国内起債市場を斬る 夏休み特別号:ビットコイン建て社債

8月14日に独立系金融情報配信会社であるフィスコのグループ会社と位置付けられる株式会社フィスコ仮想通貨取引所が、ビットコイン建ての社債を募集している(プレスリリースは、http://www.fisco.co.jp/uploads/20170814_fisco_pr.pdf)。ビットコインが一般に流通する金銭として認識されていないことから、会社法で定めるところの社債には該当しないとされるものの、株式会社の発行する債券であるから、社債と称することに間違いはないだろう。無担保社債とされており、償還は3年後とされているので、3年債ということになる。

会社法に定める社債とは認められないことから、社債管理者の設置義務はないとされることから社債管理者は不設置となっている。実際のところは、金融商品取引法の定める少人数私募の枠組みを利用しており、仮に会社法に定める社債であったとしても、社債管理者の設置を要しないとも考えられる。なお、社債の額面価額は4ビットコインとされており、会社法第702条但書で言う社債の金額が1億円以上の場合に認められる義務免除規定の適用はないものと考えられる。社債の発行総額は200ビットコインであり、額面価額で除すると50単位であって、少人数私募の要件を満たすことになる。なお、私募の対象となる投資家は“試験的にグループ会社に発行する”としていることから、フィスコ及び同社のグループ会社であるものと推測される。

会社法の社債には該当しないとするものの、極力、会社法の規定に沿った形で商品設計及び募集を行っており、有価証券ではないものの、金融商品取引法の趣旨にも適った形での募集となっている。しかし、出資法やその他の諸法令を完全にクリアしているものかどうかは定かでない。フィスコは上場企業であり、当然、取締役会決議を経ており、弁護士意見を取得していることも考えられるため、法的な問題はクリアしているものと考えられるが。

募集先がグループ企業であることから厳密な議論には合わないが、今回の社債に付されたクーポンは3%となっている。ただし、利息は満期償還時に一括して支払うこととなっているから、一般的に見られる利付債券の形式ではなく、日本高速道路保有・債務返済機構の発行している満期時一括利息支払と同様の利払形態である。したがって、通常の社債と同列に論じることは難しいが、利率3%という水準がリスクに見合った適正な発行条件かどうかという判断は難しい。日本の投資家が外貨建ての社債に投資する際には、当該外貨のイールドカーブを参照することになるが、ビットコインにおけるイールドカーブ構造は不明である。外部の投資家がいないために真剣な議論は必要ないかもしれないが、この債券の投資家は償還まで日本円とビットコインの交換レートが変動するリスクを負っていることになる。

今後もこういう債券の発行が続くかどうか、特に公募形式で発行されるとは考え難いが、将来においてビットコインのような仮想通貨がどう法的に位置付けられ、市場から認知されるかを今判断することは難しい。将来に向けた頭の体操として、本件社債の特徴を色々と吟味しておくことに意味はありそうだ。

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