国内起債市場を斬る 起債評価:1/7~1/11

2019年の債券募集がはじまった。しかし、マーケットは荒れ模様、世界中の株価が安定せず、国内金利も10年国債利回りがマイナスになったりするので、決して良好な起債環境とは言えない。日本銀行によるイールドカーブコントロールは、短期金利がマイナス0.1%に固定され、10年国債利回りがマイナス0.2~プラス0.2%のレンジに設定されている。結果として、年限がより長くなるに連れて、金利変動幅が大きい。逆に言えば、短い年限の金利水準はあまり動く余地がないということである。市場が落ち着かない状況にある場合には、長期債よりも中期債の方が募集しやすい。

結局のところ、市場が安定しない中では、投資家は公的セクターや中短期債を好みがちになる。しかも、10年長期国債の入札後であるから、地方債からはじまる公共セクターの起債が行われるのには絶好なタイミングである。そうした好機を窺って出てきたのが、日本政策投資銀行の三本立てである。募集されたのは、3年債・5年債・10年債の各200億円である。3年債は0.001%クーポンで単価が100円00.1銭である。5年債は0.03%クーポンで、10年債は0.195%クーポンである。前年10月に募集した際と3年債及び5年債のクーポンは変わっていないが、10年債のクーポンは0.309%から大きく低下している。なお、10年債の国債対比のスプレッドは、+15.5bpsから+17.5bpsと金利低下を反映して拡大している。

中短期債の募集に適しているという環境は、ボーナスシーズンの後というリテール投資家の状況と相俟って、個人向け社債の条件決定が複数行われている。もっとも毎年1月に個人向け社債を募集するというのは、東武鉄道と小田急電鉄の定例である。両社とも前年に続いていずれも3年債を条件決定しているが、東武鉄道は0.16%クーポンから0.15%クーポンに低下し、小田急電鉄は0.11%クーポンから0.1%クーポンへといずれも1bpの水準低下が見られる。金利の低下傾向は中短期債にも波及しているということなのである。

なお、11日の金曜日にはクレディセゾンも個人向け10年債の条件も決定している。東武鉄道や小田急電鉄の3年債とは異なる年限であり、クーポンは0.48%と高水準である。しかも、両鉄道会社の個人向け社債が100万円単位で募集されるのに対し、クレディセゾン債は10万円から投資可能である。ノンバンクの10年債は投資対象の年限としては、悩ましいところである。みずほフィナンシャルグループともっとも親密な関係であったが、近年はやや位置付けに変化もあるようだ。10年の与信をどう考えるか、キャッシュレス社会到来への対応格差を含め、思いとどまりたいところではないか。

国内起債市場を斬る 新年特別号:金融市場の大変動と国内起債

2018年末から金融市場が大きく揺れ動いている。世界的な株式市場の下落は、米アップル社の業績予想引下げに起因するのかもしれないが、背景にはもっと大きな物があるように思える。最大の要素としては、これまで先進国が続けて来た金融緩和の方向変化であろう。資産買入れを中心とした強力な金融緩和は、必ずしも物価全体をインフレへ誘導することはできなかったが、資産価格を下支えし、少なくとも株価を押し上げて来たのである。ところが、既に景気好調なFRBは金融緩和から引締め方向に政策を変更し、ECBも資産買入れの停止に向かって動きはじめた。その結果、先進国経済の基盤となっていたマネーフローの潤沢さが変化しはじめたのである。

一方で、強いと思われてきた先進国経済に、わずかながらも変調の兆しが見えている。米国経済が必ずしも想定されたほどの強さを持続できないという観測は、米中の貿易摩擦が激化し関税引上げ競争へと変化したことで、急速に強まっている。しかも、中間選挙で下院の過半数を失ったトランプ政権は、選挙公約の実現を求めたために、想定外の米連邦機関の一部閉鎖を招来したのである。2月には閉鎖リスクがあると予め考えられていたが、クリスマスから年末のタイミングでの閉鎖は、米国経済に強い負のインパクトを与えてしまったかもしれない。景気は「気」からというのは、決して誤りでない。バブルの過熱も、デフレやスタグフレーションによる沈滞も、世の中の雰囲気と極めて強いリンクが確認される。経済が弱いかもしれないと感じてしまったところから、自己実現がはじまった可能性は高い。

