国内起債市場を斬る 起債評価:7/8~7/12

米FRBの利下げが必至とされる中、日本の国債利回りは10年がマイナス水準に定着しており、20年ですら0.2%台となっている。そのため、国債利回り対比でのスプレッドプライシングが、見られなくなっている。元来絶対値ベースでのプライシングを行って来た発行体ではなく、ほとんどの発行体が10年債の値決めに際して、国債利回りを用いなくなっているのである。この週に募集された10年債のうち、絶対値ベースでプライシングされたと見られるものが、日清製粉グループ、住宅金融支援機構、地方公共団体金融機構、芙蓉総合リース、オリエントコーポレーション、王子ホールディングス、大日本印刷、セイコーエプソン、長谷工コーポレーションとすべてが絶対値ベースであったようだ。

10年債は国債利回りがマイナス水準となっているために、スプレッドが大きくなってしまうのに対し、20年債は国債利回りがマイナスになっていないのだが、20年債の値決めでスプレッドプライシングが行われなくなりつつある懸念が感じられる。加えて、15年債も国債利回り対比でのプライシングが行われなっているようである。この週の募集状況を見ると、15年債はダイビルのみが募集されており、絶対値ベースでプライシングされたようである。20年債で、国債対比のスプレッドプライシングが行われたのは、住宅金融支援機構と地方公共団体金融支援機構の2つのみで、民間で社債を募集した日清製粉グループ、ダイビル、王子ホールディングス、東武鉄道とすべてが絶対値ベースでのプライシングであったようだ。

今後、金利が上昇しない場合、公共セクターが国債対比のスプレッドプライシングを維持するのか、地方債も含めて、動向を注目しておきたい。金利が低水準にいるため、超長期債の募集が続出する可能性はあるものの、起債観測で具体的に上がっているものは、10年債以下の年限が多い。電力や鉄道、ガスといった超長期債の募集が多いセクターの動きが注目されるところである。

足元では、グリーンボンドやサステイナビリティボンドの募集が相次いでいる。中でも、商船三井は機関投資家向けに4年債と6年債を募集し、個人向けに同じクーポンで6年債を条件決定しており、いずれもサステイナビリティボンドの認証を得ている。個人投資家の中でも、いわゆる“意識高い”系の人には、強くアピールするのではなかろうか。評価の理由には、SOx排出抑制等が挙げられているものの、そもそもが化石エネルギー燃料を用いて船舶を運行する海運業者である。排出抑制等の取組みは評価できるが、果たして適正なものなのだろうか。起債に際して信用格付けと同じ格付会社から認証を得ているのは、格付会社内部でウォールが設置されていると説明されるが、果たして適切なのだろうか。利益相反の可能性がないことを、明確に開示して欲しいものだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/1~7/5

7月に入り、米国独立記念日の花火でお祝いムードになる一方で、起債市場の様相は一変する。3月期決算企業の株主総会を超え、年度第2四半期に入るためである。満を持して起債市場に臨むのは、発行体も投資家も同じかもしれない。しかも、10年国債利回りが、日本銀行の想定するレンジ±0.2%の下方に位置する状況であり、超長期国債の利回りも低下していることから、発行体の調達ニーズは高く、一方で、債券を買えていない投資家の焦燥感も強い。円債購入を諦め、他の資産での利回り獲得に向かえば、無理して年限の長い債券や突っ込んでタイトなプレミアムの社債等を購入しなくて済むのであるが、基本的に年度初めに策定した計画を遵守することが得意な日本の機関投資家は、愚直に債券購入を進める。期間損益を考えれば、利回りが低くても、投資の開始時点は早い方が良い。その結果、4月や7月の投資家は、極めて購入意欲が旺盛である。

社債等の募集はほとんどが5日の金曜日に集中した。4日に募集したのは、東京電力パワーグリッドの3本立て起債のみである。5年債700億円・10年債800億円・15年債600億円と計2,100億円の大型調達である。同社の起債はスプレッドプライシングを採用していないが、10年国債利回りがマイナスに陥っていることもあって、スプレッドプライシング自体の減少が著しい。地方債や財投機関債等国債利回りを強く意識する公共セクターを除くと、5日の金曜日に募集された10年物社債でスプレッドプライシングを用いたとされるのは、中部電力と中国電力の2電力のみであり、その他のリコーリース、三井物産、JR東日本、近鉄グループホールディングス、東急不動産ホールディングスといった発行体は絶対値ベースでのプライシングである。何しろ10年国債利回りがマイナス圏に深く沈んでいるために、スプレッドの方がクーポンより大きいのである。

