国内起債市場を斬る 年度末特別号:サムライ債の動向

MDWでは、サムライ債の発行状況については、あまり触れることがないので申し訳ないと思っている。言い訳の一つには、投資家が社債とは必ずしも一致しない可能性があるためであり、また、発行体の動向も国内のものとは異なることが多いこともある。しかし、国内債券市場の代表的なインデックスであるNOMURA-BPI総合には、サムライ債も社債等と同様の基準で含まれている。サムライ債とは、海外の発行体が日本国内において円建てで募集する債券であり、基本的には日本国債や円金利スワップのイールドカーブに基づいてプライシングされるものである。

近年のサムライ債の発行体を地域別に見ると、圧倒的にヨーロッパの発行体が多い。歴史的には米国の発行体が多い時期も存在したが、税制の改正や金融機関に対する規制によって金融機関の発行が抑制されているために、米国の発行体の動きは少ない。また、日本の投資家の中には、ゼロックスクレジットやフォードモータークレジット等米国のノンバンクが発行したサムライ債によって損失を被った記憶を残している者もあり、抑制的に取組んでいるためも考えられる。今年度もメキシコ合衆国がサムライ債を募集しているものの、過去においてはアルゼンチン債のデフォルトが発生しており、個人投資家にまで損失の及んだ経験を有している。

2016年度という括りでは、欧州の発行体がサムライ債発行体の主力であり、圧倒的に、金融セクターによる募集が多い。それに次ぐのがアジアの募集であり、ハンファケミカルといったメーカーの募集も確認されている。欧州の発行体にしても、国別の偏りが見られる。最大の調達はフランスの発行体による。ルノーといったメーカーによる募集もあるのだが、圧倒的に金融機関の募集が目立つ。サムライ債の場合は、複数の年限を同時に募集し、変動金利物も同時に募集されることが珍しくなく、複数の回号による一回のディールを合計すると、1,000億円単位にまとまった金額となることも珍しくない。日本の社債募集の多くとは、やや募集金額の大きさが異なる。遠い海外市場で募集するのだから、様々な投資家のニーズを捉え、大きな金額を募集することは合理的であろう。

ヨーロッパの金融機関が募集するサムライ債の一部は、バーゼルⅢ規制に対応した債券であり、加えて欧州の一部の国では、シニア債の元本毀損可能性で従来の単純な優先/劣後といった二分法では整理できない物も募集されているから、債券契約の内容を良く吟味する必要がある。日本の金融機関にはない種類の債券が、ヨーロッパの発行体によって募集される可能性もある。

近年、日本においても国際協力機構によるソーシャルボンドや野村総合研究所によるグリーンボンドといった環境等を意識した債券募集の例が見られるようになっているが、サムライ債の領域においても、フランス電力がグリーンボンドを募集しており、今後の追随が期待されるところである。

なお、海外の発行体が東京プロボンドマーケットを利用して、円建債券を発行する例も見られている。厳密な定義上ではサムライ債の範疇を外れるものの、同種のものとして投資対象の候補に加えても良いだろう。バンクオブアメリカがこの市場で1,100億円の円建債券を募集しており、サムライ債とは異なる発行体によって利用される可能性もある。

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