国内起債市場を斬る 起債評価:12/7~12/11

年内の債券募集期間の終わりが迫る中で、前週に引続き、公的機関の債券募集が進むのと並行して、民間企業の債券募集もポツポツ見られる。公務員にボーナスが支給される期間ということもあって、個人向けの債券募集も、前週の四国電力債・北海道電力債に続いて出始めている。この週は楽天カード債が募集開始となり、国際協力機構構の10年物財投機関債も1万円単位で個人でも購入できる設えになっている。電子化されている債券は、小額で販売しても問題ないのである。ところが、社債管理者を設置しないために社債は1億円単位として募集されることが一般的なのである。これでは、巨大投資家しか社債等が購入できない。

社債管理者を設置する必要のある一般担保付きとなっている財投機関債や一部の社債の場合には、小額単位として個人投資家向けの販売を併用しても支障ないのではないか。管理の手間が面倒だと厭う(いとう)証券会社も少なくなく、店頭売買参考統計値が付されるため、個人から買取る場合の価格も制限されてしまうことから、現在ではほとんど見られない。投資家の裾野を拡大するためには、金額の小口化も一つの有効な手段であろう。

金額の意味でまったく別方向に向かったのが、NTTファイナンスによる総額1兆円の社債募集である。NTTの保証を付し、NTTドコモの完全子会社化のための株式買取に用いたブリッジローンを固定化するための起債である。近年の日本の起債市場において、大型の起債は、ほぼM&A関連の資金調達案件だと思って良い。確かに1兆円の起債規模は過去に例のない大きさで、発行体にとっても資金調達に意味があるし、引受実績や主幹事実績が大きく加算される証券会社にとっても、大きな意味がある。

しかし、投資家にとっては、巨額募集には直接のメリットがあまりない。購入可能な社債の金額が大きくなるかもしれない。確かに流通市場に出て来る金額は大きくなり、気配値の精度が高まるかもしれない。しかし、それら以上の大きな意味はない。海外の大型起債を見慣れていると、そもそも日本の社債が50億円や100億円×複数年限といった金額で募集されることが、実質的にバイアンドホールドを前提とした、私募に限りなく近い債券募集であって、元来目指してきた流動性は乏しさを感じる。このような大型起債が普通に見られるようになって、流通市場の厚みが高まるようであれば願ったり叶ったりではあるが、単発で1兆円規模の起債があっても、単なるイベントにしか過ぎないと投資家は冷ややかに見ているのではないだろうか。

これまで社債発行市場の発展に際して大きなインパクトを持つ取組みを続けて来たNTTであるが、今回の起債については金額以上のインパクトはない。M&A関連の資金ニーズがない限り、合計で数百億円の社債募集までというのが、日本の起債市場の実態であり、これでは市場の発展はなかなか見られないのである。

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