国内起債市場を斬る 起債評価:4/6~4/10

前週の三菱UFJリース債に続いて、ようやく起債市場の動きが活発になってきた。年度や半期の初めというタイミングで動くのは、ノンバンク、電力、財投機関というのがこの時期お馴染みの顔触れであり、2020年度の最初も概ねそういった流れになっている。かつてとは異なって、メガバンクが四半期ごとに定例の起債を行うことは絶えて久しい。以前はベンチマーク債を目指すと豪語した銀行もあったが、その後のAT1債の取り扱いなどを見ると、銀行の社債は決して普通の事業債と同列には扱えないことがよくわかる(TLAC債の社債要項には、銀行が破綻した場合、バーゼルⅢで規定されている総自己資本、所謂普通株式等Tier1資本、AT1債、Tier2債の合計によっても吸収することができない損失については、TLAC債をもって吸収される旨が明記されている)。

新型コロナウイルス感染症が世界経済に与える影響を考えると、小売や運輸といった幾つかの特定セクターによる起債に対して慎重な投資家も少なくないが、事業基盤が安定していれば、どんなに今回の経済停滞が長引いても、その後の回復が期待できると考えられる。この週の起債の中では、JR東日本の5本計1,250億円の大型起債が象徴的である。3年債500億円の募集は日銀オペを意識したのか珍しく短期債であるが、それ以外は10年債から50年債へ10年刻みの募集である。同社の最近の起債では、20年債から40年債など10年刻みの募集が多かったので、違和感はない。3年債500億円さえ除けば、いつもの起債といったところだろうか。ただし、参照年限の国債がない50年債はレアである。

電力債は、既に東日本大震災と福島第一原発事故の影響から免れたようであるが、まだ、国債対比の利回りという意味では、同格付けの一般的な事業債よりスプレッドは乗っている。一般担保付の債券発行も経過措置で当面認められているため、相対的な投資妙味は高い。原発への依存度の高さ等から、かつての中央三電力とそれ以外の電力という序列は崩壊しており、個別の電力会社の置かれている状況が考慮される慣習になっている。当然、営業基盤となっている地域経済の強さや産業の状況による影響は強く反映され、また一方で、電力会社同士の横並び意識も根強い。この週でも中部電力と中国電力の10年債が同じクーポンとなっているのに、違和感を覚える市場参加者もあるだろう。

この週に募集された10年物社債のクーポンを比較してみると、JR東日本が0.265%で、中部電力と中国電力が0.35%、東北電力債が0.38%、北海道電力が0.44%、三菱地所が0.43%となっている。格付水準のみを見ると、三菱地所債の利回りが、中部および中国電力債と逆転しているが、財務上の特約がまったく付されていない裸の債券と一般担保特約付債券の差も影響していよう。現在の経済環境では、事業基盤の安定性が高く評価されているようである。3月中旬にJ-REIT価格が大きく上下動したことを考えると、市場関係者には不動産市況の先行きに対する懸念が少なからずあるように思える。短期的には、外国人投資家の見切り売りや地域金融機関の期末前の損切りであったとされる。しかし、根本的には人口減少の進む日本経済の将来像が不動産業の背景にあり、根強いとされる丸の内界隈のオフィス需要に対しても、緊急事態宣言前後から急速にテレワークが増えており、今後のビジネスモデルに対する悪影響と見直しすら懸念される状況である。

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