国内起債市場を斬る 起債評価:10/16~10/20

先行きの金利見通しが起債市場の動向にも大きな影響を与えはじめているようだ。日銀の金融政策見直しに対する思惑と、米国の追加利上げの有無に対する観測が、金利の先行きに対して不透明感を強めている。日本の金利に関しては、特に円安による物価上昇の継続の有無が先行きを左右する。政府は物価上昇対策としての施策を導入することで、支持率の回復を目論んでいるようだが、スピード感の欠如は致命的なものかもしれない。週末に行われた衆参補欠選挙の結果は一勝一敗に終わったが、いずれも自民党議員の欠員補充であったのに一勝も辛勝に留まったことから、実質的には惨敗に近いものと理解されている。年内に衆議院の解散総選挙を実施することが難しくなり、補正から来年度予算にかけて国民の人気取りを意図した政策が織り込まれる可能性が高い。所得税減税といった検討すら聞こえるようになっているが、手っ取り早く歳入の不足を補うには国債を増発するしかない。結局のところ、金融と財政の両面から先行きの金利上昇観測は根強いものとなり、投資家が様子見を決め込むことから、起債市場の動きは鈍くなってしまっている。発行体からすれば、金利が上昇する前に資金調達をしたいところではあるが、そもそもの資金調達ニーズが高くないため、上がっていた起債観測が取り下げられるケースが散見されている。当面の起債市場は、大きな盛り上がりにはならないだろう。

こういった起債環境において、募集される案件の主体がSDGs債になるのは、自然な成り行きである。単純なグリーンボンドの募集は見られなかったが、ソーシャルボンドで日本高速道路保有・債務返済機構が10年債・17年債・20年債で計239億円、キリンホールディングスは5年債と7年債で計600億円(別途、10年債330億円を募集)、日本学生支援機構が2年債300億円と計1千億円を越え、サステナビリティボンドもリコーリースの5年債100億円に、阪神高速道路の3年債150億円と続く。加えて、芙蓉総合リースがサステナビリティリンクボンド270億円を募集しており、SDGs債の総計では1,600億円を越える額となっている。引き続き、投資家が社債等を購入する大義名分を掲げられることが、重要な要素になっているものと考えられる。

SDGs債以外では、ドンキホーテなどを展開する小売業の持株会社であるパンパシフィックインターナショナルホールディングスが3年債から10年債の4本立てで計700億円を募集した他、日本郵政が5年債260億円を募集したことに触れておきたい。前者は、デフレ下で大きく業績を伸ばした企業であり、インバウンドによる購入需要が円安下で強い間は業績を維持できるものと思われるが、出店や買収等の華々しい事業展開は必ずしも盤石に映らない。日本の社債発行企業で破綻した事例の多くが、不動産と小売で占められていることには、投資家も留意しておきたい。年限ごとの起債額を見ても、3年債と5年債で620億円とほとんどであり、10年債はわずか30億円に過ぎない。格付けはJCRのA+格と低くはないのが、安心感をかもし出している。

一方、日本郵政は一般担保付きで5年債と無理をした年限ではないが、度重なる買収や出資の失敗などもあって、低迷して来た株価がようやく回復傾向を見せつつある。とは言っても、上場当初の価格1,631円(2015年11月4日)までには至ってはいない。格付けはJCRのAA+格と優良企業の水準であるが、政府による有形無形のサポートを考慮してのものであり、それを抜きにしたら国債対比+26bpsといったスプレッドは割高だろう。日本郵政の5年債のクーポンは0.603%で、同じ年限のキリンホールディングス債のクーポンは0.673%である。どちらの投資妙味が高いと考えられるか、少し興味深い。

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