国内起債市場を斬る 起債評価:9/13~9/17

おそらく上期末の起債は、この前の週がピークだったのだろう。カレンダーを見ても、翌週は敬老の日と春分の日によるシルバーウィークとなっており、募集から払込までの期間を考えると、9月中の募集はほとんど残っていないと考えられる。

こういった状況では、フリークエントイシュアーよりも、レア物の起債が目立って来る。日本発条(ニッパツ)の第9回5年債100億円、中央日本土地建物グループの第3回5年債50億円、KYBの第1回5年債70億円、DOWAホールディングスの第6回5年債100億円といったところが、シニア債として募集されている。また、劣後債を見ると、ツバキ・ナカシマが100億円、三菱HCキャピタルが1,000億円、横浜冷凍が100億円とそれぞれ第1回の劣後債を募集している。注意したいのは格付水準であり、幾ら劣後債がシニア債と比べて1ノッチ程度下回った符号になるものではあるが、ツバキ・ナカシマの劣後債はR&IのBBB-格であり、横浜冷凍の劣後債はJCRのBBB格である。予定通り期限前償還されるとすれば、両者とも7年債であるが、期限前償還されなかった場合、最大で前者は30年債となり、後者は37年債である。この水準の格付けの銘柄に、そこまで長期の与信を行う投資家は、正気と思えない。劣後債によるプレミアムの上乗せによる利回りの高さと、期限前償還への期待だけに捕らわれているのではないか。

翻って日本国内の円債市場以外に目を向けると、9月に入ってドル建てやユーロ建てなど、海外での調達を行う国内企業が増えている。募集される市場もユーロ市場あり、米国SEC登録のRule144A債ありと様々であるが、主な銘柄を挙げても、メーカーではデンソーが5年債5億ドル、商社では丸紅が5年債5億ドル、鉄道ではJR東日本が7年債3億ポンド・13年債5億ユーロ・18年債7億ユーロとある。更に、もっとも目立ったのが金融セクターである。千葉銀行の5年債3億ドル、みずほFGは8年NC7年債10億ユーロに加えて、10年劣後債を10億ドル、三井住友信託銀行は3年債7.5億ドル・3年変動利付債7.5億ドル・5年債7.5億ドルと、様々な年限・通貨での募集が見られる。また、農林中央金庫が今世紀に入って初めて5年債と10年債を各5億ドル募集している。

外貨建ての起債に関しては、メーカー等では買収などに伴う実需があり、金融機関等では外貨ニーズへの対応という側面もあり、また、グローバルな幅広く多様な投資家に対してニーズに即した社債を訴求するという面もあるが、為替レートの変動や見通しによって機動的に募集していることも考えられる。中でも、デンソーがサステナビリティボンド、農林中金がグリーンボンドとしての認証を取得しており、世界的な投資家のSDGs債に対するニーズに対応しているように見える。決してSDGs債に対する国内機関投資家のニーズが小さいとは思えないが、国内では金融債があるため社債を発行しない農林中金が、久しぶりにドル債の起債へと動いたことには注目しておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/6~9/10

上期末の「起債ラッシュ」の様相を呈して来た。金額・本数とも顕著に大きくなっている。ただし、本数は例年よりも抑制気味か。金利先高観は少なくとも日本国内には見られない。また、発行体も、メーカー、電力、商社、公的機関、ノンバンク、通信、小売と様々である。年限という意味では、成田国際空港の1年債というレアな年限が募集されている。その一方では、地方公共団体金融機構が20年債を募集したものの、それ以外に超長期債の募集が見られないというのは珍しいかもしれない。

こういった起債が多く見られる局面では、初物ではないがレアなイシュアーが債券を募集することがある。回号の若い募集例を見ると、イチネンホールディングスの第6回3年債及び第7回5年債や、センコーグループホールディングスの第10回10年債、青山商事の第2回3年債及び第3回5年債といったものが見られる。これらの銘柄は格付けを見ると、イチネンホールディングスがJCRのBBB+格、センコーグループホールディングスがJCRのA-格、青山商事がR&IのA-格と決して高水準ではない。珍しい発行体のやや格付けの低い社債が、起債ラッシュの中で出て来たというところだろう。

