国内起債市場を斬る 起債評価:10/12~10/16

下半期入りしたとたんに賑わった起債市場は徐々に落ち着きを見せはじめている。それでも16日の金曜を中心とした週後半には、条件決定が相次いでいる。この週の特徴としては、銀行持株会社の劣後債と、新顔の登場といったところだろうか。

銀行持株会社の劣後債としては、まず、火曜日の13日に三菱UFJフィナンシャルグループが永久劣後債を2本募集している。早期償還可能なタイミングが、5年3か月後のものを230億円で、10年3か月後のものは370億円と、計600億円の募集である。格付けはR&I及びJCRのA-格で決して高格付けとは言えないが、将来的にメガバンクが破綻するとは考え難く、早期償還を確実だと考えるならば、前者で0.851%、後者で1.038%クーポンという水準は十分に魅力的である。
次に、翌14日の水曜日に条件決定したのは、みずほフィナンシャルグループの10年物個人向け期限付き劣後債である。シンプルな10年債は0.875%クーポンで630億円、当初5年で期限前償還可能なものは当初0.56%クーポンで740億円の計1,370億円が条件決定されている。期限付き劣後債であるため永久劣後債ほど格付けは引き下げられず、R&I及びJCRからA+格を取得している。期限前償還を前提とした5年債と考えるならば、ブレットの10年債ともども機関投資家でも手を出したい水準なのではないか。

新顔の登場としては、まず三井住友建設の5年債である。三井建設と住友建設が2003年に統合して設立されたゼネコンであるが、位置づけは準大手に過ぎない。JCRでA-格という評価からも積極的な投資対象とはし難いかもしれない。
続いて、東京臨海高速鉄道が10年債100億円を募集している。お台場地区に繋がる「りんかい線」の運営会社である。東京都が9割以上の株式を保有してる第三セクター会社であるが、鉄道の運営は実質的にJR東日本と一体化され埼京線の電車が乗り入れている。もっとも運賃は別計算であるために、割高感は否めない。コミケ等お台場でのイベントや通勤時には、多くの人が蛇行して時間を要するゆりかもめでなく、りんかい線を選択する可能性は高いが。
最後の新顔はJERAで、中部電力と東京電力フュエル&パワーが半分ずつ出資する火力発電等の会社である。既存電力債と異なり一般担保付の社債を発行できないが、5年債と10年債各200億円を募集している。結局のところ、中部電力及び東京電力と事業を切離すことができないため、両社の信用力の影響を受けざるを得ないと考えられる。JERAの格付けはR&IのA+格及びJCRのAA-格を取得しており、東京電力ホールディングスの格付けがR&IでBBB+格、JCRでA格であり、中部電力の格付けがR&IでA+格、JCRでAA格という水準から見ると、必ずしも高い方に寄せているものではない。なお、JERAは2020年のプロ野球セントラルリーグに特別協賛し冠スポンサーとなっており、知名度の向上に役立ったものと思われる。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/5~10/9

10月の第2週も、9日金曜日への案件集中が著しい。しかも、500億円を越える大規模の案件が複数あり、起債市場は活況を呈しているかのように見える。しかし、大型案件のうちでも、JR東日本の3年債1,000億円などは、日銀による社債買入れオペ見合いの募集であり、投資家の保有対象ではない。結局のところ、引受証券の実績作りと鞘取り目的の一部投資家(更には、日本銀行の金融政策への貢献)のための起債だから、本来的な投資に繋がらない起債市場の虚しさは強まるばかりである。このような環境の中でも、この週の起債で幾つかトピカルなものが目立ったので、概説しておこう。

まず、五洋建設の3年債及び5年債で後者のみがグリーンボンド認定を得ているなど、複数年限での債券募集のうち、一部のみがグリーンボンドやソーシャルボンドであるという案件が見られた。アサヒグループホールディングスは、普通の3年債と5年のグリーンボンド、60年の早期償還可能劣後債の組み合わせで募集した。住宅金融支援機構も5年債は通常の起債であるのに対し、10年債及び20年債はグリーンボンド認定を得ている。お金に色がない以上調達した資金に境目はなく、このような起債を行った発行体は、認定を得た当該債券の償還まで適正に調達資金を利用していることを、投資家に対して報告を続ける義務があると考えるべきなのではなかろうか。一方、中国銀行の劣後債やトヨタファイナンスの5年債は単独で認定を得ており、住友倉庫の3年債及び5年債は揃って認定を得ている。

