国内起債市場を斬る 上半期末特別号:平成29年度上期の起債市場

日本銀行がイールド・カーブ・コントロール付きの金融緩和をはじめて、ほぼ1年が経過した。マイナス金利を導入してからは1年半あまりとなる。国債利回りを見ると、時期によっても異なるが、10年前後の年限から短いところはマイナス金利となる。したがって、起債市場においては、年限によってスプレッドプライシングが機能しない状態が続いている。利回りを欲しがる投資家は、超長期のような長い年限に行くか、格付けの低い銘柄の短めな年限に行くしかない。格付けの低い銘柄の超長期年限ならば、ダブルの意味で利回りが高くなるはずであるが、投資家がそこまで手を出すことは躊躇するのは当然の行動である。一方で、中途半端な年限の中途半端な格付けの銘柄は、必ずしも売行きが良くない結果となる。今年度の上期も、利回りを欲しがる投資家が少なくない中で、消化に苦戦する銘柄が見られただけでなく、市場の変化から起債を見送った発行体も存在する。

年度初めの起債は、7日の電力・鉄道・財投機関からであった。顔触れとしては、過去のものとあまり変わらない。銀行やノンバンクの動きは概して遅く、メーカーは更にゆっくりとなる。ちなみに、上期最後の募集は、鹿島建設と財投機関であった。低金利で低スプレッドの環境では、投資家の社債等に対するニーズは強く、発行体も初登場となる例が少なくなかった。この半年に登場した初顔銘柄は、高砂熱学工業、ノジマ、ツムラ、東海理化電機製作所、明電舎、DCMホールディングス、JXTGホールディングス、GSユアサコーポレーションといったものである。合併等によって回号が新しくなったものもあるが、メーカーの多いことが目に付く。現在の金融環境では銀行から融資を受けるのは容易であるはずだが、資金を預金にする必要がないと言う意味で、社債の方が好まれる可能性がある。しかし、そもそも一般企業セクターが金余り状態にあることを考えると、起債市場が盛り上ることは考え難い。

上半期のもう一つの特徴としては、復活の起債が幾つか見られたことを上げても良いだろう。そもそも新年度入りする直前の3月に、東京電力パワーグリッドが社債の募集を実現したが、3月は3年債と5年債で、6月は5年債と7年債、8月は5年債と10年債と順次年限を伸ばしているのである。他にも、9月にオリンパスが5年債を募集したことは記憶に新しい。不正会計等で大きな問題となった発行体が社債市場に復帰したことは、評価されるだろう。

日銀の金融緩和は当面枠組みの変更もなさそうであり、今年度下期も起債市場の状況が大きく変化するとは思えない。淡々と起債が行われる中で、年限とスプレッドの設定を間違えなければ、売行きが悪いはずもない。ただし、あまりに頻繁な起債や巨額な募集は嫌われる可能性が高い。毎期末の繰り返しのコメントで申し訳ないが、流通市場の実勢を意識したプライシングと、発行体の特性に応じた年限・金額の設定が望まれるところである。

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