国内起債市場を斬る 起債評価:8/29~9/2

いよいよ、上期末の起債の動きが本格化して来た。時期的な要素も大きいが、一方で、530兆円の国債を買い入れている日銀が、頑なまでに金融緩和の姿勢を変更しないことで、金利の先高感が薄れたために、上期中に起債を計画していた発行体が、計画遂行に向けて動いている。必ずしも起債ラッシュとまでは行かないが、金曜日には個人投資家向け社債や財投機関債を含めた社債等の条件決定は、計8発行体で15本に上っている。1営業日という意味では、十分に盛り上がった状況である。概ねあと2週間程度が上期中に残された社債等の募集期間であって、この週に条件決定した発行体の顔触れも様々となった。

週を通じて必ずしも起債ラッシュという実感に至らないのは、条件決定がそこそこの本数見られる一方で、大型案件が見られないことも影響している。発行体ごとの募集金額を見ても、最大が野村ホールディングスのTLAC対応債で、3年債425億円・5年債165億円・10年債45億円の計635億円である。それに続くのは、日本高速道路保有・債務返済機構が4年債300億円と20年債150億円とで計450億円を募集した程度である。以下に続く案件も、小ぶりな物ばかりである。なお、暫時見られた億円単位で刻んだ募集額の案件は見られず、野村ホールディングスの5億円刻みが目立つのみであった。

週を通じて見ると、電力債や財投機関債の募集はあるものの、メーカーとメーカーのファイナンス関連会社による募集が目立ったように思える。日本精工が5年債140億円と10年債110億円の計250億円を募集し、岩谷産業(東証の業種分類は卸売業)は7年債と10年債各100億円で、ホンダファイナンスは3年債と5年債各200億円を、三菱重工業は5年債と10年債各100億円で、ツムラは7年債と10年債各150億円を募集している。並べて歴然としたのは、複数年限を募集した場合に、金額が年限で揃えられているものが多いことだろう。起債頻度が大きくないために、償還年限の分散を強く意識しないで済んでいる発行体が少なくないようだ。

なお、電力債では中国電力が4年債200億円と8.5年債100億円という珍しい年限の組み合わせを募集した他、中部電力は20年債単独を120億円募集し、北陸電力が7年債180億円を募集している。いずれも金額としては決して大きくない。その他に、SDGs債を見ると、日本高速道路保有・債務返済機構と都市再生機構の財投機関債がいずれもソーシャルボンドの認定を得ている。いずれも民間事業と重複する事業内容ではあるが、独立行政法人として存続している意義を考えると、ソーシャルボンドとしての発行体に相応しいと考えて良いだろう。都市再生機構が募集した債券は、20年債100億円・40年債120億円・50年債30億円と、相変わらず超長期の年限が主体であり、いずれも1%を越えるクーポンが付されている。また、三菱重工業の募集した社債のうち、5年債はトランジションボンドの認定を得ている。脱炭素化などへの取り組みという資金使途が示されているが、同時に募集した10年債は認定を得ていない。お金に色はないものの、調達後の情報開示等を考えると、すべての起債についてトランジションボンドの認定を得ることを回避したものと想像される。

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