国内起債市場を斬る 起債評価:5/9~5/13

GWが終わっても、3月期決算企業の決算発表シーズンという市場の動きが鈍くなる要因は解消されていない。そのため、引続き起債市場での社債等を募集する動きは少ない。間もなく到来すると思われる社債等の募集が盛んになるシーズンを控えて、発行体との調整準備に勤しんでいるのであろう。こういった状態の期間に社債等の募集に動くのは、公的セクターや電力会社というのが例年のパターンである。実際に、この週に社債等を募集したのは、まず、地方公共団体金融機構の定例であり、10年債300億円のみが募集された。次に、住宅金融支援機構は、15年債100億円・20年債100億円・30年債300億円の計500億円の財投機関債を募集している。30年債だと国債対比+10bpsのスプレッドでも、クーポンが1%を越える水準となっており、公共セクターの安定を好む投資家の需要を集めている。他の年限と比べて、募集金額が圧倒的に大きく目立っている。

東日本高速道路の社債も、準財投機関債と言える公共セクターの起債と言える。今回募集したのは、2年債400億円および5年債800億円の計1,200億円と大きな金額になった。2年債のクーポンが0.08%で5年債のクーポンが0.105%と、昨今の金融情勢を反映して一頃より高い利回り水準になっている。発行体側から見れば調達コストの上昇ということになるが、投資家から見れば期待収益の増加であるから、好ましい状況と言っても差支えないだろう。発行体側も国債の流通利回りが上昇しているのであれば、組織内部的にも説明が付くと考えられる。この利回りの上昇は、市場の拡大や安定には好ましいものと考えて良いだろう。日銀による金利の押下げとスプレッド圧縮が長期にわたったことの反動が、これから生じてくる可能性が高い。極端に低利の社債等が売れなくなる懸念を持っておくべきであろう。

中国電力が募集したのは、12年債と20年債各100億円である。12年債が0.67%クーポンで20年債が0.97%クーポンで募集された。20年債については、4月頭に同社が募集した際のクーポンが0.9%であり、超長期金利の変動幅が大きくなっていることを考えると、やや利回り水準に物足りなさがあろう。100億円の起債であったからこそ消化可能となったと見るべきである。

これらの起債の他、丸井グループが1年債1億3000万円を自己募集している。特徴としては、先行したSBI証券などと同様にセキュリティトークンを利用していることである。最低投資単位は1万円で、社債管理者も設置されているが、個人投資家保護の観点からIT技術に全幅の信頼を寄せるのは躊躇されるかもしれない。特に、1%クーポンと極めて高水準の利回り設定になっているがものの、源泉徴収等控除後の利息の7割を同社のエポスポイントで付与する仕組みには、やや疑念を覚える。エポスポイントは確かに1ポイント=1円の換算が可能になる仕組みであるが、運営主の恣意性が介入する余地はある。例えば、セールスイベントなどの際に、エポスポイントの付与率アップとかが行われていることを考えると、1%クーポンという公表を過大表示と考える余地があるのではなかろうか。ポイントの換金性を停止されたり交換比率が変更されたりした途端、1%の高いクーポンは画餅に帰する。個人投資家向けの社債募集であり、適正なポイント運営が行われることについて何らかの担保が必要であろう。ブロックチェーンを活用したデジタル社債といった新奇な面にのみ目を向けず、しっかりと債券としての中身を考えたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/25~5/6

GWを挟む時期は、金利の動き易い時期であるが、起債市場は動きが鈍くなる時期でもある。一つには、日本以外にも、メーデーを祝日として休む国が少なくない。良く知られるのは、新型コロナ感染拡大以前に訪日客の多かったことで知られる中国であるが、他の先進国でもヨーロッパの多くの国が5月1日を祝日としている。その結果、為替だけでなく金利も大きく変動することが少なくない。また、米FRBや日銀の政策判断が行われる時期となっていることもあって、金利水準の動きが大きくなりがちである。更には、3月決算の発表日をゴールデンウィークの前後に予定する企業も少なくない。そのため、金利の変動だけでなく、ヘッドラインリスクも考慮すると、社債等の条件決定や募集を行う発行体は躊躇しがちになる。投資家側も、募集日から払込日まで日数が開くことが考えられるため、投資判断を消極的にする傾向が見受けられる。こうして、発行体と投資家との双方の理由から、この期間の起債市場の動きはあまり見られなくなってしまう。

