国内起債市場を斬る 起債評価:11/15~11/19

やや発行体業種に偏りがあるものの、漸く民間企業の社債発行が増えてきた。前の週と同様に、公的セクターと電力、SDGs債という三つのキーワードでかなり多くが説明できてしまう。

公的セクターとしては、地方公共団体金融機構がFLIPに基づく5年債を60億円募集した他、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が10年債150億円および20年債90億円の財投機関債を募集し、更に、東日本高速道路が5年債200億円・7年債200億円・10年債300億円の計700億円の社債を募集した。東日本高速道路の募集する社債は、財政投融資計画と直接リンクしないため社債に分類されるものの、日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されており、結局は財投機関債発行団体である日本高速道路保有・債務返済機構の信用リスクとなるため、実質的には財投機関債と同程度の信用力を有すると考えられることから、公的セクターに含めて扱われることに異論はないだろう。公的セクターの募集する債券は、いずれも国債対比のスプレッドは薄い。

この鉄道建設・運輸施設整備支援機構の募集した債券は、いずれもサステナビリティボンドとしての認証を得ており、それ以外にも、荒川化学工業の5年債50億円およびイオンモールの募集した債券のうち5年債200億円が、サステナビリティリンクボンドとされている。サステナビリティリンクボンドは、いずれも、予め設定されたサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)を未達成に終わった場合、所定(元本額の0.2%もしくは0.3%相当)の寄付を発行体が約束するものである。サステナビリティリンクボンドの形態は、概ねSPT未達の場合に発行体が寄付を約束する形のものが定番になって来たようだ。寄付を実行しなかった場合の具体的なサンクションは不明であるが、資本市場における信用を失墜することになるのだろう。投資家は発行体に対してサステナビリティを意識した経営の実行を求めるものの、固定利付である債券の特性を考えると、SPT未達の場合にクーポンがステップアップする等投資家に直接のメリットがなくても構わない。むしろ管理上は、クーポンや償還元本が購入当初から変更される方が、面倒かもしれない。

最後の特徴が電力関連の起債である。前週に中部電力が半端な17年債を募集していたが、この週は東北電力が10年債200億円および20年債100億円を募集し、一般担保条項を付すことができないものの、火力発電、再生可能エネルギー、ガス・LNGを事業とし、東京電力フュエル&パワーと中部電力が半分ずつ出資している株式会社JERAが5年債400億円及び10年債300億円を募集している。50%ずつの出資というだけであれば、親会社から切り離し子会社だけ倒産処理を行うことが法的には可能かもしれないが、東京電力ホールディングス及び中部電力の傘下にある全火力発電所を保有し運営している発電会社であるために、JERAなくして電力の送電も小売も成り立たない。JERAの格付けは、R&IでA+格と中部電力と同水準であり、JCRでAA-格と中部電力を1ノッチ下回る。なお、東京電力フュエル&パワーは格付けを取得していないが、持株会社である東京電力ホールディングスの100%子会社であり、持株会社の格付けはR&IのA-格及びJCRのA格である。基本的に信用力が高い方の親会社に引っ張られていると見て良いだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/8~11/12

引続き、民間企業による社債発行の動きは鈍い。起債観測は色々と聞こえて来ているので、発行体側の資金調達意欲が低下していることはなく、また、米国の金利上昇懸念はあるものの、日本において日本銀行が管理している10年以内の金利水準に見直しは想定されないため、急いで資金調達に走る動きがないものと考えられる。決算発表を乗越え、12月に向けて徐々に社債等の募集が増えて来るものと考えられる。この週では、淡々と公的セクターによる債券募集は続く中で、それ以外の民間企業による社債もようやく募集が始まっている。

