国内起債市場を斬る 秋季特別号「社債型種類株を考える」:10/30~11/3

3月期決算企業の上期末決算発表の時期に当たり、この週に社債そのものの募集はなかったが、社債に近い証券の募集が行われたので、代わりに取上げてみたい。銘柄は、ソフトバンク第1回社債型種類株である。かつての日本においては、株式と言えば普通株をさすものとされており、普通株という表現はあまり見られなかったが、近年になって、普通株以外の株式も少しずつ見られるようになっている。中でも、もっともよく見るのが優先株であろうか。株主総会での議決権を持たなかったり、残余財産に対して普通株よりも優先的に請求権を有するとか、普通株とは異なる取扱いがされる株式であり、劣後債と同様にハイブリッド証券と呼ばれることもある。しかし、片仮名表記をすることで、証券の特性を誤解させるようなことがあってはならない。正式な名称をきちんと顧客に伝えるのは、販売会社の義務であろう。

10月31日まで募集されて11月2日に東京証券取引所のプライム市場に上場されたソフトバンクの第1回社債型種類株は、社債型と付されるように、配当として当面年率を2.5%で支払うことが約束されており、固定利付きに近い性格を有している。本種類株の配当には普通株式への配当に優先する累積型とされているが、固定率を上回ることがない非参加型である。一方で、配当率の固定は2029年3月末までであり、その後は1年国債利回りに3.182%を加えた変動する率に基づくこととされている。この部分は劣後債などに似た証券の性質である。一方で、株式であるから満期償還の概念はないが、普通株への転換権は付されていない。劣後債より優先株に近いと見るのが妥当だろう。満期償還の概念はないものの、2028年11月以降に、発行体が金銭で投資家から買い取ることが可能とされているのも、優先株などに類似した構造である。

株式に近い特性としては、既に述べたように東証プライム市場に上場されており、単元株である100株単位での売買が可能である。募集時点では4,000円の価格で3千万株が募集されたため、計1,200億円が調達されており、資金使途は、「生成AIを用いたサービスの実現、次世代社会インフラの構築、再生可能エネルギーの開発・調達など中長期的な企業価値の向上に資する成長投資資金または基地局・ネットワーク設備等の設備投資に充当」するとされている。11月2日に上場された後は、募集価格の4,000円を下回っていないが、翌営業日の11月6日も高値は4,040円に留まっている。個人投資家から機関投資家までの幅広い投資家が購入対象とすることが可能なものの、大幅な値上がりとはなっていない。

2.5%という配当率は、ソフトバンクが7月に募集した社債よりは当然高い利回りであるが、普通株の配当利回りが5%前後であることを考えると、まさに半分の水準である。ちなみに、格付会社も本件種類株を50%の資本性と評価しており、普通株の半分くらいにあたる証券という理解が適切なのかもしれない。今後の種類株の価格変動が大きなものでなければ、市場参加者の理解が固まって来ると考えられるし、追随する発行体が出て来るかもしれない。何れセカンダリー市場の拡大に繋がれば、東京市場の存在向上にも貢献することを、少し期待するところだ。

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