもソーシャルボンドの認定を受けている。最後に、ANAホールディングズの5年債はサステナボリティリンクボンドとなっている。かつてトレーニングセンターの二酸化炭素ガス排出を抑えるとしてグリーンボンドを募集した発行体であるが、欧州のESG教信者の中にはジェット燃料を燃やして大量の二酸化炭素排出を継続する空運業そのものに否定的な見方が強く、航空会社のグリーンボンドは強く疑問視されたものである。今回のサステナビリティリンクボンドは、SPTsを未達の場合に環境保護団体等へ発行体が寄付を行うという仕組みである。投資家に直接の経済的なメリットのない点が斬新であり、固定利付という本来の債券の特性を考えると、投資家に経済的なインセンティブを与えなくても良いとも考えられる。

次に、個人投資家向け社債の条件決定である。夏のボーナスシーズンを見据えた動きであるが、そもそもボーナスを貰うようなサラリーマン等が必ずしも個人投資家向け社債を積極的に購入するとは考え難く、単なる既存の個人投資家向け社債の償還見合いのタイミングと考えるべきかもしれない。10万円から購入可能な四国電力の3年債はオーソドックスな電力債であり、0.13%クーポンは銀行預金と比べればはるかに高い利回りである。一方、ソフトバンクグループの劣後債は100万円が最低の購入単位であり、5年経過以降に期限前償還が可能になるものの、最終償還は35年に設定されている。個人投資家保護の観点からは、発行体に償還オプションを与えることに疑念は残るが、これまでは期限前償還されて来ている。格付けはJCRのBBB格であり、持株会社の構造的劣後性を帯びていることもあって、投資家に十分なリスクの所在を説明出来ているかが大いに疑問視される。そもそも、通信事業者のソフトバンクと、持株会社のソフトバンクグループが混同されている懸念すらある。期限前償還されている間は問題が表面化しないが、今後の経営状態次第によっては、劣後債を販売した証券会社の説明責任を問われるような事態も発生しかねないだろう。

また、機関投資家向けの起債において、5年債が復権している可能性を指摘しておきたい。歴史的には、10年債と並ぶ主軸年限の一つでありながら、マイナス金利政策のお陰で影が薄くなっていた感はあったが、この1年くらいで5年債の募集がやや増えているように見える。この週だけでも、三菱マテリアルの3本立てのうち200億円、SCSKのグリーンボンド50億円、ジャックスの3本立てのうち200億円、九州電力のグリーンボンドでない方の500億円、共英製鋼の初物100億円、神戸製鋼所の100億円、日本航空の300億円と数多い。日銀の社債オペに対する姿勢が少し変化したことで、3年債の募集から5年債にシフトしている可能性も考えられ、今後の動向を注目しておきたい。

最後に、アイフルの1.5年債についても触れない訳には行かないだろう。同社は日本で唯一のハイイールド債発行体となっているが、同社による継続発行だけでなく、他の発行体が追随して市場の拡大が進むことを期待したい。必ずしもそれだけで社債市場の活性化が進んだとは言えないと思われるが、一つの重要な指標と見て間違いないからである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/24~5/28

3月期決算企業の決算発表を越え、電力と財投機関といった早駆けの得意な発行体に続いて、ようやく社債等がまとまって募集されるようになって来た。特に、業種面での偏りがなくなり、幅広い業態からの募集が見られた週であった。業種を列挙してみると、高速道路、銀行、証券、建設、ノンバンク、化学、鉄道、通信、ガスといった顔触れである。金曜日に多くの社債募集が集中するのは、やむを得ないところでもあるが、募集日をもう少し工夫すれば良いのではと、何時ものことながら思わざるを得ない。

この週の起債では、複数本立ての起債が目に付いた。二本立ての起債としては、大和証券グループ本社の5年債及び7年債各150億円、キリンホールディングスの5年債400億円及び7年債300億円、東急の3年債及び20年債各100億円である。東急の起債は、日銀オペ見合いの3年債と鉄道にふさわしい超長期の20年債という組み合わせで、合理的な選択と思える。しかも、3年債はオーバーパー発行で利回りは0%という起債である。残りの2社は、5年債及び7年債と中期年限が主体である。証券会社が中期の起債というのは違和感のないところであるが、飲料メーカーであるキリンホールディングスに関しては、より長い年限も選択できたのではないかとも考えられる。

