国内起債市場を斬る 起債評価:2/22~2/26

今年は、恒例の「年度末起債ラッシュ」がないのかもしれない。例年であれば、3月中旬に向けて最後の資金調達の動きがあるのだが、10年以上の年限について金利の先高感が生じており、日銀の金融政策決定会合で金融緩和の見直しが行われる可能性もあって、3月の社債募集は少なめになる可能性がある。起債観測は色々と上がっているが、大型案件と言えるものはオリックスの劣後債くらいなものだろう。近年の大型起債はM&A関連のものが多く、新型コロナ感染症の影響で、M&Aの動きはあまり見られなくなっている。そのため、年度末の大型起債は期待し難い状況である。

この週に募集された社債等は決して多くない。丸紅の劣後債は750億円と大型案件の部類に入る。60年債であるが、5年経過以降の早期償還が可能で、クーポンがステップアップする典型的な仕組みである。5年債として考えると、0.82%クーポンは高い利回りである。しかし、R&IのBBB+格という劣後債評価を考えると、十分に高い利回りとも言えない。総合商社の変動性が高いビジネスを考えると、早期償還してくれないと困る債券でもあろう。

条件決定したクレディセゾンの6年債は、個人投資家向けの社債である。ボーナスシーズンでもないのに、個人投資家向けの社債が募集されることは珍しいが、投資単位を10万円と設定していることで個人の小額資金をも対象にしている。0.24%というクーポンは、銀行預金等一般的な貯蓄手段より遥かに高い利回りが獲得できる。問題は、クレディセゾンという発行体の信用力評価だろう。格付けはR&IのA+格と高いが、ノンバンクビジネスの将来性はどうか。特に、みずほフィナンシャルグループとの提携を解消して、「セゾンカード」はどこに向かおうとしているのか。6年のタイムスパンは、悩ましいところである。

三井金属鉱業は5年債100億円を募集した。JCRのA-格とやや低めの格付けであり、0.16%クーポンは必ずしも高い利回りではない。レア銘柄でなかったら、消化は容易でなかった可能性が高い。もっとも三井グループの中でも古株の企業であり、デフォルトとの距離は遠い可能性が高い。

中国電力は23年債という端数年限での社債を募集している。国債のイールドカーブが引けていれば、新発国債の発行年限でなくても、スプレッド評価は可能である。そもそも国債利回りの低下を受けて利回りの絶対値でプライシングされることが多くなっており、投資家側も国債対比での評価を自らで行うことに習熟していることだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/15~2/19

ようやく年度末に向けた民間企業の起債がはじまった。少し長期から超長期の年限については、新型コロナウイルス感染の拡大が落着き、ワクチンの接種開始、株高といった諸要因から、金利水準の変化が見られるものの、10年の国債利回りを日銀がコントロールしていることもあって、顕著な先高感はない。発行体側から見て、慌てて起債する必要もないという感覚なのだろう。例年と比較しても、やや淡々とした年度末に向けた起債の動きである。

この週の起債の特徴としては、まず、サステナビリティボンドを挙げることが出来よう。日証協はSDGs債として、グリーンボンドやソーシャルボンド等と括る動きであるが、様々な基準が乱立している感は否めない。グリーンボンドは環境、気候など外部からも見え易い要素であるのに対し、ソーシャルボンドはややカバーされる対象が広く曖昧なところがある。それらに対し、逆に開き直った感のあるサステナビリティボンドは、国連のSDGs目標と連携して理解しやすいものでもある。しかも、国連によって17個の目標が設定されていることもあって、グリーンやソーシャルを含む広い範囲を包含できる可能性がある。そもそもがラベルを貼ることによって、投資家も発行体も引受証券もがWin-Winになるための取組みであるから、基準を統一するというよりは、様々な基準とラベルが乱立している方が望ましいのだろう。

この週に募集されたのは、野村不動産ホールディングスと日本ハムの10年債各100億円であった。ちなみに、日本ハムの10年債がサステナビリティボンドの認定を得たのは資金使途が、傘下の日本ハムファイターズが予定する北広島市での新球場建設資金である。確かにSDGsの目標に適ったものではあるが、これでサステナビリティボンドとなるのであれば、認定されない資金使途は少ないのではないか。そもそも、お金に色がない以上、借入れやCP、社債の借換資金だって何らかの理由を付けることが可能であろう。

