国内起債市場を斬る 下期初特別号:円安と社債投資

政府と日銀は9月22日に円ドルレートが146円を伺う水準になると、2.8兆円規模の円買いドル売りの為替介入を実施した。しかし、介入の効果は2週間も持たず、今週に入って円ドルレートは再び145円を越えている。起債市場は上期末を挟んだ時期であったため、社債等を募集する動きは見られなかったが、円安が社債市場に与える影響は決して小さくない。

輸出産業は円安によって輸出が割安となりメリットがあるとするのは、既に古い日本の産業構造に対する理解だろう。プラザ合意以降の円高を持ち出さなくても、2000年以降でも何回かの円高不況局面を迎えた。その結果、日本国内で製品を作り、海外へ輸出して販売するといった古典的なモデルの企業は、ほぼ見られなくなったのではないか。円安局面において海外で製品を販売するならば、現地で生産した方が明らかに価格競争力がある。いつまでも古いビジネスモデルに捉われてはならない。確かに、円安によって多少の輸出メリットはあるかもしれないが、輸出企業の増収も、労働分配率の低さを考えると、消費を押し上げて景気を浮揚させるような効果は期待し難い。

逆に、円安によって収支にマイナスの影響が及ぶ業種については、クレジット投資という観点からは考えておくべきである。まず考えないといけないのは、エネルギーの多くを輸入に依存する電力関連企業である。もちろん東京電力リニューアブルパワーのように、水力発電など再生可能エネルギーに特化していれば異なるし、かつて社債を募集していた日本原子力発電も輸入エネルギー価格の高騰による直接の影響を受けないだろう。しかし、原油やLNGは将来にわたって輸入に頼らざるを得ず、火力発電を中心に置く発電会社は、少なからずの影響を受ける。肝心なのは、輸入エネルギー価格の上昇を電力の小売価格に転嫁できるかである。転嫁の可否次第で、電力会社の収支は大きく変化するだろう。家庭向けのみならず企業向けの電力価格も、政策の影響を受けるだろう。中長期に及ぶ円安継続は、電力関連のクレジットに対する影響が必至である。

また、既に新型コロナウイルス感染症の影響で大きな打撃を受けているが、旅行や空運、宿泊関連については、社債や関連REITの信用力に影響の生じる可能性がある。円安によるインバウンドの復活期待は高いが、日本側の感染対策等だけでなく、出発国のコロナ対策次第では日本への渡航が自由に出来ない可能性も残る。また、円安によって、日本から海外への渡航は、引続き大きなダメージを受けている。ウィズコロナでテレワークに慣れたビジネス界は海外出張よりもウェブ会議に傾きがちである。そもそも円安と原油価格高騰によって、航空運賃と燃油サーチャージが高騰しており、運航便数の抑制がさらに価格を上昇させるという悪循環に陥っている。

総合商社のように、物やサービスを動かすことを業とするならば、円安がメリットにもデメルットにもなるだろうが、円安が事業内容にプラスに働く業種は、一部の製造業に限られ、必ずしも多くないという認識が必要だろう。特に、円安の原因の一つが欧米と日本との間の金融政策の方向性の差であることを考えると、円安対策として日銀の金融緩和政策が微修正される可能性を否定しきれない。

国内起債市場を斬る 上期末特別号:金利上昇と社債投資

先週の起債市場は一般的な社債等の起債が見られず、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券の募集はあったものの、完全に上期末の起債オフシーズンに入っている。そのため、今週と来週との2回にわたって、現在の金融環境と社債投資について考えてみたい。今週は金利上昇と社債投資について考えてみる。

現在足元で確認される金利上昇の背景には、米欧の中央銀行が物価上昇に対応して早急に政策金利を引き上げていることがある。元来、物価が上昇すれば、フィッシャーの恒等式で示されるように、金利はある程度連動して上昇するするものである。短期金利である政策金利の引き上げが金利の期間構造に基づいて長期金利を上昇させることもあって、イールドカーブ全体が上方に押し上げられることになる。欧米の金利が上昇する中で、日本だけは日銀によるイールドカーブコントロールの下で金利上昇を抑制されているが、管理対象となっているのは短期金利と10年国債利回りのみである。そのため、10年国債利回りよりも短い残存9年の国債利回りの方が高いという逆イールド構造が現出している。日銀によって作り出された市場の歪みである。数カ月前にも国債先物と連動する残存7年国債利回りと10年国債利回りとが逆転したこともあったが、日銀は市場取引を通じての介入であるため、市場構造を歪めている認識はないと否定する。それでも、コントロール対象外にある超長期金利は、明らかに上昇している。10年国債利回りの上昇が抑止されているため、野放図に上昇することはないが、何らかのきっかけがあると容易に上昇する可能性が高い。

