国内起債市場を斬る 起債評価:1/22~1/26

年明けの起債市場は、瞬く間に休眠状況となった。一つは、12月末決算の発表に向けたタイミングであり、これは例年のことでもある。今後、四半期開示の取扱い次第では、起債市場への影響が軽微になるかもしれない。ただし、12月を本決算の期日とする企業は、国際会計基準を採用している海外展開を積極的に行っている企業では珍しくなく、法定で3月決算を求められている規制業種以外は、欧米の多くの企業と合わせた12月末を決算期日とする方向に将来的に向かうかもしれない。金融業界を見ても、会計年度と異動のタイミングを一致させない取組みは普通であり、決算期日があくまでも一つの期日にしか過ぎなくなる可能性は考えられる。

今回の起債市場での動きが少なかったもう一つの要因としては、週初めに行われた日銀の金融政策決定会合である。元日の能登半島地震での被害を受けて、一部で期待されていた今会合での金融緩和の見直しは見送られたが、政策変更の可能性やスタンスの公表が期待されたために、発行体も投資家も新たな起債や投資に対する腰が引けていたタイミングであった。為替の円安や日経平均株価の強さなどから、何らかの政策判断が近いと考えることに違和感はないだろう。

この週に募集された社債等は、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく7年債と中日本高速道路の5年債のみであった。前者は、基本的に5年・10年・20年・30年といった定例に募集する以外の年限での債券発行プログラムであり、投資家が見つかれば最低ロット30億円から発行されるものである。今回募集された第782回債は、7年という中期の基軸年限での設定もあって、200億円の大きな金額での発行となっている。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債は公募として分類されているが、投資家が定まってから発行されるものであり、一般的な公募とは異なる募集方法と考えるべきであろう。特に最少ロットの30億円で募集された銘柄については、多くの公募普通社債より小さな額であって、私募に近い債券と整理しても良いと考えられる。

中日本高速道路の5年債は、日本高速道路保有・債務返済機構の併存的引受条項を付された社債であり、信用力が同機構と同等の準財投機関債として市場で認識されている。取得している格付けは、R&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格といずれも、同機構及び日本国債と同じ符号を得ている。もっとも組織形態が株式会社であるため、投資家によっては、完全には機構や国債と同じ取り扱いが出来ないことも考えられる。なお、他の高速道路運営会社の幾つかは、社債をソーシャルボンドとして募集している。ところが、中日本高速道路は、これまでグリーンボンドを米ドル建てで募集した他、唯一、2023年3月に国内向けの円建てで募集したのみである。しかも、その際の資金使途は橋梁のり面の補強といった特定更新工事に限定しており、ソーシャルボンドとしての募集とは大きく異なるスタンスを取っている。公益性の高い発行体については、組織そのものがソーシャルボンドの適格性を有していると考えることも可能と思われるが、今後のSDGs債に対して、どのようなスタンスで臨むのか注目したい。安易なSDGs債発行とは、一線を画す姿勢のように見えるが、将来もスタンスを維持できるだろうか注視すべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/15~1/19

2024年に入って第2週目の起債市場では、かなり活発な動きが見られた。元日の能登半島地震の影響から日銀の金融緩和見直しが先送りされるという観測が台頭。金利の先高感が薄れ、起債を急ぐ発行体と資金消化を狙う投資家の双方でスタンスが変わり、需給バランスが一変した感がある。少なくとも、投資家の購入意欲は根強い。金利が上がらなくても、社債等に対する購入意欲は十分に見られているようだ。

ボーナスシーズンの余波であるかのように、個人投資家向け社債でクレディセゾンの5年債150億円とソフトバンクの7年債1,400億円が条件決定され募集が開始されているが、それ以外の機関投資家向けの社債等も水曜から金曜の3日間で多くが募集された。財投機関債等では、地方公共団体金融機構の10年債および20年債、日本高速道路保有・債務返済機構が18年債及び22年債、日本学生支援機構の2年債と多様な年限で募集された。クレディセゾン以外のノンバンクも、JA三井リースやアイフルが社債を募集している。起債シーズン入りして早めに動く業態としてすぐに上げられる銀行でも、三井住友信託銀行のシニア5年債の他、群馬銀行と三井住友フィナンシャルグループの永久劣後債で、合計2,500億円近くが募集されている。もう一つの早く動きがちな業態であり電力債でも、関西電力が10年債と20年債で計350億円を募集している。

