国内起債市場を斬る 起債評価:1/16~1/20

この週の起債市場が、日銀の金融政策決定会合の行方を気にする展開となったのは、やむを得ない状況だろう。前月の決定会合では金融政策の変更はないと予想されていたのに、サプライズで長期金利の変動幅拡大という結果であった。確かに10年金利のピンポイントでの抑制はイールドカーブの歪みを招いており、海外勢の売りに対する日銀の無限購入という図式で面白おかしく報じられてきた。一方、債券市場以外に目を向けると、大幅な円安が影を潜めむしろ円高方向に動いてきたため、為替相場の水準を意識した政策変更の動きでもないように見えた。そのため、この週に予定された1月の金融政策決定会合で、続いての政策修正が行われるかと注目が集まったのである。黒田総裁の任期が4月頭までとは言っても、両副総裁の任期が3月中旬までであり、2月に入ると国会に正副総裁の承認人事が付議されることは確実視されており、黒田総裁が後継を強く意識しないで済む最後の金融政策決定会合であったためでもある。ところが、共通担保オペの拡充を除いて、金利や債券関連の政策修正は行われず、結果として、株価は上昇し金利は下落して安定するという展開になった。それでなくとも、週前半の社債等の募集が少ないこともあって、金曜日に大型起債の条件決定が集中したのが目立つ展開になった。

金曜日に個人向けも含めて条件決定された大型案件は、三井住友フィナンシャルグループのTLAC債が2回号で1,053億円、三菱UFJフィナンシャルグループの個人投資家向け劣後債が2回号で2,000億円とメガバンク持株会社の二つが大きく、また、それらに加えて、日産自動車が3回号の社債で2,000億円を条件決定している。この3つの発行体だけで総額計5千億円を越える。ただし、個人投資家向けが3,400億円と過半を占めているのが、特徴でもある。なお、個人投資家向けの社債はいずれも週明けからの申込みで、投資単位は100万円となっている。かつて三菱UFJフィナンシャルグループの劣後債は250万円といった刻みも見られたが、幾ら富裕層向けの社債と言っても、100万円単位で複数単位購入してもらえば、所詮電子的な記録にすぎないのだから、100万円単位で良いのである。もっと小額でも構わないだろう。

日産自動車の社債計3本は、いずれもサステナビリティ債となっている。ガソリン燃焼自動車が依然売上でも利益でも過半を占めているのではあるが、グリーン化に向けての取り組みを支援するファイナンスとして評価して良いだろう。個人投資家向け社債は3年債で1.015%と高水準のクーポンであり、機関投資家向けの3年債500億円も同じクーポンと設定されている。R&IのA格という評価を考えると、国債対比+1%とされるスプレッドも決して高過ぎるという水準ではない。わずかに100億円のみ募集された5年債は、国債対比+125bpsで1.454%クーポンと、最近の20年債辺りでようやく見かけるようになった高利回り債になっている。同社の格付けや自動車産業に対する風当たりなどを考えると、より長い年限での与信は躊躇されるが、3年や5年という予見できる範囲の中期年限であれば、利回りが乗っていたら購入して良いと考えられるのではないか。しかしながら、個人投資家向けの3年債が1,400億円と巨額なのに、機関投資家向けが3年債と5年債を合わせても600億円しか募集されないという金額の割り振りには、ややきな臭いものを感じる。今後、同社に関する悪材料が公表されなければ良いのであるが。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/9~1/13

現在の起債市場でもっとも不確定なのが、プライシングの前提となる国債利回りの居所であろう。この週は月曜日が祝日だったこともあって、相変わらず金曜日に多くの起債が集中しており、その日に10年国債の利回りが日銀によるイールドカーブコントロール変動幅の上限である0.5%を越えて、0.545%など付けてしまうのであるから、社債等の条件決定が難しくなる。日銀が0.5%を上限として指値オペを投入し市場をコントロールすると言っているのに、それを上回る10年国債の売り物が出るということは、翌週に控えた金融政策決定会合において更なる金融緩和の見直しがあると市場が期待していることの表れであり、イールドカーブコントロールのロングエンドに対するコントロールが機能不全に陥っているということである。結果として、国債対比でプライシングされる高格付債のスプレッドは、拡大せざるを得なくなる。タイトなスプレッドでは、わずかの国債利回りの変動によって消失しかねないからである。