サステナビリティボンド以外では、阪急阪神ホールディングスが5年債・10年債・20年債の3本立てで計500億円を募集している。CPと社債の償還資金に充当するとされているが、資金使途を甲子園球場の整備等阪神タイガース関連と主張してしまえば、サステナビリティボンドとしての認定を受ける余地はあろう。同社はサステナブル経営を宣言しており、無関心な発行体ではない。認定を受けるのに必要な手数料を惜しんだか。そもそも社債で調達した資金使途が、募集時の追補目論見書通りであるかどうか外部から検証する方法はない。

なお、これら一般の公募普通社債以外に、ヤンマーホールディングスがプロボンド市場で5年債50億円を募集している。国内の民間企業の利用としては、市場の胴元である日本証券取引所グループ以来の利用例となるが、1億円単位で機関投資家しか購入できないほとんどの公募普通社債は、開示等の面からもプロボンド市場の活用を考えて良いのではないか。代表的な市場インデックスに算入されないという欠点はあるものの、そのことは社債の消化に際して致命的な欠陥とはならないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/8~2/12

この週も引続き、民間企業による通常の社債募集は見られない。募集されたのは、いわゆる公共債ばかりである。まず、地方公共団体金融機構が10年債を募集している。定例の毎月行われる募集という感はあるが、他の月は20年債や時に5年債などと同時に募集されることが多いため、10年債が単独で募集されるのを珍しく感じる。1月に募集された第140回の10年債が0.125%クーポンであったのと比べると、今月の第141回債は0.15%クーポンとわずかながら利回りが上昇している。地方公共団体金融機構債は、厳密な意味での財投機関債ではなく、むしろ地方公共団体が共同で設立した機構の発行するスーパー地方債ともいうべき存在である。共同発行地方債と異なるのは、全都道府県及び市町村が関与した機構による募集であるというくらいか。地方公共団体金融機構は、定例の債券募集の他に、外債やFLIPに基づく随時の債券発行、地方公務員共済組合関連の投資家向け縁故債と幅広い債券発行のバリエーションを有しているのも強みである。

残りの公共債は、道路関係の債券ばかりである。高速道路運営会社で債券を募集したのは、阪神高速道路の4年債300億円と、首都高速道路の5年債200億円である。いずれも日本高速道路保有・債務返済機構による併存的債務返済条項が付されており、結局のところは、財投機関である日本高速道路保有・債務返済機構が連帯して債務を負担するために、同機構の信用力に帰するものである。なお、いずれも大都市圏での高速道路運営会社であるが、阪神高速道路はR&IのAA+格しか取得していないのに、首都高速道路はR&IのAA+格の他、ムーディースのA1格とJCRのAAA格を取得している。東日本高速道路や、中日本高速道路、西日本高速道路と同じような格付取得形態であり、特にJCRからのAAA格取得は、一部の投資家にとって意味がある。

高速道路の保有主体である日本高速道路保有・債務返済機構は、31年物の財投機関債を募集している。利子一括払いという同機構では、おなじみの債券形態である。期間損益を認識する企業会計を採用している投資家には意味ある利息収入であるが、償還と同時の利息支払時点までは未収利息であるため、現実のインカムをキャッシュで受け取りたい投資家にとっては、不向きな債券である。31年債と言っても、クーポンは0.934%と決して高水準でなく、通常の利払いを受けたとしても決して大きな金額にはならないが。こうした債券も、発行体が現金主義を意識していれば、償還と利払時点まで資金流出がないのであり、投資家と発行体との重視する会計方針の違いをうまく利用した起債と言えなくもない。1千万円という投資単位からも当然であるが、個人投資家が購入することはできず、投資家は指定金融機関等に限定されている。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/1~2/5

民間企業による通常の社債募集は見られない。この週で募集されたのは、公共債と劣後債のみである。公共債で募集されたのは、都市再生機構の40年債、西日本高速道路の5年債、中部国際空港の5年債及び10年債、大学改革支援・学位授与機構の5年債、住宅金融支援機構の15年債といった顔触れであった。

同じ5年債であっても、株式会社形態の発行体である西日本高速道路と中部国際空港の債券は0.06%クーポンであるのに対し、大学改革支援・学位授与機構の債券は0.03%クーポンと半分の水準である。もっとも大学改革支援・学位授与機構が債券を募集する頻度は年に1回程度であり、今回は85億円と小額の募集である。文部科学省傘下の団体や学校法人等の購入で十分に消化できる規模であろう。一方、西日本高速道路の5年債は、800億円と大型の起債であった。