しかし、何と言ってもこの週の起債市場で目立ったのが、相変わらずのSDGs債である。日本高速道路保有・債務返済機構の2本立てと日本学生支援機構はソーシャルボンド、JA三井リースの2本立てのうち5年債はサステナビリティリンクボンドで、最大のグループとなったのがサステナビリティボンドであり、岩谷産業の7年債及び10年債の二本立て、京阪ホールディングスの5年債が認定されている。加えて、世界で初となる海運会社によるブルーボンドが、商船三井の5年債として募集されている。これまでのブルーボンドは漁業関連の発行体であったが、所詮ブルーボンドはグリーンボンドの一種であり、海運会社であっても認定を受けることが可能なのである。世界初の海運会社によるブルーボンドだからと言って、投資家に簡単に刺さるものではないだろう。投資家から適正な発行条件であると評価してもらうことが前提である。

商船三井の5年債はJCRのA+格を取得し、国債対比+41bpsのスプレッドで募集されている。この週に募集された他のAゾーンの5年債の国債対比スプレッドを見ると、R&IのA格である丸井グループが+42bps、R&IのA-格を取得した文化シャッターが+47bps、同じくR&IのA-格である京阪ホールディングスが+36bpsといった状況である。やや業種などによる差が出ているように見えるが、決して全般として割高感はないように見える。投資家の社債等に対する購入意欲は強く、表現は下品だが、しばらくは入れ食いの状況が続くのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/8~1/12

ようやく年末年始の約1か月間の社債募集のない閑散期間を終え、2024年の起債シーズンがはじまった。その間に、能登半島地震の影響もあり、日銀による金融政策の見直しに対する期待が大きく低下している。見直し期待の低下を受けて、株価はバブル経済崩壊後の最高値を更新し、為替も再び円安基調となっている。まずは金融・資本市場の状況を確認し、先行きのシナリオを構築するのが三連休明けの市場参加者の重要な職務となったことだろう。

2024年の起債市場で最初に募集されたのは、12日の日本政策投資銀行の3本立てとJR東日本の2本立てであった(他に、国際協力機構の個人向け5年物の財投機関債も条件決定されているが、同債券募集は15日からになっている)。しかし、これらの顔触れは決して違和感がない。二つの発行体ともが、2023年1月の第2金曜日に社債等を募集した顔触れだったのである。なお、2023年1月は12日(木)から社債等の募集が始まっており、13日(金)には日本政策投資銀行とJR東日本以外にも、東京電力パワーグリッドや日本高速道路保有・債務返済機構や東日本高速道路も社債等を募集している。ちなみに、国際協力機構も同日に個人向け財投機関債の条件を決定しており、この日に募集等のアクションを起こした三つの発行体ともが、まるで話し合ったように1年前と同じタイミングでの動きとなったのである。

これらの中で、もっとも起債の動きが変化したのが、JR東日本だったのではなかろうか。過去数年の同社の起債パターンとしては、10年債から10年刻みで複数年限の社債を募集するというものであった。ところが、今回の募集に際しても同様のサウンディングは行われたようではあるが、最終的には、10年債と20年債の2年限のみに絞った形での募集となっている。超長期年限の金利の先行きが不透明なこともあって、10年債と20年債のみが選択されたものと考えられる。なお、10年債はE235系の車両や鉄道整備を使途とするサステナビリティボンドとしての認定を受けている。国債対比のスプレッドは、10年債で+33bpsと厚くなっており、出来上がりのクーポンは0.91%になっている。20年債は国債対比スプレッドが+24bpsの1.554%クーポンと、かつて目の慣れていた水準よりも高い位置にある。