この週でもっとも金額を稼いだのは、ソフトバンクグループの劣後債である。いずれも7年債で、個人投資家向けが4,500億円で機関投資家向けが500億円の計5,000億円という大型案件であった。劣後債ということもあって、格付けはJCRのBBB+格である。そのため、クーポンは2.4%と普通の社債では全く見ることの出来ないような高水準になっている。発行体の信用力の安定性に疑念を持つ機関投資家よりも、「ソフトバンク」という馴染みの社名に期待する個人投資家向けに巨額の社債を発行するというのは、同社の過去からの戦略のように思われる。しかし、実態としては、ソフトバンクグープは持株会社であって、事業の本質は投資会社である。CM等で馴染みのある通信事業は子会社が営んでおり、別途、社債の発行も行っている。国民生活のインフラとなっている通信事業は、認可事業でもあり、万一の場合でも単純な破綻処理となることはないと予想されるが、投資会社については、また、異なる観点からの評価が絶対に必要である。

投資会社の発行した劣後債の信用力に信頼を置けるかどうかについては、過去の実績も当てにならないし、政府等による支援の有無も予測しづらい。まさに投資よりもギャンブルに近い。海外展開も含め、M&Aの成否や投資先の状況等をすべて予測することは、不可能に近い。また、ソフトバンクグループがメインバンクにとって、「Too Big To Fail」になっていると評価する意見もあるが、メインバンクのみずほ銀行は度重なるシステムトラブルによって監督当局からの信頼を失墜しており、週刊誌等では分割して他行と統合すべきといった極論も見られている。メインバンクの支えが期待し難い状況で、巨額の有利子負債を抱え、投資先の含み益に依存した財務構造を有する投資会社の信用力は、はたして7年間安定を維持することが可能だろうか。7年は短いようで、十分に長い年限である。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/30~9/3

起債市場の動きは活発である。中でも、募集金額で目をひいたのは、野村ホールディングスのTLAC対応債1,200億円と、三菱商事の劣後債1,300億円である。前者は劣後債ではないが、総損失吸収力規制に対応したものであり、国際的な金融システムに影響を及ぼすような規模の金融機関持株会社が危機に瀕した際に、納税者に負担させることなく、つまり、公的資金の注入を抑制して処理するために募集する債券である。つまり、危機時には、社債の保有者が損失を負担することになるものである。結果として、社債権者からすれば、劣後債と類似した損失負担を強いられる可能性のある債券である。このような損失負担リスクを負うため、プレミアムが乗った利回りを得ることができる。

今回火曜日に募集された野村ホールディンスのTLAC対応5年債は、0.28%クーポンである。格付けは、R&IのA格及びJCRのAA-格であった。一方、翌日に募集されたR&IでA+格及びJCRでAA格と格付会社によって水準は異なるものの1ノッチ上の評価を得る中部電力の10年債が、同じ0.28%クーポンになっている。電力会社の募集する債券にも、原発事故等の共同負担を強いられる可能性という業界独自のリスクが存在し、一方で、一般担保付と他の多くの債権に回収を優先できる特性がある中で、中部電力の10年債と同じクーポンとなった5年債に投資妙味を感じる投資家は少なくないだろう。しかし、損失負担を求められる可能性を無視するのは適切ではない。

この週は、複数の劣後債の募集が見られる。前述の三菱商事の劣後債は、5年経過時点に期限前償還が可能な仕組みで、当初クーポンは0.51%である。格付けはR&IのA格であり、野村ホールディングスのTLAC5年債と同じ符号であるのが面白い。一方で、問題視されるべきなのが、イオンの劣後債だろう。劣後債の格付けは、R&IのBBB格を取得している。今回の募集は既発劣後債の期限前償還対応と短期借入金の返済目的とのことであり、第8回債400億円は30年債で期限前償還は10年経過以降、第9回債300億円は35年債で期限前償還は15年経過以降である。つまり、期限前償還が必ず行われると考えても、10年債と15年債なのである。イオンの長期債務に付されている格付けは、R&IのA格とS&PのBBB格である。