都市再生機構は40年債を募集し、住宅金融支援機構は15年債と、いずれも超長期年限の債券を募集している。ほぼ1年前にR&Iの格付けがAA+格と国債と同水準になった都市再生機構は、40年債のクーポンが0.862%と1%を下回る。決して投資妙味が高いとは言えない水準であるが、ある程度の水準の利回りを得るためには、こういった債券の購入も必要だろう。しかし、今後40年間に都市再生機構の業務内容が見直され、位置付けが変わることはないのだろうか。住宅金融支援機構の15年という年限ですら、同様の懸念を免れない。格付けは決して超長期の体制や役割の変更を保証してくれるものではない。

劣後債で募集されたのは、三井住友海上火災保険の60年債と東京建物の40年債である。いずれも10年経過以降に期限前償還が可能となる。期限前償還を前提として10年債として比較すると、R&IのA+格である三井住友海上火災保険は1.02%クーポンで、JCRのBBB格である東京建物は1.13%クーポンである。格付水準と比較しても、また、発行体の事業特性に基づく期限前償還の確実性から考えても、三井住友海上火災の劣後債の方が有用だろう。発行額は三井住友海上火災保険の1,000億円に対し、東京建物は400億円と小さい。東京建物の劣後債は、サステナビリティボンドの認定を得ているが、そのことは決して信用力を向上させるものではない。

都市再生機構の40年債はソーシャルボンドの認定を得ており、住宅金融支援機構の15年債はグリーンボンドとなっている。いわゆるSDGs債に含まれる債券には色々な種類があるが、民間企業の社債で起債観測の上がっているものは、サステナビリティボンドの認定を予定しているものが増えている。未だにグリーンボンドだソーシャルボンドだと言って募集している公的セクターの取組みは、やや時代遅れなのかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/26~1/29

相変わらず、起債市場はノンバンクと劣後債が、募集の多くを占めている。ノンバンクで募集されたのは、日立キャピタルの3年債とイオンフィナンシャルサービスの3年債及び5年債である。いずれも日銀買入れの適格年限のみの募集であって、前者は日立の名前を残しているものの、既に三菱UFJフィナンシャルグループの傘下であり、後者はイオングループに属している。結局のところ、オリックス等幾つかの例外を除いて、ほとんどのノンバンクは何らかの母体企業もしくはグループに所属していないと、安定したビジネス基盤を確保できないようである。もっとも、新型コロナウイルス感染症の影響による業績低下の影響が、母体企業やグループ企業の所属業種に大きく及ぶ場合には、関連ノンバンクも無傷ではいられない。そういう観点からも、中期年限の社債しか募集できないのかもしれない。

劣後債を募集したのは、三菱地所とソフトバンクグループである。どちらも過去に発行した劣後債をリプレイスする目的の起債で、新顔の発行体ではない。三菱地所が募集したのは、最終償還60年債が2本で、800億円の一つは5年経過時点以降に期限前償還が可能になり、350億円の方は12年経過時点以降に期限前償還が可能になる。変動利付になってからのクーポンはいずれもステップアップが予定されており、期限前償還のインセンティブが担保されている。しかし、期限前償還を前提にすることと、劣後債に資本性を認めることは、矛盾を孕んでいる。そのため、今回のように同様の劣後性調達によってリプレースすることが求められるのである。

ソフトバンクグループの劣後債は、1,770億円と巨額の募集である。最終償還35年債で、5年経過時点以降に期限前償還が可能になる。変動利付になってからは、財務省の公表する国債金利情報に連動して上乗せが決められることになっており、Libor金利廃止へに向けた一つの対応策を示している。前述の三菱地所債の変動金利は、Liborへの上乗せで規定されており、Libor廃止に対応したクーポン決定に関する詳細な規定が付随している。果たしてどちらが投資家にとって理解し易いだろうか。必ず期限前償還するのであれば、適用されずに終わってしまうものなのだが。