まず、公共セクターでは、前週に引続き、地方公共団体金融機構が債券を募集している。前週の30年債は年間の募集回数が限られた年限であり、この週に募集されたのは、同様に募集回数の少ない5年債150億円と毎月募集される10年債300億円である。「スーパー地方債」とも呼ばれる同機構債は、地方公共団体の減債殺基金や地方公務員関連の共済組合等安定的な消化先が少なくなく、デフォルトとなる可能性が低いことから持ち切り運用に適した対象と考えられている。純粋な財投機関債としては、住宅金融支援機構が10年債300億円・15年債100億円・20年債150億円・30年債300億円の計850億円を募集している。20年債のみグリーンボンドの認証を得ているが、機構の果たす役割や期待されるミッションを考えると、認定を取って全体をソーシャルボンドとすることに違和感はないだろう。既に、都市再生機構は2020年8月のソーシャルファイナンス認定取得以降の起債をソーシャルボンドとしており、見習っても良いのではないか。

公共セクターと民間との中間的な発行体で社債を募集したのが、東京臨海高速鉄道である。お台場へのアクセスを提供する第三セクターの鉄道運営会社であり、東京都の出資比率は91.32%とほとんどで、他に品川区も1.77%を保有しているために、実質的に地方債に近い位置づけと考えて良いだろう。もっとも株式会社形態であるために、純粋な地方債とは言えないし、東京都や品川区以外にJR東日本や銀行・保険会社等民間の出資も受けて入れている。それでも、信用力という意味では十分に高い水準にあり、格付けはJCRのAA格と高い。その他に社債を募集したのが、中部電力の17年債120億円というレア年限であり、三井住友海上火災保険の5年債は1,500億円と巨額の募集であった。他に社債等の募集が多くないため、こういった起債が可能になったものだろう。

なお、日本の証券市場で大きなシェアを占めているSMBC日興証券が相場操縦の疑いで証券取引等監視委員会から調査されていることが明らかになり、主幹事や引受証券から外す動きが見られはじめている。業務に関連する不祥事を確認された場合に、投資家は暫時当該会社との取引を見送るのが通例であり、発行体側も同様の行動に出るのは当然だろう。現状では、罪状等が確定しているものではないが、報道されたことで相当程度何らかの処分が下される可能性は高い。刑事訴訟手続きのような「疑わしきは容疑者の利益に」というものではなく、法令違反等のなかったことが確認されたり、処分後に業務改善計画が受領されたりしなければ、当面、取引を自粛することが一般的になるだろう。考えてみれば、金融商品取引法違反であれば、当然、ガバナンスの問題を懸念されるのであり、同社がいわゆるESG関連の債券募集に従事するのは、ブラックユーモアに見えて来るだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/1~11/5

11月に入り、引続き9月末の決算発表シーズンが続くため、民間企業が社債を募集する動きは見られなかった。確認されたのは、地方公共団体金融機構による30年債100億円の募集である。今回は少し同機構の債券募集について振り返ってみよう。同機構は投資家向けに債券募集方針の説明会を行うとともに、四半期ごとに起債方針を明確にしているので、わかり易い発行体の一つである。ただし、後述のように、必ずしもすべてをガチガチに決めているものでもない。

地方公共団体金融機構は公営企業金融公庫(昭和32年6 月設立)の業務を一部引き継いでいるが、国の設立した特殊金融機関ではなく、すべての普通地方公共団体が出資して設立(平成21年6月改組)された特殊法人である。公営企業金融公庫の時代は地方公共団体の公営企業会計に対する貸付目的とした資金調達を行っていたが、改組された後に経済対策の一環として一般会計をも対象にすることとなって、現在の地方公共団体金融機構になっている。そのため、債券形態の地方債募集を行っていないものを含めたすべての地方公共団体にとっての共同資金調達機関であり、信用力はすべての地方公共団体の最上のレベルと考えて良い。しかも、地方公共団体金融機構の発行する債券に対して政府保証が付される政府保証債も発行されている(公営企業金融公庫から承継した債権に関する調達である)。そのため、同機構の信用力は、国債と同程度の高いものとみなしてよいと考えられる。実際に、取得している格付けはR&IのAA+格、ムーディーズのA1格、S&PのA+格と、いずれも国債と同じ符号になっている。

今年度下半期の債券募集計画は、政府保証債以外の債券で、10年債が毎月、20年債が四半期に2回、5年債が年2回、30年債が年2回と公表されている。各回に募集される金額は市場環境等で変動することもあるが、予定額としては10年債が200億円、20年債が100~150億円、5年債及び30年債が100億円とされている。したがって、これらの年限の債券は事前に購入予定が立てやすい。国債対比のスプレッドは信用力と同様に最上位の地方債と同程度であり、投資判断に迷うことは少ないはずである。