アップルショックによる株価の下落による影響は、米国の株式市場に留まらない。為替はドル安円高になり、日本の円金利も大きく低下してしまったのである。既に年末に10年国債利回りはイールドカーブコントロール導入以降見られなくなっていたマイナスとなってしまっていたが、年明けは更にマイナス0.05%といった深さになったのである。日本銀行が昨年7月に変動幅を拡大しているため、マイナス0.2%までは政策の変更もなく許容される。市場参加者の少ない時間帯でのオーバーシュート気味であるが、2019年の起債市場は10年金利がマイナスの状況からはじまることになろう。

イールドカーブコントロールが導入された2年3ヶ月前のことを、思い出した方が良いかもしれない。10年金利がマイナスに沈んだことで、10年債のプライシングには国債利回りを参照したスプレッドプライシングが難しくなり、利回りの絶対水準で行わざるを得なくなる。5年債や7年債より短い年限で定着しているプライシング方式の採用が拡大されるのである。さすがに20年債のような超長期の利回りまでマイナスになることは想像し難いが、過度な低利回りは投資家の債券購入意欲を減退させるために、スプレッドの上乗せを求められる可能性も高い。一方で、短い年限で利回りを確保できない投資家が、スプレッドに目を瞑って(つむって)利回りを確保しようとするならば、長い年限の債券はスプレッドがよりタイトになることも考えられる。足元の低金利・マイナス金利が継続すると見るならば、債券の購入を継続する可能性もあるが、もはや円金利・クレジットに投資妙味を感じず、当面の債券購入を先送りにすることも考えられる。果たして市場参加者はどちらの方向に向かうだろうか。それでなくとも、2019年の世界経済に対しては懸念を呈する見方が少なくないため、起債市場だけでなく、世界の債券市場全般が低迷した展開になることも十分に考えられる。どうも明るい新年は期待し難いのではないか。

国内起債市場を斬る 年末特別号:2018年の起債を振り返る

一年分の起債を並べてみると、幾つか今年の特徴が浮かび上がって来る。まず、ここ数年続いているものではあるが、今年も3年債の起債が比較的目立ったことであろう。国債とは異なり、基本的にバイ&ホールドの投資目的が多いために、社債等一般債の利回りはマイナスになり難い。利付国債はどんな年限でも日銀が購入対象にしており、当該年限の市場実勢であればマイナス金利でも購入してくれるのである。ところが、社債に関しては、残存3年以内が日銀の購入対象であり、実勢に応じてマイナス金利でも購入する。結果的に、3年債がプラス利回りで募集されたものを、日銀オペ持ち込めば瞬間的に売却益が約束されるのである。日銀の購入対象銘柄については、格付けの制限がある他に、同じ社債を大量に購入することはしない。つまり、新発3年債がセカンダリーになったタイミングでの、日銀オペ応札がベストになる可能性は高い。結局、3年債投資のほとんどは、猿でもできる日銀対応の「鞘取り」でしかなく、本質的な投資ニーズに見合ったものではない。日銀による社債等オペのルールが変わらない限り、来年以降も、同様のことが見られるだろう。

次に、事業会社によるハイブリッド債が引続き見られたことである。ハイブリッドと言えばまるで「EV」を連想し聞こえは良いが、つまりは、劣後債である。借入金には結果的に多少劣位になるかもしれないが、優先債権となる普通社債と、普通株式の間にあるものがハイブリッド債と呼ばれ、社債に近いものが劣後債であり、株式に近いものが優先株と呼称される。資本性や利払いの繰延可否等の認定で、株式か債券かに近付く。古くから金融機関による劣後債の発行は見られていたが、近年では、事業会社等による類似の債券募集も多く見られる。格付会社が資本性を認定することで広く募集されるようになったものであるが、資本性の裏返しは債権者が持つ回収可能性の毀損である。その見返りが、プレミアムの上乗せになる。事業会社の劣後債は、金融機関等金融庁傘下の業態による劣後債とは異なり、利払いの繰延や元本償還の延期といったアクションが、発行体の裁量判断のみに任される。結果として、信用力の大きな低下や環境変化の生じた場合には、早期償還等が実行されない可能性が残る。つまり、どんなに早期償還条項やクーポンのステップアップ条項が付されていても、早期償還されない可能性を考慮し、契約上の最終償還まで元本が返済されない可能性を脳裏に入れておかなければならない。事業環境の変動が大きな企業の超長期劣後債は、どんなに慎重に企業・業界分析を行っても、やり過ぎということはないだろう。

