国内起債市場を斬る 起債評価:2/19~2/23

二月に三連休が二回あるという今年は、起債市場にとっては新鮮なのかもしれない。現在の日本の祝日は多くが移動休日で月曜日が休みとなるため三連休になることはあまり珍しくないのだが、二月の祝日は建国記念の日と天皇誕生日で11日と23日に固定されている。その両方が三連休をもたらすのは、2024年の次は5年後の2029年となるようだ。

金曜日が休みであると、社債等の募集は木曜日に集中することが考えられる。この週の募集は20日の火曜日から始まった。住友商事の10年債に加えて、大和証券グループ本社の3年グリーンボンド、芙蓉総合リースの3年債及び5年債で5年債のみサステナビリティリンクボンドと総計で500億円が募集されたことで、その後の募集額が大きくなることが十分に予測された。もっとも水曜日の21日に募集されたのは、みずほリースの5年債及び7年債の計350億円だけであった。ここまでややノンバンクの起債が目立ったが、必ずしもSDGs債ばかりという状況ではなかった。しかし、証券会社やノンバンクのSDGs債は、お金に色がないことを考えると、やや牽強付会(けんきょうふかい)のように見えかねないので、投資家への開示と説明には十分に意を尽くす必要があろう。

22日の木曜日に募集された銘柄は業種の幅も広く、年限も3年から17年と広範囲に及んだ。3年債と短い年限を選択したのは、必ずしも高格付の発行体とは限らない。BBB(R&I)格及びBBB+(JCR)格のプレミアムウォーターホールディングスが、3年債36億円で1.5%と高いクーポンを付している。一方、AA+(R&I)格の阪神高速道路はサステナビリティボンドでありクーポンは0.339%と1%以上低く、A+(R&I・JCR)格を取得している三井化学ですら0.35%クーポンである。三本の3年債を見比べると、やや三井化学債のクーポンが低いように見える。三井化学の3年債は絶対値でプライシングされているものの、阪神高速道路の3年債がスプレッドプライシングでT+17.5bpsとされていることを考えると、実質的には国債対比+19bpsを下回るスプレッドである。それでも、順調に消化できたようではあるが。

17年債と日銀の金融緩和政策の見直しによって強い影響を受ける可能性のある超長期債を募集したのは、北陸電力である。さすがに公益セクターでないと、超長期債の募集は難しいだろうか。その一方で、目立ったのが中期5年債の募集である。川﨑重工業の0.742%クーポン100億円、アコムの0.742%クーポン200億円、プレミアムウォーターホールディングスの2.1%クーポン11億円、阪急阪神ホールディングスの0.592%クーポン150億円、三井化学の0.662%クーポン100億円、五洋建設の0.802%クーポン100億円、山九の0.692%クーポン50億円、ADEKAの0.692%クーポン100億円と総計で811億円が募集されたのである。クーポンを見比べるとわかるように、多くの銘柄が国債対比のスプレッドプライシングで条件決定されている。なお、5年債では川﨑重工業がトランジションボンドである他、阪急阪神ホールディングスがグリーンボンドとなっている。これら以外に東京電力リニューアブルパワーの10年債200億円がグリーンボンドとして募集されている。同社の事業内容を考えると自然な認定であろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/12~2/16

月曜日が祝日であると、起債市場での募集は最大でも3営業日に限られる。しかし、日銀による金融緩和の見直しの動きが意識される中では、なかなか募集に踏み切るのが難しいのが現実だったようだ。投資家は金利水準が上昇してから債券を購入したいと考えており、年度内の資金消化について焦って取組む姿勢を見せていない。発行体は金利上昇前に必要な資金を調達しておきたいと考えるだろうが、そもそも企業が一般的には金余り気味であることもあって、市場があまり盛り上がらない。年度末に向けての起債観測は色々と見られており、当面は、安定的な募集ペースが実現されるものと予想できる。

