国内起債市場を斬る 起債評価:2/5~2/9

ようやく起債シーズンが再開となった。とは言っても、早く動くのは毎度決まった業態が中心であり、しかも、8日(木)に地方公共団体金融機構が定例の10年債を募集した以外、社債等の募集は9日(金)に集中する展開である。ただでさえ内田日銀副総裁の講演等から金融緩和の先行きが怪しくなっている環境下、三連休前というタイミングでの募集は発行体と投資家の双方にとって良いものとは考え難い。米国雇用統計の内容は利下げの先送りを期待させるものであり、為替が円高に向うということもなかったため、株価は最高値を更新する状況となっている。「高転びに転ぶ」とは安国寺恵瓊が織田信長の天下の先行きを懸念して発した言葉であるが、現在の株価やドル高も状況が一変する危険性を意識の片隅に入れておいた方が良いだろう。何が偶発の契機になるか予測するのは不可能であるが、その時に金利がどう動くか考えておくことは、金融市場参加者にとって重要な頭の体操である。

ほぼ9日(金)に集中した社債等の募集も蓋を開けてみると、ほとんどがSDGs債である。そもそも前日に債券を募集した地方公共団体金融機構も海外向けにはグリーンボンドを発行しており、業務内容から考えるとソーシャルボンド等を選択することも可能と考えられる。また、金曜日に債券を募集している中で、唯一、SDGs債を選択しなかった科学技術振興機構についても、2年債の資金使途は「大学ファンド」の運用原資であり、公益性が極めて高い。結局のところ、現在の起債市場では、純然と営利のみを目的とした社債等の募集が、却って珍しくなっている。しかも、翌週には財務省によるクライメート・トランジション利付国債(トランジション・ファイナンスとは、温室効果ガスを多く排出する産業における事業活動を脱炭素型へ移行するために行われる資金提供を指す。脱炭素社会の実現に向けて、長期的な戦略にもとづいて取り組みを行う企業に対し、資金面で取り組みをサポートするための新しいファイナンス手法)の入札が予定されており、起債市場全体がSDGsの色に染められていると言っても過言ではあるまい。

電源開発の19年債はSDGs債の形式となってはいないが、同時に募集された10年債はグリーンボンドであり、その他に、中央日本土地建物グループの5年債もグリーンボンドである。鉄道建設・運輸施設整備支援機構のサステナビリティボンドは10年債であるが、残りのSDGs債は5年債ばかりである。住友三井オートサービスがサステナビリティボンドとされた他は、中部国際空港、西日本高速道路、大学改革・学位授与機構といった公的機関はいずれもソーシャルボンドを選択している。

結局のところ、公的な発行体はソーシャルボンドの認定を得やすく、それに事業内容からグリーンボンドの性質が加わる場合にサステナビリティボンドが選択される傾向と考えられる。民間企業の場合には、特に、建設・不動産関連はグリーンボンドが多く、運輸やメーカーなどではトランジションボンドを選ぶ可能性が高くなっている。いずれにしても資金使途や発行後の継続開示という負荷が発行体に科せられ、その裏側として投資家もSDGs性の確認継続という作業が必要である。一般的な普通社債に対して双方の負担が大きくなるものの、起債される社債等のほとんどがSDGs債になって来ると、グリーニアムの確認も容易ではなくなっている。このままの状況が続くと、SDGs債に期待された発行体と投資家のWin-Winの関係は見えにくくなり、SDGs債が普通の存在になってしまう日が来るのは近いかもしれない。

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