今年の大きな特徴としてもう一つ挙げるなら、環境債やグリーンボンドと呼ばれる、ESG投資を意識した債券の募集である。株式の領域で進んできたESG投資が債券の世界にも及んできたのである。しかし、実際に発行した顔触れを見ると、メーカーならまだしも、ノンバンクや鉄道機構、更には、ANAホールディングスといった他業種の例も見られる。環境省等の外部に基準に合致していることを認定されたのであるが、より精緻な基準が必要ではないか。建設する訓練センターの設備が環境に配慮したものであるからと言って、それがグリーンボンドと言えるのだろうか。ノンバンクの例で見られる再生可能エネルギー施設の建設に対するファイナンスであるといった資金使途も、金に色がない以上、厳密な区分とはならない。結局のところ、発行体の言ったモノ勝ちであり、厳密に責任財産限定特約等を付さない限り、これでは何でもがグリーンボンドになってしまいかねない。グリーンボンドを投資対象にしているとアピールしたい投資家にとっても、認定されていれば何でも良いのだろうが。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/10~12/16

いよいよ年内最後の債券募集である。前週7日の案件集中に比べれば、もはや起債ラッシュではない。7日はメーカー、ノンバンク、電力・ガス、鉄道、財投機関等銀行を除いて主要セクターが勢揃いした感すらあったが、既に12月10日を過ぎると、消化試合的な雰囲気も多少して来る。7日は楽天の劣後債が、3本で計2,990億円も募集されたために、本数と金額の両面で大きな数字となったが、この週は三菱UFJグループの永久劣後債が2本計1,550億円募集されており、募集金額としては決して少ない訳ではない。

13日に募集された社債は、富士フイルムホールディングスと三菱ケミカルホールディングスの化学対決となった。富士フイルムホールディングスは、既に写真フィルムだけのメーカーではない。元々カメラ等も取扱っていたが、近年では、更に、印刷機器に拡大しているだけでなく、化学領域や医薬品、化粧品等までに領域が拡大している。そもそも持株会社で多角化経営していると、伝統的な業種一つに区分することが難しくなっているのである。株式投資において、東証業種分類に基づいて偏りを作らないといったコントロールをすることもあるが、そもそも業種分類自体の意味が低下していると言わざるを得ない。富士フイルムホールディングスがそれの類し、JXTGホールディングスへの投資を石油・石炭商品に分類し、その分ほど出光興産や昭和シェル石油への投資を抑えることが適切だろうか。

14日の金曜日には、様々な10年債が競合した。小田急電鉄、雪印メグミルク、H2Oリテイリング、椿本チェイン(5年債50億円とともに)が、いずれも100億円の10年債を募集している。業種で言えば、陸運(鉄道)、食料品、小売、機械と様々であるし、格付けも、順にAA-(JCR)、A-(R&I)、A-(R&I)、A(JCR)と分散している。クーポンは、同様に、0.33%、0.45%、0.48%、0.52%と並ぶ。必ずしも格付けの順と一致しないのは、業種の差など様々な要因が考えられるだろう。公表されている国債対比のスプレッドは、+28bps、+40bps、+43bpsと並んでおり、椿本チェインはスプレッドを公表していないようである。より格付けの低い雪印メグミルクやH2Oリテイリングより大きなスプレッドを表示しないように配慮したとも考えられる。しかし、そもそも格付会社がR&IとJCRで異なり、市場参加者は一般的には、両格付け会社の評価には平均的に1ノッチ弱の差が存在すると考えていることから、実質的の同程度の信用力と見られている可能性が高いために、敢えて比較されないように工夫したという憶測も当たっているのかも知れない。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/3~12/9

