国内起債市場を斬る 起債評価:3/6~3/10

おおかたの予想通り、国会では日銀新執行部の人事が承認され、黒田現執行部の下で行われた最後の金融政策決定会合は現状の金融緩和政策を維持するという、サプライズ抜きの結果となった。もちろん理論的には予定されている決定会合以外にも状況の急変した場合には、臨時の決定会合を開催して金融政策などを修正することは可能であるが、米国の地方銀行が破綻(ファースト・リパブリック・バンクなど米中堅銀の株価は急落;3月10日、仮想通貨企業への多額融資のシグネチャー・バンク経営破綻;3月12日、シリコンバレーバンク(SVB)は増資発表2日後3月10日に経営破綻)したくらいでは、そういった事態になるとは思えない。そもそも二人の日銀副総裁の任期はあと1週間ほどであり、人事の端境期には動けないというのが、この国の典型的なパターンである。社債市場についても、間もなく年度末の閑散期に入ると予想されるが、起債観測の上がっていた銘柄が急遽取りやめになったりと、表面には見えていないところで何かが起きている可能性もあり、なかなか気を休める暇もない。

この週が年度末の起債ラッシュとはならない背景として日銀の金融政策決定会合が不確定要因として考えられると指摘したが、それ以外にも、米国の金融政策や市場が少し不穏な雰囲気を見せていることで、慌てて起債しないくて良いという認識になっていることも想像できる。米国での複数の金融機関破綻の直接の要因は、金利上昇と大口顧客の預金引き出しという事象が発生し、日本人の常識では今は到底発生し難い現象であると考えられる。歴史的には、日本においても電車の中での女子高生のお喋りに端を発して地域金融機関(豊川信用金庫;1973年)の経営問題が話題になり、一種の取り付け騒ぎにまで至った事例があるものの、インターネットによる情報の拡散スピードが向上している現在での発生は考え難い。しかも、米国の監督当局は預金保護を行うと公表しているため、現時点までの情報では、世界的な金融危機にはならないものと推定できる。とは言え、更なる悪材料が別のところから表に出ると、どんな飛び火が起きるかは予測できない。

起債市場は、バラバラと様々な社債等が募集されている。起債シーズンの後半に出て来ることの多いメーカーによる社債の募集や、静岡ガスのように初めての公募普通社債の募集などが確認されている。セントラル硝子や長谷工コーポレーションの3年債は、未だに日銀による社債オペで買い取ってもらうことを予定した起債であろうし、電源開発の第85回債は年限が6年7カ月と半端な年限の社債である。年度末に向けてSDGs債の募集が目立つことを予測したが、この週では鹿島建設による5年のサステナビリティリンクボンド100億円が募集されたのみとなった。温室ガス排出量売上高原単位や気候変動スコアをKPI(Key Performance Indicator)とし、目標未達の場合には寄付を行ったり排出権を購入したりするとしている。日本ではこういった目標未達時に寄付等を行うサステナビリティリンクボンドが一般的な類型になっており、欧米とは少し異なっているところが面白い。そもそもトランジションボンドの発行は日本が他を圧倒しており、産業構造の違いなどを端的に表した特徴になっている。