奇しくも、この週に条件決定された社債等は、クレディセゾンによる個人向けの5年債を除いて、基本的に国債対比でのプライシングが可能な公益セクターや公共債ばかりとなった。ただし、福島第一原発事故の後処理による電力セクター全般への影響を受けて、頑なにスプレッドプライシングを採用して来ていない東京電力パワーグリッドはいずれの年限も利回りの絶対水準でプライシングされている。

国債利回りの上昇とスプレッドの拡大は、出来上がりの社債等の利回り水準に大きな影響を与えている。まず、募集された10年債で比較してみると、地方公共団体金融機構が国債対比+30bpsで0.804%クーポン、JR東日本で同対比+40bpsの0.994%、日本政策投資銀行が同対比+32bpsで0.854%となっている。東京電力パワーグリッドの10年債は1.6%クーポンでプライシングされており、単純に引き算すると、国債対比+100bpsを越えるスプレッドとなっている。かつて市場実勢を無視したタイトなプライシングで市場の悪評を気にも留めなかった東京電力の遺伝子を継ぐ同社は、国債対比のスプレッドを表記するのは恥ずかしいのであろう。もっとも、格付けがR&IでA-格という水準は、国債対比でのスプレッドプライシングの対象銘柄にしては低いと言えるレベルであり、同社の募集する社債で国債対比のスプレッドプライシングを行うことは起債市場で歓迎されていないという見方も可能である。まあ、東京電力グループによる起債に関する過去の様々な行動や事件も含めて自業自得と言ってしまえば、それだけのことなのであるが。

同じように、国債対比のスプレッドとクーポンで5年債を比較してみると、JR東日本が国債対比+31bpsで0.687%クーポン、日本政策投資銀行が同対比+15bpsで0.527%クーポン、東日本高速道路が同対比+30bpsで0.677%クーポンである。結果として、東京電力パワーグリッドの1.19%クーポンは国債対比+81bps程度という水準になる。スプレッドの水準の大きさだけでなく、改めて利回り水準の高さに金利環境の変化を強く意識させられる市場の現状である。

国内起債市場を斬る 新春特別号:2023年の起債市場と日銀の金融政策

2022年も終わりになって、日銀がイールドカーブコントロールにおける10年国債利回りの変動幅を拡大したことが、2023年の起債市場に大きな影響を与えることは必至である。2016年に導入されたイールドカーブコントロールにおいては、短期金利はマイナス0.1%を目標とし、併せて10年国債利回りを0%程度にするという金利水準を目標としたコントロールを行うとし、その水準となるよう国債の買入オペを実行して、必要な場合には指値オペをも利用するとされていた。10年国債利回りの変動幅は12月まで±0.25%程度とされており、変動幅の拡大は金利上昇を反映・誘導するものと解され踏み込まないものと考えられてきたが、突如、金利上昇を誘導するものではなくイールドカーブコントロールの枠組みを維持するための措置として、変動幅を±0.5%に拡大したのである。海外金利の上昇を受けても動かず、昨秋に為替が1ドル150円を上回る円安となっても動かなかったのに、年末のタイミングで日銀が動いたのは、殊更にサプライズを起こすためであったものとしか考えようがない。

