国内起債市場を斬る 起債評価:4/22~5/2

4月後半は、起債市場の動きが鈍い。3月期決算の発表が始まることに加えて、GWによって通常は募集から払込までの約1週間程度の期間が長く延びるという事情もある。また、この4月下旬というタイミングでは、日銀及びFRBの金融政策に関する判断とそれらを受けた金融市場の状況を見守りたいという投資家と発行体の双方の意図も感じられる。結局のところ、5月3日(金)に公表された米国労働省発表の四月雇用統計の発表内容も確認したいという意向もあって、GW後半を挟んでの募集も、ほとんど行われなかった。

2024年のこの期間では、唯一、良品計画が初めてとなる公募普通社債を募集している。小売業として広く認知されている発行体であり、そもそも決算期が小売業で見られる8月末となっていることもあって、3月期決算もしくは12月期決算を採用している企業とは異なるカレンダーサイクルでの募集が行われている。初めての社債募集に関しては、その知名度からクレジットを懸念する投資家は少なかったのではなかろうか。華美なデザインを排しシンプルで実用性を優先した製品群からなる無印良品のブランドは国内外で定着している。沿革的には西友のプライベートブランドとしてセゾングループの一部であったが、現在は関係が解消されており、コンビニでの展開先がファミリーマートからローソンに変わっている。JCRからA+格を取得しての第1回債は、募集が23日の火曜日で30日に払込みというスケジュールとされていた。投資家からは、ゴールデンウィーク後半を跨がない募集タイミングについて、投資にはプラス材料と判断されたのだろう。募集された年限は5年で、国債対比+26bpsとややタイトに見えるスプレッドで0.75%クーポンを付されたが、投資家の購入意欲は強かったようだ。タイミングも含めて成功した募集だったと評価してよいだろう。

ゴールデンウィーク明けに向けて複数の起債観測が上がっており、当面は、金利や為替の水準といった懸念材料を確認し、決算発表の進捗を確認しながらの展開になるものと予想される。起債観測で上がっている中で目立つのが、複数企業からトランジションボンドの募集に向けた動きが始まっていることである。とは言え、世界的に見ると、日本のSDGs債の市場はやや独自の展開となっているように感じられる。サステナビリティリンクボンドなどで、SPTs(Sustainability Performance Targets)未達の場合にクーポンがステップアップせず、寄付や排出権を購入するという形式が一般的な債券の構成である。

また、トランジションボンドの利用範囲がやや広いようにも思われる。トランジションボンドは、厳密な意味でのグリーンボンドを構成し切れない発行体が、グリーン化に向う努力のための資金使途で募集するものとされるが、ICMA(国際資本市場協会)のスタンダード上はグリーンボンドの一種である。日本で最初にトランジションボンドを発行したのは日本郵船(第一回債発行日は2021年7月29日)であったが、その後は、電力なども含めて様々な発行体がトランジションボンドを募集している。日本の投資家はトランジションボンドに対しやや寛容なように見えるが、何故グリーンボンドを出せないのか、トランジションの内容が曖昧ではないかといった点などを厳しく吟味する必要があろう。そういう意味では、安易に漠然とした内容のトランジションボンドではなく、SPTsを明確に設定されたトランジションリンクボンドの方が好ましいのではなかろうか。それによって募集される債券に対する投資意欲を表明する投資家の見識が試されるところになるだろう。

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