SDGs関連では、ヒューリックの10年債がサステナビリティリンクボンドとして募集されている。当初のクーポンが0.44%に設定されており、2026年8月末に予め宣言した基準を達成できていない場合には、クーポンが0.54%にステップアップし、達成している場合には0.44%クーポンを償還まで維持するというものである。過去には、日本企業のユーロ円債で、格付けの低下や支配株主の変更といった要因でクーポンが上昇する債券を募集した例はあるが、国内公募でサステナビリティを基準としクーポンが変動する債券は初めてである。面白い取り組みであり、あくまでも基準未達でクーポンは上がり、下がることはないので、投資家の判断は比較的容易であろう。もっとも、今回の基準設定内容は不動産業を営む発行体に馴染むものではあるが、現状で10年の与信が適切な先であるか疑問がないとはしない。

次に、九州電力が最終償還60年で、早期償還可能のタイミングが5年債700億円、同じく7年債300億円、10年債1,000億円と計2,000億円の大型の劣後債を募集している。事業会社による劣後債の募集は既に珍しくなくなっているが、事業債の場合には無担保社債対比で劣後する社債であり、電力債の場合には元々募集されているのが一般担保付社債である。つまり、発行体の全資産が既に電力債の担保となっており、実質的に社債権者は先取特権を持つのと同様の効果を期待することが可能である。結果として、事業債は無担保の金融機関借入と同順位なのに対し、一般担保付電力債は無担保の借入等に優先する。その結果、電力会社の発行する劣後債は、回収可能性が電力債対比で著しく劣ることに留意しておく必要がある。

最後に、以前にも触れた東京大学債である。結局、40年債200億円が0.823%クーポンで、ソーシャルボンドの認定を得て募集された。同大学の位置付け等を考えると違和感はないし、AA+(R&I)及びAAA(JCR)という日本国債と同符号の格付評価も頷けるものである。しかも、国債対比では+18bpsの上乗せがあるのだから、実質的に財投機関債並みの存在と考えて良いだろう。高い信用力の源泉は、東京大学の債券だからということなのか、国立大学法人の債券だからということなのか。前者はプラス要素であるものの、本質は後者であろう。頭の体操をしてみると、京都大学や一橋大学でも、更には、帯広畜産大学でも同じように考えられるだろうか。なお、財投機関と同様に、国立大学法人も経営困難になった場合には破綻処理ではなく、別の法人と統合して救済されることが確実視できるだろう。経営破綻でなくとも2007年に大阪外国語大学は大阪大学に統合されているし、同様の国立大学法人の統合は単科大学を中心に珍しくない。統合による救済を所与とするならば、すべての国立大学法人の信用力を日本国債と同程度と見て良いのだろうか。なかなか難しい問題である。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/28~10/2

下期入りを待っていたかのように、複数の社債等が募集された。ちょうど1年前にあたる時期の社債等の募集を見てみよう。本年はうるう年であったため、2019年の同時期は10月3日が木曜日、4日が金曜日であった。昨年の木曜に募集されたのは、阪神高速道路・電源開発・ジャックス・東京電力パワーグリッド・クレディセゾンの5社であり、金曜に募集されたのが中国電力・ソニー・セガサミーホールディングス・リコーリース・首都高速道路・ダイキン工業・日本政策投資銀行・ニッコンホールディングス・新生銀行・北海道電力・住宅金融支援機構と既にプチ起債ラッシュとも見える状況になっている。

2020年は10月1日が木曜であり、昨年ほど2日の金曜に起債が集中することはなかったが、10月に入った二日間で募集されたのは、みずほリース・阪神高速道路・首都高速道路・東京電力パワーグリッド・クレディセゾンの計5社である。昨年の同時期と比較してみると、社債募集が重なっていないのは、みずほリースのみであって、他の4社は同様に下期入りした瞬間とも言える10月最初に社債を募集している。こうした発行体の癖というか傾向を見ておくと社債等の募集タイミングを予測することが可能になる。

昨年の起債内容と比較してみよう。阪神高速道路は2019年が1年債550億円に対し、2020年は4年債350億円を募集している。1年債はレアな募集年限である。なお、前年の1年債からソーシャルボンドの認定を得ており、2月の前回は3年債と、徐々にソーシャルボンドによる調達年限を伸ばしている。一方の首都高速道路は2019年の5年債400億円と発行額は大きく変えず、5年債を360億円募集している。前年のクーポン0.03%に対し、今年のクーポンは0.07%と水準が異なる。利息が倍返しになったと考えるか、わずかに4bps増えたと考えるか、投資家の印象も其々であろう。