実際に、4月最終週から5月の頭までに行われた社債等の募集は、4月27日に募集された光通信の2本立てくらいのものである。光通信は、近年、格付けがR&I・JCRともA格にまで高まっていることもあり、長めの年限での起債も少なからず行っている。今回の起債も、5年債150億円および10年債100億円の計250億円とまとまった金額である。しかも、事務主幹事として継続して野村證券が担当しており、日本国内最強の販売網がサポートする形になっている。長期から超長期の金利水準が上昇していることもあって、光通信の10年債に付されたクーポンは1.17%と1%を超える。4月全体を見回しても、1%を越えるクーポンを付された社債等は、東京電力パワーグリッドの15年債、四国電力と九州電力の30年債、日本政策投資銀行と大阪大学の40年債、JR東日本の50年債といった顔触れだけである。10年債で1%を越えるクーポンが付された意義は極めて大きく、光通信の10年債を投資可能と判断するなら、妙味はあろう。

米国の更なる利上げを受けて、為替も株も変動幅が大きくなっており、日銀のコントロール外となっている超長期年限の金利水準も上昇している。このため、社債等の発行コストの増大を懸念する発行体に対して、投資家は従来より高い利回り水準を期待することが可能な状況にある。日本銀行は10年国債に対する指値オペを継続する姿勢を示しているが、何処まで市場介入が有効かは疑問視されており、特に、日米金利差の拡大によって為替が円安方向に動くことの影響が強く懸念されている。円安による輸入物価の上昇が日銀の目標とする2%の物価上昇を数値的には実現可能とするかもしれないが、輸出推進効果の発現がほとんど期待できず、賃金上昇を実現できるような状況にもないことから、スタグフレーションに近い状況の発生が懸念されはじめている。人為的な低金利から日本の金利市場は離脱することが出来るのだろうか。起債市場が活性化するのは、まだ先のことのように思えてしまう状況である。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/18~4/22

この週の起債では、電力関連のものが再び中心になったかのように見える。大林組のサステナビリティリンクボンドや、日本高速道路保有・債務返済機構のソーシャルボンドといったSDGs債も相次いでいるが、既に新鮮味を失いつつある。唯一目新しいSDGs債としては、大阪大学がサステナビリティボンドを募集している。国立大学法人による公募債券としては東京大学に次ぐものであり、40年という超長期年限であった。実質的に暗黙の政府保証の存在が期待できることもあって、格付けは国債と同符号であり、特に文部科学省系や学校関係の投資家にはアピールしたものと考えられる。超長期年限の利回りが上昇し、国債利回りで30年国債で1%を超える水準となっていることから、大阪大学40年債も1.169%と高いクーポンが付されている。希少価値のある銘柄と考えた投資家も少なくないだろう。

電力関連の起債が相次いだと言っても、いわゆる電気事業法に基づく典型的な電力債ではないのが味噌であろう。東京電力パワーグリッド債は、一般担保付を付すことが認められており、まだ電力債に近い債券である。5年債900億円・10年債800億円・15年債300億円と計2,000億円の大型起債となった。15年債に付された1.1%クーポンは、大阪大学の40年債とほぼ同水準であるが、年限の差と信用力の差について判断を悩む投資家も少なくないだろう。東京電力パワーグリッドについては、福島第一原子力発電所の事故処理を見ても、国もしくは他の電力各社による支援の発動を期待してしまうが、それが必ずしも法的な枠組みに基づくものではないことで、投資判断が大きく分かれる。それでも、10年債の0.94%クーポンは魅力的な水準だったのではなかろうか。

一方、東京電力と中部電力の火力発電機能を統合して設立されたJERAは、日本国内の発電力の3割を担う会社であり、海外展開や再生可能エネルギーの活用によってゼロエミッションを目指している。トランジションボンドの起債観測が上がっていたものの、今回は3年の普通社債を募集している。格付けは東京電力パワーグリッドよりも高いが、今回の社債は3年債として、0.2%クーポンを選択している。国債利回りの上昇が長期から超長期に限られ、3年といった年限でほぼ変動していない中では、積極的に投資した投資家もいたのではなかろうか。

最後に、新顔で社債募集したイーレックスは、東証プライム市場に上場する電気事業会社であり、バイオマス発電を行うとともに、法人及び個人向けに電力小売にも従事している。同社の創業は1999年、現セントラル短資である日本短資が、電力取引事業への参画を構想したことが背景にあり、創業時より排出権取引や、グリーン電力への関心は高く、そのことが現在の再エネ発電事業につながっている。募集したのは5年債50億円と小額であり、0.59%クーポンを付している。取得した格付けはJCRのA-格と、JERAより3ノッチも低い水準であり、東京電力パワーグリッドよりも1ノッチ低い。東京電力パワーグリッドの5年債より低いクーポンなのは、希少性ということか。社歴は20年を超えており、破綻や新契約停止などの相次いでいる新電力各社とは別物であるが、投資を躊躇した投資家も少なくないだろう。50億円というほぼ最小募集金額の社債とせざるを得なかったのもやむを得ない状況だったのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/11~4/15

