国内起債市場を斬る 日銀レビュー特別号:「買入オペ」の功罪

日本銀行は9月27日に「わが国における社債発行スプレッドの動向」という日銀レビューを公表している。まず、執筆している部署が市場を常日頃ウォッチしている金融市場局ではなく、金融政策を主に担当している企画局であるところから、既に内容の政策意図が強いものとなっている。また、社債のスプレッドに関しては、取引量が少なく、かつ、適正ではない売買参考統計値に基づいた歪んだ流通スプレッドを分析するより、発行スプレッドの方が実勢を適正に反映しているとされていたのは過去の話である。企画局が時代遅れの発想しか持っていないためとも思われるが、日本証券業協会の長期の努力を経て、特に取引情報の報告と開示により、公表される売買参考統計値の実勢からの乖離は小さくなっている。流通市場での取引が少ないという問題は未だに解決されないものの、発行スプレッドという数の少ないデータで社債市場を語らなくても良いのではなかろうか。

レビューにおいては、2022年後半から23年初にかけて確認された社債発行スプレッドの拡大について、①資源価格上昇に伴う運転資金需要の高まり、②海外中央市場の金融引き締めに伴う海外の金融環境の引き締まりの波及、③わが国国債市場における機能度低下、といった三つの要因が指摘されている。分析の手法は2005年以降のパネルデータに基づいた推計であるが、そもそも①として挙げる要因は、可能性を完全には否定しないが、企業の手元流動性が潤沢に存在する中では、運転資金需要が高まったかどうかという観点からは、疑念が拭えない。

②についても、海外の金融引き締めの影響が、日本の社債利回りに影響するかと言われれば、直接の影響は小さい。海外の金利上昇を受けて、国内の金利が上昇するというのは為替変動の経路から生じ得る可能性はあるが、この期間で問題になったのは、日本の金利が上昇しなかったための顕著な円安ではなかったか。特に、2022年秋の150円を上回る円安は、その後になっても再現されてはいない。為替レートの変動で吸収したために、②は必ずしも強い要因とはならないだろう。

分析結果から得られた各要因の決定係数はともかく、指摘された三つの要因の中では、どう考えても、③が最大の要因である。レビューでは付加的に挙げているものの、日本銀行が社債発行年限と重なる年限の国債を半分以上独占的に保有しているため、国債の利回り形成に歪みが生じ、更にその歪みが社債発行スプレッドにも影響を与えているのである。加えて言えば、異次元の金融緩和以前から日本銀行が実施して来た社債の買入オペ(現在は残存3年以下、一時期は残存5年以下)は、社債のスプレッド構造に年限での断続を生んでいたのである。社債発行スプレッドに最大の影響を与えて来たのは、様々な意味でも日本銀行なのである。そもそも、社債の発行が可能な優良企業の資金調達を支援して来た社債買入れオペの在り方は見直すべきであり、より資金調達の難易度が高い中小企業に向けた施策を優先すべきであろう。いずれにせよ、国債市場も含めて、市場に存在する「神の手」に役割を返還する時期が来ているのではなかろうか。

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