ノンバンクと劣後債以外の社債では、光通信が5年債・10年債・15年債の3本立てを募集した他、いすゞ自動車が5年債と7年債とを募集している。光通信は、以前より随分と格付けを回復しており、R&IのA-格及びJCRのA格という評価である。果たして15年後の光通信という会社がどうなっているかイメージできるだろうか。15年債のクーポンは1.38%であり、三菱地所の期限前償還12年債の当初クーポン0.97%を大きく上回る。利回りの高さは投資対象として魅力的に映るが、発行体の将来性に疑問がない訳ではない。格付けの有効期間を3~5年と考えるならば、投資家の持つ業界及び個社に対する鑑識眼が問われることになる。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/18~1/22

起債市場の動きを見ていると、金曜日の債券募集件数が急に少なくなったことで、恒例の決算発表シーズンに入ったことを感じさせられる。前週までは金曜日に債券募集が集中し、引受証券会社や情報ベンダーは「きっと忙しい」と覚悟していたのだが、この週は金曜日に募集されたのが、かんぽ生命の劣後債だけであり、状況の変化は速い。昨年の同時期の状況を見ると、この後は公共セクターに偏り財投機関債の募集が主になり、2月中旬頃から年度末に向けては、大規模な債券募集シーズンとなるのである。

この週の起債も、相変わらずノンバンクや銀行といった金融セクターが中心になっているが、特に気になったのは、前述のかんぽ生命が募集した機関投資家向けの劣後債2,000億円である。最終償還が30年の期限付き劣後債であって、当初クーポンは1.05%とされ、10年後に最初の期限前償還タイミングが到来する。その後は、5年物国債利回り連動の変動利付債になる仕組みであるが、基本的には期限前償還を前提として10年債と考えて購入する投資家が多いだろう。投資家は、発行体に期限前償還を実施するコールオプションを売却した形であり、オプションプレミアム相当分がクーポンに上乗せされていると考えるべきスキームである。金融機関等の劣後債の場合には、金融庁の監督の下でほぼ確実に期限償還されると推定するのが一般的である。

10年債で1.05%クーポンという利回りは、同じ年限の地方債や国債と比べると、格段に高い水準である。しかし、それは間違いなくリスクの裏返しである。JCRがこの劣後債に付与した格付けは、A+格に過ぎない。かつては政府と一体的な存在であり財政投融資の一部となっていた発行体であるが、現在は、民営化によって日本郵政と親子上場されている営利法人である。ゆうちょ銀行とともに、日本郵政の傘下で利益を稼ぐ柱と期待される構造にある。しかし、ベースとなる顧客の高齢化に加え、営業に関する不祥事から新規営業が一年にわたって停止され、大きく経営基盤が傷付いている。生命保険会社の場合、新規募集時点のコストが相対的に大きく、保険の募集を停止したり削減したりすると、費用の低下から、当初は目に見えて利益が拡大する。しかし、その後、保有契約高が減少することから、中期的な収益は必然的に減少することとなる。言い換えると、短期的な業績に惑わされず、中期的に考えねばならない事業構造であることを理解する必要がある。

大正期に創設された郵便局による小口保険販売は、戦前の民間生命保険会社が大口富裕層を対象としていた時には、有意義な存在であった。しかし、第二次世界大戦後に民間生保が小口大衆販売にシフトした中では、存在価値は低下してしまった。さらには、民業圧迫を回避する観点から、加入保険金額に上限が設定され、養老保険や個人年金保険といった貯蓄性商品に軸足を置かざるをえなかったのである。バブル経済崩壊後の低金利環境下でリスクを取らずに、十分な利回りを得ることは難しく、ゆうちょ銀行と同様に外部人材を採用した運用への努力も行われたが、そもそも国債の定期的な購入くらいしか運用経験がなく、極力リスクを忌避する企業文化が根強く残り、利回りの確保に苦戦し続けている。そこへ違法な保険営業による営業停止処分が加わったのである。その上に、新型コロナ禍で対面営業に制約がある中で、かんぽ生命に未来はあるのかは、揶揄されている。純粋な民間企業と考えるならば、決して明るい絵は描けない。個人を中心とした保険加入者に損失を被らせることができない以上、株主や劣後債を検討する機関投資家は、公的サポートへの期待を前提にして投資するしかないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/12~1/15

内起債市場を斬る 起債評価:1/12~1/15

成人の日(1月11日)を含む三連休が明けて、起債市場がようやく本格的に動き出した。しかし、水曜日から木曜日になっても、条件決定にまで至る案件はわずかであった。結局のところ、金曜日に案件が集中するという展開は変わらない。年度内最後の四半期初めというタイミングもあって、早速に債券を条件決定する業態は、ノンバンク・電力・公共セクターが主になるという、ほぼ予想された展開となっている。