例年であれば、期初の起債市場で電力債の次に来るのはノンバンクや銀行の社債というのが定番であったと思うが、最近の市場を象徴するように、今年度は、『お次はSDGs債』という順番となった。地方公共団体金融機構の10年債・20年債・30年債といった公共セクターの債券も募集されているが、条件決定された社債等計3,400億円のうちSDGs債が2,700億円とほとんどを占めているのが実態である。

機関投資家向けにソーシャルボンドを募集したのは、富士フィルムホールディングスである。3年債400億円・5年債400億円・7年債200億円・10年債200億円と、報道されていた予定通りの計1,200億円を募集している。取得した格付けはR&IのAA格とムーディーズのA2格であり、いずれも、日本国債の1ノッチ下の紛れもない高格付けである。付された回号が第16回から第19回であることからもわかるように、決して頻繁な社債の発行体ではない。5年債以上は国債対比のスプレッドプライシングで行われ、+14~+17bpsの水準で募集されている。ソーシャルボンドによる調達資金は、『当社連結子会社を通じて行った、バイオ医薬品製造会社であるBIOGEN (DENMARK) MANUFACTURING ApS(現 連結子会社 FUJIFILM Diosynth Biotechnologies Denmark ApS)の株式取得及び同社の製造設備の増強に係る設備投資に要したリファイナンス資金に充当する』とされている。つまり、買収対象がソーシャルボンド適格な事業を行っているものの、単純に言ってしまえば、M&Aとそれに伴う設備投資 のための資金調達・借換えである。

同様に、機関投資家向けのソーシャルボンドを募集したのが東日本高速道路である。2年債400億円・5年債500億円・10年債200億円の計1,100億円を募集している。すべての年限で国債対比のスプレッドプライシングが行われ、+10bps前後で決定している。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されており、取得した格付けは日本国債と同符号のAA+(R&I)格・AAA(JCR)格・A1(ムーディーズ)格である。資金使途は『高速道路の新設、改築、修繕又は災害復旧に要する資金』となっており、いわば本来業務である。結局のところ、この週のソーシャルボンドは2社とも、ほぼ本業のコアに関する資金調達であり、殊更にソーシャルボンドとしなくても良いような案件であった。このように、最後にSDGs債として残って行くのは、奇をてらった特殊な債券ではなく、こういった本業にしっかりと結びついた起債だけになるのかもしれない。

最後に、イオンモールは個人投資家向けの5年債400億円の条件を決定している。100万円単位で購入が可能であり、『ハピネスモール債』と称するサステナビリティリンクボンドである。SPTとしては、『2025年度末に国内の全イオンモールで使用する電力をCO2フリー化すること』としており、未達成の場合には、『発行額の0.2%相当額』をイオン環境財団等の適切な団体に寄付する予定とする。5年債で0.49%クーポンの水準はA-(R&I)格の信用力から大きな違和感はなく、比較的身近な発行体であって、個人投資家の資金を集め易いものと想像できる。もっとも、少子高齢化が進んで行く中で、地方物件の収益性低下と、温室ガス抑制のための設備更新努力が見合うかどうかには、懸念が残る。

なお、これらの公募普通社債等以外に、フィリピン共和国の円建てサステナビリティボンド4本立て計701億円や、オリックスのユーロ建てグリーンボンドなどの起債も行われており、今後の起債観測を見ても、新年度もますますSDGs債の募集が相次ぎそうである。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/4~4/8

期初は電力債から、というのが例年のパターンである。起債時期で、それに競合できる業態としては、ノンバンクや銀行であり、辛うじて公共債が同時期に債券を募集出来るかといったくらいだろうか。2022年度の起債市場も、予想を裏切らない形ではじまっている。

この1週間で募集された中では、電力債が圧倒的な存在感を持って見える。それ以外の社債等では、日本政策投資銀行が3年債400億円・5年債400億円・10年債300億円・40年債100億円の計1,200億円という大型の募集を行った他、JR東日本も5年債100億円・20年債150億円・50年債200億円と、金額は大きくないが年限の幅として広い社債募集を行っている。これらについては、物価上昇を受けた金利の上昇によって国債対比のスプレッドプライシングが復活しており、3年債や5年債といった年限でも国債対比が機能するようになったことを評価して良いだろう。とにかく、利回りがマイナスであるというのは、通常の状態ではない。異常が長続きすればそれが常態になるとも言われるが、マイナス金利は、あくまでも日銀が人為的に作り出したものであり、巨額の国債買入れを停止し、目標金利の水準を変更したり撤廃すると、金利水準は自然に本来の姿へと戻って行く。特に、日本政策投資銀行はS&P以外の主要格付け会社から日本国債と同符号の格付けを取得しており、3年債のクーポンを国債対比+5bpsの0.031%と設定できたことは、起債市場が正常化に向かっている動きとして評価できるだろう。

