国内起債市場を斬る 起債評価:5/13~5/17

企業の3月期決算発表が峠を越え、起債市場は再開モードである。しかし、いつものことながら、まず動き出すセクターは概ね決まっている。財投機関債等の公共セクター、電力、ノンバンクといったところが定例であり、この週はノンバンクこそリコーリースの2本立て300億円しか募集がなかったものの、他の二つは活発な動きが見られている。

公共セクターでは、地方公共団体金融機構が10年債300億円、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が10年サステナビリティボンド130億円、西日本高速道路が2年債350億円・5年債1,400億円・7年債65億円・10年債93億円の計1,908億円のソーシャルボンド、日本高速道路保有・債務返済機構が16年100億円と22年120億円のソーシャルボンドを募集している。やや発行金額や年限に端数の付されたものもあるが、発行体と投資家のニーズのすり合わせの結果であり、順調な消化状況であることを伺わせる。

電力債は、4社が募集している。16日の木曜日に募集されたのが、中部電力の10年グリーンボンド100億円と20年債80億円、北海道電力の7年債250億円と20年債45億円であった。同じ20年債ではあるが、R&Iの格付けがAA-格の中部電力債が国債対比+26bpsの1.987%クーポンで、A格の北海道電力債が2.027%クーポンであった。20年間の4bpsポイントの差が、この格付けの差に見合うだろうか。そもそも電力会社に20年の与信はどうかという問題はあるが、東日本大震災と福島第一原発の事故を踏まえた状況を考えると、格付け対比で厚めのスプレッドが付されているのはやむを得ないだろう。17日の金曜日に募集されたのが、北陸電力の20年債35億円と関西電力の10年債300億円及び20年債85億円であった。再び20年債で比較すると、R&IでA+格の北海道電力が+30bps、同じくAA+格の関西電力が+27bpsであった。中部電力と関西電力では格付けとスプレッドが逆転しており、北海道電力と北陸電力は符号が異なるもののスプレッドは同水準であった。必ずしも格付け符号のみがスプレッドの決定要因ではないことを示しているようでもある。

今年度は電力債の発行状況に注目しておきたい。現在の電力債に一般担保条項が付されている根拠は電気事業法の附則にあるが、時限のある規程であり令和7年3月31日までとされている。したがって、今年度中に発行される電力債には一般担保条項を付すことが出来て償還まで有効であるるが、来年度以降の電力債には付すことが出来ないのである。投資家から見れば、無担保債の資金回収力は一般担保債に劣ることが明確である。かつては一般担保条項の有用性に疑念を呈されたこともあったが、福島第一原発の事故後の債務負担処理において、東京電力債に付されていた一般担保条項が大きな意味を持ったのであった。法的な構成では、避難者等の損害賠償請求より電力債保有者の方が債権回収を優先されるのである。その結果、東京電力の破綻処理は不可能となったのである(更には、銀行等の貸付債権が電力債に劣位することもあった)。この電気情報の関係で、本年度中の電力債の募集額が大きくなる可能性は高い。(ご参考2024年3月1日付経済産業省HP:「本改正は、電気事業法(昭和39年法律第170号)の規定に基づく推進機関の資金の借入れ及び機関債の発行について、最近の卸電力取引市場価格動向等に鑑み、電気事業法施行令(昭和40年政令第206号)第4条で定める借入金及び機関債の発行の限度額を1,200億円から1兆1,830億円に引き上げる改正を行うものです。」限度額の引き上げも施行している。)

コメントは受け付けていません。