日銀が変動幅の拡大を容認したことで、10年国債利回りは0.25%程度から0.5%にまで上昇した。日銀総裁がどのように説明しようが詭弁としか取られず、市場は確かに金利上昇の方向へ動いたのである。すぐさま直接の影響を受けたのが、年明けに行われた10年長期国債の入札であろう。長い間0.1%と最低水準に固定されていたクーポンが、1月5日に入札された第369回債のクーポンは0.5%とされたのである。これでクーポンが5倍になったと一部のメディアは騒いでいるが、倍率ではなく差分の0.4%も上昇したと評価するのが適切であろう。結果として、日本国内における最大の債務者である日本政府の利払負担が大きく拡大したことは否定できない。

日本において企業は資金余剰セクターであるが、M&A等のニーズにより資金調達のため社債を発行することがある。ベース金利である国債利回りの上昇によって、企業にとっては社債のクーポン上昇に繋がることは否定できない。ただし、金利水準が大きく上昇したのは10年国債利回りと、日銀によるイールドカーブコントロール対象外となっている超長期年限である。これらの年限に与えられる影響は大きい。一方、10年以内の国債利回りも軒並みわずかではあるが上昇しており、既に昨秋から5年の高格付け債では国債対比のスプレッドプライシングを復活する募集事例が散見されており、民間企業のみならず、政府保証債や財投機関債の発行体、地方公共団体までにも、金利上昇の影響が及ぶことになる。もちろん短期金利のマイナス0.1%という目標水準は変更されていないために、2年債などの短い年偈については、金利上昇の幅は小さくならざるを得ない。

こうした調達コストの上昇によって、企業等の起債行動に影響が出ることは必定である。金利が上昇気味になったことで、政府保証債の発行体においてすらスプレッドの拡大を懸念する声が聞かれるようになっており、より信用力の劣る民間企業にとっては、社債発行による調達コストが上昇するため、社債発行を抑制する可能性が高い。加えて、イールドカーブの顕著なスティープニングから、超長期よりも長期、長期よりも中期といった形で調達年限を短くする方向になる可能性が高い。また、短期金利のコントロール目標が変更されていないことから、短期金利等に連動する金融機関からの短期借入れを選好することも考えられる。

こうした日銀の金融政策による影響としての調達コストの上昇に加えて、新型コロナ対応で導入されたゼロゼロ融資の返済が始まると、少なからずの中小企業の破綻が顕在化することは必至であり、クレジット市場全体に対する懸念が拡大することも考えておかねばならない。特に、前述のように、日本の最大の債務者が日本政府であることを考えると、既に海外の格付会社が懸念を示しているように、日本国債の格下げといった判断を惹起する可能性もあるだろう。更には、欧米の中央銀行による物価上昇抑制のための金利引上げが景気に対するオーバーキルとなって、経済成長の頭を抑える可能性は高い。そのため、株価の下落や低迷といった経路を経て、信用リスクの拡大傾向となることも考えられる。

勿論、私見ではあるが、こうした背景から2023年の起債市場は、極めて波乱含みの展開になると考えられる。潜在的に見え隠れするモノは、明るい材料よりも暗めの材料ばかりである。これらの懸念が杞憂に終わることを望んで已まない。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/19~12/23

この週は、通常の社債等の募集は終わったと考えられていたが、実際には、12月20日にみずほフィナンシャルグループが永久劣後債770億円を募集している。起債観測が上がっていたためにサプライズではなかったが、ここまで年末が迫った時点での募集は珍しい部類に入るだろう。払込みは12月26日であり、確かに御用納めの前ではあるが、クリスマスを過ぎたタイミングで欧米は休暇状態であり、日本の市場も完全稼働とは言い難い。外資系の証券や運用会社などでは、年次休暇の消化義務から休みとなっている場合も珍しくないのである。

今回は個別の起債の評価というよりも、少し劣後債について考えてみたい。この週に募集されたのは銀行持ち株会社のものであったが、これまで銀行や証券、保険会社による劣後債の募集は、古くから自己資本規制対応という目的であった。一部の金融機関が募集した劣後債でデフォルトした例はあるものの、多くが期限前償還された後、引続き、債券やローンの形でロールされている。それが高いコストを払いながらも自己資本として算入するための要件である。期限前償還をスキップしたものは、海外で募集した銀行の優先出資証券の例は知られているが、国内で公募されたものはない。