電力債の起債は週を通して多く目立った。羅列するだけでも、四国電力の10年債及び30年債、中国電力の10年債及び20年債、東北電力の3年債・5年債・10年債、九州電力の5年債・10年債・30年債、中部電力の3年債及び10年債、関西電力の5年債及び10年債、北陸電力の10年債、北海道電力の3年債と、東京電力関連と沖縄電力以外はことごとく電力債を募集しており、総額は3,900億円にも上る。年限のバリエーションも大きく、中期から超長期まで投資家の多様なニーズに応えることが出来ている。電力会社に関しては、エネルギー価格の高騰によって収益力の低下が懸念されている。総括原価主義の下でも、国民生活や産業発展に大きな影響が予想されるため、電力価格への転嫁がタイムラグを伴い、簡単には進まないと思われる。そのため、収益性の悪化が顕著になる前に、率先して起債する動きになったものだろう。電力供給はこれから夏場にかけての危惧も囁かれており、小口の電力会社の業務停止や破綻も散見され始めているため、年度早々に資金調達を急いだものと考えられる。引続き、いずれも格付け対比ではやや甘めのスプレッドが付されており、一般担保付きの電力債を購入可能と考える投資家には、4月頭から利回りを稼ぐ絶好のチャンスを提供している。

なお、関西電力の5年債及び10年債はグリーンボンドとしての認定を得ており、起債観測の上がっている関連した後続案件としては、JERAのトランジションボンドや東北電力のグリーンボンドなどがあり、ESG関連債券の潮流は電力会社にも押し寄せているようである。理屈の上では、未だにLNGや石炭火力への依存が強い(特に、JERAはほとんどが火力発電)ため、特定プロジェクトに紐付けしたグリーンボンドよりも、トランジションボンドを選択した方が、一般担保の特性から考えると適切であろう。

国内起債市場を斬る 年度初特別号:2021年度の起債を振り返る③

3月末に情報ベンダーのリフィニティブの1部門であるディールウォッチは、2021年度のアワードを発表している。株式と債券の両方にわたる広範囲を対象とするアワードであるが、字幅の関係から、社債に関係する表彰の一部のみを取り出してコメントしておきたい。

まず、Bond Issuer of the Yearは楽天グループが受賞した。11月に募集した3年債から15年債まで6回号に及ぶ総額3,000億円の起債を評価したものである。リリースに記載されたコメントを補足すると、『他の銘柄よりも高い利率で起債して大型調達が必要な発行体にモデルを示した』とある。確かに、10年債以上の年限ではクーポンは1%を超えており、利回りの絶対水準だけを見れば投資家は興味を示すだろう。しかし、ネット上のプラットフォームを提供し、小売から金融、更には通信事業にまで手を伸ばす同社について超長期の見通しを確信するのは難しい。少なくとも巨額の設備投資を行って参入した楽天モバイルの携帯電話事業は、現状で成功しているとは言い難い。多くのTVCM露出と、初年度一定期間の料金無料で顧客数を確保して来たが、auとのローミングを縮小した結果、繋がりにくいという評価が定着しており、今後、無料期間が順次終了することで契約数を維持できるかどうかは微妙と思われる。業態特性を考えると、超長期年限を含めて、高い利回りを払って3,000億円を調達したのは立派と言えるが、前回触れたJR各社の起債と比べると信用力の安定性は乏しいだろう。

次に、Bond of the Yearを受賞したのは、3月頭に募集された関西電力の劣後債であった。募集された時にもコメントしたが、電力会社の劣後債は事業会社の劣後債とは大きく性質が異なる。事業会社の劣後債の回収順位は、無担保融資>無担保社債>劣後債となるが、日本の公募社債のデフォルト時の弁済率は平均すると十%台であり、劣後債にまで残余財産が回ってくる可能性は極めて低い。一方、電力会社の場合には、一般担保付債>無担保融資>劣後債の順位であり、全財産にまで請求権の及ぶ一般担保付社債の存在が圧倒的な壁となる。しかも、金融機関等からの融資残高は膨大に存在し、劣後債に期待できる弁済率は間違いなく0%である。この起債においては、5年後、7年後、10年後に早期償還可能となる60年債とされているが、早期償還されるかどうかは、今後のエネルギー価格や原子力発電の再稼働状況に左右されることが必至である。ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー価格はおろか、原子力発電所問題がクローズアップされかねない時点で、電力会社の劣後債を募集するのはいかがなものだったろうか。募集した発行体にしても、購入した投資家にしても、狂気すら感じさせるものである。