東京電力パワーグリッドは、前年が5年債700億円・10年債700億円・15年債600億円の計2,000億円であったが、今年は6年債500億円及び12年500億円の計1,000億円と募集額を半減している。年限の設定は、償還年限の分散を図ったものと考えられるが、昨年の10年債は0.98%クーポンであり15年債は1.28%クーポンであった。両者を足して2で割ると1.13%になり、今回の12年債のクーポンと一致する。絶対金利水準で募集するのが同社の社債募集の常であるが、意外にも、こういう簡単な決まり方をしているのかもしれない。

クレディセゾンは2019年に7年債100億円を募集したのに対し、今年は10年債100億円を募集している。クーポンは0.23%から0.4%に上昇しているが、年限延長から当然の結果であろう。

国内起債市場を斬る 2020年度上期末特別号:コロナ禍上期の起債の特徴

今年度上期の起債市場の特徴を三つほど挙げてみよう。今年に入ってからの世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大で、前年度末に株価は大きく下落しただけでなく、クレジット市場でのデフォルト懸念を意識せざるを得ない状況となっていた。結局、日本では社債発行企業が破綻するようなことはなかったものの、海外では経済活動の自粛によって影響を受けやすい業態で上場企業を含めた倒産事例が複数発生していた。ところが、各国政府の経済的な支援策と中央銀行による金融緩和の強化で、株価水準は急速に回復した。一方、金利の面では、各国の財政赤字に対する懸念が高まり、特に超長期の金利水準に底堅さが見られるようになった。手前の短期金利はより低く、国によってはマイナスになっているのに、超長期年限の金利はそれほど下がらないツイスト傾向にとなったのである。

特徴の一つは、日銀による社債買入れの年限拡大による影響である。日銀は従来から残存3年以内の社債を買入れていたのであるが、対象を5年以内に拡大した。その結果、起債市場で3年債と5年債を併用する起債が顕著に増えたのである。新発債もすぐに買い入れ対象になるのだから、通常の債券投資で利回りの稼げない投資家も、購入後、節操なく証券会社経由で日銀オペに入れ差益を稼ぐ短期売買として取組むスタンスが目立ったのである。70年代で言う所謂「サヤトリ商い」「ツモ切り」であり、トレーダーの世界では、下劣な行為とされていた取引である。5年債そのものは従来から起債市場における基軸年限の一つであるが、日銀オペで復権した3年債と同様の使われ方が目立ってしまった。利付国債の発行残高の4割以上を購入し市場の価格法顕機能を損なってしまったのと同様に、中央銀行の金融緩和オペレーションによる副作用の一つと考えて良いだろう。

二つ目の特徴は、グリーンボンド等SDGs債の募集拡大である。決して割高に発行されるグリーンプレミアムは確認されないのであるが、ESGやサステナビリティを意識した投資が求められる風潮の中で、投資家の姿勢を端的に示すために好適な投資対象として活用された。米国では、ESGと受託者責任の優先順位について議論があるが、日本においては、利回りの確保という最大の受託者責任を無視してまでESG投資に注力すべきという情勢にはない。どんなにESG投資に取り組んでも、必要な運用利回りを獲得できなければ、運用者は責任を取らざるを得ない。一方、結局のところ、お金に色はないのだから、発行体全体としてのSDGsを追求しなければ、部分的なSDGsへの取組みは、掛け声倒れの画餅に帰するのではないか。

三つ目の特徴としては、相変わらずの事業会社による劣後債の募集である。通常の社債では利回りを得られない投資家が得られる高利回りのメリットと、格付会社に資本性を認定してもらえる発行体の自己資本拡充メリットと、更には、引受証券にとっても高めの引受手数料と引受実績を得られるのであるから、三方一両得の構造にある。しかし、こうした幸せな状態も、当該債券のデフォルトや利払い繰り延べが生じず、予定通りに期限前償還が実行されるのであれば、という限定条件が付される。ハイブリッド証券という欺瞞のラベルではなく、劣後債として正面から証券特性を見つめるべきである。劣後ローン等の借換え等に際して、既に格付会社から資本性認定に関して疑問視する指摘は見られており、適正な募集活動と条件設定、期待通りの発行後運営がなければ、事業会社の劣後債という商品類型そのものが市場参加者から見放される可能性は残る