果たして、A格の小売業に10年や15年といった与信を積極的に行えるだろうか。小売業は不動産業と並んで、過去に公募社債がデフォルトした代表的な業種であり、それは事業特性から見ても、決して違和感がない。一般的なメーカーに比べると、小売業の収益安定性は高くないように思えるし、積極的な投資による出店や買収等の失敗によって債務超過に陥ったり、過大な有利子負債の負担に苦しんだり、といった構造が目につき易い。かつて小売流通大手だったとされる企業がどれだけ現在のイオングループに統合されているかを考えても、果たしてイオンの優位性が10年、15年といった長い期間保てるだろうか。そこまでのリスクを考え、状況によっては期限前償還が実施されないリスクを考えると、決して投資妙味の高い債券には見えないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/23~8/27

ようやく8月の起債市場が本格的な動きを見せるようになった。主として東京オリンピックと旧盆の夏休みによる影響であったが、基本的には、これから上期末最後となる募集期間に向かう時間帯である。例年であれば、電力や鉄道、ノンバンクといったフリークエントイシュアーだけでなく、メーカーの起債も見られ、更には、新顔の発行体も加わって起債ラッシュに近い状態となることも珍しくない時期である。今年は敬老の日が9月20日の月曜日とやや遅めになるため、ギリギリで9月17日の金曜日まで募集が行われるそうなカレンダーの並びである。

8月23日の週に債券を募集した発行体は、それまでの財投機関等主体と打って変わって、民間の事業会社が中心になった。業種としては、鉄道、メーカー、電力、サービス、ノンバンク、高速道路といったところである。年限も、3年債から通常の35年債まで様々であり、DNG森精機の劣後債は5年経過以降に期限前償還されなければ永久債である。格付けも幅が広く、もっとも高いのはR&IでAA+格およびJCRでAAA格の西日本高速道路であり、もっとも低いのはR&IでBBB格のタケエイである。DNG森精機の永久劣後債もR&Iから同じくBBB格を取得しているが、劣後債とシニア債では格付けの意味するところが若干異なる。利回りに目を転じると、オーバーパー発行で0%利回りとなったのが京成電鉄とオリエンタルランドの3年債および西日本高速道路の2年債であり、もっとも高いクーポンを付されたのがJR東海35年債の0.897%であり、それに次ぐのが東京電力パワーグリッドの15年債0.88%であった。DNG森精機の永久劣後債の当初5年は0.9%クーポンであり、期限前償還を前提にすると、実質5年債の0.9%クーポンで最も高いと評価できる。

このように、DMG森精機の永久劣後債が、格付けの面でも利回りの面でも、際立った水準であるが、期限前償還されない場合には、永久債となってしまうリスクがある。5年経過後のクーポンは、1年物国債利回り+2.015%の変動になる仕組みであり、1年物国債の利回りが大きくマイナスに沈んだ場合には、発行体に期限前償還しないインセンティブが生じる可能性もある。事業会社の発行した劣後債が投資家の期待通りにファーストコールされるかどうかは、もう少し実例の蓄積を待った方が良いだろう。あくまでも発行体によるオプション行使の有無であり、行使しないことが資本市場において容認されるかどうか、仕組みの吟味、格付会社の資本性評価と、参加者の受取り方によって大きく左右されるだろう。

年限と利回り、格付けを総合的に考えると、8月にR&Iが格上げと評価した東京電力パワーグリッドの10年債0.68%や15年債0.88%が魅力的に映る。しかし、温室効果ガスの排出に対する世界的な抑制が進む中で、長期や超長期の与信がどう評価されるかは不透明感が拭えない。それが利回りの高さの源の一つである。一般担保付という特性は電気事業法の附則に落とされており、当面は、かつて見られた強い信用力サポートの効果があると思われるが、附則が修正されなくても経済産業大臣による認定を失うことで、将来の電力債が持つ信用力に影響が生じる可能性がある。枠組みが変わらなければ、格付け対比で魅力的な利回りが得られるのが電力債であるが、劣後債の期限前償還と同様に、先行きの不透明感がその根底にあることを忘れてはならないだろう。

