国内起債市場を斬る 起債評価:11/8~11/12

引続き、民間企業による社債発行の動きは鈍い。起債観測は色々と聞こえて来ているので、発行体側の資金調達意欲が低下していることはなく、また、米国の金利上昇懸念はあるものの、日本において日本銀行が管理している10年以内の金利水準に見直しは想定されないため、急いで資金調達に走る動きがないものと考えられる。決算発表を乗越え、12月に向けて徐々に社債等の募集が増えて来るものと考えられる。この週では、淡々と公的セクターによる債券募集は続く中で、それ以外の民間企業による社債もようやく募集が始まっている。

まず、公共セクターでは、前週に引続き、地方公共団体金融機構が債券を募集している。前週の30年債は年間の募集回数が限られた年限であり、この週に募集されたのは、同様に募集回数の少ない5年債150億円と毎月募集される10年債300億円である。「スーパー地方債」とも呼ばれる同機構債は、地方公共団体の減債殺基金や地方公務員関連の共済組合等安定的な消化先が少なくなく、デフォルトとなる可能性が低いことから持ち切り運用に適した対象と考えられている。純粋な財投機関債としては、住宅金融支援機構が10年債300億円・15年債100億円・20年債150億円・30年債300億円の計850億円を募集している。20年債のみグリーンボンドの認証を得ているが、機構の果たす役割や期待されるミッションを考えると、認定を取って全体をソーシャルボンドとすることに違和感はないだろう。既に、都市再生機構は2020年8月のソーシャルファイナンス認定取得以降の起債をソーシャルボンドとしており、見習っても良いのではないか。

公共セクターと民間との中間的な発行体で社債を募集したのが、東京臨海高速鉄道である。お台場へのアクセスを提供する第三セクターの鉄道運営会社であり、東京都の出資比率は91.32%とほとんどで、他に品川区も1.77%を保有しているために、実質的に地方債に近い位置づけと考えて良いだろう。もっとも株式会社形態であるために、純粋な地方債とは言えないし、東京都や品川区以外にJR東日本や銀行・保険会社等民間の出資も受けて入れている。それでも、信用力という意味では十分に高い水準にあり、格付けはJCRのAA格と高い。その他に社債を募集したのが、中部電力の17年債120億円というレア年限であり、三井住友海上火災保険の5年債は1,500億円と巨額の募集であった。他に社債等の募集が多くないため、こういった起債が可能になったものだろう。

なお、日本の証券市場で大きなシェアを占めているSMBC日興証券が相場操縦の疑いで証券取引等監視委員会から調査されていることが明らかになり、主幹事や引受証券から外す動きが見られはじめている。業務に関連する不祥事を確認された場合に、投資家は暫時当該会社との取引を見送るのが通例であり、発行体側も同様の行動に出るのは当然だろう。現状では、罪状等が確定しているものではないが、報道されたことで相当程度何らかの処分が下される可能性は高い。刑事訴訟手続きのような「疑わしきは容疑者の利益に」というものではなく、法令違反等のなかったことが確認されたり、処分後に業務改善計画が受領されたりしなければ、当面、取引を自粛することが一般的になるだろう。考えてみれば、金融商品取引法違反であれば、当然、ガバナンスの問題を懸念されるのであり、同社がいわゆるESG関連の債券募集に従事するのは、ブラックユーモアに見えて来るだろう。