国内起債市場を斬る 起債評価:5/18~5/22

この前の週で取り上げた起債の一つが、JR西日本の7本立て計1,900億円の募集であった。募集された年限が3年債から50年債まで幅広く、実質的に社債のもっとも短い年限から長い年限まで網羅したものであった。ここまで年限を分散させ、発行金額を積み上げた起債は珍しい。絞った年限で起債金額を稼いだ例は過去にも様々あったが、この起債は当面一つのベンチマーク的な存在となるだろう。

この週に早速、追随したかのように見える起債が、東京ガスによって募集された。追随したと言われるのは、東京ガスとしては不本意だろう。50年債の起債を早くにはじめた発行体は東京ガスであるし、超長期債を主体に複数年限にわたる起債を行うのは、同社のお得意芸だからである。JR西日本を意識して起債したものかもしれない。なお、東京ガスによる起債は、4本立て各100億円の計400億円であり、一つの年限でも募集できるような規模に留まっている。そもそも社債による資金調達は、利子の支払い等コストを要するものであり、負債によるレバレッジ効果はあるものの、不必要に負債比率を上げる必要はないだろう。しかも、R&Iの格付けを見ると、JR西日本のAA格に対し、東京ガスはAA+格と2ノッチ上で日本国債と同符号である。両社が競合を意識するまでもない。

東京ガスが今回起債したのは、10年債・30年債・40年債・50年債という組み合わせであり、なぜか20年債が年限から外れている。JR西日本と重なる年限の国債対比スプレッドを比較すると、10年債は+25.5bps対+24.5bps及び30年債とは+25bps対+24bpsと各々わずかの1bpタイトさに留まる。さらに、40年債は国債対比のスプレッドは+36bpsで同じであり、50年債は+50bps対+49bpsと同じく1ノッチのタイトである。決して格付けだけで信用力を評価すべきでなく、業種や企業の抱えるリスクを考慮して信用判断を行うべきであるが、ここまで前週に巨額の募集を行われたJR西日本債をタイトに買う必要があっただろうか。東京ガスの方が、発行金額が小さく入手は容易でななかったと思われるが、営業基盤とする地域の経済力を考えると、社債としての投資妙味があったのではなかろうか。

その他には、電力やガス、公共セクター以外で、ようやく事業債の募集が見られたことは心強い。募集されたのは、化学メーカーであるJSR(97年に日本合成ゴムから社名変更)の5年債130億円・7年債100億円・10年債120億円というオーソドックスな3本立ての起債である。募集金額も中央の年限を少なめにするという、一般的な金額配分であり、計350億円と過大な募集金額でもない。消費財メーカーではないために決して知名度は高くないが、合成ゴムや様々な樹脂、半導体関連の素材等の優良メーカーであって、格付けはAA-(R&I)格とJR西日本よりも高い。その一方で、10年債のクーポンが0.37%と同日募集された東京ガス債より13bps近く厚い。つまり実質的に、国債対比+37bps程度のスプレッドはあり、JR西日本の10年債よりも遥かに高いクーポンが付されたのである。起債そのものが20年ぶりということもあって、購入したかった投資家が多かったのではないか。

国内起債市場を斬る ステイホーム特別号②:ソフトバンクGの1-3月期1.4兆円赤字に思う

ようやく決算発表シーズンの峠を越え、起債市場は公的・電力・鉄道といった特定セクターのみから盛り上がりはじめている。中でも、まず、日本銀行の社債買入れオペの対象拡大を意識して、九州電力の3年債やJR西日本の3年債及び5年債といった起債が見られる。資本市場の活性化を意識し企業の資金繰りを支援するというのが日銀オペの拡充の趣旨だったはずだが、こういった公的に近い企業の社債買入れは政策意図と乖離した効果しかないだろう。何しろJR西日本の起債は、3年債から50年債まで計7年限で、総計1,900億円もの巨額の募集であった。こういった巨額の資金調達が可能な企業の社債に対して、資金繰り支援という主旨の日銀による買入れオペは馴染まなない。結局のところ、金融緩和の拡大は、コロナショックに対する支援になり難いという限界を露呈しているだけである。