先行きの金利上昇が確実視されるようになると、発行体の調達意欲が高まる一方で、投資家の購入待ちという委縮した緊張関係の生じる可能性があるものの、低金利の長期化を経た後では、1.5%とか2%といった節目を越えた水準でまとまった投資意欲が確認されることだろう。しかし、足元では日銀が少なくとも年度末までの金融緩和姿勢を崩しておらず、発行体も投資家も動き難い状況にある。上期末の起債市場があまり盛り上がらなかったのは、発行体も投資家も急いでアクションを起こす必要性を感じていない状況だからであろう。

投資家側が見落している可能性がある視点の一つは、金利上昇による企業経営の悪化である。金余りのために低金利下で有利子負債比率を必要以上に高めた企業は多くないと思われるが、資金繰りを低利の銀行融資に依存している企業は、今後の金利上昇を耐えることが出来ない可能性はある。金利上昇によって信用力の低い企業が炙り出されることになり、クレジット市場に逆風が吹くこととなるかもしれない。また、大企業の中にも巨額の負債を抱えている発行体があり、今後の金利上昇によっては、経営状況に対する懸念が高まる可能性を否定できない。近年の低金利環境に慣れ切った投資家は、金利上昇に加えて信用悪化という思わぬダブルパンチを浴びる可能性を、少なくともリスクシナリオとして持っておきたいものである。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/12~9/16

上期末の起債ラッシュシーズンは、尻切れトンボの感がたぶんにある。金利の先行きが不透明に感じられるため、発行体が積極的な起債への取り組みを取らなかったのと同様に、投資家側も投資を積極的に行う体制を取らなかったように思われる。欧米を中心とする利上げのトレンドに対し、日本の金利は日銀のイールドカーブコントロールによって変動そのものが抑制されている。超長期年限についてのみ日銀のコントロール範囲外で金利水準の上がっている中では、超長期年限での積極的な起債は難しい。この週の起債は、サムライ債やグローバル債等を除いた国内発行の社債等という意味では、JERAの3.5年債、中日本高速道路の5年債、USEN-NEXT HOLDINGSの5年債、群馬銀行の期限前償還条項付10年劣後債、国際協力機構の10年債及び20年債、地方公共団体金融機構の7年債だけに限られた。

USEN-NEXT HOLDINGSの5年債は、格付けがBBB(R&I)格ということもあって、クーポンは1.02%という高水準である。絶対水準を求める投資家にとっては、一つの基準をクリアしていると思えただろう。正式な社名としても、ホールディングスがカタカナ表記でないことは要注意である。歴史的には、社名に表れているように有線放送に端を発し、光ファイバー等のブロードバンドネットワークサービスや映像コンテンツの配信といった辺りが個人に関係するビジネスであり、それ以外に、店舗・施設などへの有線放送やPOSシステム、キャッシュレスシステムの支援・提供を行っている。ネット情報によると、2017年にU-NEXT、USENが経営統合、株式会社U-NEXT(初代法人)を株式会社USEN-NEXT HOLDINGSに商号変更し、傘下に14社の事業会社を置く企業体のようだ。文字どおりやや変動性の高いビジネスを営んでいることに加え、これまでに買収や分割を頻繁に行って来たため、初回債の購入に慎重となった投資家は少なくないだろう。

民間企業による社債発行という意味では、残るのはJERAである。東京電力と中部電力の火力発電事業を統合した発電会社であり、ガスの販売も手掛けるものの、基本的に直接家計が接することはほぼないだろう。東京電力管内であれば東京電力エナジーパートナー、中部電力管内であれば中部電力ミライズといった小売電気事業者が、ユーザーに対することになる。電気事業法附則に基づいた一般担保付社債を発行することは出来ないものの、信用力としては必ずしも低くはない。JERAの取得している格付けはR&IのA+格とJCRのAA-格であり、東京電力ホールディングスが取得しているR&IのA-格とJCRのA格より2ノッチずつ高く、中部電力が取得しているR&IのA+格とJCRのAA格よりJCRで1ノッチ低い水準である。