ノンバンクで社債を条件決定したのは、みずほリースが4年債及び7年債、オリエントコーポレーションが5年債と10年債、三菱UFJリースが6年債と個人向け7年債、クレディセゾンが5年債と20年債といった顔触れである。BBB+(R&I)格という格付けの低さから、オリエントコーポーレーションの10年債は、0.76%クーポンという高い水準が付されている。同日に募集された東日本高速道路の10年債は、0.185%クーポンと約4分の1である。一方、同日の平和不動産の10年債は、BBB(R&I)格と1ノッチほどオリエントコーポレーションより低く、クーポンは0.78%とさらに高水準になっている。東京証券取引所の家主として知られ、兜町から茅場町界隈の再開発を進める同社は、証券各社との繋がりが強く、70億円の起債を大手5証券の共同主幹事という形をとっている。クーポンの高さを取るなら、ノンバンクの中ではクレディセゾンの20年債が、0.97%クーポンと1%近い水準である。ただし、みずほフィナンシャルグループとの関係の先行きを考えると、クレディセゾンの20年後というのは、ややイメージすることが難しい。

単純にクーポンの高さだけを見ると、公共セクターの中でも、東京地下鉄の50年債が1.13%の高水準である。信用リスクを取るか、デュレーションリスクを取るか、どちらで利回りを稼ぐのかという試金石になる。それでも、50年後に東京の地下鉄網がどうなっているのか。ロンドンの地下鉄状況を見ると十分に路線は維持されているだろうが、直下型か南海トラフに起因するものかはわからないが、地震の影響が生じないとは考えられない。それでなくても補修等メンテナンスに膨大なコストを要すことは必定であり、累積欠損を解消しきれていない都営地下鉄との統合問題をいつまでも回避することは難しいだろう。東京地下鉄は、その他に20年債と30年債とを募集しており、他に、財投機関債では日本学生支援機構の2年債と、日本高速道路保有・債務返済機構が利子一括払いの24年債と34年債を募集している。準財投機関債とも言えるものでは、地方公共団体金融機構の10年債及び20年債、中日本高速道路の5年債、東日本高速道路の7年債及び10年債といった債券が募集されている。

例年であると、特定の電力会社が年初早々に起債していた記憶があるものの、今年は電源開発10年債と東京電力パワーグリッドの20年債がこの週に募集されており、いずれも必ずしも伝統的な電力債ではない。東京電力パワーグリッドは、R&Iの格付けがBBB+格とオリエントコーポレーションと同符号であり、20年債と年限を長くしたために、1.42%クーポンと東京地下鉄の50年債を上回る水準になっている。どちらが、投資対象としてより妙味あると見えるだろうか。東京電力パワーグリッドの信用力評価は、公的サポートの想定次第で大きく異なるものとなるだろう。

なお、降雪と気温低下、更には、原子力発電所の多くが稼働停止(運転中のものは調整運転を含めてわずか4基に留まる)となっているため、地域によっては電力需給が逼迫している。需要の高まりから卸電力の価格が急騰した影響が、一部の新電力会社の収支を圧迫し、さらに、一部の契約内容では個人宅にも転嫁される状況となっている。ブラックアウトの懸念もあり、必ずしも電力債を発行しているような大手発電送電会社の収支は影響されないと思われるが、電力需給に大きな異常が生じた場合には、電力関係の債券に対するヘッドラインリスクの顕在化する可能性が高い。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/4~1/8

年末年始休みの明けとなっても、すぐには債券の募集がされることにはならない。主要な海外市場と異なって、正月三が日は休んでしまうのが日本市場である。もっとも、2021年は1月2日が土曜、3日が日曜というカレンダーであったため、例年のやたら長い東京市場の休場はさほど目立たなかったようだ。クリスマスから数日間の市場変化を織り込んだ上で、起債準備は週初から動き出しているが、実際の募集は週後半からとなる。今年は株高を背景にし、日本証券業協会の提示した新しい債券募集ルールが適用される中で、金曜日の8日に日本政策投資銀行と住宅金融支援機構の財投機関債が募集されている。

