国内起債市場を斬る 起債評価:8/21~8/25

ようやく旧盆明けの起債市場が動きはじめた。起債観測が上がっていたことから動きは多少あったのだが、具体的な案件の条件決定によって募集額が決まり正式募集となる以上、筆者の起債評価も正式募集を踏まえてのもとなる。この週の特徴としてSDGs債を挙げるのは、もはや芸がないと言うべきであろう。確かにSDGs債は多く募集されているのだが、まずは、それ以外のトピックとしてメーカーによる大型の起債を上げておきたい。

歴史的に見ると、総計で1,000億円以上を募集する大型の起債を行うのは、メガバンク系持株会社を除くと、意外とメーカーの募集が少なくない。この週も1,000億円以上の募集を行ったのは、まず、日本酸素ホールディングスが3年債300億円・5年債600億円・10年債100億円の計1,000億円を募集している。JCRのA+格というまずまずの信用力評価と今回の募集が第3回から第5回債という希少性もあり、また、5年を募集年限の中心に据えたという運用も含めて。良好に消化されたと思われる。特に、10年債のクーポンが1.052%と1%を越えた意義は小さくない。主としてBtoBに従事しているために知名度は必ずしも高くない。「サーモス」ブランドの水筒やフライパン等の個人向け商品も取り扱っているのだが、元々ドイツを発祥とするメーカーを1978年に買収したものである事は知っていくべきだ。

もう一つの大型起債が、アステラス製薬の3年債及び5年債の各1,000億円の募集である。最近では、1回号で1,000億円という起債は珍しいと言って良いだろう。過去の大型起債の例に見られるように、資金使途は海外の医薬品メーカー買収資金のリファイナンスである。3年債と5年債という中期年限を選択したことは、薬品会社にとっては、投資家を安心させるために適切であろう。R&IのAA格という高い評価を得ていることもあり、また、昨年秋以来の起債であはあるものの、今回の募集が第3回債及び第4回債という希少性も評価できる。5年債は国債対比+27bpsの0.519%クーポンとされているが、募集金額が大きいため、格付け対比ではややスプレッドが乗っているように思える。

SDGs債としては、西日本高速道路や日本学生支援機構といったソーシャルな発行体に加えて、三菱重工業が2本立てのうち5年債100億円のみをトランジションボンドとしている他、JA三井リースも3年債と5年債の二本立てのうち5年債200億円のみをサステナビリティリンクボンドとしている。再生可能エネルギー関連の投融資額や温室効果ガス排出量の削減率に設定した目標未達の場合には、排出権を購入するか寄付を行うとするタイプのものである。

大型起債やSDGs債以外にも、中部電力の電力債やオリックスの個人投資家向けを含むノンバンク債が募集されている他、水産最大手のマルハニチロがR&IのBBB+格を取得して5年債130億円を募集している。他の高格付け社債が同じ5年で0.4%から0.5%越えあたりでプライシングされているのを見ると、マルハニチロの0.864%クーポンというのはやや厚目のスプレッドである。もっとも福島第一原発の放射性物質処理水の海洋への排出が開始されていることによってに、マルハニチロに将来的な影響が出かねないところである。

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