相対的に公的関与の強い業態ばかりであるために、発行年限の超長期化は必然であろう。超長期年限の起債は、住宅金融支援機構の15年債150億円及び30年債500億円、中国電力の25年債100億円、四国電力の20年債100億円、JR西日本の20年債150億円・30年債150億円・40年債100億円・50年債200億円の計600億円とすべてを足し上げると、1,450億円にも上る。JR西日本の50年債だとクーポンは1.031%と高水準になるが、住宅金融支援機構の15年債だと0.342%と低い。どうせ売却する必要をあまり考えなくて良い銘柄群なのだから、バイアンドホールド前提で少しでも高いクーポンをと考える投資家もいるだろう。しかし、現在の金利水準で50年もの資金固定が、後世にどう評価されるだろうか。いずれにせよ、現在の投資担当者が50年債の償還時点まで在任していることはあり得ない。

こうした公的及び周辺セクターの起債によって、ゴールデンウィーク明けの起債市場は動きはじめている。しかし、18日の月曜日に発表されたソフトバンクグループの決算が、1兆4,381億円もの純損失となったことには必ず着目しておくべきだろう。誤解してはならないのが、携帯電話等通信事業を営むソフトバンク(今年の3月に社債発行)は同社の子会社であり、ソフトバンクグループは持株会社である。通信事業は総務省の認可事業であって、仮に経営状況が悪化しても、利用者のユーザビリティを考慮すると、サービス提供会社の破綻処理は考え難い。

一方で、投資会社である親会社に関しては、破綻処理が可能であるし、そもそも実質的に投資ファンドと化した持ち株会社に対する適切な信用力判断は容易でない。単純に現時点でのLTV(Life Time Value:注1)等指標を見るだけでは不十分であり、投資先のファンド等が順調に稼いでいるのか、新型コロナウイルス等経済変動の影響を受けていないか等素人投資家が外から投資判断のできるような先ではない。歴史的に見ても、買収や傘下企業の切出し等で財務構造の変化が著しく、普通社債の投資対象としては格付けのみで評価するべきではないし、適切な事業評価も容易でない企業体である。筆者は繰り返し述べているが、証券会社の営業に勧められて、同社の劣後債を購入するのは、崖から海に飛び込むような丁半博打と同様の投資であり、丁と出れば高利回りを得られるかもしれないが、半と出れば身の破滅となるようなものである。限りなく投機に近い投資対象と考えるべきである。

企業としてのソフトバンクグループは、創業者からの事業承継リスクも強く懸念されており、新型コロナウイルスの影響がどれくらい、いつまであるのかわからない中では、ますます警戒する必要のある発行体の一つである。自己資金で投資判断を行う個人投資家ならともかく、機関投資家が安易に手を出せるような銘柄ではない。
注1:LTVとは、ある特定の顧客が企業に対して、最初の接触時点から、関係性が継続する限りの期間に、企業が得られる収益の総額を算出する指標です。日本語では「顧客生涯価値」とも言うことがある。

国内起債市場を斬る ステイホーム特別号①:日本経済はコロナ危機から脱したのか

4月7日に発表された緊急事態宣言は、同月16日に対象を全都道府県へ拡大した上で、期限を5月31日まで延長している。可能であれば早期に解除される可能性が示唆されているものの、特定地域に指定されている大都市圏では、まだ解除が可能と思えるような状況にはない。その一方、新規感染者がしばらく発見されていない県が多く存在することも事実であり、今後、自粛や制限を緩和する方向へと徐々に動き始めているように見える。

一方、金融市場の動きはどうか。株価は1月下旬に高値を付けた後、新型コロナウイルスの世界的な蔓延と経済的なインパクトを受けて3月中旬に底値を付けている。その後の株価回復局面では、中国等での感染抑圧の成功というよりも、米欧日の中央銀行による金融緩和、特に、企業金融支援の動きが効果を持ったものと考えられる。しかし、このような金融政策による株価の下支えは、日本銀行によるETFの買増しといった極端な政策でなくとも、市場操作の一種であり決して経済のファンダメンタルズに立脚したものではない。つまり、株価が底打ちしたかのように見えるものの、ファンダメンタルズの悪化は、先週公表された米国の雇用統計に見られるように、これから明らかになってくるものが本番なのである。