これらの定例の募集以外に、スポット債として異なる年限もしくはタイミングでの募集が行われる可能性もある(今年度は予定されていない)他、FLIP(Flexible Issuance Program)に基づく債券募集も行っている。FLIPに基づく債券募集は、基本的に定例募集する年限以外で引受証券会社が投資家を見つけて来て随時(実際には四半期の初めの月が多い)に債券募集を行うものである。最低発行額は30億円とされているようであるが、200億円を募集した例もある。なお、公募債以外に地方公務員共済組合連合会等の地方公務員関連の公的共済組合向けに、年金運用に充てるための縁故債を発行しており、被用者年金一元化の後は、10年債及び20年債を募集している。そのため、定例募集を行っていることもあり、FLIPで10年債と20年債が募集されることはまずないと考えられる。

このように地方公共団体金融機構は、中期から超長期にわたる多様な年限の債券を募集する数少ない発行体であり、国債の流動性供給入札を除けば、もっとも年限の多様性に富む発行体であると言って良いだろう。国債の流動性供給入札は既発債を時価で追加発行するものであり、クーポンが予め定まっているため単価で利回りを調整せざるを得ない。しかし、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券の場合はパー発行が可能なために、より投資家にとって利便性の高い存在である。もっともFLIPで募集される債券を購入するためには、FLIPに携わることを認められている証券会社との関係が重要かもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/25~10/29

日本の上場企業の多くは3月期決算を採用(例外として、繁閑期の異なる小売・流通業や海外等を意識して12月決算を採用する企業がある)しており、第2四半期末分の決算発表のタイミングを意識し社債等の募集が閑散となるシーズンである。こういった状況でも、月初であれば公的セクターの動きが多く見られるのが常なのだが、月末近くでは「公的」の動きもあまり多くない。想定し易い日銀の金融政策決定会合の結果発表を待つまでもなく、一部のやや異なる行動を取る発行体が、債券を募集する動きとなった。

計1,000億円の大型起債を行ったのが、三菱UFJフィナンシャルグループと中日本高速道路の二つであった。前者はTLAC対応債であり、3つの年限のいずれもに期限前償還条項が付されている。償還可能になるのが満期償還の1年前であり、固定利付期間が終了した後のクーポンはユーロ円Tibor変動(「Tokyo Interbank Offered Rate」の略で、TIBORには無担保コール市場の実勢を反映した「日本円TIBOR」とオフショア市場の実勢を反映した「ユーロ円TIBOR」)になる)とされているが、期限前償還の行われる蓋然性は高い。投資家の多くは期限前償還を前提として購入判断を行ったものと考えられる。4年債250億円・6年債460億円・11年債290億円というレアな年限設定の組み合わせも、期限前償還を前提にすると、3年債・5年債・10年債という馴染んだ年限に見えるのであった。もう一つの1,000億円大型起債は、中日本高速道路の5年債である。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的引受条項が付いていることから、実質的な財投機関債と位置づけられるために、格付け評価も高い。三菱UFJフィナンシャルグループの6年債(実質5年債)の当初5年間クーポン0.25%に対して、中日本高速道路の5年債は0.04%と大きく下回る。格付けや規制面での取扱いの差が大きくクーポン水準に影響しているのである。

こういった閑散期に社債を募集する典型企業の一つが光通信である。他の企業とほとんどバッティングしない時期に債券を募集するのは、消化促進の観点からも適正な行動であろう。同社の決算は3月末であるが、第2四半期分の決算発表予定は11月12日となっており、今回募集した社債の払込日である11月4日より遅く設定されている。光通信が募集したのは、5年債100億円・10年債300億円・15年債250億円の計650億円とまとまった金額であり、8月にR&Iが格付けをA-格から1ノッチ格上げしたこともあって、投資家からは好感を持って評価されたようである。