国内起債市場を斬る グリーンボンド特別号:東京電力リニューアブルパワーの起債へ

旧盆休みが明けたばかりの起債市場では、引続き起債観測が幾つか上がって来るものの、具体的な条件決定から募集に至った案件は財投機関債のみで、20日に募集された鉄道建設・運輸施設整備支援機構の5年債および20年債各100億円と、日本学生支援機構の2年債300億円のみであった。前者の鉄道建設・運輸施設整備支援機構はいずれもサステナビリティボンドの認証を得ており、後者の日本学生支援機構はソーシャルボンドとしての募集である。どちらの発行体も以前の起債から、これらSDGs債としての認定を取得して債券を募集しており、各機構の業務内容を考えても、認定を受けることに違和感がない。結果として、クーポンは低水準であり、日本学生支援機構の2年債はオーバーパー発行で利回りは0%である。それでも投資家の超過需要が集まるのであるから、財投機関の公益性とSDGs債という認定の効果は侮れない。特に、3年の高格付け社債での0%利回りを見慣れると、2年の財投機関債の0%利回りは十分な割安に見えてしまう。また、同年限の国債と見比べても割安に見える。

民間企業による社債募集に向けた動きが様々に見られる中で、一つの新しい発行体の動きを取上げたい。発行体の名称は、東京電力リニューアブルパワーである。先週の当MDWで取上げた東京電力グループ3社の中の一つであり、8月5日にR&Iの格付けがBBB+格からA-格に評価を引き上げられたばかりの発行体である。18日に公表された起債の見込みは3年債100億円であり、東京電力グループ初のグリーンボンド認定を受けての発行が予定されている。グリーンボンドとしての認定は、ICMA(International Capital Market Association:国際資本市場協会)のグリーンボンド原則2021と環境省のグリーンボンドガイドライン2020年版に基づいており、DNV(Det Norske Veritas group)ビジネス・アシュアランス・ジャパンによって適格性を確認されたことが発表されている。DNVビジネス・アシュアランス・ジャパンは神戸に日本地区本部を置く”全世界80認定のもと、88,000件以上のマネジメントシステム認証および製品認証を有する第三者機関”である。

東京電力リニューアブルパワーは、東京電力グループの中で再生可能エネルギーによる発電事業を展開する子会社であり、カバーしているのは、水力発電163か所約987万kw、風力発電2か所約2万kw、太陽光発電3か所約3万kwである。地熱発電を持ってないか調べると、八丈島に建設した地熱発電所を閉鎖したため、現在は保有していない。日本は火山国であり地熱エネルギーは豊富に存在するのだが、国立公園等観光資源化されているものが多く、地熱発電所を建設することは容易でない。いわゆる東京電力管内(現在は電力小売りの自由化によって、以前のような管轄エリアの概念は適合しない)では、那須や伊豆に民間や地方自治体の建設した小規模な発電施設が存在するのみである。他の地域であれば、東北電力と九州電力が複数の地熱発電施設を有しており、北海道電力も森地熱発電所を有しており、再生可能エネルギー利用拡大の観点からは、更なる活用が期待される。

この発行体は、古典的な水力発電と、風力発電および太陽光発電と再生可能エネルギー活用の発電事業に特化し、原子力発電を含まないのであるから、グリーンボンドの発行体としての適格性は容易に想像できるところである。ノンバンク等のファイナンスによる迂回的なグリーンボンドではなく、再生可能エネルギーによる発電事業という直接的なグリーンボンドであり、投資家も購入判断が容易であると思われる。また、東京電力パワーグリッドの既存債券を参考にできることから、価格の適正評価も行い易いことだろう。前回に取り上げた東京電力リニューアブルパワーを含む東京電力グループ3社の格上げは、この東京電力リニューアブルパワーによるグリーンボンドの発行を視野に入れていたと考えるのは穿った見方だろうか。あくまでも結果論として考えておこう。