コロナショックによる企業倒産の発生も、国内では旅館や小規模小売等で多少発生が見られる一方、海外では既に空運や百貨店等の大規模な企業の破綻が生じている。日本においてはロックダウンといった強権的な対策を講じることが出来なかったために、緊急事態宣言が予定通りに解除されても、すぐには以前のように経済活動を回復することは期待できない。当面は、様子を見ながら慎重に経済活動の再開を図る展開になるだろう。つまり、企業収益の回復にはまだ長期間が必要であり、金融相場を実現することで市場価格を押し上げている現状は、サステイナブルでない可能性が高いということなのである。クレジット市場と株式市場は爆弾を抱えているようなものである。こういう状態にある時には、慎重な企業及び環境分析に基づいた投資判断が必要であり、不必要に長期間の与信は避ける必要があるし、信用力に多少でも懸念のある企業への与信は極力避けるべきだということである。98~99当時のクレジット市場が崩壊した際、国内でも残存2‐3年の丸紅、伊藤忠、日商岩井の社債が、LIBOR+2000bp以上で取引されたことを、昨日のことの様に思い出す。年腐りかけた果物が一番甘いと言われるように、信用懸念の高まりはじめた企業に対する与信からは高利回りの獲得が期待できるものの、知名度の高さや過去の名声などだけに頼った与信行為は、すぐに大きなしっぺ返しを受けることになるだろう。

現在のようなもの環境が当面続くとみられる中では、ひたすらに慎重な投資判断が求められるし、「人の行く裏に道あり花の山」と見られるような好機はほとんどないと考えるべきである。今のこの瞬間は、ユニークな投資判断は足元を掬われる可能性が高い。海外企業が日本国内でサムライ債を募集するような状況も、自国内でのファイナンスが容易でないために、情報の非対称性を利用して、日本市場で資金調達を目指している可能性が高いのである。

コロナショックが実体経済に与える影響が顕在化するのは、これからが本番であり、少なくとも国会で家賃支援や大学生に対する給付等の追加経済対策が議論されている限り、まだ底を打った状況にはない。表面的な株価や金利、為替の水準に惑わされることなく、今こそ地に足の着いた投資判断が求められているのである。

(先週の配信は、GW中のため休刊いたしました。)

国内起債市場を斬る 起債評価:4/20~4/24

日本銀行は週明け27日に開催した金融政策決定会合において、CP及び社債買入れオペの増額と対象拡大を決定している。基本的には、企業に対する金融支援が目的であり、コロナショックによって収益性が低下しキャッシュフローの乏しくなった企業に対するものである。しかし、公募普通社債市場にアクセスできるような大企業及び優良企業については、例外的に追い込まれている企業を除いて、金融支援を必要とするものは少ないと思われる。新型コロナウイルスによる影響で大きく売り上げが低下している企業や収支構造が大幅に悪化している企業があるため、一概に効果を否定するものではないが、昨年度の起債市場を振り返っても、3月に起債した日本航空や膨大な有利子負債を抱えるソフトバンクグループなどの一部企業しか、目に見えるような恩恵には預かれないのではないか。

3月期決算の発表については、新型コロナウイルス蔓延の影響で後ろ倒しになる企業が見られる。実際に株主総会の開催延期を検討するという報道も見られ、今後、緊急事態宣言が解除されない場合を見据えると、例年とは異なるカレンダーで動く可能性も十分に考えられる。ところが、起債市場は例年のように新年度初めのスタートダッシュが終わり低迷期に入っているようである。全般的な起債環境としては、金融緩和の強化観測に対して企業業績の悪化懸念が綱引きを行っている状況であり、社債のクーポン水準は必ずしも上下一方に偏るものではない。ただし、緊急経済対策を受けた国債増発懸念も根強く、長期及び超長期の国債利回りはやや高めの水準となる日も見られる。因みにこの週の10年国債利回りは、概ね0%を挟んでの展開であった。

この週に民間企業が募集した社債で主軸となった年限は、10年と20年であった。列挙してみると、10年債を募集したのが清水建設、クラレ、三井不動産、大和ハウス工業、宇部興産、西日本鉄道といった顔触れであり、20年債を募集したのが三井不動産、大和ハウス工業、名古屋鉄道、西日本鉄道であった。つまり、20年債を募集した企業の多くは10年債と併せての募集であり、三井不動産と大和ハウス工業は3年債や5年債を含めた3本立ての起債であった。結局のところ、20年債を募集できる企業は鉄道等安定した経営基盤を有しているものか、三井不動産や大和ハウス工業のように業界でトップクラスのポジションを確立している企業に限られるような情勢である。