複数本立て起債としては、三本立て起債の方がより目立ったように感じる。三菱ケミカルホールディングスは5年債200億円・10年債200億円・20年債300億円の計700億円、大和ハウス工業は5年債250億円・10年債150億円・20年債100億円の計500億円、ソフトバンクは5年債350億円・7年債300億円・10年債350億円の計1,000億円、大阪ガスは10年債200億円・20年債100億円・30年債100億円の計400億円と、いずれも大型の起債になっている。しかも、ソフトバンク以外は超長期債を組み込んでいるところが面白い。また、二本立て起債と同様に、5年債が4社で計800億円と多くなっている。基本形は、5年債・10年債・20年債という組み合わせだが、ソフトバンクは20年債でなく7年債とし、大阪ガスは5年債でなく30年債を選択したのは、業種特性によるものと考えればよかろう。

これから株主総会の時期まで、少し起債が増えるものと思われる。引続き、多様な業種が多様な年限で募集することだろう。また、この週はケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人(資産運用会社:ケネディクス不動産投資顧問株式会社)によるソーシャルボンドくらいしかSDGs債の募集は見られなかったが、最近の潮流に乗り、様々な発行体によってグリーンボンドやソーシャルボンドなどが手を変え品を変え登場してくるものと予想される。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/17~5/21

前週に引続き、電力と財投機関が主体になった。電力債では、四国電力が10年債と20年債各100億円を、東北電力が10年債300億円・20年債100億円・30年債100億円を、北陸電力が10年債と端数年限の13年債各100億円を募集している。ゴールデンウィークが明けてからすべての電力会社が出揃ってはいないが、順調に電力各社が募集している展開である。東日本大震災と福島第一原発事故から10年以上が経過したが、電力債にはある程度のスプレッドが乗ったままである。一般担保条項に効果があることは認識されるものの、将来の新発債には付されなくなることが予定されており、福島原発と同種の事故が生じた場合に奉加帳方式で各社に損失負担が再び強いられる悪夢は必ずしも忘れ去られていない。化石燃料エネルギーへの依存度の高さも、ますますESGへの取組みが強く意識される中では、業界全体がネガティブに捉えられかねない。再生可能エネルギーへの注力にも限界があり、万一原油やLNGの価格が上昇した場合にもユーザーへの価格転嫁が容易でなくなっているため、収益構造が悪化する可能性は高い。これらの懸念から電力債にはプレミアムが乗ったままになっており、格付け対比での投資妙味を感じる投資家は少なくない。

財投機関等による債券募集も相変わらず多い。日本高速道路保有・債務返済機構は29年債50億円と34年債100億円の端数年限の利子一括払債の2本を、鉄道建設・運輸施設整備支援機構は10年債と15年債各100億円を、日本学生支援機構は2年債300億円を募集している。その他に、地方公共団体金融機構は、FLIPに基づく5年債から21年債計6本350億円を募集している。これらのうち、鉄道建設・運輸施設整備支援機構債券が両年限ともサステナビリティボンドの認定を受けている他、日本学生支援債券はソーシャルボンドとなっている。いずれも社会的に意義のある取組みを行っている財投機関であり、認定を受けることに必ずしも大きな意味はないとも考えられるのだが、SDGs債券への投資実績を誇りたい投資家にとっては、十分に購入するインセンティブになるだろう。利回りに悪影響がないのであれば、発行体が認定機関に対して支払う手数料と、発行後が取組み結果の公表等の手間を負担するだけであり、投資家にはマイナスの材料がない。サステナビリティリンクボンドのような仕組みは、公的な機関の発行する債券には必ずしも必要であると思えない。

その他に、大丸や松坂屋、パルコを傘下に有するJ.フロントリテイリングが募集した5年債と7年債各150億円のうち、5年債のみがサステナビリティボンドの認定を得ている。具体的な資金使途としては、「大丸心斎橋店本館・渋谷パルコの建設、再生可能エネルギー由来電力の購入、LED照明への切り替え、社用車のEV化、神戸・旧居留地の賃借、女性の活躍推進への取り組み」とされているが、これではサステナビリティボンドとしての位置づけが疑問視されるだけでなく、投資表明した投資家のESG投資に対する真摯さも懸念されるところである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/10~5/14

GWを終えて3月期決算企業の決算発表も峠を越えると、徐々に起債に向けた動きが増えて来る。一般的に動きが早いのは、電力・ノンバンク・財投機関というイメージであるが、この週はノンバンクがまだ動かず、電力と財投機関の動きが先行したようである。社債等の多くが14日の金曜日に募集されたためか、起債観測の上がっているノンバンクもあるが、募集は翌週以降に持ち越したようである。