楽天グループの発表した2023年12月期の2千億円を越える赤字決算が、クレジット市場での一つの注目となっている。基本的にモバイル関連の設備負担コストが大きいためではあるが、1月末に発表した18億ドルの3年債はクーポンが11.25%であり、アンダーパー発行分を考慮した利回りは12.125%にまで上昇するという。S&Pの格付がBB格であることからすれば、違和感の小さい水準かもしれないが、その後のセカンダリーマーケットでは10%を上回る程度の利回りになっているようである。資金繰りに対する懸念を払拭するためとは言え、巨額の利払いを負担した発行であった。すぐに円債市場への影響はないと思われるが、根強く懸念されている楽天のモバイル事業が新しくプラチナバンド(700MHz帯から900MHz帯を、「プラチナバンド」と称す。プラチナバンドは携帯電話がつながりやすい周波数帯。低周波数のため、障害物があっても他の周波数帯より電波が入りやすい。少ない基地局でエリア全体をカバーできる。送受信できる情報量は他の周波数帯よりも少ない。)を利用できるようになって評価が変わるのか、それとも、引き続き赤字を垂れ流すのか。万一の場合も、通信事業に関しては破綻より別の事業者等に事業を取得させる可能性が高い。しかし、それ以外の小売プラットフォームや銀行、証券、保険等金融関連以外にも様々なサービスを主としてネットで提供しており、今後の推移からは目が離せない。

この週の社債等の起債としては、丸紅の10年債180億円、伊藤園の5年債100億円、首都高速道路の4年債300億円といった顔触れであり、首都高速道路債のみがソーシャルボンドとなっている。もっともこの週は、財務省が世界初となる10年物のクライメート・トランジション利付国債8,000億円を入札形式で募集している。応募倍率は3倍近い水準であったが、2月頭に募集された通常の10年利付国債の応募倍率よりも低い。グリーニアムの発生によって割高に購入することを忌避した投資家が少なくなかったものとも考えられるが、実際に観測されたグリーニアムは、わずか1bpに留まった。昨秋に募集されたグリーン共同発行市場公募地方債のグリーニアムが2bpsであったことを考えると、初物にしては小さいと言って良いだろう。グリーン共同発行市場公募地方債の募集額が500億円と小さかったことがこの差の原因だろうか。なお、その後の流通市場では、クライメート・トランジション利付国債のグリーニアムはほぼ消失しており、国債としての評価のみに留まっているようだ。来年度以降も追加発行が予定されており、今後の市場での人気の有無が注目される。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/5~2/9

ようやく起債シーズンが再開となった。とは言っても、早く動くのは毎度決まった業態が中心であり、しかも、8日(木)に地方公共団体金融機構が定例の10年債を募集した以外、社債等の募集は9日(金)に集中する展開である。ただでさえ内田日銀副総裁の講演等から金融緩和の先行きが怪しくなっている環境下、三連休前というタイミングでの募集は発行体と投資家の双方にとって良いものとは考え難い。米国雇用統計の内容は利下げの先送りを期待させるものであり、為替が円高に向うということもなかったため、株価は最高値を更新する状況となっている。「高転びに転ぶ」とは安国寺恵瓊が織田信長の天下の先行きを懸念して発した言葉であるが、現在の株価やドル高も状況が一変する危険性を意識の片隅に入れておいた方が良いだろう。何が偶発の契機になるか予測するのは不可能であるが、その時に金利がどう動くか考えておくことは、金融市場参加者にとって重要な頭の体操である。

ほぼ9日(金)に集中した社債等の募集も蓋を開けてみると、ほとんどがSDGs債である。そもそも前日に債券を募集した地方公共団体金融機構も海外向けにはグリーンボンドを発行しており、業務内容から考えるとソーシャルボンド等を選択することも可能と考えられる。また、金曜日に債券を募集している中で、唯一、SDGs債を選択しなかった科学技術振興機構についても、2年債の資金使途は「大学ファンド」の運用原資であり、公益性が極めて高い。結局のところ、現在の起債市場では、純然と営利のみを目的とした社債等の募集が、却って珍しくなっている。しかも、翌週には財務省によるクライメート・トランジション利付国債(トランジション・ファイナンスとは、温室効果ガスを多く排出する産業における事業活動を脱炭素型へ移行するために行われる資金提供を指す。脱炭素社会の実現に向けて、長期的な戦略にもとづいて取り組みを行う企業に対し、資金面で取り組みをサポートするための新しいファイナンス手法)の入札が予定されており、起債市場全体がSDGsの色に染められていると言っても過言ではあるまい。

電源開発の19年債はSDGs債の形式となってはいないが、同時に募集された10年債はグリーンボンドであり、その他に、中央日本土地建物グループの5年債もグリーンボンドである。鉄道建設・運輸施設整備支援機構のサステナビリティボンドは10年債であるが、残りのSDGs債は5年債ばかりである。住友三井オートサービスがサステナビリティボンドとされた他は、中部国際空港、西日本高速道路、大学改革・学位授与機構といった公的機関はいずれもソーシャルボンドを選択している。

