国内起債市場を斬る 起債評価:2/3~2/7

この週は、純粋な民間企業による公募普通社債の募集は見られなかった。市場に登場したのは、財投機関を中心とした公共セクターばかりである。地方債と地方道路公社債を除くと、中部国際空港、阪神及び西日本の高速道路、都市再生機構、住宅金融支援機構、大学改革・学位授与機構といった発行体である。年限は3年から40年と幅広い。クーポンで見ると、0.005%から0.677%という分布幅である。基本的には準ソブリンという位置づけの発行体ばかりであり、必ずしも日本国債と同じ格付けという評価ではないが、十分に高水準の評価を得ており、万一の場合にも、政府による財政支援の可能性は高いことが期待される。特に、最長の40年債を募集した都市再生機構は、前月末にR&Iの格付けがAA格からAA+格と引き上げられて日本国債と同じ符号になったため、投資家の購入意欲が高くなったのではなかろうか。事業内容が民間企業と近しいものであっても、災害時の支援等公的セクターが担うべき使命がある以上、安易な民営化が強行できないことは、特に東日本大震災以降の政権が強く認識していることだろう。

その他に、純粋な起債にかかる動きではないが、社債に関して興味深い発表が見られた。NTT都市開発が会社分割によって、社債の債務をNTTファイナンスへ承継するというものである。両社いずれもNTTの関係会社である。前者は、NTTの100%子会社であるNAT-SH社の100%子会社である不動産会社である。かつては東証一部に上場していたが、2019年初までに公開買付けによって上場廃止となっている。後者は、NTT及びグループ会社が全株式を保有しているNTTグループのファイナンス会社である。今回の社債の承継は、NTT都市開発の非上場化に続く、同社のグループ内での位置づけの再設定と考えて良いだろう。歴史的に、NTT都市開発はNTTグループの所有して来た電話局等の不動産物件の管理と周辺を含めた開発を担って来た不動産会社であり、バブル経済崩壊後には傷みを抱えていたものが、その後の立て直しが功を奏し、総合不動産会社としての地位を確定している。ビルのブランドとしては、アーバンネットが代表的である。

今回の社債承継の対象となるのは、NTT都市開発の第10回債から第18回債(償還済の第16回債を除く)というすべての既発債である。いずれもNTTファイナンスによる承継後は、名称がNTTファイナンス第6回債から第13回債へと変更される予定である。NTT都市開発の格付けはR&IのAA格で、NTTファイナンスの格付けはJCRのAAA格及びS&PのAA-格である。ニュースリリースでは、債務の承継により同等以上の信用力を有する債務の承継となるために社債権者への不利益変更ではないとしている。債務の承継に際して、当該社債の時価に相当する金銭その他の資産も承継するとしていることが理由とされる。

今回の一連の経緯を見ると、NTTグループ全体の中での企業の役割を整理するものに伴うものであると解されるし、債務と資産の承継であるから、社債権者が今回の会社分割によって不利益を被ることはないと考えられる。日本の社債市場においては、M&A等による社債権者への不利益変更を強行した例が少なからず見られて来たが、今回は十分に適切な対応であろう。

懸念されるのは、投資家によっては、NTT都市開発債がNTTファイナンス債へと変更されることで、同一発行体に対する社債投資の規制に抵触する可能性があることだろうか。継続保有が困難になる投資家については、ニュースリリース記載の問合せ先まで照会してほしいと明記されており、限定的なケースではあるが、こういった事態の発生も念頭に置いているようである。

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