12月に入っても、起債ラッシュが続く。とは言っても、相変わらずの金曜集中のパターンである。主に財投機関債の募集が中心で、それ以外には、メーカー等の起債が散見されたに過ぎない。起債ラッシュは木曜の6日から徐々に盛り上がり、7日の金曜日が案件の大量集中日になってしまった。

12月7日は起債ラッシュの中でも大量集中日となったのであるが、本数が多かっただけでなく、金額面からは、楽天のハイブリッド債3本計2,990億円が大きい。ノンコール期間を5年、7年、10年と別々にした3本であるが、金融機関系の法人が発行する劣後債とは異なり、事業会社の劣後債はコールされない可能性を頭の片隅に残しておくべきである。確かに楽天の場合は、傘下に銀行や保険会社、カード会社を持っており、金融関連事業のウェイトも小さくないのであるが、ネットでのEコマースのプラットフォームが主体であり、現在は、モバイル通信への参入が進行している。日本の社債市場において、これまでにデフォルトを起こした業種の上位は、何と言っても小売、不動産である。必ずしも楽天のデフォルト確率が高いと指摘するわけではないが、金融系法人の劣後債よりも、コールされない可能性は残る。つまり、今回募集された劣後債を、5年債や7年債、10年債としてのみ考えるのは危険であろう。そもそも、ネット通販のプラットフォームという事業も海外展開は苦戦しており、モバイル通信への傾注も、直面するビジネスの限界を打破するためのものとしか解されない。果たして今回募集されたハイブリッド債は、投資家の想定通りに早期償還されるだろうか。楽天をビジネス環境の変動性が高い小売業が中心と考えるならば、到底、35年とか40年の超長期に渡る与信は難しいのではないか。

このような起債ラッシュの最中でも、複数のネガティブなインシデントの発生が確認されている。一つは、一部の案件で主幹事証券からSMBC日興証券が降ろされている件である。これは同社の元職員がインサイダー取引の疑いで逮捕された事件が発生したために、公的な発行体やガバナンスを強く意識する投資家が敬遠したためと見られる。しかし、すべての募集案件から外されてはおらず、発行体との関係や債券の募集状況等も考慮したものと考えられる。当面、一部では同様に降板する案件等が見られるかもしれないが、金融庁へ業務改善計画を提出する等の禊(みそぎ)を経て、年明けくらいには市場参加者のほとんどが本件を忘れてしまっているのかもしれない。

もう一つは、債券募集を見送る発行体が幾つか見られていることである。以前に見送られた募集の復活も、前週のキリンホールディングスやこの週のリコーなどで見られるが、前月下旬に内部告発による不祥事発覚を受けてオリンパスが10年債の募集を見送ったのに続き、日本航空も副操縦士が飲酒により英国で有罪とされて禁錮刑を言い渡されたことに加えて、複数の飲酒問題が表面化したことを受けて、5年債の募集を見送った模様である。不祥事等が公になった際には、株価は特に下落する可能性が高いものの、社債に関しては、元利金の返済可能性は金融機関の支持や強固な経営基盤等があれば、影響を受けない可能性が高い。しかし、それでも社債募集が見送られるのは、投資家が、一旦、不祥事の判明した企業の社債への投資を敬遠するためである。やや非合理的な行動にも見えるのであるが、不祥事が経営状態に長期的に及ぼす影響を考慮すると、暫時様子見になるのも無理はないだろう。まあ、起債ラッシュの中、案件集中日に無理して社債を募集することもない。

いよいよ年内の社債等募集も、カレンダー的には12月10日の週一杯がほぼ最後になるだろう。まだ年内の債券募集を考えている発行体が残っているようだし、週後半に向かって市場は慌しくなりそうだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/26~11/30

11月末に向けて週後半に起債ラッシュが見られた。ノンバンクや電力、鉄道の起債が多く見られるのは通例だが、メーカーによる起債も少なからず見られる。29日の木曜日に募集されたのが旭化成と富士フィルムホールディングス、30日の月末金曜日にはキリンホールディングス、グローリー、日立金属といった顔触れが社債を募集している。

