国内起債市場を斬る 起債評価:9/11~9/15

今年度上期末の社債等募集期間が事実上の最後となる中で、チャレンジングな社債の募集が行われた。少し詳しくその内容を見てみたい。発行体は、ジャパンインベストメントアドバイザーである。同社は、航空機リース等を主体とした金融会社で、経営理念としては「金融を通じて社会に貢献する企業でありつづける」を掲げている。子会社によるものも含めた事業内容として、航空機や船舶、海運コンテナのオペレーティング・リースの他、太陽光発電、信託、証券、事業承継コンサルティング、M&Aアドバイザリーから上場支援、人材紹介募集などの各種コンサルティング、日本證券新聞社を通じたメディアとIRアドバイザリーなど、広く金融に関連した幅広い事業を営んでいる。また、東証プライム市場にも上場しており、20世紀なら上場企業というだけで高い評価とステータスを得られたが、現在では、そこまでの認知は得られないだろう。

今回募集したのは、当然ではあるが、第1回債であり、2年債35億円である。みずほ証券による単独引受案件であり、まず格付けを取得していない点が注目される。確かに公募普通社債を募集するのに、格付けを取得する義務はない。現在でも、地方債の多くは格付けを取得していない。しかし、投資家が他の社債案件と大まかな比較をする際に格付けは信用力の目安となるし、プロの格付アナリストによる第三者の評価として重要であると考えられる。小額であり、2年と残存期間が短いため、投資家が持ち切りで購入するのなら無格付けでも良いかと考えたのであろうか。だが、今回の案件は、そういった不安を軽減する複数の仕掛けが組み込まれた社債であった。

本案件の肝は、格付けの有無よりも、まず、財務上の特約として社債間限定の担保提供制限条項の他に、純資産維持条項と利益維持条項が付されていることにある。高格付債の場合には、市場慣行として1995年以前のような財務上の特約は不要とされて来たが、日本証券業協会が社債市場の活性化に向け推奨して来たように、コベナンツを有効に活用することが市場の厚みを増す観点からも評価できるものである。格付けを取得していないくても、純資産が減少したり営業利益がマイナスになったりすると、無担保から有担保に切り替えるなどのアクションが求められることで、社債権者の権利が守られる方向となることが期待できる。

また、財務上の特約等に抵触した場合に社債権者自らが行動することが難しい。そのため、会社法改正によって設けられた社会管理補助者が、本案件で初めて設置されている。社債管理者のように事細かくは見てくれないが、発行体の財務内容が悪化し法的処理が必要になった場合、社債権の行使を支援してくれる存在である。フルサービスの社債管理者はコスト倒れというか、何もせずに受領する手数料が「眠り口銭」」と揶揄されていたものを、十年以上の検討と協議を経て2021年にようやく一部機能のみを担当する制度が法定されたものである。基本的に発行体の財務状況に何も問題なければ機能することはないが、信用力の低い社債であっても、不測の事態が生じた場合に、投資家の側に立ってくれることが期待できるものである。万一の時の安心材料となることが期待できるのである。今回が初の設置事例であり、まだ実際に機能する局面は見られておらず、完全な評価は定まらないが、これから事例を蓄積して行くための第一歩で敏て設置されたことは評価できる。財務上の特約の復活と社債管理補助者の設置が、今後の社債市場の多様化や拡大、発行体の裾野拡張といった方向で機能することを期待したい。

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