国内起債市場を斬る 起債評価:9/14~9/18

上半期の社債募集は、実質的に秋分の日と敬老の日が連なった4連休の前までとなる。既に起債ラッシュのピークは11日の金曜日に迎えていたが、その後も、この半期の実質最後となる社債等が募集されている。

本数という意味では、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が多く、それらは金額の総計でも440億円であるから決して金額面でも小さくない。単体でもっとも金額が大きかったのは、ニプロによる35年劣後債の500億円である。技術の高さに定評のある医療機器等のメーカーであるが、5年後に期限前償還が可能となる劣後債であり、取得した格付けはR&IのBBB-格とJCRのBBB格で、いわゆる投資適格の下限近くに位置付けられる。ソーシャルボンドの認定も得ているのだが、投資家が投げ売りをはじめるまでの格下げの残り幅が1ノッチしかなく、投資家としてはなかなか手が出し難い水準にある。医療機器と医薬品という同社事業の主力セクターは、新型コロナウイルス等感染症への対応も含む重要な機能を担っているのであるが、医療関連は信用リスクの振れ幅が大きく、医療過誤や巨額の開発投資負担等を賄えるかどうかが懸念される。今回の劣後債にしても、当初クーポンの1.6%という水準に象徴されるように、当初5年で確実に償還されるのであれば、面白い投資対象であるが、早期償還されず残りの30年を6か月ユーロ円ライボーレート+265bpsの変動利付で与信を継続することになった場合、果たしてそれは魅力的な投資になるのだろうか。

イオンモールが募集した5年債200億円及び7年債100億円は、サステナビリティボンドの認定を得ている。資金使途は、新型コロナウイルス対策・東日本震災復興支援・海外モール建設・国内モール建設とされている。サステナビリティボンドを認定したセカンドオピニオンは、社債に格付けを付したR&Iから同じく得ており、R&Iの内部において信用格付けと分離した評価になっているが、外部から見た両者の付与に対する疑念は残る。サステナビリティボンド等のセカンドオピニオンは、信用格付けと異なるエンティティから取得するのが望ましいだろう。サステナビリティボンドを認定したプロジェクト等がガイドラインに適合していると認定しているが、ショッピングモールの建設に際して環境に配慮するのは既に当然のこととなりつつあり、東日本震災復興支援といっても被災地域に出店するというだけであって、あくまでも経済合理性の観点から行われている。実質的に普通の社債と何ら異ならないようにも見え、サステナビリティボンドとして投資表明を行っている投資家のスタンスが疑われかねない。所詮は、言った者勝ちのように見られてしまうのが、現在の残念な取組みの状況である。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/7~9/11

2020年度上期末の起債ラッシュは、11日(金)がピークであったと言うことになるだろう。既に8日の火曜日以降、条件決定を迎える銘柄は多く、公共セクターにグリーンボンドや劣後債といったテーマ型の起債も含め、「百花繚乱」と言ったところだろう。

この週の起債の一つの特徴は、鉄道銘柄だろう。まず、8日にJR東海が3年債1,000億円を募集している。定番の3年債で金額を稼ぐというところであるが、リニア新幹線の建設難航や南海トラフ等の震災懸念を考えると、3年という短めの起債が適しているのかもしれない。つづいて、京阪ホールディングスが3年債と5年債及び10年債を各100億円募集している。関西の私鉄の中では、イメージ負けしている発行体であるが、現在の本線運行の両端駅を見ても出町柳(1925年開業)や中之島(旧玉江橋駅)といった昔と異なる駅名が見られるように、路線の拡大と変化が見られ、七条京阪とJR京都駅の間にシャトルバスを運行するなど、経営努力を怠っていない。中韓等アジア圏からの旅客にあまり依存していたとは思えないこともあって、堅実な経営を続けてもらいたいものである。横浜高速鉄道は10年債を80億円募集している。いわゆるMM21線の運営会社であり、東急東横線が乗り入れる横浜駅から元町・中華街駅までの路線である。基本的に東横線と一体運営されているために、乗り入れているという感覚は乏しい。同社はみなとみらい線の他に、こどもの国線も保有している。最後に、登場するのが東京地下鉄である。最近のJRやガスの起債でしばしば見られる10年刻みの複数年限募集であり、今回は10年債・30年債・40年債・50年債が各100億円募集された。超長期の安定した経営が期待できる公共セクターでは、こういった起債運営も悪くないだろう。