Debut Debt Deal of the Yearは6月に募集されたGMOインターネットの2本立てが受賞した。リリースのコメントを引用すると、『国内 SB 市場の発行体では伝統的な大企業が主流となる中で、ネット企業の草分け的な存在が市場に登場。明確な比較銘柄が存在しないことから独自の水準を打ち出した起債運営は、後続となるネット企業の手本を示した。』とある。確かに、此れほど胡散臭さを拭えないネット企業の社債には、投資家も積極的にはなれないだろう。R&IのBBB+格を取得しており、日本銀行の社債買入れ対象候補となるからこそ起債が可能だったのではないか。そういう意味では、Debut Dealを支援したのは日本銀行であり、表彰されるべきは日本銀行であろう。

Innovative Debt Deal of the Yearを受賞したのは、同じく6月に募集されたANAホールディグスの第42回サステナビリティリンクボンドであった。『環境目標が未達の場合、寄付をするという世界初のスキームを導入』し、過去のサステナビリティボンドが採用したようなクーポンのステップアップを排することで仕組み債としての性質を打ち消したことが評価されている。しかし、何にせよ、フライトシェイムと呼ばれるほどジェット燃料を燃やして大量の二酸化炭素を排出する空運会社は、ESGの嵐が吹き荒れる欧州では毛嫌いされている。トランジションボンドのように直接的な自社グループの努力を評価するのならともかく、サステナビリティ・パフォーナンス・ターゲットとして設定されたのは、「①DJSI WorldおよびDJSI Asia Pacificの構成銘柄に選定、②FTSE4Good Indexの構成銘柄に選定、③MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の構成銘柄に選定、④CDP 「A-」以上の評価取得」のうち3項目以上の達成という外部評価機関による間接的な評価のみであって、他人任せとしか見えない。結果として、投資家にも理解され難い基準設定になっているのではないか。

以上、アワード取得の一部を抽出して紹介したが、発行体の観点と、投資家の観点、また、市場育成の観点では、評価される内容は異なる。少なくとも、これらの取組みが市場の拡大や発展に繋がってくれるものである事を祈りたい。

国内起債市場を斬る 年度末特別号:2021年度の起債を振り返る②

近年の起債市場で特徴的なものの一つとして、複数本立ての起債で中期から超長期まで幅広い年限で巨額の募集を行うものを挙げることが出来るだろう。過去から見ても、3年債・5年債・7年債といった組み合わせや、5年債・10年債といった複数本立ての起債は決して珍しくない。また、公益セクターを中心に10年債・20年債といった組み合わせも良く見られていた。しかし、近年の特徴的な複数本立ての起債は、3年債もしくは5年債から超長期債までの複数本立ての募集で、総計で1,000億円を越えるような巨額のものである。

中期の年限であれば、いわゆる投資適格にあたる格付けを取得している発行体ならば、スプレッドさえ適切な水準を付すことで、起債によって資金調達することは不可能でない。しかし、超長期年限での募集には、ややハードルが高い。まだ20年債であれば、総合商社や小売業、通信関連などの発行体による起債も見られるが、30年債や40年債、ましてや50年債ともなると、投資家に受け入れられる発行体は、電力・ガスや鉄道関連の安定的な公益セクターのみとなる。かつては安定的な超長期債の発行体と目された電力各社も、東日本大震災と福島第一原発事故に際しての奉加帳方式による負担の大きさによって、超長期年限での債券募集が必ずしも容易ではなくなってしまっている。一般担保付き債券というメリットは残っているものの、政府によって将来どのような損失を負担させられるか不透明であり、原発の再稼働が容易でないことや、化石エネルギー価格の高騰もあって、巨額の資金調達は難しくなっている。

こうした状況において、中期から超長期年限に及ぶ巨額の社債発行が見られる発行体は、主として鉄道セクターということになる。バブル経済崩壊期に百貨店や不動産関連等の本業以外で大きな損失を被った既存の私鉄は、本業の鉄道事業を中心にビジネスを再整理して、近年では、再び駅前の再開発などに積極的に取り組んでいる。新規の路線拡大はほとんど見られず、人口減少や新型コロナによるテレワークの拡大を踏まえて運行本数の見直しも行われており、贅肉を絞った経営へと進みつつある。中でも、民営化の過程にあってバブル崩壊のダメージを大きく受けることのなかったJRの本州各社は、高い信用力を基に事業展開を拡大しつつあり、不採算路線を多く抱えるJR北海道・JR九州・JR四国とは大きく状況が異なる。また、新幹線専業に近いと目されリニアの建設負担を看過できないJR東海も異質であって、ローカル路線を抱えてはいるものの、JR東日本とJR西日本の両社が業容の面からも、安定性に対する期待が高い。

