国内起債市場を斬る 起債評価:10/31~11/4

文化の日で営業日が少ないことや、月末月初ということ、3月期決算企業の決算発表シーズンとなっていることなどから、起債市場の動きはほとんどない。日本銀行によるイールドカーブコントロールも、開始されてからほぼ一ヶ月が経過し、市場は安定しているどころか、むしろボラティリティが益々低下していると見るべき状況である。先物取引の出来高は少ないし、現物国債の取引量も低迷している。まさに、管制(官製)相場の様となっている。それだけ、日本経済の実勢が強くないと言うことの表れなのであるが、株式相場の方は、米大統領選の行方を睨んで神経質な動きを示しながらも、日銀や公的年金による買い支えが入ることを前提に値を保っている。

欧州ではドイツ銀行に対する経営不安が落ち着いたと思ったら、スタンダードチャータードで銀行劣後債の償還延期(正確にはコールオプションの不行使)観測が出ており、改めて欧州金融機関の経営問題がクローズアップされる可能性も高まっている。そういう意味では、近年、無造作に発行・投資されている事業会社の劣後債に関して、発行体によりコールされない可能性について投資家は真剣に考えておいた方が良い。一般的には、最初の償還可能時点でコールされるという前提で、両者ともが考えており、“実質5年債”といった理解をされているのだが、オプションを保有しているのは発行体であり、金融庁による監督の対象外である事業会社については、経済合理的にオプションを非行使とする可能性は十分にあり得る。その時に投資家は、資金繰り等に影響はないか。また、投資計画に影響がないか。そもそも、期限前償還されないリスクについて投資時点で証券会社から説明を受けていたか、また、投資家側が理解していたか。将来の禍根となりそうな気配が濃厚である。

将来の禍根と言う意味では、マイナス金利政策下での低金利環境下で、発行の増えている超長期債についても、大きなリスクを孕んでいる。将来の金利上昇局面において、デュレーションの大きな分、時価の変動幅は大きい。金利が容易に上昇するとは思えない経済実勢であるが、政府への信頼低下による財政プレミアム拡大というパスについては、いつ生じるかはわからない。このまま財政赤字の拡大を容認していると、ある日突然にショックの起きることは考えておかなければならないだろう。

金利水準については、国債の影響が多いとしても、個別の発行体の信用状況という要素も見逃せない。そもそもが、企業の超長期にわたる経営計画なんて公表されていないのである。したがって、投資家は発行体の業種・個別の業績・特性といった要素から将来の信用力を推定して投資する。しかし、格付会社も想定できていないような遠い未来の状況を、適切に想定できるかは極めて疑問である。少なくとも20年前の1996年当時の私たちが、現在の日本経済や個々企業の状況を想像できていただろうか。この週に募集されたイオンモールの20年債を考えて見るのが良い。この発行体は、小売系の不動産ディベロッパーである。そもそも20年前には、イオン興産とダイヤモンドシティの二つのショッピングモール・ディベロパーである。小売と不動産という業種は、日本の公募社債における歴史で、もっとも破綻の目立っている二つである。それが、クーポンが1%以上得られるからといって投資されるのである。投資家の担当者は、自分が20年後までには在籍していなくなり、責任を問われることがないはずという無責任な投資判断になってはないだろうか。

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