電力関連で動いたのは二社で、電源開発が10年債300億円と20年債100億円を募集し、北海道電力が3年債200億円と10年債100億円を募集している。格付けを見ると、R&Iの評価は電源開発がA+格で、北海道電力がA格と1ノッチの差があるものの、北海道電力債には一般担保条項が付されており、顕著な信用力の差を意識しない投資家は少なくないだろう。電源開発債には社債管理者が付されているが、センサー機能を持った特約や一般担保条項が付されていないため、受託銀行が社債管理手数料を懐に入れるだけとなっている。同じ日に募集した10年債は、電源開発債が0.31%クーポンで北海道電力債が0.33%クーポンとわずかな差である。もっとも北海道電力が同時に募集した3年債のクーポンは0.001%クーポンと最低水準に設定されており、パー発行なので多くのノンバンク等の社債より投資妙味を感じた投資家もあるだろう。

財投機関等では、新関西国際空港が5年債と10年債を各100億円募集している他、西日本高速道路が5年債を800億円、地方公共団体金融機構が10年債を350億円、住宅金融支援機構が5年債400億円・15年債200億円・20年債100億円・30年債300億円の計1,000億円を募集している。地方公共団体金融機構の債券募集が10年債のみというのは、珍しいかもしれない。また、住宅金融支援機構も10年債を外して、5年債・15年債・20年債・30年債という刻みも過去多かったようには記憶していない。この4本立ての中では、15年債と20年債とがグリーンボンドとしての認定を得ている。

グリーンボンドという意味では、安川電機が5年債100億円をグリーンボンドとして募集している。安川テクノロジーセンターの建設資金に充てる予定であり、効果としては、「高環境効率商品、環境適応商品、環境に配慮した生産技術およびプロセス」の他に、「エネルギー効率」を掲げている。グリーンボンドの認定に際しては、セカンドパーティーオピニオンをR&Iから取得しており、調達した資金の適正な利用に対するモニタリングが期待される。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/26~5/7

GWを挟む時期は、3月期決算企業の決算発表もあって、起債市場の動きは鈍い。そもそも飛び石休暇であると、今年のカレンダーで行けば4月30日とか5月6日・7日といった証券会社の営業日程では、社債等の募集は容易でない。前日が休日であると募集しづらいし、募集から払込までの日程を大きく開けることは好まれないからである。結局のところ、この期間に社債が募集されたのは、本格的な休みに突入する前の4月27日及び28日に限られた。しかし、いずれの日も1銘柄ずつの募集であって、決して市場が盛り上がっているという訳でもない。

4月27日に募集されたのは、中日本高速道路の5年債950億円である。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されているため、信用力の面では実質的に財投機関と同等と考えられる存在である。発行体が株式会社形態という面での不安感は多少あるかもしれないが、国と実質的に一体である財投機関が併存して債務を引受ける仕組みである。格付けも引続き、R&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格と、いずれも日本国債と同じ符号を得ている。5年債でクーポンは0.05%であった。利回り水準としては、同月に募集された東日本高速道路の5年債と同じであった。日本政策投資銀行や住宅金融支援機構の0.02%クーポンは上回るものの、JR東日本やJR西日本も5年債は同じ0.05%で募集しており、決して割高感はない。

続く28日に募集されたのは、住友不動産の10年債300億円であった。バブル経済の崩壊後に格付けが投資適格と呼ばれる水準を下回っていた時期には、個人投資家向けの社債募集で凌いだり、その後も、流通市場の実勢から大きく乖離した水準での社債募集を強行したりと、社債市場において”いわくつき”の発行体の一つと目されて来た。しかし、現在の格付けは、R&IのA+格及びJCRのAA-格と、高格付けと表現してもおかしくないような信用水準になっている。不動産市場の全般的な回復もあるが、特に、大都市圏のオフィスや物流施設等多様なニーズに対応したことで、人口減少社会においても、大手不動産各社は根強い需要を確保しているのである。クーポンは0.31%に設定されており、野村證券が単独で全額を引受けた。今月に募集された起債市場で同じく歴史的にいわくつきの発行体の一つとされる東京電力パワーグリッドの10年債は、0.8%クーポンであるから、格付けが大きく異なるとは言え、住友不動産の評価が大きく回復していることを感じさせる。同月に募集された他の10年債を見ても、0.31%クーポンは、他の電力債とほぼ同じくらいの水準であり、丸紅やオリックスよりも低い水準である。住友不動産が普通の発行体になったことを強く意識させられた起債であった。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/19~4/23