確かに東京電力パワーグリッドの信用力には懸念がない訳でもないが、東日本大震災後の政府による保障スキームを考えると、さほど心配しなくても良いのではないか。同じ10年債で比べて、同社の社債クーポンは1.01%で、翌日に募集されたJR東日本の社債は0.1%クーポンである。10倍以上の差と考えることも出来るし、91bpsの格差と考えることも出来る。R&Iの格付けでBBB+格とAA+格と大きく水準は異なっているが、果たして電力債をそこまで忌避すべきかは、議論が分かれる。

起債市場のスタートダッシュは、電力債のみならず、ノンバンクやメーカー、商社、鉄道等多様な発行体が社債の募集に動いた。今後も、メーカーの起債観測が多く聞かれており、投資家側も銘柄選択に色々と思い悩む展開になりそうだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/24~6/28

引続きこの週も3月期決算企業の株主総会シーズンであり、社債の募集は多く見られない。実際に社債を募集したのは、サムライ債を除くとイオンモールと東海カーボンの2社である。前者は、親会社が小売ということもあって2月決算であり、後者は12月決算企業である。したがって、この時期に株主総会を開催する必要はない。そもそも株主総会が社債の募集に直接影響するものではないが、経営時の交代など色々なイベントが発生することもあって、投資家に対する影響の可能性を考えると、社債に対する需要は大きくないだろうと考えられる。そもそも企業側も、株主総会の諸作業で忙しく、社債の募集に係わっていられないというのもあるだろう。

イオンモールの募集した社債は、前週までのヒューリックや楽天と同様に、多年限の分散薄幸である。楽天は、3年債・5年債・7年債・10年債・15年債と5本立てであったが、イオンモールは3年債・7年債・10年債・20年債の4本立てであった。楽天の格付けはA(JCR)格であり、イオンモールはA-(R&I)格と、大きな差はない。加えて、楽天は通販を中心にしたコングロマリットであり、イオンモールは大手小売のイオングループに属する店舗開発等不動産業を担う。似ているようで、必ずしも完全には重ならない二社である。

同じ年限の起債を比較すると、3年債では、楽天が0.09%クーポンで、イオンモールは0.05%クーポン。7年債では、楽天が0.35%クーポンで、イオンモールは0.29%クーポン。10年債では、楽天が0.45%クーポンで、イオンモールは0.4%クーポン。いずれも、イオンモールの方が低利回りであった。確かに楽天のビジネス内容は変動性が高いと思われる一方、イオンモールに関しても、地方の人口減少や小売と不動産のビジネス領域の先行きを考えると、決して安泰とは思えない。イオンモールの10年債や20年債については、格付けだけで評価できるものではないし、そもそも格付けのタイムホライズンは3年から5年しかないことを考えると、投資家としては慎重に臨むべきだろう。もっとも楽天は5本立てで計800億円の募集で、イオンモールは4本立てで計500億円と少ない募集金額であった。

なお、東海カーボンの社債は第1回と初の公募債発行であり、100億円の小額募集であった。炭素関連の電極や摩擦材といった製品のメーカーであり、希少性が強い。社債募集の少ないこのタイミングでの起債は、絶好のタイミングであったと言って良いだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/17~6/21

3月期決算企業の株主総会シーズンがこの週後半からピークを向かえることもあって、社債の起債市場の動きは鈍い。株主総会のもっとも集中する日は実際には翌週だが、社債の募集と払込のタイミングを考えると、やはり3月期決算企業は動き難い。結果として、民間企業による社債募集は、ヒューリックと楽天のみである。両社とも12月期決算を採用しているのが、このタイミングでの社債募集を可能にしていると言って良いだろう。しかも、他の企業の社債募集が途絶えているタイミングであるから、起債も好き勝手が出来ると言うことなのである。

両社の起債の特徴は、複数年限にわたることである。まず、ヒューリックは、5年債200億円と7年債200億円、10年債150億円の計550億円を募集している。JCRからA+格を取得している不動産会社であり、業種の特性を考えると、10年債はやや年限が長いと感じざるを得ない。国債利回りの低下していることもあって、投資家の購入目線はやや下がっており、5年債が0.2%、7年債が0.3%、10年債が0.4%と区切りの良いクーポン設定になっている。対象年限の国債利回りがマイナスに沈んでいることもあって、スプレッドプライシングは機能していない。それでも、国債に対する上乗せとしては、+40~50bps強の範囲であり、投資家からの強いニーズが集まったようである。