JERAは1週間前にも22年債53億円及び24年債53億円と年限も金額も半端な起債をしているが、今週の起債は募集額こそ200億円とまとまっているものの年限は3.5年債であった。いずれも引受証券の単独案件であり、起債運営としては、投資家及び引受証券に無理を強いていた東日本大震災以前の東京電力には似ておらず、むしろ年限等の唐突さが中部電力に近いように感じられるところがある。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/5~9/9

今年度上期の起債シーズン、最後の追い込みの時期に入ると、従来とは異なった銘柄や種類の社債が募集されるのが、例年も見られる流れである。この週も、イビデンやキッツ、THKといった滅多に社債を募集しないメーカーによる起債が目立った一方で、結果的には電力関連の起債が金額ベースでは大きくなっている。

電力関連の起債と言っても、伝統的な電力債の枠組みに入らないものばかりが募集されているのも珍しい。東京電力と中部電力の火力発電等に関する合弁会社であるJERAは、一般担保付きの社債によって資金調達することが認められていない。なお、既存の電力会社の一般担保も、電気事業法附則第17条の規定で認められているものであり、同20条の規定によって令和6年度末までに発行されたものまでとされている。この週にJERAが募集したのは、22年債と24年債といずれも半端な年限であり、しかも募集金額はそれぞれ53億円という端数付きである。社債の金額が1億円単位であるから何らの問題もないのであるが、10億円単位に慣れていると、奇異な感じは否めない。

もう一つの電力関連の起債は、東京電力リニューアブルパワーによる5年物グリーンボンド300億円である。社名に表れているように、水力を含む再生可能エネルギーによる発電会社であり、グリーンボンドとしての適格性は認められやすい。一方で、一般担保を付されていないため、JERAと同様に信用力評価の際には注意が必要である。東京電力ホールディングスによる支払保証が付されていれば明確であると考えられるものの、持株会社の100%子会社であるから、基本的には持株会社と同等の信用力を有すると考えて良いだろうし、ESGやSDGsを重視する最近の潮流を考えると、持株会社から切り捨てられる可能性は極めて低いだろう。

最後の電力関連は、東北電力の劣後債である。劣後特約が付されているために一般担保の対象とならず、利払繰延べや期限前償還が可能になっている。最終償還の35年物が1,330億円、37年物が260億円、40年物が820億円、45年物が390億円と総計で2,800億円と巨額の募集となっている。期限前償還が最初に行われるならば、それぞれ5年債、7年債、10年債、15年債であり、クーポンはそれぞれ1.545%、1.754%、2.099%、2.521%と極めて高い水準で設定されている。取得した格付けはR&IのA-格及びJCRのA+格であって、決して低過ぎる水準ではない。期限前償還を前提にすれば投資妙味は高いようにも思えるが、一般担保付電力債などの優先債務が弁済された後には、どう考えても残余財産は何もないため、劣後債の弁済率は0%になることが必至である。東日本大震災のような大規模災害が発生した際に政府からの支援があれば問題ないとも考えられるが、「もしも」のことは何も約束されていない。期限前償還されない可能性を完全に排除できない中では、見た目のクーポンの高さのみに飛びつくべきではないだろう。もっとも、期限前償還をスキップした場合には、1年物国債利回り連動の変動利付債になることが予定されており、日銀によるイールドカーブコントロールが終了していれば、却って高い利回りを得られるかもしれない。要は、劣後事由に該当したり、利払の任意停止による繰延べの生じないことを期待するしかない投資対象なのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/29~9/2

いよいよ、上期末の起債の動きが本格化して来た。時期的な要素も大きいが、一方で、530兆円の国債を買い入れている日銀が、頑なまでに金融緩和の姿勢を変更しないことで、金利の先高感が薄れたために、上期中に起債を計画していた発行体が、計画遂行に向けて動いている。必ずしも起債ラッシュとまでは行かないが、金曜日には個人投資家向け社債や財投機関債を含めた社債等の条件決定は、計8発行体で15本に上っている。1営業日という意味では、十分に盛り上がった状況である。概ねあと2週間程度が上期中に残された社債等の募集期間であって、この週に条件決定した発行体の顔触れも様々となった。