4月も下旬になると、3月期決算の発表タイミングを意識し、同時にGWのスケジュールを考えて、起債市場の動きは鈍くなる。決算発表を終えてしまうと、再び動きは活発化するのだが、しばらくは閑散とした展開になるのもやむを得ない。この週の起債としては、ノンバンクに銀行、財投機関等といったところが引続き主体となっている。本数は地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が計13本によって多くなっているが、金額で大きかったのは東京センチュリーの3本立て計500億円と商船三井の劣後債500億円である。もっとも地方公共団体金融機構のFLIP債は計13本もあるから、総額は計700億円に上っている。

この週に募集された社債を見ると、必ずしも格付けの高くない銘柄が少なくない。5年債を募集した日本トムソンはBBB+(JCR)格であるし、期限付劣後債を募集した商船三井はBBB(JCR)格である。日本トムソンは格付けが低いとは言えベアリングメーカーであり、必ずしも将来を悲観視する必要はないだろう。一方、商船三井の劣後債は、期限前償還を前提として5年債として評価すると、1.6%クーポンと極めて高い利回りを得られるが、果たしてこの発行体の劣後債が無事に期限前償還されるだろうか。期限前償還されず35年債となると、5年経過時点以降は6か月円Libor+260bpsの変動利付きになり、相当高い利回りとなる。発行体の利払い負担を考えると、期限前償還を当然と考えるのが一般的であるが、海運業界の先行きを楽観視できるだろうか。

ノンバンクと銀行の起債は、中期年限が主体となっている、東京センチュリーは3年債100億円と5年債200億円、7年債200億円を募集した。同社は、R&IのA格及びJCRのAA-格を取得するみずほグループの中核ノンバンクの一つである。5年債のクーポンは0.09%とこの週に募集されたノンバンク及び銀行の中でもっとも低い。三井住友信託銀行の5年債は、格付けはJCRのAA-格と東京センチュリーと同一水準だが、0.14%クーポンである。ノンバンクと銀行とで社債の位置付けが異なるという理由もあるが、両者のクーポンの差異は、やや意外感がある。もう一つのノンバンクは、日本住宅ローンで5年債と10年債を募集している。もっとも前二者とは異なり、今回が第3回債及び第4回債というレア銘柄であって、募集金額も5年債30億円と10年債20億円という小額である。公募普通社債の枠組みで募集されたものの、流通市場でお目にかかることは少ないだろう。

社債等の条件決定及び募集後の払込みまでのタイミングを考えると、GW直前の起債は多くならないことだろう。次の起債の山は5月下旬以降となることが想定される。金利水準に大きな変動はないと思われるものの、新型コロナ感染の状況と緊急事態宣言の延長次第では、株式市場の変調を通じて金利へ影響が及ぶことも考えられる。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/12~4/16

年度初めの起債市場は、引続き淡々と進んでいるイメージである。株価の波乱もないし、新型コロナのワクチン接種も遅々として進まない。ようやく一部の地方公共団体で高齢者への接種がはじまったものの、用意された接種可能回数が対象者に対して少ない。訪米から帰国した菅首相は9月までに対象者全員への接種をという方針を示しているが、その前にオリンピック・パラリンピックが立ちはだかり、更には、自由民主党総裁選と衆議院議員の任期満了が控えていることを考えると、口が裂けてもワクチン接種が晩秋以降にずれ込むとは言えないだろう。関西を中心に猛威を振るっているように見える新型ワクチンの変異株も、関東では調査数が少ないだけと指摘されており、決して明るい展望が開けたとは思えない。株価も金利も小幅の上下変動は見られるものの、なかなか一方向への動きは見られず、感染者数の増加のみが報道される中で、このままゴールデンウィークに突入することになるのだろうか。

起債市場で募集されている債券は、引続き、ノンバンク、電力、鉄道、財投機関債等といったところが主体である。これら以外を探してみると、丸紅が10年債を募集した他、初顔のNISSHA(旧日本写真印刷は2017年に「NISSHA株式会社」と社名変更)が5年債を募集し、明治ホールディングスが5年のサステナビリティボンドを募集しただけである。準財投機関債である東日本高速道路債は、5年・7年・10年の全年限についてソーシャルボンドの認定を受けているが、発行体の事業目的から考えると、当然の取組みであると思える。特に、ICMA(International Capital Market Association)等の設定したガイドラインに合わせた資金使途を宣言しなくても、ハナから発行体はソーシャルな存在なのである。