これらの他には、三井住友信託銀行の5年債200億円と日本政策金融公庫の2年債300億円などが募集されている。日本政策金融公庫の2年債は、オーバーパーで応募者利回りが0%となっている。高格付けの財投機関やノンバンク等の2年債及び3年債で見られる設定だが、長期から超長期の金利水準が上昇しても、日銀によるイールドカーブコントロールがしっかりと効いている短めの年限の金利水準は動きそうにもない。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/18~10/22

この週も引続き、起債市場の中心は、グリーンボンド等のSDGs債である。普段取上げていないJ-REITの投資法人債や地方債等でもグリーンボンドの募集が活発に見られている。結局のところ、利回りが低水準にある中で、投資家も社債等の債券を購入する説明(言い訳とも言えるかもしれない)が必要なのである。そういう意味では、以前から主張しているように、SDGs債は投資家に購入するインセンティブを与えるだけでなく、発行体に資金調達を行う名分を与え、引受証券にも手数料を与える三方一両得のツールなのである。だからこそ、曖昧な基準でのSDGs債の認定は市場規律を大きく損なってしまうだけでなく、旗を振っている官公庁等からの信頼を損なってしまいかねない。くれぐれも慎重な取り組みを徹底すべきである。

社債や財投機関債で募集されたSDGs債は、日立造船の5年グリーンボンド100億円、群馬銀行の10年サステナビリティボンド劣後債100億円、日本学生支援機構の2年ソーシャルボンド300億円の他に、NTTファイナンスの3本立てグリーンボンド計3,000億円であった。金額面で見ると、NTTファイナンスの3,000億円は、過去の他の案件と比べても極めて大きい規模である。3年債・5年債・10年債が各1,000億円と各々がグリーンボンドとしても大きく、3年債は0.001%クーポンのオーバーパー発行で実質利回りは0%で募集された。具体的な資金使途は、”新規または既存のNTTグループによる5G関連投資、FTTH(光ファイバー網)関連投資、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた研究開発投資及び再生可能エネルギープロジェクト(風力・太陽光)への投資に充当する予定”とされている。こうした銀行やノンバンクの発行するグリーンボンドの資金使途は、いわゆる広義のグリーンファイナンスであり、金に色がない以上該当するプロジェクトに直接利用されたかどうかが不透明になりかねない。厳格に区分した資金管理と情報開示が求められることになる。

今後も、様々な種類のSDGs債が起債市場を賑わせるようであるが、単純に発行時に宣言された資金使途のみでなく、その後の、モニタリングが必要であり、投資家は債券を購入することによって、その責任を自らが率先して分担していることを自覚するべきである。外聞が良くなるからとか、ESG投資に取組んでいる姿勢を示すからとかの安易な理由で、SDGs債投資に取組むのではなく、株式におけるESG投資と同様にエンゲージメントまでも行う覚悟で取り組むべきだろう。また、SDGs債を認証した認証機関も、枠組みに対して同様の責任を負っている。特に年限の長い債券については、当該債券が残存している限り、関係者は責任を軽減されることがないことを強く認識すべきである。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/11~10/15

例年よりも起債市場の動き出しが速いかもしれないと見たのは、誤りだった。前の週は電力債だけでなく、劣後債や大型起債が相次ぎ募集金額は大きく膨らんだが、この週は劣後債の募集がなく、大型案件も乏しい。総額で500億円を越えたディールは、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの3本立て計800億円(5年債400億円・7年債100億円・10年債300億円)くらいのもので、他は小粒が多くローンチされ、しかも本数も多くなかった。

はっきりした起債の特徴を挙げるとすれば、グリーンボンド等SDGs債の募集が相次いだことだろう。初物である栄研化学の第1回債30億円はサステナビリティボンドの認証を得ており、三井住友トラストパナソニックファイナンスの2本立て起債のうち、5年債100億円のみはグリーンボンドとなっている。更に、味の素の7年債100億円はサステナビリティボンドであった。地方債でも、北九州市は初めてサステナビリティボンド100億円を募集しており、東京都の今回のグリーンボンドは5年債と30年債の各150億円であった。

