国内起債市場を斬る 起債評価:2/13~2/17

ようやく起債市場は年度末に向けた最終募集に入って来たようだ。しかし、3月9日と10日に日銀の黒田現総裁が出席する最終の金融政策決定会合が予定されており、市場関係者は疑心暗鬼を生じざるを得ない。12月の決定会合においてサプライズの10年国債利回りの変動幅を拡大し、逆に1月の会合では更なる変動幅の拡大を期待した市場参加者に肩透かしを食らわせたのである。政策委員会の後継執行部の国会承認は3月の決定会合前には得られている見通しであり、就任早々に異次元の金融緩和というミサイルを放った実績を考慮すると、何もなしで済ませるとは考え難いのではないか。足元の米国経済や為替の状況を考えると、金利上昇を容認する方向での政策修正が期待されるため、社債等の発行に対しては抑止的に働かざるを得ない。

一方で、発行体側も投資家側も年度末に向けて、資金調達の希望と投資枠消化の思惑とが交錯しており、起債ラッシュの展開になるかどうかは、微妙な状況であろう。特に3月第2週には、WBC第1ラウンド(3月9日(木) ~ 13日(月) 於東京ドーム、参加国:日本、韓国、中国、オーストラリア、チェコ)が行われる予定であり、世間の注目がそちらに集まると起債市場どころではなくなる可能性も考えられる。結局のところ、起債に大きな盛り上がりはないものの、淡々と社債等の募集が行われるだろうと推測される。M&A等による大型案件の募集観測も聞かれないことから、盛り上がりを欠く展開になるのではなかろうか。

この週の社債等の起債は、公共債が目立つ展開になった。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が計11本と本数を稼いだ他、日本高速道路保有・債務返済機構が2本立てのソーシャルボンドを募集し、中日本高速道路は通常の社債で5年債を募集している。中日本高速道路会社の社債は財投機関債でないし、ソーシャルボンドでもないところが面白い。他の高速道路会社の多くがソーシャルボンドを選択しているのに対し、同社はドル建ての外債でグリーンボンドを募集しているだけである。安易にソーシャルボンドを選択しない姿勢は評価できるが、一方で、ソーシャルボンドを選ばなくても債券の消化に支障ないと見込んでいるのだろうし、ソーシャルボンド認定を得るための手間やコストを考えてのことだろう。

民間企業による社債の募集も幾つか見られるが、一つ取上げるとしたらサステナビリティボンドとして募集された清水建設の第32回債であろう。グリーンビルディングと防災・減災対策のインフラ設備およびバリアフリー推進といったソーシャル性を兼ね備えたサステナビリティビルディングのためのファイナンスとされているが、具体的な資金使途は、「自社施設である『潮見イノベーションセンター(仮称)』の建設資金のために調達した借入金の返済資金の一部に2023年3月末までに充当する予定」となっている。結局は借入金の借換えなのであって、お金に色がない以上、それがイノベーションセンターの建設資金に充当されたかどうかの紐付けは緩い。新規のプロジェクト向けでない場合には、社債募集後の情報開示を適切に行わなければ、グリーンウオッシュではないかという疑念を完全に拭い去るのは難しいだろう。

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