国内起債市場を斬る 起債評価:10/23~10/27

起債市場を見ているだけで季節の到来を感じることがある。日本の企業の多くが3月末決算を採用しているため、四半期ごとの決算発表のシーズンや株主総会の時期には起債がほとんど見られなくなる。また、発行企業の決算期とは関係なく、投資家や引受証券の休暇などの関係で、年度末や上期末である3月と9月の後半や12月の後半にも起債はほぼ見られなくなる。起債観測が上がっていても実際の募集が見られなくなると、いつもの時期が到来したことを感じることが出来る。圧倒的に多くの企業が3月ないし12月決算を採用しているので四半期サイクルが同じになるが、それ以外の決算期を採用している企業は、起債市場の閑散期に社債等を募集することが可能である。引受証券や投資家もお休みモードに入っていれば別だが、3月期決算企業が大人しくしている時期は、異なる決算期の企業にとって、市場の注目を集め、もしかしたら大型起債が可能になるチャンスでもある。

10月下旬の決算発表シーズンに入り社債等の募集が少なくなるとは言え、昨年のこの週では森永乳業や阪和興業、マルハニチロといったレア銘柄の募集が散見されており、今年のように木曜日まで募集が見られないという状況ではなかった。今年については、日銀による金融政策の見直しに対する期待が盛り上がったこともあって、投資家が購入意欲を低下したことで、募集を先送りしたり、起債そのものを見送った発行体も少なくなかったようだ。特に、社債での調達を諦め、銀行からの借入れに変更した企業も多かったものと推測される。日銀の金融政策が見直されるかもといった観測はあっても、銀行借入れの基準となる短期金利ではなく、社債等により影響する長期金利のコントロール上限を引き上げる方向の観測が喧伝されていたためである。

このような環境で大型の社債募集を行ったのは、2月決算を採用する小売業の最大手であるセブンアンドアイホールディングスであった。3年債600億円・5年債600億円・7年債300億円・10年債700億円の計2,200億円を募集しており、当初の起債観測で上がっていた総額2,000億円を大きく上回る募集額となった。同社は、身近なところではセブンイレブンやイトーヨーカ堂、更には小売業以外でセブン銀行も運営しており、知名度に何ら問題はない。この夏までは傘下にそごう・西武による百貨店事業も営んでいたが、百貨店事業を米ファンドに売却している。当該ファンドが西武池袋本店への出店企業を見直す中で、所在する豊島区との騒動になったり、従業員のストライキがあったり、と落ち着かなかったことは記憶に新しい。ただし、これらの問題については、いずれもセブンアンドアイホールディングスの手を離れた後の話であり、今回の起債には直接の影響を及ぼすものではない。

募集された社債については、同社の起債頻度が多くないことに加えて、格付けがR&IのAA-格及びJCRのAA格と高水準なこともあって順調に消化できた模様である。既に述べたように、他の案件との競合がなかったこともプラスに作用している。国債対比のスプレッドプライシングが採用された5年債がT+32bps、7年債がT+45bps、10年債がT+52bpsといった格付け対比で厚めのスプレッドが付されており、しかも、結果として出来上がりのクーポンが7年債以上が1%を越える水準となったことで、投資家の目線に十分かなった起債と受け止められたようである。募集のタイミングを含めて、絶妙な社債募集の案件であったと言えるだろう。

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