国内起債市場を斬る 起債評価:3/8~3/12

起債市場の動きが例年の同時期と比べてやや低調である。トヨタ自動車の3本計2,300億円の条件決定は見られたものの、それ以外は、数百億円規模の案件は幾つか見られるだけであった。金額面ではあまり目立たない一方で、募集方法や仕組み等で注目される案件が幾つか見られた。

まず、引続き、劣後債の募集が続いたことを指摘できる。オリックスは期限前償還が5年目以降で可能なものと10年目以降で可能になる60年物劣後債を計500億円募集している。もっとも、マーケティング開始時点では計600億円の募集予定とされており、発行額を抑えた背景には、投資家からスプレッドと発行体の信用リスクのバランスについて、必ずしも妥当だと評価されなかったことを示している。第一生命ホールディングスは、10年経過で期限前償還可能となる永久劣後債を600億円募集している。金融庁の監督下で期限前償還は確実なものと期待される中で、10年債として評価すれば当初クーポンの1.124%は魅力的な存在に映るだろう。NTNの劣後債を募集している。我々には「洋ベア」の方が耳慣れているが、社名変更して30余年が経つ。同社の劣後債は30年債で期限前償還が5年で可能になるが、格付けはR&IのBBB-格と、いわゆる投資適格の最下限である。格下げがなく予定通りに期限前償還されるならば、5年債で2.5%クーポンはとても魅力的な水準に見えるが、もしもの事は考慮すべきである。

次に、レア物ないし新規募集の社債が少なくないことがある。国際石油開発帝石は、5年債と10年債各100億円で初の公募普通社債を募集している。飯野海運の3年債は、第2回のグリーンボンドである。もっとも資金使途は海運業でなく、不動産業に関するものである。中央日本土地建物グループは合併後初の公募普通社債募集である。高松コンストラクショングループは、高松建設等を抱える建設関連の持株会社で、第1回の10年債と第2回の5年物サステナビリティ・リンク・グリーンボンドを募集している。不動産や建設といったセクターの持株会社による初の起債は、ややきな臭いものを感じなくもない。

最後に、トヨタ自動車の大規模起債についても触れざるを得ないだろう。5年物個人投資家向け1,000億円と、機関投資家向け5年債700億円及び10年債600億円を条件決定している。事前に報道されていた同社の提唱するWoven Planetへの取組みに向けた資金調達であり、SDGsに係る幅広い取組みに当てるものであるが、個人投資家向けはICMA(国際資本市場協会)のガイドラインに適合しないため、サステナビリティボンドとされていない。機関投資家向けの1,300億円はICMAのガイドラインに適合したサステナビリティボンドとなっている。なお、同じ5年債でありながら、個人投資家向けのクーポンが0.1%であるのに対し、機関投資家向けのクーポンは0.05%と半分である。純粋の金融理論からは疑問視されるプライシングであるが、レクサスを乗って頂く個人投資家を優遇したものと解されるし、Woven Planetへの賛同に対する感謝を含むものと考えるべきなのだろう。

同社公式HPより:「Woven」とは「織り込む」という意味で、その由来は、創業者・豊田佐吉が自動織機を発明したときの原動力である「母親の仕事を楽にしたい」という想い、創業の精神を継承し続けることにあります。また、自動運転やモビリティサービスの開発・実装を支えるために絶対に必要になる「道」を「織り込む」ことも意味しています。人を中心に、ソフトウェアやコネクティッド技術により、モノ・情報・街をつなげ、新しいサービスや商品を創出することを目指しています。
「Planet」には、ホームタウン、ホームカントリーと同じように、地球単位の視点「ホームプラネット」という考え方で、この地球に住む人が未来に貢献することで次の世代に美しい故郷を残したいという想いが込められています。誰かと対立するのでなく、「ただ自分の強みを誰かの役に立たせたい」という想いで、各々が力を出し合えば、SDGsに貢献することにつながると考えます。(2021年3月2日)

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