一方、日本政策投資銀行は2023年1月と同じく3年債・5年債・10年債という三本立ての社債を募集している。ただし、募集金額は前年の各250億円から、3年債のみ400億円に増額されている。R&Iの格付けだけを見るとJR東日本も日本政策投資銀行もAA+格で同じ符号であるが、国債対比スプレッドを見るとJR東日本の+33bpsに対し、日本政策投資銀行は+11bpsとタイトである。そのため、日本政策銀行の10年債はクーポンが0.69%と低めに映ってしまう。政府との距離を反映したものと言ってしまえばそれまでであるし、完全に民営化した会社かどうかの差なのではあるが、比べるとサステナビリティボンドであるJR東日本の10年債を選択したくなる投資家は少なくないのかも知れない。

国内起債市場を斬る 新春特別号:社債市場の活性化に向けて

これまで日本証券業協会は、社債市場の活性化に向けた検討を2009年に設置した懇談会と下部の検討組織で継続して来ている。既に15年近くが経過しているのだが、成果として見ることが出来るものは決して多くない。見え難いところで引受審査の見直しを通じた社債募集可能期間の拡大もあるが、対外的に公表されたものとしてコベナンツモデルやコベナンツ開示例示集の策定がある。ところが、これらのコベナンツ関連の取り組みは、検討した上でそれなりの有意義な提言を行ってはいるが、実務での採用に至ってはいない。また、社債権者補佐人制度を導入するという提言は、その後の会社法改正によって社債管理補助者制度の導入という形で法的な裏付けを得て結実した。社債管理補助者を付された社債は2023年にようやく第1号案件の募集が行われたが、今後の拡大が期待されるところである。加えて、セカンダリーマーケットに関連した検討では、公社債店頭売買参考統計値の精緻化と社債取引情報の収集と公表が行われるようになり、公表対象の拡大を通じてある程度の成果を実現しているが、社債レポ市場の整備については、まだ検討の段階を出ていない。

こういったゆっくりとした動きの中で、昨年秋以降に新たな社債市場の活性化に向けた検討が開始されている。発端は、資産運用立国の実現に向けた金融諸制度の見直しと金融審議会市場制度ワーキング・グループでの検討にある。社債市場の活性化を実現することで、企業による資金調達の選択肢を拡大しようという考え方は、決して誤りではない。しかし、金融庁が特に意図しているスタートアップ企業に対して社債の発行を促進するという方向は、決して日の目を見ることがないと思われる。そもそも、日本に3千以上の上場企業が存在しているのに、格付けを取得している企業は千社前後に留まり、公募普通社債を発行している企業の数は更に限定される。結果的に、大企業の資金調達の場でしかない公募普通社債の市場に、スタートアップ企業をいきなり参加させることは難しい。特に、ほとんどの投資家は、いわゆる投機的信用格付けの企業が発行する社債を購入しようとしておらず、そこにスタートアップ企業が割り込んで来られる可能性は決して高くない。高い知名度と格付けを獲得し、事業の安定性を確保できるような企業になって、初めて公募普通社債を日本の市場で募集できるようになるのである。

日本証券業協会もそういった状況は理解しているようで、社債市場の活性化に向けた具体的な課題として、チェンジオブコントロール条項等重要事象発生時の対応、適切なコベナンツの付与、社債と他の債務との間でのパリパスの確保、債権者間の情報格差の是正、社債管理補助者の活用といったものを提示しており、2023年秋からは「社債市場の活性化に向けたインフラ整備に関するワーキング・グループ」における検討を再開している。年度内に複数回の検討を行い、翌年度以降も引き続き検討を継続するスケジュールを示している。日本証券業協会の会員や特別会員である証券会社や銀行などには直接の影響が及ぶかもしれないが、多くの投資家や発行体企業には間接的な制度変更としてのみ作用することが可能である。

社債市場の活性化については、目標を米国の社債市場に匹敵するような規模にしたいなどといった不適切なものとするのではなく、銀行融資と並存した金融慣行を前提とする中で、日本の市場として理想に出来る姿を探して行くべきだろう。かつての日本の取引銀行は、スタートアップ企業に対しても、超大手企業に対しても、まるで「ゆりかごから墓場まで」の様々な金融機能を提供して来た。しかし、銀行の自己資本規制が強化される中で、すべてを銀行融資に委ねることは難しくなっている。将来の姿を見据えた日本の社債市場のありかを模索すべきである。絵空事の夢物語は要らない。