国内起債市場を斬る 起債評価:7/3~7/7

毎年、7月前半は起債ラッシュになる。株主総会シーズン明けというタイミングに加えて、財投機関債が四半期頭の調達を行うためであるが、電力会社等の公的機関に近い民間企業も四半期頭の起債を意識するところは少なくない。その上、暑い夏を迎えて、8月には市場の動きが自然と閑散になることを考えると、年度第二四半期の起債という意味では、7月一杯と上期末を狙った8月最終週から9月中旬までの期間しかチャンスはない。早速、7月に入って早々から週後半を中心に起債ラッシュと言えるような活況を呈した。

公的セクターによる募集という意味では、日本政策投資銀行の3年債・5年債・10年債・20年債計1,050億円や、住宅金融支援機構の15年債および20年債各200億円等があり、加えて、電力では、東北電力が10年債200億円および30年債100億円、東京電力パワーグリッドが5年債200億円・10年債600億円・15年債400億円の計1,200億円、中国電力が6年債150億円・12年債100億円・20年債280億円、北海道電力が15年債50億円および30年債150億円と、総計で2,000億円を超える額を募集している。また、負けずと出て来たのが鉄道関連である。JR東日本が10年債から10年刻みで50年債まで計5本800億円を募集した他、阪急阪神ホールディングスが10年債200億円、名古屋鉄道が5年債100億円および10年債150億円と、総計で1,200億円を越える。なお、名古屋鉄道の5年債はサステナビリティボンドの認定を得ている。

他にも、商社やメーカーなど様々な業種の起債が見られており、中でも通信会社であるソフトバンクの3年債300億円・5年債600億円・7年債150億円・10年債300億円の一社で計1,350億円という大型起債は、7年債でクーポンが1%という利回りの高さからも目を引く。持株会社と異なり現業を担う事業子会社という位置付けとA+(R&I)格およびAA-(JCR)格という評価を考えると、魅力的な利回りになっているものと考えられる。

なお、SDGs債は名古屋鉄道の5年債以外にも幾つか募集されている。日本電気の5年債および10年債各200億円はサステナビリティリンクボンドで、SPTs未達の場合は排出権を購入するか寄付を行うとする。オリエントコーポレーションによる3年のサステナビリティリンクボンドは、東南アジア(タイ、フィリピン、インドネシア)のオートローン取扱高を目標とし未達の場合は寄付を行うとする。新車はEVに限るとして環境にも配慮しているようであるが、主眼は「持続可能な地域づくりへの貢献」にあるため、ガソリンを燃焼する中古車へのローンも含むため、やや中途半端感が否めない。また、オリックス銀行の5年債240億円は、サステナビリティボンドの認定を得ているが、省エネビルや再生可能エネルギーによる発電、リサイクル事業等様々な対象へのファイナンスを使途とするものの、あまりにも融資先が分散しており、将来の開示が十分適切に行われるか疑問である。最近は、このようなノンバンク等のファイナンスを使途としたSDGs債は、資金使途の特定が不明確なため見られなくなっていたが、どうもこの発行体は1年位前の起債市場の流行をなぞっているようにしか思えない。曖昧なラベルボンドや投資信託の募集に対しては金融庁が目を光らせており、不適切なプロジェクト認定を行っている場合には、発行体や認定機関に対する厳しい検査や監督が求められるようになることだろう。

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