相変わらずグリーンボンドやソーシャルボンドとして投資家を誘引する起債も少なからず見られるが、今週のもう一つの特徴としては、レア物の続出を挙げておきたい。いわゆるフリークエントイシュアーではなく、稀にしか募集しない社債発行体が複数見られたのである。朝日放送グループホールディングスは第2回7年債50億円を募集している。センコーグループホールディングスは第5回5年債(グリーンボンド)及び第6回10年債を各100億円募集している。キッツは第5回10年債100億円を募集し、ニッコンホールディングスは第8回4年債及び第9回10年債を各100億円募集している。ここまでの銘柄は、格付けが国内会社のA-格からA格といった水準である。R&IからAA格を取得しているきたい花王の第6回5年債250億円も珍しいと言って良いだろう。案件が多く募集される時は、フリークエントイシュアーは投資家に良く知られていて有利な面もあるが、起債頻度の多さに敬遠される可能性もあって、こうしたレア物こそが注目を集めることも期待できる。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/31~9/4

いよいよ上期末の起債ラッシュを迎える。特に、金曜日となった9月4日に募集が集中するのは近年の顕著な傾向であり、市場関係者の大変さは想像に難くないが、上期を計画通りに消化しようとする努力が、発行体からも投資家からも引受証券からも伝わって来る。この2週間強のラッシュ期間を過ぎれば、短いながら閑散期となるはずである。

この週の起債の特徴を幾つか挙げてみよう。まずは、銀行セクターの起債である。あおぞら銀行の3年債、三井住友フィナンシャルグループの永久劣後債と、短期と超長期の両極が募集されている。もっとも永久劣後債は、10年4か月経過時の期限前償還が可能である。歴史的には、日本の銀行持株会社が国内発行した劣後債で、期限前償還しなかった例はない。実質的に10年4か月債と見ても良く、当初10年4か月のクーポンは1.109%と高い水準である。万一期限前償還されなくても、5年国債利回り+105bpsの変動利付クーポンは十分に魅力的と映る。よもやメガバンクの一角が期限前償還をスキップしたり、劣後事由に該当するような事態は生じないと期待されるのであるが。

次は、やはり電力及びガスの公益セクターによる社債だろう。北海道電力の3年債と25年債、中部電力の10年債、中国電力の20年債、北陸電力の10年債に15年債といった多くの電力債に加えて、東京ガスが10年債・30年債・40年債・50年債で計400億円を募集し、大阪ガスは60年劣後債を期限前償還可能期の異なる2本で計750億円募集している。電気もガスも小売りの自由化がされているとは言え、日常生活に欠かせないインフラのプロバイダーであって、いずれも長期的な事業の安定性は高いものと期待される。

劣後債という意味では、他に、大日本住友製薬も30年で期限前償還が7年と10年でかのうになる債券を、各600億円募集している。劣後債の格付けはBBB+(R&I)格であり、必ずしも高水準ではないが、当初のクーポンは1.39%ないし1.55%と魅力的な利率になっている。BBB+格の通常の長期債に投資するかと尋ねられれば、鉄道とか安定業種ならば考えるといったところだろう。変動の大きな製薬で期限前償還ですら7年や10年といった期間が設定されており、ましてや30年債となった場合にはどうであろうか。

その他に目立つのは、芙蓉総合リース、ホンダファイナンス、住友三井オートサービスといったノンバンクによる社債、また、戸田建設、清水建設、前田建設工業といった建設会社による起債も相次いでいる。戸田建設の10年債はグリーンボンドであり、他にも、都市再生機構の20年債・30年債・40年債がソーシャルボンドとなっている。なお、ホンダファイナンスと住友三井オートサービスは、両社とも3年債及び5年債を募集しており、5年債のみがいずれもグリーンボンドの認定を受けている。金に色が付けられず厳密な区分が出来ない以上、ノンバンクの起債で一部だけグリーンボンドというのは、眉唾物と考えて良いだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/24~8/28