しかし、東日本と西日本の格差は決して小さくなく、首都圏の大動脈を抱え、東北・山形・秋田・上越・北陸(一部)と多くの新幹線路線を有するJR東日本が、起債の面でも圧倒している。2021年度のJR東日本による起債を振り返ると、4月に3年債450億円・5年債300億円・10年債200億円・20年債300億円・30年債200億円・40年債200億円・50年債350億円と、計2,000億円を募集している。7月には、10年債100億円・20年債150億円・30年債250億円・40年債250億円・50年債250億円と、計1,000億円を募集し、12月には3年債400億円・30年債100億円・40年債100億円・50年債200億円と、計800億円を募集しており、だんだん尻すぼみになる傾向ではあったが、合計すると年限も金額も圧倒的である。この他に、サステナビリティボンドの募集も行っている。

一方、JR西日本は、JR東日本を追うように、4月に3年債500億円・5年債300億円・10年債100億円・20年債150億円・30年債150億円・40年債200億円・50年債200億円と、計1,600億円の社債を募集したのみである。また、東京ガスも負けじと7月に5年債100億円・10年債150億円・20年債150億円・30年債100億円の計500億円を募集しているが、年限の幅も金額も見劣りしてしまっている。

結局、JR東日本のみが中期から超長期に及ぶ巨額の起債を複数回実現できており、自社債のみでイールドカーブを構築することを可能にしている。これも企業の安定性がなせるものと考えられるが、果たして30年先や50年先といった未来に、鉄道運送事業がどうなっているか必ずしも盤石ではないだろう。目先は、主に電気で動くということで環境に優しいと評価されているが、動力源の電気はほとんどが化石エネルギーの燃焼によって生み出されたものであるし、地方路線のディーゼル機関はハイブリッド化を進めているものの、化石エネルギーの燃焼に依存している。人口が減少して行く中で、地方の不採算路線を切り捨てて行けるのか。少し先の未来を考えると、安易に利回り獲得のためだけで超長期債に飛びつくと痛い目に会ってしまいかねないのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 年度末特別号:2021年度の起債を振り返る①

新年に入ってからの原油価格上昇が象徴するインフレ懸念の高まりは、サプライチェーンの制約や新型コロナによる経済活動自粛からの回復といった、コストプッシュとディマンドプルの双方のインフレ要素を孕んでいたが、その後のウクライナ戦争の勃発によって、インフレ懸念というよりもスタグフレーションの怖れが強まる展開となった。インフレによる金利上昇懸念は欧米で強く意識されるものの、日本においては、物価の上昇は見られているものの、日銀の掲げる2%の物価目標には達しそうにもない。先行きの不透明感が高まる中、発行体と投資家との双方が様子見を決め込んだことから、例年になく2月後半からの起債市場は寂しい展開となった。

こうした状況ではあるものの、2021年度の起債市場前半を振り返ると、キーワードとしては、引続きであるが、SDGs債券と劣後債とがひと際目立つ展開であった。特に後者に関しては、金融機関や金融持株会社、保険会社による劣後債の募集が少なからず見られたものの、大型の起債の多くは事業会社による期限前償還条項が付された超長期の劣後債であった。債券と株式の中間的な特性を有し格付会社がある程度の資本性を認めることからハイブリッド証券といった呼び方がされるものの、本質は間違いなく劣後債である。発行会社の破綻時の弁済順序が一般の先取特権や、融資及び無担保社債等の一般債権の後順位になるものであり、日本の公募普通社債の破綻後回収率が概ね10%程度であることを考えると、劣後事由の発生した場合には、投資家はこれらの劣後債の弁済率はおそらくゼロになるものと覚悟しておくべきであろう。

こうしたハイブリッド証券と呼ばれる劣後債から一線を画して、期限前償還条項のない通常の劣後債を大量に募集した発行体がソフトバンクグループである。2021年度には、個人投資家向けに9月に4,500億円と2月に5,500億円の計1兆円を募集している。その他に、機関投資家向けの劣後債や米ドル建ての劣後債なども募集しており、年度の調達額では、最大の民間事業会社と考えて良いだろう。基本的には、過去に募集した劣後債の償還対応であるものの、個人投資家向けに1兆円もの社債を募集する発行体は他に見られない。