こうしたSDGs債の募集が目立つのは、投資家の購入意欲を刺激する意味もあり、好ましいものではあるが、果たしてSDGs債としての認証に正当性や確実性があるのか理解し難い起債が頻発すると市場参加者からの信認を失いかねないことを肝に銘じるべきである。具体的に見ると、栄研化学の5年債サステナビリティボンドは、野木事業所(栃木県)における新研究棟建設資金に充当するとしている。資金充当に関するレポーティングを行うことを明示しているが、格付けを付与した日本格付研究所の別部門によるセカンドオピニオンに正当な適格性があるのだろうか。極論すると、社債そのものに社債管理者を設置してモニタリングさせるべきなのではなかろうか。

三井住友トラストパナソニックファイナンスの5年債グリーンボンドについては、「全額を当社が策定したグリーンファイナンス・フレームワークに定める、①エネルギー効率、②再生可能エネルギー、③汚染の防止及び管理並びに④クリーン輸送における適格クライテリアを満たす融資・出資等に係るリファイナンスに充当する」としている。資金の充当状況については、外部監査法人の監査対象にするとしているが、何処まで分別管理が徹底できるだろうか、また、果たして監査法人が十分に把握しきれるものだろうか。

味の素の7年債サステナビリティボンドの場合は、差引手取額9,953百万円のうち、4,314百万円をソーシャルプロジェクトであるニュアルトラ社の株式取得目的で発行した短期社債の償還資金の一部に充当する予定とし、また、715百万円をグリーンプロジェクトである、つばめBHB株式会社への出資により減少した手元資金に充当する予定とし、残額を2023年3月末までに、同様にグリーンプロジェクトであるタイ味の素社への投融資資金として充当する予定としている。しかし、715百万円はグリーン支出によって減少した手元資金への充当であって、必ずしも直接的なグリーンプロジェクトへの支出ではない。また、最終的な残額のタイ味の素社への投融資も、2023年3月末までと最大で1年半の猶予期間があり、その間の運転資金に利用される可能性すら考えられる。「調達資金は概ね2年程度を目途に充当する予定であり、調達資金が充当されるまでの間は、現金又は現金同等物にて管理する」としているが、充当までの現金同等物が分別管理されていることを外部から確認することは必ずしも容易ではないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/4~10/8

下期の起債市場は、例年よりも動きが速いようだ。背景にあるのは、そこはかとなく感じられるようになった日米の金利先高感だろう。米国の場合には、連邦政府債務の上限問題をクリアしたものの、新型コロナ感染症による経済への影響から徐々に脱却しつつあり、11月にもテーパリングが開始されるという観測が高まっている。日本についても、必ずしも米国金利の動向に連動しないものではあるが、自民党総裁選で各候補が打ち上げたバラマキやプライマリーバランス公約の一時凍結などの発言から金利上昇懸念が生じている。財務事務次官が月刊誌で財政悪化に向かう傾向に対して反論するといった前代未聞の状況であり、金利押下げによってメリットを得ている日本政府のスタンスが顕著である。家計も企業も資金余剰にあり、最大の資金不足セクターは政府なのであって、当然、低金利によって最大の恩恵を得ている主体は政府なのである。

10月に入って早速動き出した起債市場ではあるが、すぐに債券等を募集した案件の特徴を、幾つかの単語で表現すると、高速道路、大型起債、電力債、SDGs債、劣後債といったことになるだろう。既に10月1日から首都高速と阪神高速が社債募集を開始しており、8日には西日本高速道路も追随している。3社合計では1,400億円を募集しているが、この額が小さく見えるほどの大型起債が相次いでいる。ソフトバンクの3本立て起債計800億円ですら大型起債には感じなくなってしまう。日本航空の劣後債は1回号で1,500億円を募集し、武田薬品工業は10年債2,500億円を同じく1回号で募集している。また、パナソニックの劣後債は、3本立てで計4,000億円という大規模の募集であった。

電力債では、東北14年債100億円、四国20年債100億円、九州10年債200億円及び27年債150億円、中部10年債141億円及び20年債90億円、関西3年債500億円・5年債300億円・10年債100億円と様々な年限と金額とで募集されている。半端な年限が複数見られているとともに、関西電力の3年債はオーバーパー発行によって0%の利回りを実現している。なお、中部電力の発行金額が141億と奇妙な数値となったのは、公正取引委員会による立ち入り検査を受けて投資家の購入ニーズが減退したことへの対応と考えられる。