一方、近年の起債市場で注目を集め、2022年度に入って金利水準の上昇から急速にブレーキのかかった感が強いのが、事業会社による劣後債の募集である。そもそも劣後債を語感のイメージが悪いからと言って、ハイブリッド証券と言い換えはじめたところから、発行体も、引受証券も姑息である。確かにハイブリッドという英単語は、雑種や混成といった意味であり、債券と株式の中間の特性を持つ証券群をハイブリッドと呼称するのは、海外でも見られる。しかし、日本においては、ハイブリッドが良いイメージで取られる傾向にある。かつて某ゴルフ道具メーカーがハイブリッドと呼称するクラブ等のラインナップを有していたが、現在は、ウッドとアイアンの中間的なユーティリティクラブの特性をハイブリッドと説明しており、他のゴルフクラブメーカーも同様の用法で用いるようになっている。また、一部の自動車メーカーが、ガソリン燃料と蓄電池を併用する自動車をハイブリッド車と称して、高い売れ行きを誇ったことは記憶に新しい。しかし、ヨーロッパ等の自動車規制においては、将来的には新車販売はガソリン燃焼車と同じに扱われて停止されてしまうことになり、中途半端な位置付けが露呈したのである。結局のところ、ハイブリッド証券と美しいかのように言っても、その特性は、劣後性を帯びた債券や優先株でしかないのである。語感に惑わされてはいけないのである。

金融機関とは異なって、自己資本比率規制や監督官庁による縛りのない事業会社の場合には、期限前償還するかどうかは、主として経済合理性による。市場におけるレピュテーションも考慮されるだろうが、頻繁に市場から社債等を発行しないのであれば、悪評も暫時容認すれば良い。既に、資本性証券やローンの借換えによる継続方針を反故にした事業会社が存在する。日本銀行が金融緩和政策の修正をはじめたことで、今後の金利上昇懸念が高まると、期限前償還されない可能性を意識せざるを得ない。期限前償還を前提とした投資方針や償還スケジュールが狂ってしまうかもしれないのである。当然、投資家の姿勢は慎重になるだろう。

劣後債の発行が冷え始めた頃に募集されはじめたのが、電力会社の劣後債である。ところが、現時点では電気事業法の附則によって一般担保付社債の発行が認められているために、電力会社の劣後債が意味するものは、一般担保付社債を発行できないJERAなどを含む一般の事業会社とは大きく異なる。一般担保付社債を発行している電力会社の弁済順位は、先取特権>電力債等一般担保債権>銀行等通常債権>劣後債券>株式となるが、事業会社等の場合の弁済順位は、先取特権>銀行等通常債権>社債間限定同順位社債>劣後債券>株式となる。つまり、一般担保付社債を発行できない事業会社等の劣後債については、弁済率が一般社債と大きく異ならない可能性があるのに対して、電力会社の劣後債は一般担保付電力債と弁済順位がまったく異なるのである。投資家は、もう一度この違いをきちんと理解すべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/12~12/16

12月の起債市場は、前週の大花火大会の様相から一変、この週は残り火のような5日間だった。社債等で募集された金額は、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券を加えても、総計で1,200億円を少し越える程度にしかならない。地方公共団体金融機構のFLIP債の中で第717回の9年債が100億円とやや大きめな額であったことが奏効しているが、他の複数回号の募集案件も小粒感が否めない。

金額が大きく積み上らなかった一つの要因は、募集された劣後債が大きな金額を求める案件ではなかったことであろう。三井住友トラストホールディングスの劣後債は、10年債で期限前償還が5年経過時以降に可能となるものであり、機関投資家向けと個人投資家向けに100億円ずつが募集されている。ステップアップ後の変動利付期間のクーポンの算式が、個人投資家向けは5年国債利回り連動であるのに対し、機関投資家向けはTibor連動とされている違いはあるものの、ほぼ間違いなく期限前償還されるまでの5年間の固定利率クーポンは0.85%で揃えられている。