週を通じて必ずしも起債ラッシュという実感に至らないのは、条件決定がそこそこの本数見られる一方で、大型案件が見られないことも影響している。発行体ごとの募集金額を見ても、最大が野村ホールディングスのTLAC対応債で、3年債425億円・5年債165億円・10年債45億円の計635億円である。それに続くのは、日本高速道路保有・債務返済機構が4年債300億円と20年債150億円とで計450億円を募集した程度である。以下に続く案件も、小ぶりな物ばかりである。なお、暫時見られた億円単位で刻んだ募集額の案件は見られず、野村ホールディングスの5億円刻みが目立つのみであった。

週を通じて見ると、電力債や財投機関債の募集はあるものの、メーカーとメーカーのファイナンス関連会社による募集が目立ったように思える。日本精工が5年債140億円と10年債110億円の計250億円を募集し、岩谷産業(東証の業種分類は卸売業)は7年債と10年債各100億円で、ホンダファイナンスは3年債と5年債各200億円を、三菱重工業は5年債と10年債各100億円で、ツムラは7年債と10年債各150億円を募集している。並べて歴然としたのは、複数年限を募集した場合に、金額が年限で揃えられているものが多いことだろう。起債頻度が大きくないために、償還年限の分散を強く意識しないで済んでいる発行体が少なくないようだ。

なお、電力債では中国電力が4年債200億円と8.5年債100億円という珍しい年限の組み合わせを募集した他、中部電力は20年債単独を120億円募集し、北陸電力が7年債180億円を募集している。いずれも金額としては決して大きくない。その他に、SDGs債を見ると、日本高速道路保有・債務返済機構と都市再生機構の財投機関債がいずれもソーシャルボンドの認定を得ている。いずれも民間事業と重複する事業内容ではあるが、独立行政法人として存続している意義を考えると、ソーシャルボンドとしての発行体に相応しいと考えて良いだろう。都市再生機構が募集した債券は、20年債100億円・40年債120億円・50年債30億円と、相変わらず超長期の年限が主体であり、いずれも1%を越えるクーポンが付されている。また、三菱重工業の募集した社債のうち、5年債はトランジションボンドの認定を得ている。脱炭素化などへの取り組みという資金使途が示されているが、同時に募集した10年債は認定を得ていない。お金に色はないものの、調達後の情報開示等を考えると、すべての起債についてトランジションボンドの認定を得ることを回避したものと想像される。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/22~8/26

旧盆休みが終わって、起債市場にどっと賑わいが戻って来た。週後半に数多くの社債等が募集・条件決定されており、各案件の銘柄と金額や発行条件を羅列するだけで、本稿に書ききれるか心配になるほどだ。その中から着目する案件を三つほどピックアップしてみたい。

最初は、LIXILである。持株会社と事業会社とが統合して社名や内容が変わっているものの、基本的にはサッシや台所関係など住宅・建築関連の設備機器メーカーである。ホームセンター事業を切り離したこともあって、わかり易い経営体制になったとも評価できる。今回の起債は5年債・7年債・10年債の3本立てであり、1億円単位での募集が行われた結果、5年債の発行額が398億円、7年債の発行額が63億円、10年債の発行額が89億円とやや細かな設定になっている。社債の金額が1億円単位であるかため、何らの問題はないと考えられるが、このような1億円単位での起債が今後の市場慣行として定着するかどうか注目しておきたい。

次に、SBIホールディングスが個人投資家向けに1,000億円の4年債を条件決定している。募集期間は8月29日から9月8日までであるが、R&Iから同社が取得しているA-格の評価に対しても、相当程度高い1.09%クーポンという利回りを付している。筆頭主幹事が大和証券であることは評価できるものの、グループに属するSBI証券がネットなどでの販売を予定して250億円を引受けており、発行体の子会社であることを考えると、社債発行の枠組みとしては課題を感じる。実際には、三菱UFJフィナンシャルグループの個人投資家向け社債でも同様の引受体制になっていることを考えると、杞憂なのだろう。ちなみに、SBI証券は募集初日の段階で、「完売御礼」とHPに掲載している。