米国や欧州の中央銀行が金融緩和に転じたため、これらの国の国債への投資では、十分な利回りの確保が難しくなっている。ヘッジコストが低下しているとは言え、元の現地通貨建ての利回りが低下してしまっているために、高い投資妙味を期待できる状況ではない。日本国内の社債等でスプレッドが厚く、利回りの絶対水準が高いものには、投資家のニーズが集まりやすい傾向がある。日銀の金融緩和の強化とゴールデンウィーク期間中の海外情勢、更には、日本の緊急事態宣言解除の方向性を見据えつつ、慎重に投資判断を行う必要があるだろう。新型コロナウイルスの影響からほぼ脱したとされる中韓についても、更にようやく感染者・死者の増加が鈍化をはじめたかもしれない欧米においても、企業の破綻増加は確実視できる。日本国内に関しても、コロナショックによる破綻が見られはじめている。クレジット市場に関しては、やや楽観の雰囲気が強くなっているかもしれないが、今後のデフォルト続発懸念を否定するだけの材料はまだない。くれぐれも慎重に臨みたいところである。病状の急変は、個人だけでなく、企業においても見られるかもしれないが、企業向けPCR検査は、無いのだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/13~4/17

新型コロナウイルスの蔓延を受けた緊急事態宣言の影響が、資本市場にも色濃く出はじめている。既に宣言の対象が一部の都府県から全都道府県へと拡大され、不要不急の外出抑制や在宅勤務が推奨される中では、参加者が減少しており市場機能の低下は必至である。米FRBはシェール企業等に向けた信用供与を強化しているものの、ハイイールド債市場がほぼ存在しない日本においては、日本銀行の出番は金融機関に対する貸出促進くらいしかない(4月1日、米国の大手シェール企業ホワイティング社が、テキサス州南部地区の破産裁判所に「米連邦破産法11条」を申請し、ニューヨーク証券取引所の株式の取引を一時停止すると発表した事はご存じであろう。)。公募普通社債市場での資金調達に依存する日本企業はほぼ大企業のみであり、現状でもよほどでなければキャッシュフローの危機は迎えていないだろう。ただし、特定の業種や企業によっては、先行きに資金繰りの問題を迎えるかもしれない。例えば3月に社債を募集した日本航空は、多くの国際線がいつまで飛行停止継続となるか予想できない状態にあり、国内線も日本全土が緊急事態宣言の対象になった以上、当面の減便は当然の結果である。事態の悪化を予想せずに、日本航空債を利回りだけに惹かれて購入した投資家は、投資判断の姿勢が甘いと言わざるを得ない。実際には、20年債ですら0.7%クーポンしかなかったのであるから、今となっては割高な買い物であったと言えよう。

海外の多くの中央銀行は、金融緩和の強化によって企業破綻を防止する姿勢を取っているが、日本銀行は既にイールドカーブコントロールを導入しており、更なるマイナス金利の深掘りは収支況の悪化している地域金融機関にとって致命傷になりかねないため、打つ手が限られている。そのため、金利水準が下がらず、むしろ市場の不安定化を意識し利回りが高まる方向にある。この週に募集された東京電力パワーグリッド債のクーポンは、5年債600億円が0.75%、10年債700億円が1.2%、15年債500億円が1.45%という水準であった。約半年前に募集された同社による同年限の起債では、5年債700億円が0.58%、10年債700億円が0.98%、15年債600億円が1.28%であったことを考えると、利回りの顕著な上昇が確認できる。

同日に募集された東日本高速道路の10年債700億円は、0.225%クーポンであった。かつてはかぎりなく公的セクターに近い存在と考えられた東京電力債に対して、1%に近い大きな利回り格差が生じているのには感無量である。原発事故の処理に公的サポートが期待できることに加え、原油価格が大きく低下しているのにも関わらず、東京電力パワーグリッド債のクーポンが大きく上昇しているのである。政府が緊急経済対策として大規模な財政出動を用意しており、日本国債の信用力に対する懸念も高まりかねないが、ヘリコプターマネー等(政府が対価を取らず国債買い入れで財政資金を供給して大量の貨幣を市中に供給する究極の経済政策)貨幣量を増大できる政府が倒れる以前に、脆弱な民間企業の方が財務的な問題に直面すると見るべきであろう。現在の緊急事態宣言が1か月で解除されるのか、より延長されるかは誰にも予測できないが、解除は容易でなく、小売や運輸等の幾つかの業種には大きな信用圧力となる可能性が高いだろう。投資家は、現在の格付けや利回りの絶対水準だけを見るのではなく、発行体企業の将来的な帰趨を含めてより慎重な投資判断が求められる。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/6~4/10