楽天は、もっと年限の細分化だけでなく、合計の発行額は800億円に上っている。募集したのは、3年債100億円、5年債100億円、7年債200億円、10年債200億円、15年債200億円で、長めの年限の方が募集金額は大きくなっている。同社の取得した格付けは、JCRのA格で、ヒューリックより1ノッチ低い。業種としては、ネット小売プラットフォームの提供者であり、傘下には、銀行・保険・証券・カードといった金融コングロマリットを抱え、サッカーや野球のプロチームをも保有する。ネットサービスでは、その他にも多くを提供しており、単純な業種で語ることは不適切かもしれない。有為転変の多い企業体であることを考えると、10年や15年といった長い与信に懸念は少なくないが、一方で15年債の0.9%クーポンという利回りは、他にあまりない高水準に見える。

楽天とヒューリックが同じ年限で社債を募集したのは、5年債・7年債・10年債であるが、格付けの1ノッチ差を反映したために、いずれも5bpsクーポンを上乗せした水準となっている。15年債の0.9%クーポンは前述の通りであるが、もう一つの重なっていない3年債は0.08%クーポンであった。ヒューリック債と同様に、他に募集される社債のないタイミングということもあって、投資家からは強い需要が集まったようである。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/10~6/14

週後半の木曜日と金曜日に債券の募集がほとんど集中している。しかも、今月に入ってから、金利の低下が顕著であり、社債等の一般債でも、10年債でクーポンが0.1%を下回る物があり、更には、0.333%クーポンで20年債か!といった水準の募集も見られている。

今月の10年債を見ると、福祉医療機構の0.075%クーポンが0.1%を下回った最初だろうか。なお、地方債では、4月から10年債の0.1%割れが散見されている。5月は、地方公共団体金融機構や住宅金融支援機構の10年債が、まだ、0.115%とか0.125%とかのクーポンで募集されていたのである。ところが、6月に入って、続く沖縄振興開発金融公庫は0.064%クーポン、地方公共団体金融機構は0.049%クーポン、住宅金融支援機構と国際協力機構は0.059%クーポンで募集されている。国債対比スプレッドは+17bpsとか+18bpsと説明されているのであるが、10年国債のマイナス利回りの定着が確認されるのである。

10年国債のマイナス利回りが定着したこともあって、10年物の債券募集で国債対比のプライシングではなく、絶対値ベースのプライシングの行われる例が見られる。日本特殊陶業はR&IのA+格及びJCRのAA-格を有するメーカーであるが、この週に募集した5年債200億円と10年債100億円は、揃って絶対値ベースでのプライシングとなっている。10年国債の利回りがマイナス水準を継続するならば、7月に起債市場が盛り上がった際に、10年債以上の年限で利回りの絶対水準に基づくプライシングが増えるのかもしれない。

もう一つの現象として、超長期の端数年限での募集が増加している。これは国債対比プライシングが行われなくなって絶対利回りでプライシングされるならば、国債の募集年限と、債券の募集年限を合わせなくても良いという発想からである。もっとも、超長期年限で時々見られる15年債では、対応する年限の新発国債がないために、既発の20年国債の残存15年ものの流通利回りを基にプライシングされている。実際に、この週に募集された相鉄ホールディングスの15年債は、国債対比+51bpsのスプレッドプライシングによって0.619%クーポンでの募集となっている。この週では、北陸電力が17年債100億円を募集している。前週には九州電力が18年債150億円を募集、前月も東北電力の16年債200億円が募集されている。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債では、定例募集年限と重ならないようにするため、端数年限での募集が一般的である。国債利回りの水準次第では、こうした端数年限での募集に対する市場の見方に変化が出て来るかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/3~6/7

6月第1週の起債は、予想以上に本数・金額ともに発行ラッシュとなった。5月最終週は、武田薬品の劣後債5,000億円が募集されたために金額は大きくなっていたが、本数と言う意味では、6月に入っても、ペースは大きくは落ちていない。社債を発行した企業の業種も、銀行、メーカー、ノンバンク、運輸、電力と幅広くなっている。金額という意味では、みずほフィナンシャルグループの永久劣後債が2本計900億円、日本製鉄の社名変更後初の公募社債3本計800億円といったところが大きい。財投機関債でも、住宅金融支援機構が3本立てで計750億円を募集している。