ソフトバンクグループは、通信・インターネット関連事業を営む複数の子会社のみならず、証券やプロ野球球団やサッカーチーム等様々な事業子会社の持株会社であるが、更には、複数の投資ファンドも保有している。歴史的に見ても、傘下の事業会社の買収統合次第で資金状況や信用力は、大きく振れる特徴がある。今年度に関しても、傘下のARMをNVIDIAに売却して統合させられるかが注目されたが、結局は独占禁止法や安全保障の観点から各国の承諾を得られず、売却は頓挫した。キャッシュフロー面ではこれくらいで必ずしも大きな影響はないが、今後の事業展開においても、ARMの売却が容易でないことが足枷になる可能性が懸念される。

そもそもソフトバンクグループは巨額の負債を抱えており、みずほフィナンシャルグループが主取引先ということもあって、双方がToo Big To Failとなっている状況にある。格付けも優先債務では、JCRがA-格である(つまり、期限付劣後債はBBB+格となる)ものの、S&PではBB+格と投機的水準になっている。海外の投資家から見ればハイイールド債発行体(投資適格ではない)であり、国内の投資家から見れば投資適格を維持しているという評価になる。格付けの適否は将来の転帰を十分に予見できるものではないが、M&Aによる財務構造の不安定性さを考えると、決して安定的な投資対象にはなり得ないだろう。

同社の劣後債は、投資家に高いクーポンを提供するとともに、引受証券会社には高い引受手数料を提供している。発行体もCMやスマホを通じて”ソフトバンク”という個人から身近なネームで安定的な資金調達が出来ていることから、一見Win-Win-Winの関係にあるように見えるが、高コストでの資金調達は株主の利益を害している可能性がある。ソフトバンクグループの株主は、同社の資金調達についてよくよく吟味すべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/7~3/11

2021年度の起債市場は、あっけない形で幕を閉じることになったのかもしれない。例年なら、3月中旬に向けて起債ラッシュのような展開となることは珍しくないのだが、年明けから一気に強まった物価上昇懸念と各国中銀の金融緩和見直しによって金利上昇の懸念が高まり、日本の長期金利ですら影響を受けたのである。米国の長期金利は上昇し、日本と同様にマイナス金利へ沈んでいたドイツの10年国債利回りも、1月末にはプラス圏にまで上昇した。日本においては、日銀が強力なイールドカーブコントロールを実施しており、物価上昇の目標を2%と置いている以上、現黒田総裁の在任中には見直される可能性が低いものの、10年からより長い年限では、顕著な金利上昇が見られた。

起債行動を考えると、金利上昇が一過性の問題であるならば、発行体はしばらくやり過ごすだろう。中長期的な金利上昇の趨勢ならば、金利が上がる前に駆け込み起債を行うだろう。一方の投資家側は、一過性の金利上昇ならタイミングをとらえて債券購入に積極的になるが、中期的な金利上昇のトレンドに入ったと見るならば、投資タイミングを先送りするだろう。金利上昇によって時価評価から債券の含み損が発生することを快適に思う投資家はいない。

通常の市場展開ならば、金利の見通しに関連して発行体と投資家の間での駆け引きが見られる中、期末に向けたタイミングでの起債が増えるはずだが、ロシアによるウクライナ戦争の発生がすべてを変えてしまった。短期的な政情不安から来る経済の先行き不透明感ではなく、金融や交易等広範な範囲に及ぶ長期の制裁によって、ロシア経済は当然としても、世界経済の受ける影響は決して小さくない。小麦だけを見ても、ロシアやウクライナは上位の生産国である。ロシアは、また、主要産油国の一つでもある。小麦や原油と一旦重要な産品が中期的に生産も輸出も困難になるのでは、様々な影響が世界経済に及ぶことは必至である。ロシア国債のデフォルトは確実視されており、クレジット市場に対する懸念も、世界的な株価の低迷と同様に高まっている。突然、2021年度末の起債市場は、機能不全に陥ったのであった。

多くの起債が先送りされる中では、公共セクターやSDGs関連債くらいしか社債等の募集が行われないのも、当然であろう。既に起債観測の上がっていた電力関連や個人向け社債の募集は見送られている。この週に実際に募集されたのは、地方公共団体金融機構の定例募集である10年債350億円の他、中日本高速道路の5年債700億円があり、更に、日本貨物鉄道(JR貨物)が初めての公募普通社債として10年債及び20年債各100億円を募集したくらいである。JR貨物の公募社債は、グリーンボンドの認定を得ており、格付けはR&IのAA-格及びJCRのAA格であった。グリーンボンドの資金使途としては、”東京貨物ターミナル駅構内に建設中のマルチテナント型物流施設「東京レールゲートEAST」の設備資金として充当する”とされている。”環境特性と労働生産性に優れた貨物鉄道輸送の利用”を謳っているが、動力源の一つである電気は化石エネルギーを燃焼して得ていないか。ディーゼル機関車の6割減を達成したと開示しているが、2021年3月末ではディーゼル機関車は100両以上残り、ハイブリッド機関車は40両と数少ない。ハイブリッド機関車であっても、完全に温室効果ガスを排出しないものではない。トランジションボンドを選択した方が良かったのではなかろうか。