上期の起債募集は例年9月の中旬までであり、もう残り一か月を切っている。まだ起債ラッシュという感じではなかいが、徐々に盛り上がりが見えはじめている。この週に最初に募集されたのは、奇しくも鉄道関連からであった。名古屋鉄道の3年債200億円は、日銀オペ見合いと考えれば、実態を伴ったものではないかもしれない。しかし、同日に京成電鉄が募集したのは、3年債100億円以外に、10年債100億円と20年債100億円である。鉄道事業の時間軸から考えると、JR東日本や西日本で見られるような10年刻みの超長期債というのが馴染むものの、純粋の民間鉄道会社の場合には、周辺の経済情勢と見通しを考えた場合に、必ずしも30年や40年といった超長期の与信に躊躇させられることもある。京成電鉄の場合には、東京東部から千葉方面の安定した運送を担う一方、成田国際空港へのアクセス提供者でもある、前者には根強い需要があると考えられるが、後者に関しては今回の新型コロナウイルス感染症の拡大で脆弱な需要に則ったものであることが露呈した。特効薬やワクチンの開発によってある程度の国際線需要は戻ると期待されるものの、以前のようには戻らないと想定されるし、より都心に近い羽田空港の増便を考慮すると、LCC依存を高めた成田空港の将来は決して明るくない。結果として、京成電鉄の超長期債には、一抹の不安が残ると言わざるを得ない。その後、近鉄グループホールディングスも3年債と5年債の中期債を募集しており、鉄道関連だけで計800億円の起債となる。

次に動いたのが、銀行持株会社の劣後債である。と言っても、メガバンクではないし、事業会社の劣後債は9月に入ってから複数の動きが予定されているようだ。募集されたのは、三井住友トラストホールディングスと地銀の雄であるコンコルディアホールディングスの期限付き10年劣後債である。いずれも5年で期限前償還が可能となる伝統的な形であるが、変動利付となった後のステップアップ幅は大きくない。三井住友トラストホールディングスが条件決定した計400億円のうち300億円は個人投資家向けである。よもや金融機関の債券が個人投資家に実損を及ぼすことはないと期待されるのであるが、果たして5年後時点での未来像はどうだろうか。金利水準に変化がなければ、5年ものスワップレート+0.45%という変動金利は十分に魅力的であり、個人投資家は期限前償還しない方が良いと感じるだろう。

最後に、レノバとプレミアムウォーターホールディングスの二社が初の公募普通社債を募集している。格付けは前者がJCRのBBB格で、後者がR&IのBBB-格である。いわば、投資適格ギリギリの初顔と言って良いだろう。その結果、前者の5年債が1%クーポン、7年債が1.39%クーポン、後者の3年債が1.8%クーポンと他の銘柄であれば見ることのできないような高利回り債券となっている。募集金額も50億円から70億円と小額であるが、慣れない投資家にはなかなか受け入れ難い銘柄だったのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/17~8/21

起債市場は旧盆の休みを越えたものの、まだ募集される債券は公的セクターが主体である。しかし、上期末に向けた民間企業の起債準備も徐々に進んでいるようだ。特に、劣後債やグリーンボンド等SDGs債の募集を準備しているという話は少なからず伝わって来ている。通常の一般的な優先債と異なる特性を持つために、ニュースのネタになり易いために報道されることは多くなるのであるが、発行体の裾野拡大と同時に投資対象の多様化という意味では評価して良いだろう。

しかし、いずれにせよ通常の一般優先債と異なる証券特性を有していることに十分留意した上で評価を行い、投資判断を行うことが必要である。特に、劣後債で期限前償還可能タイミングに償還されず変動利付債となった場合、ユーロ円ライボー連動となるようなスキームの場合には、ライボーの後継指標金利の行く末を意識する必要がある。それでなくとも優先債の証券情報・発行要項よりも複雑な債券の内容を確認するのには、骨が折れる。それでも、十分な吟味が必要であることを忘れてはならない。

民間企業の社債としては、西日本旅客鉄道が5本立て計1,100億円という大型の募集を行っている。最近の同社及びJR東日本等で見られる年限選定の形であるが、今回は10年刻みの複数年限のみを募集するという形式である。今回選択されたのは、10年債・20年債・30年債・40年債に50年債という組み合わせで、40年債のみ300億円であるが、他は200億円ずつの募集とされた。JRの安定した経営基盤に対する評価はあるものの、近年の地震や豪雨災害等による被害もあって、必ずしも順風満帆な経営状態ではない。一方で、JR東海のようにリニア新幹線の建設負担といった重荷もないことから、R&IによるAA格という評価は妥当であろう。10年刻みの年限設定は、50年債こそ同年限の参照国債が存在しないものの、それ以外は国債発行年限と一致させており、国債対比の評価は難しくない。