起債の内訳を見ると、旭化成は5年債200億円、キリンホールディングスは5年債200億円(9月に募集を延期したもの)と単年度の募集であったが、富士フィルムホールディングスは3年債250億円・5年債350億円・7年債250億円の3本計850億円を募集している。グローリーは5年債と10年債各100億円を募集し、日立金属の起債は5年債150億円・7年債150億円・10年債100億円の3本計400億円であった。メーカーの場合は、社債を募集しても長くて10年というところである。

この週の起債のもう一つの特徴としては、AAゾーンの高格付け起債とBBBゾーンの起債とが、両方とも見られたことだろう。AAゾーンとAゾーンの混在は決して珍しくないが、BBBゾーンの起債は元々多くない。この週に見られた「片脚BBB」ゾーンに突っ込んでいた起債は、NECキャピタルソリューションの5年債100億円、SBIホールディングスの3年債・5年債各150億円、イチネンホールディングス(1930年6月、石炭販売業で創業した旧黒田重太郎商店)の5年債50億円、富士急行の10年債50億円といったものである。富士急行は鉄道業者であり、国土交通省の認可を得て運賃設定をしていることもあって、BBBゾーンと言っても、格付けの安定性や下方硬直性が高いと考えられる。しかも、富士急行とイチネンホールディングスの起債はいずれも50億円という小額である。最低投資単位が1億円となる日本の多くの社債では、50億円はほぼ最低募集金額と考えて良いだろう。

年内の起債ラッシュは、まだ終わらない。今年のカレンダーでは12月10日にはじまる週までは、募集が行われると考えられる。前年の最終募集日は12月15日であり、今年の応答する金曜日は12月14日である。起債観測の上がっている顔触れは、12月3日からはじまる週の募集予定がハイブリッド債を含めて大きな金額になっているが、それ以外にも、二週にわたって、電力・ガスといった公益セクターから、金融、メーカー、不動産、運輸、サービス等様々な業態が社債を募集する予定のようだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/19~11/22

週央から起債が数本ずつ見られたが、結局、勤労感謝の日前の22日に案件募集が集中している。時系列で見ると、火曜日は2社2本で、水曜日は2社1機構の計5本と増え、木曜日は14社計23本と一挙に跳ね上がった。幾ら条件決定前に、スプレッドやクーポンの絶対水準で購入者と握ってあるとしても、最終的な手続きが必要であり、案件の集中は売り手の証券会社にとっても、買い手の投資家にとっても、好ましいことではないという事情は、言うまでもない。

現在の日本の起債市場において、条件決定を行い、事務主幹事を務めるトップレフトの証券会社は、ほぼ5社に限定される。かつての起債会のような統制組織ではなく、自然発生的に旧大手四大証券と銀行系証券の大手が取り仕切る市場になっているのである。SMBC日興証券は、旧四大証券の一角であるが、銀行資本の傘下にあり、当該銀行の親密な準大手証券を吸収しており、みずほ証券や三菱UFJ証券といった銀行系の直系証券を中心に親密な準大手証券等を統合したものと、類似の形態である。この22日のトップレフトの分散を見ると、野村6本、大和3本、SMBC日興7本、三菱UFJ5本、みずほ2本という状況である。その他の準大手証券は、主幹事団の一角を占めることはあっても、全般を取り仕切ることは稀である。

これら現在の五大証券は、事務的な管理能力、投資家向けの販売ネットワーク、更には、発行体とのリレーションといった各面で、圧倒的な力を持っている。しかし、案件が集中した際に、どこまでキメ細やかな対応ができるだろうか。また、情報ベンダーの起債情報担当者も、案件の集中に悩まされている。あまりに募集が一日に集中するので、十分な分析記事も書けないし、取材も疎かになりかねない。市場参加者の様々な声を集めて報道する情報ベンダーが情報収集に苦戦するようでは、健全な市場の発展を阻害されかねない。結局のところ、起債の条件決定が集中すると、誰にとっても良いことはないのである。よほど条件決定に自信の持てない発行体や主幹事証券が、人の目を憚り(はばかり)、こっそり募集しようとしていると勘繰られても仕方ないではないか。

休日を含まない5営業日ある週で、休み明けの月曜日に募集が難しいのは仕方ないだろう。しかし、火曜日や木曜に国債の入札があることは、必ずしも社債等の条件決定や募集に影響しない。起債市場で安定した運営が行われるためには、月曜日を除く残りの4営業日である程度分散して条件決定が行われるべきであろう。近年の各週最終営業日に募集が集中することは、この国内資本市場にとって決して良くない慣習なのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/12~11/16