SDGs債の募集も多く、東急不動産ホールディングスの10年債はサステナビリティリンク債であり、SPT未達の場合は、環境団体等への寄付を公約している。INPEXの10年債はグリーンボンドであり、東京地下鉄は10年債・30年債・40年債・50年債の各100億円を募集したうち、10年債のみサステナビリティボンドの認証を得ている。なお、前週の阪神高速道路債がソーシャルボンドの認定を得ていたのに続き、西日本高速道路債もソーシャルボンドとしての認定を得ている。SDGs債も引続き、投資家に対するアピール材料となっているようだ。

国内起債市場を斬る 下期初特別号:中国恒大集団の経営危機を考える―その2

今回は、前回より少し広い観点から、中国の恒大集団の経営危機問題についてシンプルに考えてみたい。前回も触れたように、この不動産市場最大のプレイヤーの明暗は、中国政府の政策如何に委ねられているのである。特に足元の中国政府は、極端な富裕層を抑制し、国民全体(と言っても、新疆ウィグル地域の住民が念頭に入っているとは思えないし、此処では沿岸主要大都市に居住する漢民族を想定しよう)が共に豊かになる道を目指そうとしている。その中で、巨大企業に対する規制が強化されており、過去に認められていた特権的な立場を富裕層から剥奪される方向にある。従って恒大集団に対し公的資金の注入で経営支援することは考え難く、既に報道が見られているように、同様に不動産バブルに踊った複数の不動産会社が破綻へと連鎖する可能性は高い。

日本での不動産バブルの破裂にも見られたように、巨大不動産会社は金融機関からの借入れを利用して自転車操業的に新規物件を建設し、即売却するサイクルを継続しており、金融機関への影響が生じる場合には、経済全体への影響が生じる可能性は否定できない。そのため、日本では法律を整備し監督を強化する中で、金融機関への公的資金を注入することで、金融システム不安から経済の機能不全へと陥ることを回避したのである。それでも、「失われた三十年」と呼ばれるように、経済の長い停滞は続いた。そもそも中国の経済統計に対する信頼性は必ずしも高くないが、ますます経済の停滞感は強まることだろう。そうは言っても、日本のGDP成長率よりは高い数値を発表することは、既定路線なのかも知れない。

恒大集団の破綻が生じた際に懸念されるのは、仮に金融機関への影響を抑制できたとしても、個人投資家への多大な影響である。この数十年間、中国の経済を回してきたのは、経済の高成長から得られる利益を享受できる個人投資家向けの金融商品であった。お金儲けの大好きな漢民族にとって、共産主義による抑圧からの解放は、その反動も含めて投資から投機による蓄財へと移行するものとなった。株式投資による果実は当然の利益であり、更に、理財商品と呼ばれる様々な投資商品が個人の投資対象となっている。理財商品には様々な形態を取るものがあり一概には定義しづらいが、SPCのようなプラットフォームを活用した資金集めと成功報酬的なリターンの還元等が特徴であり、こうしたシャドーバンキングによる資金調達が中国経済の成長を支えてきたのである。

筆者も二十年程前に中国本土での資産運用を検討したことがあるが、理財商品は高利の魅力的なものであるものの、スキームに登場する関係者が破綻した際の投資家保護とディスクロージャーが十分でなく、安定的な運用対象になり得ないと判断した。恒大集団の経営危機で既に理財商品の損失が発生しているようであり、国民経済への影響は少なからず生じることになろう。既に報道されているように、損失の発生から自殺をほのめかすような投資家も見られており、そもそも、そのような全財産を投機に賭けるような投資姿勢は、国内バブルを見てきた我々サラリーマン投資家には極めて不適切と決めつけてしまう。
お金儲けに血道をあげる中国の民族性は、その歴史的背景と中央政策に帰結するのであろう。歴史的背景とは、投資分散といったリスク管理の原点からとかく逸脱し、また、政府による投資家の保護は、預金保護と異なって、到底期待し難い、という点である。共産主義的なみんなで豊かさを目指す環境の中では、過度な投資で自分だけが豊かさを目指す行為は不適切と評価され、市場の反転局面では、当然の報いを受けることになる。その結果、中国経済は、高い成長率を維持することが難しくなるのであろう。