日本政策投資銀行は3年債・5年債・10年債を各200億円募集している。3年債は0.001%クーポンのオーバーパーであり、5年債は0.03%クーポン、10年債は0.145%クーポンとなった。R&Iが昨年5月に日本政策投資銀行の格付けをAA格からAA+格に引き上げており、住宅金融支援機構と格付符号が同一になっている。R&Iは日本政策投資銀行の役割が民間に移行される可能性や預金受け入れが許されていない銀行の特殊性等を考慮して格付けを下げていたと考えられるが、東日本大震災等危急時の政策金融支援に日本政策投資銀行の役割が不可欠とされていることや政府による株式保有義務期間が延長されたことが再評価され、日本国債と同一水準としたものである。現時点では、S&Pが依然として日本国債より1ノッチ下となるA格と評価しているが、少なくとも日本国内の投資家でS&Pの格付けを根拠にして国内の債券発行体の信用力評価を行うものはないと考えられることから、実務上の支障はないだろう。

住宅金融支援機構の財投機関債は日本政策投資銀行と同じく3本立てであるが、5年債200億円の他に、10年債及び20年債を各100億円募集している。5年債と10年債は、R&Iの格付けが同一である日本政策投資銀行の財投機関債の同年限と同じクーポンである。日本政策投資銀行債は株式会社形態を採用しており、自己資本比率規制におけるリスクウェイトでは劣位となる場合があるものの、基本的に日本国債と同水準の格付けであり、信用力に対する大きな懸念はない。とは言っても、日本国債と同程度の信用力という評価は揺るがないものの、新型コロナ感染症の拡大継続によって住宅ローンの延滞やデフォルトが増加する可能性を考えると、一般担保債より貸付債権担保債のローンプールに対する懸念が高まるだろう。もっとも、貸付債券担保債も暗黙の政府保証は一般担保債と同様にあるものと考えられており、決してデフォルトするとは考えられないと云うのがコンセンサスではあるが、償還タイミングが後倒しとなる可能性や風評リスクを念頭に入れておく必要があるかもしれない。

これから2021年の起債市場に民間企業の社債が登場して来る。例年なら、ノンバンクや電力債といったところがトップバッターになるのであるが、今年はどうだろうか。確かに、複数のノンバンクによる起債観測が確認されている。

国内起債市場を斬る 新春特別号:「ハイブリット」債。規制に依拠した投資リスク

近年の起債市場で注目を集めた一つの種別に、事業会社の発行する劣後債がある。通常の債券に対して、資本性があると格付会社等が認めるために、ハイブリッド債などと美化して呼ばれているが、本質はあくまでも期限前償還条項の付された劣後債でしかない。しかも、金融機関等の規制業種でない事業会社の発行するものについては、監督官庁による指導がなく期限前償還をスキップされる懸念が大いに存在する他に、格付会社等による資本性認定基準が変更されることによって、容易に依拠する枠組みが破壊されてしまうリスクを指摘して来た。その後者のリスクが、どうやら顕在化して来そうだ。

具体的には、国内基準の自己資本比率規制が適用される銀行等の保有する劣後債等に対するリスクウェイトが、従来の格付水準に応じた掛け目(20%~150%)から、一律150%へと変更される予定が公表されたのである。これはバーゼルⅢの国際基準で設定されたものと同じ掛け目であり、決して新奇なものではない。従来格付けの高いものに対して適用されていた低めのリスクウェイトが、一気に優先債権ではBB-未満に適用される水準となる方向である。劣後性に対する評価を国際基準に合わせるものであって、決して違和感はない。

事業会社の劣後債に対する金融機関からの需要は、今回の変更によって基本的に消失すると考えるべきだろう。一般的にリスクウェイトが大幅に上昇したならば、その金融商品の保有を継続したり、新規に投資するインセンティブは無くなってしまうだろう。事業会社の劣後債に対して、期限前償還を前提とした当該保有期間対比での利回りの高さが、これまで投資家のニーズを喚起して来たのであるが、リスクウェイトが跳ね上がってしまうと、投資妙味は投資家側の変化によってなくなってしまうのである。極論すれば、国内基準行による事業会社の劣後債購入は、一切期待できなくなってしまう可能性が高い。