前週の三菱UFJリース債に続いて、ようやく起債市場の動きが活発になってきた。年度や半期の初めというタイミングで動くのは、ノンバンク、電力、財投機関というのがこの時期お馴染みの顔触れであり、2020年度の最初も概ねそういった流れになっている。かつてとは異なって、メガバンクが四半期ごとに定例の起債を行うことは絶えて久しい。以前はベンチマーク債を目指すと豪語した銀行もあったが、その後のAT1債の取り扱いなどを見ると、銀行の社債は決して普通の事業債と同列には扱えないことがよくわかる(TLAC債の社債要項には、銀行が破綻した場合、バーゼルⅢで規定されている総自己資本、所謂普通株式等Tier1資本、AT1債、Tier2債の合計によっても吸収することができない損失については、TLAC債をもって吸収される旨が明記されている)。

新型コロナウイルス感染症が世界経済に与える影響を考えると、小売や運輸といった幾つかの特定セクターによる起債に対して慎重な投資家も少なくないが、事業基盤が安定していれば、どんなに今回の経済停滞が長引いても、その後の回復が期待できると考えられる。この週の起債の中では、JR東日本の5本計1,250億円の大型起債が象徴的である。3年債500億円の募集は日銀オペを意識したのか珍しく短期債であるが、それ以外は10年債から50年債へ10年刻みの募集である。同社の最近の起債では、20年債から40年債など10年刻みの募集が多かったので、違和感はない。3年債500億円さえ除けば、いつもの起債といったところだろうか。ただし、参照年限の国債がない50年債はレアである。

電力債は、既に東日本大震災と福島第一原発事故の影響から免れたようであるが、まだ、国債対比の利回りという意味では、同格付けの一般的な事業債よりスプレッドは乗っている。一般担保付の債券発行も経過措置で当面認められているため、相対的な投資妙味は高い。原発への依存度の高さ等から、かつての中央三電力とそれ以外の電力という序列は崩壊しており、個別の電力会社の置かれている状況が考慮される慣習になっている。当然、営業基盤となっている地域経済の強さや産業の状況による影響は強く反映され、また一方で、電力会社同士の横並び意識も根強い。この週でも中部電力と中国電力の10年債が同じクーポンとなっているのに、違和感を覚える市場参加者もあるだろう。

この週に募集された10年物社債のクーポンを比較してみると、JR東日本が0.265%で、中部電力と中国電力が0.35%、東北電力債が0.38%、北海道電力が0.44%、三菱地所が0.43%となっている。格付水準のみを見ると、三菱地所債の利回りが、中部および中国電力債と逆転しているが、財務上の特約がまったく付されていない裸の債券と一般担保特約付債券の差も影響していよう。現在の経済環境では、事業基盤の安定性が高く評価されているようである。3月中旬にJ-REIT価格が大きく上下動したことを考えると、市場関係者には不動産市況の先行きに対する懸念が少なからずあるように思える。短期的には、外国人投資家の見切り売りや地域金融機関の期末前の損切りであったとされる。しかし、根本的には人口減少の進む日本経済の将来像が不動産業の背景にあり、根強いとされる丸の内界隈のオフィス需要に対しても、緊急事態宣言前後から急速にテレワークが増えており、今後のビジネスモデルに対する悪影響と見直しすら懸念される状況である。

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐3

新年度の起債市場は、3日金曜日に三菱UFJリースが3年債と10年債を募集したのに加えて、投資法人債や地方債なども募集されている。しかし、三菱UFJリースも当初は5年債も募集するとしていたのが、慎重なスタンスから取りやめている。また、次週に条件決定を予定していた東プロも、7年債の募集を見送ることを決めている。株価の大きな上下変動のみならず、政府による緊急事態宣言の発表が予定される中では、本格的な起債市場のスタートにはなり難いかもしれない。例年のように、ノンバンクに続く発行体は電力だと思われるが、今後、既に上がっている起債観測のように、電力債の募集ができるのか注視しておきたい。

