国内起債市場を斬る 起債評価:6/12~6/16

5月後半から6月の起債シーズンは短い。決算発表が終わり、株主総会までの短期間に募集が集中する。この時期に無理をしないと、7月の第二週あたりに案件が集中することになるだろう。第二四半期の頭ということもあって、財投機関債のほかに、電力・銀行・ノンバンクといった顔触れの殺到することが考えられる。かつてなら、その時期に率先して起債していたであろうと考えられるのが、東京電力である。典型的なパターンとしては、発行額の大きさと主幹事実績を餌に引受証券に厳しい条件を突きつけ、それは実際に投資家にとって受入れ難い発行条件であったりすると、募残を残すことになり、引受証券はレス販売を行うか、市場の変動の中で徐々に処分するかという選択を迫られた。さすがに、東日本大震災と福島第一原発の事故以降は、東京電力は起債市場に現れることは出来なくなった。

しかし、東京電力は持株会社化し、その傘下で“一般送配電事業、不動産賃貸事業及び離島における発電事業”を担当する東京電力パワーグリッドは、2回目の債券募集を実現している。同社の社債が有する最大の特徴は、東京電力を破綻処理できなかった一般担保条項を付しているために、社債権者保護が強いことである。一般担保条項は、他の通常債権保有者に対して弁済の優先権を付すものであり、財投機関債の他、法律で認められた一部の社債にも付されている。電力債の場合には、電気事業法で日本政策投資銀行による融資と並んで一般担保条項が認められており、その結果、原発事故の賠償金に優先して弁済されなければならないことから、法的破綻処理が不可能であったのである。一般担保条項は会社を分割しても、分割会社全体に及ぼされる。社債権者に対する不利益変更を行って償還額を減らしたりすれば、損害賠償請求を受けることが必至であり、裁判での勝ち目はない。

東京電力パワーグリッドは3月に続く二回目の起債である。第1回及び第2回債は3年債と5年債の組合せであったが、今回の第3回及び第4回債は5年債と7年債の組合せで、年限が長期化している。加えて、ベースとなる国債利回りの水準変化を考慮しても、対国債スプレッドは低下し、クーポンそのものも低下している。前回の募集時は起債額の上積みが行われたが、今回は当初予定通りの5年債500億円と7年債200億円が募集されている。

今年度の東京電力パワーグリッドの起債は、今後も複数回が予定されており、スプレッドの縮小と年限の長期化状況が着目される。他の電力各社も東日本大震災以降、徐々に調達年限を長期化し、スプレッドをタイト化させて来た。ようやく20年の電力債も募集されるようになっている。いつ東京電力パワーグリッドの起債が先行する他電力に追い着くのだろうか。火力発電の統合等東京電力全体での取組みが注目される中、パワーグリッドは安定した事業展開が期待されており、だからこそ債券発行を実現できているのである。

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