このように、やや先行きの展開に疑念の残る形で2021年度の起債市場は幕を閉じることとになりそうだが、果たして新年度をどのように迎えることになるだろうか。振り返れば、3月11日に東日本大震災の発生した2010年度末も、翌年度をどのように迎えられるか心配を拭えない気分であった。明るい2022年度の到来を期待したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/28~3/4

世界的な供給制約と需要回復から生じた物価上昇と、それを受けた各国中央銀行による金融緩和政策の見直しで、先進各国の金利は年が明けてから上昇傾向となった。おそらく何もなければ、このままFRBが実施するであろう3月の利上げを経て、多くの国々での金利上昇が追認される形になっていたはずである。ところが、ロシアによるウクライナ戦争の勃発によって、世界経済の行方は暗転している。少なくとも、欧米の主導するロシア経済封じ込めによって、それでなくとも新型コロナ感染症によって貿易や人流に障害の出ていた状況は、当面、すぐに回復するという望みを絶たれた。例を挙げるならば、日本から欧州へと飛行機で移動する際に、基本的にロシア上空を通過することが敬遠される(厳密には日本の航空機が締め出されているわけではないが、情勢判断として避ける)ため、北極経由でも南回りでも、飛行の所要時間が増えコストが増大する。

物流以外にも、主要産油国の一角を占めるロシアの原油が事実上禁輸となり、ロシア及びウクライナはともに小麦の生産ランキングでトップ10に入る国々である。両国の小麦が世界的な物流から落ち自由に動かなくなることは、食料・飼料等様々な面での影響は大きい。どのように考えても、経済回復によるな明るい物価上昇から金利上昇へという当初のシナリオが崩壊し、悪い意味での物価上昇から経済成長の抑制といったスタグフレーションの可能性が懸念されるような世界情勢である。確かに金利は上がるかもしれない。しかし、景気回復を伴わない金利上昇は、信用力の低い企業や新興国の破綻を伴いながらの厳しい道である。既に、SWIFTからの排除によって、ロシア国債のデフォルトが必至と見られており、ロシア企業との関係の深いヨーロッパを中心に、金融機関や取引企業の信用懸念が高まる可能性は否定できない。

日本の起債市場は3月中旬までが年度内の最終募集タイミングであるが、ウクライナ戦争の勃発によって、市場では完全に様子見が定着している。日経平均株価が一日に数百円単位で上下動しており、金利も高めの水準で推移したままにある。日本においても、ロシアに対するエクスポージャーを抱える企業は、総合商社をはじめ決して少なくない。戦況が膠着するならば、このまま年度末を迎えるような展開も考えておかなければならない。その中では、発行体は起債タイミングの先送りを検討し、投資家は債券購入を急がないという状況になっていしまうのは必然であろう。

3月に入って募集された債券は、引続き、SDGs債が目立つ。JR東海の35年債、鹿島建設の5年債、東京電力リニューアブルパワーの5年債といったものが募集されており、鹿島建設のみサステナビリティボンドで、残りの二つはグリーンボンドである。また、関西電力が60年物劣後債を早期償還タイミングを変え、計3本2,200億円ほど募集している。一般担保付きの電力債を発行している電力会社で、劣後債の弁済に回るような残余財産があるとは到底思えないが、逆に言えば、電力会社を法的に破綻処理して、産業のみならず家計の機能に影響を与えることも難しい。電力会社の劣後債に対する暗黙の政府保証はほぼ存在しないと見られるが、福島第一原発の事故処理を見ても、単純な倒産を選択し難いと考えられる。

今回の劣後債も早期償還されるならば、最長でも10年以内の期間において相対的に高い利回りを得られるのであるが、果たして電力会社の将来と環境の変化をどう見るか。電気自動車や水素エネルギーはクリーンだと持てはやされているが、エネルギー源となる電気や水素の生成に際しての副産物や温室効果ガスの排出を考慮せずに、単に電気でモーターを回している状況や、水素の燃焼によって水しか発生しないといった化学反応だけを見てはならない。日本の電気の半分以上は、今でも火力発電で賄われているし、水素の生成は水の電気分解によるなら火力発電の産物でしかないし、炭化水素の分解によって生成されるなら、炭酸ガス等の副産物が生じているのである。目の前の現象だけでなく、原材料にまで想いを至らせるべきであろう。