ようやくこの週の後半になって、起債市場が大きく動きはじめている。電力債から募集がはじまった(厳密には、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が先行している)のは、従来からの典型的なパターンと言って良いだろう。この週に動いたのは、他に道路関係の公的セクターは当然としても、いきなりメーカーの持株会社であるJFEホールディングスと通信業であるKDDIが社債を募集したのは、珍しい展開かもしれない。どちらも決してフリークエントイシュアーではないのである。

JFEホールディングスが募集したのは5年債100億円であり、決して過大な規模でもないし、基本的には安定した年限である。同日に募集された東日本高速道路の5年債0.07%クーポンやKDDIの5年債0.11%クーポンと比較すると、0.15%クーポンはやや高い水準である。しかし、R&Iの格付けを見ると、東日本高速道路がAA+格で、KDDIがAA-格、JFEホールディグスがA格と大きく異なる。必ずしも割安には見えない投資家も多かったことだろう。

KDDIは5年債400億円、7年債300億円、10年債200億円の計900億円とまとまった社債を募集している。かつてのような国際電信電話会社ではなく、携帯電話も含めた通信事業者である。今後5Gのネットワーク展開が必要であり、MVNOとの競合等決して安定した事業基盤にないのではないか。その時に、果たして7年債や10年債といった年限は適切だろうか。ソフトバンクグループのように、M&Aや巨額の投資で本業の収支が脅かされるといった懸念は少ないものの、NTTを含めた3社の競合関係は今後とも続くだろうし、事業展開の華やかさを相対的に欠くKDDIの将来像をきちんと理解しておかないと、今回の社債に投資するのは難しいはずである。

それでも、今週で売れ残ったのが、九州電力の10年債だろう。同時に募集された20年債は0.883%クーポンと高水準で100億円の募集であったために消化できたものの、10年債200億円は市場で持て余されたようである。そもそも今回設定された国債対比+34bpsというスプレッドの水準が、この夏以降の電力債の売行き難航を無視したものであった。横並び意識の強い業態において、過去の起債と同程度か、わずかにスプレッドを拡大した程度では、消化に苦戦し募残が生じた前例を踏襲するに過ぎない。結果的に、10年の電力債は消化の悪循環に陥ってしまっているのである。特に、収支構造の悪い電力会社が、このトラップから逃れるためには、よほどの経営判断が必要だろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/5~11/9

引続き、3月期決算企業の決算発表があるため、民間企業の起債は停滞している。それでも、月初めの10年長期国債の入札を受けて、地方債や財投機関債等の募集は淡々と進んでいる。11月頭の起債が閑散となるのは、例年並みの季節性でしかない。しかし、冷静に12月末までのカレンダーを考えると、今月中旬以降で社債等の募集可能な営業日は、年内発行には残り1ヶ月ほどしかない。そろそろ起債観測も、大型案件やメーカー等動きの遅い発行体の名前がチラホラと見えて来ているようだ。

 

必然的に、この週の起債の中心は公的セクターとなる。募集された顔触れを見ると、住宅金融支援機構、鉄道建設・運輸施設整備支援機構、都市再生機構といった財投機関に加ええ、地方公共団体金融機構となる。いずれもR&Iの格付けがAA+格乃至AA格と高水準であり、政府からのサポートが実質的に期待できる発行体である。したがって、募集された年限も、超長期にまで及ぶものが珍しくない。

 

募集日が火曜日と金曜日とに分散しているが、日本銀行によるイールドカーブコントロールで金利水準が大きく変動していないから、クーポン水準別にこの週の公的セクターの起債を並べてみよう。5年債は、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が0.03%で、住宅金融支援機構が0.02%となるR&Iによる1ノッチの格付け差が影響しているというほどの物でもない。地方公共団体金融機構に関しては、地方公共団体や関連共済組合等投資家が多いのである。なお、今月の鉄道建設・運輸施設整備支援機構はグリーンボンドではないが、ノンリコースでなく一般財源が返済原資となる場合には、特定回号のみグリーンボンド認定を受けることが適切なのだろうか。単に、発行体と購入者の自己満足に過ぎないのではないか。

