近年の起債市場では、社債等の募集に際して幾つかの特徴がある。その一つとして、多くの案件募集が行われるためには、前日が営業日であるということである。社債等の募集を行う当日は、前夜の海外市場の動きを確認し、大きな変化がなければ想定された条件で最終決定を行うだけの一種の儀式が主となる。クーポンの絶対水準で募集されている場合には、予定したクーポンで支障がないかを確認し、スプレッドプライシングの場合には基準となる国債の利回りが多少変動しても予定したスプレッドを変更させるほどの材料がなければ、予定スプレッドと当日の国債利回りでクーポンが決まるだけである。つまり直前の営業日までの状況と事前のサウンディングが極めて重要であり、条件決定の前日が営業日でないことは難しくなる。そのため、この週の社債等の募集は22日の水曜日が主となり、23日の木曜日が天皇誕生日で休日であったために、24日の金曜日に社債等の募集がほぼ見られなかったのである。
22日に条件決定された中で注目されるのは、まず、ソフトバンクの個人向け5年物社債1,200億円である。募集金額の大きさもあるし、R&IのA+格で0.98%という高いクーポンを付したことも注目される。ちなみに、同日に条件決定された機関投資家向けの5年物社債で、R&Iから同じA+格を取得したのもののクーポンを見ると、みずほリースが0.764%、住友商事が0.644%と20bps以上低くなっている。同じR&IからA格を取得したジャックスの5年物社債ですら0.824%クーポンであり、0.98%クーポンの高さが際立つ。ファンド投資やIT関連で多角的に事業展開している親会社のソフトバンクグループとは異なり、ソフトバンクは主として通信事業を営む事業子会社であって、幾ら携帯電話業界における競争が厳しいからと言っても、ここまで高いクーポンを付す必要があったのだろうか。第4勢力として参入した楽天モバイルよりも、既に圧倒的に確固とした基盤を保持している。ソフトバンクグループの発行する社債への投資を躊躇しても、ソフトバンクの5年もの社債の0.98%クーポンには十分な投資妙味があると考えて良いだろう。
この週の起債の中では、東急不動産ホールディングスの募集した3年債と5年債の各100億円がグリーンボンドの認定を得ている。不動産会社の場合には、使途が明確にし易いため、グリーンボンドやサステナビリティボンドの募集に馴染む。本件社債の資金使途は、具体的に、太陽光発電所および風力発電所の設備資金にかかるリファイナンス資金としてコマーシャル・ペーパーの償還資金の一部に充当する予定としている。リファイナンスであるために、やや使途の特定性に懸念は残るが、グリーンボンド発行後の適切な情報開示を期待したい。そうでなければ、グリーンウォッシュの嫌疑がかかってしまうことになるだろう。