国内起債市場を斬る 起債評価:7/17~7/21

四半期毎の有価証券報告書開示を見直す金融商品取引法の改正案は、先の通常国会では成立せず継続審議となった。実際には、3月期決算の開示があり株主総会の開催を経ると、すぐに6月末の開示というスケジュールになるため、社債等の募集期間には非合理な影響がある。政府は金融商品取引法の改正を秋の臨時国会で成立させ、予定通り2024年4月1日から実施したい方向のようであるが、通常国会期末の成立を強行しなかったことを考えると、予定通り来年度から四半期開示が廃止となるかは不明である。法案の成立と施行のタイミング次第では、今後の社債募集に関する年間スケジュールが変わるかもしれない。

この週の社債募集でもっとも金額を貢献した起債は、みずほフィナンシャルグループのAT1劣後債である。二本で計2,610億円が募集されている。クレディスイスのAT1債保有者が損失を被ったことでAT1劣後債が忌避される可能性はあったが、日本の預金保険制度等を考えるとスイスと同様の処理になることは今は想定されず、日本のメガバンク持株会社が募集するAT1債に対するニーズは強いものがある。募集された二本の永久劣後債は、片方が5年で期限前償還が可能となり、もう一本は10年経過で期限前償還が可能になる。多くの投資家は、5年債もしくは10年債に相当するとみなして評価していることだろう。当初5年のクーポンが1.785%という水準や、当初10年のクーポンが2.143%といった水準は、R&I及びJCRのA-という格付けを見ると、劣後プレミアムを考慮しても割安と感じるかもしれない。メガバンクを破綻処理する可能性はほぼないという投資家の期待は正しいだろうか。

一方で、本数を稼いだのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債である。四半期の最初の月に、10年債を主とした定例の起債を終えた後、FLIPに基づく起債を行うのが通例である。9年物の第758回債こそ200億円と他の公募債と比べても遜色ない金額であるが、その他は30億円か60億円と発行額を刻んだ起債である。公募社債に比べると金額が小さく、決して流動性が高いとは言い難い。

その他に面白い起債としては、西松建設の5年債がサステナビリティリンクボンドで募集され、三菱HCキャピタルは3本立てのうち5年債のみをサステナビリティボンドとしている他、西日本高速道路も5年債をソーシャルボンドとして募集しており、SDGs債の募集が相次いでいる。なお、三菱HCキャピタルは7年物の社債を個人投資家向けに条件決定している。やや個人投資家向けの社債としては年限が長く、0.743%というクーポンの水準は必ずしも魅力的には映らないのではなかろうか。しかし、同社の1回債は、筆者がCSファーストボストン証券資本市場部時代に単独主幹事でお手伝いした事を思い起こすと、感慨無量である。ボーナスシーズンに個人向けで募集される社債は多くないため、需要は十分に集まっていることだろう。

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