新型コロナウイルスが長期間にわたって蔓延した場合のクレジット市場に与える影響としては、まず、個別の脆弱な企業が破綻することが考えられる。既に、海外も含めて見ると、空運や小売でデフォルトが発生しているし、日本でも宿泊などでの破綻例が出ている。個別企業の破綻は、同業の中でもっとも脆弱な企業の破綻として現れる。自粛や都市封鎖等が長引けば長引くほど、影響を受けるの個別企業だけでなく、同業他社も含めた業種全体の問題となりかねない。これまでに挙げた業種については、問題の継続する期間が長引くかどうかや、政府等による適切な金融支援が行われるかどうかによって、波及する範囲が変わってくることだろう。

今回のコロナショックがクレジット市場に与える影響範囲は、ここまでに留まらない可能性がある。次の段階としては、金融危機の発生が考えられる。世界各国の中央銀行が必死になって金融緩和を強化しているのは、まず、低信用力企業を中心に脆弱な企業の破綻を回避する取組みであるが、特に、原油価格の下落によってシェール関連企業の財務内容が悪化しており、結果として、ハイイールド債やレバレッジローンで資金調達をしていた企業のクレジットが悪化することを懸念したものと思われる。当該企業の信用力悪化の影響は、プライベートデットやCLO等様々な形態で、日本の地域金融機関や企業年金の財務内容に波及する。個別の地域金融機関の経営問題だけであれば、日本の金融システムへの影響は軽微かもしれないが、地域金融機関は横並びの好きな業態であり、同種の病巣を多くの地域金融機関が抱えて抱えている可能性は高い。多くの地域金融機関の財務内容が悪化するならば、金融システム全般に対する不安が再燃してしまう。

そして、最悪のシナリオとしては、ソブリン危機に至る可能性も考えざるを得ない。自粛や都市封鎖、鎖国状態によって世界経済が沈滞しており、各国政府は大胆な財政出動を開始している。それは、刺激によって委縮した経済を再活性化するためのものであるが、税収確保等の結果が見られない場合には、財政赤字を拡大させ、財政状態の悪い国の信用力を大きく棄損する可能性がある。GDP対比で巨額な赤字を抱える日本の場合には、まだ債務の9割を日本国内の資金でファンディングしているために、格付符号が悪化したとしても、債務返済能力が極端に損なわれることはない。むしろ財政赤字の制約が厳しい欧州各国や、国家の政策総動員で感染者を封じ込めた極東の各国については、財政状態の悪化が心配である。IMFの介入するような状態にならないことを祈っておきたい。更に、原油価格の低下によるロシア経済の赤字拡大によって、ロシアのソブリン問題が再燃する可能性も懸念しておくべきだろう。

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大がどの範囲こまで及ぶのかは、人類の過去の経験では推し量ることができない。100年ほど前のスペイン風邪と同様に、グローバルに甚大な影響が及ぶようになっており、当時とは、世界中の情報や人、モノの移動・伝播速度は圧倒的に速くなっている。まだまだ明るい先行きが見えない中で、過度に鬱になるべきではないものの、慎重に事態の推移を見守る必要があるだろう。
(本稿終わり)

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐2

新型コロナウイルス感染の影響は、日を追って拡大している。異論はあるが、中国で最初に感染爆発が生じ、それが近隣の日韓に拡大した。前週末時点で中国の感染者は8万人強で、死者は3千人強とされている。日本では、武漢周辺からの帰還者や英国籍のクルーズ船乗客を除いて、決して感染者の発生は多くなかった。隣国の韓国では。宗教団体を中心にクラスター化及びスーパースプレッダー化したことなどから、感染者が1万人に近づいたが、死者は150人に満たない。韓国の感染拡大については、ピークを越えたようである。当初、東洋人や東洋料理店に対して「コロナ」差別を行っていたと報道され他人事と見ていた欧米では、遅れて感染が拡大することとなった。その欧州では、イタリアの感染者9万人弱・死者9千人を筆頭に、スペインで感染者6万人強・死者5千人、フランスで感染者3万人強死者2千人といった広範囲の感染となっている。英国皇太子及び首相の感染や、モナコ大公の感染は象徴的な事象である。対岸の火事と見ていた感のあるアメリカも、感染者は10万人を超え、死者は1,500人(3月26日現在)を超えている。既に中南米やアフリカでの感染も報告されており、世界的なパンデミックとなっている。日本はこれまで何とか感染爆発を抑えてきたが、大都市圏を中心として感染者の拡大や複数のクラスター発生が確認されている。