最後に、日本郵政が初めての公募普通社債を募集している。5年債150億円・10年債150億円・20年債50億円の計350億円であり、いずれもグリーンボンドとしての認定を得ている。認定されている具体的な資金使途を見ると、「蔵前一丁目開発事業及び五反田計画に対する不動産開発資金に充当する予定」とされており、郵便とはほぼ関係なく、不動産開発事業に関するものである。同社は郵便等の配達で温室効果ガスをばら撒いていると見られがちであるが、EV車両の利用等による排出削減にも取り組んでおり、今回は不動産開発の関連でグリーンボンドとなっているが、郵便事業においてトランジションボンドの認定を得ることも可能なのではなろうか。なお、今回の社債に対しては、日本郵政株式会社法第7条の規定に基づいて一般担保が付されている。過疎地等を含めたユニバーサルサービスの提供を求められていることを考えると、純粋な民間上場会社としてのみ信用力を評価することは適切でなく、暗黙の政府保証の存在を想定することも可能だろう。今回の社債に付された格付けは、JCRのAA+格で日本国債より1ノッチ低いものとなっている。同残存の国債対比+14~25bpsのスプレッドが付されており、国家として潰せない企業と考えるのならば、魅力的な投資対象に思えるのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/15~8/19

起債市場の休み明けに動き出すお馴染みの発行体が、顔をならべた。6月末分の決算発表を終え、旧盆の夏休みを経て再開された起債市場において、まず動き出したのは、財投機関と電力であった。起債観測という意味では、小売やメーカー、ノンバンクといった他のセクターも動いていることを確認できているが、具体的に社債等債券の募集に至ったのは、財投機関と電力会社各々2つずつであった。

財投機関で債券を募集したのは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構と日本学生支援機構の二つである。いずれもほぼ定例の8月下旬の起債である。前者は従来と同様にサステナビリティボンドの認定を得ており、後者はソーシャルボンドである。前者は鉄道や運輸関係の建設を担当していることから、業務にグリーンの要素もあって、サステナビリティボンドを募集するには相応しい発行体である。後者は、社会的な意義からソーシャルボンドに違和感はないが、貸付対象が学生であることから、グリーンボンドとなる可能性は乏しい。もっとも、貸与を受けた元学生に対する取立ての厳しさが消費者金融並みであるといった批判も時々目にすることから、ソーシャルボンドとしての機能を十分に果たせているかどうか、認証機関は精査すべきであろう。

なお、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の財投機関債は10年債と20年債各100億円を募集したが、日本学生支援機構は2年債300億円のみである。後者については、国債対比+10bpsのスプレッドプライシングによって、0.01%クーポンのパー発行と6年ぶりに応募者利回りがプラスになったことが注目される。長く続いた0.001%クーポンのオーバーパー発行によって応募者利回りを0%とした起債が、ついに途絶えたのである。短い年限においても将来の金利変動を予感させる起債となった。

電力債を募集したのは、中国電力と北陸電力の2社であった。いずれも通常の電力債で、グリーンボンド等の認証を得た起債ではない。前者は、当初アナウンスした3年債と6年債に、急遽10年債を加え、計630億円の募集となった。後者は、17年債と半端な年限での募集となったが、結果として、出来上がりのクーポンが1.04%と1%の大台を超えたところに意味があろう。しかし、それでも発行金額が95億円と100億円に達しなかったところに、電力会社に対する投資家の慎重な姿勢を垣間見ることが出来るようである。膠着するウクライナ戦争の動向は、サハリンからの天然ガス輸入にも影響しており、化石エネルギーによる発電体制に対する逆風である。一方で、ヨーロッパではグリーンエネルギーと認定された原子力についても、地震国、被爆国日本においては、なかなか積極的に容認される状況にない。太陽光や風力は出力が安定せず、水力についても新規増設が容易でないことを考えると、今後の日本におけるエネルギー政策の行き詰まりが今更ながら意識される。産業革命以前の生活に戻すことは不可能である以上、極端なESG推進を唱えたり核に対するアレルギーに拘るのではなく、未来を見通し、状況に応じた判断が更に必要なのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/8~8/12