結局のところ、中国政府がどのような支援策・収拾策を投入するかで、今後の市場や経済全体への影響が大きく異なって来るだろう。過度な公的資金の投入は中国国債の信用力を低下させることになるし、世界国債インデックスへの算入がはじまる中での信用力低下は避けたいはずである。まずは、中国政府の動向を注視しつつ、債券市場は淡々とデフォルトを迎えるしかないのではないか。影響が大きくなって来た場合に世界経済への影響を考慮する必要も考えられるが、それは中国国内での影響や対応が判明した後であり、まだ暫く先のことになるだろう。(本稿終わり)

国内起債市場を斬る 上期末特別号:中国恒大集団の経営危機を考える―その1

上期末を挟むこの時期は、起債市場で新規に社債等を募集する動きが見られなくなることもあり、少し巷を騒がせている問題を考えてみたい。いわゆる中国恒大集団の経営危機問題である。今回は主にクレジット市場や債券市場の観点から、次回は金融機関や経済への影響という観点から、と分けてみよう。

中国の不動産企業に明らかな構造的問題があることを意識されるようになったのは、何もこの数カ月といった時間軸の話ではない。新たな物件を建設し、売却資金で再び新規物件の建設に向かうといったビジネスモデルは、日本のかつてのバブル期にも似たものがあり、更には、不動産に対する所有権を認めない中国政府の方針から、より顕著な動きとなったのが痕跡に入った頃だったろうか。人口の大きな大都市はともかく、地方都市等に建設された高層マンション等が建設途上で打ち捨てられたり、竣工していても人の済まないゴーストマンション(現地では”鬼城”と呼ばれる)化していたといった報道は散見されていた。いつかは破裂する中国の不動産バブルと意識されてから、随分と長い年月が経過しており、中国政府は上手に対応しているという認識すらあったのではないか。しかし、それにも当然限界は存在する。

結局のところ、中国の不動産バブルは必ずいつか崩壊するものと思われており、特に当事者がそれに気付かないか、気付かないふりをしていたのも、典型的なバブル現象だったのである。リーマンショックの前段にあったモーゲージやCLOのバブルも、そろそろ破裂するのではと思われはじめてから、数年ほども長く継続した。バブルは外から気付くことが出来ても、外から破裂するタイミングを予想するのは難しい。そもそも、世界で最も最初の”
「バブル」であったとされるチューリップ(チューリップ・バブルのピークは1637年と一般的に言われている)にしても、本源的な価値は花を愛でるだけであったのが、ブームが過熱して建物等と同等にまで球根の価格が跳ね上がり、それが突然、急速に醒めてバブルが崩壊したのである。バブルの直中にいたら、それこそ醒めるまで気付かない、というのが、日本のバブルでの私たちの経験でもあろう。

既に恒大集団の発行した一部の債券で、利払いを停止されたことが報道されている。利払いに猶予期間の設定がない人民元建て債券の利払いを優先し、猶予期間が設定されているドル建て債券の利払いを延ばしたのは当然であり、現時点ではデフォルトの認定はされない。しかし、デフォルトが時間の問題であることは自明であろう。利払いに窮している発行体が、元本の償還による巨額のキャッシュアウトフローに対応できるとは思えない。しかし、借換債の発行や金融機関からの借入れが可能なら、資金繰りに窮しても延命できる可能性はある。中国の経済システムにおいては、鍵を握るのが政府の姿勢であることは明白であろう。日本においても、日本航空に公的資金を注入する際にデフォルト処理を行い、株式や社債の保有者には実損が生じた。一方、金融機関への公的資金の注入に際しては、特にメガバンクの場合、破綻処理は実施されていない。国民からの反発や経済への影響など様々な要素を考慮する必要はあるが、近年の中国政府は、特に大企業への締め付けを強化しているように見えることから、恒大集団に対して特別な支援を行わないのではないかという観測が強い。となれば、早晩、恒大集団は破綻することになるのではないか。

