国内起債市場を斬る 起債評価:3/13~3/17

例年のカレンダーなら2022年度の社債等の募集は最後となる週である。前週に日銀の金融政策決定会合があり、金融政策が見直されないという12月とは逆な意味でのサプライズとなり、金利水準の変動を予想して社債等の条件決定を見送った発行体にとっては、今、「翠富士ブーム」ではやりの「肩透かし」となった。しかし、払込等を考慮すると、この週はギリギリのタイミングであって、大規模な金額の募集は困難である。そのため、社債等で募集されたのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券が4本の他、中日本高速道路の財投機関債300億円に加えて、ニューカマーである稲畑産業の5年物社債75億円が募集されたのみであった。

地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債は、基本的には、定例で募集している10年などの年限とは重複しないとされているが、既に年度の定例起債を終了したこともあって、この週のFLIPに基づく起債は5年債1本の他、20年債が3本と、年度途中では考えられない定例募集と重なる設定であった。

中日本高速道路の財投機関債は、他の高速道路会社による起債の多くがソーシャルボンドとされているのと異なり、グリーンボンドの認定を取得している。資金使途としては、橋梁やのり面の補強等グリーンプロジェクトに向けた資金とされていて、ソーシャルボンドを選択することも可能であったろうし、両方を兼ねるサステナビリティボンドという枠組みを選択しても良かったのではないかと思われる。もっとも、主としてガソリンを燃焼し温室効果ガスをバラ撒きながら自動車の走る高速道路の運営会社がグリーンボンドを発行するというのも、ある意味でシュールな取り組みとも言えよう。トランジションボンドの発行を選択することも可能ではなかろうか。

稲畑産業は住友化学が筆頭株主である化学関連商社である。スタートは染料で、その後、合成樹脂や化繊の取り扱いを開始しており、機械や医薬品など様々な製品を取り扱うようになり、食品を取り扱ったこともある。近年ではしばしば事業再編を行っており、現在では2019年の再編によって情報電子・化学品・生活産業・合成樹脂の4分野となっている。格付けはR&IのA-格を取得しており、初回債の希少性は評価できるが、発行体の知名度の低さは投資の障害になりかねない。

日本の起債市場が年度末に入ろうとする時期に、米国のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻に端を発した欧米の金融不安が、かねてよりきな臭い噂の聞かれたクレディスイスの経営危機からUBSによる買収へと急速に進展した。その際に、株主に損失を負担させない一方で、AT1債(ブルームバーグのデータによれば、クレディ・スイスにはスイス・フランや米ドル、シンガポール・ドル建てで13本のCoCo債があり、発行残高は計173億ドルで、同行の負債総額の2割強に相当する規模)の毀損で保有者に損失を負担させる判断となった。その結果、主として海外のAT1債保有者の損失拡大や、今後のAT1債発行にブレーキの係る可能性が懸念される。AT1債の仕組みについては熟知されていたはずであるが、株主よりも劣位して損失負担させるという政治的決定を予想していなかった投資家も少なからず存在したようである。日本のメガバンクの持株会社によるAT1債の起債観測も上がっていたのだが、新年度早々の募集が可能になるか注目してみたい。

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