国内起債市場を斬る 東京2020特別号:東京電力Gの格上げで考える

旧盆の休みを挟む時期では、民間企業の社債は今月下旬からの募集に備えた準備が主になり、実際の債券募集に動く発行体としては、引続き公的セクターに限られる。募集された地方公共団体金融機構の10年債は、前月の0.09%を上回ったものの、クーポンは0.1%でしかない。理論的に、機構の信用力は、地方公共団体の中でもっとも信用力の高いものとリンクする構造にあるが、前回触れたように、新型コロナウイルス感染症蔓延に対応した給付金等支出と税収の減少、加えて東京オリンピックの巨額に上る赤字負担で東京都の財政状況は大きく悪化している。その影響は、結局、地方公共団体金融機構の信用力にも及ぶ。何しろ最終的な局面に至った際に、日本政府の支援を法律的に期待できない仕組みとなっていることを忘れてはならない。長引くコロナの影響を考えると、中長期的な信用力悪化の影響は国債、地方債、社債等様々な箇所で見られるようになる可能性がある。

結局のところ地方公共団体の信用力は日本政府の信用力に支えられる構造にあるが、同様に政府に支えられると考えることの出来る民間企業に対する評価に、今月に入って変更があった。具体的には、R&Iによる東電グループ3社に対する格上げである。3社の格付けは同水準であり、2017年以降の社債発行体は東京電力パワーグリッド(以下、PG)である。8/5に公表された格上げは、BBB+格からA-格への引き上げであった。複数の格付会社から異なる水準の格付けを見る場合に、保守的にもっとも低い水準の符号を見る投資家にとっては、Aゾーンへの格上げであり、発行体に対する評価の変わる可能性がある。海外系の格付会社の東京電力ホールディングスに対する発行体評価は、S&PがBB+格であり、ムーディースはBaa3格とまだ低い水準にあるが、海外系の格付会社と国内2社の評価を同水準のものとして考える投資家は、まず、存在しないだろう。海外系の格付会社による格付けは、金融機関や総合商社を除くと極めて少ない対象にしか格付けを付与されておらず、同列に扱うことはバランスを不当に失するものと見られるからである。

代表的な債券市場インデックスであるNOMURA BPI総合への銘柄組入基準はA-格以上であるが、元々JCRのA格として算入されていたため、今回の格上げは直接影響しない。しかし、BBBゾーンからAゾーンと添え字でなく符号が変化したことは、象徴的な意味も大きい。そもそも、東日本大震災と福島第一原発の事故を経て政府による支援が実施され、今後もコミットが無くなるものとは考え難いからである。決して日本国債と同等の格付けであるべきとは思わないが、これまでの評価が低過ぎたのではなかろうか。R&Iによる今回の格上げの理由を、同社のプレスリリースから抜粋すると、『今回の格上げは、原発事故処理のために用意された各種の枠組みが今後も十分に機能し続け、東電グループの財務リスクが低減すると判断したことが主な理由だ』である。果たして、東日本大震災から約10年半が経過した今夏に格付けを変更する理由として十分なものと考えられるだろうか。格付けは必ずしも数量的な分析だけに基づくものではなく、継続的に対象企業と業界を観察するアナリストの判断を加えたものであると考えられる。しかし、このように、必ずしも十分な説明とは思えない変更理由を提示されると、以前の評価が誤っていたと認めることに等しいのではないか。格上げを嫌う投資家も発行体も存在しないと思われるが、格付会社は自分の判断について利用者が十分に納得できるような説明を対外的に行うべきであろう。

国内起債市場を斬る 夏季特別号:東京オリンピックが終わって

東京オリンピックは、概ね大過なく終了したと言って良いだろう。あれだけ開催の延期や反対を訴えていた世論も、選手に対する誹謗中傷を浴びせたー方々も、結局熱戦やメダル獲得に一喜一憂し、開閉会式や決勝種目等の視聴率は良好であった。逆に、オリンピック終了後の反動として新型コロナウイルス感染症の蔓延が懸念される状況にあるし、政権への批判も再度盛り上がる可能性が高い。また、当初計画のコンパクトなオリンピック開催とはならず、国立競技場の建て直しをはじめ、少なからずの新規施設の建設が行われてしまっている。オリンピックの終了が債券市場に与える影響を考えてみたい。

