国内起債市場を斬る 新春特別号:社債市場の活性化に向けて

これまで日本証券業協会は、社債市場の活性化に向けた検討を2009年に設置した懇談会と下部の検討組織で継続して来ている。既に15年近くが経過しているのだが、成果として見ることが出来るものは決して多くない。見え難いところで引受審査の見直しを通じた社債募集可能期間の拡大もあるが、対外的に公表されたものとしてコベナンツモデルやコベナンツ開示例示集の策定がある。ところが、これらのコベナンツ関連の取り組みは、検討した上でそれなりの有意義な提言を行ってはいるが、実務での採用に至ってはいない。また、社債権者補佐人制度を導入するという提言は、その後の会社法改正によって社債管理補助者制度の導入という形で法的な裏付けを得て結実した。社債管理補助者を付された社債は2023年にようやく第1号案件の募集が行われたが、今後の拡大が期待されるところである。加えて、セカンダリーマーケットに関連した検討では、公社債店頭売買参考統計値の精緻化と社債取引情報の収集と公表が行われるようになり、公表対象の拡大を通じてある程度の成果を実現しているが、社債レポ市場の整備については、まだ検討の段階を出ていない。

こういったゆっくりとした動きの中で、昨年秋以降に新たな社債市場の活性化に向けた検討が開始されている。発端は、資産運用立国の実現に向けた金融諸制度の見直しと金融審議会市場制度ワーキング・グループでの検討にある。社債市場の活性化を実現することで、企業による資金調達の選択肢を拡大しようという考え方は、決して誤りではない。しかし、金融庁が特に意図しているスタートアップ企業に対して社債の発行を促進するという方向は、決して日の目を見ることがないと思われる。そもそも、日本に3千以上の上場企業が存在しているのに、格付けを取得している企業は千社前後に留まり、公募普通社債を発行している企業の数は更に限定される。結果的に、大企業の資金調達の場でしかない公募普通社債の市場に、スタートアップ企業をいきなり参加させることは難しい。特に、ほとんどの投資家は、いわゆる投機的信用格付けの企業が発行する社債を購入しようとしておらず、そこにスタートアップ企業が割り込んで来られる可能性は決して高くない。高い知名度と格付けを獲得し、事業の安定性を確保できるような企業になって、初めて公募普通社債を日本の市場で募集できるようになるのである。

日本証券業協会もそういった状況は理解しているようで、社債市場の活性化に向けた具体的な課題として、チェンジオブコントロール条項等重要事象発生時の対応、適切なコベナンツの付与、社債と他の債務との間でのパリパスの確保、債権者間の情報格差の是正、社債管理補助者の活用といったものを提示しており、2023年秋からは「社債市場の活性化に向けたインフラ整備に関するワーキング・グループ」における検討を再開している。年度内に複数回の検討を行い、翌年度以降も引き続き検討を継続するスケジュールを示している。日本証券業協会の会員や特別会員である証券会社や銀行などには直接の影響が及ぶかもしれないが、多くの投資家や発行体企業には間接的な制度変更としてのみ作用することが可能である。

社債市場の活性化については、目標を米国の社債市場に匹敵するような規模にしたいなどといった不適切なものとするのではなく、銀行融資と並存した金融慣行を前提とする中で、日本の市場として理想に出来る姿を探して行くべきだろう。かつての日本の取引銀行は、スタートアップ企業に対しても、超大手企業に対しても、まるで「ゆりかごから墓場まで」の様々な金融機能を提供して来た。しかし、銀行の自己資本規制が強化される中で、すべてを銀行融資に委ねることは難しくなっている。将来の姿を見据えた日本の社債市場のありかを模索すべきである。絵空事の夢物語は要らない。

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