難しいのは、数十年に渡る同社の経営環境に対する見通しか。鉄道事業そのものが陳腐化してしまう可能性や、人口の減少による運営コストの高止まり等懸念材料は少なからず存在する。一方で、同社が破綻するような運賃設定は国土交通省の認可を得られるはずもなく、地域住民の利便性確保とのバランスが要求されることになる。収益性が後回しになり経営状況の悪化した国鉄と同じ道を歩まないための民営化であり、上場企業に対してどこまで公益性を意識させるかという問題が常に付きまとう。果たして地方の赤字路線を何処まで切り捨てられるのか。株式未上場のJR北海道やJR四国の方が先行して収支の悪化が必至であるものの、それらをJR東日本やJR西日本に単純に統合して救済するようであれば、旧国鉄への先祖返りでしかなく、問題の先送りでしかない。日本の人口減少は、一部を除く地方から深刻になり、大都市圏にまで及ぶことは間違いなく、クレジット投資に当たっては償還までの十分に長い目線が求められるのである。

国内起債市場を斬る 夏季特別号:投資対象としての国立大学債

国債以外のいわゆる一般債を投資対象として考える際に、民間企業の発行する社債とそれ以外の公共セクターの債券に分けて考えることが一般的である。公共債と呼んでしまうと国債も含むため、公共セクターの債券と称してみたが、近いうちに新しい公共セクターの債券募集が行われる可能性がある。

公共セクターの債券が社債と大きく区別される点としては、まず、発行体が営利目的の法人であるかどうかであり、もう一つが倒産処理や政府等によるサポートの程度であろう。純粋な民間企業が発行体である社債であれば、企業は営利目的の法人であり、社債の募集は設備等の投資や債務の借り換え等が調達目的であり、相対的に機動性の低い社債で資金繰りを図ることは考え難い。社債の発行企業が破綻した場合には、多くは民事再生や会社更生等の手続きを経ることになるが、金融機関や一部の運送会社、電力会社等に対しては破綻前から後に公的サポートの行われる可能性が高い。破綻処理が行われた場合に国民生活に及ぼす影響の大きさや、料金や事業に対しての認可等公的関与の大きさによって、公的サポートの要否が判断されるのが過去の事例である。単純な破綻処理が行われない企業の社債には、少なからず公共性があると考えることが出来る。

一方、営利を目的としない公共セクターの発行する債券は、社債ですらない可能性が高いし、事業の継続が困難となったとしても単純な破綻処理となる可能性は高くない。むしろ公的サポートが行われ、法人に対する支援や統合によって債務を守る可能性が高い。そもそもが営利を目的としない発行体が債券を募集するということは、損益に基づく事業判断には関係ないし、資金繰りで返済が困難に陥ることは想定されないのである。

今年度中にも債券の募集が予定される国立大学法人債の位置づけを考えると、発行体は非営利法人であり、教職員が準公務員的存在とされるなど、公的性格が強い。収益性の追求は求められないために、むしろ公的サポートの程度を予想することが債券の償還可能性を左右するものと考えられる。国立大学法人の場合には、文部科学省の管轄下にあって営利を追求せず、官僚になるかどうかを問わない学生の教育、必ずしも営利を目的としない研究、様々な政策検討場面への支援を行っている。十分に公共性が高い。財投機関債を募集する独立行政法人の一部には、営利性を伴う事業を営む法人もあるが、公共的役割や公的サポートから市場で違和感もなく受け入れられており、国立大学法人債も同様に受け入れられるだろう。

国立大学法人債の信用力としては、既に格付けの取得が発表されている東京大学の場合には、R&IのAA+格及びJCRのAAA格と日本国債と同じ符号が付されている。近年は大学法人や学校法人の合併、買収も見られていることから、債券の破綻処理が行われる可能性は低いと考えて良いだろう。他の国立大学法人についても、債券の募集を追随するかもしれない。更なる将来を考えると、民間の学校法人が債券を募集することはあるだろうか。在校生の保護者等に対する「学債」の募集は既に見られているが、関係者以外の一般投資家への募集はどうだろう。これまでの私立学校法人による格付けの取得は、資金調達目的というよりも、学校法人のステータス、財務的な安定性を示す指標として使われて来た。少子高齢化が進み学生数の減少が懸念される中で、学校法人による格付けの取得や債券の募集による資金調達が拡大するかもしれない。今後の市場拡大に注目してみたい。