おそらく民間企業のクレジットという意味においては、好悪双方の材料は少ないと思われる。海外からの選手団にコンビニやアイスクリーム等の食料品が高い評価を得たと報道されているが、国内では日常のことである。金メダルに噛みつくという愚行を謝罪に来た名古屋市長を毅然と門前払いしたトヨタ自動車も、地域経済の中心を担うトップ企業だからのことであって、信用力に対する大きな懸念とはならない。なお、今回のオリンピック期間中にスポンサーでありながら、オリンピック関連のCMを展開しなかった同社は、準備していたはずのCMの製作費という意味ではロスが生じているものの、経営に影響が及ぶような金額ではないだろう。結果的には、CMを活用しても企業イメージの低下するようなことはなかっただろうが、それは結果論である。
そんな中で、SNSでも話題になっていたのが、東京2020のワールドワイドパートナーである同社の電気自動車「TOYOTA Concept-愛i」であった。同車は、2017年モーターショーで既に一般公開されていたが、女子マラソン、男子マラソンの先導車両を務めたことは、イメージ向上効果は絶大だったようだ。

一方、オリンピック(および月内に開会するパラリンピック)によって長期間に悪影響が生じると思われるのが、公的セクターの財政状況である。施設建設の費用のみならず、運営費用に関して、結局、ほとんどの競技が無観客となったため、900億円程度と言われる入場料収入が見込めない(正確に言えば、これから払戻しでキャッシュアウトが生じる)。当初想定より費用は大きく増加しており、東京都及び関連地方公共団体と日本政府の負担規模は、1兆円程度になるという報道も見られる。平時であれば、時間を要するものの、吸収できる負担であるはずだが、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けている現状では、様相が異なる。潤沢と言われた東京都の財政状況も、新型コロナ対策で大きく財政調整基金等を取り崩している。川崎市が2021年度から地方交付税の交付団体になったことが報道されているように、コロナの影響は徐々に地方公共団体の財政状況を蝕んでおり、特に東京都は、オリンピックの負担次第では、財政状況が大きく悪化する可能性がある。

結局のところ、日本の地方公共団体の財政は政府の保障する制度下にあり、東京都の財政状況が大きく悪化した場合、東京都債のスプレッドが多少拡大することになっても、デフォルトする懸念はない。財政破綻したと言われる北海道夕張市でも、過去に同様の財政再建団体の指定を受けた多くの地方公共団体においても、公募や私募の証券形態の地方債が償還されなかったことはない(公募地方債の発行団体が財政再建団体に指定された例はない)。利払負担を軽減するために早期償還させたくらいである。東京都の財政への影響がいかほどの物かは、パラリンピックの終了後に明らかになると思われるが、新型コロナの影響は、まだまだ継続しそうな状態である。既に京都市等財政状態を懸念される地方公共団体が見られはじめており、オリンピック等が財政に与える影響は軽微なものに過ぎない可能性がある。しかし、結局のところ、最後に地方公共団体の財政について面倒を見るのは、日本政府である。オリンピックとコロナの影響で、どれだけ日本の財政が悪化するのか、注目すべきは地方債より日本国債のスプレッドなのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/26~7/30

7月最終週の起債市場は、東京オリンピックが開催されているためか、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が増加し在宅勤務が増加しているためか、条件決定し募集に至る動きが乏しくなった。国や東京都からのテレワーク要請を受けて在宅勤務が増えているのは、投資家や引受証券だけでなく発行体もなのである。一昨年までとは全く異なる市場環境であり、昨年の7月下旬はやや感染に対する懸念が薄れ始め、7月22日から東京都を除いてGo Toトラベル事業が開始された時期であった。昨年7月の最終週も民間企業による社債募集の動きは見られず、公的団体による債券の募集のみであったから、時期的に閑散であるという要素も否定できない。他の時期なら社債等の募集が集中する金曜日も、この週は住友不動産による募集のみであった。