5月下旬からの起債市場で顕著なのが、野村證券の主幹事外しである。野村證券の不祥事と5月28日に持株会社及び同社に出された業務改善命令について、ここでの詳しい解説は避けることにする。東京証券取引所の区分見直しに関する未公開の検討内容を、営業に用いたことに起因する。そもそも東証が安易な第一部への区分変更を認めたために、東証一部の銘柄数は2千を越え、かつてのようなステイタス感を喪失している。区分の見直しは必須であり、放置することは逆に東証一部の意義を損なう結果になりかねない。ところが、企業は東証一部の看板にしがみ付こうと、検討内容に注目している。その検討内容は企業側には重要な情報であり、野村證券の営業部門が情報に重要な価値を見出すのは当然だろう。多くの投資家は、金融庁より業務改善命令を受けた証券会社との取引を期間限定で停止する。特に、公的機関や金融庁監督下にある銀行、保険、運用会社等は、取引を継続した場合の説明責任を負う可能性が高い。投資家が手を引くのが明らかになっている以上、その反対にある債券の発行側も、主幹事としての地位を野村證券から剥奪するのは已むを得まい。

5月中旬以降の起債市場において、事前の報道から野村證券が主幹事から外された事例を見ると、少なくとも、大阪ガス、小松製作所、ホンダファイナンス、東京地下鉄等がある。主幹事指名の前や報道以前に外された例も他にあろう。過去の事例を見ても、野村證券が業務改善計画を提出し金融庁が受取るまでの暫時、起債市場のメインストリームから、同社は姿を消すことになるだろう。もっとも、法的なサンクションではないために、発行体と投資家の双方が問題視しなければ、野村證券が主幹事の一角を務めることもあり得るし、予定されていた単独主幹事案件では、そのまま主幹事を務めることもあるだろう。

結局のところ、リーグテーブルに若干の影響があり、同社の引受収益が低下する結果となる。過去の同種の事例から見ても、今回は他社で同様の不祥事が生じるとは思えないために、単独での影響となるだろう。市場環境に配慮した条件決定を可能な主幹事証券としての評価が高い野村證券が、起債市場での位置付けが小さくなるために、案件によっては、投資家の目線から外れた発行条件で決定される可能性も考えられる。結果として、長く国内キャピタルマーケッツに君臨していた野村證券の市場ハンドリング力が、再び評価されることになるのかもしれない。他の証券会社は、特に大和証券は野村證券がいないからと言って、市場環境の把握を怠ってはならないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/27~5/31

起債が本格化したと宣言したが、幻となってしまった。結局のところ、この週も31日金曜日のみ社債等が募集されるという歪んだ構成である。条件決定された金額だけを見ると、巨額であるが、それが、起債市場の活性化とモーストライクリーと言えるものではない。

募集金額が大きくなったのは、武田薬品のハイブリッド債が5,000億円と巨額の条件決定及び募集を行ったためである。ハイウリッド債と言えば個人投資家にも聞こえは良いが、正しくは劣後債である。債券の特質と株式の特質とを併せ持つことから、ハイブリッド証券と言われるが、それはリスクの所在を誤魔化そうとしている可能性が高い。通常の社債に対して劣後し、普通株より優先されるという位置付けを誤ってはならない。

そもそも今回の劣後債は、負債としての側面と資本としての側面を有する観点から、60年債と超長期の償還年限が設定されており、一方で、5年4ヶ月が経過した時点以降、発行体による期限前償還が可能である。劣後債もしくはコーラブル債の特性を正確に理解していない投資家は、期限前償還を所与として5年4ヶ月債と理解するかもしれないが、あくまでも期限前償還は発行体のオプションである。それが、JCRのA-格を付された5年4ヶ月の社債にしては高水準となる当初クーポン1.72%の理由付けである。

かつてのように財務内容の良い武田薬品であれば、5年4ヶ月の与信は何ら問題なかったかもしれない。しかし、巨額のM&Aによって財務構成が悪化し、長期発行体格付けはJCRのA+格でしかない。しかも、劣後債が期限前償還されなければ、最悪60年債となる。薬品メーカーの業種特性を考えると、長期の与信については慎重にならざるを得ない。繰り返しになるが、中期債か超長期債かは投資家が決めるのでなく、発行体が決めるのである。確かに、期限前償還可能期を越えると、円ライボー+175~275bpsとステップアップする変動利付きにクーポンは変更されるが、発行体がその時点で同残存の調達コストより安ければ、期限前償還しないことも考えられるのである。