今回のような規制・制度の変更は、劣後債の商品特性によるものではなく、それに対する評価や分類が異なってくることによるものであるから、発行体の責任ではなく、引受証券による「投資家に対するセールストーク」が問題となる可能性はあるが、基本的に、規制や監督のルールに基づくものであって、誰の責任とも言い難い。むしろ事前にこういった事態の発生懸念を考慮に入れていなかった投資家の怠慢、手落ちと言われても仕方ない。そもそも、規制や監督等に依拠した投資は、その前提が覆ってしまうと、一気に評価が変わってしまうのである。

もっとも、国内基準を適用される金融機関等以外の機関投資家には、今回の変更は影響しない。財団等の諸法人や年金といった投資対象に対する規制の存在しない投資家は、引続き、事業会社の劣後債に対する強いニーズを示す可能性はある。しかし、期限前償還されないリスクや格付会社による評価方針変更といったリスクを、決して忘れてはならないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/14~12/18

この週の半ばが年内の債券募集期間の最終になるかと思われたが、実際には、18日の社債募集が最後となった様である。証券化商品や政府保証債等が次の週に募集されることはあるかもしれないが、例年と同じ市場展開ならば民間による大型の社債等が募集されることはないだろう。社債等の条件決定及び募集から払込までの期間を考えると、物理的にはクリスマス前まで募集が可能であるとも考えられるが、追補目論見書等を提出する先は財務局であり、その仕事納めは28日である。今年は12月28日が月曜日であるため、予算関連等や感染症対策等の緊急業務を除くと、仕事納めの前に関連先への挨拶回りを25日と設定して、実質的には24日頃が通常業務の終わりとなるものと思われる。つまり、社債等の募集は、今年はスケジュールのギリギリまで行われたということなのだろう。

年内最後に登場した中で注目すべきは、まず、パナソニックの起債である。3年債800億円・5年債700億円・7年債200億円・10年債300億円と基幹年限だけで計2,000億円を募集している。かつて三洋電機に対する買収資金で、当時の最高額となる規模の社債募集を行った同社であるが、今回の2千億円の起債は、前週のNTTファイナンスよる計1兆円の起債に比べると、インパクトが乏しい。日本の起債市場でも巨額の債券募集が一般化すれば、流動性の向上に資するものと期待されるのだが、NTTファイナンスの1兆円のうち4割にあたる4千億円、パナソニックの2千億円のうち4分の3にあたる1,500億円が、日銀オペによる買取り見合いの5年債以下の年限であるため、中長期的な観点からの流通市場育成には、ほぼ寄与しないだろう。

次に、JR西日本の起債は、29年債と39年債の各150億円である。参照国債との関係で、数か月のズレを捨象(しゃしょう)し切り上げた形で、30年債とかと呼称する場合もあるが、今回は、追補目論見書に29年債・39年債という記載が見られる。そもそも、社債の発行年限として超長期債を10年単位で募集すべきといったルールは存在しない。参照となる新発国債の年限を主張する市場関係者もいるが、国債対比のプライシングでなければ関係はないし、そもそも50年に参照となる国債は存在しない。最長の40年国債の利回りと対比しても、それは単なる利回りの差分であり、意味のあるスプレッドではない。また、発行体側から見れば償還年限の分散を考える必要があるのではないか。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債のように、細かな年限の募集を行って良いと考えられる。実施に、同機構は、この週も9年債・13年債・22年債・23年債・24年債を募集している。

最後に、芙蓉総合リースが7年物のサステナビリティ・リンク・ボンドを募集している。当初の4年間は0.38%クーポンであるが、その後2024年7月31日時点でサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲットを達成していれば残りの3年も0.38%クーポンを維持し、達成していなければ0.48%クーポンにステップアップするという仕組みである。ターゲットとしては、再生可能エネルギー使用率と同社の定めるサポートプログラムの累計取扱額が設定されている。投資家としては、0.38%クーポンが維持されるものと考えて投資し、クーポンが引き上げられたらラッキーという程度に解釈するのが正しいであろう。再生可能エネルギー使用率やサポートプログラムの累計取扱額については、外部からの判定が容易でなく、あくまでも発行体の言い値に過ぎないからである。ICMA(国際資本市場協会)の定めるガイドラインに則っているのではあるが、そもそもICMAは国際的な証券会社の団体であり、引受証券及び発行体側に有利な基準である可能性が高い。なお、芙蓉総合リースは、この週に日本政策投資銀行からサステナビリティ・リンク・ローンを借入れており、サステナビリティ改善への強い姿勢を示している。一連の動きから、その取組み姿勢は評価して良いだろう。