新型コロナ感染症第7波の真っ最中であり、「山の日」の祝日が週内の木曜日にあると、起債市場に賑わいは見られない。そもそも旧盆の休み直前でもあり、休日と週末に挟まれた12日の金曜日は、社債等の募集に不向きとなる。そのため、実質的には、社債等を募集する動きは週前半までで終わらざるを得ず、ほぼ9日の火曜日と10日の水曜日の2日間のみに限られることとなる。それでも少ないながら社債等を募集する動きが見られたことが、むしろ驚きをもたらしたかもしれない。

火曜日に募集されたのは、地方公共団体金融機構の10年債250億円である。同機構は10年債を原則毎月募集し、その他の月にも5年債や20年債等を募集しているが、10年債のみという月は大人しく見える。10年債については、利付国債の利回りが月初の入札で決まった後、新発10年物地方債の発行条件によって概ねの水準が定まるため、大きな波乱が起きることはまずない。特に、全地方公共団体からの出資によって設立された同機構は政府保証債の発行体でもあり、政府保証を受けずに発行される債券も、もっとも信用力の高い地方債と同等の信用力を有しているとされることもあって、「スーパー地方債」と見られることが一般的である。今月の10年債は国債対比+13bpsのスプレッドでプライシングされ、出来上がりは0.295%クーポンとなった。実質的に国債と遜色ない信用力を期待できるという判断から、投資家から根強いニーズが集まっている。

水曜日に募集されたのは、電源開発の7年債180億円及び20年債137億円と、中日本高速道路の5年債600億円であった。電源開発の起債は、20年債が137億円と細かく刻んだ金額になっているが、一般担保ではないものの社債管理者を設置した社債であるため、1億円単位の募集金額にすら拘る必要はない。これまでの市場慣行としては、ほとんどの募集額は10億円単位となっていたが、足元の数週間では、細かく1億円単位での募集が幾つか行われていることに注目しておきたい。投資家のニーズにきめ細かく対応しているためと見るか、購入ニーズが減退しているのか、理由は様々のようであるが、市場慣行が変化してきているようだ、という見方が強いようだ。

中日本高速道路の5年債は、日本高速道路保有・債務返済機構による併存的債務引受条項が付されているため、実質的には財投機関債と同等の信用力があるとみなされており、格付けもR&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格といずれも日本国債と同水準の符号である。同社は、米ドル建ての社債に関してグリーンボンドの認定を得て発行している例はあるが、円建て社債ではソーシャルボンドの認定も取得していない。米ドル以外にも、ユーロ建てや豪ドル建て、NZドル建て、更には人民元建ての起債も行っており、色々な取り組みに積極的な発行体である。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/1~8/5

カレンダーが8月に変わったからと言って、起債市場の状況が大きく変わるというものではない。引続き、海外の金利は上昇傾向にあり、一部において景気の先行きに対する懸念の声は出はじめているが、まだ少なくともこの先数か月は好調を維持できそうである。一方で、日本に関しては円安が一段落し、真夏の酷暑の中で気分は夏休みモードとなっている。亜熱帯化している日本は、近年、夏にあちこちで水害が発生しており、今年は福井などの北陸や山形など北日本での被害が出ている。被災地域の早急な復興を願ってやまない。

こういった状況下においても、月初の長期国債入札が行われ、その後、政府保証債や地方債のプライシングが行われるという段取りは不変である。余程の金利変動や市場の機能不全がない限り、お役所仕事である公共債の条件決定から募集という流れが止まることはない。そのためもあって、8月第一週の起債市場では、公共セクターによる債券募集が目立つことになった。まずは、成田国際空港と新関西国際空港である。前者が厳密には社債と分類され、後者が財投機関債に分類されるという差はあるものの、東西の主要な国際空港運営会社であり、政府によるサポートは十分に期待できる。なお、両社が共通に取得している格付けは、R&IのAA格及びJCRのAA+格と、日本国債より1ノッチ下であることには留意しておく必要があろう。株式会社形態を採用していることもあり、必ずしも政府保証債と同等の信用力を有しているというまでの評価は出来ないという理由であろう。成田国際空港が、3年債170億円・5年債130億円・10年債87億円・17年債73億円の計460億円と年限・金額とも細かく設定している一方、新関西国際空港は5年債119億円及び10年債81億円の計200億円としている。新関西国際空港も回号で見ると、十分に端数の付いた募集金額であるが。なお、新関西国際空港はソーシャルボンドの認定を得ている。