もう一つの東京ガスの劣後債は二本立てで、いずれも最終償還が60年と設定されており、第1回債は期限前償還が5年経過時点以降に可能で、第2回債は7年経過時点以降と設定が異なる。当然、第1回債の当初クーポンが0.735%に対し、第2回債は1.149%と大きく引き上げられている。募集額は第1回債が101億円で、第2回債が97億円と刻まれているが、二本でほぼ200億円となった。変動利付期間の基準利率は、1年国債利回りとされている。いずれもトランジションボンドと認定されており、低コスト水電解用セルスタック開発、メタンを合成するメタネーション試験、風力発電やバイオマス発電といったプロジェクトに資金を用いるとしている。こういった業種の発行体には、トランジションボンドが馴染むものと考えられる。

民間企業による唯一の普通社債の募集が、野村総合研究所による5年債300億円・7年債250億円・10年債100億円の計650億円の募集であった。資金使途はCP及び借入金の返済という定番のものであるが、SDGs債の募集で長々と資金使途などが記述された追補目論見書を見慣れてしまうと、こうした定番の返済目的の記述はあっさりと簡素なものに見えてしまうのだから、慣れというものは恐ろしいものである。

起債観測はチラホラ聞こえて来るが、カレンダーを見ると年末が押し迫っており、昨年もこの次のタイミングの起債案件は1月以降であった。2022年は、これで最後ということになるのだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/5~12/9

さすがに12月の起債市場は、案件が多いだけではなく、募集される社債等の業種も幅広く別世界の盛り上がりである。500億円以上の大型案件だけを見ても、三井住友フィナンシャルグループの永久劣後債が2本立てで計1,070億円、中日本高速道路の5年債750億円、地方公共団体金融機構の5年債・10年債・20年債の計610億円、JERAの三本立て劣後債計965億円と、劣後債を中心に錚々たる顔触れになっている。その一方で、R&IのBBB格であるプレミアムウォーターホールディングスは3年債と5年債の計46億円と小額の募集になっているのが目を引く。

業種としては、ノンバンクや電力関連、鉄道といったところが目立っているし、メーカーによる起債も少なくない。また、財投機関債を中心とした公共セクターでも活発な起債が見られている。中でも、9日の金曜日に募集された中で、10年物の財投機関債3本は比較してみると面白い。具体的には、国際協力機構、福祉医療機構、沖縄振興開発金融公庫という発行体である。国際協力機構と福祉医療機構がソーシャルボンドで、沖縄振興開発金融公庫はサステナビリティボンドになっている。いずれもR&Iによる格付けは、日本国債と同等のAA+格であるが、相対的に起債頻度の多い国際協力機構のみが国債対比+31bpsと他の二つよりタイトなスプレッドで、0.559%クーポンでの起債となっている。残りは、同対比+32.5%bpsの0.574%クーポンである。確かに国策との距離感やS&PからもA+格の評価を得ているなど、国際協力機構には発行体として一日の長があるのだろう。

なお、同日に募集された日本高速道路保有・債務返済機構の4年債及び19年債の計250億円の財投機関債もソーシャルボンドの認定を得ており、以前から指摘して来たように、財投機関債は基本的にソーシャルボンドとしての適格性を有することが広く認められつつある。ソーシャルボンドに加えてグリーンボンドの特性も有すると、沖縄振興開発金融公庫のようにサステナビリティボンドとなる構造である。また、東京工業大学の募集した40年債(東京工業大学つばめ債)は財投機関債ではないが公共セクターによる起債であり、サステナビリティボンドの認定を取得しての募集となっている。