敢えて比較してみたいと思ったのが、前週金曜日のJR東日本と同様に、多年限の債券募集を行ったJR西日本である。R&Iの格付けは、JR東日本のAA+格に対し1ノッチ下のAA格であり、JR東日本が営業基盤として首都圏を有しているのに対し、JR西日本は関西圏を擁している。採算性の厳しいローカル路線(東北や山陰をイメージすると良いだろう)は両社とも有しており、将来的にJR北海道やJR四国の負担をどう負わされるかによって差の生じる可能性はあるものの、現状では顕著な差が見られない。このまま新型コロナの影響で旅客運送が大幅減を継続するならば両社とも大きな損害を被るが、昨秋のようなGoToキャンペーンの実施を狙っている政権・政治家・地方公共団体の動きを考えると、両社に対して破綻処理等が行われることは容易でないと想定される。

両社とも市場で調達したのは、3年債・5年債・10年債・20年債・30年債・40年債・50年債の計7本であった。JR東日本は計2,000億円を募集し、JR西日本は計1,600億円を募集している。利付国債の募集年限だと2年・5年・10年・20年・30年・40年であるから、超長期50年債は国債よりも長く、短い年限もマイナス金利の関係から国債より1年長い3年債の設定である。募集された利回りをJR東日本対JR西日本で比較すると、3年債は0%対0.001%、5年債は0.05%対0.05%と同じ、10年債は0.245%対0.23%、20年債は0.596%対0.582%、30年債は0.847%対0.829%、40年債は0.978%対0.961%、50年債は1.142%対1.133%となっている。総じて長めの年限は1週後に条件決定を行ったJR西日本債の方が利回りは低くなっている。財務省の公表する国債金利情報で国債利回りの水準を比較すると、10年以上の年限で1~2bpsほど利回りが低下しているので、JR西日本の発行利回りカットも概ねその範囲内であったことが確認できる。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/5~4/9

漸く本格的な2021年度の起債市場がはじまった。既に指摘したように、起債タイミングの頭を取るのは、電力・ノンバンクであり、その後に財投機関や鉄道が続いて、おもむろに銀行が動いてメーカーが出て来るというのが典型的なパターンのイメージだろう。この4月についても、まずは2日に中国電力が先走り、この週に入ってリコーリース、東北電力が週央までに社債を募集した後、8日の木曜に北陸電力、クレディセゾン、地方公共団体金融機構の募集があり、9日の金曜日に多くの案件が集中するという構図になった。金曜日に募集されたのは、関西電力、トヨタファイナンス、日本政策投資銀行・住宅金融支援機構、東日本旅客鉄道・九州旅客鉄道といった顔触れで、毎年のパターンの通りである。小売業に分類されるバローホールディングスが5年債を募集したのは、やや異質に映るところであった。

募集された債券種類と年限構成を概観しても、前年度からの起債市場の特徴に大きな変化は見られない。まず、日銀による社債買入れオペの対象となる3年債・5年債の募集が多い。リコーリースとトヨタファイナンスはこの2年限のみに絞った起債であるし、クレディセゾンは5年債と7年債を募集している。結局のところ、日銀の社債オペによって起債が容易になる恩恵を受けているのは、ノンバンクが最大なのかもしれない。

もう一つの特性としては、超長期年限を含めた起債である。地方公共団体金融機構が10年債・20年債・30年債という主力年限で3本立てを選択したのが典型であり、日本政策投資銀行は主幹事証券の異なるスポット分を含めると3年債・5年債・10年債・30年債・50年債という5本立て計1,000億円の構成である。一方で住宅金融支援機構は、5年債・10年債・15年債・20年債で計800億円とやや刻みが細かいイメージに映る。

更に、これらの上を行くのが東日本旅客鉄道で、3年債・5年債・10年債・20年債・30年債・40年債・50年債と最近の起債パターンで、日銀買入れゾーンから超長期まで幅広い年限を一度に募集している。一つの回号は最大450億円でも、総計で2,000億円になる。一つの発行体による起債でイールドカーブを描くことが可能になるのは、面白い起債であると言って良いだろう。

東日本旅客鉄道と対極にあるのが、九州旅客鉄道で10年のグリーンボンドを募集している。新年度に入ってもSDGs債の募集トレンドは継続するものと期待される。既に、神戸市のようにグリーンボンドやソーシャルボンドといったガイドラインに基づくESG債の厳密な枠組みを嫌って、広い意味でのサステナビリティに資する起債としてSDGs債を標榜する例が見られるようになっている(2021年3月8日、神戸市の起債は包括的なSDGsへの取り組みの一環で、ICMAの環境債や社債貢献債など特定のガイドラインには沿わない形で発行)。特定の債券だけ使途を絞ったとしても、責任財産限定特約でなく無担保やジェネラルモーゲージである以上お金に色がないため、特定のガイドラインを遵守しているかどうかは、第三者による十分な確認がなければ、発行体の恣意的な発表に任される可能性があることを考えると、神戸市のような考え方も首肯できるのではないか。