企業が倒産した場合に、日本の場合は株式が無価値になり、社債の弁済率は10%程度になるのが一般的である。デフォルトした社債の弁済率は、欧米の事例よりも一般的にかなり低い。その背景には、ギリギリまで破綻を回避することに加え、取引銀行が貸付の回収を優先するため、社債権者への弁済にあまり回らないという構造がある。いわゆる社債間限定同順位特約による社債の劣後性であるが、果たして中国の社債がデフォルトした場合に、どの程度の債権回収が可能になるだろうか。2010年代後半から中国で社債のデフォルトは多く見られており、弁済率は日本のそれとあまり変わらない水準である。どうやら恒大集団の社債がデフォルトした場合も、建設途上の物件の価値や手広く展開した多角化した事業内容等を考えると、高い弁済率は望めない可能性が高いと覚悟しておいた方が良さそうだ。(次号に続く)

国内起債市場を斬る 起債評価:9/13~9/17

おそらく上期末の起債は、この前の週がピークだったのだろう。カレンダーを見ても、翌週は敬老の日と春分の日によるシルバーウィークとなっており、募集から払込までの期間を考えると、9月中の募集はほとんど残っていないと考えられる。

こういった状況では、フリークエントイシュアーよりも、レア物の起債が目立って来る。日本発条(ニッパツ)の第9回5年債100億円、中央日本土地建物グループの第3回5年債50億円、KYBの第1回5年債70億円、DOWAホールディングスの第6回5年債100億円といったところが、シニア債として募集されている。また、劣後債を見ると、ツバキ・ナカシマが100億円、三菱HCキャピタルが1,000億円、横浜冷凍が100億円とそれぞれ第1回の劣後債を募集している。注意したいのは格付水準であり、幾ら劣後債がシニア債と比べて1ノッチ程度下回った符号になるものではあるが、ツバキ・ナカシマの劣後債はR&IのBBB-格であり、横浜冷凍の劣後債はJCRのBBB格である。予定通り期限前償還されるとすれば、両者とも7年債であるが、期限前償還されなかった場合、最大で前者は30年債となり、後者は37年債である。この水準の格付けの銘柄に、そこまで長期の与信を行う投資家は、正気と思えない。劣後債によるプレミアムの上乗せによる利回りの高さと、期限前償還への期待だけに捕らわれているのではないか。

翻って日本国内の円債市場以外に目を向けると、9月に入ってドル建てやユーロ建てなど、海外での調達を行う国内企業が増えている。募集される市場もユーロ市場あり、米国SEC登録のRule144A債ありと様々であるが、主な銘柄を挙げても、メーカーではデンソーが5年債5億ドル、商社では丸紅が5年債5億ドル、鉄道ではJR東日本が7年債3億ポンド・13年債5億ユーロ・18年債7億ユーロとある。更に、もっとも目立ったのが金融セクターである。千葉銀行の5年債3億ドル、みずほFGは8年NC7年債10億ユーロに加えて、10年劣後債を10億ドル、三井住友信託銀行は3年債7.5億ドル・3年変動利付債7.5億ドル・5年債7.5億ドルと、様々な年限・通貨での募集が見られる。また、農林中央金庫が今世紀に入って初めて5年債と10年債を各5億ドル募集している。

外貨建ての起債に関しては、メーカー等では買収などに伴う実需があり、金融機関等では外貨ニーズへの対応という側面もあり、また、グローバルな幅広く多様な投資家に対してニーズに即した社債を訴求するという面もあるが、為替レートの変動や見通しによって機動的に募集していることも考えられる。中でも、デンソーがサステナビリティボンド、農林中金がグリーンボンドとしての認証を取得しており、世界的な投資家のSDGs債に対するニーズに対応しているように見える。決してSDGs債に対する国内機関投資家のニーズが小さいとは思えないが、国内では金融債があるため社債を発行しない農林中金が、久しぶりにドル債の起債へと動いたことには注目しておきたい。