武田薬品が今後もM&Aを継続するならば、財務構成は悪化し、負債の調達コストが将来的に悪化する可能性は更に高まる。果たして今回の劣後債が期限前償還されるのか。ハイブリッドローンの借換えによる資本性維持を公言した多くの企業が、年数が経過したら前言を翻して、コストの高いハイブリッドローンを償還させた事例は多く確認されている。即ち、期限前償還を前提にして投資することは危険であり、当座の利回りの高さに惑わされず、十分な発行体及び業界の分析を行って投資しなければ、数年後に「こんな筈では・・・」となるかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/20~5/24

3月決算の発表が峠を越え、起債が本格化している。社債に限っても、募集した業種は、ノンバンク、鉄鋼、電力、ガラス、銀行劣後、化学、陸運と幅広い。前週ほど、年限が超長期に偏っていないのは、こうした業種の特性によるものである。それでも、超長期債を募集したのは、中国電力20年債、東北電力16年債、北陸電力20年債と電力債が目立つものの、三菱ケミカルホールディングスも20年債及び30年債を募集している。東北電力の16年債は、時々見られる半端年限の起債である。もっとも、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債では、他の定例募集年限と重ならないように設定されるので、端数年限は珍しくない。そもそも15年債にしても、新発国債の年限でないことから、端数年限と言っても良いのであるが。

電力の20年債では0.6%クーポンといった利回りしか出ないのであるが、三菱ケミカルホールディングスの社債では、20年債で0.83%、30年債で1.214%といった高いクーポンになっている。電力債には依然として格付対比で厚めのスプレッドが乗る傾向にあるが、三菱ケミカルホールディングスの場合には、格付けがA(R&I)格及びA+(JCR)格といった水準で、超長期年限の与信に対する慎重な姿勢も確認される。その一方で、三菱ケミカルホールディングスの30年債は80億円に発行額が増額されており、絶対水準を求める投資家が多いことも否定できない。

ノンバンクやメーカーの起債では、3年債や5年債といった中期債の募集も見られる。同年限の国債がマイナス利回りになっている中では、目線の設定が難しいものの、イオンフィナンシャルサービスは3年債が0.23%、5年債が0.35%のクーポン設定となっている。JFEホールディングスの5年債0.17%クーポンと比べると、格付けが1~2ノッチ低いこともあって、高めの利回りになっている。

なお、財投機関債等公共セクターの募集も多く、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく11年債及び21年債や、中日本高速道路の5年債、日本高速道路保有・債務返済機構の30年債、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の5年債・10年債・15年債・30年債、日本学生支援機構の2年債といった顔触れである。中でも、4年限にわたった鉄道建設・運輸施設整備支援機構債は、CBIから認証(国内で初めて低炭素経済に向けた大規模投資を促進する国際NGOであるCBI:Climate Bonds Initiativeからの認証)を得たサステイナビリティボンド(調達された資金が環境改善及び社会課題の解決に資する事業に充当される債券)となっている。ESG投資を意識する投資家には、良いアピールポイントである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/13~5/17

ようやく5月の起債がはじまった。近年の起債の特徴として、限られた時期に案件が集中する傾向にある。また、発行体の業種としては、公的や電力・ガスが目立っている。これは、安定した業種が好まれていることに加えて、金利水準が低下している中で、投資家の利回り志向に対応した超長期年限の起債が可能なこともある。実際に、超長期債単独の募集ではなく、10年以内の年限の債券との組み合わせ募集が多く見られる。

具体例を見ると、住宅金融支援機構は5年債500億円・10年債150億円に加えて、30年債0.658%クーポンを500億円募集した。九州電力は10年債350億円に加えて、20年債0.721%クーポン150億円を募集した。東京ガスの起債が最たるものであった。10年債100億円に加えて、20年債0.486%クーポン100億円・30年債0.693%クーポン200億円・40年債0.875%クーポン100億円と超長期債の合計400億円を募集したのである。

なお、公的セクターでは、超長期債単独での募集も目立つ。日本高速道路保有・債務返済機構は、20年債0.419%クーポン100億円を募集した他に、日を変えて利子一括払いの37年債0.941%クーポン50億円及び38年債0.957%クーポン50億円を募集している。都市再生機構は、40年債0.804%クーポン400億円を募集している。また、その他の民間セクターでも、ANAホールディングスは7年債のソーシャルボンド50億円に加えて、20年債0.84%クーポンを150億円募集している。