全世界で既に60万人が新型コロナウイルスに感染しており、拡大を抑止するため、各国によって人々の移動や生産活動が制限されている。東京で行われた週末の外出自粛などは可愛いもので、国によっては不必要な外出に対する刑事罰の適用すら行われている。こうした状況下では、当然、経済全般が停滞する。小売、サービス、運輸といった直接の影響を受け易い業種もあるが、従業員が生産工程に参加できないのであれば、メーカーにも大きな影響があるだろう。様々な企業への悪影響が長期に及ぶならば、雇用の減少から所得経由で消費に悪影響が及ぶのは必至であり、経済全般の停滞による影響を受けない業種はないと言って良いだろう。

それでなくても、2019から2020にかけては、景気循環による経済の停滞が予測されており、結果として、COVID-19が不況(場合によっては恐慌)のトリガーとなった可能性が高い。景気後退局面においては、信用力の劣る企業にまず影響が生じる。幸い日本にはハイイールド債市場が存在せず、代替機能を銀行等金融機関が担っているために、クレジット市場がすぐに機能不全となることは回避されるが、海外においては、経済活動の抑止が長引くに連れて、低信用力企業の破綻が多く生じることだろう。もっとも、信用力や業種の一般的な傾向とは別に、債務負担の大きな特定企業は信用力を大きく棄損することになるだろう。知名度のある大企業の破綻が引き起こされる可能性も、否定できない。

株価の大幅な上下変動は、必ずしも社債の価格変動とはリンクしないが、既にCDSは大きな値動きを示しているし、海外の一部社債銘柄では他にも理由があるものの、時価の大きく下落している例が見られる。これまでのところ金融市場そのものは、リーマンショック時のような機能不全には陥ってはいないが、これからの展開、特に都市の閉鎖や自粛がいつまで長引くかということが、大きなファクターになりそうである。何れにせよ、経済全般も金融市場も長期の非常事態に直面する厳しい状況に置かれていることになる。経済の実態と各国政府の施策を注意しておきたい。ただし、デフォルトが発生しない限り、債券は償還によって額面が返済されることを忘れてはならない。過度に悲観することは不要である。
(本稿続く)

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐1

2019年度内の起債市場の動きは、終了した。3月末に多くの企業が決算を迎えるためである。特に、金融セクターは投資家も引受証券も3月末決算を採用しており、具体的な起債の動きは停滞する。今年度末は、新型コロナウイルスによる肺炎の拡大による影響が色濃く市場に出始めている。特に顕著な影響が見られるのは株式市場であるが、日経平均株価も米ダウ平均も上下の値幅を拡大しながら、基本的に大きく値を下げている。これは、各国中央銀行の強力な金融緩和による株式市場のバブルが、新型コロナウイルスの蔓延によって経済のファンダメンタルズが受ける影響を懸念して崩壊したものとも考えられる。欧米の中央銀行は3月に入って金融緩和を強化し、日銀もETFの買入れを増額しているものの、株価の下落を防ぐことはできていない。こうした状況は、クレジット市場にも無関係ではない。

新型コロナウイルスの拡大による影響は、様々な経路からクレジット市場にも及ぶことになるだろう。一つには、端的に影響を受ける業種としては、収益低下から信用力の悪化が考えられる。まずは、各国が人と物の流れを遮断しているために、空運・海運といった運輸企業が大きなダメージを受ける。既に、737MAXのトラブル問題から経営悪化していた米ボーイング社は、政府に対して支援要請を行っている。また、他の国々でも航空会社の路線休止からレイオフや経営統合に向けた動きが見られており、さらに、LCCの経営危機や破綻も次々に表面化している。海運に関しては、これから徐々に影響が出て来ると思われる。少なくとも、クルーズ船については、プリンセス号に加えてナイル川クルーズでの感染者続出から、当面、大きく業績が損なわれることだろう。