募集された社債等のクーポンの絶対水準を意識してみると、低格付けのプレミアムウォーターホールディングスの5年債が10億円とほぼ実質的な最小額の募集であるが、2.1%クーポンとなっている。また、JERAの募集した劣後債は、電力関連のプレミアムが乗ったこともあって、早期償還が5年で可能となる35年債ですら2.144%クーポンとなっている。他の37年債と40年債(いずれも早期償還によって実質的には7年債及び10年債となることが期待される)も、2%を越えるクーポンが付されていることも興味を引く。前週に募集された沖縄電力の劣後債では、7年後に早期償還の可能となる30年債は2%を下回るクーポンであったことを考えると、格付けや募集金額の差だけでなく、実質的には火力発電専業に近いJERAがESGの観点から投資家に敬遠されている可能性は否定できない。沖縄電力が原発を保有していないために、他の電力関連の発行体とは明らかに異なる位置づけにあると理解すべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/28~12/2

起債市場は、前週は勤労感謝の祝日があったために盛り上がらなかったが、この週は火曜日から社債等の募集がはじまり、金曜日には一大起債ラッシュとなっている。また、11月末を挟むという時期もあって、個人投資家向けの社債条件の決定も少なくない。東急の5年サステナビリティボンド100億円、ソフトバンクグループの7年債3,850億円、北海道電力の3年債100億円、北陸電力の4年債100億円、四国電力の3年債125億円、楽天カードの5年債500億円と5,000億円に近い額の条件が決定されている。ボーナスシーズンに特有の現象とも見えるが、顔触れを見ると電力会社に加わったのが、ソフトバンクグループと楽天カードといった、未だにネット社会を象徴する2社であり、この2社だけで4,000億円を越える金額となっている。しかし、楽天カードの5年債はまだしも、持株会社であるソフトバンクグループの7年債のリスクを個人投資家は的確に認識しているだろうか。事業会社だけでなくファンド等への出資も多く、必ずしも投資先に関する十分な情報開示がされている状態にはない。個人投資家が携帯電話会社と誤解している可能性は少ないと心配するのは筆者だけではないであろう。7年債で2.84%という高いクーポンが付されている背景を、販売する証券会社は購入希望者に正確に伝える義務がある。

起債ラッシュの中では、メーカーによる起債も少なくない。DM三井精糖ホールディングスの3年債100億円や雪印メグミルクの5年グリーンボンド50億円、森永製菓の5年サステナビリティボンド90億円のように小規模のものもあるが、アステラス製薬の3年債300億円及び5年債200億円の計500億円、旭化成の3年債100億円・5年債200億円・10年債200億円の計500億円、ソニーグループの3年債800億円及び5年債700億円の計1,500億円といった大型の起債も見られている。起債シーズンの後半をメーカーによる大型起債が飾るのも、よく見られる光景である。

既に触れた起債以外にも、SDGs債の募集は少なくない。東急は個人向けのサステナビリティボンドに加えて、機関投資家向けには10年のサステナビリティリンクボンド100億円を募集しており、資生堂も5年サステナビリティボンド200億円を募集している。西部ガスホールディングスの5年債100億円及び10年債50億円はトランジションボンドである。最近は単純なグリーンボンドがレアになりつつある。より多く見られたのが、公的セクターによるSDGs債の募集である。新関西国際空港の2年債100億円・20年債60億円・30年債70億円はソーシャルボンドで、西日本高速道路の2年債366億円及び5年債700億円もソーシャルボンド、都市再生機構の20年債130億円及び40年債50億円もソーシャルボンドと公的セクターの特性に相応しいソーシャルボンドが多い。それらに加えて、水資源機構の3年債70億円はサステナビリティボンドとされている。同機構の果たす役割や機能を考えると、それも違和感はない。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/21~11/25