住友不動産が募集したのは、第110回10年債100億円である。同社の格付けは、R&IのA+格及びJCRのAA-格となっている。古くからクレジット市場を見て来た人間にとっては、感慨深いものがあるかもしれない。今から21年前の2000年1月に同社の格付けを、R&IがBB+格に引き下げていた。同社による公募普通社債は、前年の1999年5月から数年間にわたって、ほとんどが個人投資家向けであり、機関投資家向けのものも含め、例外はあるものの社債管理会社が付されたものばかりであった。機関投資家から社債管理者不設置債で資金調達できないために、個人投資家中心に資金調達を行っていたのである。他に金融機関からの借入れもあっただろうが、機関投資家には頼らないというスタンスを示した発行体である。その後の格付けの回復は見てのとおりであり、「投資不適格」というレッテルが必ずしも適切ではないことを端的に示した実例なのである。なお、償還まで1年以上の期間がある残存社債のうち、もっとも古くに募集された第89回債は2013年に募集された10年債であり、クーポンは1.098%と、今回の第110回債の0.26%から比べると、4倍以上の高い水準である。

今回の社債発行によって調達した資金は、不動産賃貸事業の新規開発投資に充てるものとされており、最近流行しているESG関連の資金使途とはされていない。しかし、だからと言って、住友不動産がESG経営に消極的ということではない。同社のHPを見ると、浮利に趨(はし)らず以下の「住友の事業精神」が基本使命・行動指針として掲げられ、以下、サステナビリティ体制、SDGsへの取り組みと説明し、更に、E・S・Gの3要素について各々の取り組みを紹介している。つまり、決してESGを意識していないどころか、東証一部上場企業に相応しくESGを十分に意識した経営を行っている企業である。同社は、FTSEが算出するFTSE Blossom Japan Indexの構成銘柄であり、十分にグリーンボンド等SDGs債の発行を検討しても良い発行体であると考えられる。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/19~7/23

東京オリンピック開催に向けた祝日の変更によって週の営業日が3日に限られると、起債は多くなりようがない。しかも、休み明けの月曜日にいきなりは動きづらいため、結果として社債等の募集日は2日間に限られてしまう。それでも、この週に募集された社債等の本数が計12本と多くなったのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券募集が7本あったからである。四半期最初の月の中旬以降に、FLIPに基づく債券募集を行うのは同機構の定例であり、今回も8年債から19年債を募集している。8年債のみ200億円とまとまった金額であったが、それ以外は30億円もしくは40億円の募集であり、一般的な公募債の募集とは位置付けを異にする。もっとも同機構の信用力を最上位の地方公共団体と同等であると考えるならば、様々な年限の地方債を基に相対的な価値を評価することが可能であり、細かな年限の債券を募集してもプライシングに困ることは少ないだろう。

民間の社債で募集されたのは、Zホールディングス(2019年10月1日に持株会社体制に移行し当社の商号を「ヤフー株式会社」より社名変更)と日本郵船の2社によるものである。新興といっても古株ではある情報通信業と、岩崎弥太郎の時代に創業した海運業とでは、後者の創業年代が1885年であり、前者の1996年と両社は100年以上の差がある。一方、格付けを見ると、ZホールディングスがR&IのA+格及びJCRのAA-格であるのに対し、日本郵船はJCRのA-格と劣っている。創業年代の古さと信用力の高さは、決してリンクしない。もっともZホールディングスは東証1部に上場している持株会社であるものの、更に上位の持株会社Aホールディングスが存在しており、それがソフトバンクと韓国NAVERの合弁会社であるという複雑な資本提携関係となっている。単純な信用力の評価だけでなく上位構造の資本関係変化による影響が不可避であることも忘れてはならない。なお、Zホールディングスは、傘下に抱える主なネット関連事業を列挙しても、アスクル、PayPay銀行、イーブック、一休、GYAO、出前館、ZOZO、ヤフー等多様な業種が存在しており、情報通信業と考えるより一大コングロマリットと考えるべきであろう。募集したのは、5年債500億円・7年債200億円・10年債300億円と合計で1,000億円に上る。