次に、多くのサービス業が影響を受けるのは必至である。代表的なのは演劇、音楽等の興行系企業であるが、クラスター感染のポイントとなったスポーツクラブや接客業等は特に大きなダメージを受ける。社債発行企業は決して多くないが、期限の見えない自粛を求められることから受ける影響は甚大である。しかも、株価の全般的な下落に見られるように、経済全般が大きな影響を受けていることは否定できない。中でも、医薬品等の特定業種を除いて、消費全般が低迷している。生活必需品に関しては、状況に関わらず消費は継続するものの、奢侈品やレジャー系の消費は低迷する。外食産業の受ける影響も甚大である。企業による余剰人員の削減等の対応は進むが、その結果として所得が減少し、消費全般が低迷するという悪循環に陥るだろう。

このように、幾つかの特定業種だけのクレジットが悪影響を受けることから始まり、その影響がマクロ経済全般にまで及びかねない状況である。オリンピックの予定通りの開催可否は単なる象徴に過ぎず、日本だけでなく世界経済に対して新型コロナウイルスの与える影響は大きい。ファンダメンタルズの悪化に加え中央銀行の金融緩和強化もあって、金利の上昇を到底望める状況にはないのである。
(本稿続く)

国内起債市場を斬る 起債評価:3/9~3/13

今年度の起債としては、最終ステージと言える週となった。駆け込みの案件や、大型案件が見られ、例年特殊な事情や特徴のある案件が出て来る時期である。実際に募集された案件の中から幾つか挙げてみよう。

まず、大和証券グループ本社の二本立て永久劣後債である。期限前償還のタイミングで5年と10年の二つに分けられているが、NC5年債が1,250億円でNC10年債が250億円と合計で1,500億円の大型起債である。いわゆるAT1債であり、Tier1に算入される。格付けはBBB+(JCR)格と高くないが、ファーストコールまでのクーポンは1.2%と1.39%であり、通常の社債では得られないような高水準である。魅力的な購入対象と考える投資家も少なくないが、大和証券グループの将来を考えた際に、懸念なしとは言えない。特定の大手銀行、大手外銀グループとのパイプを有しない独立系の位置づけは、野村證券と同様である。しかし、今や「債券の大和」「国際部の大和」のプレゼンスは、野村ほど見られず、脅威を感じるようなグループの展開網はない。大手証券の一角を維持しているものの、経営陣の人選が法人部門にバイアスがかかっている同社には、将来的に経営戦略上の懸念は残る。今月に入っても、経営危機を意識されているドイツ銀行がAT1債の期限前償還をスキップしており、同様の手段をとる可能性がないとは言えない。この劣後債についても、投資家が十分にコールされないリスクを意識して購入したか、興味深いところである。

次に、三井不動産は、15年債300億円・30年債100億円・50年債100億円の超長期債計500億円を募集している。中でも50年債は、対照年限の国債が存在しない中での募集であり、過去に三菱地所、東日本旅客鉄道、大阪瓦斯、東京メトロと4社の発行事例があるものの、三井不動産という会社の安定性は、やや先行4社に劣る。しかも1.03%のクーポンで絶対水準を確保したとされるが、わずかな1%越えでは投資妙味があると言い難いのではなかろうか。

続いて、ソフトバンクは3年債・5年債・7年債・10年債の4年限で各100億円を募集している。ほぼ投資会社と化した親会社とは異なって、携帯電話等を中心とした通信会社であり、現在の事業の安定性は高い。しかも、ソフトバンクグループの社債と異なって、100億円×4本と小額の分散発行である。機関投資家は、十分に投資価値があると判断したことだろう。

最後に挙げるのは、日本航空の3年債及び20年債各100億円である。3年債は日本銀行のオペで買入対象となることが期待できる。しかし、その一方で、新型コロナウイルスの世界的な蔓延で航空ビジネスに甚大な影響の発生が確実視される中での社債募集は、投資家軽視と批判されても仕方ないだろう。既にイギリスではLCCが倒産しており、他の国々でも航空会社が大幅に路線減を強いられ経営危機が意識されている。欧州諸国で国境を閉鎖したり、アメリカが欧州からの渡航を遮断するといった動きが見えており、人と物の動きが止められているため、空運ビジネスに与える影響は軽々なものではないし、まだ、十分に見通すことが出来ない。日本からの流入に対して制限を科したり受け入れを拒否している国は、既に50を超えている。このタイミングでの空運会社の社債募集は、不適切であると言っても過言ではない。