このように超長期の起債が多く目立っているが、いずれもクーポンは1%に満たない低水準にある。異次元の金融緩和が継続される中で、投資家のニーズが年限の長期化による利回り確保に向かっていることが確認されている。

一方で、信用スプレッドの獲得による利回り確保については、日銀が社債のスプレッドをも潰している中で、月末あたりを目処とした募集が観測されているアイフルの公募債に注目が集まる。年限は1年半と極めて短い年限であるが、同社の格付けはR&IでBB-格・JCRでBB格と、いわゆる投機的格付けにある。筆者が今年のGWにも投稿した話題ではあるが「果たして日本にハイイールド債が定着できるのか」、後続案件を含めた動向が注目される。ただし、実際には国内2社の格付会社からBBB-格に満たない格付けを取得している企業は、限定的で10社にも満たない。ハイイールド債を発行することを目的とした格付けの取得を広まる機運は起こるのであろうか。「結局は特殊な案件」として扱われて終わらないで、新たなBBB-未満の発行体が芽生え、市場が育つことを望むところである。

国内起債市場を斬る 令和元年特別第2号:電力債に風は吹くのか

東日本大震災と福島第一原発の事故を受けて、変わったものは幾つかあるだろう。日本経済は一旦大きく低迷したものの、復興景気によって景況感は回復した。所得税及び法人税は復興特別ということで、税率の引上げが行われた(所得税は2037年までだが、法人税は2014年3月まで)。社債の世界で大きな影響があったのは、電力債に対する認識の変化だろう。

電力債は、商法・会社法の枠組みとは異なる形で債券募集が行われて来た。戦後の高度経済成長を支える柱としての電力供給を行う電力各社に関しては、社債の発行限度や格付基準などで別格の扱いを受けていた。現在でも見られる一般担保付の仕組みは、電気事業法の規定に基づくものであるが、公共的性格を有する発行体にのみ認められた特別の取扱いである。特定物を担保としないために、歴史的には有効性に関して疑義を呈されることもあったが、実際には、事故賠償金にすら対する優先的な弁済順位が確認されたことで、無担保社債とは別格な存在であることが広く認知されたのである。

それまでも、電力債に関しては、総括原価主義や監督官庁による料金の認可制、徐々にしか進まない電力事業の自由化等から、超長期債の募集が継続的に見あれる数少ない業種の一つであった。しかし、福島第一原発の事故処理に際して奉加帳方式で他の電力会社が負担を求められたことや、原子力発電所の稼動が抑制されたことから、電力債に対しては、同じ格付け符号の一般社債よりも厚いスプレッドが求められるようになったのである。厳密な意味では電力債でない電源開発の社債(一般担保付ではないが、社債管理会社は付されている)も、未完成の原発を有していることで、沖縄電力を除く電力各社と同等の状況に置かれている。

東日本大震災以前でも、電力債の募集は社債募集のシーズンの最初に行われることが珍しくなかった。それから8年が経過し、今では、再び電力債が募集シーズンの頭で動くことも見られている。本年度の社債募集も、4月の頭の顔触れを見ると、東北電力、電源開発、関西電力といった名前が並んでいる。令和への代替わりの十連休明けも、中国電力の個人向け社債の条件決定が行われている。電力債に対しては、結局、放射性廃棄物の処理方法が確立できない原子力発電と、二酸化炭素の発生が不可避な化石燃料を利用した火力発電とが、主要な発電方法である以上、グリーンボンドや環境に配慮した企業と声高に叫ぶのはおこがましい。

債券の世界でもESG投資が強く言われるようになると、電力のみならず、その他の多くの産業においても、債券募集にブレーキのかかる可能性がある。化石燃料を燃やしている運輸業や、そのための機器を作っている自動車メーカーだけでなく、多くの電気を利用している非鉄金属や放送業なども、怪しいものである。PHV等に注力する自動車メーカーも、太陽電池等の再生可能エネルギーを利用しない限り、既存の電力会社からの電気で充電している限りは、グリーン特性に問題があると考えるべきだろう。二酸化炭素を排出しない燃料電池車は環境に優しいかもしれないが、水素を精製する際に電力を利用しているならば、五十歩百歩なのかもしれない。