一方、明治初期からある日本郵船が募集した5年債及び7年債各100億円は、トランジションボンドとしての適格性評価を得た日本初の公募普通社債である。トランジションボンドは、”企業の温室効果ガス排出削減に向けた長期的な移行(トランジション)戦略に則ったプロジェクトへの投資を使途とする債券”である。グリーンボンドが再生可能エネルギー関連の設備やファイナンスを意識し環境に配慮した債券とされるのに対し、トランジションボンドは重厚長大型産業や運輸業等の化石燃料を大量に利用する企業が、温室効果ガス排出削減に向かうためのファイナンス目的の債券とされる。考えようによっては、グリーンボンドの曖昧な境界線を部分的に明確化することで、発行企業の裾野を拡大することを可能にしたものとも考えられる。今後もトランジションボンドの発行が広まるのかどうか注視したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/12~7/16

2021年7月の起債市場は、東京オリンピック開催によるカレンダー変更の影響を受けている。四半期頭の起債市場では、そろそろ多様な業種の起債が見られ、一気に起債市場が盛り上がる時期なのだが、例年にはない4連休があり、都心部の交通規制等による物量及び人流への影響、無観客での競技開催の影響を世の中全般が受けており、盛り上がるだけの一方向でないオリンピック関連イベントを見ると、起債市場でもやや変質した雰囲気が醸し(かもし)出されている。この週に起債市場で社債を募集した業態も、複数のノンバンクが動いた他、商社や不動産、メーカーなどが出て来ているが、やや小粒の案件が多いイメージを受ける。

ノンバンクの起債を見ると、トヨタファイナンスの3年債200億円が利回り0%で募集され、東京センチュリーは7年債及び10年債各150億円を募集し、オリエントコーポレーションは2年7か月債と10年債各100億円を募集している。特に、グリーンファイナンス等の資金使途ではなく借換え等の対応が中心であって、あまり話題になるような材料が見られない。トヨタファイナンスの格付けは、R&IによるAAA格が日本国債より上であり、S&PによるA+格とムーディーズのよるA1格は日本国債と同水準である。投資家による支持は強く、オーバーパー発行で応募者利回りが0%となっても消化に支障はない。

強いてこの週の起債市場の特徴を挙げるならば、トヨタファイナンス債の高格付けと異なり、いわゆる投資適格の下限に近いBBB格ゾーンの社債募集が複数見られたことであろう。永谷園ホールディングスの5年債200億円は、JCRからBBB+格を取得している。もっとも、食品メーカーという業種特性から、健康問題に関連したヘッドラインリスクが現れない限り、信用力の安定が期待できる。一方、SBIホールディングスはR&IからBBB+格を取得して、3年債及び5年債各400億円を募集している。以前からネット経由で銀行や保険への進出を図り、複数の地銀と連携するなど業容の拡大に勤し(いそし)んでいて、今回の起債は募集金額も大きい。5年までの中期年限であれば業容に大きな変化はないものと期待されるが、知己金融機関を中心に合従連衡がますます増えると考えられる中、必ずしも5年間の安定性の維持できない可能性も否定できない。

帝人の募集した期限前償還可能な30年劣後債600億円も、格付けはR&Iから取得したBBB格となっている。同時に募集した3年債及び5年債はA-格であり、劣後債の構造的な評価(ノッチダウン)である。

第1回債を募集したオープンハウスの3年債100億円が興味をそそる。取得した格付けは、R&IからのBBB-格であり、クーポンは0.95%と極めて高い水準である。1997年創業と必ずしも社歴は長くなく(多くのIT系新興企業よりは長いが)、首都圏を中心とした大都市圏での不動産分譲及び住宅建築等を行う。テレビでの積極的なCM展開や、東京ヤクルトスワローズのトップスポンサーの一角を占めるなど、知名度は決して低くない。住宅に対する評価も取り立てて悪いものは見られないようであり、人口減少の日本において大都市圏に特化した地域戦略は、適切なものと考えられる。90年代に低格付けの複数の不動産会社が破綻し、社債がデフォルトした事例があった。オープンハウスに関しては、同様の展開となるリスクは低いように見えるが、どうだろうか。