国内起債市場を斬る 夏季特別号:SDGs債の募集に見られる大きな変化

山の日から続く旧盆の休みで、起債市場の動きはあまり活発ではない。8月下旬以降の募集に向けて、休み明けの発行体との調整や中央機関投資家への打診といった動きが水面下で進んでいるのであろう。起債観測は少なからず上がっており、7月の起債タイミングが日銀による金融政策の見直し観測によって動き難かったことを考えると、8月下旬からは起債市場が活発になる可能性も考えられる。もっとも、日銀が10年国債利回りの変動幅を最大1%まで容認すると示したものの、市場での出会いは0.5%を越えて来た程度で、国債利回りがどんどん上昇するといった形ではない。物価上昇は引き続いているが、肝心の景況感が必ずしも良くないためと考えられる。米国経済の踊り場感に加えて、中国の不動産業界の破綻が顕著になっており、世界経済全般に対する警戒も俎上に上るようになっている。日本のバブル経済崩壊より大きな影響が生じるのではないかという観測も根強い。先行きの金利上昇が見込めないのであれば、慌てて社債等を募集しなくて良いという判断になる可能性もあり、上期末の起債市場の動向については、まだ不透明であると言って良いだろう。

今年度上期を通じて、社債等の募集で主役になっているのは、SDGs債であることは言うまでもない。8月に入ってからを見ても、何らかのラベルを背負っていない起債を探す方が難しく、現在の起債市場における最大の潮流であるとして良いだろう。もう一つの潮流としては、金融機関を中心とした劣後債の動きがあり、クレディスイスのAT1債毀損といった障害を撥ね退けているものの、事業会社による劣後債募集が停滞しているために、メガバンクを中心とした募集金額が突出しているという見方は否めない。

SDGs債の募集を見ると、前年度からはやや変化があるように見られる。金融庁が投資信託における似非ESG商品に対して強い警告を行ったこともあり、SDGs債の募集に際しては、資金使途の特定化と情報開示の充実が強く意識されている。特に、ノンバンクによるバックファイナンスのような曖昧な、「お金に色がないから借換資金でも、どうとでもなるといった類のグリーンボンド」は、ほぼ根絶されたと見て良いのではないか。一方で、不動産やメーカー等で確実なプロジェクトと結びついた案件は開示や内容面での充実が進んでいる。

また、法人としての事業内容に沿ったソーシャルボンドも目立つ。ソーシャルな取り組みを行っている発行体は、極論すれば、地方公共団体や財投機関等は、すべからくソーシャルボンド(もしくはグリーン特性も併せ持ったサステナビリティボンド)を募集できる可能性があり、結果的には、通常の債券と何ら差のない債券と考えることができる。こういった種類の発行体に関しては、却ってグリーニアム(「グリーン」と「プレミアム」の合成語で、発行条件が同じ他の債券と比較して、グリーン債の利回りは低くなる現象)等の存在が難しいのではないか。そもそもの発行体や従前の債券が、十分なソーシャル性を持っていたのである。更に、タイトなスプレッドで募集できるという発行体側の期待は、誤った考えなのかもしれない。

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