国内起債市場を斬る 決算発表期特別号:再び社債市場の活性化が俎上に

前週は3月期決算企業の上期末決算発表のピークとなり、地方債や財投機関債等の募集は見られたものの、民間企業による社債の募集はなかった。そのため、今回は今秋になって再燃している社債市場の活性化に向けた検討について言及したい。具体的には、10月に行われた日本証券業協会の会長定例会見で、検討の再開が明らかにされたものである。同会のHPに上げられている協会長との質疑応答から、検討の主な柱になりそうなものを抜き出すと、「投資家の方々が、きちっとしたリスクをとった中で、しっかりとした見返りがあること、加えてリスクをある程度低減できる方策として、コベナンツの問題、情報の平等性の問題、あるいは担保設定の問題といったものがアメリカのマーケットに比べて遅れている部分があるため、それは見直していかなければいけない」という説明である。

今季の検討に際しては、資産運用立国を推進する流れの中で、金融審議会の市場制度ワーキンググループにおいて改めて社債市場における課題が金融庁から論点として提示されている。具体的には、社債権者を適切に保護する観点から、市場への適切な情報提供と、社債・融資のイコールフッティングの二つの論点が指摘されている。これらは決して新しい論点ではなく、従来から課題として認識されていたものではあるが、改めて検討されることとなったものである。日証協からは、コベナンツの付与や開示とパリパスの確保、社債管理補助者の活用などによる適切な債権保全といった対応策の方向性が示されている。

もっとも、今回の検討の契機の一つとなった資産運用立国に関する議論の関連で、社債市場の活性化として加えられているスタートアップ企業の資金調達を円滑化するといった視点は、上場企業ですら活用が進まない社債市場を、スタートアップ企業が一足飛びに利用できるようになるとは到底思えない。しかし、コベナンツや社債管理補助者を付すことによって、9月に無格付けで社債を募集したジャパンインベストメントアドバイザーのような取り組みの例も見られていることから、従来の発想から飛躍した取り組みが今後行われる可能性は否定できない。

日証協では、既存の「社債市場の活性化に向けたインフラ整備に関するワーキンググループ」を改組し、今月以降に複数の論点について精力的に検討した上で、今年度末を目途に報告書を取りまとめ、報告書の提言を基に来年度以降、更に具体的な検討を進める計画を公表している。社債市場の活性化については、ワーキングの親懇談会が設置されてから14年が経過し、コベナンツモデルや社債管理補助者など幾つかの検討成果が形になってはいるものの、利用されている事例がほとんどない。資産運用立国という政府の大きな旗振りによって、今回の検討が少しでも進展するかどうかを見守りたい。今は銀行融資に隠れて活性化していない社債市場ではあるが、将来的に企業も銀行も金余りの状態ではなくなった時に、資本市場を活用できるように道筋を整えておくことが有意義なのである。

コメントは受け付けていません。