前週の市場で見られた盛り上がりは、イリュージョンだったのだろうか。結果的には、水曜日である11/23が勤労感謝の日だったために、休日明けの営業日には社債等を募集しづらいという市場慣行から、この週での社債等の募集は限定的なものとなった。しかも月末に近いという事情もあって、財投機関債も住宅金融支援機構の第187回貸付担保債券が募集されただけとなり、寂しい週となった。考えようによっては、12月に入ってからの起債ラッシュに向けてエネルギーを蓄えているのでは、という期待がないでもない。聞こえて来る起債観測を見ても、ノンバンクや鉄道等運輸といった定番に近い銘柄に加えて、種々のメーカーによる起債も準備されているようである。ボーナスシーズンを当て込んだ個人投資家向けの社債募集も複数あることが判明しており、徐々に盛り上がりの熱が戻って来るものと期待したい。

この週の民間企業による社債は、結局二つの発行体に限られた。一つは、火曜日の22日に募集された三井金属鉱業の5年債である。非鉄金属に分類される三井グループに所属するメーカーであり、金属精錬の他に、電子材料・自動車部品などを製造している。日経平均株価にも採用される企業であるが、直接の消費財メーカーではないため、知名度はさほど高くないようだ。もっとも、同社の創業地としてもよい神岡鉱山が鉱毒のカドミウムを排出したことで、イタイイタイ病が発生しており、同社の製品は知られていなくても、しでかした事は良く知られている。現在の格付けはJCRのA-格であり、イタイイタイ病の補償による財務面での圧力は、ほぼ影響が無くなったと考えて良いようである。5年債という年限の設定は悪くなく、必ずしもフリークエントイシュアーでないこともあって、100億円の募集金額は問題なく消化されたものと思われる。

もう一つの発行体は、本田技研工業のノンバンク関連会社であるホンダファイナンスであった。お定まりの3年債及び5年債のセットを25日の金曜日に条件決定し、今回は各150億円が募集金額であった。実質的な親会社である本田技研工業の業況については、決して良好とは思えず、ESGが強く意識される中でガソリンエンジン搭載自動車の先行きは決して明るくない。先進国以外の市場においても、よりクリーンな移動手段が求められるようになっており、ハイブリッドカーだけでなく、燃料電池車などの新規領域への技術革新が求められている。ホンダファイナンスの格付けは、R&IのAA格及びムーディーズのA3格という高格付けを獲得しており、3年債及び5年債という年限設定も投資家が不安を抱くような年限ではない。それでも、5年債のクーポンは0.495%に設定されており、前述の三井金属工業の0.58%と比較すると、格付け対比で割安感を持った投資家も少なくなかったのではなかろうか。今回の起債が第78回及び第79回であり、目新しさがないというのも利回りを押し上げる材料となったようだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/14~11/18

ようやく起債市場が本格的な募集シーズンを迎えたようである。しかも、週末の金曜日に向かっての集中度は強い。水曜日の16日に募集されたのは、東北電力の3年債と地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券であったが、続く木曜日の17日から一気に加速したようであり、18日の金曜日は多くの案件が募集されている。従来の起債が多い時期と少し異なる点を意識すると、メーカーによる起債が積極的に見られるようになったことを指摘できるだろう。

まず、木曜に募集されたメーカーによる起債としては、日本電産の3年債200億円及び5年債500億円の計700億円がある。後継問題で懸念を持たれるのは、ソフトバンクグループなどあまりにも強い創業者が居残っている企業には共通の特徴である。特に、永守イズムと呼ばれる社風は、到底、ソーシャルボンドを発行することの出来ないようなブラック体質と言われている。現時点での格付けは、R&IによるAA-格と高水準であるが、中期までしか見込めない格付符号の限界を強く示している。後継問題が適切に解決されない限り、長期の与信に躊躇する投資家は少なくないだろう。今回の起債が最長で5年債ということも高格付けの発行体にしては珍しく、同社の先行きへの懸念を示しているものと見て良いだろう。