結局のところ、公的な発行体はソーシャルボンドの認定を得やすく、それに事業内容からグリーンボンドの性質が加わる場合にサステナビリティボンドが選択される傾向と考えられる。民間企業の場合には、特に、建設・不動産関連はグリーンボンドが多く、運輸やメーカーなどではトランジションボンドを選ぶ可能性が高くなっている。いずれにしても資金使途や発行後の継続開示という負荷が発行体に科せられ、その裏側として投資家もSDGs性の確認継続という作業が必要である。一般的な普通社債に対して双方の負担が大きくなるものの、起債される社債等のほとんどがSDGs債になって来ると、グリーニアムの確認も容易ではなくなっている。このままの状況が続くと、SDGs債に期待された発行体と投資家のWin-Winの関係は見えにくくなり、SDGs債が普通の存在になってしまう日が来るのは近いかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/29~2/2

引き続き、起債市場での社債等の募集は少ない。例年のスケジュール通りなのではあるが、足元は株価の高騰を横目で見つつ、日米の金融政策変更の有無を確認するという状況で、やや自律的なものではなく外部要因の確認を求められているというのが実態だろう。しかし、間もなくの年度末に向けた募集時期のはじまりに向けて、様々な発行体による起債の観測が確認されている。

相変わらず起債市場を賑わせる可能性が高いのは、グリーンボンド等のSDGs債である。この週においても、一般の社債等の募集は見られていないが、水曜日に住友不動産の10年物グリーンボンド100億円が募集されている。住友不動産という発行体は、日本の公募普通社債の歴史の中でも、特筆すべき発行体の一つである。日本の公募普通社債の歴史において、1996年の適債基準の撤廃と財務上の特約の自由化が一つのターニングポイントであったとすることに異論はあるまい。その際に強行された特約の自由化については、投資家を無視した行き過ぎがあったのも事実であり、投資家サイドからはそれ以前から懸念する声が上がっていたものの、発行コストの引き下げと自由の意味をはき違えた発行体の言いなりに動いた(リーグテーブルが必要な)証券会社によって、日本の公募普通社債を銀行借り入れに劣位する実質的な劣後債に貶めてしまった。

某専門家によると、日本証券業協会の社債市場の活性化に関する懇談会では、適正な特約の復活に向けて、コベナンツのモデル集を提示したりしてきたが、発行体が乗って来ることはなかった。報道されているように、現在はチェンジオブコントロール条項と呼ばれる買収等によって株主構成が大幅に変更された場合に投資家が社債保有の見直しを可能とする趣旨の条項が議論の俎上に上っている。発行体側の抵抗が少なからずあるのは、自由を縛られたくないという反発であり、特に日本の社債に付される特約に関しては社債権者集会を開催しないと適用回避が認められない不自由さへの抵抗である。今後の議論の推移を見守っておきたい。

少し脱線したが、住友不動産は日本の公募普通社債では珍しい、いわゆる投機的な格付けまで格付けが下がったものの(2002年10月R&I配信;ユーロMTNプログラムの発行枠2000億円、格付けBB+)、主に個人投資家向けに公募普通社債を発行し続けた後に、格付の回復に成功したという発行体である。ここまでダイナミックな格付けの推移を経験した発行体は倒産した企業くらいしか思い付かないし、多くは途中で格付けの取得を停止することが多いためである。現在の住友不動産の格付は、R&IのAA-格およびJCRのAA格と、立派な高格付けである。バブル経済の崩壊による不動産市場の低迷を直撃された発行体であるが、その後の信用力の回復も著しいし、何しろ継続的に公募普通社債での資金調達を行った発行体という意味では十分に高く評価してよいだろう。

今回募集したグリーンボンドの資金使途は、「住友不動産新宿セントラルパークタワーの新規開発投資に係る調達資金のリファイナンス資金に充当する」とされており、特にグリーンボンドは資金使途の対象を明瞭にすることが可能な不動産各社にとっては有効な資金調達手段である。世間ではESGよりもサステナブルに注目の重点が向かいつつあるように見えるが、財務省も月内にクライメートトランジション(同ファイナンスは、気候変動リスクへの対策を検討している企業が、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則った温室効果ガス削減の取り組みを行っている場合に、その取り組みを支援することを目的とする金融手法です)国債の入札・発行を予定しており、資金使途の予定も発表されている。今後の市場の盛り上がりを確認したい。