 

10年債は、住宅金融支援機構と鉄道建設・運輸施設整備支援機構の0.289%、地方公共団体金融機構の0.279%である。前者が国債対比+16bpsとされ、後者が同対比+15bpsとされているから、ベースとなる国債利回りは火曜日と金曜日とでほぼ同水準にあったということである。5年債と同様に、地方公共団体金融機構の債券に対するニーズは強い。

 

超長期ゾーンの募集は、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の15年債0.515%クーポン、住宅金融支援機構の30年債1.026%クーポンに加えて、都市再生機構が20年債0.716%クーポン及び40年債1.246%クーポンを募集している。地方債では40年債が募集されていないために、40年債の購入機会は限定的である。もっとも、かつて民営化の検討も一部で囁かれた都市再生機構の40年債の信用力をどう判断するかは、容易ではないかもしれない。なお、かつては政府系機関の債券については、後に民営化されても、償還までは公的機関による債券としての性質を失わないように法律で手当されていたが、将来における対応に関しては、保障されていないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/29~11/2

10月の最終週ともなると、起債市場の動きはほとんど見られない。一つには、9月末決算の発表という季節要因があるだろう。また、同時に、株式市場が不安定化しており、日々大きく値が動いているために、社債投資の目線が動き易い。本来的には、株価と社債の信用力との間には、高い相関はないはずである。しかも、発行体の企業価値の変動を示す株価と、元利金の期日通りの支払を考慮する信用力は、本来別物であるという者が多い。そもそも、社債に関して投資家は受身になりがちであり、元利金の受け取り可能性が低下しない限り、発行体の状態には無頓着でも構わないのである。ところが、株式市場においては、企業価値の変動に影響する様々な情報が反映されており、市場の効率性についての議論余地はあるものの、少なくとも信用力以上にビビッドな動きを示す指標性を有している。そのため、社債投資を行う上で、株価の動向を注視する価値がある。KMVモデルに代表されるように、株価と信用力を強く結び付ける考え方もあるが、日本の市場動向を見る限り、株価との関係は緩やかな相関傾向という程度であろう。株価には真実でない物も含めて様々な情報が織り込まれており、株価が大きく変動している場合には、社債への投資についても慎重にならざるを得ないという判断となる可能性が高い。そういった意味でも、社債募集が消極姿勢に変わるのも、この環境下無理もないのではなかろうか。

 

唯一事業債では、オリックスが5年債200億円と10年債100億円を募集している。いわゆるノンバンクと分類されるオリックスであるが、もちろんプロ野球球団を保有しているだけでなく、この週にも公表されたようにグループ傘下の不動産会社である大京を完全子会社化する等、同社の事業範囲は広い。リースを起点として、ノンバンクに近い銀行や生保・運用といった金融関連事業に拡大し、更には、今夏問題となった関西国際空港の運営を請け負ってもいる。既に単なるリース会社の粋を超えている。ただし、個人向けのビジネスは大きくなく、知名度は必ずしも高くない。レンタカー等直接個人向けのものもあり、大阪には劇場や文化館を保有しているが、首都圏ではやや弱いイメージがある。もっとも京セラドーム大阪は、90%がオリックス不動産の所有であり、オリックスバッファローズの本拠地として知られる。プロ野球の球団保有がグループ企業の信用力を示すものではないが、投資する際のサポート材料にはなるだろう。財務体質の脆弱な企業は球団保有が認められない。ちなみに現在の格付けは、R&IのA+格であり、かつてのような信用不安からは程遠い状況にある。

 

株価の変動が大きくなる一方、米国の利上げは淡々と遂行されており、日本の長期金利水準についても、上昇懸念が少なくない。日銀の強力な金融緩和の枠組みが容易に崩れるとは思えないが、海外の金利上昇から懸念される円安の進行可能性を考えると、日銀によるイールドカーブコントロールのレンジが上方にシフトされる見方も強い。金利が上昇に向かう懸念が高まれば、発行体による起債の駆け込みが起きるかもしれない。当面、海外金利と為替の状況には留意しておきたい。