SDGs債の募集でも、メーカー等の動きが複数確認されている。日本碍子の5年債50億円は、グリーンボンドとして募集されている。電池や次世代半導体関連などの投資が資金使途とされており、事業内容に沿ったものと評価してよいだろう。金曜日の募集例に目を転じても、ミネベアミツミの5年債250億円がグリーンボンドとして募集されている。省電力ボールベアリング設備等の資金使途は、同様に同社の事業内容に則したものである。

メーカー以外でも、SDGs債の募集が盛んである。東邦ガスの30年債100億円は、トランジションボンドで、台湾での洋上風力発電や知多のLNG基地等の整備に用いるとする。豊田通商の10年債150億円は、ユーラスエナジーホールディングス社の株式を取得するためとしたグリーンボンドである。JR九州の3年債50億円・5年債100億円・10年債100億円の計250億円は、新型車両や研修センターの対応としたグリーンボンドである。JR西日本の10年債100億円も同様に新型車両対応であるが、グリーン及びソーシャルの双方に適合したサステナビリティボンドとして募集されている。北陸電力の5年債185億円・10年債153億円・20年債106億円という端数起債が多用された計444億円も、ゼロミッション火力発電への対応としたトランジションボンドである。グリーンに向けたトランジションボンドの枠組みは、より多くの業態で適用できると考えられ、急速に募集例が増加している。

なお、その他に、公共セクターでは、東日本高速道路が5年債・7年債・10年債の計960億円ものソーシャルボンドを募集しており、鉄道建設・運輸施設整備支援機構も2年債60億円及び20年債130億円のサステナビリティボンドを募集している。相変わらずSDGs債の募集が紅葉盛りである。

国内起債市場を斬る 続決算月特別号:11/7~11/11

円ドルレートの動きの大きさに目を取られたのか、起債市場の動きは鈍い。引続き、9月末決算発表の時期であり、今月中旬以降の社債等募集シーズンに備えているようでもある。起債観測の上がっている銘柄は少なくないが、相変わらず、劣後債やSDGs債などの名前も多く聞こえて来る。メーカーでも、電機関連で通常の社債やグリーンボンドを募集する準備が進んでいるようだし、鉄道等運輸ではグリーンボンドの他にサステナビリティボンドの動きも見られる。通常の社債を募集する準備もかなり多くの企業で進んでいるようであり、決して起債市場が停滞しているということではなく、来月中旬までの年内最後の起債シーズンに備えていると見るのが適切であろう。財投機関債等の動きも複数あるようだし、現在の閑散期と打って変わって、年末に向かって市場は慌ただしくなることが予想される。

この週で募集された社債等はわずかに2銘柄である。まず、地方公共団体金融機構が定例の10年債を募集している。他の年限が付随しないというのも珍しいが、260億円を0.449%クーポンで募集した。発行金額も大きくない中で、クーポンが上昇していることもあって、地方の投資家から根強いニーズがあったものと思われる。10年国債利回りに対するスプレッドは+20bpsとされており、地方債の個別銘柄対比でも十分に魅力がありそうだ。

唯一民間企業によって起債されたのが、電源開発の第82回債であった。年限は10年でクーポンは、切りよく1%とされている。再生可能エネルギー関連の資金使途としたグリーンボンドの認定を得ており、投資家としては購入し易い銘柄になった。電源開発の格付けは、R&IのA+格に対しJCRのAA+格と大きなスプリットが存在しており、投資家による評価は容易ではない。潰れる可能性という意味では否定的に考えられるが、直接の小口電力販売に従事しているものではないため、代替性があると見ることも出来る。もっとも、同種の発電事業者と比べると歴史的な経緯も含めて残在韓は大きい。同じ10年の地方公共団体金融機構債と比べると、スプレッドのみならずクーポンの絶対水準も魅力的である。170億円という募集金額は決して大きくないが、グリーンボンドという認定を含めて多くの投資家は、総合的判断で購入し易かったようだ。