国内起債市場を斬る 起債評価:1/29~2/2

引き続き、起債市場での社債等の募集は少ない。例年のスケジュール通りなのではあるが、足元は株価の高騰を横目で見つつ、日米の金融政策変更の有無を確認するという状況で、やや自律的なものではなく外部要因の確認を求められているというのが実態だろう。しかし、間もなくの年度末に向けた募集時期のはじまりに向けて、様々な発行体による起債の観測が確認されている。

相変わらず起債市場を賑わせる可能性が高いのは、グリーンボンド等のSDGs債である。この週においても、一般の社債等の募集は見られていないが、水曜日に住友不動産の10年物グリーンボンド100億円が募集されている。住友不動産という発行体は、日本の公募普通社債の歴史の中でも、特筆すべき発行体の一つである。日本の公募普通社債の歴史において、1996年の適債基準の撤廃と財務上の特約の自由化が一つのターニングポイントであったとすることに異論はあるまい。その際に強行された特約の自由化については、投資家を無視した行き過ぎがあったのも事実であり、投資家サイドからはそれ以前から懸念する声が上がっていたものの、発行コストの引き下げと自由の意味をはき違えた発行体の言いなりに動いた(リーグテーブルが必要な)証券会社によって、日本の公募普通社債を銀行借り入れに劣位する実質的な劣後債に貶めてしまった。

某専門家によると、日本証券業協会の社債市場の活性化に関する懇談会では、適正な特約の復活に向けて、コベナンツのモデル集を提示したりしてきたが、発行体が乗って来ることはなかった。報道されているように、現在はチェンジオブコントロール条項と呼ばれる買収等によって株主構成が大幅に変更された場合に投資家が社債保有の見直しを可能とする趣旨の条項が議論の俎上に上っている。発行体側の抵抗が少なからずあるのは、自由を縛られたくないという反発であり、特に日本の社債に付される特約に関しては社債権者集会を開催しないと適用回避が認められない不自由さへの抵抗である。今後の議論の推移を見守っておきたい。

少し脱線したが、住友不動産は日本の公募普通社債では珍しい、いわゆる投機的な格付けまで格付けが下がったものの(2002年10月R&I配信;ユーロMTNプログラムの発行枠2000億円、格付けBB+)、主に個人投資家向けに公募普通社債を発行し続けた後に、格付の回復に成功したという発行体である。ここまでダイナミックな格付けの推移を経験した発行体は倒産した企業くらいしか思い付かないし、多くは途中で格付けの取得を停止することが多いためである。現在の住友不動産の格付は、R&IのAA-格およびJCRのAA格と、立派な高格付けである。バブル経済の崩壊による不動産市場の低迷を直撃された発行体であるが、その後の信用力の回復も著しいし、何しろ継続的に公募普通社債での資金調達を行った発行体という意味では十分に高く評価してよいだろう。

今回募集したグリーンボンドの資金使途は、「住友不動産新宿セントラルパークタワーの新規開発投資に係る調達資金のリファイナンス資金に充当する」とされており、特にグリーンボンドは資金使途の対象を明瞭にすることが可能な不動産各社にとっては有効な資金調達手段である。世間ではESGよりもサステナブルに注目の重点が向かいつつあるように見えるが、財務省も月内にクライメートトランジション(同ファイナンスは、気候変動リスクへの対策を検討している企業が、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則った温室効果ガス削減の取り組みを行っている場合に、その取り組みを支援することを目的とする金融手法です)国債の入札・発行を予定しており、資金使途の予定も発表されている。今後の市場の盛り上がりを確認したい。

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