国内起債市場を斬る 起債評価:4/10~4/14

起債市場は、巡航速度に乗ったと見て良い。確かに、クレディスイスのAT1債に生じた全損による波及や、先行きの景気後退を予想した低格付け銘柄の信用問題など懸念材料は少なくないが、日本の起債市場は基本的にハイイールド債が存在しない高格付債の市場である。余程の衝撃がない限り信用懸念が高まることもないし、リーマンショック時や新型コロナショック時の経験でもわかるように、公的セクターによる貸付を通じて資金繰り支援が行われることで、社債市場が機能不全に陥ったとしても、企業が求めるファイナンス機能を喪失することはないだろう。むしろ公募普通社債を募集できるような優良企業を含む様々な規模、業務内容の企業に対してまで、金融機関が貸付によって資金を供給することが期待できるため、信用不安が異常に高まることはないものと考えられる。

この週に条件決定された銘柄の多くは、募集タイミングも規模も違和感がないものであった。曜日の順で見て行くと、地方公共団体金融機構の10年債300億円及び20年債220億円は、毎月募集の10年債と、第1四半期は4月及び6月に募集予定と公表されていた20年債である。同機構は、4月下旬になるとFLIPに基づく債券募集を行うものと予測される。

次に、東京電力パワーグリッドは3年債300億円・5年債300億円・10年債600億円と合計して1,000億円を越える社債を募集している。エネルギー価格の上昇と小売価格への転嫁が十分に出来ていないため、電力会社に対する収益性の低下懸念は多少強まっていると言って良いだろう。現在でも、福島第一原子力発電所の事故以来続く電力会社の社債に対する警戒感は払拭されておらず、東京電力パワーグリッド債も5年債で0.98%クーポンと1%近い高利回りであり、10年債だと1.55%まで付されている。十分な投資妙味を感じる投資家もいることであろう。

クボタは5年債700億円と10年債500億円とで、同じく1,200億円を募集している。安定的な機械メーカーであり、5年債が0.479%と東京電力パワーグリッドの半分のクーポンで、10年債が0.95%と東京電力パワーグリッドの5年債とほぼ同じクーポンである。もう一つの大規模起債が日本たばこ産業によって行われている。7年債100億円や10年債300億円はともかく、日銀によるイールドカーブコントロールの修正が期待される中で、20年債200億円を募集したのは、財務省が約1/3の株式を保有する半官半民だからと言えなくもない。クーポンを見ると10年債が0.92%とクボタよりわずかに低い水準であるが、20年債は1.63%クーポンと高水準である。たばこ事業の先行きに対する不安感は小さくないだろうが、既に薬品や食品等多角化し海外展開も行っており、しかも、国の出資は法律によって1/3を超えることが義務とされているため、破綻を心配する必要はほぼない。破綻させると国の資産が毀損するため、公的支援や延命策等様々な取り組みが行われることだろう。しかも、法律によって、電力会社などと同様な一般担保付社債の形態が採用されている。R&IからAA格という高い格付けを取得しているのも、公的なサポートを期待できることが根底にある。起債頻度が多くないこともあって、よほどESGを厳格に適用し煙草を忌避する投資家でない限り、購入を検討する価値は残っていたのではなかろうか。

なお、これら以外にも、メニコンの10年債やGMOフィナンシャルホールディングスの3年債、DICの5年債などが募集されており、公的関連でも東日本高速道路や日本高速道路保有・債務返済機構などがソーシャルボンドを募集している。

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