これらの他に、横浜高速鉄道は10年債80億円を募集し、日本政策投資銀行は2年債100億円を募集している。みなとみらい線の保有会社である前者は、鉄道施設購入資金の返済ということで普通の社債になっているが、後者はサステナビリティボンドとしての認証を得ている。日本政策投資銀行はサステナビリティボンド・フレームワークを設定しており、適格プロジェクトに対する新規投融資やリファイナンス等で資金投入することが可能であるため、サステナビリティボンドを活用する余地は大きいだろう。

これらの公的セクター以外には、イオンモールが4本立ての社債を募集している。3年債30億円・5年債230億円・7年債60億円・10年債80億円と、総計では400億円の大きな金額であるが、年限も金額も細かく設定されている。上述の国際空港による債券募集と同様に、今後はこうした年限・金額を細かく設定することが主流になって行くのだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/25~7/29

日銀の金融政策決定会合が終わり、米国FOMCを週央に跨ぐ週で、金融政策の変更判断を意識しながら市場をにらむ展開となった。日本では物価の見通しなどに変更があったものの金融政策そのものに変更はなく、米国は市場の予想通りに0.75%の大幅利上げとなった。主に物価上昇へ対応する観点からの利上げであったが、先行きの景気に対するマイナスの影響を懸念する声もあり、金融政策の変更に慎重な日本とは大きく様相が異なる。市場では円安の更なる進行が予想されたものの、米国経済の先行きに対する不安感などもあって、逆に、円高に戻るという展開となった。1米ドル137円程度から次は140円かと皆が予想する中で、急速に132円と逆方向に進んだのだから、為替についての予断は禁物である。

起債市場の動きは鈍い。内外の金融政策の動向を見守るという説明は可能かもしれないが、むしろ第七波と言われる新規感染者数の急増が過去最大のペースであり、一週間当たりでは日本の新規感染者数が世界最多とも言われると、やや市場の動きが停滞するのも無理がないかもしれない。特に、月末というタイミングもあって、公共債の募集もなく(住宅金融支援機構による貸付債権担保財投機関債は前週の金曜日に募集されたため)、ほぼ静かな起債市場となった。次の週は8月第一週となり長期国債の入札などもあって、多少の動きはあるだろうと予想される。

唯一募集されたのが、光通信による7年物社債である。といっても、個人投資家向けに募集されており、火曜日に条件決定され水曜から募集期間がはじまったという展開である。社債の金額は100万円で、比較的投資しやすい設定であろう。取得した格付けは、R&I及びJCRの両方からA格であり、必ずしも高格付けではないかもしれないが、低格付けというほどでもない。

光通信に対する投資判断で難しいのは、業種や信用度への理解だろう。同社は業種として情報通信業に分類されるが、元々は携帯電話の販売代理店として一世を風靡し、その後、ITバブルの崩壊を経て業種転換を行う中、ソフトバンクのように通信業へ自ら参入することはないものの、買収などを通じてインターネット関連を含め様々な事業を複数展開している。主要な事業展開を見ると、個人や中小企業向けの通信回線サービス提供、宅配水の販売、保険商品の仲介などと実に多様である。同社のHPで事業内容として記載されている表現を見ると、「商品・サービスの販売後に使用料などに応じた継続的な収入が見込まれるストック事業を中核事業とし、個人および法人のお客様向けに様々な商品・サービスを広く普及させることを通じて、お客様、取引先様、株主様、従業員、社会などステークホルダーに貢献することを目指す」とあり、ほとんど特定されていない内容である。社債の購入を検討する個人投資家としては、格付け以外にあまり依拠できる材料がないだろう。それでも、7年債で1%というクーポンの高さは魅力的に見える。同社の7年後の姿を予想するのは、専門のクレジットアナリストでも難しいと思われるのだが、利回りの高さに飛びつくこともあるだろう。